クリハラside
今際の国滞在23日目。
『ビーチ』に来てからというもの、俺はヒヅルちゃんの手柄と密告、それから『イバラハナエ』の名前を使って昇格しまくった。
せっかく幹部昇格まであと一歩のところまで来たんだ。
このまま幹部入りして、頃合いを見てNo.1のイスをぶん奪ってやる。
「警察、探偵、情報屋…ここ1週間、人探しに長けた人材を募って23区を中心に徹底的に捜索したわ。人員が足りないとはいえ、イバラハナエという人物の目撃証言すら見つからなかった」
「ようやく有力な情報を掴んだかと思えば、どれも人違いかガセネタというオチだ。本当にこの国にいるんだろうな。そのイバラハナエという人物は」
ボーシヤ一派のアンとクズリューは、ボーシヤの指示に従ってイバラハナエを捜索する事に疑念を抱き始めていた。
そりゃあ、1週間探して目撃証言すら見つからなかったら、俺が嘘ついてる可能性を疑いはするわな。
「ああ。イバラハナエはちゃんとこの国にいるぜ?オレは、実際に会ったって奴から直接話を聞いてる。『
嘘はついてない。
ニーナとかいう娘が『くりあ』したのは『
まあ、その娘とヘイジがイバラハナエに出会ったのは、本当は『
イバラハナエが絵札の『げぇむ』の鍵を握ってるって俺の考えも、核心を突いてる可能性はあると思ってる。
いい歳こいた大人がよってたかって追っかけても捕まらない女と、目撃情報すら見つからない絵札の『げぇむ』。
かなり無理のあるこじつけだが、俺にはそこに何らかの関連があるように思えてならない。
悪いが、アンタらに先にイバラハナエを見つけられちゃあ、困るのは俺なんだよ。
イバラハナエが『答え』を知ってるなら尚更だ。
俺がNo.1のイスをぶん奪るまでは、アンタらにはゴールの手前でウロウロ迷っててもらわねぇとな。
もっとも、俺が手を打たずとも、イバラハナエ本人は勝手に逃げ回ってくれてるみたいだが。
「仮にイバラハナエが実在して、君の推測通り彼女が絵札の『げぇむ』の手掛かりを握っていたとしても、既に『げぇむ』会場ごと消滅しているという可能性もある。このまま捜査を続けて、それに見合う収穫が得られる保証はあるのか?」
「オレらが探してる事に勘付いて逃げ回ってるって可能性もあるぜ?お巡りさんまで撒いちまうとは、よっぽどの照れ屋さんなのかもな。まだ探し始めてから1週間しか経ってないんだ。焦らずもう少し気長に探してみましょうや」
「そう悠長な事も言ってられないわよ。人探しのボーダーラインは1週間。それ以上捜索が長引けば、見つかる確率は一気に下がるわ」
おうおう、カルト派集団に所属してる割には案外現実思考だねぇ。
賢い奴が取り巻きだと、おじさんやりづれぇや。
だが、アンタらの大将はどう考えてるのかね。
「捜索は続行する。全ては『ビーチ』の為だ」
そら来た。
そりゃあ、未回収のトランプを持ってるかもしれない女だもんなぁ。
無駄骨かもしれないって頭ではわかってても、そう簡単には捜査を打ち切れねぇよなぁ。
俺がアンタから玉座をもぎ取るまでは、せいぜい生きてるか死んでるかもわからねぇ熟女のケツ追っかけてな。
俺は、表向きはニコニコしてワインのコルクを開けながら、心の中でほくそ笑んだ。
「どうぞ」
俺は、コルクを開けたワインを、直接ボーシヤに手渡した。
瓶から直接いくとは、ワイルドだねぇ。
「うむ、感謝する」
「恐縮です」
俺が今自分にできる最高クオリティの営業スマイルを浮かべた、その時だった。
「…何だ?」
何か入り口の方が騒がしいな。
また新入りが迷い込んできたのか?
「No.1、新入りだ!まーた新入りが2人、迷い込んで来やがった」
そう言ってウチの一派のメンバーが、新入りを連れてくる。
今回は高校生のカップルか。
女の子の方はいい脚してんな。
……ん?
あれっ?
おいおい、嘘だろ!?
死んだんじゃなかったのかよ!?
「あっ、アリス!?」
「クリハラさん…!」
俺とアリスは、お互い目が合って指を差し合った。
何だよ、ヘイジの野郎、誰が皆死んだって?
生きてんじゃねーか!
しかも彼女連れときた。
かーっ、かつての仲間とこうして再会できるたぁね。
「なぁんだお前、生きてたのか!つーか、何いつの間に彼女作ってんのよ」
俺がウザ絡みすると、アリスの隣にいる女の子がキョトンとする。
「アリス、もしかしてこの人が…?」
「ああ。オレがこの前話した仲間だ」
おうおう、俺の事は既に話してくれてるのか。
だったら話が早えや。
俺がアリスに絡んでいると、ボーシヤが俺に尋ねる。
「知り合いかね?」
「ええ。まあ。アイツ、オレの友達なんですわ」
「そうか…カカッ、諸君は実にツイてる!!ようこそ!!理想の
俺が言うと、ボーシヤは大袈裟な身振りをしながらアリス達を歓迎した。
その後は、俺達がここへ来た時みたいに、ボーシヤ、クズリュー、アン、俺の4人で『ビーチ』のルールを説明した。
この説明、新入りが来るたびにボーシヤが直々にするの、何つーか…健気すぎて可愛く思えてきたわ。
でもまあ、やっぱりただ一人だけを出国させるっつー『ビーチ』のシステムには2人ともご不満だったようで、2人とも苦い顔をしながらカードを手渡していた。
だが、俺にとって嬉しい事もあった。
何と、アリス達が未回収だった『
アリス曰く、『
いきなり未回収のカードの功績で昇格たぁ、ツイてるねぇ。
ま、どのみち『ビーチ』は近いうちにこの俺様が乗っ取るがな。
その後俺は、友達だっつー事で、ボーシヤからアリス達に『ビーチ』の事を色々教える係を仰せつかった。
プールサイドでバーベキューをやっている奴等がいたので、俺は鳥串ならぬ兎串を適当に見繕って、アリスとウサギちゃんの分を皿に盛り付けた。
「ま、何はともあれよく来たな。ほれ、飯だ」
「ありがとう。ヘイジとヒヅルは?」
「ああ。二人とも絶賛『ビーチ』ライフ満喫中だぜ。そうだアリス。ビックリする事言っていいか?」
俺は、アリスにヘイジの話をしようとした。
するとその時だ。
「アリス…!?おい、今、『アリス』って言ったか!?」
「えっ?」
プールサイドにいた奴が、俺達の会話を聞きつけて驚く。
「ウッソだろ、マジかよ!?リーダーに知らせねぇと!」
プールで遊んでいた奴等のうちの何人かは、いきなり狂喜してどこかへと駆けつけた。
ソイツらが向かった先には、ラッシュガードのフードを深く被った背の高い男がいた。
「おぉい!!リーダー!!アリスだ!!アンタの仲間が来たぞ!!」
リーダーと呼ばれた男は、ゆっくりと俺達の方へ歩み寄る。
そしてアリスの顔を見るなり、驚いた表情を浮かべて口を開いた。
「アリス…本当に、アリスなのか…!?」
歩み寄ってきた男は、フードを脱いで顔を見せた。
喜べ、お仲間との再会だぜ?
「ヘイジ…!」
◆◆◆
ヘイジside
「アリス!!」
アリスが生きてた。
生きてくれていた。
病院にいなかったから、俺はてっきり、アリスが死んだとばかり思っていた。
「良かった、無事だったんだな…!」
「アンタらもな」
俺が目に涙を浮かべながらアリスの無事を喜ぶと、アリスも安堵の表情を浮かべる。
アリスだけじゃない。
『おにごっこ』の時の女の子も来ていた。
「あなた、『おにごっこ』の時の…」
「ああ。ヘイジ。北句平治だ。キミは?」
「ウサギよ。宇佐木柚葉」
俺が先に名乗ると、女の子も名乗った。
ウサギか…
ウサギは、途中でアリスと合流したんだろうか。
カルベやチョータ、シブキさんの姿が見えないけど…
「ところで、アリス。カルベ達は……」
俺が言いかけると、アリスとウサギが暗い表情を浮かべる。
「………ごめん」
…そっか。
アリスしか、助からなかったんだな。
だからあの時、病院に誰もいなかったのか。
…いつまで経っても、仲間が死ぬのは心が痛くて苦しいものだな。
「…でも、良かった。お前だけでも、生きていてくれて」
俺がアリスの手を取って安堵の溜息を漏らすと、さっきまで暗い表情をしていたアリスとウサギの表情が微かに緩む。
すると、それを見ていた俺の仲間がざわざわと騒ぎ出す。
「り、リーダーが笑った…!?」
「今日、雪でも降るんじゃねーのか!?」
雪って…
アイツら、俺の事を何だと思ってるんだ…?
確かにアイツらの前では、感情を表に出す機会は少なかったかもしれないが…
俺だって、笑う時は笑うし泣く時は泣くぞ。
俺の仲間がざわざわしていると、ウサギが若干引き攣った表情を浮かべながら尋ねる。
「あの人達は?」
「ああ。ここに来てから一緒に『げぇむ』を『くりあ』した仲間だ」
「オレ達、『げぇむ』でヘイジさんに助けてもらったんだ!」
「あなた達がリーダーの仲間?あとで一緒に話そうよ!」
俺が仲間を紹介すると、俺の仲間達は早速興味津々と言った様子でアリスとウサギに話しかけた。
すると、その時だった。
――ズンッ♫
いつものように、やかましい音楽が鳴り響く。
音楽で気分が昂った奴等が、馬鹿騒ぎを始める。
もはやお馴染みの光景だ。
そんな中、俺はただ冷静に、ポツリと呟いた。
「ああ、もうそんな時間か」
「イェェェイ!!もっとボリューム上げろォォ!!」
「な…何!?」
「日没が近いんだよ!!もうすぐ『げぇむ』の時間だ!!宴の、始まりだ!!」
やかましい音楽が鳴り響く中、プールサイドにいた奴等はバタバタと忙しなく移動を始める。
「オイ!!今夜の『げぇむ』の参加者は!?」
「4組です!!」
「最近手薄なエリアを攻めろ!!」
「足立区と江東区に2組ずつだ!!」
「品川区にも新しい『げぇむ』会場を多数確認!!」
「車は!?」
「第2Pに!!」
「ガソリンチェックしたか!?」
「バカヤロー!!ショットガンは目立つから置いてけ!!予備のマガジン忘れんなよ!!」
段取り良く『げぇむ』の準備を進める『ビーチ』の奴等を見て、アリスとウサギは驚いていた。
そしていつものように、ボーシヤの演説が始まる。
ボーシヤの鼓舞と、篝火の眩しい光や爆音の音楽で気分を高揚させられた連中は、馬鹿みたいに雄叫びを上げて騒ぐ。
その光景を、アリスは冷めた目で見ていた。
「……ハハッ、何だよこれ…?うすら寒ぃ…」
『うすら寒い』、か。
最初にここに来た時、俺もそう思ったよ。
この熱狂も、所詮まやかしだ。
◆◆◆
ヒヅルside
俺は、『げぇむ』に参加する為の準備をした。
水着の上にミリタリーパンツを穿いて、ベルトを締めて、半袖のミリタリージャケットに袖を通す。
『
一応、ナイフをチェックしておくか。
傷ナシ、刃毀れナシ、切れ味問題ナシ。
…よし。
「テメェ、装備それだけかよ」
「うん。オレの命」
俺がナイフを腰に差すと、ニラギが話しかけてくる。
ニラギは、ライフルを持っていくみたい。
よくそんな重そうなの毎回持っていくよね。
「チッ、これ持ってろ」
そう言ってニラギが渡してきたのは、ハンドガンだった。
これをどうしろと…?
「え…でもオレ、ハンドガンなんて使った事ない」
「知るか。テメェで何とかしやがれ、バカガキ」
ニラギはすぐ俺の事を『バカ』って言う。
俺ってそんなにバカなの?
なんて考えていると、そこへラスボスが来た。
ラスボスは、いつも通り太刀を背負っている。
「ねぇ。今日はその刀使わないの?」
「…………」
「せっかく『げぇむ』するんだったら一回くらい見せてよ。こんな特殊な状況じゃなきゃ、真剣を生で見られる機会なんかそうないし」
今日こそ、ラスボスが刀使ってるとこ見たいな。
今まで一度も見せてくれた事なかったし。
刀身を見たのだって、最初に俺を歩かせようとした時くらいだし、切れ味をその目で確認した事はない。
本物の刀なんて、元の世界じゃ生で見られなかったから、やっぱりこの国に来て良かったって思う。
それにしても、刃がついた武器って心くすぐられるよね。
少ない力で殺傷能力を高める為に工夫して造られた刀身の持つ機能美は、何物にも替え難い。
形状や使い手によって使い方や斬れ方にバリエーションが出るところも含めて、芸術だよね。
…まっ、一番のお気に入りは俺のこのナイフだけどね。
「何ニヤニヤしてんだ。きっしょ」
「………」
俺が武器庫のナイフや剣に見惚れていると、ニラギが顔を顰めた。
ふん、わかってないな。
元の退屈な世界じゃ味わえない感動だよ?
なんて考えていると、アグニが後ろから声をかけてきた。
「おい。行くぞ」
「わかった」
アグニが声をかけてきたから、俺は黒塗りの車の後部座席に乗った。
車で揺られる事数十分、『げぇむ』会場に着いた。
「動物園…?」
動物園って事は…今回は『
やった、俺の得意ジャンルじゃん。
まあ、どんなジャンルだろうと楽しませてもらうけどさ。
《それでは、『げぇむ』の時間です。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は…『もうじゅう』》
しばらく動物園の入り口あたりでうろうろしていると、アナウンスが聴こえてきた。
《エントリー数、無制限。賞品、なし。難易度…『
「!」
来た、ビンゴだ。
『
《『るぅる』。『しまうま』の皆さんが、『もうじゅう』を全て倒せば『げぇむくりあ』》
ふぅん、結構シンプルな『るぅる』じゃん。
とりあえず、スタート位置が選べるみたいだから会場全体を見渡せる高いところに移動しとこっと。
あ、ニラギもこっち来るんだ。
やっぱり人って考える事は一緒だね。
にしても、『もうじゅう』…ねぇ。
今回も、『おにごっこ』の時みたいに武装した敵が出てくる『げぇむ』なのかな。
なんて考えていた、その時だった。
「うわあああああああ!!」
他の参加者の悲鳴が聴こえてきた方を見ると、ライオンの群れが参加者を襲っていた。
うわ、比喩でも何でもないガチ猛獣じゃん。
つーか、人を襲う動物ってそんなに多くないって聞いた事あるんだけど。
どんだけ飢えさせたらこんな凶暴になるわけ?
「いやだ…死にたくない!!助け…あぁあああああ!!!」
ライオンに襲われた参加者は、そのまま抵抗虚しく貪り食われた。
「うわ…こっわ」
「あ?そこでボサっと突っ立ってねぇでテメェも行くんだよ」
「え?」
俺が高台から会場を眺めていると、いきなりニラギが俺の背中を蹴っ飛ばして高台から突き落とした。
「ホラ、エサだ!」
俺が突き落とされた先には、オオカミの群れがいた。
飢えたオオカミが、涎を垂らしながら俺に向かってギャンギャン吠えてくる。
は?
え、ここから突き落とすとかあり得んくない?
ひっど。
まぁ、死なないけどさ。
とりあえず俺は、貰ったハンドガンで下にいたオオカミを撃った。
咄嗟に撃ったから狙いもクソもなかったけど、撃った弾が胴体に当たった。
「あっ、当たった」
だけどオオカミは、急所を撃たれても即死しなかった。
撃たれたオオカミが興奮して襲いかかってきたところを回避して、オオカミの群れに向かって銃を乱射した。
3匹のうち2匹は銃で倒せたけど、あと1匹は倒れなかった。
俺は、銃で残りの1匹を倒そうとした。
「!」
…ちっ、弾切れかよ。
これだから銃は…!
俺は、空になった
だけどうまく
俺は、急所に弾を喰らって血を流しながらよろけたオオカミが襲いかかってきたところを、逆に蹴りを入れる。
靴に仕込んだナイフで動きを鈍らせてから、愛用のナイフでトドメを刺した。
やっぱり、こっちのナイフの方が使い勝手良くて好きだわ俺。
にしても、ニラギめ。
俺を猛獣のエサにしようとするとは、酷い奴だ。
ちょっと文句言ってやる。
「おいコラ。オレじゃなきゃ死んでたぞ」
俺が文句を言ったその時、今度は大型のクマが襲いかかってきた。
次から次へと忙しいな。
俺がナイフを構えて対峙しようとしたその時、クマの胸部が横から銃で撃ち抜かれる。
肺に銃弾が当たったのか、クマが胸や口から血を噴き出してもがき苦しむ。
その様子を、ライフルでクマを撃ったニラギが笑いながら見ていた。
「何だよ、ヌルゲーじゃねーか」
ちっ。
俺をエサに、獲物を横取りしやがって。
「…ねぇ。横取りしないでくれる…?」
「バーカ、ボサッとしてんのが悪りーんだろうが」
…いや、高みの見物しながら言われても。
あっ、撃たれたクマが激昂してこっち来た。
横取りするんだったら、ちゃんとトドメ刺してくれないかな。
俺は、岩場をうまく使って木が生えたゾーンまで逃げると、ナイフで木を切断して即席の武器を作る。
クマが突っ込んできたところを狙って、槍を突き立てる。
すると、クマの胸に思いっきり槍が突き刺さった。
「……ふぅ」
しっかり心臓刺した感触がある。
流石にもう動かないでしょ。
てかこれ、制限時間とか無いの?
これで『
「うわあああああああああ!!!」
あ、案外そうでもないんだね。
他の参加者がメッチャ叫びながら逃げてる。
まっすぐ逃げたら襲われるに決まってるじゃん。
「あっ」
トラが他の参加者を襲って貪り食い始めたところを、木の上に身を潜めて攻撃の機会を窺っていたラスボスが、日本刀で不意打ちでトラを仕留める。
おぉう、かっけぇ。
「4……匹…目……」
あ、そっちももう4匹倒したんだ。
これで何匹倒したっけ?
アグニとニラギがバンバン撃ち殺してるからな。
何匹死んだか数えてないや。
近くの岩に登って猛獣を探していた俺は、ラスボスに声をかけた。
「手、貸そうか?」
「……要らない。そっちは自分で何とかしろ」
「わかった」
…さてと。
暴れ回り許可貰ったし、サクッと残りの獲物殺して『くりあ』するか。
◇◇◇
「…ふぅ」
メスのライオンの腹を愛用のナイフで裂いて殺した俺は、ナイフに付いた血と脂を払って一息つく。
あれから何十分経ったかな。
もう何匹目か数えてないけど、近くにいた猛獣を片っ端から殺しまくった。
だんだん獣の声も聴こえなくなってきたし、これ『くりあ』近いんじゃないかな。
…にしても、やっぱりこのナイフいいな。
綺麗だし、これだけ斬りまくってもまだちゃんと斬れる。
「ああああうああああああああああ!!!」
俺が次の獲物を探していると、悲鳴が聴こえてくる。
あ、まだ俺達以外に生き残ってる人いたんだ。
泣き喚きながらこっちに逃げてきたロン毛メガネの人は、追っかけてきたハイエナにそのまま襲われた。
「うあああ!!い…嫌だッ!!助けてッ!!誰か助けてくれぇぇ!!」
ハイエナに襲われたロン毛メガネは、泣きながら助けを求めていた。
するとその直後、アグニがハンドガンでハイエナをロン毛メガネごと撃ち殺した。
「助けてやったぞ、苦しみから。戦う意志も無ぇ軟弱な精神なら…せめて囮として死ね!」
うわぁ、可哀想。
まぁ弱肉強食だからしょうがないか。
なんて考えていると今度は、ライオンがアグニに襲いかかってきた。
するとその直後、ライオンの胸が銃弾で撃ち抜かれる。
「ヒュ〜ッ!日本の警察、結構いい狙撃銃使ってんじゃねーの。日本製ってのも、満更でもねーなこりゃ。とはいえやっぱ、狙撃手の腕がいいせいだな。オレ、ゲーム世代だし」
ライオンを撃ったニラギは、調子に乗って笑っていた。
撃たれたライオンは、よろけながらも立ち上がろうとする。
…もしかして、わざと一発でトドメ刺さずに遊んでる?
そう思ったその時、ライオンの首が上から飛んできた槍で貫かれた。
「……6、匹目…」
ちょうどライオンの真上には、木の枝の上にしゃがんでいるラスボスがいた。
「オイ!!ソイツはノーカンだろ!?今のはほとんどオレの手柄じゃねーかよ!!」
ラスボスが地面に降りると、ニラギがラスボスに文句を言った。
コイツら、もしかして仲良しなの…?
「…あれ、もうこんだけしか残ってないの?加勢しようと思ったのに…」
その場にいた猛獣を全部倒した俺は、アグニ達と合流した。
するとニラギが俺に話しかけてくる。
「あ?ボッロボロじゃねーか汚ねーな。テメェさてはシッポ巻いて逃げ「勝ったし」
ニラギが聞き捨てならない事を言おうとしたもんだから、俺は食い気味に否定しつつ、口の中に入った血をペッと吐き捨てた。
確かに今血まみれだけど、これ、俺の血じゃないし。
服も猛獣の突撃を回避してボロボロになっただけだし。
「にしても今夜の『げぇむ』楽勝すぎじゃね?これで『
いや、銃持ってたら難易度下がるかどうかは人によるでしょ。
それを抜きにしても今夜のは簡単だったけど。
なんて考えていると、最後の1匹になったハイエナが、アグニに狙いを定めた。
アグニはハイエナを撃ち殺そうとしたけど、ハンドガンの弾が切れていたらしく、ハンドガンを投げ捨ててそのままハイエナと取っ組み合いをした。
◆◆◆
ヘイジside
「―というわけで、今は仲間を募ってこの国の事を調べているんだ」
「そっか、そんな事が…」
演説が終わった後、俺はここに来てからの事をアリスに話した。
すると、演説で熱狂していた奴等が俺達の近くを通り過ぎる。
「今回の演説も盛り上がったよなー」
「No.1、やっぱかっけぇよ!!」
「それよか今夜の『げぇむ』の参加者、何人戻ってくるか賭けねー?」
「とりあえずNo.2の組はかてえっしょ!」
「ちょっとやめなよ、不謹慎でしょ!」
アイツら…
人が死ぬかもしれないっていうのに、何をいい気になってるんだ?
…本当に、うすら寒い。
なんて考えていると、クイナさんが俺達のもとへやって来た。
「いい気なもんやな。これがゆとり世代っちゅーヤツか?どいつもこいつもネットゲームで狩りでもしてるつもりなんやろか。あ、隣ええか?」
「え!?ああ…」
「ウチの名前はクイナや。アンタ、今日『ビーチ』に来た新入りやろ?わからん事は気軽に聞いてんか」
「オレ…アリス」
「アリス?何や、女みたいな名前やな!」
クイナさんが笑うと、俺もつられて笑った。
アリスは、クイナさんが咥えていた禁煙パイポに目を向ける。
「ああ、これ?ウチ、『
「は…はあ」
「…おかしいか?明日死ぬかも知らんのに。コイツはな、決意表明や。病気のオカンが家で寝とるんや。1人で便所も行けへんオカンをほったらかしにして、先に死ぬ親不孝モンがどこにおんねん。生きて元の世界に戻るんや。その為なら、手段は選ばん」
…やっぱり、クイナさんは強くて優しい人だ。
こんな人もこの世界にはいる。
この世界が、絶望だけだなんて事はないんだ。
…それにしても、大切な人、か。
俺の一番大切だった人…ニーナは、もういない。
だけど、ヒヅルやクリハラさん、アリス、ウサギ…俺の仲間はまだ生きてる。
それに、元の世界にも、俺の大切な人はいる。
沙由…父さんと母さんが死んでから、俺が上京するまでずっと一緒に暮らしてきた、たった一人の血の繋がった家族。
俺の大切な妹だ。
「元の世界…か。オレは、田舎に妹がいるんだ。オレの唯一の肉親だ。この国に来る直前、手料理を食わせてもらう約束をしてた。元の世界に戻ったら、まずアイツの料理食いてぇな」
「家族、か。ウチと同じやな」
俺が言うと、クイナさんが笑った。
「アリスにも、元の世界で待っとる人がおるやろ?」
「…いや、オレの大切な人は皆………」
クイナさんが尋ねると、アリスは後ろを振り向く。
アリスの後ろには、俺の仲間と一緒にウサギがいた。
するとクイナさんは、何かを察してかニヤリと笑う。
「ああ、
「は!?別に付き合うとか、そんなんじゃねーよ!」
「ったく、これやから最近のガキは。
「やってもねーし!!」
クイナさんが呆れたように言うと、アリスが食い気味に否定した。
…クイナさんの言葉、若干俺にも飛び火してるんだが。
お、俺は断じてニーナとは遊びの関係じゃないからな!
「ほな、プラトニックな片想いか?」
クイナさんが言うと、アリスが顔を赤くする。
これは図星だな。
「わはは照れた!!わかりやすいやっちゃなー!!」
「ち…違げーって!!と…とにかく!そういうのじゃなくて…なんつーか…オレにとってウサギは…」
アリスが言おうとした、その時だった。
「車が戻ってきた!!『げぇむ』から生還者が戻ってきたぞォーっ!!」
そう大声で叫ぶ男がいた。
すると、プールサイドがガヤガヤと騒がしくなる。
「マジかよもう!?」
「早ぇっ!!」
「どこの組!?」
「No.2だ!!」
「スゲェよ!!」
「流石だなァ!!」
No.2…武闘派集団か。
って事は、ヒヅルも一緒だよな。
アイツは…無事なのか…!?
「No.2…!?」
「新入りに…一つ忠告しといたるわ。『ビーチ』で平穏に暮らしたいなら、アイツらには関わらん事や」
「…クイナさんの言う通りだ。オレはかつて、アイツらに逆らって痛い目を見た。オレの仲間も……」
俺は、ヒヅルを助ける為に武闘派集団に逆らって殴られた。
結局ヒヅルは無理矢理武闘派集団に入らされて、俺は何もできなかった。
アリスやウサギを、そんな目に遭わせたくはない。
俺が語ろうとしたその時、武闘派集団が帰ってきた。
リーダーのアグニは、猛獣とでも戦ったのか、顔と左腕を負傷している。
その隣には、ニラギとラスボス、そして血塗れの姿をしたヒヅルがいた。
「あれが…No.2!?」
「『ビーチ』随一の武闘派連中や。これだけ大人数の組織や。上層部の中には、当然いくつかの派閥が生まれる。実質、今『ビーチ』で権力を握っとるのは、No.1率いるカルト派集団と、No.2率いる武闘派集団の2大派閥。いくつかの派閥が互いに抑止力になる事で、今の『ビーチ』はかろうじて秩序が保たれとるんや。忘れんなやアリス、ここは法治国家でも何でもない。奴等は支配の手段に、『暴力』と『恐怖』を好むならず者の集まりや。どこの派閥にも入れず、何の後ろ盾も持たん新入りは、目ぇつけられんように大人しくしとくんが賢明や」
クイナさんは、俺にした説明をアリスにもした。
俺とアリスが武闘派集団に目を向けると、ちょうどアグニの後ろにいたヒヅルと目が合う。
俺達と目が合ったヒヅルは、関係性を探られないようにか、あえて視線を逸らすように帽子の鍔で目元を隠した。
「何でヒヅルがアイツらといるんだ…?」
「…無理矢理入らされたんだ。武闘派集団に」
「え…?」
「オレ達が『ビーチ』に来てすぐ、アイツらが無理矢理ヒヅルを連れ去ったんだ。オレはそれを止めようとして、殴られた」
俺はあの日あった事を、アリスに話した。
ヒヅルはもう手遅れだけど、アリスやウサギには、俺と同じ目に遭ってほしくない。
アイツらと関わらずに済むなら、それが一番いい。
「見ねぇ顔だな。新入りか?」
そう言ってアグニは、ウサギの前に立つ。
ウサギの周りにいた俺の仲間は、ハラハラした表情を浮かべながらウサギを見ていた。
ウサギは、俺の仲間の視線を気にも留めず、アグニを見上げて口を開く。
「…そうだけど、何か用?」
…クソッ。
やっぱりこうなっちまうのかよ。
俺が拳を握りしめていると、ニラギがウサギに話しかける。
「わかんねーか?ウチのボスが
ニラギが下卑た目でウサギを見ると、アリスがプールサイドから立ち上がった。
「ウサギ…!!」
「やめとき!!」
ニラギを止めに行こうとするアリスを、クイナさんが止めた。
「『ビーチ』におれば、
クイナさんは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、あえてウサギ達の方を見ないようにしていた。
俺は、俺の派閥の仲間の方を見る。
俺の仲間は、武闘派連中に対して敵意を剥き出しにしていた。
あの時俺がヒヅルを助けられなかったのは、俺に力が無かったからだ。
だが俺はもう、あの時とは違う。
俺が仲裁に入ろうとした、その時だった。
「やめて」
ヒヅルが、後ろからニラギに言い放った。
「こんな事する為にアンタらの方についたんじゃない。最初にそう伝えたはずだけど」
ヒヅルは、同じ武闘派集団の自分なら止められると考えたのか、自分からニラギに立ち向かった。
するとニラギは、ヒヅルを一瞥してから馬鹿にしたように言い放つ。
「テメェは口出すんじゃねぇよ。それともアレか?ガキの分際で欲求不満か?」
「……うるさい」
ニラギがヒヅルを馬鹿にすると、ヒヅルは帽子の鍔を握って消え入るような声で言った。
大勢の前で笑いものにされて、周りの奴等の大人びた身体つきと自分の未成熟な身体とを見比べてコンプレックスを刺激されたのか、急にしおらしくなった。
まるで公開処刑のような光景にウサギが顔を顰めていると、ニラギがウサギに話しかける。
「なーに、そう難しく考える必要なんてねーさ。そのうちお前も楽しくなる。ここじゃ誰もが明日死ぬかもしれねぇ恐怖を抱えて生きてんだ。ストレスはどっかに逃がさねぇとな。たとえ、誰かが少々ワリを食ったとしてもだ!」
そう言ってニラギが笑い、アグニ、ラスボス、ヒヅルを除く他の武闘派連中も笑い出した、その時だった。
アリスが、ウサギを庇う形で立ちはだかった。
「…あ?」
アリスが立ちはだかると、アグニが怪訝そうな表情を浮かべる。
「アリス…!?」
「とんだ、見込み違いやったな…」
俺が驚いていると、クイナさんはアリスに対して呆れたように言い放つ。
そんな中、ニラギはアリスを馬鹿にしたように笑う。
「お前も新入り?驚いたな。まだこの国で頭の切り替えができてねー奴がいたとは」
そう言ってニラギは、アリスにスマホを差し出した。
「ほれ、かけろよ。110番。オマワリサンが助けに来てくれるかもよ?」
ニラギが言うと、他の武闘派連中も笑い出した。
アグニは、アリスを一瞥すると、アリスに背を向けて口を開く。
「くだらん。女だけ、オレの部屋に連れて来い」
「このガキはどうします?」
「次の『げぇむ』で死ねるように、足の骨でも折っとけ」
ニラギがアグニに指示を仰ぐと、アグニはニラギに命令した。
するとアリスの表情が強張る。
「策でも、あるっちゅーんか!?」
クイナさんは、緊張した面持ちでアリスを見守る。
俺が我慢ならなくなって立ち上がろうとした、その時だった。
アリスが何かに気がついて僅かに目を見開くと、口角を上げて話し始める。
「やっぱ、
アリスが言うと、アグニが足を止めてアリスの方を振り向く。
「……何?」
「よっぽど暴力が好きみてーだな。もしアンタらの方につこうとしてたら、今頃ひでぇ
アリスがあえてもったいぶった言い回しをすると、痺れを切らしたニラギがアリスを睨む。
「さっきから、何が言いてえんだテメェ…!?」
「いやなんつーか、こんな碌でもねぇ組織の中にも、ちゃんと見合った
アリスがそう言った、その時だった。
「揉め事かね?」
人混みの中から、ボーシヤが現れる。
ボーシヤの後ろには、クズリューさんとクリハラさんが立っている。
ボーシヤが仲裁に入ると、アグニがボーシヤに言い放つ。
「引っ込んでろボーシヤ。テメェにゃ関係ねぇ…!!」
「そういうワケにもいくまい。カカカ、オレはNo.1として、『秩序』を守る義務があるのだよ。オレの顔に免じて、新入りいびりは程々にしてくれまいか?」
ボーシヤは、アグニを威圧するように言った。
すると場の空気を察してか、クリハラさんがアリスのアシストに入る。
「アグニ大将!ソイツ、オレの友達なんですわ。よしなに頼んますぜ」
クリハラさんは、アリスを指して援護射撃をした。
「聞いたかね?」
クリハラさんが援護射撃をすると、ボーシヤはアグニに念を押すように言った。
クズリューさんも、腰に差した拳銃に手を伸ばそうとする。
すると、アリスとクリハラさんの狙いに気付いたのか、ヒヅルが僅かに目を見開いて吹き出す。
「……フフッ」
「何がおかしい…!?」
「…ごめん」
2大派閥のリーダー同士が衝突して緊張した空気が流れる中、ヒヅルが笑うと、ニラギがヒヅルを睨む。
ヒヅルは咄嗟に笑いを堪えて取り繕おうとするけど、声が笑いで震えてるのを隠し切れてないぞ。
俺は、ようやくアリスの狙いを理解した。
アリスは、ボーシヤのNo.1としての立場を利用したんだ。
あんなハッタリをかまされた後でボーシヤが仲裁に入れば、武闘派連中は、アリスがボーシヤを味方につけたと思い込む。
そこに『ビーチ』の幹部格にまで上り詰めたクリハラさんの援護射撃が入れば、武闘派連中の思い込みは確信に変わる。
ボーシヤがアリスを庇ったのは、ただの保身だ。
せっかくの駒を失うわけにはいかないから、新入りの前でいい顔を見せておきたいって魂胆だろう。
だがボーシヤの脅しが効いたのか、アグニは踵を返してひと足先にホテルへ向かう。
「…くだらねぇ。行くぞ」
「はーい」
アグニがホテルに向かうと、ヒヅルは心なしか上機嫌でアグニについていく。
…やるじゃないか、アリス。
ハッタリで武闘派連中からウサギを守るなんて。
「良かった…」
どうやら、今回は俺の出る幕じゃなかったようだな。
「アリス…あなた…何をしたの?」
「たまには利用させてもらったのさ。いつも大勢を利用してる大物をね」
ウサギが尋ねると、アリスは安堵のため息を吐いてから答えた。
ひとまずウサギを守れたのはいいけど、きっとアリスは武闘派集団に目をつけられてしまった。
次も今回のようにうまくいく保証なんて、どこにもない。
利用できるもん全部利用して、今度は俺がアリスとウサギを…皆を守るんだ。
原作ではキャラの誕生日は不明でしたが、メイン三人の誕生日は一応決めてあります。
ヘイジ:10月31日
ヒヅル:12月25日
クリハラ:7月7日
てな感じです。
ちなみに小ネタですが、3人の誕生日はそれぞれの得意ジャンルのマークの表す季節(♡:秋、♠︎:冬、♢:夏)と対応してたりします。