Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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プチ原作改変再び。
本来幹部じゃないメンバーが幹部会議に呼ばれるのは、ドラマ版の設定を逆輸入(?)してみました。
あと今回は、作者のお気に入りのあの人をゲストとして登場させました。


びいち(6)

ヘイジside

 

 『今際の国』滞在20日目。

 アリス達が『ビーチ』に来てから3日後。

 この日は、俺とヒヅルが『げぇむ』に参加する日だった。

 俺は『びざ』はまだ1ヶ月以上余ってるんだが、仲間の『びざ』がそろそろヤバいから一緒に参加する事にした。

 俺が出発の準備をしていると、俺の仲間の一人、ヤヨイが話しかけてくる。

 

「リーダー、今日はどこ行くんですか?」

 

「葛飾の拘置所だ。おそらく今回も『(はあと)』の『げぇむ』だと踏んでいる。すぐに出発するぞ」

 

「了解です!」

 

 俺が言うと、ヤヨイはハキハキと返事をする。

 すると、俺のもう一人の仲間のネズミが声をかけてくる。

 

「車の準備できました!」

 

「ありがとう」

 

 俺は、仲間が出した車に乗り込んだ。

 今回一緒に『げぇむ』に参加する俺の仲間は、俺の派閥のNo.2の八木(ヤギ)、No.3の根津見(ネズミ)、No.4の弥生(ヤヨイ)の3人と、『びざ』切れが近いフリーの4人の、計8人だ。

 車を走らせる事小一時間、目的地の拘置所に辿り着いた。

 人数が足りないのでしばらく会場の中で待っていると、ちょうど二人、会場の中に入ってくる。

 

「さっさと歩け!このグズが!」

 

「……うん」

 

 ホストの衣装を着崩したような格好をした気性の荒い男と、カジュアルなゴスロリの格好をした幸薄そうな女の二人組だ。

 女の方は、顔や首にアザや引っ掻き傷ができていて、二人の関係が見て取れる。

 二人が会場に入った直後、会場の入り口に鍵がかかる。

 会場のモニターには、『2人1組で指定の部屋にお入りください』と表示される。

 指定の部屋…ちょうど5つ並んでる、独房みたいな部屋があるが、これの事か?

 

「んじゃ、先入れ」

 

 モニターに指示が表示されると、男は女を先に部屋に入れようとした。

 普段からこうやって彼女を暴力で従えているんだろうか。

 …何か、見てて胸糞悪いな。

 

「待て」

 

 俺は、男に声をかけて、女を部屋に押し込むのを止めた。

 

「あ?」

 

「アンタ、そんなに生き残りたいならオレと組まないか?オレ、こう見えても『(はあと)』の『げぇむ』が得意なんだ。もしこの『げぇむ』が『(はあと)』か『♣︎(くらぶ)』なら、オレがアンタを生き残らせてやれる」

 

「待ってくれ」

 

 俺が男を連れて部屋に入ろうとしたその時、ヤギが俺を止めた。

 

「リーダーが出るまでもねぇ。コイツとは、オレが組む。リーダーは彼女と組んでくれ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「オレの心配なら無用です。こんな軟弱野郎には何もできませんよ」

 

「ひっ……」

 

 そう言ってヤギが男の肩を掴むと、男はビクッと肩を跳ね上がらせる。

 …まあ、ヤギは俺の派閥の中では随一の武闘派だからな。

 体格も、俺より一回りデカいし、ビビるのも仕方ない。

 ヤギが男と一緒に部屋に入り、俺が女と一緒に部屋に入ると、女が俺に礼を言う。

 

「あ…あの。ありがとうございます」

 

「気にするな。オレは、アイツのやり方が気に入らなかっただけだ」

 

「…ダイナです。大那(ダイナ)智秋(ちあき)。よろしくお願いします」

 

「ヘイジだ。よろしく」

 

 ……あれ?

 この顔、なーんか見覚えあるんだよな。

 

「…あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや…アンタ、どっかで会った事あったか?」

 

 …やっぱり、どこかで会った事あるような気がする。

 そう思っていると、ダイナは微かに頬を赤らめる。

 

「……もしかして、口説いてるんですか?」

 

「い、いや!決してそういうわけじゃなく!」

 

 ダイナが恥ずかしそうに視線を逸らしながら言うと、俺は慌てて否定した。

 でも、本当にどっかで見た事ある顔なんだよな…

 どこだっけ…思い出せないな。

 

 それにしても、何だこの部屋…

 ノコギリや包丁、ペンチ、ロープ、手錠なんかが置いてある。

 まるで拷問部屋だな…

 

《入室が完了しましたら、部屋の中にある首輪を装着して下さい》

 

 見ると、部屋には赤と青の首輪が置かれていた。

 ダイナは、青い方の首輪を手に取り、俺に差し出してきた。

 

「あの…ヘイジさん。これ、私の首につけて下さい」

 

 ダイナは、青い方の首輪を俺の首につけるように言ってきた。

 …これ、色分けが『げぇむ』で重要な意味があるような気がしてならないんだが…

 ……まぁ、まずは首輪を装着して『るうる』を聞くか。

 俺はダイナに青い首輪を装着した後、自分は赤い首輪を装着した。

 

《それでは、『げぇむ』の時間です。エントリー数、10名。賞品、スタンガン。難易度…『♡9(はあとのきゅう)』》

 

 『♡9(はあとのきゅう)』…

 今までに参加した『げぇむ』の中で一番難易度が高いな…

 何だか、嫌な予感がするんだが…

 

《皆様にこれから参加していただく『げぇむ』は…『かんごくじっけん』》

 

「監獄実験…?」

 

「アレですよね…スタンフォード監獄実験。確か、心理学の有名な実験だったと思うんですけど…」

 

 俺が呟くと、ダイナが俺に話しかける。

 スタンフォード監獄実験。

 スタンフォード大学で行われた、心理学の実験だ。

 

 新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた心身ともに健康な21人の被験者の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を演じさせる。

 すると時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになる…という実験だったはずだ。

 ……まあ一説によると、ヤラセだったんじゃないかともいわれてるが。

 この『げぇむ』は、スタンフォード監獄実験が元ネタの『げぇむ』って事か…?

 

《『るうる』の説明。皆様にはこれから2人1組のチームで得点を競い合っていただきます。赤い首輪を装着した方が『かんしゅ』、青い首輪を装着した方が『しゅうじん』となり、『かんしゅ』は『しゅうじん』に肉体的苦痛を与える事によって得点を得る事ができ、これがチームの得点となります》

 

「………!?」

 

 『かんしゅ』の俺が『しゅうじん』のダイナの方を見ると、ダイナは顔から血の気が引いて震え出した。

 生き残る為には、ダイナを傷つけろってのかよ…

 何だよ、その『るうる』…メチャクチャすぎんだろ…!?

 

《制限時間は30分。得点は、お手元の『りすと』で確認して下さい》

 

 手元には、『りすと』と書かれた冊子が置いてある。

 『りすと』には、暴力や拷問の種類に応じた得点が細かくリストアップされていた。

 読んでいるだけで、気分が悪くなってきた。

 

 ……ふざけやがって。

 どこまでも悪趣味な『げぇむ』だな…

 こんな『げぇむ』作る奴の親の顔が見てみたいよ。

 

《『くりあ』条件は、次の2つのどちらかを満たした場合。制限時間を過ぎた時点で、全てのチームの総合得点が0点だった場合。チームの総合得点が単独1位だった場合。次に、『げぇむおおばぁ』になるのは次の場合。制限時間を過ぎた時点で、チームの総合得点が2位以下の場合。『かんしゅ』が『しゅうじん』を死に至らしめた場合。この場合は、そのチームの得点はすべて無効となり、残りのチームで『げぇむ』続行となります》

 

「な………」

 

 ……やっぱり、『♡8(はあとのはち)』の時みたいな、1位しか生き残れない『るうる』があんのかよ。

 俺がそう思っていると、ダイナが青ざめて震えながらも口を開く。

 

「これ…『囚人のジレンマ』ですよね…」

 

 囚人のジレンマ。

 ゲーム理論の1つで、お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になる事が分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる…というジレンマだったはずだ。

 誰も傷つけ合わずに全てのチームが0点で終われば全員『げぇむくりあ』できるのに、裏切られるのを恐れた『かんしゅ』が自分のチームの『しゅうじん』を傷つけて、結果的に全てのチームが殺し合いを始めて、最後にはたった2人しか生き残らない…それがこの『げぇむ』を作った奴が想定しているシナリオなんだろう。

 『かんごくじっけん』だけに、囚人のジレンマまで『げぇむ』に組み込んでやがる。

 まさに『(はあと)』らしい『げぇむ』だな…

 

《それでは、『げぇむすたあと』》

 

 『げぇむ』が始まると、タイマーが動き出す。

 しばらく静寂が続いた後、ダイナが青ざめて震えながらも、俺に話しかける。

 

「あの…ヘイジさん。私の事、好きにしていただいて構いませんから…私は…こういうの、慣れっこですし…」

 

 そう言ってダイナは、顔についたアザに触れる。

 アザや引っ掻き傷、そしてリストカットの痕を見れば、ダイナが今までどういう目に遭ってきたのかは想像に難くない。

 きっと今まで、自分を犠牲にし続ける人生だったんだろう。

 我慢すれば、全てが丸く収まるから。

 

 ……考えるだけで反吐が出る。

 俺は、生きてこの世界から出たい。

 だけどダイナを傷つけて生き残るくらいなら、ここで『げぇむおおばぁ』になった方がマシだ。

 俺は、自分の恋人に暴力を振るうようなクズと同類にはなりたくない。

 それに俺は、一緒に『げぇむ』に参加した仲間を信じたい。

 俺の仲間には、今まで一緒に過ごしてきた仲間を裏切ってまで自分一人だけ生き残りたいって奴は、いないはずだから。

 

「何もしないよ」

 

「え…?」

 

 俺が椅子に腰を下ろすと、ダイナが顔を上げて俺の方を見る。

 俺は、あらゆる拷問がリストアップされた悪趣味な『りすと』を、その場で破り捨てた。

 

「全チームが0点で終われば『げぇむくりあ』できるんだ。だったら、ダイナを傷つける必要なんかないだろ?」

 

「で、でも、もし他のチームが裏切ったら…」

 

「その時はその時だ。オレは、ダイナを傷つけて『げぇむくりあ』するくらいなら、『げぇむおおばぁ』になった方がマシだから…それともダイナは、『げぇむおおばぁ』になるくらいなら、痛い思いをしてでも生き残りたいか?」

 

 俺が尋ねると、ダイナは首を横に振る。

 ダイナは、ぎゅっとスカートを握りしめて、絞り出すように言った。

 

「…私、ヘイジさんが生き残りたいんじゃないかって思って言い出せなかったんですけど…やっぱり、痛いのは嫌です。それならいっその事、出し抜かれて『げぇむおおばぁ』になった方が、苦しまなくて済むのかな…」

 

 ダイナは、震えて俯きながら本心を俺に伝えた。

 0点で終われば、たとえ裏切られて『げぇむおおばぁ』になったとしても、苦しまずに済む。

 それでも、やっぱり死ぬのは怖い。

 どうしても、生きたいと願う気持ちには逆らえない。

 

 でも、だからって…生き残りたい欲に駆られてパートナーを傷つけたら、それはもう『(はあと)』の『げぇむ』の罠に嵌っちまってるんだ。

 俺はこんなふざけた『げぇむ』に、屈したくない。

 俺は、死の恐怖に怯えるダイナに微笑みかける。

 

「大丈夫だよ。オレの仲間には、誰かを裏切ってまで自分だけ生き残ろうとする奴はいないから。皆を信じて、全員で生きて『げぇむくりあ』しよう」

 

「ヘイジさん…」

 

 俺が言うと、ダイナはどこか安心した様子で、ホッとため息をつく。

 ……それにしても、この部屋本当にいい趣味してるな。

 部屋の至る所に拷問に使えそうな器具が置いてあるし、不安を煽るためか薄暗くて外が見えない。

 おまけに、悲鳴や物音を聴かせて焦らせるためか、他の部屋の話し声が聴こえる仕様になってるし。

 こんなとこに30分もいたら、何もしなくても気が滅入るよ…

 

「いやぁ〜、それにしても、何もせず30分ここで過ごすってのも、暇でしょうがないなぁ。どうやって過ごそうか?」

 

 俺は、ダイナの警戒心を解く為に、あえてこの場にそぐわない間延びした能天気な声で言った。

 するとダイナは、緊張が解けたのか、おずおずと両手の拳を差し出しながら言った。

 

「えっと…じゃあ、『指スマ』でもしますか?」

 

「『指スマ』?何それ」

 

「え、知らないですか?こうやって向かい合わせに両手の拳を出して、掛け声と同時に親指を立てるんです。…で、掛け声を言う人が立てた親指の本数を当てるってゲームなんですけど…」

 

「ああ、『いっせーので』か」

 

 へえ、『いっせーので』って『指スマ』とも言うんだ。

 知らなかったな。

 …というか俺、ダイナの事何も知らねぇじゃん。

 この機会に、ちょっとでもダイナの事を知っておきたいな。

 

「あー…じゃあ、こうしないか?お互い、ここに来るまでの事を話し合うとか。ほら、お互いの事を少しは知ってた方が、残り時間を気楽に過ごせるだろ?」

 

 俺が言うと、ダイナは僅かに目を見開く。

 ダイナは、少し控えめな様子で口を開いた。

 

「確かに…そうですね……あ、でも、いいんですか?私の話、つまらないですよ…?」

 

「いいんだよ、オレ人の話聞くの嫌いじゃないし」

 

 俺が言うと、ダイナはポツリポツリと、過去の話をし始めた。

 俺は制限時間を、ダイナの過去の話を聞く事に費やした。

 曰く、ダイナは今まで碌な男と付き合ってこなかったそうで、1人目の彼氏はダイナに500万借りたまま音信不通に、2人目は結婚詐欺師で、3人目は怪しい宗教にハマって、4人目は他の女の子と浮気してダイナを捨て、5人目は政治家だったらしいが汚職がバレて自殺、そして6人目の彼氏が今のDV男だそうだ。

 ここまで来ると、もうそういう体質なんじゃないかとしか言いようがない。

 俺に愚痴を言ったダイナは、涙を流しながら膝を抱え込んでいた。

 

「もうやだ…どうしていつもいつも悪い男にばっかり引っかかってしまうの…」

 

「アンタもつらかったんだな。でも、オレ達がいれば大丈夫だ。皆で一緒に『げぇむ』を『くりあ』しよう」

 

「ヘイジさん……」

 

 俺がダイナを元気付けると、ダイナは涙を拭いて微笑んだ。

 

 

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

 俺達は、皆で協力して、誰も潰し合わずに『げぇむ』を『くりあ』する事ができた。

 悲鳴や物音を聴かせる為に部屋の壁が薄くなっていたのを逆手に取って、他のチームに協力を持ちかけて、お互いに状況確認をし合ったおかげで、誰もパートナーを傷つけずに制限時間いっぱいまで耐え切る事ができた。

 

「ありがとうございますヘイジさん!オレ、今回の『げぇむ』を『くりあ』できなかったら本当に危なかったんですよ!」

 

「礼ならお前のペアに言え。オレは『げぇむ』に誘っただけだ」

 

 無事に『げぇむ』を『くりあ』すると、俺と一緒に『げぇむ』に参加した仲間の一人のタッタが俺に礼を言ってきた。

 タッタは俺らが『ビーチ』に来てから3日後に『ビーチ』に来た新顔だ。

 『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』に参加した時は、タッタのおかげで何とか生還できた。

 俺がタッタに返事をしたその時、俺の分の『びざ』が発行される。

 

「ありがとうございます。皆さんのおかげで、『くりあ』できました」

 

 俺達の分の『びざ』が発行されると、ダイナが頭を下げる。

 ヤギが入っていた部屋を覗いてみると、首が吹き飛んだ死体が転がっていた。

 ダイナと一緒に来たDV男だ。

 

「この人は…」

 

「オレらが『げぇむくりあ』した瞬間、首輪が爆発した。多分、別の『るうる』で『げぇむ』に参加させられてたんでしょうね」

 

「私達を全滅させる事が、この人の『くりあ』条件だった…って事?」

 

「多分な…コイツ、首輪を嵌める時、やたらとしつこく『赤の首輪を寄越せ』って言ってて怪しかったから、一応警戒はしてたんだが…今思えば、オレをボコボコにして1人だけ『げぇむくりあ』するつもりだったのか」

 

 ヤギが言うと、ヤヨイが顔を真っ青にして呟くので、ヤギが答えた。

 すると、ダイナも顔色を悪くして後退りする。

 

「そんな…私のせいで…」

 

 ダイナは、自分が生き残ったせいでDV男が死んだと思っているのか、罪悪感に苛まれていた。

 こんな奴でも、ダイナにとっては彼氏だったんだもんな…

 俺は、ダイナにも俺達の計画に協力してもらえないかと思って、ダイナを誘った。

 

「こうなったのは、誰のせいでもない。それよりも、これからの事を考えよう。ダイナ、アンタもオレ達と一緒に来ないか?」

 

「…いえ。お気持ちは嬉しいんですけど、大丈夫です。情が移ったら、きっと生き残れなくなってしまうので」

 

 ダイナは、頭を下げて俺の誘いを断った。

 そのままダイナは、どこかへと去っていく。

 まあ、一人で行動したいなら無理強いはしないが…

 …にしても、結局どこで会ったのか、最後まで思い出せなかったな。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 アリス達が来てから4日後。

 俺は、早朝の幹部会議に参加していた。

 本来は幹部じゃない俺は呼ばれない高尚な会議なわけだが、俺がボーシヤ一派の一員だってのと、『ビーチ』が欲しがってる情報を持ってるから特別に参加させてもらってる。

 ここにいるのは、No.1のボーシヤ、No.2のアグニ、No.3のクズリュー、No.4のニラギ、No.5のマヒル、No.6のアン、No.7のミラ、No.8のラスボス、そしてこの俺だ。

 

「この4日間での『げぇむ』の死者は12人…50%を上回る『げぇむ』の死亡率を考えると、悪くない数字だ。しかし、当然ながらトランプの揃う日が近づくにつれて、残るカードの収集は困難になってきた。4日前の新入りの『♡7(はあとのなな)』も、実に1週間ぶりの手柄だった。問題はそれだけじゃない。残るカードの『♢4(だいやのよん)』『♡10(はあとのじゅう)』を除く、絵札のトランプが、未だ1枚も集まらない。難易度があまりに高すぎて、誰も『くりあ』できずにいるのか。絵札の『げぇむ』会場自体が存在しないのか…」

 

「あるいは、まだオレ達が絵札の『げぇむ』の出現条件を満たしていないか……っスかね」

 

 クズリューの言葉に続けて、俺が口を開く。

 

「ほら、ゲームでもよくあるでしょ?『解放条件』ってやつ。必須イベントを全部クリアするとか、一定人数以上が一箇所に集まるとか」

 

「その『解放条件』を知っているのが、『イバラハナエ』だと?」

 

「その可能性はあると思いますぜ。何せ、オレが知る限り一番『答え』に近い女ですからね。オレらが必死こいて探しても見つからない女と、絵札の『げぇむ』。これってただの偶然かな?」

 

 マヒルが尋ねると、俺は自分の考えを話す。

 するとミラが俺の話に食いついてきた。

 

「そういえば、『♠︎10(すぺえどのじゅう)』と『♢9(だいやのきゅう)』を手に入れたのはあなただったわね。イバラハナエが鍵を握ってると考える根拠は、強者故の直感ってやつかしら?」

 

「ええ。まぁ、そんなところですわ」

 

 ミラが尋ねると、俺はヘラッと笑って返した。

 上手く言えねぇが…この女、なーんか不気味なんだよな。

 なんて考えていると、今度はニラギが口を開く。

 

「『げぇむ』は楽しいから、オレは別に構わねーが…あんな曖昧な情報源(ソース)を頼りにこんな事を続けて、オレ達は本当に元の世界に帰れんのかよ!?」

 

 ニラギがごもっともな事を言うと、ボーシヤがニカッと笑って話す。

 

「全てのカードが、揃う日は近い…自ずと、『答え』は見えよう。それよりも、今夜の『げぇむ』は、我々4人を含む上位ナンバーが多く参加する。幹部諸君!!くれぐれも、留守は頼んだぞ」

 

 『答え』ねぇ…

 悪いが、その『答え』を最初に知るのはアンタじゃない。

 この俺様だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「この国から物理的に脱出する方法は無い。それが、オレが『ビーチ』の奴等から聞いた話をもとに導き出した結論だ」

 

「聞けば聞くほど絶望的だな……」

 

 俺は、アリスに『ビーチ』で得られた情報を話した。

 今のところ、トランプがこの国から脱出する為の唯一の手がかりだ。

 とりあえず仲間と合流する為に外に出ると、人目につかないところで女の子二人が話しているのを見つけた。

 

「ねぇ、どうしたらいい…?やっぱり私には…うまくやれるか…自信がないよ…」

 

「散々話し合って決めた事でしょ!?アンタに出来ないなら、私がやる!!どの道…大勢が死ぬのよ…!!」

 

 二人は、切羽詰まった表情を浮かべながら何かを話していた。

 するとアリスがきょとんとした表情を浮かべながら俺に尋ねる。

 

「あの子達は…?」

 

「アサヒとモモカだ。オレ達が『ビーチ』に来てすぐに入ってきた子達だ」

 

 アサヒとモモカは、俺達が『ビーチ』に来て数日後に入ってきた新入りだ。

 二人ともまだ高校生で、『ビーチ』に来てから不安そうにしてたから、わからない事とか色々と教えてあげたんだっけか。

 

「アサヒ、モモカ!」

 

 俺は、アサヒとモモカに声をかけた。

 せっかく仲良くなれたんだ。

 俺に出来る事があったら力になりたいと思った。

 

「何を話してたんだ?オレで良かったら相談乗ろうか?」

 

「な、何でもない…!モモカ、行くよ!」

 

 俺が話しかけると、アサヒがモモカを引っ張って去っていく。

 『何でもない』って返しは、絶対何かあるだろ…

 …まあ、詮索するつもりはないけど。

 

「何だったんだ…?」

 

「…何の、匂いだ?」

 

 不愉快な臭気が風に乗って漂ってきたので、俺とアリスが下を見ると、そこには大量の死体が転がっていた。

 

「な…何だよ、これ…!!?」

 

 死体を目の当たりにしたアリスが、目を見開いて冷や汗を流す。

 …遅かれ早かれ、アリスには見せておかなきゃいけないと思っていた。

 俺があえて目を背け続けてきた、『ビーチ』の裏の顔を。

 

 

 

「見せしめだよ。『ビーチ』の『ルール』はたったの3つ。1つは、『裏切り者には死を』」

 

 俺とアリスが死体の前で立ち尽くしていると、チシヤとクイナが現れた。

 

「アンタは……!!」

 

「おめでとう♪あれから互いに生き残ってるみたいだね」

 

 …そうだった。

 アリスとチシヤは、『おにごっこ』の時以来の再会だったな。

 

「裏切り者って…!?この人達は、一体…」

 

「彼等は、『ビーチ』から逃げ出そうとした連中さ」

 

「カードを『ビーチ』に差し出さずに隠し持ってた奴等も、だ」

 

「一度『ビーチ』のメンバーになったら、死ぬまで抜けられない。裏切り者はどこまでも追われ、制裁を受ける。まるで昔の暴走族みたいだよね♪」

 

 アリスに説明するチシヤに続けて、俺も話す。

 逃げ出そうとした連中や、カードを隠し持ってた連中は、見せしめとして殺される。

 クリハラさんは、そういう奴等を積極的にボーシヤに密告する事で幹部格にまで上り詰めた。

 裏じゃ『チクリハラ』なんて陰口を叩かれたりしているが、自分が生き残る為なら手段を選ばないところはあの人らしい。

 …とはいえ、こんな風に制裁を与える『ビーチ』のやり方に納得してるわけじゃないけどな。

 

「とはいえ、実際の見せしめは数人に過ぎない。皆に恐怖心を植え付けるには、その()()さえあれば十分だからね」

 

「じゃあ…残りの人達は…!?」

 

「怪我や病気で、死んでった仲間や…いくら医者や看護師がいたかて、一度『げぇむ』で致命傷を負ってしまえば、その先を生き延びるのは絶望的っちゅー事や…」

 

 アリスが尋ねると、クイナさんが答え、チシヤが続けた。

 

「そういった連中を、幹部連中がここに処理してるのさ。なるべく目立たずにね。見たくない現実は見せなきゃいい。そうすれば皆はいつまでもここを楽園(ビーチ)と信じて、幹部の為にせっせとカードを集めてくれる」

 

「この『ビーチ』は、ただの現実逃避の為のまやかしだ。この国にいる限り、死の恐怖からは逃れられないのにな」

 

「馬鹿げたシステムだな…」

 

 チシヤと俺が言うと、アリスが呟く。

 この国にいる限り、『げぇむ』に負けるか『びざ』が切れれば、どんな極悪人だろうと聖人君子だろうと死は平等に訪れる。

 この国から抜け出さなきゃ、そう遠くない死からは、決して逃れられない。

 

「単刀直入に、ひとつ聞いてもいいかい?君は絶望しかないこの世界で、どう生きる?」

 

「ここまで来たら…オレはただ、知りたいんだ。このイカレた『げぇむ』は何なのか、ダチを殺した仇が誰なのかを、そして、この『今際の国』から、1()()しか抜け出せないのなら…ウサギをNo.1に押し上げる!!オレの生きる意味はそれでいい!!」

 

「アリス…」

 

「君は?」

 

 アリスの返答を聞いたチシヤは、今度は俺に意見を求めてくる。

 

「オレは…やっぱり元の世界に帰りたい。だけど、仲間をここに置いていけない。出国する時は、皆一緒だ。1人しか抜け出せないルールなら、オレがNo.1になって、そんなルールぶっ壊してやる。その為に、ここまで上り詰めたんだ」

 

 俺は、俺の望む生き方を口に出した。

 するとクイナさんが呆れたような表情を浮かべながら尋ねる。

 

「アンタ以外の仲間が、ここから出る事を望んどらんかったとしても、かいな」

 

「そしたら、無理にでも引っ張っていくさ」

 

 クイナさんが尋ねると、俺は笑って答えた。

 もちろん、『ビーチ』にいる仲間の中には、ヒヅルのように『今際の国』での永住を望む奴もいるかもしれない。

 それでも俺は、無理にでも引っ張って元の世界へ連れて行く。

 余計なお世話だ、偽善者だと罵られても構わない。

 それが俺の生き方だ。

 

「悪くない返答だ♪けれど、あまりにも現実味がない。君達も自覚してるんだろ?」

 

 チシヤが言ったその時、プールサイドからはいつものようにやかましい音楽が聴こえてくる。

 するとクイナさんがボソッと呟く。

 

「もう…『げぇむ』の時間か…」

 

「たとえ何段飛ばしで階段を駆け上がったとしても、君達か彼女がNo.1になるまで『げぇむ』に生き残るなんて、まるで夢物語。奴隷はね、死ぬまで奴隷なのさ。だったら奴隷が、王を討てばいい♪」

 

「…え?」

 

「根こそぎなのさ、何かを変えるという事は。この先を聞けば、君達は引き返せない。それでも、オレ達のプランを聞く気はあるかい?」

 

 

 

 

 




小ネタ集その2。
メイン3人の得意ジャンルですが、大体こんな感じです。

ヘイジ:『♡』(心理型)>『♣︎』(バランス型)>『♠︎』(肉体型)>『♢』(知能型)
ヒヅル:『♠︎』(肉体型)>『♣︎』(バランス型)>『♢』(知能型)>『♡』(心理型)
クリハラ:『♢』(知能型)>『♣︎』(バランス型)>『♡』(心理型)>『♠︎』(肉体型)

ヘイジは、『♢』が苦手というよりは、『♢』はバトルロイヤル形式のものが多いのでいっつも『♢』が出現しそうな会場を避けてます。
ヒヅルは、『♡』が苦手というよりは、『♡』の『げぇむ』をあんまり数こなしてないので他の『げぇむ』に比べて傾向を掴めてないって感じです。
ぶっちゃけ、ガチで『♠︎』が苦手なクリハラさん以外の二人はどのジャンルでもそこそこできるって設定です。
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