魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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冬のルーツ② / 主人公の口説き落とし

 

「失礼しましたー」

 

 『七色のツチノコ探し』の依頼許可をもらい、冬二たちと入れ替わりでメンター室を出たその直後、僕はふとある疑問を覚える。

 

 果たして、冬二たちは一体何の用で登坂さん(メンター)に会いに来たのだろうか、と。

 

 冬二がメンターから個人指導を受けていることは、宗助から聞いていたので知っている。

 ただ、指導(それ)はあくまで冬二だけであり、冬二チーム全員が指導を受けているわけではないことも聞いている。

 しかし先ほど、冬二はチーム全員でメンター室へと入っていった。つまり、個人指導以外での何かしら用事があるということだ。

 

 まあでも、きっと僕には関係のないことだろう――そう考え、すぐにその疑問を思考から追いやる。

 

 

 しかしその数日後、追いやったはずの疑問は、意外な形で再び僕の前に現れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の放課後――

 

 

「雪春……、ちょっといいか?」

 

「ん? どうしたの、冬二。それに茜さんも」

 

 帰り支度を進めていた僕の下に、冬二と茜の二人(・・)が歩み寄り、どこか難しい表情を浮かべながら口を開く。

 

「その、雪春の助けを借りたくて……」

 

「そっか、僕の助けを……………………僕の!?」

 

 ハッキリと聞こえていたにもかかわらず、僕は思わず声を上げて聞き返してしまう。

 それほどまでに衝撃だったのだ。冬二が僕に助力を求めたという、その事実が。

 

「今ちょっと、私たちの手には負えない状況になってて……」

 

「でも登坂さんから話を聞いて、雪春ならなんとかできるんじゃないかって思ったんだ」

 

 そう告げる冬二と茜の表情は、どこまでも真剣で。

 何かの冗談や、軽い雑談の延長ではなく、その言葉が本気のものであることは一目で理解できた。

 

「っ……!」

 

 だからこそ、僕の中で喜びの感情が込み上げる。

 普段、可能な限り僕を危険から遠ざけ、巻き込まないようにしようとする冬二が、協力してほしいと頼んできたのだ。

 嬉しくない、はずがない。

 

 ……ループの時にも言われたけど、あれは実質ノーカンなので。

 

 しかしそれはつまり、冬二たちは今、自分たちの力だけでは解決できないような、とても厄介な状況に陥っているということ。

 そんな状況に対し、僕なんかが力になれるとは正直思えない。

 

 ……それでも――

 

「わかった。僕に出来ることなら協力する。だから遠慮せず、何でも言って。可能な限り力になるから」

 

 僕を頼ってくれた、その期待に応えたい。そんな思いを、僕は言葉と表情で訴えた。

 たとえ大きな力にはなれずとも、冬二たちの抱える問題が解決する最後の最後まで、できる限り協力することを僕は決意する。

 人は思いの強ささえあれば、どんな困難であろうと、きっと乗り越えて行けるはずだから。

 

 セーラスのようなヤバい組織の相手だろうと、達成困難な任務の協力だろうと、なんだってバッチこいだ!

 

「っ! ……ありがとう、雪春」

 

 僕が協力的な態度を示すと、冬二は笑みを浮かべながら感謝し、そして告げる。

 

「その……、烏丸冬歌さんとの仲を雪春に取り持ってほしくて――」

 

「ごめん冬二、僕は何の力にもなれそうにないや」

 

「ええ!?」

 

 物事には限界ってものがあるよね。所詮ただの人なんだから。

 

「雪春、あんた烏丸って子とチームメイトなんでしょ?」

 

「書類上は……」

 

「そんなドライな関係なの!?」

 

 そうだったらいいなって……。

 

「頼む雪春! 俺たちだけだと、烏丸さんに近づいただけで攻撃されるんだ……!」

 

「……もしかして、紗季(さき)さんたちが今日来てないのって、それ(・・)が原因だったりする?」

 

 おかしいとは思っていたのだ。冬二のハーレムメンバーであるイツメンが、茜以外全員学校を休んでいたのだから。

 

「ええ、そうよ。昨日、その烏丸って子にみんなで会いに行ったんだけど、いきなり黒いスライムみたいなのを浴びせられて……」

 

 多分『厄災の泥人形(ミカエル)』だな。アレを学園で召喚するの、メンターから禁止令が出てたはずなんだけど……。

 まあ聞くわきゃないか。なんなら禁止令が出されたこと自体、覚えているかどうかも怪しいわけで。

 

「それで、私は(・・)運よく避けることができたんだけど、他のみんなは全員そのスライムに触れて体調崩しちゃったのよ」

 

「正直、なんで俺たちを攻撃してきたのかもよくわからないんだ。俺たちはただ、話しかけようとしただけなのに……」

 

 話しかけようとしたから……かな。

 冬二たちには理解できないだろうけど、あの陰の極みみたいな烏丸のところに、冬二たちのような陽の集団が近づけば、そりゃそうよとしか……。

 

「……ってあれ? 茜さん、さっき“私は運よく避けれた”って言ってたけど、冬二はくらったの? そのミカ……黒いスライム」

 

「ああ、実はそうなんだ。ただみんなと違って俺だけなんともなくて。なんか生まれつき、呪いに対する耐性がめちゃくちゃ強いらしくて」

 

「へぇ」

 

 こいつ、事あるごとに設定が追加されていくな。主人公の鑑じゃん。

 

「とにかく俺たち、烏丸さんに頼みたいことがあるんだけど、俺たちだけじゃどうしようもないんだ。だから頼む雪春! 登坂さんが言ってたんだ! 雪春が声をかければ、素直に話を聞いてくれるかもしれないって……!」

 

 冬二は顔の前で手を合わせ、目を閉じながら頭を下げて頼み込む。

 

「お願い、雪春……!」

 

 そんな冬二の隣では、茜が必死な表情で訴えかけてくる。

 

「…………」

 

 あのカス三拍子(アルカス・ヤニカス・パチンカス)、人に面倒事を押し付けやがって……。

 

「……わかったよ。でも、あんまり期待しないでね。あの性格のヤバさは、誰かがコントロールできるようなものじゃないから」

 

 結局、冬二たちの熱に押され、僕は冬二たちを引き連れ、烏丸の下へと向かうこととなった。

 烏丸と冬二たち、その二者間の仲を取り持つために。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし案の定――

 

「ウウゥ……ッ!」

 

 烏丸は僕の背に隠れながら、冬二たちにうめき声を上げて威嚇する。

 初手からこれだもんな。もはや警戒してるとかのレベルではなく、烏丸は冬二たちを完全に嫌っているとみて間違いないだろう。

 

「えっと……烏丸さん、俺たちはキミと話がしたいだけで、危害を加えるつもりはないんだ」

 

「そうよ。だからいつまでも雪春に隠れてないで、お願いだから出てきて、ね?」

 

 烏丸をできるだけ刺激しないよう、不用意に近づかず、距離を置いて声をかけ続ける冬二と茜。

 しかしそれによって態度が軟化するようなことはなく、烏丸は依然として目を細め、不機嫌そうに表情を歪めたまま。

 

 ……仕方あるまい。ここは僕からも助け船を出すとするか。

 

冬歌(とうか)さん、話だけでも聞いてあげてくれない? 二人とも、悪いやつじゃないのは僕が保障するから」

 

「…………」

 

「冬歌さん?」

 

 僕が呼びかけると、烏丸はなぜか僕にまで、その不機嫌そうな表情を向ける。

 そして小さな声で、どこか拗ねるようにつぶやいた。

 

「……リーダー、わ、ワタシたちのチーム以外に仲のいい子いたんだ。それに……、あの赤髪の女に名前で呼ばれてるし……」

 

「…………」

 

 なにちょっとヒロイン(づら)してんだこいつ。

 お前にそのポジションは無理に決まってんだろ。自分を知れ。

 

「もし俺たちに不満あれば改善するから……!」

 

「なにか気に入らないことでもあるわけ?」

 

「…………」

 

 なおも冬二たちによる歩み寄りは続くが、やはり状況が改善する気配はない。

 烏丸の方は相変わらず無言で、歩み寄りを拒絶したまま。

 

 この感じだと、今の膠着状態がしばらく続くかもしれない――そう考えていたのだが、意外にも烏丸からアクションを起こすことで、その状況に変化が訪れる。

 突如、烏丸はつま先立ちになり、必死に足を伸ばして僕の耳元に顔を近づけると、内緒話をするように口元を手で隠しながら告げた。

 

「――――」

 

「……僕が冬二たちに伝えろってこと?」

 

「ッ……!」

 

 僕の問いかけに対し、烏丸は深くうなずくことで肯定する。

 

「雪春、烏丸さんはなんて?」

 

「えっと……『消えろ』だって」

 

「「…………」」

 

 突然の暴言に、冬二と茜が思わず絶句してしまうなか、烏丸はさらに耳打ちを重ねていく。

 

「――――」

 

「『失せろ』」

 

「――――」

 

「『お前たちと話すことは何もない』」

 

「――――」

 

「『疾く去れ』」

 

「――――」

 

「『ワタシ、オマエラ、キライ』」

 

 直接伝えてくんないかな……。

 

「――――」

 

「『霊長たる人類が本来、その生と共に備えるべき尊き理性を塵芥のごとく吐き捨て、獣がごとき欲に溺れた知性なき淫獣どもめ』」

 

「――――」

 

「『四六時中発情して交尾するチンパンジー以下の貴様らと、光り輝く精神を宿すワタシとでは生きるステージが――』」

 

「待って待って待って! それ本当に全部その子が言ってるの!? ちょっと盛ってない!?」

 

 むしろマイルドに訳してんすよ、これでも。

 

「口の悪さが雪春そのものなんだけど……」

 

「うるせえ全自動パンツ見せ機、だって」

 

「今のは絶対あんたでしょ! その子なにも言ってなかったじゃない!」

 

 まったく、烏丸の口の悪さには参るね。

 

「というか『全自動パンツ見せ機』って何よ!?」

 

「……生き様?」

 

 顔を真っ赤にして(わめ)く茜に、僕は笑顔で対応する。

 その一方で冬二はというと、このままじゃ(らち)が明かないと考えたのか、烏丸に本気の表情(・・・・・)を向けていた。

 

「烏丸さん……、俺は何度でも言う。お願いだ、話を聞いてくれ」

 

 その声は静かに、されど力強く。さらに冬二のその瞳には、凍てついた心すらも溶かしてしまうほどの熱がこもる。

 まるで別人のように雰囲気を変化させたそれ(・・)は、冬二が口説き落としモード(本人無自覚)に入ったことの(あかし)

 

「……正直に言うと、烏丸さんが俺たちの何を気に入らないのか…………俺にはわからないんだ。もしかしたら、無自覚にキミを傷つけていて、嫌われるようなことをしてしまったのかもしれない。……だとしたら、本当に申し訳ないと思う」

 

 そう告げると、冬二は存在しない己の非を認め、その頭を深く下げる。

 しかし当然、謝罪して終わりではない。数秒後、冬二は勢いよく頭を上げると、先ほどよりも一際大きい声量で語りだす。

 

「ただそれでも、俺はキミと話をしないといけないんだ……! 他の誰でもない。烏丸さん、キミと……! 勝手なことを言ってるのはわかってる! けどこっちにも引けない事情があるんだ! ……言い訳はしない。事情ってのも、全部俺自身のため。俺は……自分を知るために、キミと話がしたい……ッ!」

 

「…………」

 

 冬二の口から紡がれる、裏表のない本気の言葉。

 冬二の表情が、冬二の声が、冬二の態度が、冬二を構成する全てが、その言葉の正当性を後押しする(・・・・・・・・・)

 それはもはや理屈ではない。ただ自然と思ってしまうのだ。その在り方だけで、綿谷冬二の全てを肯定し、味方になってやりたいと。

 

 まあ、生まれながらに主人公として生きることを宿命づけられた、その特権と言えるのかもしれない。

 たいていの人間はこれで絆されるか、チョロインならこれだけで惚れる。そしてみな喜んで、積極的に冬二への協力を行うようになっていく。

 そんな流れを、僕はこれまで何度も目にしてきた。

 

 

 ……ただ今回は――

 

「――――」

 

 冬二が言いたいことを全て言い終えたと同時に、これまでと同様、烏丸は僕に耳打ちを行う。

 

「雪春……、烏丸さんはなんて?」

 

「『話が長い。帰れ』……だって」

 

「嘘でしょ!?」

 

 冬二の渾身の説得、まるで響かず。

 そのことに、茜は思わず驚愕の声を上げる。

 

 茜……、気持ちはわかるよ。

 でもね、ダメなんだ。冬二がどれだけ心に響く言葉を口にしようとも、どれだけその熱い思いをぶつけようとも、烏丸(こいつ)はそもそも人の話を聞かないから……。

 烏丸に話を聞かせようとするなら、ある程度精神的に追い詰めた状態じゃないと。ただ追い詰め過ぎたら、それはそれで暴走するんですけど。

 まあ要するに、烏丸冬歌という存在は、これまで冬二が絆してきた相手とはもはや別種の生き物なわけで。

 

 というか――

 

「そういえば聞き忘れてたけど、冬歌さんへの用って具体的になに?」

 

 まさか冬二たちに限って、“呪い殺したいやつがいる”とかではないだろうし。

 でも呪いの装備に人を傷つける以外の機能はないはずだけど……。

 

「えっと……、それは…………ッ!?」

 

 僕の問いかけに、どこか答えづらそうにためらう冬二だったが、突如そんな冬二の脇腹を茜が肘で小突いた。

 

「全部を話せとは言わないわ。けどこうして助力まで求めてるんだから、ある程度ちゃんと説明するのが筋でしょ」

 

「……わかった。実は――」

 

 そうして茜に説得される形で、ようやく冬二は事情を説明し始める。

 

 ……わかってはいたことだ。僕は冬二にとって、友人ではあっても、“共に戦う仲間”ではない。どこまでいっても、庇護すべき対象でしかないのだと。

 わかってた。でもやっぱり、今回のように巻き込んで、頼ってくれた方が嬉しいのにと、そう思ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だから、烏丸さんの協力が必要なんだ」

 

「……なるほど」

 

 とりあえず冬二の話をザックリまとめると、『とある事情から(ここら辺はぼかされた)、自分の両親について知る必要があり、そのために烏丸の母親から話を聞きたい』といった感じか。

 それにしても、冬二の両親ねぇ……。じゃああれか、以前僕が烏丸家で見た冬二そっくりの女の人の写真は、やっぱり冬二の血縁者だったわけか。

 話の流れ的に、おそらく母親かな?

 

 ……でも待てよ? ということは――

 

「じゃあ、別に冬歌さんに頼む必要なくない?」

 

「いや、それは……」

 

「その、雪春にはピンと来ないかもしれないけど、烏丸家は呪いを扱う一族の中でも超がつくほどの名家なのよ。人から恨まれやすい政治家や著名人なんかは、呪いの予防や解呪を真っ先に烏丸家に依頼する。要するに、わりと大げさでもなんでもなく、烏丸家は呪術関連におけるこの国の防衛線といっても過言じゃないってわけ」

 

 へぇ、じゃあもうこの国終わりだよ。次期当主が烏丸冬歌(コレ)だもん。

 

「私たちが接触しようとしてるのは、烏丸家の現当主。それこそ身内でもない限り、連絡を取るなんてとても――」

 

「取れるとしたら?」

 

「「……え?」」

 

 僕は渾身のドヤ顔を浮かべ、携帯画面に表示された連絡先を冬二たちに見せる。

 そこに表示されている文字は――烏丸冬璃(とうり)

 

 正真正銘、現烏丸家当主の名だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでリーダー、お母さんの連絡先知ってるの?」

 

 

 




・烏丸家訪問の際、冬璃から学園での娘の様子を教えてほしいと頼まれ、連絡先を渡された。
・そのため烏丸の学園でのやらかしは、全て雪春によりチクられ済み。
・ちなみに烏丸の誕生日以降も、お祝い事や食事会が開かれるたびに、雪春たちは烏丸家に招待(拉致)されている。
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