Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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すぺえどのご(2)

クリハラside

 

 俺は、足を怪我したボウズ…チョータと、OLのシブキさんと一緒に近くの休めそうな場所で待機していた。

 ヘイジとヒヅルが『げぇむ』をしている間、俺はチョータの足を診てやった。

 

「シブキさん。これ、アンタが処置したのかい?」

 

「ええ。付け焼き刃だけど」

 

「それにしちゃあ、処置が適切だと思ってよ。アンタ凄えな」

 

 俺が尋ねると、シブキさんが答える。

 付け焼き刃にしちゃあ、上手くできてるな。

 化膿してねえし、炎症も最小限に抑えられてる。

 

「私は別に、凄くなんか……」

 

 俺が言うと、シブキさんは自信無さそうに俯く。

 何でこんなに自信無さげなんだ?

 ちったぁ自信持っていいと思うんだがなぁ。

 

 俺は、チョータの脚の壊死した部分を切除して、薬を塗った。

 幸いシブキさんの処置が適切だったおかげで、壊死が最小限で済んでいたから、脚を切断する事にはならなさそうだ。

 皮膚をメスで切られ抉られる痛みに、チョータの顔が歪む。

 

「いてぇ…」

 

「ガマンしろ。脚ぶった切る事になってもいいのか?」

 

「イヤだ…いでぇっ!」

 

「悪いな。生憎麻酔の持ち合わせが無えんだ。でもまあ、お前さんは運がいい。そこら辺の医者に診せてたら、『あ〜こりゃ治りませんね〜』っつって脚ぶった切られてたぞ」

 

 俺は、チョータを治療しながらぶっちゃけた。

 脚に火矢がブッ刺さったりなんかしたら、ちゃんとした手術なんかできねえこの世界じゃ、脚をぶった斬らざるを得なくなる。

 ()()()()()()()、だけどな。

 今できる処置を終えた俺は、チョータの脚に炎症を抑える薬を塗った。

 

「…よし。とりあえず、今出来る事はやった。あとは定期的に包帯替えて薬塗っておけ」

 

「ありがとう…」

 

「抗生物質飲むのも忘れんなよ」

 

「っス」

 

 俺が持ち合わせの抗生物質の錠剤を渡すと、チョータが頷きながら錠剤を受け取る。

 よしよし、いい子だ。

 俺がチョータの手当てをしていると、シブキさんが話しかけてくる。

 

「…ねえ。あなた程の腕なら、普通に医者になる事だってできたでしょ?どうして闇医者になんか…」

 

 闇医者になんか、ねぇ…

 俺だってやりたくてやってるわけじゃないさ、こんな事。

 

「やってた頃もあったよ。マトモな医者」

 

「それってまさか…」

 

「色々あって免許を剥奪された。そっからはもう転落人生よ」

 

 俺は、自嘲気味に自分の過去を話した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺も、かつては純粋に人の命を救う事に誇りを持った医者だった。

 

「よく頑張ったな」

 

「うん!」

 

「先生…本当にありがとうございます…!」

 

 激務ではあったが、人の命を救える事が何よりのやりがいだった。

 患者や患者の家族の喜ぶ顔を見られる瞬間が、医者になって良かったと思える瞬間だった。

 

「いやぁ〜、ホントクリハラ先生様様だよ。東大医学部を首席で卒業後、若くして数々の高難度手術を成功させた天才外科医…かぁ。何食ったらそうなんだよ」

 

「食ってるものは普通だぞ」

 

「じゃあアレだ、脳みその出来が違うんだ」

 

「そんな事ないよ。オレなんか、まだまだだ」

 

 医者になってからしばらくして、雑誌やテレビの取材が来たりなんかした事もあった。

 だが金も、地位も、名誉も、あの頃の俺にはどうでも良かった。

 ただ純粋に、一人でも多くの人を救いたい、それだけだったんだ。

 

 だが、俺の日常はある日を境に急変した。

 あの日は、俺の担当している患者の手術日を直近に控えていた。

 手術の難易度自体はさほど高くなかったが、俺は誰も指摘していなかった手術の欠陥に気付いてしまった。

 俺は、手術をやめさせる為に執刀医に掛け合った。

 

「今すぐ手術を中止して下さい!この手術は、失敗する!!」

 

「キミは黙っていろ。少し腕が立つからって、何でも思い通りになると思ったら大間違いだ」

 

 誰も、俺の言葉には耳を傾けなかった。

 結局、手術は行われ、俺の予想通り手術は失敗した。

 手術中に患者の容態が急変し、そのまま帰らぬ人となった。

 患者の死因はチアノーゼだった。

 前々から、血中酸素濃度が少しずつ下がっているのは気になってはいたんだ。

 だから慎重に投薬治療を進めていた。

 そんな状態で無理に手術したら、失敗するに決まってる。

 防ぐ事ができた事故だった。

 

 しかもあろう事か、病院側は医療ミスの全責任を俺に押し付けてきた。

 おかげで俺は医師免許を剥奪され、患者の遺族からも人殺し扱いされる羽目になった。

 職も、家族も、財産も、信用も、何もかもを失った。

 路頭に迷っていた俺は、何とかありつけたバイト先の酒場で、元の職場の院長と俺の元上司が話しているのを聞いてしまった。

 

「クリハラくんね、彼は天才だったよ。()()()()()が無けりゃ、いずれは医療業界に革命を起こす逸材になっていただろうね。ウチのバカ息子とは大違いだ」

 

「だったら、何故彼を追放したりなんかしたんです?」

 

「だからこそだ。困るんだよ、ああいう有能な奴にデカい顔をされちゃあな。出る杭は打たれるってやつだ。まあ、恨むんなら行き過ぎた自分の才能を恨むんだな」

 

 ようやくわかった。

 俺は嵌められたんだ。

 いずれ俺に越されるのを恐れたお偉いさん方が、まだ地位も権力もないうちに俺を排除しようと裏で画策していたんだ。

 免許を剥奪されて、医療業界の現実に失望した俺は、犯罪者や悪党から金をふんだくって違法な治療行為を行う事を生業にするようになった。

 

「聴こえなかったか?あと5千万必要だ。5千万円、現ナマできっちり揃えて持ってこい。できねえなら、治療はしねえ」

 

「5千万って…そんな金用意できるわけないだろう!?支払いの要求はこれで何度目だ!?これまでいくら支払ったと思ってる!?」

 

 俺が治療費の前払いを要求すると、ジャラジャラとアクセサリーをつけた小太りの客が逆上する。

 その身につけてるもんを全部売れば5千万くらい用意できんだろうがバカタレ、そう言ってやりたいのを堪えて、俺は客を見下ろしながら言った。

 

「そうか。じゃあ今日のところはお引き取り願おうか。そんでゆっくり死んでくれ」

 

「わ、わかった!金は必ず用意する!頼むから、助けてくれ!」

 

 俺が言うと、客は急いで金をかき集めて持ってきた。

 こんな事がやりたくて医者になったんじゃねえのに。

 金なんか要らねえから、1人でも多くの命を救う事が、ガキの頃からの夢だったのに。

 俺の人生って、結局何だったんだろうな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 『げぇむ』『おにごっこ』。

 難易度『♠︎5(すぺえどのご)』。

 

 マンション内でただ一室、『鍵のかかっていない部屋』を見つけ出し、その『じんち』に『たっち』出来れば『げぇむくりあ』。

 制限時間は30分。

 制限時間を過ぎた場合、もしくは『おに』に参加者全員が殺された場合は『げぇむおおばぁ』。

 

 

 

「マジかよ…嘘だろ…!?」

 

 俺は、『おに』にニトベさんが撃ち殺されるところをその目で見た。

 ニトベさんを撃ち殺した『おに』は、そのままゆっくりと歩を進める。

 

「!」

 

 俺は、咄嗟に南階段の影に身を隠した。

 アイツ…俺の方に向かってきてないか!?

 

 …待てよ?

 アイツは、ゆっくり歩いて後ろからニトベさんを撃ち殺した。

 

 何で走って追いかけなかった?

 マシンガンを持ってるからか?

 それとも、あえて参加者を逃がして弄んでいるのか…?

 いや、違う…

 

「足を引きずってる…?」

 

 あの『おに』、もしかして足が悪いのか…?

 俺が南階段の影から少しだけ身を出して『おに』を観察していた、その時だった。

 

「っ!」

 

 不意に、『おに』がこちらを向いた。

 どうする…!?

 全力ダッシュで逃げるか!?

 俺の足なら、足の遅い『おに』を余裕で撒ける。

 

 でも相手はマシンガンだぞ!?

 いくら逃げ足が速かろうが、後ろから撃たれれば終わりだ。

 じゃあ、どうすれば…!?

 

「………?」

 

 俺が逃げようかどうしようか考えていると、『おに』はそのまま中央階段を上り始めた。

 

 …見えてない?

 あの馬の被り物のせいで視界が悪いのか…?

 何にせよ、南通路に行かずに上の階に行ってくれたおかげで助かった。

 

 …どうする?

 今のうちに1階で『じんち』を探すか…?

 でも『おに』が今の一人だけとは限らないし…

 

 いや、迷ってる場合じゃねえだろ…!

 どのみち制限時間を過ぎれば『げぇむおおばぁ』なんだ。

 だったら、時間いっぱいまで足掻いてやる!!

 

 俺は、1階の南通路の部屋から順番に、片っ端から調べ始めた。

 クソッ…どこだよ『じんち』…!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 あっ、ヘイジが『じんち』を探し始めた。

 俺も見習わなくちゃな、ああいう無謀なとこ。

 

「おおおおいお前ら!!!聞こえっかァァァ!!!『おに』はマシンガンを持って、馬の被りもんをした大男だ!!互いにデケェ声を出して、『おに』の居場所を知らせ合うんだよ!!そうすりゃ、安全圏にいる奴は、その間に『じんち』を探せる!!これだけの人数で協力すりゃあ、『おに』は何もできねー!!全員でここを生きて出るんだよ!!」

 

 カルベか、この声。

 なるほど、確かに良いアイディアだと思う。

 だけど『おに』に怯え切ってる臆病者には、バカ正直に答える勇気も、『じんち』を探す勇気も無いよ。

 …まあ、バカ正直のヘイジなら協力しそうだけど。

 アイツ以外に、一体何人が協力してくれるのかな。

 

「『おに』は6階の南通路よ!!近くにいる人はすぐに離れて!!」

 

 早速一人いた。

 多分俺と一番歳が近いオネーチャン。

 オネーチャンは、南階段を使って4階に下りた。

 『おに』は、オネーチャンを追いかけて4階に降りてくる。

 

「こっちはダメよ!!『おに』がすぐ後ろに来てる!!早く逃げて!!」

 

 オネーチャンは、通路に突っ立ってたメガネのオバサンに向かって叫んだ。

 その直後、『おに』が射程範囲まで近づいてくる。

 するとオネーチャンは、通路から飛び出たポールを掴んで真上の通路に登った。

 

「うわ、すげぇ」

 

 あの動き、クライマーか。

 

「1階の部屋は全部調べた!!『じんち』は2階から9階のどこかだ!!」

 

 俺がここからどうしようか考えていると、ヘイジの声が響く。

 アイツ足速いな。

 陸上でもやってたのかな?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 1階西通路を調べ終わった俺は、2階西通路に移動した。

 すると、キャップとアフロヘアーの男が、俺が最初に待機していた1階の南通路に降りてきた。

 その男は、そのまま1階の階段から降りようとする。

 まさか…!

 

「あっ…おい!!バカ止まれ!!外には地雷が―」

 

 俺は、咄嗟に男に向かって叫んだ。

 だが男は聞かずに、マンションから出てしまった。

 その直後、地雷が作動し、爆炎と共に爆発音が響き渡る。

 

「っ……!」

 

 ごめんなさい、助けられなくて。

 俺は、2階の部屋を片っ端から調べた。

 

「っクソッ…」

 

 2階もハズレか…

 このペースじゃ間に合わねえぞ…!?

 何か…何かヒントは無いのか…?

 

「…あれっ?」

 

 待てよ…?

 最初の悲鳴が聴こえたのって、どこからだっけ…?

 確か…4階の西通路だったはずだ。

 

 『じんち』は、4階の西通路のどこかなのか…?

 ……行ってみる価値はある。

 いや、どのみち『じんち』を見つけなきゃ『げぇむおおばぁ』なんだ。

 行くしかない。

 

 俺は、中央階段を通って3階に移動しようとした。

 俺が階段を上ると、エレベーター前には、ガタイのいいスキンヘッドにメガネの男と、色黒のショートアフロの男がいた。

 二人の男の足元には、消火器が置かれている。

 俺が階段を上ると同時に、そこへカルベが息を切らしてやって来る。

 

「お前ら…ここで一体何してんだ…!?」

 

 カルベは、消火器を準備している男二人に尋ねる。

 俺は今ちょうどここに来ただけなんだが…

 

「『おに』は交代だ。今度はオレ達が奴を狩る。腕っぷしに自信があるのなら、人手は多い方がいい。お前らも乗るか?」

 

 色黒の男が尋ねると、カルベは怒りを露わにしながら答える。

 

「ダチの仇討ちだ!『おに』はオレがぶっ殺す!!」

 

「カルベ…」

 

 『ダチ』って…

 まさか、アリスが『おに』に殺されちまったのか…!?

 それでカルベは、『おに』に復讐を…

 

「お前は?どうすんだ?」

 

 色黒の男は、俺にも作戦に乗るかどうかを尋ねてくる。

 作戦によっちゃ、『くりあ』に近づけるチャンスかもしれない。

 だけど…

 

「…まず作戦とやらを聞かせてくれ」

 

 俺は、とりあえず作戦を聞いてから乗るかどうか判断する事にした。

 

「『おに』の武器(エモノ)、イングラムM10。通称『MAC10(マックチン)』は、小型で火力が強く、連射速度が高い優れたSMG(サブマシンガン)だが、そのメリットが全て、デメリットにもなる。MAC10(マックチン)は、その火力の強さから弾の反動(リコイル)も大きい。そのため、ブレが激しく集弾性が悪くなり、ムダ弾が多くなる。そして9mmの装弾数は32発。圧倒的な連射速度を誇るMAC10(マックチン)は、その全弾を…わずか1.5秒で撃ち尽くす」

 

「つまり…その1.5秒を凌ぎ切れば…」

 

「銃を扱い慣れてたとしても、再装填(リロード)には5〜6秒を要する。それだけの隙があれば…」

 

「『おに』の首を絞め殺せる距離まで、詰め寄れる…!!」

 

 作戦はこうだ。

 まず機動力に優れた俺かカルベが『おに』を目標地点まで引き付けて、消火器で目眩しをして無駄撃ちさせてから、弾切れの瞬間に奇襲を仕掛け『おに』を絞め殺す。

 話を聞くだけじゃ、『おに』を殺して『くりあ』できる、一発逆転の可能性のある作戦だ。

 

「お友達の仇を取りたいんだろ?今がその時だ」

 

 三人は、俺を置いてけぼりにして勝手に話を進めた。

 弾切れの瞬間を狙って襲撃するって…それマジで言ってるのか…!?

 そんな無茶な作戦に、賛同できるわけないだろ…!

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ!」

 

 俺は、勝手に話が進むのを咄嗟に止めた。

 アリスを殺された怒りで目の前が真っ赤になっているカルベに、俺は冷静に話しかける。

 

「カルベ。アリスは本当に死んだのか?」

 

「……あ?」

 

「お前は、アリスが撃ち殺されるところをその目で見たのか?」

 

 俺が尋ねると、カルベは俯いて黙り込む。

 俺はカルベを見た時、カルベはきっと、アリスが殺されたと思い込んでアリスを助けられなかった自分を責めているんだと直感で悟った。

 でも、アリスがそう簡単に殺されるとは思えない。

 カルベの反応を見て、アリスは本当はまだ生きているんじゃないかと思った。

 

「いいや…そういえば、あの時銃声が聞こえなかった…アリスは、まだ生きてる……?」

 

「もしそうなら、お前が命を捨ててまで復讐に走る理由はなんだ?」

 

 俺が尋ねると、カルベは冷静さを取り戻す。

 我に返ったカルベは、階段の手摺りにガンッと拳を打ちつける。

 

「クソッ、何やってんだオレは…!」

 

 冷静になったカルベは、復讐を踏みとどまった。

 そうだ、アリスはきっと生きてる。

 アリスが生きてるなら、カルベが命を捨てる理由はどこにもない。

 すると色黒の男が、若干苛立った様子で俺とカルベに話しかける。

 

「何だ?乗るのか、乗らねえのかハッキリしやがれ」

 

「いや、ダメだ!その作戦は失敗する!」

 

 色黒の男が苛立ちを露わにしながら言うと、俺は咄嗟に叫んだ。

 するとスキンヘッドにメガネの男が、怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねる。

 

「失敗する…?どういう事だ」

 

「冷静に考えてみろ。アンタらがそうやって『おに』狩りをしようとするのを、『おに』が想定してないと思うか?」

 

 俺は、『おに』を狩ろうとしている二人に、諭すように話しかける。

 すると先程まで怒りで我を失っていたカルベも、作戦に難色を示す。

 

「オレも…うまく言えねーけど、このまま挑んでも『おに』には勝てねぇ気がしてきた」

 

「お前ら、こんな時に何弱気になってんだ?これだけの人数でかかれば、『おに』を絞め落とすくらい…」

 

「オレが『おに』なら、終盤で自分を狩りに来る奴が出てくる事くらい容易に想像できるし、そういう奴等を返り討ちにする為の対策はする。そもそも、足が悪いのに階段を上り下りして参加者を追いかけなくちゃならない圧倒的に不利な条件なら、再装填(リロード)の隙なんか絶対に与えない。弾切れや弾詰まり(ジャム)を想定して、銃は複数持ち込むだろうな」

 

 俺が言うと、二人は絶望の表情を浮かべる。

 このまま作戦を強行してマシンガンで蜂の巣にされるところを想像して、冷や汗をかいていた。

 『おに』を追いかけたら、『おにごっこ』にならない。

 少し考えてみれば、すぐにわかる事だった。

 

「…はは、何で都合よく決めつけちまってたんだろうな。奴の所持している銃が一丁だけだって」

 

 色黒の男は、頭を抱えながら絶望のあまりため息を漏らす。

 

「だが、作戦の前半は悪くないと思う。『おに』を引きつけて足止めする、ここまでは賛成だ」

 

 俺が言うと、頭を抱えていた色黒の男は顔を上げる。

 俺は、自分の考えを他の三人に話した。

 

「冷静に考えてみりゃあ、必死こいて『じんち』を探し回る必要なんて無かったんだ。オレが『おに』なら、制限時間ギリギリになったらもう『じんち』の前から動かない。『くりあ』するには、どのみち『じんち』から『おに』を引き剥がす必要がある。オレが『おに』を『じんち』から引き剥がす。アンタらは、撃たれないように気をつけつつ、『おに』の注意を引いてくれ」

 

 俺が作戦を話すと、色黒の男が俺に尋ねる。

 

「…アンタ、スポーツ経験は?何やってた?」

 

「高校陸上インターハイ出場選手…に、なり損ねた者だ」

 

 男が尋ねると、俺はニッと口角を上げながら答える。

 

「……よし、乗った」

 

「オレもだ」

 

 俺が言うと、色黒の男とメガネの男が作戦に乗る。

 するとカルベも、グッと拳を握りしめながら口を開く。

 

「オレは…あの時、アリスを見捨てちまった。アリスならきっと、今頃『じんち』を探してる。アイツを助けられんなら、やるしかねえだろ…!!」

 

 そう言ってカルベは、左の掌に右の拳を打ちつけた。

 どのみち、誰かが『おに』を『じんち』から引き剥がさなくちゃならない。

 『じんち』なら、きっとアリスやヒヅルが探してくれている。

 だったら俺達にできる事は、アイツらを最大限サポートする事だ。

 

「よし、行くぞ…!」

 

 俺達は、『おに』を『じんち』から引き剥がす為に、急いで『おに』を探した。

 すると、その時だった。

 

 

 

「しゃああああ!!」

 

 5階の南通路から、アリスの声が響く。

 …良かった。

 やっぱり、アリスは生きてた。

 それと、やっぱり『じんち』を見つけてたみたいだな。

 

「アリス…!!やっぱり生きてんじゃねーかよ……畜生!!心配かけやがって、畜生ッ…!!」

 

 アリスの無事を知ったカルベは、泣きながら喜んでいた。

 アリスはきっと、『じんち』に向かってる。

 俺達も急がないと。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

「オレもそろそろ行こっかな」

 

 『じんち』の場所は、最初から何となくわかってはいた。

 最初に初心者のオニーチャン二人が撃たれた時、『おに』は南通路から西通路にいるオニーチャン二人を撃った。

 わざわざ離れた場所から撃った、つまりアレはオニーチャン達を殺そうと思って撃ったんじゃなくて、『威嚇』。

 『じんち』は、あのオニーチャン二人がウロチョロしてた4階西通路のどこかにある。

 そうじゃなくても、終盤になれば『おに』は『じんち』の前から動かないだろうし、『じんち』の場所は制限時間ギリギリになればわかるんだけど。

 マシンガンで武装した奴に守り固められたら詰みだし、『おに』が徹底的に守りを固める前に動かないとな。

 

 俺が4階西通路に移動しようとすると、ちょうどチシヤも移動を始めた。

 俺は、チシヤと一緒に階段を降りた。

 するとチシヤが俺に話しかけてくる。

 

「何でオレの足音にピッタリ合わせてくるの?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「あ」

 

 チシヤが立ち止まると、ほぼ同じタイミングで俺の足も止まった。

 …ホントだ。

 別に足音合わせてるつもりなかったんだけどな。

 

「ひょっとして、無意識でやってた?」

 

「…そうみたい」

 

 俺も今初めて知った。

 

「それより、『じんち』だけど…」

 

「君も気付いてた?」

 

「うん」

 

 チシヤが尋ねると、俺は頷く。

 俺は階段を降りながら、ふと気になった事をチシヤに尋ねる。

 

「…てかさ、皆『おに』が一人だけって決めつけてるけどさ。確か『るうる』説明の時、『おに』が一人だけなんて一言も言ってなかったよね?」

 

「そうだね」

 

「『じんち』開けた瞬間『おに』がゴキブリみたくウジャウジャ出てきたらどうすんの?」

 

「あー…それはちょっとヤバいかもね」

 

 俺が質問すると、チシヤは笑いながらパーカーの懐に手を差し込む。

 …ああこれ、何か隠し持ってんな。

 まあ、俺も一応対策はしてるけど。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「やっぱり…!」

 

 俺達が上の階に移動して『おに』を探すと、『おに』は4階の西通路で待ち伏せしていた。

 『じんち』は4階西通路のどこかか…

 そしてやっぱり、アリスが『じんち』に向かっている。

 『おに』を引き剥がすなら、今しかない。

 俺は、西階段から『おに』に向かって叫んだ。

 

「おい!こっち向けウスノロ!」

 

 俺が叫ぶと、『おに』は俺の方を向いてマシンガンを発砲してくる。

 俺は、出来るだけ『おに』に弾を撃ち尽くさせる為に『おに』を挑発しながら、全速力で階段を駆け降りた。

 『おに』が俺に気を取られて『じんち』から完全に目を逸らした、その瞬間だった。

 物陰に隠れていたカルベが、『おに』に体当たりを仕掛けて組み付き、そのまま自分ごと『おに』を階段から落とした。

 身体を強く打ち付けた『おに』は、肺から空気が押し出されて咳き込むように息を吐き、手に持っていたマシンガンを手放す。

 

「カルベ…ヘイジ…!」

 

「今だアリス!!!走れぇッ!!!」

 

 カルベは、『じんち』に向かっているアリスに向かって叫んだ。

 階段の踊り場に身体を打ちつけた『おに』は、立ち上がって懐のマシンガンを抜こうとする。

 するとその瞬間、下の階の階段の影に隠れていた男二人が、『おに』目掛けて消火器の煙を浴びせた。

 被り物越しとはいえ、顔に直接消火器の煙を浴びた『おに』は、身体が真っ白になって苦しそうに咳をする。

 

「ガハッ、ゴホッ、ゴホッ…!!」

 

 『おに』が咳き込みながらもマシンガンを抜こうとすると、メガネをかけたレスラーの男が『おに』に体当たりを仕掛ける。

 

「ふんっ!!」

 

「ゲホァッ!!」

 

 レスラーの男に体当たりされた『おに』は、外階段の壁の角に脇腹を打ちつける。

 完全に『おに』に隙ができた一瞬のうちに、俺はカルベに駆け寄る。

 

「立てるか!?カルベ!」

 

「あ、ああ…」

 

 俺は、カルベに肩を貸して一緒に『おに』から離れた。

 下で待機していた色黒の男が、俺達に向かって叫ぶ。

 

「早くこっち来い!」

 

 俺達は、下で待機していた男の声を頼りに、『おに』から距離を取る。

 だが俺達全員が下の階に逃げ込む前に、『おに』が脇腹を押さえながら立ち上がってマシンガンの銃口を向けてくる。

 服の下の銃が盾になって、ダメージが軽微で済んでいたのか…!

 まずい、撃ち殺され……

 

 

 

 ――パァン…パアァ…ン

 

 

 

「………!」

 

 『おに』が俺達に銃口を向けたその瞬間、パーカーの男が『おに』に向かって拳銃を発砲した。

 

「やっぱ素人じゃ、映画みたいに簡単には当たらないか」

 

 パーカーの男が発砲すると、『おに』は、ターゲットをパーカーの男に変え、パーカーの男目掛けてマシンガンを撃ちまくった。

 パーカーの男は、『おに』に撃たれる前に上の階へ逃げ、俺達4人は下の階へ逃げた。

 緊張の糸が解けた俺は、カルベを下に降ろして息をつく。

 

「後は頼んだぜ…アリス、ヒヅル…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

「くっ!!違う!!次だ!!開けよクソッ!!次!!」

 

 俺は、4階西通路の部屋を片っ端から開けた。

 カルベとヘイジが、命を懸けて開いた活路だ!!

 この『げぇむ』、ゼッテー『くりあ』する!!

 

 

 

「開いた…!?」

 

 俺が『じんち』を開けた、その瞬間だった。

 

 

 

「ッ!!?」

 

 馬の仮面がドアから出てきて、俺にマシンガンの銃口を向けた。

 

 ……クソッタレ。

 そうだよ、何で決めつけちまってたんだ。

 『おに』が一人だけだって。

 

 

 

 ――パララララッ

 

 

 

「がっ…!!」

 

 目の前には、信じられない光景が広がっていた。

 『おに』の放ったマシンガンの銃弾は明後日の方向に被弾し、小柄なガキが、ドアから出てきた『おに』の顔面を横から蹴り飛ばしていた。

 『おに』を蹴っ飛ばした小柄なガキ…ヒヅルは、そのまま『おに』を組み伏せて叫んだ。

 

「今だよ、早く!!」

 

 ヒヅルは、『おに』を組み伏せて、馬の仮面の口の部分に何かを突っ込んで噴射した。

 すると『おに』が激しく咳き込む。

 

「ッ!?ガハッ!!ゲホッゲホッ!!」

 

「有機100%わさびスプレー」

 

 『おに』が咳き込むと、ヒヅルは手に持っていたスプレーを得意げにカラカラと振る。

 俺は、ヒヅルが『おに』を足止めしている間に、部屋に駆け込んだ。

 カルベとヘイジの…皆の頑張りを、無駄にしてたまるかよ…!

 

「見つけた…!!『じんち』…!!」

 

 俺が駆け込んだ部屋には、『じんち』の『ボタン』があった。

 だけど…

 

「『じんち』は…見つけた…見つけたけど…」

 

 『じんち』には、ボタンが2つあった。

 しかも2つのボタンの間には、『同時に『たっち』してね』と書かれた張り紙が貼ってあった。

 クソッ…こんなの…

 

「2つ…あるなんて…聞いてねえよちくしょう…!!」

 

 こんなの、アリかよ…

 

「ダメだカルベ!!この『げぇむ』は、1人じゃ『くりあ』できないッ!!『じんち』は、2つのボタンを同時に『たっち』しないとダメなんだ!!」

 

 カルベに向かって叫ぶが、当たり前だけど誰も来ない。

 外にいるヒヅルも、『おに』の足止めで精一杯だ。

 来てくれるわけがない。

 

「くそッ!!くそォッ!!ここまで来たのに…!!『くりあ』は目の前なのにッ!!頼むから…誰か…誰か来てくれよォォォォ!!」

 

 

 

 

 

「呼んだ?」

 

 声がした方を振り向くと、そこにはさっきカルベの作戦に乗ってくれた女の子が立っていた。

 

「キミは…どうやってここに…!?」

 

「時間が無いわ。あのボタンを2人同時に押せばいいのね?」

 

 そう言って女の子は、ボタンに駆けつける。

 俺も、ボタンを押さないと…!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 俺は、ドアから出てきた『おに』をボッコボコにした。

 すると、『じんち』からアリスの叫び声が聴こえる。

 どうやら、『じんち』のボタンは二人同時に押さないと『くりあ』できないらしい。

 …そっか。

 じゃあもう…

 

 …殺しちゃうしかないか。

 

 体格はさっきの奴に比べたら華奢で小柄だし、多分女の人だろうけど…

 …ごめんね。

 ()()()()、俺が殺しを躊躇う理由にはならないんだ。

 

「ごめんね、『おに』さん」

 

 そう言って俺は、持参してきたナイフを抜こうとした。

 その時、ヘイジ達が足止めしてたはずの『おに』が来る。

 大男の方の『おに』がマシンガンを向けてきたので、俺は咄嗟に女の方の『おに』を盾にした。

 すると男の方の『おに』が、一瞬撃つのを躊躇した。

 流石に殺人鬼でも、仲間殺しは躊躇するもんなんだね。

 俺はその隙に2mくらい跳躍して、男の『おに』の顔面に飛びついた。

 

「死ね」

 

 俺は、ナイフを抜いて男の『おに』に何度も突き立てる。

 男の『おに』は、マシンガンの銃口を俺に向けて撃ち殺そうとする。

 バァカ、この距離じゃマシンガンより俺がトドメ刺す方が早えよ。

 

 だけど俺がトドメを刺そうとしたその時、気絶させたはずの女の『おに』が、『じんち』にいるアリスに向かって銃口を向けた。

 

「しまっ……」

 

 おいおい…そりゃあねえだろ…!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 俺は、駆けつけてきた女の子と一緒にボタンの前に立った。

 ここで息を合わせなきゃ、全部ムダになっちまう…!

 いや、今は…

 

「いくわよ!!」

 

「ああ!!」

 

 ただ、ボタンを押す事だけを考えりゃあいい!!

 

「「せぇーーーーーのぉーーーーー!!」」

 

 俺と女の子は、同時にボタンを押した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

「やめ―」

 

 俺が咄嗟に男の『おに』から飛び降りて、女の『おに』に飛び移ろうとした、その時だった。

 

 

 

 ――ピピピピピピピピピピ…

 

 

 

「…?」

 

 二人の『おに』の首から、機械音が鳴る。

 そして、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 ――ボボンッ!!

 

 

 

 『おに』二人の首が、爆発した。

 男の『おに』はそのままマンションの外壁から落ち、女の『おに』は力無く倒れ込んだ。

 女の『おに』の血が、俺の顔や身体に飛び散った。

 俺は、男の『おに』が落ちていくのを尻目に、ポツリと呟いた。

 

「……汚ねえ花火だ」

 

 

 

 

 




展開を少しドラマ版に寄せました。
頭の切れる陸上経験者と身体能力バケモンショタをぶち込んで、オッサン二人に生存フラグ立たせたら、さすがに『おに』が可哀想に見えてきたので。
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