魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑮ / 肝心なところで嚙み合わない

 

 

 

「“冥界王”メイルカムイの討伐――それが、今まであなた方に隠していた、私の本当の目的です」

 

 

 

 事情を聞くことを選択した僕ら(ほぼ僕の独断)に対し、リリアは全てを語りだした。

 

 ジール王国の歴史と、欧州における現在の立ち位置。

 かつてメイルカムイを討った、英雄エルナリーナの存在。

 自身がそのエルナリーナの生まれ変わりと呼ばれ、継承順位は低いながらも、一部の貴族や民衆から王位を望まれていること。

 それに伴い生じた、実の兄との王位争い。

 その兄から差し向けられた刺客こそが、蛇塚たちの相対したマリネッタであること。

 

 出し惜しみはせず、全てを包み隠さず明らかにしていく。

 王位争いの詳しい事情など、本来僕らが知る必要はなく、また知る術もない情報まで。

 そんなリリアの語る言葉を、僕らはただ黙って聞き続けた。

 正直なところ、天眼路さんやマリネッタから事前に情報を得ていた僕には、新しく情報を得ているというよりかは、答え合わせをしているような感覚に近い。

 

 なお、蛇塚たち三人は終始、“あれ? ずいぶん話のレベルが高いな……”という表情を浮かべていた。ある程度事情は察してる、みたいなこと言ってなかったっけ?

 

「――と、ここまでが私の話せる全てです。何か、さらに詳しく聞きたいことがあれば、遠慮なく聞いてください」

 

 そうして全てを話し終え、リリアは僕らにリアクションを求める。

 しかし誰も口を開かず、数秒ほど静かな状態が続いた上で、ようやく光華がポツリとつぶやいた。

 

「…………痴情のもつれは?」

 

「はい?」

 

 マリネッタとの激闘を乗り越え、その絆を深めたであろう蛇塚たち三人とリリア。

 そんな彼らは今、お互いに不思議そうな表情で見つめ合っている。

 蛇塚たちはマジで何の話だと思ってたの?

 

「いや、でもあの時――」

 

「それは――」

 

「じゃあ『愛人』とか言ってたのは――」

 

 思い違いを正すため、認識のすり合わせ始める蛇塚たち。

 その様子をボーっと眺めていると、なぜか烏丸だけ輪の中から抜け出し、僕の方へと近づいてくる。

 

「ん? どうしたの冬歌さん」

 

「その、ワタシ……リリアさんじゃなくて、リーダーに聞きたいことがあって……」

 

「聞きたいこと?」

 

「えっと……ネトラレってなに?」

 

 ……………………なるほど。

 

「ネト、ラレ……? それ誰が言ってたの?」

 

「光華さんが、リーダーに聞いたら詳しくわかるかもって」

 

「そっか。でもごめん、僕もちょっとわかんないや。それにしても光華さんって、難しい言葉知ってるんだね」

 

「確かに……、光華さん賢い……!」

 

「おい、そこちょっと待てや」

 

 僕と烏丸がチームメイトを称えあっていると、その称えられている光華がリリアたちとの話を中断し、なぜか鬼のような形相で僕の胸ぐらを掴んだ。

 

「あれ、そっちの話はもういいの?」

 

「とぼけるんじゃないよリーダー。リリアがネトラレ好きだって話をしたのは君じゃないか」

 

 はて?

 

「だからとぼけるなって! なにボクに面倒事を押し付けようとしてるんだ!」

 

 へっ、先に面倒事を押し付けようとしたのはそっちのくせに。

 

「え? リリアさんって、そのネトラレっていうの好きなの?」

 

「だから、そもそもネトラレってなんだよ」

 

「そうだ。リリアさんならネトラレの意味も知ってるんじゃないかな?」

 

「っ! そうだよ二人とも! リリアに聞いてみようじゃないか!」

 

 烏丸と蛇塚が質問の矛先をリリアへと向けたことで、これ幸いとばかりに、僕と光華もリリアへ面倒事を押し付ける。

 

 そうして矛先を向けられたリリアは、一度目を閉じ、大きく息を吐いてから口を開いた。

 

「…………私の本当の目的は、メイルカムイの討伐。あなた方に友人役をお願いしたのも、その一環でした」

 

 ……あれ?

 

「これまでの調査報告からすれば、メイルカムイの契約者はこの学園の関係者である可能性が高い。しかし学園内の調査を行うとなれば、一人では限界があります」

 

「……ネトラレは?」

 

「そこで私たちは考えました。学園の生徒に、調査の協力を要請しようと。そうすることで、学園内の詳しい案内も頼めますし、調査自体を学生同士の交流だとカモフラージュすることも可能ですから」

 

「あの、リリアさん?」

 

「ですので……メイルカムイの件は本来、友人役が始まって早い段階で伝えるつもりだったんです」

 

「……」

 

 すっごい力技で話を軌道修正してきた……。

 

 僕らの疑問や視線。それらをリリアは全て無視し、一方的に話を進めていく。

 そのため、僕らは一旦追及を諦め、素直に話を聞くしかなかった。

 

「極秘裏に調査を進めるため、この件は学園にも伝えていません。こちらで選んだチームに対し、しばらくは本当に友人役をお願いした上で、“人となり”が信用でき次第、事情を話す予定でした」

 

 それ、遠回しに僕らの“人となり”が信用できなかったって言ってない?

 

「そんな顔しないでください、ユキー。むしろ逆です」

 

「逆?」

 

「ええ、あなた方と友人として過ごす時間は、私にとってあまりにも美しいものでした。一緒に屋台を回ったこと、共に試合を観戦したこと、迷子の姉を探したこと。ふとした時に交わしたなんでもない話や、くだらないやり取りのその全てが、本当に…………」

 

 楽しかった――そう告げながら、リリアはどこか寂しそう笑う。その眼に、光るものを溜めながら。

 

「一度関係が変われば、二度と元の形には戻れません。だからこそ、伝えたくなかったんです。あなたたちとは、今の関係のままでいたかったから。王女としてのしがらみを全て忘れられる、そんな奇跡のような時間を、失いたくなかったから……。しかし、それも叶わぬ夢となってしまいました」

 

 そこで一度、リリアは口を閉じると、その場で完全にうつむいてしまう。

 そして涙を拭うような仕草を取り、再び顔を上げた時、その表情からは迷いが消えていた。

 

「先ほども申し上げたように、こちらの不手際により、あなた方を危険に巻き込み、ケガも負わせてしまいました。こうなった以上、今まで通り友人役を続けろとは言いません。私からの依頼は、これにて終了となります。予定より早いですが、学園にはポイントに色を付けるよう伝えておきますので、安心してください。美しい思い出を……ありがとうございました」

 

 それはあまりにも一方的で、突き放すような言葉だった。

 その覚悟を決めたようなリリアの表情は、こちらの意志など関係なく、既に確定事項なのだと、言外に告げている。

 

 

 

 僕ら『愚蓮努羅魂仏血切離(ミスフィット)』と、リリアが紡ぐ関係はここで終わり。

 

 

 

 突然のその宣告に、僕らは――

 

「……………………じゃ、お疲れさまでしたー」

 

「いやあ、任務期間が短くなって助かったぜ」

 

「ポイントもたっぷり入るし、これでしばらくは安心だね」

 

「あ、その……、任務終わりの打ち上げとか、してみたいかも……。ワタシ、そういうのにずっと憧れてて……」

 

「ちょっと待ってくださいよぉ!!!」

 

 大量のポイント取得が約束され、意気揚々と部屋を後にしようとする僕ら四人。

 しかしそんな僕らの行く手を、関係終了を告げたはずのリリア自身がなぜか阻む。

 

「なに当然のように出ていこうとしてるんですか!? そこは普通、『最後まで一緒にいてやるよ』とか、『依頼なんて関係なく、自分たちは友人だ』とか、優しい言葉をかける場面でしょう! 薄情すぎません!?」

 

 それまでの建前(・・)をかなぐり捨て、爆発するように本音をぶちまけるリリア。

 ただ、どうせそんなことだろうと薄々勘づいていた僕らは、その姿を冷めた目で見つめ続ける。

 

「というかそもそもッ! かなり衝撃的な話をしたつもりだったのに、なんでネトラレへの興味の方が強いんですか!? 意味わかんないんですけどッ!!!」

 

 それはまあ……、そうっすね。

 

「この血も涙もないカス共めぇ……!」

 

 思惑通りにいかなかったのが相当悔しかったのか、仕舞いには膝をつき、その床を叩き出すリリア。

 そんなリリアに対し、光華が冷めた目を向けながら告げた。

 

「そもそも君、話しながらずっとボクらの反応をチラチラうかがってただろ。優しい言葉をかけてもらいたいって魂胆がバレバレなんだよ」

 

「ぐぅ……!」

 

「それに君はまだ、ボクらに話してないことがあるはずだ」

 

「……?」

 

 どうやら本当に身に覚えがないらしい。

 光華の指摘に対し、リリアは不思議そうに首をかしげる。

 

「リリアの目的も、置かれている立場も、周囲から何を望まれているのかも、全て理解した。……けど、君自身の思いや考えを、まだ聞いていない」

 

「……それなら先ほど話したはずです。あなた方と過ごす時間が楽しいというのは、私の噓偽らざる本音で――」

 

「違う、そっちじゃない。王になることに対する君の気持ちだ」

 

「……」

 

 そう、光華が言うように、リリアが僕らに話した王位争いに関連する内容は、どこまでも客観的な事実ばかりだった。

 当事者本人でありながら、リリアの考えや主観的な言葉は何一つとして語られていない。

 

「リリア、ボクたちは君の意思が知りたい。君が何を思って王になろうとしてるのか……いやそもそも、君が本当に王になりたいのか。それを教えてほしい」

 

「…………私の意思など、関係ありません」

 

「関係なくはないだろ。君が――」

 

「関係ないんですよ」

 

 ゾクリと、その背に寒気が走る。リリアのその言葉は、とても静かで、しかし重い。

 

「英雄の再来を期待する者、祖国のさらなる繁栄を望む者、ただ甘い汁を吸いたいだけの者。そんな数多の願いを実現するために、私は王になることを求められています。それを拒否するだけの力も、今の私にはありません。王族とはいえ、所詮はただの小娘。力のある貴族たちに担ぎ上げられ、兄と生涯敵対する人生は、この世に生を受けるその前から決まっていました。私の意思など関係なく、私はこの王位争いから降りることはできないんです」

 

「…………」

 

 淡々と告げながらも、その表情には深い影が差す。

 この時、僕は初めて本当の(・・・)リリアを……いや、リリアーナ・ガイアスを見た気がした。ジール王国第一王女としての、リリアーナ・ガイアスを。

 

 思えば、初めて顔を合わせたその時から、僕はリリアに対し、『自由』という印象を抱いてきた。

 王族でありながら、思うがままに振る舞い、素直に感情をあらわにし、快不快を躊躇うことなく口にする。自分を中心に世界が回っているのだと、信じて疑わない。

 その在り方に、憧れの気持ちすら抱いたのをよく覚えている。

 

 でも、違った。リリアは紛れもなく王族で、世界の中心にいることしか(・・)許されない。

 僕が今まで見てきた中で、彼女は誰よりも不自由で、生き方を縛られた人間だった。

 

「…………」

 

 リリアの告白に、メンター室内の空気が静まり返る。

 王族としての責務など、僕には想像できるはずがなく、かける言葉の全てが軽くなりそうな気がして、上手く口を開くことができない。

 

 しかしそれでも、僕のチームメイトは、臆することなく言葉を投げかける。

 

「さっき、君はこう言ったね。『ボクたちといる時間は、王女としてのしがらみを全て忘れられる』と。その言葉も、ちゃんと本音かい?」

 

「え? ええ……」

 

「なら、それでいいじゃないか。最初からボクらを利用するつもりだったんだろ? 最後まで利用しなよ。いつもの君らしく、我がままに、自分のためにさ」

 

 僕たちが立っている今の位置は、部屋の外へと繋がる扉の近く。

 そこから光華は部屋の中心へと歩いていき、そこにあるソファへと腰を下ろす。

 それに蛇塚も続き、烏丸も顔をキョロキョロさせた後、二人に倣って腰を下ろした。

 

 その行動の意味は、言葉にするまでもない。

 当初の予定通り、拳聖祭が終わるまで友人役を続けるという、三人からの明確な意思。

 

「ナッツ、アキー、トウカ……」

 

「下手な芝居なんてしねえで、最初から正直に言やあいいんだよ」

 

「そういうことだね。それと……、メイルカムイだったっけ? その契約者を探す手伝いも、可能な限り手伝うよ」

 

「いいんですか?」

 

「元々それ込みでの依頼だったんだろ? もらえるポイントの分、きっちり働くのが筋ってもんだ」

 

「ワ、ワタシはみんながいいならそれで……」

 

 友人役に加えて、契約者探しにも同意する三人。

 そしてその三人+リリアの視線は、まだ一人だけ立ち続けている僕の方へと向けられる。

 

「とはいえ、決定権があるのはリーダーだからね」

 

「ユキー……」

 

 期待半分、恐れ半分。そんな表情を浮かべたリリアを見て、僕は――

 

 

「…………え? あ、うん。じゃあそれで」

 

 

 ――少し考え事をしていたこともあり、ついおざなりな返事をしてしまう。

 

「何でリーダーが一番ノリ気じゃねえんだよ」

 

「話を聞きたがってたのは君じゃないか」

 

 いやぁ、それはそうなんすけどぉ……。

 だって……、メイルカムイ(そいつ)の契約者、僕だもん。

 見つけられるわけないというか、見つけられると困るというか……。

 

 ただまあ、当然そんなこと言えるはずもなく。

 

「と、とにかく、これまで通り友人役を継続しつつ、メイ……悪魔の契約者を探すってことで」

 

 僕は告げる。チームのこれからの方針を。

 それにより、僕ら『愚蓮努羅魂仏血切離(ミスフィット)』は正式に、拳聖祭が終わるまでリリアと行動を共にすることが確定した。

 事情を共有したことで、蛇塚たち三人の『任務に対する思い』は、より強く。

 

 

 その一方で、話を聞いてしまった僕の心は、どっちつかずに揺れたまま。

 

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