ヘイジside
「嘘だろ……」
何で…
何でモモカが死んでるんだよ…!?
「モモカ!!モモカぁ!!いやああああ!!」
モモカの親友だったアサヒは、モモカの遺体の前で泣き崩れていた。
するとその時、アナウンスが流れる。
《『げぇむ』の時間です。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は……『まじょがり』》
『まじょがり』…だと…!?
《『るうる』の説明。皆様の前に横たわるのは、前途ある幼気な少女の亡骸。その少女の命を奪った、邪悪な『まじょ』が、皆様の中に隠れておられます》
な……!
モモカは、この中の誰かに殺されたってのかよ…!?
誰がそんな事を…
《その『まじょ』を皆様自身の手で見つけ出し、『まじょ』の醜く穢れた魂を肉体諸共、裁きの『ごうか』で浄化する事ができれば、『げぇむくりあ』》
「ね…ねぇ、いつの間にか…野外ステージの篝火がついてるわよ…!」
その言葉を聞いて後ろを振り向くと、野外ステージの篝火が燃え上がっていた。
『ごうか』で浄化するってのはまさか…犯人をあの篝火に焼べろって事かよ!?
《なお、『まじょ』は殺人犯を指す名称に過ぎないので、女性とは限りません》
「な…なぁ、つまりこの『げぇむ』ってのは…この『ビーチ』の中にいる殺人犯を、あの篝火で焼き殺せってのか…!?」
《制限時間は120分。それでは、『げぇむすたあと』》
マジかよ…
こんな『げぇむ』、あんまりだろ…!
◆◆◆
クリハラside
『まじょがり』…ねぇ。
残る『
一説によると、焼死ってのは最も苦しい死に方の一つとされている。
…あ、別に焼き殺さなくても、殺してから焼いてもいいのか。
「オレ達の中に人殺しなんて…マジでいると思うか…!?」
「言っとくけど、オレじゃねーぞ!」
「そんなの…どうやって見つけんのよ…」
「そもそも、何で殺しなんか…」
他の奴等は、すっかりパニックに陥っている。
とりあえず俺は、かつて一緒にボーシヤの取り巻きをやっていたアンのところに向かった。
「いやぁ、何だかヤベェ事に巻き込まれちまいやしたなぁ」
俺がしれっとアンのところに来ると、アンの仲間が俺を睨む。
…まあ、王座ぶん奪り大作戦の為にあっさり掌返してアグニ政権に寝返ったわけだから、そんな顔にもなるわな。
一度『ビーチ』に反旗を翻した今となっちゃ、あんなイカレ集団に属するのなんざ死んでも御免だが。
「クリハラ…!お前、今までどこ行ってた…!」
「長めの便所」
「テメェ…!!」
「やめなさい。今は仲間割れしてる場合じゃないでしょ」
「…チッ」
俺に殴りかかろうとする元仲間を、アンが制止した。
するとソイツは、俺への怒りを収めて、俺に状況を説明した。
「それより、マズい事になったぞ」
「ええ…よりによって…最悪の『げぇむ』だわ…この『げぇむ』との関連は別として、No.1昇格の為に、ボーシヤとクズリューを殺した人物が、『ビーチ』の中に間違いなく存在する。その事実を知るのは私達3人と、ボーシヤの死体を発見した、ガソリン調達班のあの2人…殺人者の存在が、もし皆に知られれば…恐怖が…暴走する」
俺らは、ボーシヤ殺しの件を黙っている事にした。
するとその時だ。
「そろそろ全員、頭ン中を『
ニラギが、手を叩いて全員の注目を集めてから言った。
当然、誰も名乗り出なかった。
「まぁ、そりゃそーだわな。だったら次だ。最初に疑うべきは身近な人物、そこの死体といつもつるんでたのは…お前だよな」
そう言ってニラギは、泣き崩れている女の子…アサヒちゃんを指差した。
ニラギに名指しされたアサヒちゃんは、困惑の表情を浮かべる。
「え…!?」
「大の仲良しが心臓にナイフブッ刺されてくたばる瞬間、お前、どこで何してた?」
「何…って、私は…何も知らない…!!」
ニラギが意地悪く質問すると、アサヒちゃんは首を振りながら答える。
あの反応は、まぁ十中八九シロだろうな。
だがアサヒちゃんには、モモカちゃんが殺された時のアリバイを説明できなかった。
すると他の奴等は、アサヒちゃんに疑念を向け始める。
「答えらんねーのかよ…」
「怪しくねーか?」
「ああ…!!」
「アイツが『まじょ』か?」
「あり得るわよ…!」
他の奴等は、よってたかってアサヒちゃんを疑い始めた。
おうおう、流石バカは気が早いねぇ。
お前ら、既にニラギの手中にハマってるって何で気づかねぇ?
「おーおー、皆気が早ぇーなぁ。どうやらお前を『まじょ』にして、さっさと『げぇむ』を終わらせたいみてーだが…どうする?とりあえず試しに、『焼べて』みるか?」
ニラギが男の風上にも置けねぇ発言をした、その時だった。
「やめろニラギ!!」
「いい加減にしなさいよ!!」
ヘイジ君とウサギちゃんが、立ち上がった。
◆◆◆
ヘイジside
皆がアサヒをよってたかって『まじょ』にしようとしている。
ニラギがそうなるように仕向けたからだ。
俺とウサギは、我慢ならなくなって立ち上がった。
「文明人のやり方とは思えないわ。『げぇむ』の思惑通り、本気で『魔女狩り』を再現させたいワケ?」
「大体、ニラギに乗せられたアンタらもアンタらだ。友達が死んで悲しんでる子がいるってのに…なんでお前ら自分の事しか考えられねぇんだよ!!」
俺は、ニラギに乗せられてアサヒを『まじょ』だと疑った奴等に向かって怒鳴った。
アサヒは、ただでさえモモカを殺されたショックで気が動転してるのに、そんな状況で、モモカが殺された時何をしてたかなんて説明できるわけがない。
何でそんな事も、考えてやれないんだよ…!?
俺が叫ぶと、何人かは冷静さを取り戻したのか、ハッとした表情を浮かべてアサヒを『まじょ』に仕立て上げるのをやめようとする。
だけどそれを邪魔するように、ニラギが俺とウサギにボソッと呟く。
「まーたお前らか……何もわかってねーんだな。頭を『
ニラギは俺とウサギにそう告げると、他の皆の方を向いて叫んだ。
「よく知りもしねー女を急に庇っちゃってどーしたんだろーなァー!!裏があんのかな?コイツらも怪しくねーかァ!?」
ニラギが叫ぶと、他の皆がザワザワし出す。
すると、誰かが手を挙げて言った。
「オ…オレも…ソイツらが怪しいと思う…ぜ」
「あたしも…そんな気がする…!」
「だよな…!」
「大体、いきなり大声出しておかしーぜ!」
「きっと何か隠してんのよ!」
「このロビーに最初にいたのも、あの、泣いてる子じゃなかった…?」
「確かに…そうだったかもしれねぇ…」
「やっぱアイツらが『まじょ』なんじゃねーの…!?」
「『まじょ』かも…」
「そうだよ……」
「『まじょ』に違いないのかも…!?」
他の皆は、俺とウサギ、そしてアサヒを『まじょ』だと疑い始めた。
するとその時だった。
「皆もうやめてよ!!ヘイジさんもウサギちゃんも、そんな事する人じゃないんだからぁっ!!」
ヤヨイが、立ち上がって他の皆に向かって叫んだ。
「ヤヨイ…?」
「アンタ達…今まで何を見てきたのよ…!?ヘイジさんはアンタ達を出国させる為に自分を犠牲にしてきたっていうのに、アンタ達ときたら…!!ヘイジさんが助けてくれなきゃ、とっくに『びざ』切れで死んでたくせに!!アンタ達なんか、助けなきゃよかった!!」
ヤヨイは、ポロポロと涙を流しながら『ビーチ』の皆を責めた。
ヤヨイが皆に向かって今まで積もりに積もった不満をぶつけ、肩で息をすると、ニラギがニヤリと口角を上げて笑う。
「あーあ、言っちまったな」
ニラギがヤヨイを馬鹿にしたように笑った、その直後だった。
「な…何だよその言い草は!?別に誰も助けてくれなんて頼んでねーじゃねーか!」
「つーか、この状況でコイツらを庇うなんて、やっぱお前も『まじょ』なんじゃねーのか!?」
「そ、そうよ!この子も『まじょ』に違いないわ!」
「『まじょ』だよ!!もうそれでいいじゃんかよッ!!」
「あ……」
ヤヨイの言葉を聞いて他の皆がさらにヒートアップすると、ヤヨイは絶望の表情を浮かべる。
他の皆は、ヤヨイにまで疑いの目を向けて糾弾し始めた。
「そうだ!!アイツが『まじょ』だ!!」
「殺された女と昼間一緒にいるのを見た!!」
「私も見たわ!!」
「誰もアリバイを証明できねーんだろ!!」
「『まじょ』に違いねぇ!!」
「『まじょ』よ!!」
「そうだそうだ!!」
「『まじょ』は一人とは限んねーぞ!!」
「庇うからには何か理由があるに違いねぇ!!」
「4人で共謀して殺したのよ!!」
「『まじょ』だ!!」
「燃やせ!!」
「死んだ女と口論してるのを見たわ!!」
「もう疑いようがねぇ!!」
「焼き殺しちまえッ!!」
他の皆は、よってたかってアサヒを、そしてアサヒを庇った俺達を『まじょ』に仕立て上げようとした。
その光景を見て、ニラギが楽しそうに笑った。
「溢れたっ♪」
「ニラギ…お前っ…!」
俺は、楽しそうに笑うニラギを睨みつけた。
一方で、ネズミとヤギは、俺達を庇って皆に責められているヤヨイを必死に庇っていた。
「や、やめろお前ら!!」
「ヤヨイ、大丈夫か?」
「ヤギさん…ネズミ君…私、やっぱり無理よ。だってコイツら…揃いも揃ってクズばっかりじゃない。私にはもう、コイツらを出国させる理由が思いつかない。皆、死ねばいいのよ…!」
ヤヨイは、絶望の表情を浮かべながら泣き崩れた。
皆に責められたヤヨイはもう、この国で皆と一緒に生きる事への希望を失っていた。
皆が俺達を責め立てる光景を見て、ヒヅルとチシヤが呟く。
「………醜いね」
「…まさに衆愚。ここまで来ると見事だね♪我が身可愛さに、同調して
ヒヅルとチシヤは、アサヒや俺達を生贄にしようとする皆を軽蔑していた。
ウサギは、ニラギを睨みながら言い放つ。
「皆をわざと焚き付けて…『げぇむ』を楽しんでるの…!?あなたは、獣ですらないわ…!!」
「遅かれ早かれこうなってた。『性』だからな。人は放っときゃあ…殺し合う生き物なんだよ」
ウサギがニラギを糾弾すると、ニラギは楽しそうに笑う。
そうしている間も、皆の俺達への罵声は止まらない。
「殺せ!!」
「アイツらが『まじょ』だ!!」
「そうだそうだ!!」
「『まじょ』に違いねぇ!!」
「焼き殺しちまえ!!」
「燃やせ!!」
「燃やせ!!」
「燃やせ!!」
「燃やせ!!」
他の皆が、結託して俺達を殺そうとする。
その様子を、幹部の二人…マヒルとミラが、遠巻きに見ていた。
「誰しも…自分の心の中に森がある。けれど誰しもが、決してその森に入ってはいけない事をわかってる。何故なら、森の奥には狼がいるから。獰猛で血に飢えた、狼の姿をした自分自身に出会ってしまうから…けれど、あの男はここにいる全員を、いとも容易く森の中に誘い込んだ」
そう言ってミラが視線を向けた先には、楽しそうに笑うニラギがいた。
「こうでなきゃな、やっぱ『
「お前…!!」
ニラギは、俺を馬鹿にしたように言い放った。
『
だからこそ俺達は、絶対に壊れない絆を作る事で『
これじゃあ、完全に『げぇむ』を作った奴の思う壺じゃないか。
「もうすぐ見られるぜ。バカが結託してバカを殺す、世にも醜い殺人ショーだ」
◆◆◆
クリハラside
ひょえぇ…ヤッベェ。
何だこの地獄絵図。
ニラギのニーチャンはやる事がえげつねぇぜ。
え?
俺はアサヒちゃん達を助けねぇのかって?
バーロー、それよりも先にやる事があんだよ。
「姐さん」
俺は、隣にいるアンにコソッと話しかける。
「ボーシヤ殺しと『まじょ』が同一人物であろうがなかろうが、血の海を見る事になる。だがオレ達とガソリン調達係の奴等さえ黙ってりゃあバレる事はない。オレがアイツらんとこ行って口止めしてきやすぜ」
「そうね…このままだと、あの二人が恐怖に飲まれてこの件を皆にバラしかねない。頼んだわよ」
「
アンに二人の口止めを任された俺は、高校の頃の強制参加のマラソン大会でビリッケツだった鈍足をフルに活かし、音を立てずにガソリン調達係のもとへと向かった。
だが…
「殺せ!!」
「そうよ!!」
「『まじょ』を殺せ!!」
「そうだそうだ!!」
「そ…そうだそうだ!!ボーシヤとクズリューを殺したのも、ソイツらに違いねぇッ!!」
…………。
…………。
…………。
バッカヤロォオオオオオオオオ!!!
何故それを今言う!?
つーか俺今それを言うのと止めようとしたとこなんですけど!?
俺の立場!!
「あ…れ?」
バカがボーシヤ殺しの件をバラすと、今までアサヒちゃん達を責めていた奴等が静まり返る。
さらにアグニが、バカを睨みつける。
「……今、なんつった?」
「え…と、コイツとガソリン調達の途中で偶然ボーシヤの死体を見つけて…パニックになるからって上から口止めされてて、『げぇむ』で死んだ事にしろって…あれ…?あれ?」
………クッソ、頭痛くなってきた。
俺はとりあえず、他の奴等にバレないようにアンの隣に戻った。
「あのバカ…!!喋っちまいやがった!」
「すいません姐さん、一足遅かった…!」
「このままだと、ますます収拾つかなくなるぞ!!」
「いいえ、そうとは限らない…感じない?さっきまでの熱が、急速に冷めていく…!!」
見ると、さっきまでアサヒちゃんやヘイジ君達を『まじょ』にしようとしていた奴等が、冷静さを取り戻していく。
「ボーシヤが…殺された!?」
「クズリューさんも…」
「嘘だろ…!?」
「じゃあソイツが『まじょ』なのか…!?」
「『げぇむ』と関係あるとは限らないわよ…」
「アイツらにあのボーシヤが殺られるとは思えねぇ…!」
「じゃあ一体誰なんだよ!?」
他の奴等は、アサヒちゃんを『まじょ』に仕立て上げるのをやめて、冷静に『まじょ』探しをしようとする。
……奇しくもバカの失言が、他のバカ共の頭を冷やしたか。
冷静になるバカ共を見て、ニラギが舌打ちをする。
一瞬でいい、ほんの一瞬さえコイツらが冷静さを取り戻してくれりゃあ、強引にでも話し合いに───
――ゴッ
………ぱぇっ?
「…?」
突然、鈍い音が響いたかと思うと、失言したバカが突然頭から血を流して倒れた。
バカの後ろには、ゴルフクラブを持ったラスボスが立っていた。
「まどろっ…こしい…ボーシヤ殺しが…誰だろうと知るか…『くりあ』する気が…あるのなら、手当たり次第に焼けばいい」
「あーあ、やってくれたなラスボス。おかげで楽しみにしてたショーが台無しじゃねーか」
「………アグニ」
とんでもねぇ提案をするラスボスに対してニラギが文句を言うと、ラスボスはアグニの方を振り向く。
すると奴等の後ろに立っていたアグニは、前に出て言った。
「ニラギ…テメェのやり方は、いちいち悪趣味だ。ラスボスのやり方でいく。この中の誰かが、『まじょ』だってんなら、オレの仲間以外は、テメェら全員、今から『まじょ』だ!!」
アグニが言うと、武闘派連中以外は皆一目散に逃げ出した。
やべぇ、やべぇぞこれ…!
特に俺なんか、アグニに嫌われてっから捕まったら真っ先に殺される。
ふざけんなよ…っ、せっかくここまで来て死んでたまるか!!
俺は、その場で立ち尽くしているヘイジに向かって叫んだ。
「おい!!早く逃げるぞヘイジ!!何してんだバカ!!」
「っ……ヒヅル…!」
俺は、強引にヘイジの腕を引いて武闘派連中から距離を取った。
取り残されたヒヅルちゃんが後退りしようとすると、ニラギがヒヅルちゃんを呼び止めた。
「オイオイオイ!どこ行く気だ?ヒヅルちゃーん」
「………!」
ニラギが声をかけると、ヒヅルちゃんは足を止める。
ラスボスは、ヒヅルちゃんを一瞥してから尋ねる。
「お前は……『まじょ』…なのか…?」
「………違う」
ラスボスが尋ねると、ヒヅルちゃんは首を横に振って否定する。
するとアグニは、ヒヅルちゃんに軍用ナイフを手渡しながら言い放つ。
「『まじょ』じゃないってんなら、
「…………え」
アグニが言うと、ヒヅルちゃんは僅かに目を見開いて冷や汗を垂らす。
するとアグニが、ヒヅルちゃんを睨みつけて脅す。
「何を驚いてる?自分だけは手を汚さずに済むとでも思ってたのか?」
アグニは、ヒヅルちゃんに無理矢理軍用ナイフを握らせた。
それに続けてニラギも、ヒヅルちゃんの肩に腕を回して囁いた。
「なぁに、そう難しい事考えるな。生き残る為に、他の奴を全員ブチ殺せばいい。オメーなら、2時間もありゃあ殺れんだろ?裏切りと殺しはオメーの
アグニはヒヅルちゃんを脅し、ニラギはヒヅルちゃんを唆した。
おいおい…ヒヅルちゃん、マジでコイツらの仲間になっちまうのかよ…!?
◆◆◆
ヒヅルside
――ヒヅルはヒーローが好きなのか。
――うん、超つえーしカッコいいし!
――どんなところがカッコいいと思ううんだ?
――困ってたらすぐ助けに来てくれるとこ!
――じゃあヒヅルも、このアニメのヒーローみたいに、困ってる人を助けられる人になろうな。
――うん!なる!
テレビで昔のアニメの再放送を見て、ヒーローに憧れた幼少時代だった。
人を助けるって、すごく尊い事だと思ってた。
誰かを守る為に戦うって、すごくカッコいい事だと思ってた。
――ひ…ヒヅルちゃんが悪い…と、思う……
――ヒヅルちゃん、どうしてママの言う事を聞けないの!?
正しいと信じてきた生き方は、好きだった男の子に全否定された。
お父さんも、お母さんも、先生も、友達も、誰も味方になってくれなかった。
お母さんと新しいお父さんには、本当の自分を殺された。
『今際の国』に来るまで、仮面を被って生きてきた。
でも、違ったんだ。
好きだった男の子に嫌われたのが嫌だったんじゃない。
人を殴った事を怒られたのが嫌だったんじゃない。
たった一言、言ってほしかっただけなんだ。
俺が本当に言って欲しかったのは──…
「殺れ。それしかお前が生き延びる道はない」
アグニは、軍用ナイフを俺に握らせながら脅してきた。
何も迷う事はない。
そもそも『ビーチ』の奴等は、死のうがどうなろうが構わない、赤の他人。
自分が生き残る為にどうすればいいか、そんな事考えなくたってわかる。
今まで、そうやって自分勝手に生きてきた。
そしてこれからも、自分勝手に生きていく。
『わかった』、そう言うだけでいい。
たったの4文字、簡単な事だ。
「………うるせーよ」
「……あ?」
………あれっ?
何で…口が勝手に…
「時間がねーからローラー作戦ってか?そんな方法で『まじょ』なんか見つかるわけねーだろ、バーーーカ」
違う、俺が言わなきゃいけないのは、そんな事じゃない。
『わかった』、ただそう言えばいい。
なのに、何でその一言が出てこない…?
「何だと…!?」
「オレはオレの生きたいように生きる。お生憎様、
頭ではわかってんだよ。
そんな事言ったら、確実に殺されるって。
だけどここでコイツらの言いなりになっちまったら、“俺”は死ぬ。
誰かの言いなりになって、自分を殺してたまるか。
こんなふざけたやり方で、“死”にたくないんだよ。
――ゴッ
「がっ……!」
俺が武闘派連中に反旗を翻すと、ニラギがライフルのグリップで俺の顔を殴ってきた。
俺が床に倒れると、ニラギは俺をバカスカ踏みつけてきた。
「このクソガキ!!散々殺してきたくせに、今更点数稼ぎかァ!?あァ!?この期に及んでいい子ぶりやがって、クズが!!大体テメェ、いっつもスカした顔しやがって、ムシズが走んだよ…なァッ!!」
ニラギは、俺を罵りながら蹴ったり踏みつけたりしてきた。
他の連中は、それを遠巻きに見ていた。
全身が痛い。
それ以上に、耳が痛い。
自分を守るのに精一杯で、人に興味なんか持てなくて、馴れ合いなんかくだらないって思ってた。
自分でも、自分がクズだって事くらいわかってた。
…本当に、世の中ってうまく回ってると思う。
誰かを傷つけた分だけ、いつかそのツケが回ってくる。
それは現実世界だろうと、『今際の国』だろうと、大した違いなんかない。
今回はただ、
なんて考えたその時、アグニが口を開く。
「おい。時間が無い。さっさとトドメを刺せ」
「了解♪」
アグニが命令すると、ニラギが俺にライフルの銃口を向ける。
「あばよ、クソガキ」
「………」
あーあ。
俺の人生、これで終わりか。
もう少し、上手くやれると思ったんだけどな。
まあでも、後悔はない。
俺は最期まで、自分勝手に生きた。
だから俺は、自分勝手に死ぬ。
何一つ悔いのない、いい人生だった。
……いい人生だった、よな…?
――パァン
「ぐ……!」
………?
何が、起こった?
俺、生きてる…?
何で…
「まーたお前かァ…!」
ニラギは、俺を…いや、俺の上に覆い被さってる奴を睨みながら舌打ちをした。
俺の上には、肩から血を流したヘイジが覆い被さっていた。
ヘイジは、痛みに顔を歪めながらニラギを睨んだ。
「どうかしてるぞお前ら…女の子相手に…!」
「ナイト気取りか?ムカつくなァ、お前」
ヘイジがニラギを睨むと、ニラギはヘイジを馬鹿にしたように笑った。
「逃げるぞ!!ヒヅル!!」
ヘイジは、放心している俺を抱えて逃げようとした。
するとラスボスが、刀を抜いて俺達に斬りかかってくる。
「……逃がすか」
ラスボスの刀が迫ってくる。
このままだと二人まとめて斬られる、そう思った、その時だった。
突然、どこからか煙幕が上がって、視界が煙に包まれる。
見ると、死角に隠れていたヘイジの仲間が、発煙筒を持っていた。
ヘイジは、その隙に俺を抱えたまま武闘派集団から逃げた。
「チッ…!何つー逃げ足の速さだあの野郎!」
「追いかけろ。アイツらは、どんな手段を使ってもここに引き摺り出せ」
後ろから、武闘派連中の怒号が聴こえてくる。
ヘイジは、障害物をうまく利用して銃弾を避けつつ、ホテルの上の階へ逃げた。
「ハハッ、こちとら100m10秒台キープしてんだよ」
ヘイジは、俺を担いだまま武闘派連中から逃げ切り、ひたすら廊下を走った。
…何でコイツは、俺を助けた?
仲間でも何でもないのに。
俺はコイツを置いて、『ビーチ』から逃げ出そうとしたのに。
「……何で、助けた。仲間でも何でもないのに」
「その話は後な!今は、どこかの部屋に身を隠さないと…!」
そう言ってヘイジは、空いている部屋に駆け込んだ。
部屋を閉じて、武闘派連中が入ってこられないようにドアの前に家具を置いた。
「よし、とりあえず、これでしばらく凌げるだろ。ヒヅル、今のうちに手当てを…」
「………アンタの方が重傷じゃん。オレを庇わなきゃ、撃たれずに済んだのに」
…本当に、理解に苦しむ。
何で、この期に及んで人の事なんか気にしていられるわけ?
俺が『げぇむ』でクリハラのオッサンやアリスを助けた時とは違う。
俺がアイツらを助けたのは、アイツらを助けないと自分が生き残れなかったからだ。
ヘイジが俺を助けたところで、何のメリットも無いのに。
この国では、情を捨てられない奴から死んでいく。
コイツがこれ以上他人に情けをかけて死ぬ前に、現実を教えてやろうと思った。
「…オレさ、クズなんだよ。他人が生きようが死のうが知ったこっちゃないし、今まで人を踏み台にして生き延びてきた。人に貸しを作るのも、踏み台にしていい口実を作る為でしかない。信用できるのは自分だけ。人は、自分の為にしか強くなれない。傲慢で、独りよがりで、協調性の欠片も無い…ちっぽけな自己愛を守る事に必死で、情を切り捨てる事で賢くなった気でいる…それがオレなんだよ。でも、別に後悔はしてないし、変わりたいとも思わない。オレは、自分勝手に生きて、自分勝手に死ぬ。クズだの何だのと罵りたきゃ好きにすればいい」
「ヒヅルはクズじゃない!!」
俺が言うと、ヘイジがすぐに俺の言葉を否定した。
「お前はただ、何を信じればいいのかわからなくなっちまってるだけだ。人がどうなろうと知ったこっちゃないと本気で思ってるなら、迷わず狩る側に回ってたはずだ。そうしなかったのは、お前が心のどこかで、必死に足掻いてるからだ。お前は、自由が欲しかったわけでも、自分だけが生き残りたかったわけでもない。お前は、人を信じたかったんじゃないのか」
「………黙れ」
知ったような口を利くな。
何も知らないくせに。
仲間でも何でもないくせに。
「お前は、どうやって人を信じたらいいのかわからないでいる。周りの大人が、お前を信じさせてやれなかったからだ。だけどやっと、お前を救う方法がわかった。たったの一言で良かったんだ。お前が好きな子をいじめっ子から助けた時、最初に言ってほしかった言葉だ。今、言うぞ。『助けてくれてありがとう』、だ」
「………っ黙れ…!」
お前に何がわかる。
そんな簡単な言葉で片付けるな。
人格も、価値観も、生きる意味も、何もかもを全否定されてきた。
人の為にしてきた事は、全部拒絶されてきた。
心を殺された事なんか、ないくせに。
「お前が受けた心の傷がどれ程のものか、オレには計り知れない。だけど、オレにもお前の背負ってるものを、背負わせてくれないか。オレ達、仲間だろ」
「うるさい!!お前なんか仲間じゃない!!馴れ合いなんかくっだらねぇ!!オレがどう死のうが、オレの勝手だろうが!!綺麗な言葉ばっか並べやがって…お前みたいなのが一番信用できねぇんだよ!!偽善者の分際で、オレの領域に土足で踏み込んでくるな!!」
俺は、ヘイジに向かって激昂した。
人なんか信用できない。
信用できるのは自分だけ。
だから、『今際の国』に来てからは、自分の為に生きてきた。
自分が唾棄した生き方から目を背け続ける事で、自分を守ってきた。
そんな簡単に信じてしまったら、俺の今までの人生は一体何になる。
俺は、ヘイジが差し伸べてきた手を払いのけた。
するとヘイジは、俺の身体を抱き寄せてきた。
「一緒に生きよう、ヒヅル。お前が生きていてくれる、それだけで、オレにとっては希望なんだ」
人なんか、信用できない。
信用してたまるか。
コイツを受け入れたら、俺の必死に守ってきた生き方が間違ってたって認める事になる。
なのに何で…何でこんなに、心が軽くなるんだよ。
「ヘイジぃぃぃ…!!」
俺は、泣きながらヘイジに抱きついた。
気の済むまで、俺はヘイジの腕の中で泣き続けた。
誰かが助けてくれると思っちゃいけない。
だから自分の身は自分で守らなきゃいけない、そう思ってた。
だけど今は、俺の心を救ってくれたヘイジが、俺の神様で、ヒーローなんだ。
人の事なんか信用できないし、興味もない。
それでも俺は、俺を救ってくれたヘイジを信じたい。
望んでもいいのなら、俺は、ヘイジと生きたい。
◆◆◆
ヘイジside
ヒヅルは、俺の胸で子供のように泣いた。
俺はヒヅルが落ち着くまで、ヒヅルに寄り添い続けた。
やがてヒヅルは、ずびずびと鼻を鳴らしながら俺から離れた。
「…そろそろ、落ち着いてきたか?」
「うん…ごめん、服汚して」
俺が尋ねると、ヒヅルは鼻を赤くしたまま頷く。
俺のラッシュガードは、ヒヅルの涙と鼻水でびちゃびちゃになっていた。
ヒヅルは、血が滲んだ俺のラッシュガードの袖を掴んで口を開いた。
「ヘイジ…今までひどい事ばっか言って…オレのせいでこんな怪我させてごめんね…」
「いいんだよヒヅル、そんな事は…」
ヒヅルが、どうでもいい事を俺に謝ってきたものだから、俺は笑ってヒヅルを許した。
俺はヒヅルのせいで撃たれたなんて思ってないし、俺はヒヅルが助けてくれなかったら、きっと今頃ここにはいなかった。
今はただ、それだけでいいんだ。
「身体、痛むか?」
「平気…もう痛くない。それより、その腕…」
ヒヅルは、俺の左肩を指差した。
一応ハンカチで止血と応急処置はしたが、あくまで応急処置だ。
だが今は、先にアリスを助けないと…
「掠っただけだ。そんな事より、動けるならどこかに身を隠しとけ。オレは、やらなきゃいけない事がある」
そう言って俺がアリスを探しに行こうとした、その時だった。
「411号室」
ヒヅルが、後ろから俺に声をかけた。
「アリスは、411号室のベッドルームにいる。…それと、助けに行くなら、一応
そう言ってヒヅルは、懐に隠し持っていたものを俺に手渡してきた。
「えっ…でもお前これ…」
「持ってきたはいいけど、オレは上手く使いこなせないから…これはヘイジが持ってて」
そう言ってヒヅルは、帽子で顔を隠す。
ヒヅルの頬は、微かに染まっているように見えた。
するとその時、武闘派集団の一人が、チェーンソーでドアを壊し、俺達のいる部屋に強引に突入してきた。
ソイツは、チェーンソーをやかましく鳴らして下品に笑いながら、俺達に近づいてきた。
「ギャハハハハ!!やっと見つけたぜぇ!!」
武闘派集団の男は、チェーンソーで俺達を真っ二つにしようとした。
俺が咄嗟に近くにあったテーブルを盾にしようとすると、ヒヅルが視界から消える。
「な…!?消え…」
男が驚いた瞬間、一瞬で天井の高さまで跳び上がっていたヒヅルが男に飛びつき、そのまま男の頭を両腿で挟んで鮮やかなフランケンシュタイナーを喰らわせ撃沈させた。
ヒヅルにやられた男の頭が床にめり込み、床がひび割れる。
「がぁっ!!」
ヒヅルにやられた男は、そのまま白目を剥いて気絶した。
大丈夫だよな…?
死んでないよな……?
俺は、ナイフを抜いて構えるヒヅルを見上げた。
「ヒヅル……!」
「…やっぱりオレは、人なんか信用できない」
「まだそんな事言って…!」
「だけどオレは、ヘイジがいなくなるの
そう言ってヒヅルは、俺を庇う形で構えた。
…何やってんだ、俺は。
俺が守ってやらなきゃいけないのに、こんな小さな女の子に守られて。
……いや、違うな。
ヒヅルが俺を信じてくれたんだ。
だったら俺も、ヒヅルを信じてやらないと。
「…ありがとう、助けてくれて」
「っ〜!!」
俺が言うと、ヒヅルは目を潤わせて顔を赤らめる。
何というか…この状況でこんな事思うのは異常かもしれないけど、ヒヅルがこういう顔するの、新鮮で可愛いな。
「そ、そういうのいいから…早く行こ」
そう言ってヒヅルが外に出ようとした、その時だった。
「っ!!」
今度は、サブマシンガンを持った男が、銃弾を撃ちまくってくる。
咄嗟に銃弾を避けたヒヅルは、距離を詰めてナイフで男を斬りつけようとする。
すると男は、ヒヅルに銃口を向ける。
「死ね、クソガキ!」
男は、サブマシンガンでヒヅルを撃ち殺そうとした。
その瞬間俺は、
威嚇の為に、男の顔スレスレを撃つ。
「な……!?」
いきなり撃たれた男は、驚愕の表情で俺を見てくる。
その表情には、俺が銃を持っている事への困惑が現れていた。
「な…なんでお前が銃持ってんだよォ!?」
男は、俺に向かって叫ぶ。
俺はふと、拳銃を手渡してきたヒヅルを見る。
「……『ビーチ』から脱走を図った時、クリハラのオッサンに
ヒヅルは、ペロっと舌を出して悪戯っぽく笑ってみせた。
すると男が、痛みに顔を歪めながらヒヅルを睨み、銃口を向けながら罵声を浴びせる。
「こんの…メスガキがァ!!」
そう言って男がヒヅルを撃とうとしたその瞬間、ヒヅルは人間離れした瞬発力を活かして男との距離を一瞬で殺し、愛用のナイフでサブマシンガンを真っ二つに切断した。
そのままヒヅルが男の首をナイフで斬りつけようとしたので、俺は咄嗟に叫んだ。
「待てヒヅル!殺すな!」
俺が叫ぶと、ヒヅルはナイフを寸止めし、代わりに左脚を思いっきり振り上げて男に強烈な金的を喰らわせた。
「ぐふっ…!!」
股間を蹴り上げられた男は、口から泡を吹いて撃沈した。
…うわぁ、アレは痛い。
いや、今はそれよりアリスだ。
アリスも、今の俺達みたいに、部屋に押しかけてきた奴等に襲われてるかもしれない。
早く助けに行かないと。
「行こう!」
俺とヒヅルは、急いでアリスのいる411号室へ向かった。
『まじょがり』
残り時間85分
生存者 68/76名