魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑲ / スパイへの許し

 

「……少し休みな、冬二。大丈夫、目が覚めたらきっと、君の守りたい日常が戻ってるから。全部終わったら、また一緒にラーメン食べに行こ」

 

 その言葉を最後に、僕は通話終了のボタンを押す。

 そして、呼びかけを行うよう指示した人物に問いかけた。

 

「これで大丈夫ですか? 理事長」

 

「うん、ありがとう雪春くん。…………遠視魔法で見る限り、どうやら冬二くんの暴走も止まったみたいだ。助かったよ」

 

「いえいえ、そんな大したこと言ってないですし」

 

「いや、助かったのは本当だとも。もしあのまま冬二くんが暴れ続けていたら、この街が丸ごと地図から消えていたかもしれないからね」

 

 ……そんなに?

 

 とんでもないことをさらっと告げる理事長だが、終始、その表情に焦りや不安の色は見えなかった。

 普段と何ら変わらず、ずっと穏やかな笑みを浮かべ続けている。果たしてどこまで本気なのやら。

 

「それと、ごめんね。急にあの場から連れ出すようなマネをして。あのままだとかなり危険だったんだ」

 

「あ、いや、そんな謝るようなことじゃないですから」

 

 まあでも、実際びっくりはしたよね。

 雪が降ってきたと思ったら、急に理事長に腕を掴まれて、次の瞬間には学園内の全く別の場所にいて。

 さらにそこから、息つく暇もなく冬二が暴走したと聞かされ、それを止めるために電話での呼びかけを頼まれたんだから。

 もうずっと『え? なになに? なんなの?』という感じだった。

 

 だがしかし、僕は同じ過ちを繰り返さない男。移動する直前、これが転移だとすぐさま気づいた僕は、しっかりとムーを傍へ引き寄せる大ファインプレー。

 

「むー」

 

 そのおかげで、チーム合宿の時のように、ムーと離れ離れになることは避けられたというわけだ。

 

「わんっ!」

 

 ちなみに、フィジーもちゃんと一緒に移動していた。

 ただビッグサイズではなく、なぜか初めて会った時の中型犬サイズに戻ってるけど。

 もしかして、ビームで本当に力使い切った?

 

「それじゃあ雪春くん、私はまだやらないといけないことがあるからこれで」

 

「はい、お疲れ様です」

 

 そうして、理事長がその場から去り、一人(+二匹)になった僕は考える。

 

 今回の僕……、まあまあ頑張ったのではなかろうかと。

 戦いの現場へリアルタイムでたどり着き、冬二の拘束を解いたり、敵のボス的な人と持論をぶつけ合ったり、冬二の暴走を声掛けで止めたり、悪魔の腕を吹っ飛ばしたり(仲間撃ち(フレンドリーファイア))。

 主人公……とはとても言い難いけど、サブキャラ……いや、メインキャラ級の活躍はできたはず。

 一方の冬二が、力を暴走させるとかいう主人公的覚醒イベをしたらしいことはさておき。

 

『たとえ何も変わらなくても、何も変えられなくても。あなたの歩むその人生は、異国で生まれ育った一人の少女が、憧れ、そして羨むようなそんな素晴らしいものであることを! どうか忘れないでください!』

 

 ……うん。今回はまあ、このくらいで良しとしよう。

 大丈夫、ちゃんとかっこよく活躍できたはず。

 

 ゲロ? はて、なんのことだか。お前さあ……、疲れてんだよ。

 

 でもあれだな。今回は勢いのまま突っ走ったけど、ちゃんと戦力として活躍しようとなると、やっぱりそれなりの強さが必要だな。当たり前だけど。

 戦闘に参加できず、手持ち無沙汰になる場面も多かったわけですし。

 登坂さん(メンター)が釈放されたら、今度こそちゃんと異能指導してもらわないと。

 そして次こそ、見違えるほどの力をつけた僕が、冬二たちのピンチに現れて――

 

「雪春ッ!!」

 

 ………………あん?

 

 決意を固めていた僕のもとに、突如届いた叫び声。

 声のした方を振り返ると、そこには大量の汗を流し、息を切らした矢川(やがわ)宗助(そうすけ)の姿があった。

 

「ハァ、ハァ……! ッ、ようやく見つけたぞ!」

 

「え、なに?」

 

 その場で必死に息を整えながら、宗助は僕を探していた旨を口にする。

 さらにその鋭い視線は、まるで睨みつけられているようで……。

 

 ……ほんとなに?

 

「ッ……! なんでだ!?」

 

 なにがよ。そんでなんかちょっと怒ってる?

 僕、宗助を怒らせるようなことした心当たり、微塵もないんだけど。

 

死桜(しざくら)から聞いたんだよ!」

 

 ……シザクラ?

 

「雪春、お前が俺を助けるよう指示したって! 死桜本人がそう言ってたんだ!」

 

 だからシザクラって誰よ。

 

 

 …………もしかして、桜さんのこと言ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時は遡り――

 

 

 

「いつまで逃げるつもりだ? 宗助……いや、420番」

 

「クソっ……!」

 

 広い学園内を、宗助は必死に走り続ける。

 自身を420番と、かつて『黄楼炎(こうろうえん)』に所属していた時の番号で呼ぶ隻腕の男――宗蓮(そうれん)から逃げるために。

 宗蓮に捕まれば、『黄楼炎』の裏切り者である己の身に待つのは、死という最悪の未来のみ。

 

「『(はつ)』――!」

 

 宗助は走りながら、宗蓮へと札を投げ捨てる。

 するとその札は、激しい音と光を発しながら爆発し、宗蓮を襲う。しかし――

 

「『(ばう)』」

 

 宗蓮は同じように札を取り出し、爆発による衝撃から身を守る。

 

「無駄だ。お前に札術を仕込んでやったのは誰だ? それだけではない。身を守る術も、戦い方も、宗助という名も、全て俺がお前に与えたものだ。お前は俺の端末のようなもの。いい加減、諦めたらどうだ?」

 

「うるせえんだよ! 『(おん)』!」

 

 次の瞬間、宗助のその姿が消える。

 それを見て、宗蓮はわずかに眉をひそめた。

 

「……隠形の精度が以前よりも遥かに向上している。なるほど、端末も成長するということか。だが――」

 

 宗蓮は突如、何もない自身の背後に、裏拳のような形で手を振るう。

 しかし、その手に残るのは確かな手ごたえ。

 

「ぐっ、くそ……!」

 

 隠形が解け、宗助の姿がハッキリと露になる。

 額から血を流し、建物の壁にたたきつけられ、痛みで動けなくなったその状態で。

 

「そういえば、お前には言ったことなかったが、俺は人の気配を感知するのが最も得意でな。お前の隠形も、俺には見えているのとなんら変わりない。俺がこの世で気配を感じ取れなかった人間は、老師ただ一人だ」

 

 そう告げながら、宗蓮は動けない宗助のもとへと近づいていく。

 その場に鳴り響く宗蓮の足音は、宗助にとって死神の足音そのもの。

 

「しかしわからんな。隠形を使っておきながら、それを逃走のためにではなく、奇襲を仕掛けるために使うとは」

 

「ゲホッ……。今ここで逃げたって、あんたはまたどうせ追ってくる。裏切者は絶対に始末する……それがあんたのやり方だからな」

 

「……本当に、俺のことをよくわかっている。残念だよ、お前は本当に優秀なやつだった。戦闘能力では同期の蟲溟(ちゅうめい)に劣るが、工作員としては文句のつけようがなかった。ただ優秀なだけでなく、指示の裏にある俺の意図まで完璧にくみ取ってみせる。だからこそ、お前を俺の弟として扱い、目をかけてやったというのに……」

 

「…………」

 

「何か、兄に対して言い残すことはあるか?」

 

「……死ね」

 

「そうか……。老師からの提案だったとはいえ、お前を現人神のもとへ送ったのは失敗だった」

 

 宗助の目の前まで移動した宗蓮は、その息の根を止めるため、ゆっくりと手を伸ばす。

 しかし、宗蓮の手が宗助に触れかけたその瞬間――

 

「グッ……!?」

 

 宗蓮の体を、その場から飛び退かせるほどの衝撃が襲う。

 

「誰だ……!?」

 

 宗蓮の発した言葉は、『なんだ?』ではなかった。

 宗蓮は気づいていたのだ。自分たちのもとに、近づいてくる存在がいたことを。

 見誤ったのは、その速さ。宗蓮が想定していた以上の速度で、その人物(・・・・)は現れ、トドメを刺そうとしていた宗蓮を蹴り飛ばした。

 

 

「見つ、けた。札術の反応があったから、ここだと……思った」

 

 

「「なっ!?」」

 

 その人物を視界にとらえた時、宗助と宗蓮は同じように驚愕の声を漏らす。

 現れたのは無関係の第三者ではなく、二人にとって馴染みの深い相手。

 肩で切りそろえられた淡い桜色の髪をなびかせるその女は、『黄楼炎』に属し、宗蓮と同じ幹部という立場にあるはずの人物だった。

 

「死桜ッ! なぜお前がここにいる!?」

 

「…………」

 

「くっ……!」

 

 宗蓮の問いかけに、死桜は答えない。

 ただその拳をもって、宗蓮へと殴りかかる。

 

「ちっ……! 死桜! なぜ生きていたのなら『黄楼炎』に戻ってこない!? 答えろ!」

 

 死桜からの攻撃に対応しながら、宗蓮は再度問いかける。

 そこでようやく、死桜はその口を開いた。

 

「私はもう、『黄楼炎』じゃない」

 

「なんだと……!? まさか、お前も現人神に絆されたというのか!?」

 

「違う。私はただ、先輩からの頼みを……聞いてるだけ」

 

「なに……?」

 

「私は見つけたから。自分の、居場所を」

 

 死桜のその言葉に、宗助と宗蓮の二人は目を見開く。

 言葉の内容もだが、その声には確かな熱がこもっている。

 それは死桜が、黄楼炎では終ぞ見せなかった姿。

 

「居場所だと!? お前のような生粋の殺人マシーンに居場所などあるものか!」

 

「は? あるし」

 

「ガッ……!」

 

 突如、勢いの増した死桜の拳に対応しきれず、宗蓮は地面を転がる。

 それでもすぐに立ち上がり、懐から攻撃用の札を取り出す宗蓮。

 しかしその攻撃は、死桜にとって見慣れたもの。爆発、雷撃、火炎、札から繰り出される多種多様な異能を、死桜は苦もなく避けていく。

 

「学園側に寝返ったのか!? それとも別の裏組織に引き抜かれたのか!?」

 

「組織……? 違う、私は……もう裏社会の人間じゃ、ないから」

 

「なんだと……!?」

 

「私は今、普通のお店で働いてる。毎日、接客がんばってるから」

 

「接客……? バカを言うな! 怒鳴られたという理由だけで、指導教官を三人も病院送りにしたお前が、接客なんてできるはずないだろ!」

 

「できるし。それに、お客様を病院送りにしても、店長さん怒らない」

 

「ならそれは普通の店ではない!!! お前は騙されてるんだ!」

 

 黄楼炎にとって、トップである老師を除けば、死桜は最高戦力だったと言っても過言ではない。

 そんな死桜に、組織に戻るよう宗蓮は呼びかけるが、死桜は聞く耳を持つことなく戦闘を継続させる。

 

「宗蓮が何を言っても、私は戻らない。私にはもう、夢が……できたから」

 

「クッ……! この…………!」

 

「私は将来…………支店長になる」

 

「お前はさっきから何を言っているんだ!!?」

 

 死桜の告げる言葉を、宗蓮は何一つとして理解できない。

 一切の熱を持たず、ただ淡々と敵を処理する兵器。それが宗蓮の知る死桜の全て。

 しかし今、宗蓮の目の前にいるのは、熱を帯びた目で夢を語る、一人の人間だった。

 

 一方、少し離れた位置にいる宗助もまた、死桜の言葉に驚きを隠せない。

 チーム合宿の襲撃からたった二ヶ月。その間に、何があの冷徹な人間をここまで変えてしまったのかと。

 だがしかし、その死桜を変えた何かのおかげで、自身の命が助かりかけている。

 宗助から見て、黄楼炎の最高戦力――『八狼会(はちろうかい)』同士の戦いは、死桜が圧倒的有利に立っていた。

 

 このままいけば死桜の勝ちだ!――宗助がそう確信した次の瞬間、押していたにもかかわらず、死桜は宗蓮との戦闘を止める。

 

「え?」

 

 そしてさらに、死桜は警戒する宗蓮を横目に、なぜか宗助のもとへと歩み寄った。

 

「ねえ」

 

「な、なんだ……?」

 

「刀とか、持ってない?」

 

「は? ……あっ」

 

 死桜からの問いかけに、宗助は一瞬だけ首を傾げるも、すぐにその意図を理解する。

 黄楼炎に所属していた際の死桜は、妖刀の使い手として力を振るっていた。

 つまり死桜の真の実力は、(えもの)を手にしてこそ発揮するのだと宗助は推測する。

 

「もしかして……押してるように見えて、けっこうヤバい状況なのか?」

 

「……? 別に」

 

「……は?」

 

 いまいち、二人の会話が嚙み合わない。

 

「刀がなくても、倒せる……けど、ちょっと時間がかかりそう、だから。私、急いでるの。休憩時間が、終わっちゃう」

 

「?? ……?」

 

「刀がなかったら、短刀とか、ナイフでもいいよ」

 

「あ、えっと……これなら」

 

 困惑しながらも、宗助がズボンのポケットから取り出したのは、死桜の望んだナイフだった。

 しかしそれは、いわゆる十徳ナイフ。ナイフ以外にも、ハサミやドライバーなど、複数の機能が一体となった携帯用コンパクトツールで、ナイフの刃渡りは五センチほどしかない。

 

「…………」

 

「さすがにダメか……?」

 

「…………まあ、いっか」

 

 死桜は宗助から十徳ナイフを受け取り、再び宗蓮と対峙する。

 

「これなら……手加減とか、しなくていいし」

 

「なめやがって……! 決めたぞ。お前を黄楼炎に力尽くで連れ帰り、もう一度殺人マシーンとして教育し直してやる!」

 

 死桜のふざけた態度に怒りをにじませながら、宗蓮は懐から特別な札を取り出す。

 その札が内包する力は、黄楼炎に所属していた死桜や宗助でさえ知ることのない宗蓮の奥の手。

 死桜が動くと同時に、その奥の手を叩き込む。それが宗蓮の狙いだった。

 

 しかし、宗蓮が奥の手を発動させるよりも早く、死桜が宗蓮の目の前に(・・・・)現れる。

 

「……は?」

 

 転移した――そう錯覚してしまうほどの、爆発的な加速。

 それはかつて、そしてこれまでの戦闘で、死桜が宗蓮に一度も見せることのなかった最高速(トップギア)

 完全に虚を突かれた宗蓮は、まんまと懐への侵入を許してしまう。

 

「このっ……!」

 

 そのため宗蓮は避けることを諦め、魔力のガードを用いた防御態勢をとる。

 しかしそんな宗蓮に、死桜は告げた。

 

「防げない、よ。これは……店長さんから、教わった技だから」

 

 死桜が構える。それは、宗蓮の知らない構え。

 

 

切覇千(きりばち)

 

 

 宗蓮は、その太刀筋を捉えることができなかった。

 気づいた時には既に、その右肩から左腰にかけて切られており、勢い良く血が噴き出していく。

 

「……やはり、お前は騙されている。こんな危険な技を、教える店が……表社会にあるわけ、な……い」

 

 その言葉を言い切ると同時に、宗蓮は倒れ、意識を失う。

 そしてそんな宗蓮に対し、死桜は懐から一枚の封筒を取り出し、その体の上に落とす。

 

「……?」

 

 不思議に思った宗助が近づくと、その封筒に書かれていたのは――『退職願』の文字だった。

 

「……死桜、なんだそれ?」

 

「辞め、ます」

 

「いや、それはわかるけど、なんでそんなもん……」

 

「ウチの店でも、何も言わずに辞める人が……たくさんいて、困ってるから。ちゃんとしとかなきゃなって、思って」

 

「…………」

 

 もう、宗助には意味が分からなかった。

 

 しかしそんな死桜の行動に、宗助が命を救われたのは事実。

 

「……死桜、ありがとう。お前のおかげで助かった」

 

「別に、私は『あなたを助けてほしい』って頼まれたから、助けただけ。あと、ついでに退職願も……出さなきゃだったし」

 

「そういえば、さっき先輩からの頼みとか言ってたな。誰なんだ? その先輩って」

 

 矢川宗助という人物の置かれている立場や状況を理解しており、なおかつ死桜とのパイプを持つ人物。

 その条件に当てはまる相手を、宗助は数人ほど思い浮かべるが、これだと確信できる人物はいない。

 しかし、それも当然のことだった。

 

「ワタガヤ、先輩」

 

「…………は? 冬二が……?」

 

「違う。ワタガヤ、ユキハル先輩。私の、教育係だった人」

 

「……雪、春?」

 

 その名は、宗助が想像すらしていなかったもの。

 思考が『なぜ』に満たされ、上手くまとまらない。

 死桜がその場から去り、しばらくしてやっと、宗助は動き出す。

 

 渡谷雪春――彼を探し出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り――

 

 

 

 

 宗助から事の顛末を聞き、僕は心の中で桜さんに感謝する。

 

 僕が桜さんに『宗助が命を狙われるみたいだから、助けてあげてほしい』と頼んだのは、同じ屋台のシフトに入っていた時。

 探偵の天眼路(てんがんじ)さんから、ジール王国について色々と教えてもらった日のことだ。

 

 『黄楼炎』という組織の、『宗蓮』と呼ばれていた人物が、騒ぎに乗じて宗助を始末しようとしていること。僕が盗み聞きで得ていた情報はそれだけ。

 そのため、“正直難しいかな”という頼み事だったのだが、宗助の話を聞く限り、桜さんはしっかりと完遂してくれたらしい。

 

 しかしまさか、ウチでバイトを始める前の桜さんが、宗助と同じ組織の幹部だったとは。

 どうりで強いわけだ。クレーマー四天王と互角にやり合えるその実力は、やはり伊達ではなかった。

 ……でもじゃあ僕、偶然とはいえ、元同僚をぶつけて戦わせるようなマネしたのか。客観的に見ると大分卑劣だな。

 

 まあ……、それは一旦いいとして。

 

「なんでだよ!? 雪春!」

 

 こっちのセリフなんだけど。なんで怒ってんの?

 

 宗助が怒鳴りながら睨みつけてくるその理由が、僕にはまるで理解できない。

 もちろん、宗助が助かったのはほぼ百パー桜さんのおかげだけど、それを頼んだ僕のおかげでもあるはずだ。ほんのちょっとくらいは。

 感謝はされても、怒られる理由なんてないはず。

 

「なんで……俺のことなんか助けたんだ!?」

 

「…………というと?」

 

「俺は……お前に何度も酷いことしたんだぞ! それこそ、恨まれても仕方ないことだってやった! なのに……! なんで俺を助けようとなんかしたんだ!!!」

 

 ……ふむ。

 

「具体的にお願いしていい?」

 

「……お前は知らなかったかもしれねえけど、まだお前が冬二たちと一緒に行動してた時、俺はさりげなく、雪春がグループに居づらくなるような行動をとってったんだ。お前のグループ内での役割を奪うような形で、少しずつ……」

 

 いや知ってるよ。

 

「一年の入学してすぐのころ、成宮との決闘騒ぎの時……冬二の本当の実力が見たくて、お前を生かさず殺さずでサメに追わせ続けたのもわざとだ」

 

 それも知ってる。次の日、筋肉痛になったの忘れてねえかんな。

 

「一年の夏には――」

 

 知ってる。

 

「あの時も――」

 

 知ってる。

 

「チーム合宿の時なんて、勝手に雪春の名前を使って囮にした」

 

 それも知って…………いや、それは知らないな。お前そんなことしてたの?

 い・え・よ~~~~ッ! 言ってくれたらさぁ、ノリノリで囮でもなんでもやってやったのによぉ。

 

「……そんな最悪なことを何度もしときながら、いざ組織を裏切った後は、お前を冬二たちのグループに戻してやろうって、上から目線で考えてたんだ。真実を言わず、謝罪もせず、それが罪滅ぼしになると思い込んで……」

 

 ……なるほど。どうりでこいつ最近、僕を冬二たちと引き合わせようとしてくるなとは思ってたけど、やっぱりそういう理由だったか。

 

「ずっと……! 騙してたんだよ!! 雪春だけじゃない。冬二や茜たちも、みんな騙してたんだ!! 俺は……! そんな最低な奴なんだよ!! なのになんで…………!」

 

「でも、苦しんでたのは本当でしょ?」

 

「……え?」

 

「知ってるよ。校舎の屋上でいつも、宗助が組織と冬二たちとの間で揺れながら、ずっと苦しんでたこと」

 

 昼休み、それを毎日のように見せられていた僕の気持ちも考えてもらいたい。軽めのパンが二郎系のごとく激重よ。

 

「なんでそれを知って……でもそうか、それで俺の事情を…………」

 

 正直、宗助のことを好きか嫌いかで言えば、割としっかり嫌いだ。

 さっき宗助が自分で口にした通り、過去に色々とやられてますので。

 

 かといって、死んでほしいとまで思ってるわけじゃない。

 命が狙われていると知りつつ、何も手を打たず本当に殺されたら、さすがに夢見が悪くなりそうだし。

 さっきも言った通り、ずっと苦しんでいたことは、ちゃんと知ってるから。

 それに冬二たちとのことだって、グループを離れたのは、結局は僕自身の判断なんだ。

 それを誰かに唆されたせいとか、そんなダサいことは言いたくない。

 

 だから――

 

「許すよ、全部許す。宗助が僕にしたこと、負い目に感じてること、そういうのを全部許すから、もう気にしないで。もちろん、冬二たちとの関係のこともね」

 

「雪、春……」

 

 僕の許しの言葉を受け、宗助は涙を流し始める。

 少し大げさすぎる気もするが、宗助にとっては重要なことなのかもしれない。

 自分で自分を許すことができない。だからこそ、誰か一人にでも許されたという事実が、とてつもなく。

 

「……雪春、もう一つ聞いてもいいか?」

 

「なに?」

 

「なんで……死桜だったんだ? 偶然……俺が狙われてる話を聞いたってんなら、学園に伝えるのも手だったはずだ。むしろその方が確実だったろ。なのに、なんで……」

 

 もちろん、それも考えたよ。

 桜さんとか、知ってる強そうな人みんなから断られたらそうするつもりだったし。でも――

 

「そしたらさ、宗助がスパイだったこと、学園に知られるじゃん? もしそうなったら、冬二たちの傍にいられなくなるでしょ」

 

「じゃあお前……、全部俺のために…………」

 

 そう言われるとなんかあれだけど……。まあそうなるか。じゃあそれでいいや。

 

「ありがとう……。本当に、ありがとう……!」

 

「いえいえ」

 

 まあさっきも言ったけど、僕は頼んだだけですしね。

 

「…………なあ、雪春。俺ずっと、考えてたことがあるんだ」

 

 宗助はそう告げると、涙を拭い、真剣な表情で僕を見据える。

 その目には決意がこもり、迷いなど微塵もない。

 

「叶わないはずの理想だったんだ。黄楼炎とか、任務とか、そんなの関係なく、友人たちと普通の学園生活を送る……そんな未来を、いつも夢見てた」

 

「…………」

 

「でもその夢が、いくつもの奇跡が積み重なって、すぐ手の届く場所に落ちてきた……。それに手を伸ばさないなんて、俺には無理だ……」

 

 そこで一度、宗助はその表情に影を落とす。

 己の過去の全てを、振り返り、悔いるように。

 

「虫のいい話なのはわかってる。それでも、冬二たちにも事情を話して、全部一からやり直したい。ゼロから……もう一度、一緒に歩んでいきたい。だから……ッ!」

 

 その声は徐々に大きくなり、再び決意のこめた表情を浮かべ、そして告げた。

 

「雪春……! 俺と本当の友達になって――!」

 

「ごめん、それは無理」

 

「えぇ!?」

 

 これまでのことは許したけど、お前のことは嫌いなので。

 

 

 宗助からのフレンド申請を、僕は笑顔で却下した。

 

 

 

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