魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女 表裏 因縁が交差する

 

 リリアからエールと共に見送られ、フィジーの背に乗って移動する僕は、もう控えめに言ってテンションが爆上がりしていた。

 捕らわれた友人を助けるため、建物の屋上から屋上を飛ぶように駆けていく。これが主人公でなくて何だというのか。

 その先にある輝かしい未来を疑わず、到着時の決めゼリフはどうしようか――などと考えていたその時、それ(・・)は何の前触れもなく襲い掛かる。

 

 そう、酔いだ。

 

 よくよく考えれば当たり前のことだった。

 (くら)も何もない動物の背にそのまま跨り、グラングラン揺れるのを、腕と足の力だけで耐えていたのだから。

 その上、酔ったことで冷静さを取り戻した僕は、『あれ、よく考えたらこれ……落ちたら普通に死ねるな』と気づいてしまい、極度の緊張状態によってさらに酔いが加速。

 フィジーに止まるよう告げる余裕もなく、僕がなんとか可能だったのは、落ちないよう必死にしがみつくことだけ。

 

 

 

 ……といった理由から、冬二のもとへとたどり着いたその瞬間、我慢の限界に達し、敵らしき少女に“待った”をかけて即リバース。

 決めゼリフどころか、声を出すことすらできない体たらく。一体僕が何をしたというんだ。

 

 ただ、ゲロレインを学園にぶちまけなかったことだけはどうか褒めてほしい。いやほんと。

 

「雪春……大丈夫か?」

 

「うん、もう大丈夫」

 

 助けにきたはずの相手に心配されながら、それでも僕は気を取り直して立ち上がる。

 そしてそのまま、冬二の前まで移動し、こちらを見て笑う少女――冬二を攫ったであろう犯人と再び向かい合った。

 

「ダメだ雪春! そいつは危険な組織のボスなんだ! 俺のことは大丈夫だから!」

 

 “雪春は逃げてくれ!”――そう告げる冬二はとても苦しそうで、体は全身傷だらけ。

 にもかかわらず、拘束されている自分の身よりも、僕の身を案じている。

 強がりで言っているわけじゃない。その言葉は、間違いなく心からのもの。

 あまりにも気高いその精神性に、私利私欲でしか動けない僕は思わず目を逸らしたくなる。

 冬二……、君は間違いなく主人公だ。

 

 でもごめん、その言葉は聞けない。

 

 主人公である君と、正しく肩を並べるそのために、僕はここに来たんだから。

 

「雪春くんって言うんだね。霊獣に乗って現れたと思ったら、いきなり嘔吐するんだから、私びっくりしちゃ――」

 

「あの、ダサいのは重々承知なんですけど、ゲロの件には触れないでもらっていいですか?」

 

 今いい感じで内心かっこつけてたんだからさぁ。ちょっと空気読んでもらわないと。

 

「……ごめん、無神経だったね」

 

 あ、ちゃんと謝ってくれるんだ。

 

「えっと、その……ここに来れたってことは、珠切さんの見張りをやり過ごしてきたんだ。学生なのにすごいね」

 

 しかもすっごい気を使ってくれてる。ぜんぜん悪い人に見えないなこの人。

 冬二曰く危険な組織のボスらしいけど、見た目も僕らと同世代にしか見えないし。

 でもなんだろ、どこかで見たことある顔のような……。

 

「あなたは……」

 

聖成(せいじょう)・イレーヌ・摩耶(まや)。摩耶って呼んでくれていいよ」

 

「……摩耶さんは学生なんですか?」

 

「フフ、そう見えるよね。でも違うの。これは“不老”の異能による効果で、私がこの学園の高等部に通ってたのは、もう何年も前のことだから」

 

「え、じゃあこの学園の卒業生ってことですか?」

 

「訳あって卒業はしてないけど、通ってたのは本当だよ。それこそ、雪春くんたちが生まれるくらいのころじゃないかな。こう見えて、実はけっこうお姉さんなんだ」

 

 じゃあ少なくとも三十代半ばってことか。それで自認お姉さんなんだ。へぇ。

 

「雪春! 『セーラス』なんかの言葉に耳を貸しちゃダメだ!」

 

「『セーラス』なんかって、ひどいなぁ。元“グルド組”の連中はともかく、私たちはただ世界をより良くしようとしてるだけなのに」

 

 僕を間に挟みながら、お互いの主張をぶつけ合う冬二と摩耶を名乗る(見た目は)少女。

 そのやり取りの中で、二人が同時に発したとある言葉(・・・・・)に、僕は意識が引っ張られる。

 

 …………セーラス?

 

 それって確か、ビルを爆破した反社組織の名前じゃ……。

 ちょっと待って、なら摩耶が口にした珠切って……もしかしてタマキンのこと!?

 

「……摩耶さん」

 

「ん、なに?」

 

「珠切って、メガネをかけた『トランプで戦いそうな顔』してる人……で合ってます?」

 

「そうだよ。やっぱり、珠切さんと出会わずここに来たわけじゃないんだね」

 

 『トランプで戦いそうな顔』でちゃんと通じるんだ……。

 でも変だな。ここに来る途中、タマキン……じゃなかった。珠切の姿なんて見てないんだけど……。ん~……?

 

「…………あっ」

 

 そういえばフィジーにしがみついてた時、一回何かにぶつかったような衝撃を感じたけど…………、もしかしてアレか?

 気づかないうちに僕、人身事故起こしてる? …………まあ私有地(学園内)かつ被害者が反社組織の幹部だからセーフだな。ヨシ!

 

「……一応聞くけど、珠切さんは無事?」

 

「さあ? どうでしょう」

 

 僕もわかんないんで。

 

「…………ここに来た以上、君の目的は冬二くんの奪還だと思うけど、できればこのまま帰ってほしいな。土地の慣らしもあと少しで終わるし、未来ある学生の子を相手に、あんまり手荒なマネしたくないからさ」

 

 そう言って、摩耶は笑顔を崩すことなく、僕のことを気遣うような余裕を見せる。

 それはきっと、組織のトップとして君臨し、確かな実力を持つがゆえのものなのだろう。

 でも僕には、僕を子ども扱いしてくるその態度が、とてつもなく腹立たしい。

 

 敵は僕を爆弾で吹っ飛ばそうとしたこともある組織の長で、冬二たちと敵対しており、僕にとっても正真正銘因縁の相手。

 ならば言葉を選ぶ必要もない。ありったけの敵意を、僕は摩耶へとぶつける。

 

「あれ? もしかして自分が勝つ前提で話してます? 無意識かもしれないですけど、年齢倍近く離れてる学生相手にイキリ散らすのは大分イタイですよ。それにさっきから世界をより良くするだとか、手荒なマネはしたくないだとか、その『自分は善人側だ』みたいな感じ出すのやめません? やってること普通にテロリストの所業ですし。正直自認が歪み過ぎててキツイというか、おば……お姉さんにも大義とかはあるのかもしれませんけど、まずそこ自覚してもらわないと」

 

「……」

 

 僕の言葉を受け、摩耶は変わらず笑みを浮かべ続けている。

 しかしその表情には、かすかにではあるが血管が浮かび上がっていた。

 

「……キミ、煽りが上手いね。私がやってるゲームのギルマスにそっくり。キミみたいなのがいるせいで、SNSがレスバの輪廻から抜け出せないの自覚してる? 実際の社会や現実を知らない子供はこれだからさぁ……。親や教師を泣かせる前にちゃんと更生した方がいいよ」

 

「なら摩耶さんの親は大号泣ですね。中卒でテロリストの親玉なんですから」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………このゲロガキ」

 

 実年齢ダブルスコアがなんか言ってらぁ。

 

 さて、軽いジャブはこの辺りでいいだろう。そろそろ冬二もドン引きし始めてるし。

 ここからは実力(チカラ)で己を貫き通す時間だ。

 

「お前が何を思い、何を企んでいるのかは知らない。それでも、お前たちのやり方を許すことはできない。だから僕は、ここに宣言する。お前をここで倒し、冬二を返してもらうと。お前たちの野望はここで終わりだ」

 

「……(くさび)なしで現界し続ける異端の獣――そんな霊獣に懐かれてるのは素直にすごいと思うけど、それだけで私を倒せると思ってるなら、それこそちょっと自認が歪んでるんじゃない?」

 

 その通りかもしれない。僕というEランクの一般生徒は、摩耶にとって正しく警戒する必要もない存在なのだろう。

 ただそれは、あくまで僕自身の話。

 

「さあ、約束の瞬間(トキ)だ。その真名と共に結ばれた契約を。我が祈り(ネガイ)に応えよ! メ――!」

 

 

 

「無事か!? 綿谷冬二!!」

 

 

 

 おい今は僕のターンだろうがよぉ……!

 

 僕の詠唱、もとい召喚をキャンセルしたのは、拳聖祭参加校のうちの一つ、魁離気(かいりき)高等学校の制服を身に着けた男子生徒だった。

 その制服の上からでもわかるほど鍛え上げられた筋肉を持つ男子生徒は、冬二にその視線を向けると、これでもかというほど喜びを露にする。

 

「冬二! 無事だったか! その美しい筋肉にも(かげ)りはないな!?」

 

大殿(だいでん)! ああ、俺は大丈夫だ! まさか助けに来てくれたのか!?」

 

「君とは一晩中お互いの筋肉について語り合ったマッスル仲間! 助けるのは当然じゃないか!」

 

「大殿……!」

 

 出会って五秒で即キモイんですけど。なんだこいつら。

 

 

 そしてさらに、大殿とやらだけでなく――

 

「やはりここにいましたか。僕のデータ通りです」

 

「見つけたぞ綿谷! 勝ち逃げなんて許さねえからな!」

 

「冬二くん! 私も助けに来たよ!」

 

「ワタガヤトウジ、オマエはボクがみとめたユイイツのヒトゾクだ。こんなトコロでイキタエルなどアッテはならない」

 

 次から次へと、他校の生徒たちが冬二のもとへと現れ、集結していく。

 なんだこいつら……。ぽっと出のキャラのくせに、メインキャラぶりやがって……。

 

 ……いや、むしろこの中だと僕の方がぽっと出のキャラなのかもしれない。

 

 冬二のもとに集まったその生徒たちは、麗華台(れいかだい)の若手トップ女優をはじめ、どこかで見たことのある顔ばかり。

 おそらく学園の代表として拳聖祭に参加し、冬二と共にしのぎを削りあった仲なのだろう。

 ちなみにその輪の中には、あの口の悪いカスエルフくんもいる。よくあれ手懐けたな、冬二のやつ。

 

「へえ、さすが綿谷メンターの息子だね。みんなからすごく慕われてる」

 

 拳聖祭の参加者が増援として到着し、状況は多対一。

 しかしそれでも、摩耶の余裕は崩れない。

 

「友達が少なそうな雪春くんとは大違い」

 

 さっきの煽りだいぶん根に持ってるな。

 

「すまないが冬二は返してもらう!」

 

「このメンバーで共闘した場合、僕らの勝率は97%」

 

「俺と綿谷の戦いにケチつけやがって……! セーラスだかなんだか知らねえが、ぜってーに許さねえ!」

 

「待っててね冬二くん! 今助けるから!」

 

○○○○○○○○(ピーーーーーーー)

 

「みんな……!」

 

 冬二を助けに来た他校の学生たちは、各々意気込み等(エルカスのみ放送禁止用語)を口にし、摩耶相手に戦いの口火を切る。

 そうして始まった、高レベルな魔法や異能がバンバン飛び交う異能戦。

 

「…………」

 

 そんな異能戦を前に、僕はただ立ち尽くすことしかできないでいた。

 

 まずいな……。絵に描いたような王道展開に対し、完全に置いてけぼりをくらってしまっている。その場にいて何もできない分、かなり居心地が悪い。

 たとえるならそう、陽キャグループに必死に混ざろうとするキョロ充のような心地悪さだ。

 

 メイルカムイの召喚も、これだけたくさんのギャラリーがいる状態では不可能。

 目撃者が冬二だけなら、『ぜんぜん危険じゃないから秘密にして!』とかなんとか言い訳して、言いくるめられたかもしれないのに。エルカスとか絶対バラしそう。

 というか、先行してたはずのメイルカムイはなんでこの場にいないの?

 

「雪春! 今のうちに雪春は逃げ……先生たちを呼んできてくれ! そうすれば――」

 

「…………」

 

「……雪春?」

 

 冬二のこの態度もまあまあ腹立つんだよな~~~~。

 いやそりゃさあ、冬二からすると僕がクソザコなのはわかってるよ? でも同じように助けに来た他校の生徒たちと、これだけ露骨に態度の差を見せられると、やっぱり納得がいかないというかぁ~~~~。

 

 果たして今、僕は火あぶり覚悟でメイルカムイを呼び出すべきなのか――その答えが出せずにいると、

 

「冬二! 無事!? ……って雪春!? なんであんたがここにいるのよ!?」

 

 僕らのもとへと現れたのは、僕らと同じ制服を身に着けた少女――冬二のイツメン(いつものハーレムメンバー)のうちの一人、赤花茜だった。

 

「茜! 他のみんなは!?」

 

「ここに来る途中で、セーラスやいろんな組織のヤツに足止めされてる。なんとか私だけ先行してこれたんだけど…………雪春はなんでここにいるわけ?」

 

「……なんでだろうね?」

 

「なんで自分でもわかってないのよ!?」

 

 いや、最初は助けに来たつもりだったんだけど。なんかどんどん人が集まってくるし、もう僕いらないかなって……。

 

「……とりあえず、冬二の拘束を――っ! 『紅蓮花(ぐれんか)』!」

 

 茜は僕の存在に戸惑いながらも、冷静になって何かを提案しようとしたその時、突如異能を発動させる。

 それは炎の盾だった。花弁のような形で展開され、あらゆるものを燃やし尽くすその盾に、魔力の塊らしき何かが衝突する。

 もし茜が防いでくれていなかったら、その魔力の塊は間違いなく僕と冬二に直撃していたはずだ。

 

「なによあれ!?」

 

 そう言って茜が視線を向けるのは、摩耶たちによって繰り広げられる異能戦。

 先ほどの魔力の塊は、その異能戦によって生み出された、ただの余波。

 

「みんなが……レナたちがセーラスのボスと戦ってくれてるんだ!」

 

「噓っ……!? セーラスのボスって……もしかしてあの白い髪の女が!? どう見ても学生じゃない!」

 

「けど間違いない!」

 

「っ……雪春!」

 

「あ、はい」

 

「私が飛んでくる余波をさっきみたいに防ぐから、雪春は冬二の拘束を解いて!」

 

「……わかった!」

 

 茜の提案に、僕は力強く返事をする。

 

 そうだ。弱気になるな僕。せっかくリリアがフィジーまで貸して、僕を送り出してくれたんだ。

 このまま何もできずには終われない。終わっていいわけがない。

 

「冬二、ちょっとじっとしててね」

 

「……わかった。頼む雪春」

 

 僕は冬二の背後に回り、背中で拘束されている両手を確認する。

 冬二の両手を拘束しているのは、太い縄のようなものだった。

 とりえあず、特殊な拘束具とかではない。これなら僕でもなんとかできそうだ――そう安心したのも束の間。

 

「…………」

 

「……雪春? 外せそうか?」

 

「…………………………ちょっと待ってね」

 

 なんか見たことのない結び方されてる……。ぜんぜん(ほど)き方がわからない。なんだこれ?

 物は試し、なんとか手探りでいじってみるも、まったく解ける気配がない。

 

「ふん……っ!」

 

「いてっ!」

 

 ……ダメだな。正しい解き方をするのは無理だ。

 となると、刃物か何かで切るしかないんだけど……。

 

「冬二、ナイフか何か持ってたりしない?」

 

「悪い。持ってねえ」

 

「だよねぇ」

 

 さっそく手詰まりになり、どうしたものかと頭を悩ませていたその時――

 

「わふん!」

 

 唐突なその鳴き声に反応し、顔を上げると、目の前にはドアップでフィジーの顔が。

 そしてその顔のその口元、鋭く尖ったその牙に、僕は可能性を見出した。

 

 …………いけるか?

 

「待ってくれ雪春、何考えてる……?」

 

「冬二……、僕を信じて」

 

「無理だって!」

 

「いけるいける。フィジー、そのまま動かないでね」

 

「ワンッ!」

 

「こうやって、牙に引っかかるように……」

 

「痛い痛い! その角度で人の腕は曲がらないから!」

 

「ほら冬二、もっと力抜いて」

 

「そんなの無理……ちょっ、これベトベトする……あっ――」

 

「ちょっとなに遊んでんのよ! あんたたち!」

 

 超マジメなんすよ。

 

 そうして、茜からお叱りの言葉を受けながらもなんとか、僕は冬二の拘束を解くことに成功する。

 僕も冬二も、両腕がフィジーの唾液でベットベトだけど。

 

「茜さん! こっちは上手くいったよ! そっちはどう!?」

 

「ありがとう雪春。こっちはそうね……、控えめに言って最悪ってところかしら」

 

「え?」

 

 先ほどよりも緊張感が増した茜のその声は、事態の深刻さを雄弁に語る。

 気づけば、いつの間にか茜は摩耶と向かい合っていた。その周囲に、倒れて動かない他校の生徒たちを添えて。

 

 ……え、みんな即殺されたの? 勝率97%とか言ってなかったっけ?

 

「みんな強かったよ。最近の学生は優秀なんだなって、素直に感心するくらいには。……まあ、あくまで学生としては、だけど」

 

 拳聖祭に出場する生徒たちとの多対一を完封しておきながら、摩耶の表情に疲労の色は見えない。

 

「っ……穿(うが)て――『炎牙(えんが)翔爛(しょうらん)』!」

 

 そんなどこまでも余裕が崩れない摩耶に対し、茜は躊躇いなく異能を放つ。彼女が使用する異能の中で、僕が知る限り最も威力の高い技を。

 しかしそれでも、摩耶が慌てることはない。

 至近距離から放たれる、攻撃性の高い炎の異能。それに対し、摩耶は茜と同じように炎を生み出し、その炎で茜の炎を相殺してしまう。

 

「嘘だろ……!? 茜の炎と同威力……。でもあいつの異能は不老のはずじゃ……」

 

 シンプルにヤバいなー、怖いなーと思っていた僕とは違い、冬二は摩耶に対して何か違和感を覚えたらしい。

 ただ、その違和感の正体を解き明かしている余裕は今の僕らにはない。

 摩耶はゆっくりと人差し指を茜へと向けると、短く一言だけ告げる。

 

「『跪け』」

 

「ッ!?」

 

 その言葉に、茜は抗うことができず、強制的に膝を付かされる。

 それには冬二たちだけでなく、僕も少なからず衝撃を覚えた。

 

「これは……、立花先生の…………!?」

 

「立花? ……そっか。美咲(みさき)、今は先生やってるんだったね」

 

「ッ~~~! 雪春! 俺の後ろに!」

 

「大丈夫、君たちに手を出す気はないよ。もう……慣らし(・・・)が完了する時間だから」

 

 冬二は僕を摩耶から隠すように移動するが、僕らの予想に反し、摩耶はそれ以上僕らに歩み寄ることなく、その場で今まで以上に笑みを深め、両手を大きく広げてみせる。

 

 そして告げた――

 

 

 

「全てを終末(おわり)に――『改式(カイシキ)』」

 

 

 

 それは静かに、されど確かに場を支配し、重く響き渡る。

 そんな詠唱のような何かを、摩耶が唱え終えたその瞬間――

 

「……ゴフッ」

 

 ――ある人物が(・・・・・)、大量の血を口から吐き出した。

 

 その表情は苦痛に染まり、急激な体調の悪化と、そのことに対する困惑が目に見えて生じている。

 他の誰でもない。詠唱を行った、摩耶自身が。

 

「どうして……」

 

 どうやら摩耶にとっても想定外の事態らしく、それまで保ち続けていた彼女の余裕が初めて揺らぐ。

 

「力が、想定よりも流れてる……? これじゃ、今の私には制御できな――ゲホッ」

 

 必死に胸を押さえつけながら、ついに立つことすらできなくなったのか、摩耶は僕らの前で無防備に膝を付いた。

 そして、赤く血の混じった胃液をその場にぶちまける。

 尋常じゃない量の汗を流し、これ以上とないほど苦悶の表情を浮かべる摩耶に対し、僕は――

 

 

 

 

 

 ――『これで僕たち、ゲロ仲間ですね!』という煽りが頭に浮かんだが、さすがに人としてどうかと思ったので、ちゃんと口をつぐんだ。

 

 

 

 

 




僕らはゲロ(とも)――――☆
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