魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
Q.夏といえば?
A.そう、野球だね!
「というわけで、野球をやります」
「「「どういうわけ?」」」
場所は河川敷の野球グラウンド。
そこで僕の告げた言葉に、集まった『
「野球をします」
「だから詳細を話せっつってんだよ」
まあ簡単に説明すると――
「私がやりたいって言ったの!」
――ということです。
隣で元気よく声を上げるルウを、僕は手で指し示し、言いだしっぺが誰であるのかを伝える。
もう少し詳しく説明すると、“草野球の地域リーグ”というものがこの辺りには存在し、その地域リーグの『参加チーム募集中!』という張り紙を街でルウが見つけ、参加したいと言い出したのが事の経緯だ。
まあ言ってしまえば、小さな王女様のいつもの気まぐれである。
「というわけでみんな! がんばろうね!」
「いや、やらねえわ」
「ボク、帰ってもいいかい?」
リーダーである僕が気合を入れ、一生懸命盛り上げようとしているにもかかわらず、蛇塚と光華はそれに水を差す。
やれやれ、この無気力な現代っ子どもめ。
「言っとくけど、拒否権はないから。チームとしての責任は僕が請け負う代わりに、みんなは僕に絶対服従だって、この前約束したよね?」
「そこまで言ってねえわッ!」
「しかもそれはあくまでチーム活動での話だろ! これは完全にプライベートじゃないか!」
「発言捏造してんじゃねえぞクソリーダー!」
「都合よく捉えてるんじゃないよボケリーダー!」
「…………」
キャンキャンキャンキャンうっせえなこのカスども。
「というか、リーダーはなんでそんな乗り気なのさ?」
「それはもちろん、ルウのお願いを叶えてあげたい一心で――」
「雪くんもね、最初は嫌がってたんだけど、おじいちゃんから補習免除って言われて、やる気になってくれたの」
あ、コラッ! それは言っちゃダメだって……!
「じゃあな、リーダー」
「クーラーの効いた部屋から応援してるよ」
二人は冷たい声で吐き捨てると、僕に背を向け、迷いなく帰宅することを選ぶ。
なんてチーム甲斐のないやつらだ。
……けどまあ、僕だってこいつらが素直に言うことを聞くなんて思っちゃいない。
当然、こういう時のための保険も用意してある。
「別に帰ってもいいけど、一応これ“地域活動への参加”っていう名目で学園に届けを出して、課外活動の扱いになってるから」
「……? だから何だよ?」
「帰るなら学園に連絡入れてから帰ってね。具体的には立花先生に」
「できるかぁ!!」
「卑怯だぞッ! あのバイオレンス教師を持ち出してくるなんて!」
ふふっ、負け犬の遠吠えが聞こえるね。
「あ、その……リーダー。ワタシは、誘ってもらえて……嬉しかったよ」
「私もです。雪春様の力になれるよう、精一杯やらせていただきますね」
そう言って、蛇塚と光華の二人が不満を口にするのとは対照的に、烏丸とサラの二人は笑顔を浮かべる。
正直なところ、烏丸はギリギリまで呼ぶかどうか悩んだのだが、最終的にはこうして呼ぶことに決めた。
厄介事しか生み出さないのは理解しつつも、グループで一人だけ誘われない辛さは、痛いほど理解しているつもりなので。
サラに関しては『様呼びモード』の方でよかった。『ビビり散らかしモード』の方だとこっちがいたたまれなくなるし。
「まったく、急に呼び出されてびっくりしたよな」
なんでイツメンみたいな顔して馴染んでんだコイツ。
「ま、俺と雪春の仲だからな。へへっ、頼みがあれば何でも聞いてやるぜ」
「そっか。じゃあ帰れ」
「そいつは無理だ」
何でもっつっただろうが。
「というか宗助、いつもは冬二たちにくっついてるじゃん。今日はいいの?」
「ああ、冬二たちは今、シャルの祖国に旅行に行ってて不在なんだ。だから何の心配もいらないぜ!」
そっか……。じゃあこいつ置いてかれたんだ……。
ならさすがに可哀想だし、仕方ないから仲間に入れてやるか。
とりあえず、今この場にいるのは僕、蛇塚、光華、烏丸、サラ、ルウ、宗助の七人。
少し遅れているみたいだが、後からルウの友達が来る予定なので、人数的には問題ない。
「まだ始まるまでにはちょっと時間あるけど、何か質問ある人いる? 野球のルールとかでわからないことあったら、遠慮なく聞いてね」
「ルールの質問とかじゃないんだけど……
手を上げ、疑問の言葉を口にしたのは光華だった。
光華はグラウンドのバックネット裏に視線を向ける。するとそこには――
『渡谷ーッ! ホームラン打てよー!』
『おらおらー! はよ試合始めろやー!』
『143連勝しろ!!』
――酒盛りをしながら野次を飛ばす、ガラの悪い集団が悪目立ちしていた。
「渡谷って言ってるけど、キミの知り合いかい?」
不本意ながら。
「僕が働いてるバイト先の人たちだよ」
無観客は少し寂しいかなと思い、『暇な人は応援に来てください』と事前に連絡しておいたのだ。
まあ大半が酒盛り目的の上、応援にしては人相と口と性格が悪すぎる集団のため、人選を間違えた気がしないでもない。
それに何人か普通に今日シフト入ってるはずの人がいるな。店長泣いてるぞ。
「ユニホームとかはどうすんだよ?」
「それなら大丈夫。ユニホームとか道具一式は、全部
「えっぐい不平等条約が結ばれてるんだけど」
「黒船に来航された?」
「よく了承したな。あのヤニカスメンター」
心優しいメンターと契約できて、僕らは幸せ者だね!
「というかリーダー、キミ全然責任取る気ないじゃないか」
「何が責任は請け負うだ。この口だけ野郎」
ほんと、よく喋るカス共だな。
「ところで、そのメンターは来てないのかい?」
「メンターならバックネット裏で一緒に酒盛りしてるよ」
「「「…………」」」
酔っ払い、大声で笑うメンターの姿を見て、蛇塚たちチームメンバーだけでなく、その場にいる全員が冷たい表情を浮かべる。
絶対こんな大人にはならないようにしよう――試合を前に、僕らの心は一つになった。
「さて、そろそろユニホームに着替えようか。近くに更衣室があるから、そこで――」
「雪くん」
「ん?」
僕の言葉を遮ったルウは、その手にスマホを持ちながら、どこか困ったような表情を浮かべている。
「どうしたの?」
「私の友達、今日これなくなっちゃったみたい」
おっと。
「誰か別の子、呼んだ方がいい?」
「いや、今から呼んでも時間がかかるだろうし、今日はギャラリーの中から助っ人を頼もう」
そのため、僕はバックネット裏へと移動し、助っ人を頼めそうな人を探す。
数分後――
「こちら、助っ人の桜さんと白川さんです」
「よろ、しく」
「…………」
「……白川さん?」
「あ、私か……。よろしくね~」
僕は元いたメンバーに、新しく連れてきた二人の女性を紹介する。
どちらも僕と同じバイト先のスタッフで、探すも何も、ほぼこの二人しか選択肢がなかった。
桜さんと白川さん以外、みんなベロンベロンに酔っぱらっていたので。
「雪春ッ……! おまっ…………!」
宗助が何か言いたそうな顔してるが無視無視。
「じゃあ今いるこのメンバーが、開幕戦を戦うメンバーになるから」
まあ僕も正直最初は乗り気じゃなかったけど、どうせやるなら全力で楽しまなければ損というもの。
夏休みに誰かと一緒にスポーツをするなんて、去年の僕からは考えられないような進歩なわけで。
これもまた、一つの青春と呼べるに違いない。
「みんな、よろしくね」
こうして、チーム『ミスフィット』の記念すべき最初の試合が幕を開ける――
――なお、
『はっ! やっ! くっ! 振っれっよォォォォォ~~~~!! いっつも初球の甘いストレート見逃しやがって!』
『そのくせ追い込まれたらワンバンする落ち球にクルックル! お前のストライクゾーン地面に埋まってんのか!?』
「黙って聞いてりゃ好き放題言いやがってッ!!! ぶっ殺してやるッッッ!!!!!」
「ヤバいヤバい! 蛇塚くんを止めろ!」
「蛇塚くん! 酔っ払いの戯言だから!」
試合中、ギャラリーからの野次に蛇塚がバチギレ。
相手チームそっちのけで、ミスフィットVSギャラリーの大乱闘に発展し、最終的には警察が出動するまでの事態に。
僕らの記念すべきリーグ戦の初戦は、没収試合という形で不戦敗となった。
こんなもんが青春のわけあるかクソが。
ちなみに、ベロンベロンに酔っぱらったメンターは逃げ遅れ、パトカーに乗せられて連行されていった。
――――――
おまけ その1
「しっかしまさか、死桜と一緒に野球をすることになるなんてなぁ……。人生、何があるかわからねえもんだ」
「…………」
「まあ野球してた時間より、乱闘の方が長かった気もするけど」
「…………」
「というか死桜って、ギャラリー連中とは職場仲間なんだよな? にしては乱闘中、こっち側について殴りまくってなかったか?」
試合を終えてからの帰り道、なぜか友人面をした宗助が僕の隣を歩きながら、延々と一人で喋り続けている。
よくここまで無視されてめげないなコイツ。
その状況を不憫に思ったわけではないが、そんな宗助に対し、僕は少し気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、冬二たちにスパイだったこと話したの?」
「…………」
話してないのか……。
「いや! もちろん言うつもりだぜ! けど、その……タイミング的なあれがホヤヤーンで……」
なんだよホヤヤーンって。
「多分だけど、冬二ならスパイのことも普通に許してくれるでしょ」
「……わかってんだ、それは俺も。ただ……」
「まあ茜さんたちには半殺しにされるだろうけど」
「それなんだよな~~~ッ」
茜の異能でミディアムレアにされる未来を想像したのか、宗助は泣きそうなりながら顔を両手で隠す。
「……なあ雪春。俺がカミングアウトする時、一緒についてきてくれないか?」
イヤでーす。
「頼むよ雪春ぅ! 友達を助けると思って!」
友達じゃないから無理かな。
「そんなにアレなら別に言わなくてもいいんじゃない? 黙ってた方が上手くいくなら、それも選択の一つでしょ」
僕もメイルカムイの件とか秘密にしてるし。
「……いや、これは俺なりのケジメなんだ。これからも冬二たちと一緒にいるためには、絶対に話すべきだと思ってる……!」
「…………」
その言葉は、明確な決意が込められたものだった。
表情も普段浮かべるヘラヘラしたものとは違い、どこまでも真剣で。
宗助がどれだけ本気なのか、嫌というほど伝わってくる。
なればこそ、僕から告げる言葉はただ一つ。
「じゃあ一人でいけよ」
「そんな冷たいこと言わないでくれよ雪春~! ちゃんとお礼はするからさ~! ほら、一番ヤバそうな茜とか、雪春の前だとあからさまに態度が軟化するわけで……!」
「…………」
「雪春ぅ~!」
その後も、すがりついてくる宗助を無視し、僕は歩き続けた。
――――――
おまけ その2
「よお新入り! お前は何して捕まったんだ?」
「いや、あれ……? この前出所したばかり……えぇ?」
監獄の食堂で、登坂は首を傾げた。
従業員紹介 その②
『毒殺の白川』
・妙齢の女性(年齢不明)。
・元気になるクッキーの開発者。
・名前で呼んでも、少し間を開けてから『あ、私か』と反応するため、他のスタッフからは偽名ではないかと疑われている。
・前科あり。