魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「ではこれより、異能指導を始めます」
「お願いします」
事前に予約し、貸し切りとなった学園の屋内施設で、僕と
そう、ようやくこの日がやってきたのだ。異能の個人指導をしてもらう――その約束を果たす時が。
「それにしてもメンター、今回はすぐに出所できたんですね」
「面会に来た美咲に、『足舐めたあと一周回ってワンッって鳴きます!』って土下座したら出してもらえた。すっごい憐れみの目を向けられたけど」
「プライドとかないんですか?」
「人ってね……一度落ちるとこまで落ちると、些細なことなんて気にならなくなるんだよ」
さすが、監獄の最下層にぶち込まれてた人だ。言葉の説得力がまるで違う。
「まあでもよかったです。また延期になるかと思ってたんで」
「正直なところ、最初は二学期から始める予定だったんだよ。ほら、今は夏休み中でしょ?」
「はぁ」
「“学生の夏休みは存分に遊ぶべき”ってのが私の持論でね。大人なると、一ヶ月以上の長期休暇なんてもらえなくなるから――」
「メンターは平日でも仕事サボってパチンコ行ってるじゃないですか」
「この話はやめようか」
ほんま……。
「でも、じゃあなんで急に指導する方針に変えたんですか? まだバリバリ夏休みですけど」
「だってほら……、なんかキミのことほったらかしにしてると、また監獄送りにされそうだし……」
「まるで僕が悪いみたいに……」
「まるで悪くないみたいに……」
僕らは互いに、怪訝な表情を浮かべて見つめ合う。
基本的にメンターの自業自得だと思うんですけど。
「ま、まあこの話も置いといて……」
メンターは一度仕切り直すと、その表情を真剣なものへと変化させ、そして告げた。
「さっそくだけど……渡谷雪春くん、キミは特別な才能を持ってるよ」
「存じております」
「なんて自信満々なんだ……」
いや、まあね。異能に関してはずぶの素人で、常識すら怪しい無知な僕でも、さすがにそろぼち気づいてきましたよ。
僕には、
最上級悪魔であるメイルカムイの召喚、そして使役。それらは偶然の結果などではなく、僕だからできたことだと確信している。
でなければ、かつて欧州を滅ぼしかけたというメイルカムイが、グチグチと文句を言いながらも、大人しく使役されるはずがないのだから。
それにあの日の屋上で、リリアは驚愕しながら口にしていた。『本当にあのメイルカムイが、ユキーの支配下にあるのですね』と。
ならばもう、自惚れなんかではないはず。僕には、才能がある……!
ただ不思議なことに、相変わらず授業の低級悪魔召喚は失敗するんだけど。
……多分あれだ、低級悪魔が僕の格と見合わないとか、そんな理由に違いない、きっと。
「まさか肯定されるとは思わなかったよ。そんな返しをしてきた学生、キミが初めてだからさ。何か自信のある分野でもあるの?」
「それよりほら、時間は有限ですよ。訓練を始めましょう」
「え、そんな露骨に話逸らされると不安になるじゃん」
そりゃねえ。内容が内容だけに、おいそれと公言するわけにはいかないので。
「えー……。そういえば以前“バレたら呼び出し程度じゃすまない”みたいなこと言ってたけど、ほんとにヤバいこととかしてないよね? 問題になるような悪魔を召喚したりとか」
「…………」
僕は笑った。
「お前やってんな!?」
「やってません」
「すっごい澄んだ目で嘘つく……! 正直に話して! 何したの!?」
ちっ、自分の責任問題になりそうだとやたら食い下がってくるな。
「いや、ほんとに何もやってませんよ。ただメンターから才能があるって言われて、ちょっと舞い上がっちゃっただけです。
「…………」
「…………」
「……はぁ、まあいいや。とりあえずはそれで納得しといてあげる」
じゃあ攻守交代ということで。
「“そんな返しは初めて”ってさっき言いましたけど、もしかして『キミには才能がある!』みたいなセリフ、いろんな学生に言ってます?」
「…………」
はい黙った。
「……いや! 言ってるっちゃ言ってるけど、キミの異能に可能性があるのは本当なわけでッ! この前、地下監獄を襲撃してきた子が――!」
「ちなみに、冬二には言いました?」
「訓練始めよっか!!!」
とびっきりの笑顔を浮かべ、メンターは告げる。へっ。
こうして、異能の個人指導がスタートしたのだった。
とはいえ、初回ということもあり、これといって特別な訓練といったものはなく。
そのほとんどが、授業でもやったことがあるような内容の訓練ばかりだった。魔力を制御してみたり、放出してみたり、異能を使用してみたり等々。そこにメンターが、ちょくちょく指導を挟むような形で。
時おり、異能測定の結果が書かれた紙を見ていたので、実際の結果と見比べていたのかもしれない。
そんなこんなで、主に基礎的な訓練をこなし、あっという間に一時間が経過する。
「……うん、じゃあ今日はここまでにしよっか」
「もうですか? ぜんぜんまだまだできますよ」
体力的には余裕だし、こうして個人的に指導してもらえるのは初めてのため、なんだかんだテンションも上がりっぱなし。
できることなら、もっとこのまま訓練を続けたい。
「ちなみにだけど、本当に疲れとかない? こう、魔力不足的な倦怠感とか」
「……? はい」
「……そっか。まあ気持ちはわかるけど、まだ初回だからね。ゆっくり焦らずやっていこう。今日の結果も踏まえて、次からはもっと踏み込んで異能を鍛えていく方向にシフトするから」
そう言われてしまうと、こちらとしても引き下がらざるをえない。
それにちょっと不完全燃焼の方が、次回の訓練が楽しみになるのもまた事実。
「わかりました。次の訓練を楽しみにしてます」
「うん、今日はお疲れ様」
「はい。ところで次の出所はいつになりますか?」
「入る予定もねえんだわ」
そうして、最後に次の訓練予定だけ確認し、記念すべき初回の個人指導は終了となった。
まあ、このまま指導を続けてもらえたからといって、冬二に追いつけたり、Aランク入りできるなんて思うほど、調子に乗るつもりはない。一年の時の僕なら、また別だったかもしれないが。
ただ卒業するまでに、一つくらいランクを上げられたらいいな――そんなささやかな思いを抱きながら、僕は施設を後にしたのだった。
――――――
「…………」
雪春が去り、一人になった訓練施設で、登坂は静かに考え込む。
しかしどれだけ考えても、
だからこそ、答えを知るであろう人物に登坂は電話をかけた。
「……もしもし、美咲?」
『……どうした、
登坂が電話をかけたのは、学生時代からの友人であり、雪春の担任教師でもある立花美咲。
そんな立花に、登坂は問いかける。
「美咲、この前さ……
『……何の話だ?』
「とぼけないで。出所してすぐ、パチンコ店で会った時のことだよ」
――“お前には雪春のことで話が……”――
そのセリフの後、結局誤魔化されたことを、登坂はしっかりと覚えている。
「雪春くん……どういう子なの?」
『……どう、とは?』
「減らないんだよ、魔力が」
『…………』
「さっきやった個人指導で、一時間みっちり魔力を使用する訓練をしたんだよ。なのに……、最初と最後であの子の魔力量が全く変化しなかった……。冬二くんのように、魔力量が人と比較して格段に多いならわかる。でも雪春くんはそうじゃない」
そう告げると、登坂は手に持っていた“異能測定結果”の紙に目を通す。
「雪春くんの魔力量は、ハッキリ言ってそれほど多くない。それこそ、上級悪魔なんかと契約すれば、数時間ほどで空になる程度。この紙に書かれてある結果だけじゃなくて、私の方でもしっかり確認した。……なのに、雪春くんの魔力は空になるどころか、
『…………』
「答えて、美咲」
『……わからない』
ポツリと、思わず漏れ出たような言葉が、携帯を通し登坂の耳に届く。
『私も、全てを知らされているわけじゃない。お前を納得させられるほどの情報を、私は持っていないんだ』
「…………」
立花美咲という人物は、昔から嘘をつくのが下手な人間である。
登坂はそれをよく知っているからこそ、その言葉が嘘でないことはすぐさま理解できた。
「……じゃあ、あの時は何を言おうとしたの?」
『……雪春に個人指導をするなと、そう伝えるつもりだった』
「……なんで言わなかったの?」
『言えなかったんだ。私は……、綿谷メンターに指導してもらえたおかげで、今がある。道を踏み外さなかったのは、あの人のおかげだ。だから……』
その先の言葉が、立花の口から紡がれることはなかった。
それでも、登坂は立花の気持ちが痛いほど理解できてしまう。自身も、同じ境遇であったがゆえに。
「言えないよね……。指導するな、なんて。私たちの口からは……」
『…………』
「けど、いいの? そう伝えるよう言ってきたの、上の連中なんでしょ?」
『……私の方からなんとか説得してみせる。その代わり、訓練内容については逐一報告してくれ。訓練中、何かしらの異変が生じた際もだ』
「……わかった」
『それと……』
そこで立花は一度口を閉ざすと、一呼吸置き、静かに、されど力強く告げた。
『雪春のことを気にかけてやってくれ』
ブツリと、まるで言い逃げするような形で通話が終了する。
「……フフッ」
人とのコミュニケーションが雑な、相変わらずの友人に。
担当する学生のことを気に掛ける、昔とは変わった友人に。
「任せろ、親友」
登坂からは、思わず笑みがこぼれた。
――――――
おまけ
夏休み最終日――
まだまだ暑い日は続くものの、それは学生にとって大きな一つの区切り。
明日からはまた、学び舎に通う日々が再開する。
そんな夏の終わりにどこか寂しさを覚えながら、提出物の最終確認など、粛々と新学期への準備を行っていく…………つもりだったのだが、
「ルウー!算数の宿題見せてー!」
「私もまだやってなーい!」
「翔くん! 自分でやらないとダメだよ!」
「今からじゃ間に合わないって!」
「朝顔の観察日記つけるの忘れてた! 誰か成長魔法かけて!」
僕の部屋は現在、
「すっげー! ヘラクレスオオカブトだー!!」
「ほんとだ! かっこいいッ!!!」
男女の割合は半々くらい。総勢十人ほどの小学生たちが、朝早くから襲撃をかけてきて、人の部屋に上がり込み無断占拠。
とんでもない賊どもだ。
「ねえ雪くーん。雪くんも宿題手伝ってー」
「……ルウ」
「なにー?」
「部屋にいるガキども全員連れて帰れ」
「えへへー! ヤダー!」
なにわろとんねんクソガキ。
「なあユキ! ヘラクレス俺にちょうだい!」
「あげません。帰れ」
「雪ー! 冷蔵庫のジュース飲んでいいー!?」
か~え~れ~~~。
「あ、そうだ。雪くん、蛇ちゃんが渡したいものあるんだって」
……蛇ちゃん?
ルウの方を振り返ると、ルウの隣には大人しそうな少女が立っていた。
手提げ袋を手に持ち、どこかおどおどとした様子で。
そう、赤、青、黄と、髪色がとても特徴な女子小学生が。
「…………」
「あ、あの……これ、お菓子……です。今日、友達の所で勉強するって言ったら、お兄ちゃんが家の人に渡すようにって……」
「そうなんだ、ありがとう。……ちなみにだけどそのお兄さん、秋人って名前だったりする?」
「っ! そうです! お兄ちゃんのこと、知ってるんですか……!?」
まあ知ってるもなにも、同じチームでして。
「蛇ちゃんはね、お兄ちゃんのこと大好きなんだよ」
「お、お兄ちゃんは……いつも優しくて、美味しいご飯も作ってくれるし、よく遊んでくれるから……」
ルウが『蛇ちゃん』と呼ぶその子は、顔を真っ赤にしながらも、ルウの言葉を肯定する。
よっぽど兄のことが好きで、僕と違い兄弟仲も良好なのだろう。
「私のことはー?」
「も、もちろん! ルウちゃんのことも大好きだよ!」
「「えへへー」」
お互い顔を合わせ、ルウと蛇ちゃんは笑い合う。
「…………」
蛇ちゃん、隣にいる
「なあ雪ー、お腹すいたー」
「私もー」
誰か一人の言葉を皮切りに、次々と空腹を訴え出すガキども。
時計を確認すると、時刻はちょうどお昼時。
「ねえ見て! ここにカレールーがいっぱいある!」
「ほんとだ! 俺カレー食いたい!」
「雪くん作って!」
やだよ、めんどくさい。
それに一人暮らしのこの部屋に、全員分のカレーを作れる調理器具なんてあるわけもなく。
「……ピザでも頼むか」
「やったー! ピザだー!!」
大はしゃぎする小学生たちをよそに、僕はピザの注文を行う。お金は後で理事長に請求しよう。
そうして、昼食を食べ終わった後も、小学生たちが部屋から出ていくことはなく、当然のように宿題の追い込みが再開される。
もう完全に託児所状態なんですけど。金とるぞ。
「なあ雪、この問題わかる?」
「……え、なに?」
既に追い出すのを諦め、ヘッドホンを付けてゲームをしていた僕のもとに、一人の男子小学生が近づき、声をかけてくる。
宿題のテキストを開き、僕に見せながら。
「どの問題?」
「これ、社会科の歴史問題」
男子小学生が指さした問題。それは――
『異能大百科を作ったのは誰でしょう?』
――というもの。歴史は歴史でも、異能歴史学だった。よりにもよって僕の一番不得意科目。
わからない――そう言ってしまうのは簡単だが、男子小学生の『高校生なんだから当然わかるよね?』という期待の視線が痛い。
……いや、大丈夫だ僕。そう、苦手科目とはいえ、僕は高校で一年以上も異能歴史学を学んできたんだ。小学生の問題程度、絶対に解けるはず……!
記憶を手繰り寄せろ。思い出すんだ。ひたすら抑揚のない声で教科書を読み上げ、数多の学生を睡眠へと誘う立花先生の授業を……!
「…………………………………………ウンコ大王だよ」
「絶対違うよ!!!」
合ってる合ってる。絶対ウンコ大王だって。
「ねえ雪くん、私も算数教えてー」
「俺もー」
「私は国語ー」
「待て待て待って、そんな一気に聞かれても無理だから!」
こうして、なんだかんだ僕も巻き込まれ、小学生たちの宿題を手伝う羽目に。
ようやく小学生全員の宿題が終わったのは、日も傾き出した夕方ごろ。
結局、僕の夏休み最終日はずっと騒がしく、振り回されっぱなしで終了する。
小学生たち全員が帰宅し、やっと静かになったその部屋で、僕は大きく息を吐いた。
夏が終わる――
2巻の発売から一週間ほど経ちました。
購入報告や感想等ちらほら届いており、感謝の気持ちでいっぱいです。
まだの方もぜひ……!
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おまけは2巻発売記念の小話です。振り返り的な。
次回から新章に入ります。