ヘイジside
俺達三人が『ビーチ』に来てから3日目。
昨日は、ヒヅルが武闘派集団と接触して、どういうわけか武闘派連中の仲間入りをした。
ヒヅルが武闘派集団に連れ去られたり、俺がニラギに殴られて気絶したりしたせいで、気にする余裕もなかったけど、昨日はちょうどチョータとシブキさんの『びざ』が切れる日だった。
そして今日の午前9時、皆で例の病院で会う約束をしている。
アリス達は、無事に皆で生きて『げぇむ』を『くりあ』したんだろうか。
「あの…ちょっと出掛けてきていいですか?寄りたい場所があるんで…」
俺は、『ビーチ』の車を借りて、アリス達が仮宿にしている病院に向かった。
『げぇむ』は今日の午前0時までには終わってるはずだから、皆今は病院にいるはずだ。
…でも、アリス達と合流するのはいいとして、その先はどうする?
ハッキリ言って、奴隷にトランプをせっせと集めさせるようなふざけた計画にアリス達を巻き込みたくない。
たった一人しか出国できないなんて、そんなの、アイツらが求めてた『答え』じゃない。
かと言って、カルベやチョータの怪我をちゃんと癒せる場所は、この国じゃ『ビーチ』くらいしかない。
やっぱり、『ビーチ』に連れて行くしかないのか…?
…いや、それよりもまずは4人の無事を確認しないと。
病院に着いた俺は、車から降りて4人を探した。
「おーい!アリスー!カルベー!チョーター!シブキさーん!迎えに来たぞー!」
俺は、大声で叫んで4人を探した。
いくら叫んでも、返事はない。
ここで待ち合わせするって約束だったはずなんだが…
「誰もいないのか!?誰かぁ!!誰でもいい、返事をしてくれ!!」
どんなに叫んでも、俺の声が病院にこだまするだけで、他の誰かの声が聴こえてくる事はなかった。
それから2時間探しても、誰も見つからなかった。
「おいおい…嘘だろ?冗談よせよ…なあ……!」
…本当は、薄々わかってはいた。
そりゃあ、人が当たり前に死ぬのが『げぇむ』だ。
『くりあ』できずに終わる事なんてざらにある。
俺はずっと、その可能性から目を背け続けてきたんだ。
皆、死んだ。
昨日の『げぇむ』を『くりあ』できなかったんだ。
…いや、『くりあ』出来ても、ここまで辿り着けなかったのかもしれない。
また、大事な仲間を失っちまった。
俺は、涙が枯れるまで泣き続けた。
泣いて、泣いて、落ち着いた頃にはすっかり日が暮れていた。
俺は、重い足取りで車に乗って『ビーチ』に戻った。
帰り道の街並みには、ポツポツと灯りがつき始めていた。
『げぇむ』が始まったんだ。
ヒヅルは…今頃武闘派連中と一緒に『げぇむ』会場に向かってんのかな。
よく毎日挑む気になれるよな…
ニーナやアリス達、皆の命を奪った、悪趣味な『げぇむ』に。
『ビーチ』の医務室に行くと、クリハラさんが手術着に着替えて手術室で待機していた。
「おかえり。遅かったな。どうだった?」
「……んだよ」
「あ?聴こえねぇぞ」
俺が呟くと、クリハラさんが訊き返してくる。
俺は、俯いて拳を握りしめながら、起こった事をそのままクリハラさんに語った。
「……皆死んだ。アリスも、カルベも、チョータも、シブキさんも…皆、死んだよ」
俺が言うと、クリハラさんは僅かに目を見開く。
そして深めのため息をついてから、ポツリと呟いた。
「…そっか」
……え?
それだけ…?
たったの数時間とはいえ、一緒に過ごした仲間が死んだんだぞ?
それを、『そっか』の一言で…
「クリハラさんは…皆がいなくなって、何とも思わないんですか…?」
「他にやるべき事がある。それだけだ」
クリハラさんが冷淡に呟いた、その直後だった。
「道開けろ!!急患だ!!」
ホテルの廊下に、男の声が響き渡る。
するとクリハラさんは、俺を突き飛ばして手術室のドアを開けた。
「ほら、邪魔邪魔どいたどいた」
クリハラさんは、俺を押し退けて患者の通り道を作る。
手術室へ患者を運ぶ途中、クリハラさんは患者の付き添いの男女に容態を尋ねる。
「容態は?」
「左脇腹に銃創…あと、右脚に矢が貫通してます!」
「応急処置はしたのか」
「一応…ただ、出血がひどくて…」
「患者の血液型は」
「え…っと」
「O型!O型Rhプラスだ!」
「マチ、道具は?」
「はい!消毒してあります!」
「リナ、薬は!」
「準備できました!」
「レイ!!奥の部屋の冷蔵庫から全血製剤ありったけ持ってこい!!OのRhプラスだ!!一刻を争う、早くしろォ!!」
「お、おう!」
クリハラさんは、その場にいた助手達に的確な指示を出した。
昼間はただのスケベオヤジという印象だけど、こういう時は誰よりも頼りになる人だ。
数時間にも及ぶ手術が終わり、クリハラさんが手術室から出てくる。
すると、患者の仲間達がクリハラさんに駆け寄る。
「先生!手術は…どうなったんですか…!?」
患者の仲間が尋ねると、クリハラさんはその場でしゃがみ込み、顔の前で両手の指の腹を合わせながら、安堵のため息を漏らす。
どうやら、手術は無事成功したみたいだ。
それを知った患者の仲間達は、涙を流しながらクリハラさんの手を取る。
「ありがとうございます、先生…!!」
患者の仲間とクリハラさんは、握手を交わした。
クリハラさんは、ほとんど顔も名前も知らない他人を救う為に全力を尽くした。
それに比べて俺は、仲間一人救えない。
元の世界にいた頃からそうだった。
口先だけで、何一つ成し遂げられない。
…最低じゃないか、俺って。
俺が外のベンチで打ちひしがれていると、クリハラさんが隣に来た。
「医者ってのはカミサマでもヒーローでもない。救えない命なんざごまんとある。だからこそ、手が届く範囲にいる奴を生かす為に今を生きる。死んだ仲間より、生きてる他人。何を言われようが、それがオレの生き方だ」
クリハラさんは、俺の顔に冷たい缶コーヒーを当ててきた。
「いつまでもウジウジするな。自分の足で立って、自分の頭で考えて、死ぬ気で足掻け。お前さんはまだ、生きてるんだから」
…そうだ。
今まで何をやっていたんだ、俺は。
アリス達と、『答え』を見つけるって約束したんだ。
その俺が、足を止めてどうする。
クリハラさんはカルト派集団に入ったし、ヒヅルは武闘派集団に入った。
今、何の後ろ盾も無いのは俺だけだ。
でも、どこにも所属していないからこそできる事もある。
もうあんなヘマはやらかさない。
…考えろ、この監獄から脱出する方法を。
◇◇◇
今際の国滞在9日目。
俺達が『ビーチ』に来てから、今日で4日目になる。
あれから俺達は、順調に昇格を果たし、今では俺がNo.40、ヒヅルがNo.49、クリハラさんがNo.16だ。
俺は、昨日からずっと、この国の事や『げぇむ』の傾向を徹底的に調べてきた。
調べるうちに、大体の『げぇむ』の傾向が見えてきた。
傾向さえわかれば、生き残りやすい『げぇむ』を狙い撃ちする事も不可能じゃない。
『げぇむ』での生存確率を1%でも上げて、皆で出国する方法が見つかるまで、皆が生き残れる猶予を1日でも長く引き延ばす。
…できれば、もうこれ以上、目の前で人を死なせたくない。
俺が『げぇむ』会場へ向かう準備をしようとしていると、何やらプールサイドで騒ぎが起きていた。
俺は、騒ぎの中心を取り囲むように立っていた野次馬に尋ねる。
「どうした?」
「アイツが、『げぇむ』に参加しないってゴネてんだよ。今日で『びざ』切れだってのに」
騒ぎの中心へと駆けつけると、小柄で細身の男がプールサイドに座り込んで怯えていた。
「何弱気になってんだよ。『くりあ』さえすれば、『びざ』も増えるし昇格だって夢じゃない!皆で一緒に『くりあ』しようぜ?」
「うるせぇ!何が『皆で一緒に『くりあ』しよう』、だ!お前ら、前の『げぇむ』でオレ以外の奴がどうやって死んだのか知らねぇだろ!?皆、血を吐いて苦しみながら死んだ!あんな目に遭うくらいなら、オレはもう『げぇむ』から降りる!」
他の奴等は、怯えて動かない男を何とか立たせようとするが、男は意地でも『げぇむ』に参加しないつもりだった。
『げぇむ』で苦しんで死ぬくらいなら、『びざ』切れで死んだ方がマシ…か。
「何寝ぼけた事言ってんだ!どのみち、『げぇむ』に参加しなきゃ死ぬんだぞ!」
「そうよ…!それに、次の『げぇむ』で未回収のカードを回収できるかもしれないのよ?」
「お前ら…いつまでまやかしに酔ってるつもりだ?こんなところにいたって、希望なんか無えぞ。オレ達が出国できる日なんて、永遠に来ない」
男は、絶望の表情を浮かべながら言った。
この男にはもう、『ビーチ』のまやかしは通用しない。
死への恐怖が高揚や執念を上回って、洗脳が解けたんだ。
曖昧なゴールをチラつかせて洗脳されれば、誰だっていつかは
「オレ達は、せっせとトランプを集めるためだけに生かされてる、ただの奴れ──」
「おい。今の発言は、『ビーチ』に対する反逆か?」
俺は、男が全てを言い終わる前に、遮るように言った。
今の発言を、幹部の奴等に聞かせるわけにはいかない。
「『裏切り者には死を』、忘れたわけじゃないだろうな」
俺は、男の頭を掴んで、上から威圧するように言った。
男がビクッと肩を跳ね上がらせて萎縮すると、俺は男の頭を掴んだまましゃがみ込んで、耳元で囁いた。
「“『ビーチ』の為”じゃ難しいなら、自分の為に生きろ。この世界に、絶望しかないなんて事はない。生き延びさえすれば、どこかに希望はあるはずだ」
「………」
「今日の『げぇむ』は、一緒に参加しよう。オレの言う事を聞いてくれさえすれば、オレがアンタを生かしてやる」
俺が囁くと、男はしばらく俯いて咽び泣いた後、立ち上がって俺の後ろについてきた。
俺は、『びざ』切れ間近の人をあと二人誘って、即席の4人組を結成して『げぇむ』会場へと駆り出した。
俺が今まで参加した『げぇむ』や『ビーチ』の奴等の証言をまとめて『げぇむ』の傾向と難易度を整理してみたら、会場によって大体の『げぇむ』のジャンルが予想できる事に気がついた。
俺が今夜狙いに行くのは、『
そもそも全員が協力するのが前提の『
『
そこで俺は、全員が生きて帰れる可能性がある『
まあ、この方法も絶対じゃないし、バトルロイヤル形式の『げぇむ』を引き当てちまう可能性もゼロじゃないが、何もしないよりは格段に全員で生きて帰れる確率を上げられるはずだ。
車を走らせる事数十分、俺達が向かったのはテレビスタジオだ。
「ここか…」
俺達が『げぇむ』会場に足を踏み入れると、既に先客がいた。
大きなリュックサックに野球帽、体型を隠すようなブカブカのパーカー、瓶底メガネといった格好をした、そばかすが特徴的な小柄な青年だ。
「あ、良かった、やっと人来た!エントリー数5人って書いてあるのに誰も来ないから、どうしようかと思ってたところだったんスよ!あっ、ジブン
アキナと名乗る青年が、俺達に話しかけてきた。
これで5人…
『げぇむ』の賞品は、『マシンガン』と書かれている。
見ると、スタジオはクイズ番組のような仕様になっていて、ちょうど5人分の回答席が環状に並べられている。
5人でやる『げぇむ』か…
どんな『げぇむ』なんだ?
俺達が全員回答席に座ると、拘束具で胸と腹を拘束される。
回答席には、『○』と書かれた緑色のボタンと『×』と書かれた赤いボタンがはめ込まれていて、ちょうど腹の位置に銃口が来るようにマシンガンが設置されている。
《それでは、『げぇむ』の時間です。難易度…『
『
ビンゴだ…!
「『
「しかも、8って…終わった…!」
他の奴等は、『
とりあえず、『げぇむ』の内容を聞くしかないか。
《皆様に参加していただく『げぇむ』は、『たすうけつ』》
多数決…?
多数決って、あの多数決だよな。
《皆様にはこれから、こちらで出題する1問1答形式の質問に答えていただきます。質問は全て、『はい』か『いいえ』で答えられる質問となっております。回答時間は1問につき1分間。『はい』と回答する場合は手元の『○』のボタンを、『いいえ』と回答する場合は手元の『×』のボタンを押してください。最初の持ち点は10点。回答時間終了後に皆様の回答を集計し、回答が『多数派』か『少数派』かによって得点が変動します。問題数は全部で20問。『げぇむ』終了時点での得点が1位の参加者は『げぇむくりあ』。次に、『げぇむおおばぁ』になるのは次の3つの場合です。得点が0を下回った場合、最終得点が2位以下の場合、回答時間内に回答できなかった場合。『げぇむおおばぁ』になった場合、座席に設置されたマシンガンが即座に作動します》
2位以下は銃殺刑って…
どこまでも悪趣味だな。
《次に、得点の説明です。『多数派』を選択した参加者は、プラス1点。『少数派』を選択した参加者は、マイナス1点。全員が同じ回答をした場合、または票が同数に割れた場合は、全員マイナス1点。回答が他対一に割れた場合は、異なる回答をした1人のみマイナス10点。他の参加者はプラス2点。途中で参加者が2人以下にまで減った場合は、その時点で『げぇむ』終了。得点が多かった方が『げぇむくりあ』》
「何で票がカブったら点が減るんですか…?『多数決』なんだから、全員が同じ答えでもいいじゃないスか」
「全員が同じ票を選び続ければ勝てるんなら、『げぇむ』にならないからだ。自分が生き残りたいからって全員が多数派になりそうな方を選べば、当然票はカブり続ける。そうなれば、自ずと全員『げぇむおおばぁ』になる。そこに勝者はいない」
この『げぇむ』は、安全な選択にしがみついてるだけじゃ生き残れない。
自分が多数派になりつつ他の参加者に少数派を選ばせなきゃ、得点を増やせない。
…どこまでもいやらしい『げぇむ』だな。
《5問出題するごとに、1時間のクールタイムを挟みます。クールタイム中は、控え室で待機していただきます。クールタイム中の禁止事項は、他の参加者を自力で回答できない状態にする事。その他に行動に制限はございません》
クールタイム…ねぇ。
この時間をいかに有効活用して他の参加者を少数派にするかが鍵になるって事か。
裏切り、洗脳、拷問…他人を蹴落とす方法はいくらでもある。
本当に『
《それでは、『げぇむすたあと』》
「に、2位以下は銃殺刑って…」
「どーすんだよぉ!!」
「ジブン、死にたくないっスよ!」
『げぇむ』が始まると、皆パニックを起こし始める。
…ん?
『げぇむくりあ』の条件は、
ちょっと待てよ。
この『げぇむ』ってひょっとして…そういう事か?
「皆、聞いてくれ!この『げぇむ』、オレの言う通りにしてくれれば5人全員生きて帰れるぞ!」
俺は、他の4人にこの『げぇむ』の必勝法を教えた。
と言っても、ただの八百長なんだけどな。
最終得点が1位の参加者が『げぇむくりあ』なら、全員が同率1位の場合は全員『げぇむくりあ』になるはずだ。
だったら、全員が同点になるように、あらかじめ回答を示し合わせておけばいい。
…本当に、これが今日会ったばかりの赤の他人なら、自分が多数派を選び続けられるように醜い騙し合いや心理戦が繰り広げられていたかもしれないと思うとゾッとする。
《『こんぐらちゅれいしょん』。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》
結局『げぇむ』は、全員が同点で終わり、5人全員で生きて『くりあ』する事ができた。
『ビーチ』の仲間の3人は、身を寄せ合って生還した事を大喜びしていた。
「あざぁした!皆さんのおかげで生き残れたっス!」
アキナは、上半身を直角に下げて俺達に礼を言った。
行く宛が無いと言っていたので、俺はアキナを『ビーチ』に誘う事にした。
「アキナ、行く宛がないならお前も『ビーチ』に来ないか?」
「いえ!ジブン、人多いの苦手なんで!遠慮しときます!」
「どこ見てんのお前…」
アキナが明後日の方向を向きながら言うので、俺は思わずツッコミを入れた。
何というか…最後までキャラの濃い奴だったな。
◇◇◇
「『げぇむ』から生還者が帰ってきたぞォ!!」
俺達が4人揃って『ビーチ』に戻ると、歓声が俺達を出迎える。
最初はうるさいと思ったが、今じゃもう慣れた。
「すげぇぞアイツ、一人も死なせずに『
「かぁ〜っ、でも惜しい!数字が1番違いなんだよなぁ〜!」
確かに未回収の『
それにしても、命懸けで『くりあ』した『げぇむ』を、『惜しい』って…
やっぱりコイツら、色々大事なものが麻痺してるんじゃないのか?
「あの、ありがとうございます…」
「気にするな。お互い様だ」
さっきプールサイドでごねていた男が礼を言ってきたので、俺は軽く手を振っておいた。
皆で生きて帰る方法を探すのが難しいなら、一人でも味方を増やす。
一人じゃ不可能な事でも、仲間が増えればできる事があるはずだ。
どの派閥にも入れない奴を、俺なりのやり方で守る。
皆で帰る方法を、皆で探す。
何と言われようと、それが俺の生き方だ。
◆◆◆
???side
俺は今、夢を見ているんじゃないかと自分の目を疑っている。
目の前に広がっているのは、非現実。
水着姿の男女が、プールサイドではしゃいでいた。
俺がここに来たのは、ついさっきの事だ。
『びざ』が切れそうになって、藁にもすがる思いで参加した『げぇむ』が『
その後、その人に誘われて『ビーチ』の一員になったというわけだ。
俺がどうしたらいいかわからなくて困っていると、酔っ払った人が話しかけてくる。
「よぉ。お前、新入りだろう?」
「え?あ、はい」
「せっかくだから、今アツい奴等を紹介してやるよ。まず、ボーシヤの後ろにいるサングラスのオッサンがクリハラ。『ビーチ』屈指の頭脳派で、闇医者をやってる。『ビーチ』に入ってから1週間も経たずにNo.12にまで上り詰めたツワモノだ」
そう言って酔っ払ったおじさんが指を差したのは、クズリューさんやアンさんと一緒にボーシヤさんの後ろに立っている天然パーマにサングラスのおじさんだ。
あれっ…?
もしかして、クリハラって…
うわっ、何というか…だいぶ昔にニュースで見たのと人相が違うなぁ。
なんて思っていると、おじさんは、別の人を指差す。
今度は、見た目が怖い感じの人達の中に混じっている小柄な女の子だ。
「で、次に、武闘派連中と一緒にいるあのカワイコちゃんがヒヅルちゃん。クリハラと同じタイミングで入ってきたルーキーで、この前の『げぇむ』で一気にNo.24にまで昇格した実力派だ。ここじゃ最年少だが、武闘派集団の実質的なNo.4だ」
おじさんは、『武闘派集団』と呼ばれる派閥に所属している女の子を紹介してくれた。
濡羽色のショートヘアと日本人離れした紅い瞳の猫目が特徴的で、遠くからでもわかる端正な顔やスタイル抜群の身体、スラっとした脚が目を引く美少女だ。
あんな可愛い子が武闘派集団のNo.4だなんて、正直信じられないな。
「か、可愛い…」
俺がヒヅルちゃんに見惚れていると、ちょうど本人と目が合った。
俺と目が合ったヒヅルちゃんは、プイッと横を向いてしまった。
何か冷たいな…?
「おっと、間違っても手を出すなよ。あの娘に手を出そうとした野郎が、奴等に両腕両脚折られて便所送りにされた挙句、そのまま『びざ』切れしたって話だ。クソと一緒に便所に流されたくなきゃ、眺めるだけにしとけ」
トイレ送りって…
目をつけられたくないし、あの娘には関わらないようにしよ。
「そして、お前さんを連れてきたあの男がヘイジ。ここ最近『
おじさんが最後に紹介したのは、俺をここに連れてきてくれた人だ。
ラッシュガードのフードを深く被っていて、よく見ると引き締まった身体をした、若くて背が高い男の人だ。
「聞いて驚け?アイツは毎日その日限りの即席のチームを作って『げぇむ』に挑んでいるんだが、アイツがメンバーに入ったグループは、今まで誰一人として死んでないんだぜ?」
「えっ…!?」
「生きたいって気持ちを弄んで壊す『
「は、ハートストライカー…」
あだ名ダッサ。
他の人達が『げぇむ』から生還したヘイジさんを讃えていると、ヘイジさんは取り巻きに向かって一喝する。
「勘違いするんじゃねぇ。オレはトランプを集める為の駒が欲しいだけだ。甘い汁を啜るだけの寄生虫に用は無ぇ。駒は駒らしく、役に立ってから死ね」
「そう言って、アンタはいっつもオレ達を助けてくれるんだ!」
「『ビーチ』の英雄だよ、アンタは!」
ヘイジさんは、冷たい目をして取り巻き達に一喝していたけど、取り巻き達はヘイジさんを英雄として讃えていた。
ヘイジさんは、他の人達への態度はキツいし、鋭い目つきをしていて顔つきは怖いけど、『げぇむ』に慣れていない俺を助けてくれただけじゃなく、ここに俺を連れてきてくれた恩人だ。
あの人についていけば、俺達が出国できる日は近い、そんな気がした。
◆◆◆
チシヤside
お人好しのヘイジ君が、この短期間で随分と偉くなったものだ。
武闘派の奴等に刃向かって殴られたと聞いた時は買い被りすぎたと思ったけど、手酷くやられた人間の成長速度を見縊ってたよ。
『おにごっこ』の時、彼に貸しを作った甲斐があったね。
俺は、鬱陶しそうにため息をつきながらホテルのロビーに戻ってきたヘイジ君に声をかけた。
「やあ。最近随分と弾みがついてるみたいだね。『ハートストライカー』さん?」
「…その呼び方はやめてくれ」
「ここまで目立つ事しておいて、よく潰されずに済んでるよね」
「さあ?日頃の行いじゃないかな」
よく言うよ。
えげつない方法で心を壊してくる『
そもそも『
彼は自分の価値を客観的に理解した上で、堂々と目立つ行動をしている。
なんだ、案外図太いとこあるじゃん。
「いい加減どうでもいい奴を助けるのやめたら?使えない奴はいつまでも足引っ張るだけだよ」
「…人はそう簡単には変われない。そんな事、分かってるさ。でも、だからって、いつまでも皆がまやかしに染まり切ったままじゃ、出国なんて夢のまた夢だ。生きて元の世界に帰るには、皆が自分で考えて生きていけるようにならないと。いつかは、夢から醒めなきゃいけないんだ」
そんな事したって無駄だと思うけどね。
人はそう簡単には変われない。
バカは一生バカのままだよ。
ヘイジ君が助けた奴等の中に、出国したいと本気で思ってる奴が一体どれだけいると思う?
コイツらは、何も考えずにヘイジ君についていってるだけだよ。
それが一番楽だから。
俺は、外でバカ騒ぎしてる連中を横目で見ながらヘイジ君に話しかける。
「バカは夢を見たまま捨て石にされた方が幸せでいられるのにね。君は、彼らにとって一番残酷な事をしようとしてるんだよ?」
「そうかもしれない。だけど、それがオレの生き方だ」
「…ふぅん」
…どこまでも、見捨てたりはしないんだね。
価値観の違いは決定的だね。
でもまあ、今を変えようって気概だけは認めてあげるよ。
「そろそろ戻るぞ。オレも暇じゃないんだ」
そう言って、ヘイジ君は先に部屋に戻っていった。
その直後、入れ替わりでクイナがホテルに戻ってくる。
「何や。とんだ見込み違いや思てたけど、やるやんアイツ」
「前とは面構えがまるで違う。使えるかもね、オレ達のプランに」
ヘイジ君はここにいる奴を皆助ける気でいるみたいだけど、俺は他の奴等がどうなろうと知ったこっちゃない。
革命家紛いの事がやりたいなら、俺が目的を果たした後で勝手にやっていればいい。
せいぜい、俺のプランの為に暴れ回ってもらうよ♪