ヘイジside
「…今話した事が、オレがお前らに会う前日の話だ」
クリハラさんは、薄いコーヒーを飲み干しながら話した。
何となくわかった気がする。
クリハラさんが、俺やヒヅルを頼ってまで生にしがみつく理由が。
この人は、真剣に命に向き合ってきたからこそ、命を粗末にしない為にも必死にもがいているんだ。
クリハラさんの話を聞いて、今まで黙っていたヒヅルが口を開く。
「オレは…」
ヒヅルは、自分の過去と、ここに来てからの経緯を話し始めた。
◆◆◆
ヒヅルside
今まで、何の為に生きてるのかわからない人生だった。
だからもし、人生を一からリセットできるなら、二度目の人生は自分の為に生きるって決めたんだ。
「あたしね、大きくなったらヒーローになるんだ!そしたら悪い奴らからパパとママを守ってあげる!」
「ははっ、頼もしいな」
テレビで昔のアニメの再放送を見て、ヒーローに憧れた幼少時代だった。
お父さんが元格闘家だったから、小さい頃からお父さんに武道や格闘技を習ってきた。
空手や柔道、合気道、剣道、弓道、果てには軍隊格闘術まで、毎日色んな武道や格闘技を教えてもらった。
「もうそんな事までできるのか。すごいなヒヅルは」
「えへへ〜!」
私が新しい技を習得するたびに、お父さんは褒めてくれた。
私には、才能も、目標もあったから、毎日の稽古も全然苦痛じゃなかった。
「いいかいヒヅル。お前は、我が家の宝だ。お前が正しい限り、じぃじはお前の味方だからな。話したい事があったら、いつでもじぃじのところに来なさい」
「わかった!」
あの頃の私は、やりたいと思った事を何でもできた。
勉強も、喧嘩も、かけっこも、何でも1番だった。
どんなに頑張ってもできない事なんか、何もなかった。
お父さんも、お母さんも、爺ちゃんも、先生も、友達も、皆私の味方だった。
強くて、正しくて、そんな自分をカッコいいと思ってた。
自分が正しいんだって信じてたから、怖いものなんかなかった。
「お父さんが言ってたんだ…『お前は男のくせに弱っちいからいじめられるんだ』って。やっぱり、男が弱いのっていけない事なのかな」
「いーの!あたしがヒーローになって、タッくんの事守ってあげるから!」
「ありがとう…ヒヅルちゃんはぼくのヒーローだよ」
幼馴染みの男の子がいじめられてた時は、代わりにいじめっ子を追い払ってやった。
困ってる人を助ける為に戦う事って、すごくカッコいい事だと思ってた。
それが正しい事なんだって信じて生きてきた。
だけど、それが間違いだった。
ある日、またタッくんがいじめられてたから、助けようとした。
いじめっ子は、タッくんの大事なものをバカにして、ボロボロに壊して、よってたかってタッくんに暴力を振るった。
謝れって言ったのに、謝るどころかまたタッくんを殴ろうとしたから、私はタッくんを助ける為にいじめっ子と喧嘩をした。
いじめの主犯を一発殴っただけだったけど、打ちどころが悪くてソイツは意識が戻らず病院送りになった。
私は、自分がやった事が間違ってるとは思わなかった。
そりゃあ、人を傷つけるのは悪い事だけど、元はといえばアイツらがタッくんをいじめなきゃ何も起こらなかったわけだし。
「あたしは悪くないよ。いじめられてたタッくん助けて何が悪いの?」
そうだよ。
私は、何も間違ってない。
「何言ってんだ。お前、自分が何したかわかってんのか?」
は…?
「何言い訳してんのよ!!早く謝りなさいよ!!」
何で。
私は、タッくんを助ける為にやったのに。
何で私が悪者にされてるの?
「ヒヅルちゃん、ヒーローごっこはもう卒業しましょうね。じゃないといい大人になれないよ」
何で皆、そんな事言うんだよ。
昨日まで、私が正しいって言ってくれてたじゃん。
「ヒヅルちゃんなんかだいっきらい!」
おかしいよ。
タッくんを傷つけたのはアイツなのに。
私は、正しい事をしたのに。
お父さんも、お母さんも、先生も、友達も、みんなで、私を責めた。
誰も、私の味方にはなってくれなかった。
…私が助けようとした、タッくんさえも。
「ひ…ヒヅルちゃんが悪い…と、思う……」
うわ…お前もかよ。
私の事、『僕のヒーローだ』って言ってくれてたのに。
なのにそういう事言っちゃうんだ。
私は、好きだった男の子に拒絶されたのが悲しかった。
正しいと信じてきたものを全否定されたのが、悔しくてたまらなかった。
この一件が原因で、お父さんとお母さんは大喧嘩して離婚した。
お父さんは、お母さんに家を追い出された。
いきなり『パパかママどっちがいいか選べ』って言われて、何が何だかわからなかった。
爺ちゃんには、わかりやすいご機嫌取りをされて、『ママを選べ』って圧をかけられた。
「ヒヅルちゃんは、ママと一緒にいたいよね?」
本当は、お父さんと一緒にいたかった。
だけどそんな事言ったら、また悪者にされちゃうから。
嫌われて、否定されて、ゴミ箱にポイされちゃうから。
「わ、私は…ママと一緒がいい…」
生まれて初めて、嘘をついた。
お母さんと一緒になって、お父さんを家から追い出した。
これが、私のクソみたいな人生の始まりだった。
私はお母さんに引き取られて、お母さんは新しいお父さんを家に連れてきた。
お母さんとお継父さんは、私に『女の子らしくあること』を強要してきた。
お母さんは、事あるごとに離婚したお父さんの事を持ち出して、『あの人のようにはなるな』って口癖のように言ってきた。
私にお父さんの面影を見る度に、二人は私に罵声を浴びせてきた。
「前のパパの事なんて忘れなさい。ヒーローごっこなんてやめて、ヒヅルちゃんを守ってくれる男の人と結婚するの。それが女の幸せなの。ヒヅルちゃんは、パパとママの言う事を聞いていればいいの。そうすれば、ママがヒヅルちゃんを幸せにしてあげるから」
「…はい」
お母さんには、私の趣味に合わない服や化粧品ばかり押し付けられて、私の好きなものは全部禁止された。
お継父さんには、あらゆる学問や教養で完璧を求められて、やりたくもない習い事をさせられて、将来の結婚相手まで勝手に決められた。
「常に完璧でいろ。そうでなければ、お前が私の娘である意味がない」
「…わかりました」
いつもニコニコ笑って前を向いて。
ルールを守って、清く正しく堅実に生きて。
不平不満は一切言わずに、怒られたらただ謝って。
そうすれば、誰も怒らないし、幸せな毎日が保証されてた。
本当の事を言ったら、嫌われて、否定されて終わりだから、自分に嘘をついた。
私が自分に嘘をついている間は、誰も嫌な顔をしなかった。
私は、操り人形。
見えない糸で操られて、皆の理想の『お淑やかな女の子』を演じるの。
お継父さんも、お母さんも、友達も、舞台の上のお人形を可愛がるだけ。
悪者にされないように、自分を騙して、本当の自分を殺してきた。
他人にも、自分にすらも、とっくに興味なんか失くしてた。
「小鳥遊さんってマジ高嶺の花だよなぁ」
「美人で、お金持ちのお嬢様で、優しくて、お淑やかで、頭良くて、何やらせても学年トップ。欠点が無いよマジで」
「か、彼氏とかいんのかな…」
「いたとしたら、イケメンで頭も良くて完璧な男なんだろうなー」
自分で言うのも何だけど、学校では人気がある方だったと思う。
ドッヂボールで球を当てられた事なんかなかったし、何も言わなくてもクラスの男子に荷物を持ってもらえた。
私が『お人形』でいるうちは、みんなチヤホヤしてくれた。
だけどそんなの、どうでも良かった。
どんなに好かれようと、満たされる事はなかった。
人に尽くされるほど、本当の自分を否定された気がした。
どうせ皆、本当の私を知ったら離れていく。
『勉強ができる』『高嶺の花』『真面目』『優しい』…
皆からこう思われてるのは知ってる。
そういう女の子を演じるように、お父さんとお母さんに教えられてきたから。
人生なんか、あと70年は続く消化試合だ。
私はこれからきっと、お父さんが紹介した婚約者と結婚して、可愛い子供を産んで、それなりに幸せに生きていくんだと思う。
だけど、『安全』と『それなりの幸せ』と引き換えに付き纏うのは、底の知れない『退屈』と『絶望』だ。
私のわがままなんか何一つ許されないまま、死を待つだけの人生。
それならいっそ、今死んだ方がマシなんじゃないかと、死のうとした事は何度もあった。
「くっだらない」
みんな、嫌いだ。
お継父さんも、お母さんも、クラスのみんなも、先生も、自分の事も、全部、全部、嫌い。
…私って、何のために生きてるんだろう。
唯一、私の話を聞いてくれる人はいた。
お母さんが勝手に雇った家庭教師のオジサンだ。
親身になって私の話を聞いてくれたし、私の悩みに共感してくれたから、ほんの少しだけ気を許していた。
だけど、それが間違いだった。
その日は、部活の大会が近くて朝練があったから、朝の4時にはオジサンの車に乗せてもらって家を出発した。
いつもの練習場所に車で送ってもらうはずだったのに、どういうわけか、オジサンは練習場所とは違う方角に車を走らせた。
「あの…今どこに向かってるんですか?」
「ん?せっかくだから、気分転換にドライブでもどうかなって。朝練までまだちょっとだけ時間あるでしょ?」
「え?あ、はい…」
そう言ってオジサンは、人気のない場所へと車を走らせた。
だけどその時の私は、オジサンの行動を不審に思いつつも、何も言い出せなかった。
無人のパーキングに車を停めたオジサンは、意味のわからない事を言ってきた。
「ヒヅルちゃん、僕の事好きなんでしょ」
「…はい?」
「僕と話してると安心するってこの前言ってたじゃないか」
えっ…何コイツ、キモっ…
超怖いんですけど。
「そんなつもりじゃ…本当にやめてください。警察呼びますよ…!」
私は、抱きつこうとしてきたオジサンを押しのけて警察を呼ぼうとした。
だけど、オジサンがニヤニヤしながら話しかけてくる。
「おっと…キミ今、暴力振るおうとしなかった?」
「っ…!」
「キミは昔、いじめっ子に大怪我を負わせて、そのせいで両親が離婚しちゃったんだってね。可哀想に…誰も味方になってくれなかったんだね。ずっと真面目な良い子で通してきたヒヅルちゃんが人に怪我をさせたら、周りはどう思うかな?」
「………」
「あの時みたいに、『悪い子』にされたくないよね?」
この男、とんだ食わせ者だった。
私を強姦する為に、親身に話を聞くフリをして油断させて、弱みを握ろうとしていたんだ。
お母さんが雇った家庭教師だからって、気を許した私がバカだった。
オジサンは、車内で私を押し倒して服を剥いできた。
「うっは、低身長JCのくせに巨乳ぶら下げやがって」
「いや…っ!」
オジサンは、私の胸を揉みながら、頬に伝った冷や汗を嘗め取ってきた。
恐怖で、身体が竦んで動かなかった。
「ひぃっ!」
オジサンは、下卑た笑みを浮かべて息を荒くしながら、私のパンツの中に手を入れてきた。
あまりの悍ましい行為に、私は思わず目を背けた。
…ああ、私、このままこのオジサンに犯られちゃうんだ。
いっその事、舌噛み切って死んじゃおうかな。
ああでも、舌噛んだくらいじゃ死なないって前にネットで見たような気がする。
…こんな目に遭うんなら、さっさと死んでおけばよかった。
それかもう、今すぐにでも隕石でも降って、皆死んじまえ。
「怯えてる顔も可愛いよ。小鳥の囀りのような澄んだ声、漆のような黒髪、ルビーのような真紅の瞳、陶器のように白い肌…彫刻のように美しい顔、身体…君はどこまでも完璧だねぇ」
…あーあ。
本当に、くだらない人生だった。
否定されたくないからって、自分を殺してきた。
何をしても、満たされた事なんて一度もなかった。
何の為に、誰の為に生きてるのか、生きてるのか死んでるのかすらわからない人生だった。
本当に、バカだなぁ。
全部わかってたら、こんなくだらない生き方しなかったのに。
自分を殺してこんな目に遭うぐらいなら、もっと自分勝手に生きてみればよかった。
「あぁ〜…良い匂いだ。甘くて瑞々しい…肌触りも滑らかだ…好きだよ、ヒヅルちゃん。僕の可愛い天使…」
オジサンが、私の脚を無理矢理開かせて、股に顔を埋めてくる。
抵抗も虚しく、パンツを脱がされた。
もう全てを諦めた私は、窓の外をぼんやりと眺めた。
あ、花火…
綺麗だなぁ。
大きな花火が弾けた瞬間、私の意識は白い光に包まれて消えた。
「………ぇほっ、ゲホッ、ゲホッ…!!」
目が覚めると、埃まみれの車内にいた。
私を襲おうとしていたオジサンは、いつの間にかいなくなっていた。
とりあえず、オジサンに乱された服と髪を整えて、車内を見渡した。
埃まみれだけど、確かに私がさっきまでオジサンと一緒にいた車と同じ内装だった。
何だか異臭が漂ってきたので、近くに置いてあったビニール袋を恐る恐る開けると、中に入っていた食べ物が全部あり得ないくらい腐っていた。
「くっさ!」
異臭に我慢できなくなって車の外に出てみると、街から人が消えていて、東京とは思えないほど草木が生い茂っていた。
この異常な事態を、どういうわけか私は自然と受け入れていた。
未知への期待、高揚、挑戦心。
この世界でなら、ずっと満たされなかったものが満たされる気がした。
「ん…?あのビル、さっきまで明かりついてなかったよね?」
これからの事を漠然と考えていたら、いつの間にか高層ビルに明かりがついているのを見つけた。
興味本位で行ってみる事にした。
◇◇◇
「あら、人いんじゃん。しかも大勢」
私が会場に入ると、私の他に30人くらいいた。
なんかカタギじゃなさそうな人もいた。
壁には、紙が貼られていた。
ーーー
エントリー数 無制限
制限時間 1時間
賞品 サバイバルナイフ
エントリー受付 18時マデ
ーーー
……何これ。
何かの募集?
にしてはシンプルすぎない?
なんて思っていると、他の人が見てくる。
「おっ、すげぇ可愛い子来た」
「ホントだ。モデルか何かかな」
「けっこう好みかも」
何か、話す声が聴こえてきた。
もしかして、私の事言ってる…?
「あの、何ですかこれ?」
私が尋ねると、どよめきが起こる。
「えっ…おい、嘘だろ…?お嬢ちゃん…まさか、初参加者か?」
「はい?」
「チッ…よりにもよって初参加者…それもガキかよ」
「マジ勘弁。足引っ張るのだけはやめてよね」
私がきょとんとしていると、他の人がうんざりした表情を浮かべる。
…うわ、完全に邪魔者扱いじゃん。
気分悪っ。
「うわ…もしかして私、場違い?じゃあ、出て行く」
「出られねぇよ!」
私が出て行こうとすると、男の人が呼び止めた。
「お前はもう、『げぇむ』に参加しちまったんだよ」
は?
ゲーム?
まさかこのメンツで何かのゲームやるわけ?
他の人の反応を見るに、テレビの撮影とかじゃなくて、ガチのやつだって事はすぐにわかった。
毒親に隠れて漫画とかゲームとかやってたおかげで、異様な状況にもすんなり適応できた。
まさかオタク趣味に救われる時が来るとは思ってもみなかったけど。
そう思った、その直後だった。
《6時になりました。『げぇむ』の時間です》
どこからか、アナウンスが鳴る。
私が周囲を確認していると、エレベーターが開く。
《まずはエレベーターで最上階までお越しください》
他の人がエレベーターに乗ったので、私も乗った。
私達を乗せたエレベーターは、屋上に到着した。
目算で、地上から100mくらいある。
落ちたらどうなるかは…考えるまでもなかった。
《それでは、『げぇむ』の時間です。難易度…『
「おいおい、マジかよ…」
「あーあ、あの嬢ちゃん死んだな」
難易度が発表されると、他の参加者達がざわつく。
中には、参加者の中では一番若くて、しかも初参加の私をバカにする奴もいた。
「スペードの10?どーいう意味?」
「えっと…『
「ふーん」
私が適当に気の弱そうな参加者をつかまえて声をかけると、参加者が説明した。
私が何となくぼんやりと会場を眺めていると、警官っぽい人が話しかけてくる。
「『
私は警官っぽい人の言葉をなんとなく聞き流しながら、画面を見た。
すると画面が切り替わった。
《皆様に参加していただく『げぇむ』は…『ですまっち』》
「『ですまっち』?」
《『るうる』の説明です。これから皆様には、この会場内で、生存者が一人になるまで殺し合いをしていただきます》
「!?」
《反則、ナシ。手段は一切問いません。制限時間内に他の参加者を全員殺し、ただ一人生き残った参加者のみが『げぇむくりあ』。制限時間経過後に二人以上生存者がいた場合は、『げぇむおおばぁ』。会場周辺には高感度の地雷が多数設置されているので、会場からはみだりに出ないようにご注意ください》
『るうる』の説明がされると、どよめきが起こる。
あー…これ、殺し合いとか、人が死ぬとか、ガチのやつか。
いや、世紀末かよ。
この世界、法が機能してないにも程があるだろ。
これ、アレか?
いわゆる『デスゲーム』ってやつ?
《それでは『げぇむ』を開始します。『げぇむすたあと』》
『げぇむ』が始まると、参加者の一人が尻尾巻いて逃げた。
「ひっ…ひいっ…!いやだ、死にたくない!」
一人の参加者が逃げ始め、それに続けて他の参加者も逃げようとすると、最初に逃げた参加者が背後から撃たれた。
逃げた参加者は、そのまま血を流して倒れて、二度と動かなくなった。
あっ、死んだ。
撃たれたのが私じゃなくて良かった。
「た、頼む…許してくれ…私には、帰りを待ってる家族がいるんだ…!」
振り向くと、さっき私に話しかけてきた警官がガタガタ震えながら銃を構えていた。
警官が発砲すると、参加者が悲鳴を上げながら逃げる。
警官は、自分の立場も忘れて他の参加者を撃ち殺した。
目の前で人が死んだ。
人の死を目の当たりにしても、私は自分でも驚くほどに冷静だった。
殺された人に対しても、『可哀想』とか、『ひどい』とかは全く思わなかった。
「ヒャハハハハ!!」
マシンガンを持った参加者が、マシンガンをぶっ放ってきた。
他の参加者が、血飛沫を上げながらどんどん死んでいく。
私は、無数に飛び交う銃弾を避けながら、高層ビルの柵の外に逃げた。
すると案の定と言うべきか、他の参加者が私を殺そうと追いかけてきた。
「おいおい待てよ、逃げるんじゃねえよお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃん足速いねぇ。でも銃持ってるオレらからは逃げ切れねぇよ?」
「パンツ見せてくれよ〜!」
他の参加者から逃げながら、私はふと思った。
この『げぇむ』で、私が生き残る理由は何だろうか。
私には、大切なものも、大切な人も、帰るべき場所もない。
何の為に生きているのかわからない、死んだように生きる毎日だった。
だったら、別にここで足を止めたっていいじゃないか。
このまま一歩踏み出して、ビルから飛び降りたっていい。
私よりも生き残る価値がある人の方が多いんじゃないだろうか。
なのにどうして、逃げ回る?
何の為に?
誰の為に?
「………あ」
なんだ。
私ってやっぱり、バカだな。
何で今まで忘れてたんだろう。
この世界に来る前、私は誓った。
今度こそ、自分の為に生きるんだって。
何の為でもない。
誰の為でもない。
自分の為に生きなきゃ、何の意味もなかったんだ。
だって、私のたった一つのこの命は、他の誰でもない、私だけのものだから。
「…ははっ」
私は、思わず乾いた笑みをこぼした。
その直後、前からも他の参加者が現れて、私は前にも後ろにも逃げられなくなった。
圧倒的に不利な状況なのに、高揚が止まらなかった。
私は、その場で通学鞄を下に置いて、制服のベストを脱いだ。
下卑た野次が聴こえてくる。
わざわざ隙を見せてやってるんだから今のうちに殺せば良いのにバカだな、と思った。
「…一応忠告しとく。先に手を出したのはそっちだから」
そう言って私は、下品な視線を向けてくるバカに向かって姿勢を低くして走り出した。
バカはバカみたいに拳銃で撃ってくるけど、気にせず距離を詰めた。
銃を持ってるからって、調子に乗りすぎ。
映画じゃないんだから、素人の腕で当たるわけないでしょ。
てか、素朴な疑問なんだけど、
どっちなんだろう。
私はまず、バカの顎を蹴り上げて、脳震盪を起こしたところを、思いっきり突き飛ばしてビルの屋上から突き落とした。
しばらくして、はるか下で地雷の爆発音が響く。
…あれ?
おかしいな。
人を殺したのに、全く心が傷まない。
まあ、私を殺そうとしてきたクズだから当然か。
「は、はは…」
人を殺すのなんて初めてのはずなのに、人を傷つけるのがあれだけ怖かったはずなのに、こんな状況に置かれても全く怖くない。
今まで生きてるのか死んでるのかわからない生き方をしてきた私だからこそ、人と人が殺し合う狂った『げぇむ』にすぐに適応できたんだろうか。
目に映るものが、スローモーションみたいに限りなくゆっくり動いているように見える。
身体のどこをどう動かせば、相手のどこをどう攻撃すれば有効打を与えられるのか、手に取るようにわかる。
答え合わせをするように身体を動かせば、結果が勝手についてくる。
人を殺す事に対する恐怖とか罪悪感なんてものは無かった。
この世界は、本当の私を否定しない。
私が私らしくいられる場所。
「な、なんだこのガキ…!」
「こっちは銃持ってんだから、普通怯むだろ!?」
何かバカが騒いでるけど、知った事か。
言ったじゃん、先に手を出したのはそっちだって。
「く、来るんじゃねえ!このバケモンが!」
バカその2は、バカみたいに銃を撃ってきた。
少しは学習しろよ。
私は、今度は上に跳んで回避すると、そのままバカその2に飛びついた。
さっき脱いだ制服のベストを、バカその2の首に素早く巻きつける。
そして思いっきり力を入れて絞めると、バカの頸椎がボキッと音を立てて折れた。
また性懲りもなく撃ってきた奴がいたので、今度はバカその2の死体を盾にして、ソイツの銃が弾切れになったのを確認してから、あと半歩ズレれば落ちるギリギリのところに立った。
すると案の定バカその3は私を突き落とそうと突っ込んできたから、私はお父さんに習った技でソイツの身体を受け流して、そのまま屋上から突き落とした。
「あはっ♪」
身体が熱い。
自分でも、顔が熱くなって、息が荒くなっているのがわかる。
背筋が、ゾクゾクして堪らない。
お腹の奥が、キュンって疼くの。
興奮するあまり、じわっとパンツを濡らした。
身体が軽い。
考えた事、やりたいって思った事、全部思い通りになっちゃうの。
この世界でなら私は、何だってできる。
こんなの知っちゃったら、もう『普通』になんか戻れない。
元の安全で退屈な生活なんかいらない。
「ほらどうした?せっかくの『げぇむ』なんだから、楽しもうよ」
「うわああああああっ!!」
私を殺す為に柵の外側に来た奴等は、完全に戦意を失って逃げた。
今更逃げたって、もう遅いよ。
私は、通学鞄を振り回して、逃げるバカの側頭部を思いっきり殴った。
バカは、よろけてそのままビルから落ちた。
人数減らすには、ここから突き落とせばいいだけだから楽でいいね。
私はそのまま、何人かを屋上から突き落としたり、両脚で首を挟んでへし折ったり、制服のベストで首を絞めたりして殺した。
あと一人は、完全に怯え切った目で私を見てきた。
「ひ、ひぃ!頼む、許してくれ!いやだ、死にたくない!」
私を殺そうとしてきたバカは、みっともなく命乞いをしてきた。
そっちが先に仕掛けてきたくせに、何を言ってるんだコイツは。
「人殺しっていうのはさ、自分も殺される覚悟でやるんだよ。私の事を殺そうとした奴の命乞いになんか、耳を貸すわけないじゃん」
そう言って私がバカを屋上から突き落とそうとした、その時だった。
嫌な気配を感じて、私は咄嗟にバカの首を掴んで盾にした。
その直後、盾にしたバカの身体が撃ち抜かれる。
見ると、さっきの警官が銃を構えていた。
「許してくれ…殺らなきゃ死んじまうんだよ!」
「そんな事よりさ、後ろ気をつけたら?」
「え……?」
私が言った、その直後だった。
突然、ザクッと背後から警官の首にナイフが突き立てられる。
「え……あ………」
首にナイフを刺された警官は、その場で倒れ込んだ。
警官がいた場所には、黒い服を着てマフラーで口元を隠したオッサンが立っていた。
オッサンの手には血のついたナイフが握られていて、服には大量の返り血が付いている。
…というか、この季節に長袖マフラーって暑くないのかな。
「最後は貴様との一騎討ちか」
「………」
私は、柵を飛び越えて、柵の内側に戻った。
どうやら、生存者は私とオッサンの二人だけのようだ。
私は、ナイフ対策に右腕に制服のベストを巻いて、オッサンに向かって走り出した。
オッサンがナイフを構えると、私はオッサンの隙をついて背後を取って、そのまま首に飛びつこうとした。
だけどその直後、お腹に重い一撃が飛んできて、私は軽く数メートルくらい吹っ飛ばされた。
後ろに置いてあった植木鉢に激突して、植木鉢ごと倒れる。
「ガハッ…!ゲホッ」
いってぇ…!!
何だ今の…
何が起こった…?
「違う……訓練して身につけたような動きではなかった。だとすると即興か」
「あ……?」
「オレの意識の死角に入り込もうとする…そういう動きだった。即興で使えたのは大したものだが、同じ技を使える者が相手であれば何の事はない」
私がお腹を押さえながら立ち上がる間にも、オッサンは私を指差しながら喋りかけてくる。
「小娘よ。貴様の戦闘センスは、オレが今まで出会った参加者の中でも群を抜いている。あと10年もあれば、オレを越えられていただろう。尚更不憫でならない。それだけの才能を持った若い芽を、ここで摘まなければならないのだからな」
「う…ぅ……」
「痛い思いをしたくなければ、10秒以内に降参しろ。そうすれば、苦しめずに殺してやる。先に言っておくが、もしここで貴様が降参しなければ、その選択を後悔する事になるぞ。オレは、人を出来るだけ永く苦しめる方法を心得ている。貴様が自ら殺してくれと懇願するまでいたぶり尽くしてやる」
そう言ってオッサンは、調子に乗ってカッコつけた。
隙だらけだったので、思いっきり顔面を蹴ってついでに、アルトリコーダーで脳天を殴りつけた。
「うるせー何言ってんのかわかんねーよバーーーカ。死ね」
私がオッサンを挑発すると、オッサンは額に青筋を浮かせて睨んでくる。
うわ、ノーダメかよ。
きっつ。
私は、オッサンのナイフを避けながら攻撃を仕掛けた。
オッサンの脳天目掛けて、頭蓋骨を陥没させるつもりで蹴りを放った。
オッサンは、俺の蹴りを腕でガードして、そのままナイフで切りつけようとしてきた。
私は蹴りを放った左脚を軸に空中で回転して、そのまま右の踵落としを放つ。
オッサンは、私の二段構えの攻撃をいとも簡単に防御すると、私にナイフを振るってきた。
私は、飛び退いてナイフを避けた。
「やるな」
「うっせぇ、大人しく蹴られろハゲ」
私は、躊躇わずにオッサンに攻撃を仕掛けた。
そうじゃなきゃ殺られるから。
だけど悲しいかな、オッサン相手だと、リーチ、パワー、経験値、全てが劣っていた。
おまけにこっちは素手で、向こうは凶器を持ってる。
私は、何とかオッサンの攻撃を避けたけど、ナイフが掠って服が切り裂かれる。
幸い後ろに退いたおかげで身体を斬られずには済んだけど、シャツとブラが裂けた。
その直後、オッサンは、私の身体を掴んで何度もお腹に膝を叩き込んで投げ飛ばした。
私は、思いっきり柵に背中を叩きつけられた。
「ガハッ、ゲホッ…!」
私は、お腹を押さえながら何とか立ち上がる。
気分は最悪だし、口からは血がポタポタと垂れた。
つーかこのオッサン、何でさっきからお腹ばっかり蹴ってくるの?
私が柵を掴んで立ち上がったその時、オッサンがナイフを振りかぶってくる。
うわ…やば。
これ、死ぬかも。
「あ゛ぁっ…!!」
私は、咄嗟に右腕を前に出してナイフを防ぐと、そのままオッサンの右腕ごとナイフを蹴り飛ばした。
オッサンは、一瞬ナイフの方に気を取られたもんだから、その隙に一発殴った。
あー、チクショウ。
クソ痛え。
利き手じゃなかったからまだ良かったけど、出血がまずいな。
確か出血量が全血液量の20%超えるとやばいんだっけ。
何かどっかで読んだ事あるような気がする。
さっさと決着つけたいな。
私がオッサンの頭を鈍器で殴って撲殺しようとすると、オッサンは私の顔面を殴りつけてきた。
そこからは、私がオッサンを攻撃する前に、オッサンにコテンパンにやられた。
一撃一撃が、意識が飛びそうなほど重かった。
このオッサン、クソ強え…!
「カハッ…!」
私を散々痛めつけたオッサンは、私の首を絞めてきた。
馬乗りになられて、首を絞められて頭が朦朧とする。
「選べ。このまま首を折られるか、屋上から突き落とされるか」
そう言ってオッサンは、私の首を片手で掴んで持ち上げてくる。
あーあ、私、このまま死んじゃうのかな。
首を折られるのも、屋上から落ちるのも、どっちも嫌だなぁ。
…あ、そういえば。
「がっ……オッサン…三つ目の選択肢忘れてるよ。私がアンタを殺して生き残る」
私は、スカートのポケットから鋭い破片を取り出して、それを思いっきりオッサンの腕に突き刺した。
「ぐ……!」
オッサンが痛みに顔を歪めて首を掴む手を緩めると、私はそのままオッサンに飛びついて、ポケットの中にもう一つ入っていた破片を思いっきりオッサンの首に突き刺した。
さっきオッサンに蹴飛ばされた時、一応割れた植木鉢の破片を回収しておいたのが、今ここで役に立った。
だけどその直後、オッサンが思いっきり私の頭目掛けて蹴りを放ってきた。
「ぁぐっ…!!」
頭を蹴られた私は、そのまま吹っ飛ばされて倒れた。
ギリギリ身体を後ろに退いてたおかげで頭へのダメージは最小限で済んだけど、直撃喰らってたら絶対お陀仏だったよ。
つーか首刺されたんだから大人しく死んどけよ、マジで。
「人殺しは悪い事だって知らんのか……貴様はもう、戻れないところまで堕ちた。オレと同類だ。いずれ地獄に堕ちる」
地獄……か。
是非とも行ってみたいもんだね。
そこに、70年の消化試合を続ける以上の絶望があるなら。
「本望」
人殺しが悪い事だって事くらい、知ってるし。
けど…だから何だってのよ。
私は今、すっごく幸せ。
「……小娘。貴様、名前は」
「ヒヅル。小鳥遊火鶴」
「『今際の国』は、楽しいか?」
楽しいか…か。
私は、こんなにも自分らしく生きられる世界に来た事がなかった。
この世界こそが、私の本当の居場所。
「最っ高」
「…充分だ」
私とオッサンは、向き合って互いに笑うと、互いに全力で殺し合った。
オッサンに殺されそうになる度に、脳内麻薬がドバドバ溢れて、全身に気持ちいいのが電撃みたいにビビッと走った。
スカートが捲れてパンツが見えそうになったから、咄嗟にスカートを押さえた。
「……何故隠す」
「見られるのが恥ずかしいの」
だって、殺し合いで興奮して濡れてるのがバレたら、はしたないって思われちゃうから。
せっかく『いい子』のキャラで通してきたのに、イメージが壊れちゃうから。
こんなの知られちゃったら、もう人じゃいられなくなっちゃうから。
「ククク、安心しろ。オレも、貴様と同じだ」
そう言って笑うオッサンの身体の一部は、痛々しいくらいに元気になってた。
普通なら、女子中学生相手におっ勃ててる変質者だと思うかもしれない。
だけどそれを見て、私は何だか嬉しくなった。
「死ぬまで、オレと踊ろう」
「もちろん」
…ああ、やっぱり私は、この人と同類なんだ。
死の恐怖と絶望に満ちたこの世界が、楽しくて仕方ない。
私は、制限時間ギリギリまで、オッサンと楽しい時間を過ごした。
若干私に不利な勝負だったけど、勝ったのは私だった。
私は、気配を消してオッサンの頭を思いっきり消火器で殴りつけた。
オッサンは、地面に倒れてしばらくビクビク痙攣してたから、消火器で頭を潰してトドメを刺した。
…ハハ、やった。
勝った。
私、生きてる。
これで、生き残ったのは私一人だ。
「はぁ…はぁ…はは…やった……」
私は、屋上に仰向けに倒れ込んで、夜空を見上げた。
あまりにも気持ち良すぎて、全身から力が抜けた。
しばらく快楽の余韻に浸っていると、アナウンスが鳴った。
《『こんぐらちゅれいしょん』。『げぇむくりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》
屋上に置いてあったレジからは、♠︎の10のトランプと、私の『びざ』が発行された。
『げぇむ』を『くりあ』したのはいいけど、全身が痛い。
『げぇむ』中は気持ちよすぎて痛みをほとんど感じなかったけど、脳内麻薬が切れてきたせいか、身体の熱が冷めていくと同時に痛みが増してきた。
ビルのどっかに病院とか入ってねーのかな。
つか、あったとしても自分で手当てしなきゃいけないわけ?
きっつ。
◇◇◇
私は、何とか高層ビルの下の階に降りて、クリニックから薬品とか医療器具とかを拝借して、本で読んだ知識を総動員して自分で応急処置をした。
右腕の切り傷を自分で縫合した時はクッソ痛かったけど、初めての割には案外自分で何とかなったと思う。
さらに下の階に降りると、『賞品はこちら』と書かれた張り紙が貼られた隠し部屋があって、そこにはベルトが一本置いてあった。
ベルトには、高級そうなナイフが付いていた。
デザインが凝ってるし、刃の模様が綺麗。
見たとこダマスカス鋼かな…?
本物のダマスカス鋼は、再現不可能なロストテクノロジーのはずだけど、こんなわけのわからない国なら、これが本物でも全然不思議じゃない。
あまりにも綺麗で、つい見惚れて、無意識のうちに刃の部分を指で撫でていた。
「っ……」
気がつくと、ポタ、と血が床に垂れていた。
ナイフを撫でた指先がプツッと切れて、血が滲み出ていた。
刃先を少し触っただけなのに、すごい切れ味。
私は、ナイフで切れた指先を口に咥えて、滲んだ血を舐め取った。
「…へぇ、いいじゃん」
私は、賞品が置かれた部屋からナイフを持ち出した。
あとは服だな。
あのオッサンのせいで今半裸だし。
私は、ビルの中にあった店から動きやすそうな服を拝借して、それっぽい感じで着てみた。
「うん、何かちょっとだけ強くなった気がする」
私は、鏡に映った自分の姿をまじまじと眺める。
動きやすいように胸はサラシで潰して、タンクトップとカーゴパンツの上に半袖のパーカーを着ている。
ふと、両耳の後ろで結んだ髪の束が目に留まる。
…髪、長くて邪魔くさいな。
私は、早速手に入れたナイフで髪をバッサリ切った。
「よしっ」
髪を切って、帽子を被って、私は『げぇむ』会場を後にした。
…今更だけど、『わたし』って三文字で言いづらいな。
そうだ、これからは『オレ』って言おう。
この世界では、
さよなら、今までの私。
おかえり、本当の俺。
「面白いじゃん。どこまでオレの力が通用するか、試してみたくなった」
『げぇむ』を『くりあ』した俺は、この世界の事をもっとよく知る為に旅に出た。
途中で
どうやら俺は、死ぬまでこの国で『げぇむ』をし続けるしかないらしい。
それはOK受け入れた☆
問題は、この世界で俺がどう生きるかだ。
俺は、人を殺して『げぇむ』を『くりあ』した。
そしてこれからも、きっとそうやって生き延びていく。
我ながら、なかなかにクズだと思う。
だけど俺は、そんな俺が好きだ。
もし人生をリセットできるなら、今度こそ自分の為に生きるって決めた。
たとえ世界中の人間から嫌われたって構わない。
◆◆◆
ヘイジside
「その後は、アンタらと同じだよ。『びざ』の事聞いて、『げぇむ』に参加して、ここまで生き残ってきた」
「ヒヅル…」
ヒヅルは、ナイフをハンカチで拭きながら話した。
初日から、殺し合いの『げぇむ』に参加させられた…だからヒヅルには、この世界で人を犠牲にして生きていく覚悟があるのか。
「おまっ…ド変態じゃねぇかよ…」
「アンタが言うな」
クリハラさんがドン引きすると、ヒヅルが真顔で言う。
ヒヅルのやった事を最低だと思う奴はいるだろうし、実際コイツは自分をクズだと言っていたけど、俺はそうは思わない。
一人しか生き残れない『るうる』なら、ヒヅルの行動はむしろ自然な事だ。
こんな狂った世界で正当性を求める方が間違ってる…と思う。
だけど話を聞いていて、ひとつ気になった事があった。
ヒヅルは、この世界で生きたいように生きると言っていたけど、俺には、それが本当にコイツのやりたかった事だとは思えなかった。
本当にこの世界で自分勝手に生きる事を望んでいたなら、『おにごっこ』の時、あんなに暗くて冷たい目をしなかったはずだ。
ヒヅルが本当に欲しかったものは、自由でも共感でもなくて―
「もう寝る」
ヒヅルは、いきなりその場でごろんと横になった。
するとクリハラさんが声をかける。
「えっ、もう?」
「なんか眠いんだよね。睡眠足りないと動けないし。じゃ、おやすみ」
そう言ってヒヅルは、寝返りを打って目を閉じる。
「ちょいちょいちょいちょい!!」
「……何」
俺が慌ててヒヅルを起こすと、ヒヅルは眠そうに目をこすりながら起きる。
寝るの早いなコイツ!?
「いやお前女子だろ!?隣の部屋のベッドで寝てこいよ!というかそうしてくれ、色々ヤバいから!」
「…昨日は同じ部屋で寝てたじゃん。変な奴」
俺は、半ば強引にヒヅルを隣の病室に移動させた。
流石に男二人に混じって女子中学生が添い寝するのは色々とまずすぎる!
俺とクリハラさんは、同じ病室で眠った。
荒廃した世界の中でも使える薬はまだあるのか、病室からは薬の匂いがする。
ふと窓の外を見ると、今日もまたレーザーが空から降り注いでいた。
俺は、無数に降り注ぐ赤い光をぼんやりと眺めながら、ゆっくりと眠りについた。
・23歳男性
・都心の国立大学の大学院2年生
・黒髪の短髪に戦闘服。今際の国に来てからは無精髭を生やしている。
・身長177cmくらい
・性格は真面目でお人好し
・『くりあ』した『げぇむ』は『♡3』、『♠︎4』、『♠︎5』。
本作の主人公。
元の世界では、真面目な優等生でありながらも、努力が報われず、親友と恋人にも裏切られて虚しい人生を送っていた。
理系学生でプログラマー志望で、ICPCへの出場経験もある。
公園でヤケ酒をして寝ぼけていた時に花火を見て、そのまま今際の国に迷い込んだ。
中学と高校では陸上部に所属していた。
地元に歳の離れた妹がいる。
名前の由来はハリネズミの英名の『hedgehog』から。
・13歳女性
・中学2年生
・ショートの黒髪に戦闘服。色々入っているリュックとスケボーを常備。
今際の国に来たばかりの時は、ツインテールに学校の制服といった格好だった。
・身長は150cmくらい
・性格はつかみにくい
・『くりあ』した『げぇむ』は『♠︎10』、『♠︎4』、『♢5』、『♠︎5』、その他多数。
『♠︎4』を『くりあ』した少女。
まだ中学生でありながら毎日『げぇむ』に参加しており、『げぇむ』に慣れている。
その経験からか、人の死に対して全く抵抗が無い。
幼少期から格闘技を嗜んでおり、運動神経抜群。頭もそこそこ切れる。
冷徹で打算的な印象を受けるが、意外にも義理堅い一面を持つ。
若干天然が入っている。
一見男性に見えるが、実は女性。
ただし、本人曰く『性別を偽っているつもりはない』との事。
『今際の国』に来る前は、過去のトラウマから人を傷つける事に恐怖心を抱いていたが、『ですまっち』に参加した事でトラウマを克服し、他の参加者を皆殺しにしてただ一人生き残った。
得意ジャンルは『♠︎』。
名前の由来はフラミンゴの当て字。
・39歳男性
・闇医者。東大医学部を首席で卒業し、数々の高難度手術を成功させた元天才外科医。
・天然パーマの短髪に白衣。レンズの割れた眼鏡をかけている。
・身長は171cmくらい
・性格は、普段は飄々としているが意外とヘタレ
・『くりあ』した『げぇむ』は『♢9』、『♠︎A』、『♠︎4』。
『♠︎4』を『くりあ』した男。
体力に自信がある方ではないが、傷を治す事を交換条件にヒヅルに助けてもらい、『げぇむ』を『くりあ』した。
医師免許を持たない闇医者だが、腕は確か。
良くも悪くも俗っぽいが心根は優しく、人を助ける為に医者をしていた善良な人物。
頭脳明晰で、囲碁や将棋といったボードゲームもお手のもの。
本人曰く得意ジャンルは『♢』。
元々喫煙者だったが、今際の国に来てから禁煙している。
名前の由来はグリフォン。