魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女 表裏 表と裏が交差する

 

  拳聖祭 大会運営本部――

 

 

 その部屋にある無数のモニターが映し出すのは、学園内の至る所に設置された防犯カメラの映像。

 リアルタイムで表示される学園の様子を、運営本部の職員たちは食い入るように見つめていた。

 

 各地で広がり続けるその被害(・・・・)を、より正確に把握するために。

 

「東門付近、セーラス幹部を名乗る人物と紅原(くれはら)さんが交戦中! 今のところ、一般人への被害は確認されていません!」

 

「第六特別演習棟近辺で爆発騒ぎアリ! まだ周囲に多くの学生が取り残されています! 至急対応を!」

 

「メンター長に連絡をとれ! 近くにいるメンターに現場へ向かわせるよう要請しろ!」

 

「宝物庫担当者より連絡! 侵入者が現れ、現在職員が交戦中とのことです!」

 

「またセーラスの連中か!?」

 

「いえ、それが……侵入者は『闇鶏(やみどり)』を名乗っているらしく……!」

 

「『セーラス』に『黄楼炎』の残党……。この二組織への対応だけでも手を焼いているというのに、国際的な窃盗集団まで……!」

 

「北鎮部隊の到着はまだか!?」

 

「どうやら学園外でも大きな騒ぎが複数起こっているらしく、その対応に当たっているとのことです。治安部隊の加勢は期待できないかと……」

 

「クソ……ッ!」

 

 同時多発的な襲撃。それも一組織によるものではなく、複数の反社会的組織の関与が判明しており、学園側の対応はそのことごとくが後手に回っていた。

 学園側も襲撃を予想していなかったわけではない。ただその襲撃の規模は、想定していた最悪のケースを遥かに上回る。

 そこにきて学園外からの加勢も望めず、状況は絶望的。

 しかしそれでも、学園内、学園外問わず、様々な関係各所と連絡を取りながら、職員たちは必死に最善を尽くそうと足掻くも、室内は鳴りやまぬ怒号とコール音で満たされていく。

 

「緊急ッ! まだ避難の完了していない西南地区に、セーラスの幹部および戦闘員、さらに大量の悪魔が出現しました! Aランク以上の高位悪魔も多数確認! 至急近くの職員は援護に向かってください!」

 

「ダメですッ! もう間に合いません!」

 

「ッ……!」

 

 詰み――多くの職員たちの頭に、諦めの言葉が思い浮かぶ。

 

 しかし次の瞬間、皆が見つめるモニター内には衝撃の光景が映し出されいてた。

 

「……悪魔たちが、セーラスだけを攻撃してる……?」

 

 出現した凶悪な悪魔たちは、逃げ惑う一般人たちを無視し、セーラス幹部や戦闘員のみを標的に襲いかかる。

 その光景に戸惑い、疑問を覚える職員たちだったが、すぐにその理由を理解することができた。

 

「安心して、その悪魔たちは私の使い魔だ。一般人を襲うことはないよ」

 

 落ち着き払った声を伴い、どこか絶望的な空気が生まれ始めていた運営本部に、一人の人物が足を踏み入れる。

 それは拳聖祭ホスト校の理事長にして、大会運営の最高責任者――レイ・エレシウス。

 

「理事長ッ! もうお体は大丈夫なんですか!?」

 

「うん、みんなが頑張ってくれたおかげでゆっくり休めたからね」

 

 まだ局所的に事態が好転しただけであり、全体の状況が改善されたわけではない。

 ただそれでも、レイが姿を見せたというただそれだけで、室内に反撃の機運が高まっていく。

 『魔導の支配者』と称えられるその存在は、職員たちが希望を見出すには十分すぎるものだった。

 

「東南地区周辺の避難は完了してる?」

 

「はい、その辺りは元々人も少なかったので」

 

「じゃあその近辺にいる職員たちは、全員別の地区の援護に向かわせて」

 

「え、いや、しかし……西南地区には図書館もあります。ミラルクの時のように、禁書を狙う輩が現れる可能性も……」

 

「大丈夫。前回とは違って、今回はちゃんとおもてなしして差し上げるよう指示しておいたから」

 

「……?」

 

「理事長! 第四異能研究所から救援要請が!」

 

「わかった、すぐに使い魔たちを送る。他のみんなも、危ない地区や施設があれば、躊躇わず私に報告してね。動かせる使い魔はまだたくさんいるから」

 

 レイの登場により、少しずつではあるが、状況が改善されていく。

 そんななか、一人の職員がレイの元へと近づき、レイだけに聞こえる声で告げた。

 

「レイ様、対象Y(・・・)が図書館付近で監視を振り切り、かなりの速度で移動しています」

 

「…………方角は?」

 

 レイは報告に来た職員に視線を向けず、姿勢や表情を変えることなく問いかける。

 

「『教会』や『記念公園』がある方角かと。魔獣らしき生物の背に乗り、建物の屋上から屋上を飛ぶように移動していると思われます」

 

「攫われた冬二くんの居場所は?」

 

「魔力の残滓(ざんし)や防犯カメラの映像から、連れ去られた場所を割り出し中です。『記念公園』付近にいるとの情報も入っていますが、確認に送った職員からの連絡はまだありません」

 

「…………」

 

 レイは一旦職員との会話を止め、思考に集中する。

 考え得る限り最悪の状況――それは、()がセーラスのボスと出会ってしまうこと。

 『白の継承者』との会合、それだけは絶対に避けなければならない。

 その思いを胸に、レイは自身の契約悪魔の一頭に命令を送る。()の予測進路上に移動し、その歩みを妨害するようにと。

 もちろん、危害を加える意図はない。あくまで、足止めするためだけの指示。

 

 しかし次の瞬間、命令を送ったその悪魔との繋がりが消滅する。

 

「ッ……!?」

 

 それは、使い魔が何者かによって倒されたことに他ならない。

 契約が切れる直前、使い魔を通してレイが感じ取ったその魔力反応は、数ヶ月前に対峙した相手のものと全く同一のもの。

 

「冥界王め……」

 

 脳裏に浮かぶ宿敵の姿に、レイは思わず歯を嚙みしめる。

 その宿敵の存在は、()の足止めがほぼ不可能になったことを意味していた。

 冥界を統べる王の前では、同じ十王クラスでなければ時間稼ぎにもならない。

 

「…………サラくんに連絡を。それと……もしも最悪の事態になれば、私が直接現場に出る。その時は、ここの指揮を任せたよ」

 

「承知しました」

 

 レイが運営本部の職員たちに見せるその顔は、正義の側に立つ最高責任者としてもの。

 しかしその裏で、全く別の思惑を抱えながら、数名の協力者たちと準備を進めていた。

 

 学園という小さな箱庭ではなく、もっと大きな枠組みの均衡を保つ、その目的のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  学園内 記念公園――

 

 

 

「セーラスのトップ、やらせてもらってます」

 

「…………は?」

 

 冬二のその目の前で、摩耶を名乗る少女がにこやかに告げる。

 『世界を神の手に返す』という目的のもと、手段を選ぶことなく活動する国際的な反社会的組織――セーラス。その組織の長であると。

 

「お前が……セーラスの、ボス?」

 

「ボスって呼ばれ方、仰々しくてあんまり好きじゃないんだけど、まあそういうことかな」

 

「…………」

 

 摩耶の姿を見つめる冬二は、ただただ困惑していた。

 想像していたものとはまるで違う、セーラスのトップのその姿に。

 

 そんな戸惑い続ける冬二に対し、摩耶はゆっくりとその手を伸ばしていく。

 そのまま両手で冬二の顔を包み込むように触れると、どこか懐かしむような声でつぶやいた。

 

「綿谷、冬二くん。…………うん、聞いてた通り、烏丸先生そっくり」

 

「……烏丸?」

 

「あれ……もしかして、自分の両親のことも知らないの?」

 

 不思議そうに問いかける摩耶は、その表情を哀れなものを見る目へと変える。

 

「ほんとに……、『魔導王』は何も教えてないんだね。だから力の開花も、『奪う』方だけに偏ってるのかな? 自我もまだしっかりあるみたいだし。ジャルビイが出現したって聞いて、ちょっと期待してたんだけど……」

 

「…………?」

 

 独り言のように紡いでいく摩耶のその言葉を、冬二はまるで理解することができない。

 何より不可解なのは、同年代にしか見えない目の前の少女が、自分が生まれてすぐに亡くなったはずの両親と、面識があるかのごとく口にしていることだった。

 

 両親のことを知りたい――その欲が、冬二の中で芽生えていく。

 

 しかしそれでも、冬二は冷静に判断を下す。今この場で、その欲は不要であると。

 もし摩耶が本当にセーラスのボスなのであれば、摩耶から聞き出すべき情報は、今回の襲撃の目的や、自分を攫ったその理由。

 おそらく、この場に向かっているであろうチームメイトや友人たち。その時間稼ぎも兼ね、冬二は摩耶に問いかける。

 

「……お前たちの目的は何だ?」

 

「わあ、すっごいストレートな質問。その辺も先生そっくりなんだ。でも……その真剣な表情は、綿谷メンターの面影があるね」

 

「ッ……! 質問に答えろ! 何の目的で俺をここまで運んだ!?」

 

 またも出てきた両親の情報。それも今度は、父親と思わしき人物の情報まで。

 再び生まれた雑念を振り払うため、冬二は敢えて声を張り上げ、同じ質問を繰り返す。

 そしてその質問に、意外にも摩耶は素直に答えだした。

 

「私たちセーラスの目的くらいは知ってるよね? 『世界を神の手に返す』――その儀式のために、君をここへ運んでもらったの。君のその体に、神を降ろすために」

 

「……儀式? 神を、降ろす?」

 

「まあ、そういう反応になるよね。何も教わってないのなら。でも大丈夫、そんなに怖がらないで。君と世界の同化を、私の持つ『白』の力で強化する、ただそれだけの儀式だから。その儀式を得て、君は『現人神』として生まれ変わるの」

 

 静かに言葉を紡ぎながら、摩耶は恍惚とした笑みを深めていく。

 頬を赤らめ、もう待ちきれないと言わんばかりに。

 

「じゃあ……どうしてその儀式とやらを今すぐ行わないんだ。悠長におしゃべりしながら、こうしていつまでも学園内に留まって。……いや、そもそもその儀式を行うチャンスなんて、これまでに何度もあったはずだろ……! お前たちは一体何がしたい!?」

 

「儀式はね、どこでも行えるわけじゃないんだ。この記念公園は、儀式が行える数少ない土地の一つで、今は土地の慣らしをしているところ。だから儀式を行えるようになるまでは、もう少し時間がかかるの」

 

「なら……、今まで俺たちを襲い続けた理由は何なんだ!? ここでしかできないなら、幹部連中を差し向けてくる必要なんてなかったはずだろ!」

 

「自然に同化してくれるなら、それに越したことはないと思ってたんだ。でも魔導王のもとにいる限り、あまり期待できそうになかったから」

 

「…………その、同化っていうのは一体――」

 

「ねえ、話す内容……本当にそれでいいの?」

 

「……え?」

 

「今のこの会話は、君が“綿谷冬二”としてできる最後の会話なんだよ?」

 

 頭をフル回転させ、必死に情報を引き出そうとする冬二の言葉を、底冷えするような声で摩耶が遮る。

 その声と表情に、冬二は初めて摩耶相手に恐怖の感情を覚え、そして――セーラスのボスとしての顔を見た。

 

 しかしそれは一瞬のこと。すぐに元のにこやかな笑みに戻り、両手を合わせながら声を弾ませる。

 

「せっかくなんだから、もっと楽しいおしゃべりにしようよ。あっ、趣味の話とかはどう? 私、こう見えてゲームが大好きなんだ。この街に潜伏中、暇だったからずっとやってて……」

 

「…………」

 

「……あれ、もしかして最近の子って、ゲームとかあんまりやらない? ギルマスが学生って言ってたから、みんなやってるものだと思ってたけど……」

 

 摩耶の話す内容が、理解できずに頭をすり抜けていく。

 『君が“綿谷冬二”としてできる最後の会話』――その言葉が、冬二の中でいつまでも処理されずに留まっている。

 “死ぬ”とか、“殺される”といった直接的な脅しではない。明らかに含みのある、妙な言い回し。

 

「最後の会話って……何のことだ?」

 

「ん? ああ……、さっきも言ったでしょ? 君は『現人神』として生まれ変わる。それに伴い、綿谷冬二という個は消えてなくなるの」

 

「……な、にを…………ッ!!!」

 

 その瞬間、これまでずっと続いていた冬二の頭痛が、さらに激しさを増す。

 ただの痛みではない。頭の中で叫び続けられているようなそれは、まるで誰かの悲鳴そのもの。

 そしてそんな悲鳴の中に、冬二は確かな声を聞いた(・・・・・・・・)

 

 

 

 ソレダケハ、ゼッタイニユルサナイ――

 

 

 

 幻聴などではなく、己を侵食していくほどの確固たる意志。

 

「だ、つぅ…………!」

 

「えっと、大丈夫?」

 

 突如苦しみだした冬二に対し、心から心配しながら摩耶はその手を伸ばす。

 

 しかし伸ばしかけたその手は、中途半端な位置で止められる。

 すると次の瞬間、摩耶はその場から素早く飛びのいた。

 

「……え?」

 

 それによって生まれる、物理的な距離。

 そんな二人の間に、巨大な何か(・・・・・)が勢いよく降り立つ。

 冬二の視界を埋めたのは、黒と白からなる美しい毛並み。

 それは全長三メートルにもおよぶ、狼のような見た目の獣だった。

 さらにその背には、冬二にとって覚えのある人物がまたがっている。

 

「ッ……!?」

 

 呼吸が止まるような衝撃だった。

 ここに来るはずがなく、そして最も来てほしくない相手だったから。

 

「どう、して……」

 

 その人物は、獣の背から地面へと降り立つ。

 冬二へと向けるその背中は、やはり間違いようがない。

 

「雪春……! なんでここに…………!?」

 

 渡谷雪春――冬二にとってクラスメイトであり、かけがえのない親友が、確かに目の前に立っている。

 頭の痛みも忘れ、その他の全てが気にならなくなるほど、冬二の心は雪春への感情で満たされていく。

 

 一方でそんな雪春の登場にも、摩耶は一切の焦りを見せない。

 

「……お友達?」

 

 なおも変わらない笑みで問いかける摩耶に対し、雪春はその右手を彼女へと向ける――

 

「雪春!?」

 

「ふぅん、随分と好戦的なんだ」

 

 

 

 ――もう片方の手で、自身の口元を抑えながら。

 

 

 

「…………雪春?」

 

 冬二は少し横に移動しながら、雪春の姿をじっと見つめる。

 するとその表情は、絵に描いたような土気色だった。

 

「雪春……その、大丈夫か?」

 

 冬二の問いかけに、雪春は答えない。正確には、答えることができない。

 雪春はそのままフラフラと数歩分移動し、その場に手と膝をつくと――

 

 

 

「オエェェェェェェェェェッ!」

 

 

 

 ――手入れの行き届いた美しい花畑に、吐瀉物を撒き散らした。

 

「雪春ゥゥゥゥ!!」

 

「ウエッ……、ゲホッ…………」

 

 胃の中のものを全て吐き出すと、雪春は涙目になりながら冬二にその視線を向け、そして告げる。

 

「冬二……、助けに来た……よオエッ」

 

「雪春ぅ!!!」

 

 そんな二人のやり取りを見て、摩耶は至極当然の思いを抱いた。

 

 

 

 助けに来たやつの姿じゃないな、と。

 

 




姫様、あなたと食べたクレープは、花畑に虹を咲かせました。
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