Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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びいち(3)

ヘイジside

 

「「…………」」

 

「ガーッハッハッハッハ!!『ビーチ』最高!!」

 

 そんなわけで、『ビーチ』に来て最初の『げぇむ』を『くりあ』した俺達は、今『ビーチ』での平穏な生活を謳歌している。

 昨日の『げぇむ』で俺達は全員昇格したし、『びざ』も増えた。

 今はクリハラさんがNo.20、俺がNo.49、ヒヅルがNo.68だ。

 クリハラさんは、ちょうど今、昨日の『げぇむ』で組んだ美女達と絶賛お楽しみ中だ。

 

 昨日帰り道にクイナさんに教えてもらった事だが、『ビーチ』にはいくつかの派閥があるらしい。

 最も権力を握っている二大勢力は、ボーシヤ率いる『カルト派集団』と、アグニという男の率いる『武闘派集団』だという。

 クリハラさんは、昨日の『げぇむ』の功績でボーシヤに気に入られて、今はカルト派集団に所属している。

 正直どっちの派閥にも入りたくないが、新入りが初日からNo.1の後ろ盾を手に入れたというのは凄い事だ。

 

「リナちゃんオッパイ大きいねぇ。触診しちゃおうかな〜?」

 

「もぉ〜やだぁ、クリハラ先生のエッチ〜」

 

 …本当に、何を見せられてるんだ俺は。

 でも俺とヒヅルがこうして『ビーチ』で平穏に過ごせているのも、何気にクリハラさんのおかげだったりするんだよな。

 今もこうやって道化を演じつつ、下手に動けない俺達に代わって『ビーチ』の内情を探ってくれている。

 

「み〜んなまとめてオレのお妃様にしちゃおっかな〜!な〜んつって!ガハハ!」

 

 ………信じてるからな、クリハラさん。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その日の夕方。

 俺は、ヒヅルと一緒に『ビーチ』で情報収集をしていた。

 この世界では、とにかく情報が武器だ。

 出来るだけ多くの情報を手に入れておきたかった。

 

 聞いた話によると、『げぇむ』会場は東京都内、それも23区内にしかなくて、東京の外はジャングルになっているらしい。

 ヨットで『今際の国』からの脱出を試みた者もいたらしいが、全員レーザーで頭を撃ち抜かれたのを見たという人がいた。

 話を聞けば聞くほど、『今際の国』からの出国は絶望的だ。

 やっぱり、ボーシヤの言う通り、全部のトランプを集めるしかないのか…?

 …いや、それか、イバラだ。

 長くこの国にいるイバラなら、何か知っているかもしれない。

 

「…今日だな。アリス達が『げぇむ』に参加する日」

 

「うん」

 

「…大丈夫。きっと皆、無事に帰ってきてくれるさ」

 

「怪我人増えてねーといいけどな。流石にあれ以上面倒見るの骨折れるぞ」

 

 もうすぐ、チョータとシブキさんの『びざ』が切れる。

 アリス達は…今頃『げぇむ』会場に向かってる途中かな。

 アリス達とは、翌朝の9時に例の病院で会う約束をしている。

 頼むから、それまで皆生きていてくれよ。

 

「じゃ、オレはそろそろ行くぜ。ボスにお呼ばれしてるんでな」

 

 そう言ってクリハラさんは、ヒラヒラと手を振る。

 どんな手を使ったのかは知らないが、たった1日でカルト派集団を味方につけたんだから大したものだ。

 

「すごいな…クリハラさん。まだビーチに来てそんなに経ってないのに、もうボーシヤに気に入られてら」

 

「うん」

 

 俺が言うと、ヒヅルが頷く。

 コイツ、美人なのに普段無表情だから何考えてるかわかんないんだよな…

 

「…オレ、部屋に戻って『げぇむ』の準備してくるから。気分悪いし」

 

「どうした?具合悪いのか?」

 

「そうじゃなくって…」

 

 ヒヅルは、言いにくそうに顔を背けながら両手でギュッと帽子を握って顔を隠す。

 ふとバルコニーから下を覗いてみると、頭の悪そうな男女が水着を脱ぎ捨ててベンチの上で向かい合わせに抱き合い、その場にいる全員に見せびらかすようにガッツリめのキスをしていた。

 

 …げっ、アイツら、大勢が見てる前でおっ始めやがった。

 まるで盛りのついた猿だ。

 何考えてんだアイツら…いや、何も考えてねぇのか?

 いつ死ぬかもわからない環境に身を置いて、皆どこかおかしくなっちまってんのかな。

 こんなの、中学生のヒヅルには刺激が強すぎる。

 というか、普通に教育上よろしくない。

 

「…不潔」

 

 そう呟いて、ヒヅルは去っていった。

 

 …どうしよう。

 一人になっちまった。

 

 とりあえずトイレに行こうとしたその時、女子トイレから声が聴こえてくる。

 昨日クリハラさんと一緒に『げぇむ』を『くりあ』した美女三人だ。

 

「ねぇ。あのクリハラとかいうオッサン超キモくなかった?」

 

「わかる!No.1に気に入られたからって、新入りのくせに調子乗りすぎよね」

 

「昨日の『げぇむ』だって、ほぼウチらの手柄じゃんね。たかがNo.20くらいで何であんなにデカい顔できるんだか」

 

 うわぁ…クリハラさん、すげー嫌われてる。

 新入りがデカい顔すると、ああいう目に遭うのか。

 出る杭は何とやら…ってやつだな。

 

「今度はどうする?お酒に便器の水でも混ぜる?」

 

「ちょっ、リナ!それはやりすぎ!バレたらどうすんのよ」

 

「大丈夫よ。アイツ、雑巾の搾り汁混ぜても気づかなかったもの」

 

「雑巾って(笑)」

 

「ちょ…リナやめてお腹痛い」

 

 ………。

 

 前略。

 沙由、ニーナ。

 女の人って怖いです。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

「何だ、クリハラ君もイケるクチじゃないか」

 

「いやいや、ボーシヤのダンナには及びませんよ」

 

 ボーシヤに呼ばれた俺は、奴と()()()()()をする為に、奴と二人きりで酒を交わしている。

 普段はボーシヤの取り巻きをしているクズリューとアンも、今は席を外している。

 ここ二日間、俺はボーシヤの信頼を勝ち取る為に、できる事は何でもした。

 身の回りの雑用から始まり、『ビーチ』内の不穏因子の密告。

 

 まあぶっちゃけ、ボーシヤから心からの信頼を得られなくても正味問題はない。

 入手難易度の高い未回収のカードを3枚も差し出した上に、『ビーチ』に都合の悪い不穏因子を密告してくれる有能な新人は、奴にとってどんな手を使ってでも囲っておきたい人材のはずだ。

 俺がカード集めに貢献する有能な人材である限り、ボーシヤはあらゆる危険因子から俺を守ってくれる。

 …まあ、密告に関しちゃあんまりやり過ぎると自作自演を疑われるから、それなりの確証が得られた時だけにしてるけどな。

 

 俺は、俺自身をボーシヤに売り込む事で、『ビーチ』を内側からじわじわと掌握する事にした。

 だが、これだけじゃボーシヤに俺を売るにはまだ足りない。

 そこで俺は、賭けに出る事にした。

 

「ところで、話とは何だね?」

 

「ああ。探してほしい女がいるって話だ。『イバラハナエ』って女だ」

 

 俺が『ビーチ』に入ってからどうしてもやっておきたかった事は、主に三つある。

 ひとつは、No.1の所属する派閥に入れてもらう事。

 もうひとつは、幹部格に昇格する事。

 そして最後のひとつが、『密会』だ。

 『ビーチ』にとって美味しいエサを蒔いて、泳がせる。

 その隙に、No.1のイスをぶん奪ってやろうって算段だ。

 

「とある滞在者から又聞きした話なんだが、一ヶ月以上前からたった一人でカードを集めている女がいるらしい。何でも、どんなに難易度の高い『げぇむ』にも、傷一つ負わずに生還したそうだ」

 

「…ほう?」

 

 おっ、早速食いついた。

 賭けは成功だ。

 もう少し攻めてみるか。

 

「絵札の『げぇむ』はいまだに誰一人回収に成功してないんだってな。まあ可能性は低いが、イバラハナエが鍵を握ってる可能性はあると思うぜ。何せ奴は、オレが知る限り最も『答え』に近い滞在者だからな」

 

「イバラハナエ…か。特徴は?把握しているのかね?」

 

「後ろで長い茶髪を編み込みにしていて、八重歯の生えた背の高い美女だ」

 

 俺の話に食いついてきたボーシヤに対して、俺はイバラハナエの話をした。

 あえて知っている事は全部言わずに、情報を小出しにした。

 俺としては、奴ができるだけ長くイバラハナエ探しをしてくれていた方が都合がいい。

 幸い、イバラハナエに直接会った事があるのは、ヘイジと、この前の『げぇむ』で死んじまった女の子だけだ。

 俺がイバラハナエに繋がる唯一の情報源である限り、ボーシヤはそう易々と俺を切れない。

 万が一にもイバラハナエが見つかっちまったら、俺が用済みになって幹部入りが遠のく可能性も捨て切れない。

 かといって、嘘は一切言わない。

 嘘が通用する相手じゃない事くらいはわかる。

 

「うむ!話はわかった。23区内を中心に徹底的に調べ上げるとしよう」

 

「へへっ、助かりますぜ」

 

 ボーシヤが席を立つと、俺は手を擦り合わせて愛想笑いを浮かべる。

 だがその直後、ボーシヤが俺の方を振り向く。

 

「だが、もし今の情報が“嘘”だったら…わかっているね?」

 

 やっぱり、自分の方が立場が上だという事を示す為に揺さぶりをかけてくるか。

 さすがは、圧倒的カリスマでNo.1に登り詰めたというだけの事はある。

 俺は、ニッコリと微笑んで、右手でボーシヤの手を取り、左手を肩の高さまで挙げて誓いを示す。

 

「わかってるさ。『裏切り者には死を』、だろ。嘘じゃない、誓うよ」

 

 実際、嘘はついてない。

 かといって、真実でもない。

 利用できるもんは全部利用して、No.1の座を奪い取ってやる。

 最後に玉座に座るのは、この俺だ。

 

 ボーシヤとの密会を終えた俺は、自室に戻った。

 自室では、昨日の『げぇむ』を一緒に『くりあ』したリナちゃん、レイちゃん、マチちゃんが待っていた。

 

「おかえり〜ハニー達!オレがいなくて寂しくなかったかい?」

 

「クリハラ先生ぇ、早く早くぅ♡」

 

「うっひょぉ、注射しちゃうぞハニー達ぃ〜♡」

 

 俺は、三人が川の字になっているベッド目掛けて飛び上がると同時にアロハシャツを脱ぎ捨て、所謂ル◯ンダイブをした。

 もちろん、これも俺の計画の為の演技だ。

 新入りが一気に昇格すれば、懐柔しようとしてくる奴が現れる事は容易に想像できた。

 向こうから寄ってきてくれるなら好都合だ。

 『ビーチ』に馴染めなかったら警戒される。

 『ビーチ』のまやかしに染まりかけたスケベオヤジと思われるくらいがちょうどいい。

 上層部の奴等の前では有能な臣下を、他の奴等の前では道化を演じる。

 それが、この国で生き残る為の戦略だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

「…おいし」

 

 『げぇむ』会場に持っていくものをまとめた俺は、ソフトクリームを食べながら1階に向かっていた。

 最後の仕上げをしてたらお腹が空いたから食べ物を探してたら、何かチャラチャラしたオニーチャンがソフトクリームを作ってくれた。

 こんな監獄みたいな場所さっさと抜け出したいと思ってたけど、この国に来てからアイスが食べられるとは思わなかった。

 それにしても、ガソリンで動く発電機で電気を生み出してるって言ってたけど、こんなバカみたいに電気を使ってたら、大人数で生き延びていくのは無理だよね。

 まあ、この国じゃいつ死ぬかもわからないから、計画的に電気や水を使う必要なんて無いんだろうけど。

 

 つーか今日の『げぇむ』のチーム、どうしよ。

 ヘイジとクリハラさんは今日参加しないし、適当にどっかに入れてもらうか。

 そういや、クリハラさんが潜入してるカルト派集団の他に、武闘派集団があるって言ってたっけ。

 勝手な偏見だけど、実力主義の方が俺の性には合ってるかな。

 

「……ん」

 

 俺がふと前を見ると、男三人が俺の前に立ち塞がっていた。

 真ん中にはガタイの良い坊主頭のオニーチャンが、俺から見て右には顔にピアスを開けていて銃を持ったオニーチャンが、左には顔と左腕にカックイイ刺青を入れたオニーチャンが立っている。

 

「あ?何だテメェ」

 

 右に立っていたオニーチャンが俺にガン飛ばしてくる。

 何だ、って言われても。

 『げぇむ』に行こうとしてただけなんだけど。

 俺がソフトクリームを舐めると、オニーチャンが銃を突きつけてくる。

 

「テメェ、人が話してる時に食ってんじゃねーよ」

 

「えっ、あ…ごめんなさい。だって…溶けちゃうから」

 

「あぁ?テメェ舐めてんのか」

 

「アイスは舐めてる」

 

「このクソアマ…!」

 

 俺が言うと、オニーチャンがキレる。

 事実を言っただけなのにキレられた。

 解せぬ。

 

「見ない顔だな。新入りか?」

 

「うん。昨日来た」

 

「…若いな。歳はいくつだ」

 

「13」

 

 坊主頭のオニーチャンが俺を見て聞いてくるので、俺は正直に答えた。

 すると、右のオニーチャンが俺を指差してバカにしたように笑う。

 

「ハァ!?ガキじゃねえか。ガキはガキらしく迷子センターにでも行ってろ」

 

 ガキ…か。

 まあ間違ってはいないけどさ。

 それより俺は、今一番気になってる事を坊主頭のオニーチャンに質問した。

 

「アンタがアグニって人?」

 

 俺が質問すると、オニーチャンの目元がピクリと動く。

 あ、やっぱりこのオニーチャンがアグニで合ってた。

 早速武闘派集団にエンカするとか、運がいいのか悪いのか。

 

「どこでオレの事を聞いた」

 

「昨日一緒に『げぇむ』した人から。ここじゃカルト派集団と武闘派集団が力持ってて、アグニって人が武闘派集団のリーダーだって聞いてる」

 

「オレが武闘派集団のリーダーと知ってノコノコ近づいてくるとは、余程肝が据わっているのかそれともただのバカか…」

 

「ただのバカだろ」

 

 アグニが言うと、右のオニーチャンがバカにしたようにハンッと笑う。

 この人、何でいちいち癇に障る言い方してくるんだろう。

 なんて考えていると、右のオニーチャンが俺の背後に立って、スナイパーライフルの銃口を俺の胸に突きつけてくる。

 

「大将!このガキどう料理します?」

 

「…………」

 

 右のオニーチャンが俺の胸に銃口を押し当てると、左のオニーチャンも刀を抜いて俺の首に突きつけてくる。

 おっ、良い刀♪

 つーかこれ真剣じゃん。

 マジか…やば、本物の刀の刀身ってこんなに綺麗なんだ。

 鍔のデザインもオシャレだし。

 なんて考えていると、アグニは、俺の顔を一瞥してから踵を返して言い放った。

 

「オレの部屋に連れて来い。聞きたい事がある」

 

「はい。ホラ、さっさと歩けクソガキ」

 

 そう言ってオニーチャンは、俺を無理矢理歩かせてくる。

 いちいち横乳を銃で突っつくの、やめてほしい。

 乳児じゃあるまいし、一人で歩けるっつーの。

 俺は、大人しくアグニについていった。

 俺がアグニの後ろを歩くと、アグニが俺に尋ねる。

 

「お前、名前は」

 

「…ヒヅル。小鳥遊火鶴」

 

 名前を聞かれたから、正直に答えた。

 それにしても、話ってなんだろ。

 なんて考えていた、その時だった。

 

「待ってくれ!」

 

 突然、後ろから声が聴こえた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 数分前。

 俺は、出国の手がかりを探す為にひたすらビーチの奴等に聞き込みをしていた。

 するとクイナさんが話しかけてくる。

 

「こないな所におったんか」

 

「クイナさん」

 

「アンタ、今日の『げぇむ』は参加せえへんの?」

 

「…オレは大丈夫です。まだ『びざ』残ってるし…ヒヅルみたいに毎日『げぇむ』やる元気もないから」

 

「はぁ!?毎日!?あんなん毎日参加するとか、あの娘変態なんか?」

 

「楽しいから参加してるらしいです。わけわかんないですよね…」

 

「はぁー…道理で慣れとると思ったわ」

 

 クイナさんは、ヒヅルが毎日『げぇむ』に参加していると聞いて驚いていた。

 大の大人でもいつ死ぬかわからない『げぇむ』を、まだ中学生のヒヅルが毎日参加してるなんて聞いたら、そりゃあそういう反応になるよな。

 

「そういえば、クイナさんはどうしてチシヤと一緒にいるんですか?」

 

「んー…まぁ、ギブアンドテイク?」

 

 ギブアンドテイク、かぁ。

 何というか…この二人らしいな。

 この世界では、それくらいの割り切りがあった方がいいのかもな。

 

「そういうアンタは?何でヒヅルと一緒におるん?」

 

「…最初は、成り行きでした。ヒヅルに助けてもらって、その借りを返す為に一緒に行動しているんです。けど今は、アイツを救ってやりたいと思ってる」

 

「救う?」

 

「アイツは、誰も信用できずに、たった一人でこの世界の理不尽に耐えてる。周りの大人が、アイツを信じさせてやれなかったからだ。自分を守る為に、理不尽に適応したフリをして、壁を作る事で賢くなった気でいる。まだ中学生の女の子が、ですよ。オレは、アイツがあれ以上傷つくのが耐えられない。アイツには、幸せになってほしいんです」

 

「アンタ、人が良すぎやで。人の事気にしとる場合かいな」

 

 俺が本心を語ると、クイナさんが呆れた。

 …しまった。

 また出来もしない事を語って…

 …俺の悪い癖だ。

 俺が恥ずかしさを誤魔化すために頭を掻こうとすると、クイナさんはニッと笑った。

 

「まあでも、嫌いやないけどな。そういうの」

 

 クイナさん、やっぱり良い人だ…

 

「で、そのヒヅルは?一緒やないんか?」

 

「あ…っと、『げぇむ』の準備をしてくるって言ったっきり…」

 

 そういえば、ヒヅルの奴遅いな…

 もうそろそろ『げぇむ』が始まっちまうってのに…何してんだ?

 俺がふとエレベーターホールに目を向けると、そこにいたのは…

 

「ヒヅル…!」

 

 ヒヅルが、ガタイのいい坊主頭の男と、銃を持った男と、顔と左腕に刺青をした男の三人組に連れ去られていた。

 俺がヒヅルに駆け寄ろうとすると、クイナさんが俺の腕を引いて物陰に隠れさせた。

 

「よりによってアイツらに捕まってもうたか」

 

「え…?」

 

「ヘイジ、悪い事は言わん。ここは堪えとき。アイツらが、昨日ウチが言うた武闘派集団や。真ん中のデカいのが、武闘派集団のリーダーのアグニ。横におんのが幹部のニラギと佐村…ここじゃラスボスって呼ばれとる」

 

 クイナさんは、小声で武闘派集団の事を教えてくれた。

 ニラギという男は、ヒヅルを銃で突っついて無理矢理歩かせている。

 今にも腑が煮えくり返りそうだった。

 

 『ビーチ』の浮かれた空気に惑わされて油断してた。

 俺がヒヅルから目を離さなければ。

 そもそも、俺がヒヅルを『ビーチ』に連れて来なければ。

 こんな事になったのは、俺のせいだ。

 

 俺が飛び出そうとすると、クイナさんが俺の腕を掴んで止めた。

 

「ここで暮らしとったら()()()()()()もある。『ビーチ』で平穏に暮らしたかったら、アイツらに目をつけられんようにするのが身のためや」

 

 クイナさんは、俺の目を見て首を横に振る。

 だけど俺には、ヒヅルが連れて行かれるのを黙って見ているなんて事、できなかった。

 

「待ってくれ!」

 

「あのアホ…!」

 

 俺は、クイナさんの制止を振り切って、武闘派連中の前に立ちはだかって言った。

 俺はもう、仲間を見捨てるなんて事は二度としたくない。

 あんな思いをするのは、ニーナで最後にしたい。

 ヒヅルを見捨てたら、俺はもう二度とアリス達に顔向けできなくなっちまう。

 

「その娘はオレの連れだ。乱暴しないでやってくれ」

 

 俺は、武闘派連中に向かってハッキリと言った。

 するとニラギは、俺を馬鹿にしたように笑う。

 

「乱暴ぉ?ハッ、人聞きの悪りぃ事を言ってくれるな!ちょっと借りるだけだっつぅの。ウチのボスがヒヅルちゃんに用があるってんでよぉ」

 

 ニラギは、俺に見せつけるようにヒヅルの左胸を後ろから掴んで揉んだ。

 胸を触られたヒヅルは、嫌そうな表情を浮かべていた。

 それを見た俺は、目の前が真っ赤になった。

 

「ヒヅルに触るな!!」

 

 俺は、思わずニラギに向かって怒鳴った。

 すると、さっきまで俺を馬鹿にしたように笑っていたニラギは、急に真顔になって俺の顎に銃口を突きつけてくる。

 

「あぁ?テメェ、誰に向かって口利いてんだ?」

 

「っ……!」

 

「テメェも見ねぇ顔だな。アレか?このガキの保護者か?」

 

 ニラギは、俺の顎に銃口を押し付けながらハンッと笑う。

 するとアグニが歩き始めた。

 

「フン、くだらん。子供だけオレの部屋に連れて来い」

 

「コイツはどうします?」

 

「二度と反抗的な態度が取れねぇように一発殴っとけ」

 

 アグニは、俺を一瞥してそう言った。

 その直後、ニラギがライフルのグリップで俺の顔を殴ってきた。

 顔に重い衝撃が走り、意識が遠のく。

 

「ぐっ…!」

 

「ケッ、命拾いしたな」

 

 そう言ってニラギは、床に倒れた俺の顔に唾を吐きかけた。

 そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「………ん」

 

 目が覚めると、そこはホテルの一室だった。

 俺の両手と両脚は、椅子に縛り付けられて固定されている。

 

「や…っ、やだっ…いやだ…!やめろっ…離せ…っ!」

 

 部屋の奥から、ヒヅルの声が聴こえてきた。

 

「ヒヅル!!」

 

 俺が目を向けた先には、ガラの悪そうな男達にベッドに押さえつけられたヒヅルがいた。

 俺の方を向いたヒヅルは、顔を耳まで真っ赤にしてポロポロと涙を流していた。

 上着と水着はボロボロに切り裂かれていて、よほど抵抗したのか全身に切り傷や痣がある。

 

「や…ヘイジ……見ないで……!」

 

「ひゃはは、見てろよ新入り。今からヒヅルちゃんとのお楽しみだァ!!」

 

 ボロボロに傷ついて泣いているヒヅルを、男達が下卑た表情を浮かべながら見下ろしている。

 ニラギは、下品な笑い声を上げながら、嫌がるヒヅルを無理矢理犯した。

 アグニとラスボスは、俺が逃げないように監視しながら、ヒヅルが犯されるのをただ傍観していた。

 潤声と嬌声が混じったヒヅルの悲鳴が、部屋に響く。

 

「痛い、痛い痛い!やめて…いやっ、いやあああっ!!」

 

「うるせぇぞ、クソガキ!」

 

「ぎゃっ…!!」

 

 処女を散らされたヒヅルが泣き叫ぶと、ニラギがヒヅルの顔を何度も殴った。

 ヒヅルが大人しくなると、他の男達が寄ってたかってヒヅルを輪姦した。

 猛獣の群れが翼のもげた小鳥を貪るような悲痛な光景に、吐き気が込み上げてくる。

 

「おい…何してんだよ。やめろ!!やめてくれ!!」

 

 俺は、腕を縛るロープの結び目を爪で引っ掻きながら、ヒヅルを取り囲んでいる男達に向かって叫んだ。

 クソッ…解けろよ…!

 

「悪かったよ…もう二度と、アンタらに逆らわないから…代わりに、オレが何でもするから…!オレの大事な仲間なんだよ…!!」

 

 やめろ、やめてくれ…!

 ヒヅルは、俺の希望だ。

 何度も命を救ってくれた、この世界が絶望だけじゃないって事を教えてくれた、大事な仲間だ。

 幸せになってほしいんだよ…!

 

 

 

「うわぁあああああっ!!!」

 

「あっ起きた」

 

 ヒヅルを助けようと身を乗り出すと、俺の視界に見覚えのある顔が映り込む。

 クリハラさんだ。

 どうやらここは、『ビーチ』の医務室らしい。

 

 …思い出してきた。

 俺はヒヅルを助けようとして、ニラギに殴られたんだった。

 それで、そのまま…

 

 じゃあさっきのは…夢、か。

 …妙にリアルな夢、見ちまったな。

 

「…クリハラさん」

 

「聞いたぜ?武闘派集団に喧嘩売ったんだってな。ったく、何やってんだこのバカ野郎!!せっかくオレがNo.1とうまくやってるって時によぉ。頼むから極力トラブル起こさないでくれよ」

 

「…すみません」

 

「余計なお節介は程々にしとけ。お前さんの悪い癖だ。その調子じゃ、長生きできねぇぞ」

 

「……はい」

 

「『ビーチ』に子供が混じってりゃあ、いやでも目立つ。遅かれ早かれ、ああなる事は避けられなかった。正義感を振り翳すのはいいが、もう少し冷静になれ。オレがボーシヤに上手い事取り入ってなけりゃ、お前ら2人とも今頃殺されてたぞ?」

 

 …クリハラさんの言う通りだ。

 クイナさんの制止も聞かず、無策で突っ込んで、結局このザマだ。 

 俺は、ヒヅルを助けられなかった。

 …いや、そもそも、アイツは俺の助けなんか必要としていなかった。

 俺が武闘派連中に立ちはだかったのは、ヒヅルを助ける為ですらない、ただの自己満足だ。

 

「とんだ見込み違いやったわ」

 

 クイナさんは、壁にもたれかかってため息をつく。

 …もしかして、クイナさんが気絶した俺をここまで運んでくれたんだろうか。

 ただの自己満足でクイナさんにまで迷惑をかけて…本当に、何をやってんだ俺は。

 

「まぁ、過ぎた事は仕方ねぇ。お前さんはもう大人しくしてろ」

 

 そう言ってクリハラさんはココアシガレットを齧る。

 

「…クリハラさん。オレ、どれくらい眠ってたんですか?」

 

「ざっと3時間ってとこかな」

 

 3時間…って事は、『げぇむ』はとっくに始まってるよな。

 ヒヅルは…アイツはどうなったんだろうか。

 

「ヒヅルは…どうなったんですか」

 

「…………」

 

 俺は、一番聞きたかった事をクリハラさんに尋ねる。

 するとクリハラさんは、冷や汗を頬から垂らしながら、無言で部屋のカーテンを開ける。

 俺は、さっき見た夢が正夢じゃない事を祈りながら、恐る恐る窓を開けて外を覗き込んだ。

 

 

 

「『げぇむ』から生還者が戻ってきたぞォオーーー!!」

 

「No.2の組だ!!」

 

 外から、ガヤガヤと声が聴こえてくる。

 『ビーチ』には、アグニ達武闘派連中が戻っていた。

 そんな中、『ビーチ』の奴等の注目は、武闘派集団の中にいたある人物に向いていた。

 

「ヤベェぞあの新入り…!『ビーチ』に来て早々武闘派集団に引き抜かれたんだってよ」

 

「あんな弱そうな女のガキがか?マジか」

 

「すげぇなぁ…!オレも仲間に入れてもらえねぇかな」

 

「バーカ、お前じゃ無理だよ」

 

 俺は、信じられないものを目の当たりにした。

 武闘派集団に混じって歩いているのは、ヒヅルだった。

 

「ヒヅル…!」

 

 ヒヅルは、アグニ達と一緒に歩いていた。

 アグニは上から掴むように乱暴にヒヅルの頭を撫で、ニラギは若干強めにヒヅルの肩を叩いていた。

 当の本人は、呑気にあくびをしていた。

 

 …あれ?

 何か、馴染んでる…っぽい?

 

「オレも最初、目を疑ったよ。新入りの分際で武闘派集団の仲間入りするなんざ、一体どんな魔法使ったんだ、ってな」

 

 クリハラさんは、ヘラッと笑いながら言った。

 

 …良かった。

 ヒヅルは生きていてくれた。

 今の俺にとっては、それだけが望みだった。

 俺は居ても立っても居られなくなって、医務室を飛び出した。

 

「あっオイ!」

 

 医務室を飛び出した俺は、すぐにプールサイドへと駆けつける。

 ヒヅルは、プールサイドで武闘派連中に囲まれてピザを食べていた。

 チャラチャラした感じの男にウザ絡みされて、鬱陶しそうに手を払いのける余裕すら見せている。

 俺は、野次馬を押しのけてヒヅルに向かって叫んだ。

 

「ヒヅル!!」

 

 俺が息を切らしながら叫ぶと、ヒヅルが顔を上げて俺の方を見る。

 するとニラギが鬱陶しそうに舌打ちをする。

 

「チッ、またテメェか」

 

 俺は、ヒヅルに駆け寄って無事を確認した。

 

「大丈夫か?奴等に何かされなかったか?」

 

「…特に何も」

 

 ヒヅルは、いつもの調子で答えた。

 脅されて無理矢理言わされている様子もない。

 本当に何もされなかったのか…?

 俺がヒヅルの無事を確認していると、アグニが俺を一瞥してから言い放つ。

 

「ただの穀潰しをいつまでもここで匿うつもりは無ぇから、生き残る資格があるのか試させてもらった。用が済んだらとっとと消えろ」

 

 そう言ってアグニは、その場から去っていった。

 俺は、緊張が解けたからか、その場で膝から崩れ落ちた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、俺はクリハラさんと合流して、今後の事を話し合った。

 

「まぁ、何はともあれヒヅルちゃんが無事で良かったよ」

 

「………」

 

 クリハラさんは明るい声で言うが、俺の気分はまだ晴れない。

 俺がヒヅルを一人にしたばっかりに、アイツを危険な目に遭わせた。

 そもそもこういう事が起こらないようにわざとヒヅルの昇格を阻止したというのに、俺の一番恐れていた事が起こってしまった。

 

「おまた」

 

 ちょうど、シャワーを浴びてきたヒヅルが部屋に戻ってくる。

 よく見ると頬がほんのり赤くなっていて、風呂を堪能してきたのが見ただけでわかる。

 

「ヒヅル」

 

「あ?」

 

「その…あの後何があったのか、話してくれないか?オレ、どうしても知りたいんだ。お前がどうやって武闘派集団に入ったのか…」

 

「知ってどうすんの?」

 

「とにかく今は情報が欲しいんだ。頼む」

 

「…ふぅん。まあ、いいけど」

 

 ヒヅルは、俺が気絶してから起こった事を話し始めた。

 あの後ヒヅルは、アグニの部屋に呼び出されて、意外にも丁寧に仕事の内容を教えてもらったそうだ。

 それで『ビーチ』で生き残る資格があるのかを試す為に、武闘派連中と一緒に『げぇむ』に参加させられたという。

 ヒヅルは積極的に『げぇむくりあ』に貢献して、それで実力を認められて半ば強制的にメンバー入りさせられたらしい。

 

「…本当に、武闘派集団に入ったんだな」

 

「だって拒否権無かったし。どのみち、遅かれ早かれああなってたよ」

 

 確かにその通りだ。

 『ビーチ』にいる以上、いずれこうなる事は避けられなかった。

 ヒヅルには、とっくにその覚悟ができてた。

 そういうところも、きっと武闘派集団に引き抜かれる要因の一つではあったんだと思う。

 …いや、俺が頼りないせいで、ヒヅルにそういう覚悟をさせてしまったんだ。

 

「ヒヅル…その、ごめん。あの時、助けてやれなくて」

 

「うん。アレはマジでいらない時間だった」

 

 即答…

 

「別に変な事されてないし、そもそも助けてなんて一言も言ってない。何勝手に責任感じちゃってんの?きっしょ」

 

「う…」

 

 み、耳が痛い…

 正論すぎてぐうの音も出ない。

 

「人の心配する前に、自分の心配した方がいい…と思う」

 

 そう言ってヒヅルは、部屋から出ていった。

 どうしてもヒヅルに幸せになってほしい気持ちばかりが先走って、ヒヅル自身の気持ちを全然考えてなかった。

 俺は…どうすれば良かったんだろう。

 

 そう思っていると、クリハラさんが、俺の肩に手を置いてくれた。

 

「悪い方に考えんな。今は、ヒヅルちゃんが無事だった事を喜ぼうぜ」

 

「………」

 

「おーい、過ぎた事でいつまでもウジウジすんな。明日、アリス達を迎えに行くんだろ?」

 

「そう…でしたね」

 

 ヒヅルは、ほぼ無理矢理武闘派集団に入れられた。

 だけど、無事に生きて戻ってきてくれた。

 クリハラさんは、カルト派集団に潜入して『ビーチ』の内情を探ってくれている。

 俺が一人でウジウジ悩んでどうする。

 

「しっかし、今頃どうしてんのかね、アイツら」

 

「………」

 

 アリス達は…まだ『げぇむ』の最中かな。

 でも、アイツらならきっと生きて戻ってくる。

 生きている限り、まだ希望は残ってるんだ。

 

 少なくともこの時の俺は、そう信じて疑わなかった。

 

 

 

 ───今際の国滞在七日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 12日

 小鳥遊火鶴 38日

 栗原鳳正 10日

 

 

 

 

 

 

 




リナ
クリハラと一緒にいる美女の一人。
ウェーブのかかった黒髪セミロング。
穏やかで人懐っこい性格に見えて実は腹黒い。
元の世界での職業は看護師。
得意ジャンルは『(はあと)』。

レイ
クリハラと一緒にいる美女の一人。
金髪ポニーテール。
活発で勝ち気な性格。
元の世界での職業は女子バレー選手。
得意ジャンルは『♠︎(すぺえど)』。

マチ
クリハラと一緒にいる美女の一人。
顔の右半分が前髪で隠れたショートヘア。
他二人に比べると落ち着いた性格。
元の世界での職業はミュージシャン。
得意ジャンルは『♣︎(くらぶ)』。
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