Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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崩壊の始まり。





びいち(8)

クリハラside

 

 ボーシヤとクズリューの死は、その日中に『ビーチ』にいる全員に知れ渡り、翌日。

 今際の国滞在30日目。

 いいニュースと悪いニュースが一個ずつある。

 まずいいニュースは、No.1とNo.3が死んだ事で俺はNo.10に昇格し、幹部に仲間入りできた。

 そして悪いニュース。

 

「今日からオレが、『ビーチ』の、新しい王だ」

 

 アグニが俺らの新しいボスになった。

 はい、詰んだ。

 俺、ボーシヤに媚び売りすぎて武闘派連中に嫌われてっからな。

 俺の『現実世界で追放された天才外科医、異世界で王様になって最強ハーレム成り上がり無双大作戦』は、これで一気にハードモードになった。

 

 …いや、そりゃあ俺だっていつかはボスが殺される事くらいは想定してたさ。

 だからこそ、頃合いを見計らって作戦を切り替えようと思ってたところだったんだ。

 でもこんな何の前触れもなく呆気なく殺されるって事ありゅ?

 

「実にめでてーじゃねーかよ。今夜はハデに呑み明かしたいところだ!まあ中にはお友達が減って、寂しがってる連中もいるようだが…今は、今後の身の振り方ってもんを、しっかり考えとかねぇとな!」

 

 そう言ってニラギは、カルト派だった俺とアンに釘を刺した。

 …特に俺にはかなり強めに。

 

「テメェに言ってんだぜオッサン。今までよくもまぁデケェツラしてくれたな?」

 

「アッハイスミマセンでした」

 

 ニラギが横から俺を睨むと、俺は震える声で謝った。

 いやホント今まで調子乗ってスンマセンでしたクツでも何でも舐めますんで許してください。

 クツ、大好物です。

 

 …とまあ冗談はさておき、一体誰がこんな事を?

 つっても、まぁ後輩君、マヒル、ミラの三人はシロだろうな。

 仮にこの中に革命家気取りがいたとして、俺がソイツならもっと巧くやる。

 いきなりボスを銃殺するような脳筋プレイはしねぇ。

 

 となると怪しいのは武闘派連中だが、かといって、No.1に昇格する事が目的なのかといえばそこにも疑問が残る。

 そんなそぶりがあれば俺が気づかないはずがねぇし、昇格が目的にしちゃあいくらなんでもやり方が雑すぎる。

 それに俺が一番引っ掛かってるのは、『ボーシヤは何者かに銃で撃たれて殺された』って事だ。

 ボーシヤのダンナも、自分を殺して成り上がろうとする奴が出てくる事くらい想定してたはずだし、アイツはそういう奴に撃ち殺される隙を与えるようなアホじゃなかった。

 つまり奴は、全信頼を置いていた奴に、成り上がり以外の動機で殺されたって事になる。

 私怨か、痴情のもつれか、あるいは……

 …だんだん、犯人像が見えてきた。

 

「No.1!早い事、やっちゃいましょうや!最初の引き継ぎ業務、『黒の封筒』の開封を…!!」

 

 ニラギがそう言うと、アグニは『黒の封筒』を取り出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 昨晩、俺達は幹部からボーシヤとクズリューさんの死を聞かされた。

 それから程なくして、俺はチシヤの部屋に呼ばれて、アリス、ウサギ、チシヤ、クイナさんと一緒に作戦会議をした。

 

「え…!?奪還…!?」

 

 チシヤから作戦を聞かされた俺達は、思わず驚きを露わにした。

 

「そう。文字通り奪い返すのさ」

 

「それってつまり…」

 

「ボーシヤが信じた『答え』…この『今際の国』から出国する唯一の方法…トランプ。長きにわたって『ビーチ』の連中からかき集めてきた大量のトランプを、根こそぎ奪う」

 

「奪う…ったって。どうやって…!?」

 

「言うまでもなく、全てのトランプを管理してるのはNo.1だけ。それは、No.1の住むロイヤルスイートのどこかにある金庫に保管されてるって話だ。けれど『ビーチ』の王とて、『今際の国』の中では命を落とす事もある。今回のようにね♪だからNo.1が『げぇむ』で死んだ時の為に、金庫の場所は、No.2だけには知らせてある。そしてもう一つ、No.2に事前に渡されていたもの、それが──」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 アグニは、ボーシヤから預かっていた『黒の封筒』を開封した。

 金庫の電子ロックの暗証コードが記された、通称『黒の封筒』。

 透かしのきかない黒塗りの封筒は、『BOSS』と書かれた封蝋と、幹部全員の著名によって厳重に密閉されていて、No.1が入れ替わった時にのみ、開封を許される。

 

「……!」

 

 アグニは、俺達幹部の前で封筒の中身を確認すると、僅かに目を見開く。

 新たなNo.1は幹部全員の前で、自分だけが暗証コードを確認した後に、コードの記された紙を新たな封筒に入れ、再び封蝋と、全員の署名で封をして、新たなNo.2に渡される。

 

「………」

 

 へぇ、なるほどね。

 アレが暗証コードか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「トランプの保管場所と、引き継ぎ方法はわかった…けど肝心の暗証コードは、No.1にしか知りようがないだろ?」

 

「今夜の『げぇむ』でボーシヤとクズリューが死に、オレは晴れて幹部に昇進だ。明日の引き継ぎで、暗証コードはオレがどうにかするさ♪後は、その間にロイヤルスイートに潜入する、実行者が必要だ」

 

 アリスが言うと、チシヤが作戦を話す。

 するとウサギがチシヤの作戦に反対した。

 

「危険すぎるわ。見つかれば、おそらく殺される…!!」

 

「…だとしても、現状と大差ないだろ?まさか君達は、正攻法でNo.1になれる日がいつか来ると、本気で思っているのかい?オレが『ビーチ』に利用されながらせっせとトランプを集めてきたのは、全て幹部になる今日のため。この気を逃したいなら、どうぞ奴隷のまま死ぬといい♪」

 

 生き延びたきゃ、『ビーチ』の奴等全員敵に回せっていうのかよ…!?

 ここには俺の仲間もいるんだぞ。

 そんな事、できるわけが…

 

「ロイヤルスイートには、オレが潜入する」

 

「アリス!?」

 

「お前…自分が何言ってるのか分かってんのか…!?」

 

 アリスが言うと、ウサギと俺は思わず目を見開く。

 

「ボーシヤの派閥が崩壊した今、アグニの派閥に目をつけられているオレ達は、どの道『ビーチ』では生き延びられない…!!生きようウサギ!!『ビーチ』の全員を敵に回してでも!!」

 

 アリスは、困惑するウサギを説得した。

 アリスとウサギがこの国から出国するのはいい。

 二人をこの国から出国させられるなら、俺にできる事はなんだってやる。

 …だけど俺は、やっぱりまだ元の世界には帰れない。

 

「…オレは、ここに残る」

 

 俺は、自分の意見を皆に伝えた。

 

「もちろん、協力はするよ。計画を聞いておいて今更逃げるなんて事はしないさ。だけどオレはやっぱり、ヒヅルやクリハラさん…皆を置いてはいけない」

 

「ヘイジ…」

 

「なぁに、アリス達はひと足先に出国するだけだ。一人でも出国させられれば、皆で出国する方法だって探せる。オレはもう少しこの国に残って、ゆっくり出国を目指すよ」

 

 俺は、皆を不安にさせないために、笑って強がりを言った。

 するとチシヤが呆れたような表情を浮かべながら俺に話しかける。

 

「一体どれだけかかると思ってるの?そんな方法が見つかる前に、君が死んじゃうよ?」

 

「それでも、オレはオレの生き方を曲げたくない」

 

 何と言われようと、俺は他の皆を見捨てたりなんかしない。

 俺がこの国を出るのは、他の皆の出国を見届けてからだ。

 

「アリスが潜入するなら、アグニ達を引き留めておく役が必要だろ?時間稼ぎはオレがやるよ」

 

 俺は、アグニ達を引き留めておく役を自ら志願した。

 潜入役ほどじゃないが、それなりにリスクのある役だ。

 女の子のウサギやクイナさんにそんな役、やらせられない。

 するとチシヤは、少し考えるそぶりを見せてから、何かを考え直したように俺に言った。

 

「…いや、その役目はオレがやる。君はここで待機だ」

 

「何で…オレ、そんなに信用ないか?」

 

「あのね、君はただでさえ奴等に目をつけられてるんだよ?ここで怪しい動きを見せれば、真っ先に疑われる。そうなれば、君の仲間にも飛び火するよ?」

 

「………」

 

 確かに、言われてみればその通りだ。

 俺はカードを積極的に集めてやってるから、ギリギリのところでアイツらに生かされているだけに過ぎない。

 ここで下手にアグニ達に接触したら、()()()()と思われる。

 そうなれば、アイツらの事だ。

 俺の仲間に尋問するかもしれない。

 だからって、何もしないままでいいのか…?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 チシヤから作戦を聞かされた、次の日。

 

「う…わ、スゲェなこりゃ…」

 

 俺は、現No.1のアグニが引き継ぎの業務をしている間に、『ビーチ』最上階のロイヤルスイートルームに潜入した。

 スゲェな…

 部屋はパーティーでもできんじゃねぇかってくらい広ぇし、置かれてる調度品はどれも俺じゃ一生お目にかかれねぇような高級品ばかりだ。

 

「一泊、いくらすんだよ…きっと…オレには一生縁のない部屋なんだろうな…」

 

 そんな事を呟きながら、思わず『ハハ…』と乾いた笑いをこぼす。

 

「って、感心してる場合かよ。早く例のモンを見つけねーと」

 

 もう後には引けねぇ!!

 俺達は、チシヤのプランに乗っちまったんだ…!!

 

 俺は、部屋の中を隅々まで探しながら、トランシーバーでチシヤに話しかけた。

 

「聴こえるか?無事に潜入した。アンタの言う通り、鍵は刺さったまんまだったよ」

 

『鍵を持ったまま、『げぇむ』で死なれちゃ困るじゃん?ロイヤルスイートも例外じゃないのさ』

 

 俺の今の部屋も、ルームキーが瞬間接着剤で固定されてた。

 そういうのは、ロイヤルスイートも普通の部屋も同じらしい。

 鍵がかかってたら部屋に入れねぇんじゃねぇかって心配は、しなくてよかったわけだ。

 

「そっちの様子は?」

 

『プールサイドだ。引き継ぎを済ませた新たな王は、家臣どもを引き連れて、ご機嫌でお寛ぎ中だよ♪心配しなくても、動きがあれば足止めは任せろ。それより、金庫探しに集中してくれよ♪』

 

「今、やってるさ」

 

 俺がロイヤルスイートで金庫を探していた、その時だった。

 

『っと』

 

 一瞬詰まったような声が、トランシーバーから聴こえる。

 

「どうした?」

 

『…どうやら、思ったより優秀な番犬がいるようだ。それより、金庫は?』

 

 想定以上に時間稼ぎに手こずってるようだが、今は金庫探しに集中しねーと…

 まだクローゼットの中は調べてなかったな。

 

「見つけた…!!金庫だ…!!」

 

 金庫は、クローゼットの中に隠してあった。

 金庫には、電子ロックがかかっている。

 金庫を見つけたのはいいが、チシヤは肝心の暗証コードを手に入れたのか…!?

 

「暗証コードは!?」

 

『『8055』』

 

「封筒の中身はNo.1しか見られないんだろ?…どういう手品だ!?」

 

『あの時皆の前でアグニは、ほんの僅かだが…表情を歪めた。それは、困惑。おそらく、そこに()()()()()()()()()()()()()()。『黒の封筒』の中身は、ただの白紙だったのさ。先代の王、ボーシヤは用心深い男だった。なりふり構わずに封筒を開けようとした者を混乱させるために、()()()()かけておいたんだろう。ズル賢いバカの考えそうな事だよね♪』

 

「じゃあ…暗証コードはどこに…!?」

 

『簡単な心理の死角。誰もが暗証コードは封筒の()に記されてると思い込む…『ビーチ』の王を示す『BOSS』の封蝋こそが、『文字』ではなく『数字』だったのさ♪』

 

 アグニの困惑の表情だけで、そこまで読み解いたってのか…!?

 …本当に、チシヤが敵だったらと思うとゾッとする。

 

「…チシヤ。アンタは、敵に回したくない男だな…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 俺は、プールサイドで行われているアグニのNo.1昇格祝いの祝宴に参加している。

 つってもすみっこの方に座ってごはん食べてるだけだけど。

 アグニは、俺ら武闘派集団の下っ端に囲まれて寛いでいる。

 

「いやぁ〜お疲れ様ですボス!何かお飲み物でも!?」

 

「要らん。失せろ」

 

「ヘイっ!失せるぞお前ら!」

 

 クリハラのオッサンは、早速アグニに媚び売りまくっていた。

 掌返しにも程があるだろ…

 このオッサン、プライドとか無いの?

 …あ、これおいし。

 

「ヒヅルちゃんこれ飲む?」

 

「いらない」

 

「食べ方お上品ね。もしかしてヒヅルちゃんってお嬢様?」

 

「…………」

 

「ヒヅルちゃん、好きな食べ物何?」

 

「……りんご」

 

「てかオッパイデカくね?今何カップあんの?」

 

「ヒヅルちゃん、ホントに中学生?」

 

「………うざ」

 

「わ〜もうひどい〜っ!」

 

 酒が入った奴が、俺にウザ絡みしてくる。

 さっきから胸ばっか見てくるし。

 何でアル中ってこうもダメな奴ばっかりなんだろう。

 酒が人をダメにするのか、ダメな奴ほど酒に逃げるのか。

 どっちにしろこんな大人にはなりたくない、いつも思う。

 

「ヒヅルちゃんはやっぱ明日も『げぇむ』行くの?」

 

「もちろん」

 

「よくそんな毎日『げぇむ』してられんね。そんなにトランプ欲しいワケ?」

 

「別に。ただ、死ぬかもしれないギリギリのところで生きていたいだけ。ババァがうるさい元の世界よか、ここで『げぇむ』してる方が楽しいし」

 

 俺は、ごはんを食べながらポツリと呟いた。

 するとニラギが俺を馬鹿にしたように笑う。

 

「はっ、いい人生送ってんな。可哀想に」

 

「…………」

 

 ニラギは、いちいち突っかかって俺を馬鹿にしてくる。

 もしかしてコイツ、俺の事好きなの?

 

 ………きっしょ。

 自分で言っててサブイボ立ってきた。

 …上羽織ろ。

 

 …やっぱり、視られてるな。

 俺が視線を感じる方へ目を向けると、物陰からチシヤが出てくる。

 チシヤが俺達のもとへ歩いてくると、アグニがチシヤを睨みつける。

 

「何の用だ」

 

「カードを盗もうとしている裏切り者を見つけたので、ご報告をと思いまして」

 

 裏切り者…ねぇ。

 俺がチシヤをじっと見つめると、チシヤと目が合う。

 

「………」

 

「どうかした?」

 

「別に」

 

 俺はふい、と視線を逸らした。

 チシヤから裏切り者の報告を聞いたアグニは、血相を変えてロイヤルスイートに向かう。

 俺とクリハラさんも、アグニの後ろについて行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 俺は、緊張しながらも金庫の電子ロックに暗証コードを打ち込んだ。

 

 本当に…これでいいのか…!?

 『ビーチ』にいる事が危険なら、ただウサギと2人でここから逃げればいい。

 この最後の数字を押せば俺は、『ビーチ』にいる全員の希望を奪う事になる…!!

 

 それでも……それでも俺は…

 

 

 

 ――ビーーーーッ

 

 

 

「…………え!?」

 

 金庫の電子ロックの液晶画面には『Error』の文字が表示され、警告音が鳴った。

 何で…!?

 チシヤに教えられた暗証コードをちゃんと入力したはずなのに…

 『何で』、その言葉を頭の中で繰り返したその時、扉が乱暴に開かれる。

 足音が、俺の方へ近づいてくる。

 振り向くと、そこにはアグニ達武闘派連中がいた。

 

「オレのトランプに手をつけようってぇ命知らずがいるという()()()()を聞いて、まさかとは思ったが…なかなかどうして、使える男じゃねーか」

 

 そう言ってアグニが振り向いた先には、冷笑を浮かべるチシヤがいた。

 

「チ…シ…ヤ!?」

 

 チシヤの隣には、クリハラさんと、ヒヅルがいた。

 クリハラさんとヒヅルは、俺を蔑んだ目で見てくる。

 

「残念だよ、アリス君。お前さんが裏切り者だったとはなぁ。本当に残念だ。一緒に死線を乗り越えた仲間を、見殺しにしなきゃいけないんだからなぁ」

 

「オレに黙って抜け駆けするつもりだったんだね。ウサギとヘイジもグル?」

 

「違……」

 

 ヒヅルの言葉を咄嗟に否定しようとした、その時だった。

 背中に強い衝撃が走る。

 ニラギが、ライフルで俺の背中を殴りつけてきた。

 

「ガ…!!」

 

「またテメェか新入りィ!?毎度楽しませてくれるよ…なァッ!?」

 

 ニラギは、何度もライフルで俺を殴った。

 それに続けて、他の連中も俺を足蹴にした。

 

 な…ん…で…

 なんでだ…よ!?

 何でチシヤが…アグニとここにいるんだよ…!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

 アグニは、家臣達に殴られているアリス君を一瞥し、『フンッ』と小さく声を漏らす。

 そして壁に飾られた絵に一瞬視線を向けた。

 

 先代の王、ボーシヤは用心深い男だった。

 おそらく金庫も、わかりやすい場所にダミーを用意する。

 大事な金庫を狙われたんだ。

 心配だよね♪

 不安だよね♪

 

 人の常。

 無意識にでも見ちゃうよね♪

 本物の金庫の隠し場所を。

 

 暗証コードは確かだ。

 後は、本物の金庫の場所を知るだけだった。

 

 ありがとう、アリス君。

 君のおかげで、俺のプランは成功だ♬

 

「オメーもやるか?」

 

「………やらない」

 

「チッ、んだよノリ悪ィな」

 

 ニラギがアリス君へのリンチにヒヅルちゃんを誘うと、ヒヅルちゃんはそっぽを向いて断る。

 するとその時、家臣の一人がアリス君の持っていた無線を見つけた。

 

「コイツ無線持ってやがったぜ!!」

 

「共犯者がいるなら徹底的に探し出せ!!」

 

 どうぞ気の済むまで♪

 俺と彼を繋ぐ線はどこにもない。

 

「この裏切りは前代未聞だ…!!」

 

「『ビーチ』の全員の前でなぶり殺しにしちまおうぜ!!」

 

 公開処刑…か。

 本当に、昔の暴走族みたいだね。

 なんて考えていると、ニラギがアリス君のズボンのポケットから『びざ』のレシートを取り出す。

 

「…いや、それよりも、コイツの目と耳を塞ぎテープで縛って、空いてる部屋にでもブチ込んどけ!!」

 

「何…!?」

 

「コイツの『びざ』ァ、明日で『期限切れ』だとよ。光と音を奪われ、時間の経過もわからず、明日の深夜頭上にレーザーが降りて、絶命する時をただ待つばかりの恐怖は…想像を絶するだろうよ…!!」

 

 酷い事考えるねぇ。

 まあ、そうなるように仕向けたのは俺だけど。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 あの後ニラギ達は、気絶するまでアリスをボコボコに殴りつけて、目と耳を塞いでテープで椅子に縛り付けた。

 『びざ』切れまでこの状態でいさせとくとか…ホントに悪趣味な事考えるね。

 俺がアリスをじっと見つめていると、ニラギが俺に釘を刺してくる。

 

「おい、テメェ解いたりすんじゃねぇぞ」

 

「…誰がそんな事するかよ」

 

 そう言って、俺はアリスが監禁されている部屋を後にした。

 すると、クリハラのオッサンが話しかけてくる。

 

「あーあ、ヒデェ事すんなぁニラギのニーチャンも。ヒヅルちゃん、何でアイツらと一緒にいて平気でいられんの?」

 

 …何で、か。

 そういやちゃんと考えた事なかったな。

 改めて訊かれると、何て答えたらいいのかわかんないものだな。

 うーん…何て答えようかな。

 

「………さあ?関係ないからじゃない?」

 

 そう言い放った俺は、ある目的の為に下の階に降りた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 俺とウサギ、そしてクイナさんが部屋で待機していると、チシヤが部屋に戻ってくる。

 

「チシヤ…!アリスは…トランプはどうなった…!?」

 

 俺は、アリスは無事なのか、トランプの奪還作戦は成功したのかをチシヤに尋ねた。

 俺が問い詰めると、チシヤは悔しそうな表情を浮かべて手で顔を覆う。

 するとウサギもチシヤを問い詰める。

 

「何を黙ってるの…!?」

 

 ウサギが問い詰めると、チシヤは言いづらそうに、起こった事を話した。

 

「…作戦は失敗だ。アリス君は…アグニ達に捕まった。奴等は、『びざ』切れまでアリス君を監禁しておくつもりだ」

 

「な…っ!?」

 

「奴等は今、血眼で共犯者を探してる。ここもじきに割れるかもしれない」

 

 アリスが捕まったって…

 何でそんな事になってんだよ。

 チシヤがアグニ達を足止めしておくって話じゃなかったのか…!?

 …いや、そんな事より今はまず、アリスを助けねぇと…!

 俺とウサギが部屋の外に飛び出そうとすると、クイナさんが呼び止める。

 

「アンタら、どこ行くねん!?」

 

「決まってるでしょ。アリスを助けに行く」

 

「やめとき!!アリスを助け出すなんて無茶や!!どの部屋に監禁されてるかもわからん上に、アリスと行動を共にしとったアンタらは、真っ先に共犯者として疑われとるんやで!?」

 

「オレのミスだ…アグニ達の注意を引きつけておく事ができなかった…」

 

「悪い事は言わん…計画が失敗した今、アンタらは一刻も早く、『ビーチ』から逃げ出した方がええ…」

 

 俺とウサギがアリスを助けに行こうとすると、クイナさんが猛反対した。

 チシヤも、手で顔を覆って不甲斐なさそうに口を開く。

 クイナさんは、俺達に最後の忠告をしてきた。

 

「それでも、アリスを見殺しにはできない」

 

「オレも一緒に探す。アリスの命がかかってるんだ」

 

 どんなに危険だとわかっていても、ウサギも俺も、アリスを見捨てたりなんかできるはずがなかった。

 俺とウサギは、片っ端からアリスのいる部屋を探し始めた。

 

「ホテルが広すぎる…手分けして探そう」

 

「そうね。早くアリスを見つけないと…!」

 

 俺とウサギが分かれようとした、その時だった。

 

「あれっ!?リーダー!何してんすかこんなところで!」

 

「ネズミ…!」

 

「もうすぐ『げぇむ』の時間なのにどこにもいないから探したんすよ〜!…あれっ?何かあったんすか?」

 

 ネズミ、ヤギ、ヤヨイの三人が、俺を探しに来た。

 この三人には、トランプ奪還作戦の事を伝えていない。

 万が一作戦が失敗して俺が奴等に拷問されても、俺と三人との間に繋がりが無ければ、この三人は何も知らないまま平穏に過ごせるからだ。

 

「いや…」

 

「アリスがアグニ達に捕まって監禁された。今日『げぇむ』に参加させないと『びざ』が切れる」

 

 俺が言い淀むと、ウサギが三人に事情を説明した。

 するとヤギは、俺の方を見る。

 

「それで、リーダーはアリスを探してたのか…?」

 

「…ああ」

 

「水臭いですよ!何でそんな大事な事、もっと早くオレらに言わないんすか!」

 

「私達も一緒にアリス君を探すわ!」

 

 三人は、俺やウサギと一緒にアリスを探すと言い出した。

 そんな事をすれば、ヤギ達まで武闘派連中に捕まって殺される。

 いくら腕っぷしや逃げ足に自信のあるコイツらでも、銃火器を大量に持ってる武闘派連中相手に勝ち目はない。

 

「ダメだ!連中は、アリスの仲間を探してんだぞ!?そんな事して見つかったら、お前らまで殺される!」

 

「オレら全員、アンタに救われた命だ。オレらの命を、アンタの為に使わせてくれ」

 

 そう言ってヤギは、俺の目を見据えた。

 ネズミとヤヨイも、気持ちはヤギと同じらしい。

 …何だよ。

 俺は、そんな事させる為にお前らを助けたんじゃねぇんだよ…!

 

「オレは上の階から探す。ネズミとヤヨイは下の階を頼んだ」

 

「「了解!」」

 

 俺の仲間三人は、手分けしてホテルを探し始めた。

 …クソッ、仲間だけ危険な目に遭わせていられるかよ。

 

「オレ達も行こう」

 

 俺とウサギも、手分けしてホテルの部屋を片っ端から調べた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あれから数時間、手分けして探しても、アリスは見つからなかった。

 

「クソッ……!」

 

 俺が空き部屋で壁に拳を打ちつけた、その時だった。

 

 

 

「ぎゃははははァッ!!やっと見つけたぜウサギちゃん!!」

 

「ん゛ーーーーっ!!」

 

 部屋の外から、ニラギとウサギの声が聴こえてくる。

 ウサギがアイツらに捕まったんだ。

 クソッ、俺のミスだ。

 俺がウサギから目を離さなければ…!

 

「ウサギ…!!」

 

 俺がウサギを助けに行こうとした、その時だった。

 俺の部屋のドアが外から閉められて、開かなくなる。

 クソッ、奴の仲間が邪魔してんのか…!

 俺が必死にドアを開けようとしていると、ドアの外にいる奴が下卑た笑い声を上げる。

 

「ウサギちゃんはNo.2とお楽しみ中だぜェ。なァに、()()()やったらテメェも料理してやるよ!ギャハハ!」

 

 コイツら…どこまでもそういう事しか考えてないんだな。

 ここまで来るともう、怒りを通り越して感情が氷点下まで冷え切ってくる。

 

「……どけ」

 

「あ?何だ?聴こえねーぞ」

 

「そこをどけ!!」

 

 俺は、ドアをガンッと殴りながら外のいる奴に向かって怒鳴った。

 そして、重そうな椅子を持ち上げて、ドアに向かって投げつける。

 何度も、何度も、ドアに向かって椅子を投げつけた。

 もう一度椅子を投げつけようとした、その時だった。

 

「え……!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

 ウサギちゃんとヘイジ君を囮にした俺は、ロイヤルスイートに侵入し、アグニが見ていた絵を壁から外した。

 思った通りだ♪

 金庫は、絵の裏に隠してあった。

 

「ようやく…ご対面だね♪」

 

 暗証コードを電子ロックに打ち込むと、液晶画面に『OPEN』と表示され、金庫が開く。

 金庫の中には、俺達が今まで必死にかき集めてきたトランプが入っていた。

 

「『♡10(はあとのじゅう)』と絵札を除く全種類のトランプ。『今際の国』から出国する為の、唯一の『答え』。()()()()に今日までせっせと集めてくれた、『ビーチ』の皆に感謝しないとね♪」

 

 そう言って俺は、金庫の中のトランプを全て集めてポケットにしまった。

 そのまま、正面玄関を通って『ビーチ』を後にする。

 

「思いの外永く、『ビーチ(ここ)』には世話になっちゃったけど、ようやくこれも、用済みだ」

 

 苦労してようやく手に入れた幹部の証であるNo.9のロッカーキーを、腕から外す。

 俺にはもう、必要のないものだからね。

 今日までありがとう。

 奴隷諸君♪

 

「大方、そんな事やと思ったで…」

 

 俺が『ビーチ』から去ろうとすると、クイナが俺の前に立ち塞がった。

 

「アリスは初めから、金庫の場所を知る為の撒き餌か…ウサギとヘイジは、共犯者のカモフラージュ。あわよくばウチも…か。理解できひんな。今頃3人は、武闘派連中に殺されとるかもしらんのやで?何がアンタを、そこまでさせるんや…!?」

 

 クイナは、険しい表情を浮かべながら俺を睨んでくる。

 そう簡単には情に絆されないと踏んでいたから、協力者に選んだんだけどなぁ。

 

「理解できないなら、できる努力をする事だ。『生き残る』為に、しちゃいけない事なんてあるのかい?」

 

 俺が言うと、クイナは冷や汗をかいて顔を顰める。

 俺はそんなクイナの方に手を置いて話しかける。

 

「綺麗事は結構。生きたければ一緒においでよ。今なら競争率は立ったの2倍。オレと君のどちらかが出国できる♪」

 

「いいや、4()()だね」

 

 声がした方を振り向くと、そこには俺の恩師とヒヅルちゃんが立っていた。

 

「こんな事だろうと思ったよ。一応ヒヅルにお前さんをマークさせといて正解だったぜ」

 

「アンタボーシヤとアグニのクツ舐めまくってただけじゃん」

 

「はっは吐かせちゃんと王座をぶん奪る準備はしてたさ」

 

 ヒヅルちゃんが言うと、先生が笑う。

 ヒヅルちゃんの本当のご主人様は、『ビーチ』の王じゃなく先生だったって事か。

 俺とした事が、とんだ盲点だった。

 先生はともかく、彼女が鼻の利く番犬だって事をすっかり忘れてたよ。

 

「最後の最後に、アンタに邪魔されるとはね。どうします?オレを『ビーチ』に突き出しますか?」

 

「ハハッ、まさか。オレがそこまで殊勝な男に見えるか?」

 

 俺がわかり切った事を訊くと、先生は笑って手を差し向けてくる。

 

「カードを寄越せ。『今際の国』から出国するのは、このオレ様だ」

 

 …やっぱり、そう来るよなぁ。

 本当に、俺もツイてないな。

 せっかくここまで来て、一番厄介な恩師(ひと)を敵に回す事になるとはね。

 

「自分は安全地帯から高みの見物、カードの奪取は他力本願、ほんで美味しいところだけ独り占めかいな。ズルいやっちゃな、アンタ」

 

「いいかいオネーチャン。大人ってのはな、いつだってズルいもんなんだよ。何の為にオレがボスのクツを舐めて顔も知らねぇ熟女を撒き餌にしたと思ってる?『ビーチ』の王になるのも悪かねぇが、せっかく目の前にチャンスがあんなら逃すわけにはいかねぇよなぁ?」

 

 クイナが先生を軽蔑すると、先生は悪びれずに強気に出た。

 クイナが先生に詰め寄ろうとすると、今度は先生はヒヅルちゃんを盾にした。

 

「おおっと動くな!それ以上近づくと、狂犬が火ィ吹くぞ!」

 

 先生は、ヒヅルちゃんを盾にして俺とクイナを脅してきた。

 世の中バカばっかりだけど、この人は、俺が知る限り一番のバカだ。

 この状況でチープな脅しをしてくるあたりが、頭悪すぎて言葉も出ない。

 俺が先生に見切りをつけたその時、ヒヅルちゃんが口を開く。

 

「は?オレ、別にオッサンの味方じゃないけど」

 

「えっ」

 

「オレはこの国から出る気ないし、カード争奪戦がしたいなら勝手にやれば?オレは勝てそうな奴につく。勝ち馬に乗るのがオレのスタンス」

 

「君らしいね♪」

 

「でしょ。オレ結構何でもできるけど、どーする?」

 

「ひひひひひひヒヅルちゃん?なななななぁにを言ってるのかなぁ?そうだ、何が欲しい?お菓子?ゲーム機?」

 

 ヒヅルちゃんが言うと、先生はヒヅルちゃんを味方につけようと必死にご機嫌取りをする。

 俺はその隙に、出口へと向かった。

 

「あっ待てテメェコラ!!このガキャ!!パツキン!!悪人ヅラ!!」

 

 先生が口汚く罵りながら俺を追いかけてくるけど、知ったこっちゃないね♪

 俺が『ビーチ』のゲートを潜ろうとした、その瞬間だった。

 

 

 

 ――ドグォオオ…ン

 

 

 

 駐車場の方角から、爆発音が聴こえる。

 この時間帯に、駐車場で爆発…

 …嫌な予感がする。

 

「わ、やば」

 

「ガソリンでも、漏れとったんか…!?」

 

「……………考えたくもないが、最悪の可能性があるとするならば…」

 

 俺は、もう要らなくなったロッカーキーを、ゲートの外に投げ捨てた。

 すると『ビーチ』の敷地を超えた瞬間、ロッカーキーが激しく火花を上げた。

 

「う…嘘やろ!?まさか…まさか!?」

 

F××k(クソッタレ)

 

 クイナが目を見開き、先生は絶望の表情を浮かべて笑う。

 

「まさか…()()()()()()()()()…この『ビーチ』が『げぇむ』会場に…!?」

 

「病院、学校、神社…『げぇむ』は毎晩あらゆる施設で開催される。ある日、この『ホテル』が『げぇむ』会場になったとしても、不思議はないさ…あと、一歩だったのになァ…なかなか、思い通りにはいかないもんだね♪」

 

「どんまい」

 

 俺は、ゲートを塞ぐように出現したレーザーを見て、思わずため息を漏らす。

 地面を睨みつける俺に、ヒヅルちゃんが他人事のように言い放つ。

 先生は、ココアシガレットを噛み砕いてから、俺達に話しかける。

 

「…しゃーねぇ。こうなりゃ一時休戦だ。同盟結成といこうぜ」

 

「……気は進まへんけど、それしかないな」

 

「んじゃオレも乗った」

 

 先生が言うと、クイナとヒヅルちゃんも先生に賛成した。

 …ここが『げぇむ』会場になってしまったのは仕方ない。

 まずはこの『げぇむ』を生き延びる事を考えなくちゃね♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「な、んだと…!?」

 

 俺が閉じ込められた部屋のテレビがいきなり点灯し、『げぇむ』の文字が現れる。

 ……ははっ。

 『ビーチ』だって、23区内の建物だって事には変わりないんだ。

 そりゃあ、そういう事もあるよな。

 何で決めつけちまってたんだ。

 『ビーチ(ここ)』は安全だって。

 

 しかも、何だよ…

 難易度『♡10(はあとのじゅう)』って…

 

 これで、絵札以外の全部のトランプが揃う。

 この『げぇむ』を作った奴には、お見通しだったわけだ。

 『ビーチ』の存在も、残りのカードが『♡10(はあとのじゅう)』だって事も。

 

 

 

ーーー

 

『るうる』の説明をいたします。

1階ロビーへお集まりください。

 

ーーー

 

 

 

 …仕方ない、行くしかないか。

 ドアノブに手をかけると、簡単にドアが開いた。

 どうやら、このドアを押さえていた奴は、先に1階に向かったらしい。

 俺も急いで1階のロビーに向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「な……!!」

 

 1階のメインロビーで、俺は信じられないものを目の当たりにした。

 

「誰がやったんだ…!?」

 

「こんなの…酷すぎる…!!」

 

 1階のロビーの床には、少女が包丁を胸に突き立てて倒れていた。

 床には血溜まりができていて、彼女がもうこの世のものではない事はすぐに理解できた。

 

 何で、アンタなんだよ。

 ついこの間まで、元気だったじゃないか。

 『ビーチ』の事を色々と話したりして、せっかく仲良くなれたと思ったのに…

 何でこんな事になるんだよ…!!

 

「モモカ…!!」

 

 

 

 

 





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