Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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びいち(7)

ヒヅルside

 

 俺は、今日は1人で『げぇむ』会場に入った。

 アグニもニラギもラスボスも今日はお留守番だし、足引っ張る奴と一緒に『げぇむ』したくないから、しょうがなかった。

 俺がビルの中でしばらく待っていると、アンの組が会場に入ってきた。

 服のほつれた糸をいじって遊んでいると、アンが話しかけてくる。

 

「今日は1人?」

 

「うん。今日はアグニ達お留守番だし。下手に戦力減らしたくないから1人で来た」

 

 俺が言うと、アンの取り巻き3人が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……もしかして、信用されてない?」

 

 ひどいね。

 俺が武闘派だからって、そんな警戒する事ないじゃんね。

 

「お前、足だけは引っ張んなよ」

 

「ヘーキだよ。むしろ逆の可能性が高そうで悲しくなるね」

 

「んだと!?」

 

 俺が言った言葉にアンの取り巻きが反応した直後、奥の部屋の頑丈そうな扉が開く。

 俺は、ミリタリージャケットとカーゴパンツとブーツを脱いで、水着姿になってから部屋のドアを開けた。

 5人全員が部屋に入ると、扉が勝手に閉まって鍵がかかる。

 俺が入った部屋は、天井から電線がぶら下げられていた。

 

「電線…?」

 

 アンの仲間の1人が口を開いた直後、天井が開いて大量の水が部屋に流れ込んでくる。

 大量の水は、あっという間に床を満たして、少しずつ部屋の中に溜まった。

 

「な…!?」

 

「うわ、やば」

 

 するとその時、反対側のドアが開いた。

 反対側のドアの奥の部屋には、天井から白熱電球がぶら下げられていた。

 何の『げぇむ』だろう、と思っていると、部屋に設置されたモニターが点く。

 

 

 

ーーー

 

『げぇむ』

 

難易度 ♢4(だいやのよん)

 

ーーー

 

 

 

「あら」

 

 ラッキー、最後の『(だいや)』じゃん。

 難易度を示す♢の4のトランプが表示された後、『げぇむ』の説明が表示された。

 

 

 

ーーー

 

げぇむ 『でんきゅう』

 

『もんだい』です。

『でんきゅう』の『すいっち』はどれ?

 

ーーー

 

 

 

「『♢4(だいやのよん)』だ!!未収集のカードだぞ!!」

 

「けど問題がさっぱりわかんねーよ!!」

 

「どーすんのよ、どーすんのよォ!!」

 

「アンさん!!頼むから、何とかしてくれよォ!!」

 

 アン以外の3人は、『もんだい』がわからずにパニックを起こしていた。

 そんなんでよく今までの『げぇむ』生き残ってこられたよね。

 

 

 

ーーー

 

『もんだい』

部屋には『でんきゅう』が1つ

ドアをはさんだもう1つの部屋には、『すいっち』が3つあります。

 

『でんきゅう』がつく『すいっち』は1つ。

ドアが閉じている状態では何度でも『すいっち』を押せますが、ドアが開いている状態で『すいっち』を押せるのは1度きり。

なお、2つの部屋にまたがって人がいる状態や、『すいっち』を押している状態でのドアの開閉はできません。

 

解答権は1度だけ。

『でんきゅう』の『すいっち』がどれか答えられれば『げぇむくりあ』。

水位が上がり、水面が電線に触れれば『げぇむおおばぁ』。

 

ーーー

 

 

 

 なるほどね…

 これ、攻略法わかったかも。

 

「ドアを閉めてりゃ『すいっち』は何度でも押せんだろ!?オレが『でんきゅう』の部屋にいて、1つずつ確かめればいい!!」

 

「そっちの部屋に人がいるとドアが閉まらない」

 

「あっ…」

 

 『でんきゅう』の部屋に行こうとするバカに俺が言うと、バカは足を止める。

 

「問題読んでねーのかバカ!!」

 

「んだとコラァ!!」

 

 バカ2人が喧嘩を始めた。

 あーあ、やってらんねーやこりゃ。

 

「思い切ってドアを開けたまま、Aの『すいっち』を押してみない?ドアを開けて『すいっち』を押せるのは1度だけ…それでもし『でんきゅう』がつけば正解はAだし、つかなくてもBかC…1/2にまで確率は落とせるわ…!!」

 

「…それしかねぇなら、やってみるか…!!」

 

 ……いや、バカなの?

 そんな単純な『げぇむ』なら、『♢4(だいやのよん)』なわけがないじゃんね。

 俺は、当てずっぽうで『すいっち』を当てようとする取り巻き達に向かって言った。

 

「2/3」

 

「…あれ?1/2でしょ?」

 

「Aの『すいっち』を押してつく確率が1/3。つかない確率が2/3。つかなかった時に勘で答えて当たる確率は、2/3の半分…つまり1/3。『げぇむくりあ』できるのは、『すいっち』がついた時か、つかなかった時に勘で答えて正解した時だから、勝率は2/3」

 

「その行動で私達が生き残る確率は66%、一見悪くない数字だけど、人5人の命を賭するには、あまりにも低いと思わない?」

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」

 

「時間がないのよ!!」

 

 俺とアンが言うと、アンの取り巻き達が喚く。

 するとその時、アンが口を開く。

 

「ドアを閉めて」

 

「え!?」

 

「いいからさっさとしろよ!!」

 

 男が急かすと、もう1人の男がドアを閉めた。

 するとアンが、Aの『すいっち』を押す。

 アンがスイッチを押すと、ドアを閉めた男がドアを開けようとするもんだから、俺が止めた。

 

「開けんな」

 

「え?」

 

「いいって言うまでドアを開けるな」

 

「それで…どうなるってんだ…!?」

 

「ドアが閉まってちゃ『でんきゅう』がついてるか、わからないじゃない!!」

 

 俺が言うと、アンの取り巻き達が喚く。

 アンがスイッチを押したまま、俺達は『すいっち』の部屋で10分くらいじっと待った。

 その間にも、水位が上がってくる。

 

「いつまでそうしてんだよ!?時間がねーのわかってんのか!?」

 

 水面は、あと少しで電線に触れるところまで上がっていた。

 

「そろそろ…かな」

 

「ドアを開けて」

 

 俺が言うと、アンは『すいっち』のレバーを上げながら取り巻きに指示を出す。

 取り巻きがドアを開けると、アンはBの『すいっち』に触る。

 

「オ…オイ!!一度きりなんだぞ!?Bの『すいっち』に何の根拠が…」

 

 取り巻きが喚いている間にも、アンはBの『すいっち』を押した。

 『でんきゅう』はつかなかった。

 

「つかねーじゃねーかよちくしょォォォォ!!これでAかCのどっちかを勘で選ぶしかねぇよォ!!」

 

「そんなの外すに決まってる!!私達、感電して死ぬのよォ!!」

 

 アンの取り巻き達は、絶望の表情を浮かべて喚いた。

 俺は、ドアに一番近い位置にいる取り巻きに向かって言った。

 

「『でんきゅう』に触って」

 

「えっ?」

 

「彼女の言う通りにしなさい。時間がないわ」

 

 俺とアンが言うと、取り巻きは『でんきゅう』に手を伸ばして素手で触った。

 するとだ。

 

「熱っちぃ!?」

 

 取り巻きは、電球の熱さで反射的に手を離した。

 それを見たアンが微笑む。

 

「答えはAの『すいっち』よ」

 

 アンが答えると、水が止まる。

 

「止ま…った……?」

 

「ねぇ、どういう事!?」

 

「『でんきゅう』は白熱電球。ずっとつけっぱなしにしてたら熱くなる」

 

「Bの『すいっち』は、つかない事を目視で確認できた。『でんきゅう』が熱くなっていれば、さっきまでついていたAの『すいっち』。冷たければ、正解は残りのCの『すいっち』よ。これで5人が生き残る確率は、100%」

 

 どうやって正解の『すいっち』を当てたのかを、俺とアンが取り巻き達に説明した、その時だった。

 モニターの画面がつく。

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。『げぇむくりあ』》

 

 『げぇむ』を『くりあ』すると、レジから♢の4のトランプが発行される。

 今日の『げぇむ』を生き延びた取り巻き達は、大喜びしていた。

 

「これで一気に昇格よォ!!」

 

「アンさんのおかげだぜ!!」

 

「出国者の誕生が、また一歩近づいたぞォ!!」

 

 ……さてと。

 『げぇむ』は『くりあ』したし…帰るか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 俺は、ボーシヤ達と分かれて、文京区の『げぇむ』会場に向かった。

 懐かしい赤門を潜って、その先にあるこれまた懐かしい学舎を見上げる。

 今回俺が選んだ『げぇむ』会場は、俺の母校、東大の本郷キャンパスだ。

 

「まさかオレの母校が『げぇむ』会場になるとはね。つーかそろそろ『♢4(だいやのよん)』来てもいいんじゃねぇの?」

 

 そろそろ『♢4(だいやのよん)』を引き当てて幹部に昇格してぇところなんだがな。

 だからここ最近は、『(だいや)』が出現しやすそうな会場に絞って攻めてきたんだ。

 俺らが校舎に入ろうとすると、既に10人近く中に人がいるのを見つけた。

 

「あ、また来た!つーか今日参加者多くね?」

 

「アンタら、参加するならさっさと中に入れ。エントリー締め切りまで時間が無い」

 

 中にいた派手な格好の女と、その近くにいた男が、俺らに声をかけてくる。

 ふと時計を見ると、もうすぐ6時になろうとしていた。

 俺とリナ達三人は、校舎に足を踏み入れて『げぇむ』にエントリーした。

 エントリーしたのは、俺ら4人を含めて15人だ。

 俺らは、会場の張り紙の指示通りに指定の教室へ向かう。

 

「はぇー、懐かしいな」

 

「オッサン、もしかしてここ通ってたの?」

 

「まーね♪」

 

「ふーん、オッサン頭良いんだ」

 

 後ろのガキが聞いてくると、俺はヒラヒラと手を振った。

 すると、派手な格好のオネーチャンが俺に話しかけてきた。

 

「オニーサン、何してた人?」

 

「一応医者やってる。ま、ちょっとデカい声で言えねぇお客抱えてっけどな」

 

「アンタも()()()()の人?あ、ちなみにアタシ貸し屋ね。キャハ」

 

「奇遇だねぇ、オレもだぜ。ちなみにオレ、ブローカーな。先月は5人売り飛ばしたっけか」

 

「僕はインターネットバンキングにアクセスしてちょっとだけお金盗んじゃった。へへっ」

 

「…官僚だ」

 

「ハッ、ろくなのがいねぇな」

 

 何だ、コイツら。

 闇金にブローカー、クラッカー、官僚…

 大物感ある奴に限って、何でまともな奴がいねぇんだよ。

 悪党のロイヤルストレートフラッシュかよ。

 どいつもこいつも、俺の母校を汚すな。

 …って、俺もだったわ。

 

 指定の教室に移動すると、『電子機器の持ち込み禁止』と書かれた張り紙が貼ってあった。

 教室の前には、巨大なモニターが設置されているのが見えた。

 モニターには、ビンゴが表示されている。

 

「ビンゴ…?」

 

 ビンゴって確か普通数字は75までだよな?

 このビンゴ、99のマスがあるんだが?

 このビンゴを使って『げぇむ』をすんのかな。

 

「机にタブレットが固定されてますね…」

 

 教室に並んだ机を見ると、タブレットが机の上に固定されて並んでいる。

 これ、やっぱり『(だいや)』の『げぇむ』臭えな。

 なんて考えていると、別のモニターに『げぇむ』の内容が表示される。

 

 

 

ーーー

 

『げぇむ』

 

難易度 ♢10(だいやのじゅう)

 

ーーー

 

 

 

「『♢10(だいやのじゅう)』…!!」

 

 チッ、何だよ『♢4(だいやのよん)』じゃねぇのかよ。

 しかも一番難しい数字引き当てるとか、俺も運が良いんだか悪いんだか。

 …まあ、数字が大きいカードは、たとえダブっててもそれだけで昇格できるから別にいいんだがな。

 

 

 

ーーー

 

げぇむ 『なぞときびんご』

 

るうる

 

・10×10のマスの中には、『こたえ』が1〜99のどれかになる『もんだい』と、『さぁびすもんだい』の計100問の『もんだい』が隠されています

・参加者の皆様には、手元のタブレットで『もんだい』のマスを指定し、そのマスに隠された『もんだい』を解いていただきます

 『もんだい』に正解し、尚且つ『こたえ』が『びんご』の数字と一致していた場合は、『びんご』のマスを開ける事ができます

 ただし、他の参加者が回答中の『もんだい』に回答する事はできません

 『もんだい』に回答中はタブレットの画面がロックされ、他の『もんだい』に回答できなくなります

・制限時間内に『びんご』が成立すれば『げぇむくりあ』

 

ーーー

 

 

 

 なるほどねぇ。

 上に表示されてる『びんご』を成立させれば『くりあ』か。

 

「『正解すれば』、ねぇ…逆に間違えたらどうなるんだ?」

 

「つーか『げぇむおおばぁ』の内容も聞かされてないんだけど?」

 

 俺と闇金のネーチャンは、『るうる』の説明を見て率直な感想を口にする。

 すると今度は官僚が自分のタブレットを眺めながら口を開いた。

 

「ここにいる全員で『もんだい』を片っ端から解いて、モニターに表示された『びんご』を開けろ、という『るうる』らしいな」

 

「何それダルっ」

 

「で、でも、『びんご』は全員で1枚なんですよね?それに誰か1人でも答えを知っていればいいなら、その方が楽ですよ…」

 

「そう悠長な事も言ってられないんじゃね?一度に回答できるのは、1問までなんだぜ?1問ずつちまちま解いてたら、どれだけ時間あっても足りないっしょ。失敗覚悟で1人1問解いてかなきゃ、『くりあ』できっこないと思うけど?」

 

「オレも彼に賛成だね。時間がないからちゃっちゃと行こう」

 

 クラッカーのガキとブローカーは、そう言って先に問題を開いた。

 …俺達も解き始めないとな。

 

「…行くぞ。どの『もんだい』引いても、恨みっこなしだからな」

 

 俺が言うと、リナ、レイ、マチの三人も頷いた。

 とりあえず…俺はA6のマスを開けるか。

 おっ、『もんだい』が表示された。

 

 『人体を構成する元素のうち、酸素の占める割合は何ぱぁせんと?(小数点以下は切り捨てちゃって構いません)』…か。

 こりゃ簡単だな。

 答えは『65』だ。

 

 俺が回答すると、『ピンポン♪』と正解音と共に、『もんだい』のA6のマスに『65』と表示される。

 他のマスも、1つずつ数字が表示され始める。

 どうやら他の奴等も1問目は正解したみたいだが、まだ『びんご』の中にある数字は出現していない。

 

「チッ」

 

 やっぱり、1問目じゃ『びんご』のマスは開かないか。

 なんて考えていた、その時だった。

 

「クソッ、全然わかんねぇ…こうなりゃ勘だ!」

 

 後ろの方で、『ピシュンッ』とレーザーの音が聴こえる。

 見ると、15人中3人がレーザーで頭を撃ち抜かれて死んでいた。

 

「キャアアアアッ!!?」

 

「な、何だ…!?いきなりレーザーで撃たれたぞ…!?」

 

 一気に3人が脱落すると、他の奴等が悲鳴を上げる。

 すると俺の後ろに座っていた男が口を開く。

 

「誤答だ」

 

「え…?」

 

「間違った回答をすれば、『げぇむおおばぁ』。レーザーで頭を撃ち抜かれて殺される。誤答で『げぇむおおばぁ』になったら、その問題のロックが解除されて他の参加者に回答権が与えられる」

 

「ちょっと何それ聞いてないんですけど!?」

 

「当てられるまで何回も答えていいなら、『げぇむ』にならないからね」

 

 なるほどね…ただ当てずっぽうに答えりゃあいいってもんでもないって事か。

 かといって、わからないからってずっと『もんだい』を保留にしたままだと、他の参加者がその『もんだい』を解けない。

 …あれ?

 この状況、割とピンチじゃね?

 なんて考えていた、その時だった。

 

「え、ウソ、やった!一個開いた!」

 

 闇金のネーチャンが、『びんご』の『18』のマスを開けた。

 

「あ、こっちも開いた」

 

 今度は、クラッカーのガキが『37』のマスを開けた。

 2連続で『びんご』が開いたか…

 出だしとしては、かなり良いな。

 

 そのまま問題をどんどん解いて『びんご』を開けた俺達だったが、その間にも脱落者が次々と出る。

 『もんだい』を解いてみてわかった事だが、この『もんだい』は、計算を解いて『こたえ』を導き出す『計算問題』、専門分野の知識を必要とする『知識問題』、出題内容を間違えずに記憶する事が求められる『記憶問題』、柔軟な思考を必要とする『思考問題』、それらのうち複数を組み合わせた『応用問題』の5つに分類される。

 この『げぇむ』は、計算能力、記憶力、知識、論理的思考能力、ひらめき、応用力、直感、それらが全部必要になってくる。

 

「文章に『the』が出てきた回数なんか、いちいち数えてるわけねぇだろ…!」

 

「クッソ、円周率で『6』が6回目に出てくるのは小数点以下何桁目かって…知るかよ…!」

 

「わかんねぇ!!わかんねぇよ!!」

 

「ろ、ろろ、『61』!『こたえ』は『61』だ!」

 

 生き残っていた奴等も、苦手分野の問題にぶち当たって次々と脱落した。

 『びんご』にリーチがかかる頃には、生き残っているのは俺、リナ、レイ、マチ、闇金のネーチャン、そしてクラッカーのガキの6人だけになった。

 

「うひゃあ、グッロ」

 

 闇金のネーチャンは、隣で死んだ官僚の死体を見て、両手で顔を覆っていた。

 つーかこのネーチャン、計算問題と知識問題苦手なのに、よくここまで生き残れたな。

 …まあ、金の勘定と思考問題に関しちゃえらく回答スピード速かったけど。

 

「とうとう6人になっちゃったね」

 

「まあでも、もうリーチがかかってんだ。このままジャンジャン解いてマス開けてこう」

 

 そう言って俺は、『もんだい』を開けた。

 すると俺の画面には、『さぁびすもんだい』と表示される。

 その下には、『この『もんだい』を解けば『ふりぃぽけっと』を開けられます』と書かれている。

 何にせよ、これは大チャンスだ。

 『ふりぃぽけっと』さえ開けば、『びんご』が完成する。

 さてさて、どんな『もんだい』なんだ?

 

 

 

「………は?」

 

 …ははっ、何だこれ。

 百何十桁もの数字を素因数分解しろって…俺にRSA暗号を解けってのか?

 しかも、数字は5分おきに変更されて、変更する毎に桁数が増えます、だぁ…!?

 これ、マジで言ってんのかよ…!?

 

「マジかよ、クソが……何が『さぁびすもんだい』だ…スパコン使ったとしても、どんだけ時間かかると思ってんだ…!?こんなの、ハナから解かせる気なんかねぇじゃねぇか…ふざけやがって…!!」

 

「オニーサン…?」

 

 俺は、ふぅっとため息をついて、リナ達に話しかけた。

 

「…なぁ。お前ら。オレ、無理だ。こんな問題、解けっこない」

 

「先生…!」

 

「『くりあ』できないって…じゃあどうすればいいのよ!?」

 

「まだ望みがあるとすりゃあ、片っ端から他の『もんだい』を解いて『びんご』を完成させる。そっちの方が、この短時間で膨大な数を素因数分解するよりよっぽど現実的だ。オレのタブレットはもう『もんだい』が固定されてて他の『もんだい』を解けねぇから、皆で協力して『びんご』を完成させてくれ。わかんねぇ『もんだい』があったら、オレも一緒に考えるから」

 

 俺が言うと、他の皆は自分のタブレットで『もんだい』を開け始めた。

 確かにタブレットで回答できるのは1度に1問までだが、他の参加者に『もんだい』の『こたえ』を聞く事は『るうる』で禁止されていない。

 全員で協力してお互いの苦手分野をカバーし合えば、難易度は格段に下がる。

 

「ねぇ、これ誰か『こたえ』わかる人いない!?」

 

「『49』!」

 

「これは!?」

 

「『23』!」

 

「こっちは!?」

 

「『88』よ!」

 

 俺らは、協力して次々と『もんだい』を解いていった。

 だけど、まだ『びんご』に必要な『もんだい』は1問も解放できていない。

 クラッカーのガキが『自信がある』と言った『もんだい』で計算間違いをして『げぇむおおばぁ』になって、残りは俺を含め5人になった。

 さらに悲惨な事に、俺達はより絶望的な状況に追い込まれた。

 

「…はは、ウソでしょ。こんな『もんだい』、わかるわけないじゃん」

 

 俺は、闇金のネーチャンが引き当てた『もんだい』に目を通す。

 『世界一長いゲーム用書き下ろし楽曲としてギネスに登録されている楽曲、『prime # 4507』の演奏時間は?(分単位で答えること。秒数は切り捨てちゃって構いません)』…か。

 待って、この問題俺もわかんねぇ。

 こんな雑学、いくら俺でもチェックしてねぇよ。

 

「マチ、アンタ音楽やってるでしょ!?わかんない!?」

 

「知らないよ…!」

 

「と、とにかく他の『もんだい』見てみよ!」

 

 俺は、今度はリナ、レイ、マチが開けた『もんだい』を確認した。

 3人が開けた『もんだい』は、どう考えても解かせる気がないとしか思えない難問だった。

 

「どうやって解けばいいのよこんな『もんだい』…つかみどころも何もないじゃない…!」

 

「どうしよう、もう時間ないよ…!」

 

 すると闇金のネーチャンが、ボソッと話す。

 

「…あのさ。こうなったらもう、わかんない『もんだい』は勘で答えるしかなくね?」

 

「何言ってんのよ、そんな事して外したらどうすんの!?」

 

「どのみちこのまま時間切れになったら『げぇむおおばぁ』じゃん。だったらアタシは、生き残れる可能性がある方に賭ける」

 

 そう言ってネーチャンは、もう一度自分のタブレットの問題文と睨めっこをする。

 問題文を見てしばらく考えたかと思うと、『こたえ』のアタリをつけたのか、ハッキリと回答した。

 

「『75』!『こたえ』は『75』よ!」

 

 ネーチャンが答えると、正解音と共に『もんだい』のマスに『75』と表示される。

 さらには、『びんご』の中に『75』のマスがあったので、『びんご』が一マス開いた。

 

「よしっ、次の『もんだい』…!」

 

 『もんだい』に正解したネーチャンは、躊躇わずに次の『もんだい』を指定した。

 それに続けてリナ達も、『もんだい』を解き始めた。

 

 俺以外の4人は、次々と『もんだい』を解いていく。

 計算問題と思考問題、記憶問題は正確かつスピーディーに回答して、知識問題はアタリをつけて直感で答えていった。

 知識問題に関しちゃあ、問題文にヒントがあるから、そこから大体の数字を絞り込む事はできた。

 …勝手な偏見だが、こういう度胸が必要な場面では、女の方が強いと思う。

 

 だけどな。だからって女にばかり身体張らせるってのは、性に合わねぇんだよ。

 大体、『こんなのテメェらには解けねぇだろ』って見下されてる感じがしてムカつくしな。

 

「やってやるよ、クソが…!」

 

 俺は、持参してきた計算用紙を机の上に出して、ペンを握ったまま問題が切り替わる瞬間を待つ。

 そして問題文が切り替わった瞬間、計算を始める。

 桁数は、とうとう180桁にまで達していた。

 『解けるわけがない』、『こんな問題に挑むなんて馬鹿だ』、そう思ってるんだろう?

 常識とか、限界とか、不可能とか、そういうの全部ムカつくから、ぶっ壊してやるよ。

 

「『6』か『83』が開けば『びんご』よ!」

 

「『もんだい』は…あと31問…!」

 

「『42』!次!」

 

「『84』!」

 

「『7』!」

 

「『62』!」

 

 俺は、ひたすらペンを走らせて計算をした。

 脳細胞を酷使しすぎて頭ん中が茹で上がるように熱いが、今はそんな事どうだっていい。

 余計な事は考えるな。

 今はただ、こんな馬鹿げた問題に死ぬ気で挑めるぐらいに馬鹿になれ。

 

「解けた…!!」

    

191147927718986609689229466631454649812986246276667354864188503638807260703436799058776201365135161278134258296128109200046702912984568752800330221777752773957404540495707851421041を素因数分解した結果は、400780082329750877952581339104100572526829317815807176564882178998497572771950624613470377×476939688738611836995535477357070857939902076027788232031989775824606225595773435668861833だ!!

 残り時間は…あと1分…!

 

「っだらァアアアア!!!」

 

 俺は、『こたえ』をがむしゃらにタブレットに打ち込んだ。

 すると正解音が鳴り、『ふりぃぽけっと』が空く。

 ちょうど『びんご』が成立した列に炎の線が走り、『4びんご!』と表示される。

 そして、天井からくす玉が現れ、くす玉が割れて紙吹雪が舞い散る。

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

「っしゃらァアアアアア!!!この『げぇむ』作った奴、ざまぁみろ!!」

 

 俺は、雄叫びを上げて『げぇむくりあ』を全力で喜んだ。

 ただの『くりあ』じゃなく、誰にも文句を言わせない完璧な勝利。

 この『げぇむ』作った奴も、まさか『さぁびすもんだい』を攻略されるとは思ってなかっただろうよ。

 

「…アハッ、マジで?『ふりぃぽけっと』の『もんだい』、解いたの?アンタ、狂ってんね」

 

「へへっ、ありがとう。最高の褒め言葉さ」

 

 ドン引きした表情を浮かべながら笑うネーチャンにそう返した直後、俺は椅子にドカッと座り込んだ。

 あー…やべ。

 頭使いすぎた。

 すんげぇ頭重い。

 こりゃしばらく一人で歩けそうにねぇわ。

 

「先生!」

 

「ちょっと、オニーサン大丈夫?」

 

「あー…悪い。ちと疲れた。肩貸してくれんかね、お嬢さん方」

 

 俺がため息をつきながら言うと、ネーチャンが肩を貸してくれた。

 

「アタシャ貸し屋だからね。借り作んのは嫌いなんだわ」

 

 そう言ってネーチャンは、俺を『げぇむ』会場の外まで運んでくれた。

 リナ達も、頭を使いすぎてバテてる俺を介抱してくれた。

 

「そういやぁ、まだ名前言ってなかったな。オレァクリハラ。ネーチャンは?」

 

「ダイモン。金貸してほしけりゃアタシに言いな?つっても、この国じゃ金持ってても意味ないけど」

 

「ダイモンね。覚えとくぜ」

 

 ダイモンが言うと、俺はウインクで返しておいた。

 俺らは『げぇむ』会場の本郷キャンパスでダイモンと別れた後、乗ってきた車で『ビーチ』に戻った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「『げぇむ』から生還者が帰ってきたぞ!!」

 

「No.6とNo.12の組だ!」

 

「すげーよな!」

 

「さすが『ビーチ』屈指の頭脳派!」

 

 俺らが『ビーチ』に戻ると、ちょうどほとんど同じタイミングでアン達の組が『ビーチ』に戻ってきた。

 俺らの組とアンの組が戻ってくると、他の奴等が歓声を上げる。

 

「生きてたんスね、姐さん」

 

「あなたこそ」

 

 俺がアンに話しかけると、アンが腕を組んだままいつもの無表情で返す。

 するとその時、俺らカルト派のメンバーが俺達のもとへ駆けつけてくる。

 

「アン、クリハラ!!生きてたんだな!!」

 

「No.1とNo.3の組はまだ戻って来てないの?」

 

「よかった…!!ホントに良かった!!お前ら()()でも、無事に戻ってきてくれて…!!」

 

「……だけ?」

 

「おい、どうした?何があった」

 

「それが…」

 

 アンと俺が尋ねると、走ってきた仲間が事情を話し始めた。

 ソイツの口から語られたのは、ボーシヤとクズリューの死だった。

 

「No.1とNo.3が、『げぇむ』で死んだ…!!?」

 

「今はまだ一部の人間しか知らねーが、今夜のうちには『ビーチ』の全員に知れ渡る…」

 

「…そう」

 

 ………えっ。

 待って。

 マジかぁ、ボーシヤのダンナにはもう少しだけ長生きしてもらうつもりだったのによ。

 俺の計画がおじゃんになっちまうじゃねぇか。

 つーか今アグニにNo.1になられたら、ガチでヤバい。

 アイツ、何でかしらねぇが俺の事が気に入らねぇようだったからな。

 これ下手したら俺、殺されねぇか…?

 

「久々にトップが入れ替わる。しばらくは、慌ただしくなるわよ…!!」

 

 ……スゥ、今からでもクツ舐める練習しておくか。

 

「問題は…そんな事じゃないんだ…一緒に来てくれ。どうしてもお前らに、見せたいものがある…!!」

 

 そう言って俺らの仲間は、俺とアンを車に乗せて橋の上に向かった。

 目的地に着くと、ソイツは俺とアンを橋の柵の近くに案内した。

 

「今夜のガソリン調達班が偶然見つけたんだ。すぐに口止めして、表向きは『げぇむ』で死んだって事にしてるが…」

 

「これは…!!」

 

「オイオイ、マジかよ…」

 

 俺とアンが橋の下を覗き込むと、川にボーシヤの死体が浮かんでいた。

 背中には、3発ほど銃痕が見える。

 『げぇむ』で死んだ…わけじゃねぇなこりゃ。

 

「殺されたんだよ、No.1は何者かに…!!考えたくはねーが、もしかしたらNo.3も同じように…」

 

「クズリューの死体は、誰か発見したのか?」

 

「いや…」

 

 じゃあ今のところ生死不明って事かよ。

 まあ、コイツらの反応を見るに、ガチで死んでる線が濃厚だがな。

 なんて考えていると、アンがサングラスを外しながら口を開く。

 

「『げぇむ』に見せかけて、自分より上位のナンバーを殺し、成り上がりたい者がいるのか…根こそぎ変えるつもりなのか…どちらにせよ、『ビーチ』の中にいるようね。革命家気取りが」

 

 

 

 

 

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