ヘイジ達の介入によって、アリス達4人は原作ほど険悪になってはいません。
ちょうどドラマ版くらいの感じです。
そうなるとその後の展開が余計にキツく…
とんでもないミスを見つけたので、大幅に編集しました。
ヘイジside
滞在六日目。
俺は、この日はやけに早く目が覚めて、外の空気を吸いに行こうとした。
すると、カルベが声をかけてくる。
「よぉ」
「カルベ。怪我はもう大丈夫なのか?」
「ああ。お陰様でな」
カルベは、クリハラさんが寝ている病室に目を向ける。
クリハラさんは、まだベッドの上でいびきをかいて寝ている。
…あの人、いびきがうるさいわ寝相が悪いわで、もう大変だった。
二度と一緒に寝たくない。
今日やたらと早く目が覚めたのも、そのせいかもしれない。
「何だったんだろうな。『主人公としての選択』ってのは」
「え?」
カルベは、唐突に言った。
いきなり何の話だ?
「昨日チシヤが言ってた事だよ。アイツは、元の世界に帰る方法を知ってんのかもな」
「うーん…」
元の世界に帰る方法、か…
そんなに簡単にいくものなのか?
…でも、このまま何もしないままではいたくない。
元の世界に帰れずに死んだニーナの為にも、その可能性が少しでもあるなら探したい。
「そういえば、タクシーの無線の周波数がどうのって言ってたな」
「ああ、ここが未来の世界だか何だか知らねーが、食いもんの腐敗から見ても、オレ達のいた時代が止まって1年か…半年…」
「まだバッテリーが生きてる車があるかも知れない…!」
「っしゃ、そうと決まれば片っ端から探すぞ!」
俺とカルベは、片っ端からバッテリーが生きている車を探し始めた。
やっと見つけた手がかりなんだ。
ここで諦めるわけにはいかない…!
◆◆◆
ヒヅルside
「〜♪〜♫」
今日はいい事があった。
ちょっと朝から遠出したら、野鳥がビルの軒下に巣を作ってるのを見つけた。
もしかしてって思って巣を覗いてみたら、案の定卵があった。
嬉しくなって、つい奪ってきちゃった。
え…鳥獣保護法…?
そんなものあるわけないでしょ、この国に。
採ってきたのは俺だし、本当は全部一人で食べたかったけど、よく考えたら『
…いつ『げぇむ』で死んじゃうかもわかんないし。
俺は今、クリハラさんと一緒に料理をしている。
米も調味料もまだ食えるもの多いし、案外何とかなるもんだね。
俺は、外で採ってきた野菜を包丁で刻んだ。
スーパーとかで売ってるような野菜はとっくに腐ってるけど、野生の野菜は探せば意外と生えてたりするものだ。
これで畑とか作れれば、生の食糧増やせるんだけどな。
そう考えていると、クリハラさんが話しかけてくる。
「ヒヅルちゃん、今日はやけにご機嫌だね」
「だって、缶詰じゃない卵なんて、この世界に来てから初めて食べるし」
「オレも」
「親鳥もいたら文字通りの親子丼にできたのに」
「……キミ、もしかして道徳倫理を元の世界に置いてきた?」
失礼だな。
俺にだって一応思いやりくらいあるよ。
そうじゃなかったら、アンタの事助けてなかったし。
「ヒヅルちゃんさ、元の世界でも自炊してたのか?」
「…別に毎日やってたわけじゃないけど…『家事できない女なんてあり得ない』って新しいお父さんに言われて、無理矢理やらされた」
「時代錯誤もいいとこだなそれ」
「でも、こうやって今役に立ってるから、別にお父さんとお母さんの事…恨んではいない」
俺は、思ってる事をクリハラさんに打ち明けた。
新しいお父さんとお母さんは、やたらと俺に『女の子らしくある事』を強要してきた。
お母さんには、好きじゃないデザインの服ばっかり着せられて、大人しくして個性を出さない事を求められた。
お継父さんには、やりたくない習い事をやらされて、学問も、教養も、常に完璧である事を求められた。
友達と一緒に遊ぶ事なんて、一度も許されなかった。
死線を乗り越えて冷静になった今なら、お継父さんとお母さんの気持ちがわかる。
お継父さんも、お母さんも、きっと怖かったんだ。
この世界に来て初めてわかった事だけど、俺は、ちょっとしたきっかけを与えられれば簡単に人を殺せるくらいには狂ってる。
きっとそれは、この世界に来て初めて湧いて出たものじゃなくて、元の世界にいた頃から持っていたもので、二人とも薄々気づいてたんだ。
元々抱えてた凶暴性と、本当のお父さんから受け継いだ才能が強く結びついて、誰にも制御できなくなる事を恐れた。
だから俺をお淑やかな女の子に育てて、俺の本質から目を背けたかった…んだと思う。
それなら、俺がこの国に来た途端に人を殴る事への恐怖心が消えた理由もわかる。
俺が人を傷つけるのを恐れてたのは、俺じゃなくて、新しいお父さんとお母さんだったんだ。
好きだった男の子に嫌われたショックが拍車をかけて、いつの間にか、二人が抱えていた感情を、自分自身の感情だと思い込んでしまっていた。
別に、お継父さんとお母さんの事は恨んでない。
そりゃあ、クソみたいな人生だったし、許せないと思う事はある。
だけど、あのクソみたいな人生が無ければ、俺はきっとこの国で生きられなかったと思うから。
ここでの人生は、元の世界での人生よりずっと幸せ。
それだけで俺は、今日も生きていける。
「よし、できた。他の皆呼んできてくれるか?」
「わかった」
クリハラさんが言うと、俺は他のメンバーを呼びに行った。
病院には、アリスとカルベ、それからヘイジの姿がなかった。
…アイツら、何してんだろ。
せっかくごはん作ったのに。
「チョーター。シブキー。ごはん…」
俺は、まずチョータとシブキから探した。
チョータは足怪我してるし、寝床からは動いてないでしょ。
なんて考えながら病院内を探していると、声が聴こえてきて、人影が見えた。
部屋の一番奥のベッドの近くには、チョータとシブキの服が散らばっていて、カーテンに二人のシルエットが映った。
「………は?」
えっ…
アイツら何やってんの。
意味わかんないし。
何でこんな事になってんの、ねえ。
…ホンット意味わかんないし。
◆◆◆
クリハラside
「…うん、意外とイケるもんだな」
俺は、ヒヅルちゃんが作った飯を味見しながら呟く。
野生の野菜なんてえぐくて食えたもんじゃないと思ってたが、ちゃんと調理すれば案外何とかなるもんだな。
しばらくして、ヒヅルちゃんが戻ってくる。
「おー早かったな。どうした?」
ヒヅルちゃんは、両手で帽子を掴んで何かをブツブツ言いながら戻ってきた。
顔は下を向いていて、心なしか顔が赤くなっている。
「意味わかんないし…意味わかんないし…!」
…いや、うん。
マジで何があった?
◆◆◆
ヘイジside
「クソッ…こっちもダメか」
俺はあれから、エンジンのかかるタクシーを片っ端から探し始めた。
だけど、見つからないまま3時間が経過した。
もう無理かと諦めかけていた、その時だった。
「ヘイジ!こっち来い!」
カルベの声が聴こえて、俺は急いで駆けつけた。
「カルベ、そっちは―」
「しっ」
俺がカルベに声をかけると、カルベは俺に静かにするよう言ってきた。
とうとう、何かわかったのか…?
俺とカルベは、最後の希望であるタクシーの無線に耳を近づける。
『ザ…ガガ…我…々は…『答え』を…知っている…!!…今…そ、滞…者は…集え…『ビーチ』に…』
その言葉を最後に、バッテリーが切れた。
俺は、ようやく聴き取れた言葉を何とか繋げて頭の中で文章を作る。
「『我々は答えを知っている』…『今こそ滞在者は集え、ビーチに』…って言ったのか?」
「『ビーチ』って…何だよ?そこに、『答え』が…あるんだな!?」
やった…
やっと見つけたぞ…!
元の世界に帰れるかもしれない手がかりを!
◇◇◇
俺とカルベは、朗報を土産に病院に戻った。
すると、ちょうど同じタイミングで戻ってきたアリスが声をかけてくる。
「カルベ、ヘイジ!」
アリスは、後ろから俺達に声をかけながら歩み寄ってくる。
「探したんだぜ。どこ行ってたんだよ」
「そっちこそ!それより聞けよアリス!もしかしたらわかるかもしれねーんだ。オレ達が『今際の国』から脱出する方法が」
「ホントか!?っしゃあ…!!」
カルベが言うと、アリスはガッツポーズをしながら喜ぶ。
ふと、病院で待っているヒヅルとクリハラさん、チョータとシブキさんの事が頭に浮かんだ。
「チョータにも知らせてやらねぇと…」
俺達がチョータのいる病室に戻ろうとした、その時だった。
「おそい」
ヒヅルが、頬を膨らませながらヌッと出てくる。
ヒヅルは腕を組んで仁王立ちしていて、苛ついているのか左足をトントン鳴らしていた。
「せっかくごはん作ったのに誰も食べに来なかった」
「「ゴメン…」」
ヒヅルが不貞腐れた様子で言うと、俺とアリスが謝り、カルベも申し訳なさそうな表情を浮かべる。
俺達が手掛かり探してる間、飯作って待っててくれてたのか…
…何か、申し訳ないな。
「…次からちゃんと食べに来てよ」
そう言ってヒヅルは、俺達の分の食事を用意してくれた。
食事がてら、俺はアリス達に『ビーチ』の話をした。
「『ビーチ』?」
「ああ。昨日、『げぇむ』会場で会った参加者に、元の世界に帰る手がかりがあるかも知れない場所のヒントをもらったんだ。それで、オレとカルベでタクシーの無線を探してたんだ」
「『我々は答えを知っている』って言ってた。そこに行けば、元の世界に帰れるかもしれねぇ」
アリスが尋ねると、俺とカルベが話す。
すると、ヒヅルも手を挙げながら話に加わってくる。
「…実はオレも、『ビーチ』の事聞いた。『おにごっこ』の会場で」
「それ本当か!?ヒヅル!」
「うん。チシヤって人から聞いた」
「チシヤ…オレらにタクシーの周波数の事教えてくれたのもソイツだ」
「おい、何の話してんだ」
「ヒヅル。その人何か他に言ってなかったか?」
「ちゃんとしたとこあるから気が向いたらいつでもおいでって」
「ちゃんとしたところ…か。避難所みてーなところなのかもな」
「他の滞在者もそこにいる…とか?」
「そこにイバラさんもいるかもしれねぇな…」
「これ、チシヤから貰った地図」
「だから何の話だよ」
「世田谷か…」
「チョータ君の足じゃ無理よ」
「それに…オレとシブキさんの『びざ』はあと1日で切れるんだぞ…!」
俺達が『ビーチ』の話をしていた、その時だった。
「オレも混ぜろ!!さっきからテメーらだけで話進めやがって!オジサン寂しくて死んじゃうぞ!?」
「ウサギかよ」
クリハラさんが身を乗り出してがなると、ヒヅルがツッコミを入れる。
そういえば…クリハラさんの事すっかり忘れてた。
俺は、『おにごっこ』に参加しなかった三人に、昨日の事を話した。
するとクリハラさんは、顎に手を当てて考え込む。
「なるほどね…
「何か…って?」
俺が尋ねると、クリハラさんはココアシガレットを噛み締めながら話し始める。
「仮に、その『ビーチ』とやらに大勢人がいたとしようか?そういうのは大体、力を持った奴が派閥を作って、ただのこのこ付いてきただけの平民を力で支配するもんだって相場が決まってらぁ。『元の世界に帰れる』って情報をエサに人をおびき寄せて、散々扱き使って用が済んだらポイ、なんて事も全然あり得る」
「え、縁起でもない事言うなよ…」
「どうしてそんな事が言い切れるの?」
クリハラさんが言うと、チョータが不安そうに口を開き、シブキさんもクリハラさんに疑念を向ける。
クリハラさんは、ココアシガレットを噛み砕きながら話す。
「学生時代に映画サークルに入っててな。その手の映画は大体見尽くしてる。とにかく、『びざ』切れが間近に迫ってるお前らが今リスクを冒してまで行く場所じゃねーんだよ」
クリハラさんは、今皆で『ビーチ』に行く事に対して難色を示していた。
するとカルベは、悔しそうに拳を握りしめながら口を開く。
「だがよ…せっかく手に入れた手がかりなんだぞ…!!」
…そう、だよな。
もしかしたら、クリハラさんの言う通り、罠かもしれない。
それに今は、チョータとシブキさんの『びざ』を増やす事が最優先だ。
でもこのチャンスを逃したら、二度と元の世界に帰れないかもしれない。
せっかく掴んだ手がかりを、みすみす逃すような事はしたくない。
するとクリハラさんは、ふぅっとため息をつきながら話す。
「まぁ…そうだわな。そこで、だ。こういうのはどうだ?オレ達三人で、先に『ビーチ』に行ってる」
「え…?」
「お前ら4人が『げぇむ』してる間に、オレ達が先に『ビーチ』に下見に行ってくる。オレらはまだ『びざ』残ってるしな。もし安全が確認できたら、すぐにお前らを迎えに行く。それなら、お前らも『げぇむ』に集中できるだろ?」
クリハラさんは、ニィっと笑いながら話す。
するとアリスが、俺達が一番懸念していた事を尋ねる。
「もし、罠だったら?」
「そん時は、
「オイ!!」
ヒヅルがクリハラさんの肩に手を置きながら言うと、クリハラさんがツッコミを入れる。
何というか…この二人は相変わらずだな。
「確かに…今はそれしかなさそうだな」
『びざ』切れ間近のチョータとシブキさんを今すぐ『ビーチ』に連れて行く事はできない。
かと言って、このチャンスを逃すわけにはいかない。
俺達三人が先に『ビーチ』の下見に行く、これが最善のはずだ。
だけど、話を聞いていたチョータとシブキさんが不安そうな表情を浮かべる。
昨日会ったばかりで、しかもまだ『びざ』の日数に余裕がある俺達が、わざわざ自分達を迎えに来る理由が無いと思っているんだろう。
俺は、二人を安心させる為に笑顔を浮かべる。
「大丈夫。絶対迎えに来るよ。ここで会えたのも、何かの縁だ。抜け駆けなんかしないさ」
俺は、絶対に4人を迎えに来ると約束した。
俺達は、『ビーチ』への出発に向けて必要なものをすぐに揃えた。
俺が飲み物やら缶詰やらを集めてくると、ヒヅルが声をかけてくる。
「ねぇ。いい物見つけた」
そう言ってヒヅルが持ってきたのは、自転車だった。
「自転車…?」
「うん。整備すればまだ使えそう」
ヒヅルは、ドヤ顔しながら言った。
少し錆びてはいるけど、確かにちょっと整備すればまだ走れそうだ。
俺達は、ヒヅルが見つけてきた自転車を、走れるように整備した。
整備が終わって、荷物をリュックに詰めていると、唐突にクリハラさんが声をかけてくる。
「なぁ。お前らちょっとトランプ見せろ」
「え?」
「いいから。オレのも見せてやるから」
クリハラさんは、俺達にトランプを見せるよう言ってきた。
俺とヒヅルは、顔を見合わせて持っていたトランプを取り出す。
「「「せーの」」」
俺達三人は、同時にトランプを見せた。
俺は『
3人合わせて17枚、12種類のトランプが手元にある。
クリハラさんは、トランプをまじまじと見つめると、何を考えたのかヒヅルのトランプを何枚か回収して懐に入れた。
「あっ、クリハラさん。それはヒヅルの―」
「預かっとく。
クリハラさんは、そう言って俺に目配せをしてきた。
一応って…
この人何考えてるんだ?
◇◇◇
出発の支度を整えて、いざ出発が決まると、アリス達が俺達を見送ってくれた。
「そっちの事は頼んだぞ」
「お前らも、必ず4人で生きて『げぇむ』を『くりあ』しろよ」
「おう!」
俺は、アリス達と必ず生きて再会する約束をして、すぐに病院を出発した。
俺が自転車に乗って、クリハラさんは俺の後ろに乗っている。
所謂2ケツの状態だ。
そしてヒヅルは、スケボーで俺達の隣を並走していた。
「大体の場所がわかったのはいいけどさ。『ビーチ』ってどこ目指せばいいんだろうね」
「ああ、それなら一ヶ所しかねーだろ。地図よく見てみろ」
クリハラさんが言うと、ヒヅルは地図を眺める。
そして何かに気付いたのか、僅かに目を見開いて口を開いた。
「『リゾートホテル多摩パシフィックビーチ』…」
「確かに『ビーチ』だな」
俺達は、ヒヅルの持っている地図に書かれた『リゾートホテル多摩パシフィックビーチ』に向かった。
その途中、唐突にヒヅルが俺の隣で歌い始める。
「ぬーすんーだばーいくをかーわさーれたーかぎがないーはしらないー」
ヒヅルは、スケボーに乗って自転車と並走しながら、変な歌を歌っていた。
俺は、変な歌を歌っているヒヅルに尋ねる。
「……何だその歌」
「え、知らないの…?すごい有名な曲なのに」
いや、元の曲は知ってるけど。
もしかしてヒヅル、今の替え歌を原曲だと思ってる…?
「それ替え歌だぞ」
「えっ…そうなの?」
俺が教えると、ヒヅルがキョトンとする。
…やっぱりそういう曲だと勘違いしてたのか。
それはもう天然とかそういうレベルじゃなくないか?
「おう、何だ。カラオケ大会か?付き合うぜ」
「違います」
後ろからクリハラさんがノリノリで話しかけてくる。
そこからは、何故かクリハラさんも加わってカラオケ大会みたいなノリになった。
これから罠があるかもしれない場所に行くってのに、何だこの緊張感の無さは…
自転車を漕ぎ続ける事数十分、それらしき建物が見えてきた。
クリハラさんは、目的地と思われるホテルを指差す。
「見えてきたぜ」
◇◇◇
「嘘だろ…!?」
「オイオイ、マジかよ…ここが、『ビーチ』…!!」
俺達は、目の前の光景に、思わず目を疑った。
目の前には大きなプールがあって、そこで大勢の人が楽しそうに遊んでいた。
皆、酒もタバコもやりたい放題だった。
酒池肉林とはまさにこの事だ。
つーか…何で『げぇむ』会場でもないのに電気も水もあるんだ?
あと、ここにいる人達みんな何で腕にコインロッカーの鍵つけてるんだ?
俺達が目の前の光景に唖然としていると、何人かが俺達に気づく。
「オイオイ、見ろよあれ」
「新入りじゃねーの?」
「うっそマジかよオイ!!何日振りだよ!!」
「今回は子連れかよ」
「ハズレじゃねーの?」
プールサイドにいた人達は、俺達を見て興味を持ったり笑ったりしていた。
………は?
何だこの間抜けた空気は。
こんなところに、本当に『答え』があるのか…?
「ねぇボク、どこから来たの?」
俺が呆気に取られていると、水着を着た美女がヒヅルに話しかけてくる。
一方で、ヒヅルはというと。
「………うぇっぷ」
ヒヅルは、この光景を見て胸焼けを起こしていた。
激しくお気に召さなかったようだ。
すると、プールサイドにいた男が俺達に近づいて話しかけてくる。
「オイ、お前ら。偶然ここを見つけたのか?それとも自力で探し当てたのか?」
「オレらは客だ。アンタらの仲間に招かれてここに来た。チシヤって男だ。会わせてもらえりゃあわかる」
男が尋ねると、クリハラさんが答える。
男はしばらくクリハラさんを観察するように凝視すると、不意に背中を向ける。
「…まぁいい。ついて来いよ。『ビーチ』の一員になる気があんのなら、No.1に会わせてやる」
そう言って男は、どこかへと歩き出す。
俺達は、男の後ろをついて行った。
「No.1、新入りだ!チシヤに会わせろ、だとよ」
男は、サマーベッドに仰向けに横たわり、女を侍らせている男に声をかけた。
まるで獅子を彷彿とさせる男だ。
No.1と呼ばれた男は、一気に酒を飲み干すと豪快に笑う。
「そうか…カカッ!諸君が例の…」
No.1と呼ばれた男は、大袈裟に両手を広げた。
「ようこそ!!理想の
「『答え』…!!」
やっぱり、ここで間違いなかったんだ…
ここにいれば、元の世界に戻る方法がわかるかもしれない…!
するとクリハラさんは、No.1と呼ばれた男を品定めするような目で見ながら尋ねる。
「アンタがリーダーかい」
「自己紹介が遅れたが、オレの名は、弾間。これでも昔は歌舞伎町じゃ名の知れたホストだったんだが、色々あって死んだオヤジの店を継ぐハメになっちまってね。地元の商店街の連中にはこう呼ばれていた。“ボーシヤ”」
ボーシヤ…『ビーチ』のリーダー…か。
ボーシヤの両脇に立っているメガネの男とサングラスの女も、只者じゃなさそうだ。
◇◇◇
俺達は、ボーシヤに招かれてホテルの中に入った。
ホテル内を案内されている途中で、ボーシヤの両脇にいた二人が自己紹介をする。
「
「
クズリューさんとアンさん、か。
俺達も、クリハラさんから順番に自己紹介をした。
「栗原鳳正。まぁ、所謂闇医者だ」
「小鳥遊火鶴。中学生。特技は殴り合い」
「北句平治です。え…と」
「何だっけ。ガーファの社員だっけ」
「…に、なり損ねた者です」
…何だろう。
何か俺だけ格落ち感が…
『ビーチ』の中では、俺達のいた現実世界と何ら変わりない暮らしが待っていた。
クズリューさんとアンさん曰く、電気はガソリンで動く発電機から、水道は川の水を引いたポンプから、ガスは大量にあるプロパンガスのボンベから供給されているらしい。
そしてこの『ビーチ』には、あらゆる人材が揃っているという。
この前の『げぇむ』で医者が一人減ったから、クリハラさんが来てくれたのはちょうど良かったとボーシヤは言っていた。
あらゆる『げぇむ』に備え、長所の異なる4人1組で『パーティー』を作る事で、『げぇむ』のリスクを最小限にし、皆が生き残る確率を上がる共同体、それが『ビーチ』。
「『ビーチ』が諸君に提供するのは、『安心』と『安全』だ。その為の『秩序』と『合理性』は、No.1であるこのオレが保証しよう」
そう言ってボーシヤは、大袈裟な身振りをして笑ってみせた。
『安心』と『安全』ねぇ…
その言葉を素直に信用できないのは、俺だけだろうか。
「チシヤ!例の客人だ」
ボーシヤが呼ぶと、柱にもたれかかっていたチシヤが歩み寄る。
「やぁ。思ったより早かったね」
チシヤは、俺達に軽く手を振りながら歩み寄ってきたかと思うと、俺達の顔ぶれを見て若干意外そうな表情を浮かべる。
「ここに来たのは君達だけ…か」
俺は、その発言を聞いてすぐにピンと来た。
どうやら、俺がアリスやカルベと一緒に来ると思っていたみたいだ。
「アリスとカルベは…訳あって一緒には来れなかった。だけど、きっと生きてる」
「…ふぅん」
俺が言うと、チシヤは興味をなくしたような反応をする。
かと思えば、今度は俺の後ろにいたクリハラさんに目を向ける。
「ん?何だよ」
チシヤに見られている事に気付いたクリハラさんは、片眉を上げて怪訝そうな表情を浮かべる。
だけどその直後、何かに気付いたのか、僅かに目を見開いた。
「……あれ?お前、もしかして…」
クリハラさんは、ハッとしたような表情を浮かべてチシヤに話しかける。
するとチシヤは、微笑みながらクリハラさんに挨拶をした。
「お久しぶりです。先生」
「………そっか。キミもこの国に来ちまったんだな、
飄々としているチシヤとは対照的に、クリハラさんは若干悲しそうな表情を浮かべていた。
何だ…?
この二人、もしかして今際の国に来る前から知り合いだったのか…?
「…知り合いですか?」
「ああ。ちょっとな」
俺が尋ねると、クリハラさんは不器用に笑って誤魔化した。
チシヤは用が済んだのか去っていき、ボーシヤ達が連れてきたのは、メインロビーだった。
「『ビーチ』での『ルール』は3つ。1つは、『『ビーチ』内では、水着着用』!!」
……は?
何で?
「カカカ、気持ちは身なりからだ!ここでは酒におぼれるも、クスリでキマるも、女を抱きまくるも、諸君の自由!!好きに謳歌したまえ、『生』を!!」
『生』を謳歌、ねぇ…
俺は、そんな気分にはなれない。
俺には、探さなきゃいけない人や、俺の迎えを待っている人達がいるんだ。
「このナイフは…?」
ヒヅルは、高級そうなナイフを大事そうに抱きかかえながら不安そうに尋ねる。
「武器の所持が許可されているのは、『げぇむ』の時だけだ。それ以外の時は、悪いが厳重に保管させてもらう」
「…………えっ」
クズリューさんが言うと、ヒヅルはショックで固まる。
そんなに大事なものだったのか、そのナイフ。
そういえば、毎日欠かさずナイフの手入れをしてたし、着替え中や寝る時ですら手放してなかったな。
「ロッカーキーをここへ」
ボーシヤが言うと、アンさんが人数分のロッカーキーを持ってくる。
クリハラさんには77番、俺には78番、ヒヅルには79番の鍵を渡された。
「No.77!!No.78!!No.79!!これで諸君は『ビーチ』の同志だ!!」
俺は、アンさんから渡された鍵を左手首につけた。
これで俺達も、『ビーチ』の一員…か。
「さぁて、着いたぞ諸君。これが諸君の、待ちかねた『答え』!!『今際の国』から脱出する為の、唯一の『答え』だ!!」
そう言ってボーシヤが連れてきたメインロビーの壁には、トランプの絵が描かれていて、絵札以外のほとんどのトランプにバツ印が書かれていた。
何だよ、これ……
「……ふーん」
「やっぱりな」
ヒヅルとクリハラさんは、まるでわかってましたと言わんばかりに口を開く。
「君達は察しがついていたようだな。そう。この地獄のような悪夢を終わらせる方法はただ一つ。それは、全てのトランプを集める事」
全てのトランプを集める…
そうか…それが『答え』だったんだ。
やったぞ、アリス、カルベ、チョータ、シブキさん…ニーナ…!
俺達、元の世界に帰れるぞ…!!
「全部のトランプを集めれば…元の世界に帰れるのか!?」
「そうとも。選ばれたただ
え…!?
1人…!?
出国できるのは、大勢いる滞在者の中でただ1人だっていうのか…!?
「なるほどね、そんな事だろうと思ったぜ。だからこその序列か」
「ご名答」
クリハラさんがさほど驚かずに言うと、ボーシヤが答える。
ボーシヤ曰く、たった1人で全てのトランプを集める事は不可能。
だからこそできるだけ多くの同志を募り、全員で協力してただ1人を出国させる事が『ビーチ』の目的だという。
「『ビーチ』の『ルール』はたったの3つ。もう1つは、『カードは全て『ビーチ』の財産』!!諸君の持ってるカードを1枚残らず、『ビーチ』の為に献上していただこう」
「なっ…!そんな事―」
「異議なーし」
俺がボーシヤに反論しようとすると、ヒヅルが手を挙げて気の抜けた声で言った。
「カードを渡せばいいんだよね。どーぞどーぞ、ボーシヤ様の仰せのままに」
「おい、ヒヅル!何を勝手に…!!」
俺は、ボーシヤの言いなりになってカードを渡そうとするヒヅルを止めた。
その時、話を聞いてずっと黙り込んでいたクリハラさんが、ボーシヤに尋ねる。
「ひとつ聞くが、上位のメンバーが死んだり、トランプ集めに貢献したりした場合は、昇格もあり得るのかい?」
「勿論」
クリハラさんが尋ねると、ボーシヤが即答する。
するとクリハラさんは、顎に手を当てて口を開く。
「…OK。乗ろう」
「クリハラさん、アンタまで…!」
「どのみち、オレらだけで『げぇむ』しながら外に出る手掛かり探すとか無理ゲーっしょ。ここは大人しく従っとくのが得策だと思うぜ」
得策って…
そりゃあそうだけど…
だったら、俺達の今までの努力は何になる…!?
一緒にこの世界を抜け出すって約束したアリス達の思いは、どうなっちまうんだよ…!
「あなたはどうするの?」
「オレは……」
アンさんに尋ねられて、俺は黙り込む。
するとボーシヤは、ズイッと俺の顔を覗き込みながら言った。
「『ビーチ』の『ルール』はたったの3つ。最後の1つは…『裏切り者には死を』!!同志諸君が命を懸けて1人の出国者を誕生させる事が、『ビーチ』の悲願!!使命!!大義!!それを侮辱する者を、『ビーチ』は絶対に許さない…!!」
ボーシヤの気迫に気圧され、頬に冷や汗が伝う。
『裏切り者には死を』…
きっと、ハッタリなんかじゃない。
ここで拒否したら、殺される。
俺が殺されたら、アイツらとの約束を永遠に果たせなくなっちまう。
「……わかった。言う通りにするよ」
俺は、声を絞り出すように言った。
…ごめん。
アリス、カルベ、チョータ、シブキさん。
……ニーナ。
約束を果たせるのは、もう少し先になりそうだ。