魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「“冥界王”メイルカムイの討伐――それが、今まであなた方に隠していた、私の本当の目的です」
事情を聞くことを選択した僕ら(ほぼ僕の独断)に対し、リリアは全てを語りだした。
ジール王国の歴史と、欧州における現在の立ち位置。
かつてメイルカムイを討った、英雄エルナリーナの存在。
自身がそのエルナリーナの生まれ変わりと呼ばれ、継承順位は低いながらも、一部の貴族や民衆から王位を望まれていること。
それに伴い生じた、実の兄との王位争い。
その兄から差し向けられた刺客こそが、蛇塚たちの相対したマリネッタであること。
出し惜しみはせず、全てを包み隠さず明らかにしていく。
王位争いの詳しい事情など、本来僕らが知る必要はなく、また知る術もない情報まで。
そんなリリアの語る言葉を、僕らはただ黙って聞き続けた。
正直なところ、天眼路さんやマリネッタから事前に情報を得ていた僕には、新しく情報を得ているというよりかは、答え合わせをしているような感覚に近い。
なお、蛇塚たち三人は終始、“あれ? ずいぶん話のレベルが高いな……”という表情を浮かべていた。ある程度事情は察してる、みたいなこと言ってなかったっけ?
「――と、ここまでが私の話せる全てです。何か、さらに詳しく聞きたいことがあれば、遠慮なく聞いてください」
そうして全てを話し終え、リリアは僕らにリアクションを求める。
しかし誰も口を開かず、数秒ほど静かな状態が続いた上で、ようやく光華がポツリとつぶやいた。
「…………痴情のもつれは?」
「はい?」
マリネッタとの激闘を乗り越え、その絆を深めたであろう蛇塚たち三人とリリア。
そんな彼らは今、お互いに不思議そうな表情で見つめ合っている。
蛇塚たちはマジで何の話だと思ってたの?
「いや、でもあの時――」
「それは――」
「じゃあ『愛人』とか言ってたのは――」
思い違いを正すため、認識のすり合わせ始める蛇塚たち。
その様子をボーっと眺めていると、なぜか烏丸だけ輪の中から抜け出し、僕の方へと近づいてくる。
「ん? どうしたの冬歌さん」
「その、ワタシ……リリアさんじゃなくて、リーダーに聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
「えっと……ネトラレってなに?」
……………………なるほど。
「ネト、ラレ……? それ誰が言ってたの?」
「光華さんが、リーダーに聞いたら詳しくわかるかもって」
「そっか。でもごめん、僕もちょっとわかんないや。それにしても光華さんって、難しい言葉知ってるんだね」
「確かに……、光華さん賢い……!」
「おい、そこちょっと待てや」
僕と烏丸がチームメイトを称えあっていると、その称えられている光華がリリアたちとの話を中断し、なぜか鬼のような形相で僕の胸ぐらを掴んだ。
「あれ、そっちの話はもういいの?」
「とぼけるんじゃないよリーダー。リリアがネトラレ好きだって話をしたのは君じゃないか」
はて?
「だからとぼけるなって! なにボクに面倒事を押し付けようとしてるんだ!」
へっ、先に面倒事を押し付けようとしたのはそっちのくせに。
「え? リリアさんって、そのネトラレっていうの好きなの?」
「だから、そもそもネトラレってなんだよ」
「そうだ。リリアさんならネトラレの意味も知ってるんじゃないかな?」
「っ! そうだよ二人とも! リリアに聞いてみようじゃないか!」
烏丸と蛇塚が質問の矛先をリリアへと向けたことで、これ幸いとばかりに、僕と光華もリリアへ面倒事を押し付ける。
そうして矛先を向けられたリリアは、一度目を閉じ、大きく息を吐いてから口を開いた。
「…………私の本当の目的は、メイルカムイの討伐。あなた方に友人役をお願いしたのも、その一環でした」
……あれ?
「これまでの調査報告からすれば、メイルカムイの契約者はこの学園の関係者である可能性が高い。しかし学園内の調査を行うとなれば、一人では限界があります」
「……ネトラレは?」
「そこで私たちは考えました。学園の生徒に、調査の協力を要請しようと。そうすることで、学園内の詳しい案内も頼めますし、調査自体を学生同士の交流だとカモフラージュすることも可能ですから」
「あの、リリアさん?」
「ですので……メイルカムイの件は本来、友人役が始まって早い段階で伝えるつもりだったんです」
「……」
すっごい力技で話を軌道修正してきた……。
僕らの疑問や視線。それらをリリアは全て無視し、一方的に話を進めていく。
そのため、僕らは一旦追及を諦め、素直に話を聞くしかなかった。
「極秘裏に調査を進めるため、この件は学園にも伝えていません。こちらで選んだチームに対し、しばらくは本当に友人役をお願いした上で、“人となり”が信用でき次第、事情を話す予定でした」
それ、遠回しに僕らの“人となり”が信用できなかったって言ってない?
「そんな顔しないでください、ユキー。むしろ逆です」
「逆?」
「ええ、あなた方と友人として過ごす時間は、私にとってあまりにも美しいものでした。一緒に屋台を回ったこと、共に試合を観戦したこと、迷子の姉を探したこと。ふとした時に交わしたなんでもない話や、くだらないやり取りのその全てが、本当に…………」
楽しかった――そう告げながら、リリアはどこか寂しそう笑う。その眼に、光るものを溜めながら。
「一度関係が変われば、二度と元の形には戻れません。だからこそ、伝えたくなかったんです。あなたたちとは、今の関係のままでいたかったから。王女としてのしがらみを全て忘れられる、そんな奇跡のような時間を、失いたくなかったから……。しかし、それも叶わぬ夢となってしまいました」
そこで一度、リリアは口を閉じると、その場で完全にうつむいてしまう。
そして涙を拭うような仕草を取り、再び顔を上げた時、その表情からは迷いが消えていた。
「先ほども申し上げたように、こちらの不手際により、あなた方を危険に巻き込み、ケガも負わせてしまいました。こうなった以上、今まで通り友人役を続けろとは言いません。私からの依頼は、これにて終了となります。予定より早いですが、学園にはポイントに色を付けるよう伝えておきますので、安心してください。美しい思い出を……ありがとうございました」
それはあまりにも一方的で、突き放すような言葉だった。
その覚悟を決めたようなリリアの表情は、こちらの意志など関係なく、既に確定事項なのだと、言外に告げている。
僕ら『
突然のその宣告に、僕らは――
「……………………じゃ、お疲れさまでしたー」
「いやあ、任務期間が短くなって助かったぜ」
「ポイントもたっぷり入るし、これでしばらくは安心だね」
「あ、その……、任務終わりの打ち上げとか、してみたいかも……。ワタシ、そういうのにずっと憧れてて……」
「ちょっと待ってくださいよぉ!!!」
大量のポイント取得が約束され、意気揚々と部屋を後にしようとする僕ら四人。
しかしそんな僕らの行く手を、関係終了を告げたはずのリリア自身がなぜか阻む。
「なに当然のように出ていこうとしてるんですか!? そこは普通、『最後まで一緒にいてやるよ』とか、『依頼なんて関係なく、自分たちは友人だ』とか、優しい言葉をかける場面でしょう! 薄情すぎません!?」
それまでの
ただ、どうせそんなことだろうと薄々勘づいていた僕らは、その姿を冷めた目で見つめ続ける。
「というかそもそもッ! かなり衝撃的な話をしたつもりだったのに、なんでネトラレへの興味の方が強いんですか!? 意味わかんないんですけどッ!!!」
それはまあ……、そうっすね。
「この血も涙もないカス共めぇ……!」
思惑通りにいかなかったのが相当悔しかったのか、仕舞いには膝をつき、その床を叩き出すリリア。
そんなリリアに対し、光華が冷めた目を向けながら告げた。
「そもそも君、話しながらずっとボクらの反応をチラチラうかがってただろ。優しい言葉をかけてもらいたいって魂胆がバレバレなんだよ」
「ぐぅ……!」
「それに君はまだ、ボクらに話してないことがあるはずだ」
「……?」
どうやら本当に身に覚えがないらしい。
光華の指摘に対し、リリアは不思議そうに首をかしげる。
「リリアの目的も、置かれている立場も、周囲から何を望まれているのかも、全て理解した。……けど、君自身の思いや考えを、まだ聞いていない」
「……それなら先ほど話したはずです。あなた方と過ごす時間が楽しいというのは、私の噓偽らざる本音で――」
「違う、そっちじゃない。王になることに対する君の気持ちだ」
「……」
そう、光華が言うように、リリアが僕らに話した王位争いに関連する内容は、どこまでも客観的な事実ばかりだった。
当事者本人でありながら、リリアの考えや主観的な言葉は何一つとして語られていない。
「リリア、ボクたちは君の意思が知りたい。君が何を思って王になろうとしてるのか……いやそもそも、君が本当に王になりたいのか。それを教えてほしい」
「…………私の意思など、関係ありません」
「関係なくはないだろ。君が――」
「関係ないんですよ」
ゾクリと、その背に寒気が走る。リリアのその言葉は、とても静かで、しかし重い。
「英雄の再来を期待する者、祖国のさらなる繁栄を望む者、ただ甘い汁を吸いたいだけの者。そんな数多の願いを実現するために、私は王になることを求められています。それを拒否するだけの力も、今の私にはありません。王族とはいえ、所詮はただの小娘。力のある貴族たちに担ぎ上げられ、兄と生涯敵対する人生は、この世に生を受けるその前から決まっていました。私の意思など関係なく、私はこの王位争いから降りることはできないんです」
「…………」
淡々と告げながらも、その表情には深い影が差す。
この時、僕は初めて
思えば、初めて顔を合わせたその時から、僕はリリアに対し、『自由』という印象を抱いてきた。
王族でありながら、思うがままに振る舞い、素直に感情をあらわにし、快不快を躊躇うことなく口にする。自分を中心に世界が回っているのだと、信じて疑わない。
その在り方に、憧れの気持ちすら抱いたのをよく覚えている。
でも、違った。リリアは紛れもなく王族で、世界の中心にいること
僕が今まで見てきた中で、彼女は誰よりも不自由で、生き方を縛られた人間だった。
「…………」
リリアの告白に、メンター室内の空気が静まり返る。
王族としての責務など、僕には想像できるはずがなく、かける言葉の全てが軽くなりそうな気がして、上手く口を開くことができない。
しかしそれでも、僕のチームメイトは、臆することなく言葉を投げかける。
「さっき、君はこう言ったね。『ボクたちといる時間は、王女としてのしがらみを全て忘れられる』と。その言葉も、ちゃんと本音かい?」
「え? ええ……」
「なら、それでいいじゃないか。最初からボクらを利用するつもりだったんだろ? 最後まで利用しなよ。いつもの君らしく、我がままに、自分のためにさ」
僕たちが立っている今の位置は、部屋の外へと繋がる扉の近く。
そこから光華は部屋の中心へと歩いていき、そこにあるソファへと腰を下ろす。
それに蛇塚も続き、烏丸も顔をキョロキョロさせた後、二人に倣って腰を下ろした。
その行動の意味は、言葉にするまでもない。
当初の予定通り、拳聖祭が終わるまで友人役を続けるという、三人からの明確な意思。
「ナッツ、アキー、トウカ……」
「下手な芝居なんてしねえで、最初から正直に言やあいいんだよ」
「そういうことだね。それと……、メイルカムイだったっけ? その契約者を探す手伝いも、可能な限り手伝うよ」
「いいんですか?」
「元々それ込みでの依頼だったんだろ? もらえるポイントの分、きっちり働くのが筋ってもんだ」
「ワ、ワタシはみんながいいならそれで……」
友人役に加えて、契約者探しにも同意する三人。
そしてその三人+リリアの視線は、まだ一人だけ立ち続けている僕の方へと向けられる。
「とはいえ、決定権があるのはリーダーだからね」
「ユキー……」
期待半分、恐れ半分。そんな表情を浮かべたリリアを見て、僕は――
「…………え? あ、うん。じゃあそれで」
――少し考え事をしていたこともあり、ついおざなりな返事をしてしまう。
「何でリーダーが一番ノリ気じゃねえんだよ」
「話を聞きたがってたのは君じゃないか」
いやぁ、それはそうなんすけどぉ……。
だって……、
見つけられるわけないというか、見つけられると困るというか……。
ただまあ、当然そんなこと言えるはずもなく。
「と、とにかく、これまで通り友人役を継続しつつ、メイ……悪魔の契約者を探すってことで」
僕は告げる。チームのこれからの方針を。
それにより、僕ら『
事情を共有したことで、蛇塚たち三人の『任務に対する思い』は、より強く。
その一方で、話を聞いてしまった僕の心は、どっちつかずに揺れたまま。