Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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はあとのじゅう(2)

アグニside

 

 あの音を聴くと、未だに身が竦む事がある。

 酒に身を沈めた父が毎晩、アパートの階段を軋ませる音…

 社会では何の役にも立たないクズが、なけなしの権威を維持しようとする行為に、ただ、怯えるだけの毎日だった。

 それでも奴を挑発するしかなかったのは、奴の、度が過ぎた暴力の矛先を母に向けさせないためだった。

 それでも母は、耐え切れずに家を去り、俺も、12の時に家を出た。

 

 再びあの場所に戻る決心がついたのは17の時。

 俺はもう、奴の暴力に屈服するしかなかったあの日の子供ではなく、1人の男だった。

 だが家に戻ってきた時、そこは既に空き家になっていた。

 

 急性アルコール中毒。

 近隣の住人が異臭に気づき通報した時には死後2週間が経っていた。

 俺が家を出てわずか半年後の事だった。

 

 以来、向かうべき矛先を失くした怒りだけが、宙を彷徨ったままでいる…

 俺はコイツを、もう手放したいだけだ。

 

 

 

 俺達に反旗を翻した二人を始末しようとしたその時、どこからか発煙筒が投げ込まれて二人を見失った。

 …まあいい。

 すぐに見つけ出して火炙りにしてやる。

 特に()()()を増長させたクリハラ、ヘイジ、ヒヅルの三人は、絶対に生かしちゃおかねぇ。

 全員の前で嬲り殺しにしてやる。

 

 煙が晴れた頃、周囲を見渡すと、死体の周りを取り囲んでいた奴等は全員いなくなっていた。

 だが俺達に反旗を翻して逃げたヒヅルとは逆に、一人だけ、元々ボーシヤ一派だった奴がここに残った。

 

「テメーはボーシヤ一派だったろ?早く逃げねーと真っ先に狙われるぜ?」

 

 ニラギがソイツに声をかけると、ソイツは躊躇いなく答えた。

 

「悪いが…ボーシヤにも、『ビーチ』にも、恩義を感じた事は一度もない。オレも生きる為に、アンタらと()()()に回らしてくれ…」

 

「ひゃはは!大した忠義心だな。テメェが一番怪しいんじゃねーのか?わかってると思うが…全員狩っても『げぇむ』が終わらなけりゃ、最後はオレ達で殺り合うんだぜ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺達は、最初に殺した奴の死体を、野外ステージの篝火に放り投げた。

 コイツの死体を燃やしても、『げぇむくりあ』のアナウンスが鳴らない。

 

「何も…起こらねぇな…」

 

「コイツは…『まじょ』じゃなかっただけだ…金庫の銃は全部ここへ集めたか?間違ってもオレ達以外に奪われるようなヘマはするなよ。最上階からローラーをかけて1Fずつ制圧しろ!部屋のキーは接着されているから、中からの鍵はアームロックだけだ。チェーンソーでもバーナーでも使って、1人残らず引き摺り出して殺せ!!」

 

 俺が命令すると、仲間達が次々と武器を取る。

 そんな中、俺の仲間の一人が、ハンドガンを手に取りながら口を開く。

 

「マジに…やんのか?皆殺しなんて正気じゃねーぞ…」

 

「何だよ、今更ビビってんのか?」

 

「そうじゃねーが…仮に『げぇむ』を『くりあ』して元の世界に戻れたとしても…こんな事しちまったら…二度と元の暮らしには戻れねーんじゃ…」

 

 俺の仲間の一人が、聞き捨てならねぇ事を口走りやがった。

 俺は、ソイツの顔面を正面から殴った。

 

「いつまで…眠ってるつもりだ…?自分(テメェ)が生き残るのに何を躊躇う?必要なのは度胸でも覚悟でもねぇ、『意志』だ。ここじゃ眠った奴から死んでいく。ただそれだけだ。いい加減に目覚めろ。オレの『仲間』に、寝惚けた野郎は必要ねぇ…」

 

 俺が睨みながら脅すと、ソイツは俯いたまま押し黙った。

 するとニラギが、別の奴に声をかける。

 

「オイ、殺っちまうのは構わねーが、出来るだけホテルの外まで誘き出せ」

 

「何故だ?」

 

「オレがあそこからライフルで仕留めてやる。死体を運ぶのは重てぇだろ?なるべく火の側まで、自分の足で歩いてもらおうぜ」

 

 ニラギは、楽しそうに笑いながら言った。

 コイツのやり方は、いちいち悪趣味だ。

 だが俺の目的を果たすには、そのやり方が一番確実だ。

 

「時間がねぇ、始めるぞ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヤヨイside

 

 私は、ウサギちゃん、アサヒちゃん、タッタ君と一緒に504号室に逃げ込んだ。

 私は、部屋で武器になりそうなものを物色している。

 タッタ君とアサヒちゃんは、怯えながらも口を開く。

 

「あの野郎…オレの…ダチを、顔色一つ変えずに…!!こんなの…正気の沙汰じゃねぇよ…!!」

 

「『(はあと)』は生きたいと願う人の心を利用する『心理型』…まさに…『げぇむ』の思うツボよね…」

 

「あの3人が…全てをそう仕向けた…私は、ウサギ…宇佐木柚葉」

 

「…ヤヨイ。弥生美兎よ」

 

 ウサギちゃんが名乗ると、私も一応名乗った。

 するとタッタ君とアサヒちゃんも名乗る。

 

「…竜田康大」

 

「九条…朝陽…」

 

「2人共、友達の事は…心から残念に思う…でも…酷なようだけど、今は…今はまだ堪えて。今は、身体中の全神経を、ただ生き延びるためだけに…!!」

 

「そうね…生きてさえいれば、平和的に『くりあ』する方法を探せる。2人の事は、私が守るわ。だからまずは生きて」

 

 ウサギちゃんが言うと、私も、武器になりそうなものを手に取って言った。

 するとアサヒちゃんが、ウサギちゃんと私に話しかける。

 

「あなた達は…私の事を『まじょ』だと疑わないの…?」

 

「今は誰も、疑うに足る根拠が無い…」

 

「ヘイジさんは、『ビーチ』にいる全員を信じたいと思ってる。あの人は、そういう人よ。私はそれに従うまで」

 

「つーか無理だよ!!『ビーチ』全員の中の誰かが『まじょ』だなんて、はじめから見つけようがねーんだよ!!」

 

 タッタ君が叫んだその時、外から銃声が聴こえてくる。

 

「銃声…!?」

 

「始まった…!アイツら、正気じゃない…!」

 

「ウソでしょ!?本気で…始めるなんて…!!」

 

 本気で『ビーチ』の人間を皆殺しにしようとするなんて…

 こんなの…人間のやり方とは思えないわよ…!

 

「…けど、アイツらのやり方が正しいのかも…このままアイツらにさえ見つからないようにしてたら、いずれ本物の『まじょ』が殺されて、オレ達『くりあ』できるのかも…」

 

 タッタ君はもう、考える事をやめて奴等のやり方に身を任せようとしていた。

 だけどもし、武闘派連中の中に『まじょ』がいて、この『狩り』は『まじょ』自身が起こしたものだったとしたら…?

 本当はモモカちゃんが死んだのは殺人事件なんかじゃなくて、『まじょ』なんか最初からいなかったとしたら…?

 もしそうなら、無実の私達が全員死んで『げぇむおおばぁ』、なんて事はありえない話じゃない。

 そうじゃなくても、こんなやり方、絶対間違ってる。

 

「こんなやり方、正しいわけないじゃない!!」

 

「じゃあどーすりゃいいんだよ!!」

 

「やめて二人とも!」

 

 アサヒちゃんとタッタ君が口論を始めたので、私は止めに入った。

 するとその時、ウサギちゃんが口を開く。

 

「…『彼』ならきっと、誰一人、傷つけずに『まじょ』を見つけようとする…」

 

「彼…?」

 

 『彼』…きっとアリス君の事ね。

 私がそう思ったその時、私の持っていた通信機から声が聴こえる。

 リーダー…ヘイジさんの声だ。

 

「ウサギちゃん!アリス君の居場所がわかったわ!!」

 

「え…!?」

 

「411号室!!411号室にアリス君はいる!!」

 

 私が言うと、ウサギちゃんは一瞬驚いたような表情を浮かべた。

 けどすぐに頭を切り替えると、私達三人に声をかける。

 

「私はアリスを助けに行く」

 

「私もよ」

 

「強要はしないわ。2人共、自分の意志で行動して」

 

 そう言ってウサギちゃんは、ひと足先にアリス君のいる部屋へ向かった。

 するとアサヒちゃんも、私達についてくる。

 

「私も…ついていくわ」

 

「ちょ…待ってくれよ!」

 

 私達に続いたアサヒちゃんを追う形で、タッタ君もついてきた。

 アリス君の部屋へ向かう途中、ウサギちゃんが私に話しかける。

 

「どうしてアリスの居場所がわかったの?」

 

「リーダーが言ってたわ。『ヒヅルが教えてくれた』って」

 

「……そう」

 

 私が無線を見せながら言うと、ウサギちゃんは短く返事をしてから、アリス君のいる部屋へと駆けつけた。

 早く、アリス君を助けないと…!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クイナside

 

 ウチは、屋外テニスコートのクラブハウスまで逃げてきた。

 チシヤの奴、こんな時だけ一人で真っ先に逃げよって…どこおんねんアイツ。

 いや、今はそんな事より…

 

「どいつもこいつも、どうかしとる…こんなもんが人の本性なんか…?なんや…人間やめとうなってくるな…」

 

 アカン!

 落ち込んどる場合とちゃう!

 今はこの状況をどうにかする術を考えんと…

 

 そう考えながらウチがクラブハウスに入ろうとしたその時、ガタガタっと物音が聴こえる。

 嘘やろ!?

 もうここまで追っ手が…!?

 

 …って、アンか。

 脅かしよって。

 あと何で闇医者のオッサンまでここにおんねん。

 

「心臓に…悪いがな」

 

「…こっちこそ。んだよ、後輩君(チシヤ)のカノジョか」

 

「彼女ちゃうわボケ」

 

 ウチは、オッサンの気色悪い発言を否定しつつ、アンに声をかけた。

 

「でかい音立ててると奴等が飛んできよるで」

 

「害虫じゃねーんだから」

 

 ウチが言うと、オッサンが笑った。

 何やねんコイツ…笑い事ちゃうやろ。

 ウチがオッサンに呆れていると、アンが答える。

 

「『必要なもの』を探してるの」

 

 必要なもの?

 クラブハウスに何があるっちゅうねん。

 

「武器か?まさかラケットでやり合うつもりやないやろな?」

 

「『暴力』は信じない。私が拠り所にするものは…『科学』だけ。メインロビーの少女の遺体から凶器の指紋を採取して、『犯人』が誰かを特定する」

 

「指紋…!?……アンタ、『今際の国(ここ)』に来る前何してたんや…!?」

 

「警視庁刑事部鑑識課、指紋鑑定官」

 

 なるほど…本職かいな。

 ウチが思わず『ハハ…』と笑うと、クラブハウスのキッチンから女が三人、駆けつけてくる。

 

「アンさん、先生!ありました!ココアパウダーとアルミホイル!」

 

 三人は、ココアパウダーの入った入れもんとアルミホイルを手に持って来よった。

 あの娘ら、確かオッサンと一緒におった娘らやんな。

 この状況で、そんなもん探してきて何すんねん。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

 アグニ達武闘派連中が皆殺し宣言をしてすぐ、俺は地下の機械室に逃げ込んだ。

 上の階からは、銃声と悲鳴が聴こえてくる。

 

「生き残る為にしちゃいけない事なんてない…そうは思うが…ここまでしてでも、生きたいものなのかねぇ…」

 

 何をしても、虚しいだけのこの世界で…

 

「うすら寒い…」

 

 …おっと。

 アリス君も、そんな事言ってたっけ。

 

「気がつけば、『彼』と同じ事を…まだ、生きているだろうか…?何だか…会いたくなってきたな」

 

 武闘派(オマエら)のやり方が『力』なら、こっちもそれに対抗するまでだ♪

 

「まずは発電機から調べるか…」

 

 俺はまず、発電機を調べた。

 電力源を切って停電を起こせば、武闘派集団を混乱させられる。

 …とは思ったけど、発電機を切っても、照明はついたままだ。

 ブレーカーも反応がない。

 

「発電機も、ブレーカーも、反応はなし……か。やはり、この『ビーチ』が『げぇむ』会場になった時点で、電力源は別の()()()になったわけだ…日も完全に落ちた今、武闘派(ヤツら)から照明を奪えば、いくらか劣勢を崩せると思ったんだけどね♪」

 

 最善の策が駄目なら、次善の策だ。

 奴等に対抗できる武器を探さないとね♪

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺は、ホテルの302号室に戻って使えそうなものを探した。

 

「となれば必要なのは、奴等の銃に対抗する武器…」

 

 部屋の中を見てみると、あるものが目に留まる。

 ライター、水鉄砲、ライターオイル…

 

「いいのがあるじゃん♪」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 クラブハウスから必要なものを物色した俺達は、『ビーチ』のメインロビーに戻ってきた。

 物陰に隠れて、武闘派連中が誰もいない事を確認する。

 …まあ万が一見つかっても、俺にはヒヅルから預かってる()()()があるわけだが。

 

「…いいぞ、誰もいない。今がチャンスだ」

 

 ロビーに誰もいない事を確認した俺らは、モモカちゃんの遺体に近付いた。

 すると後輩君の連れの女…クイナがアンに話しかける。

 

「…けど、いくらアンタが鑑識やからって、ホンマに出来るんか?()()()()()で凶器から指紋を採取して、『まじょ』を特定するなんて事が…」

 

「そもそも、指紋を採取できたところで、『ビーチ』に人が何人いると思ってるの…?全員分の指紋のサンプルがあるわけでもないのに、『まじょ』を見つけるなんて事…」

 

 クイナが言うと、マチも不安そうに口を開いた。

 俺は、一応モモカちゃんを検視しながら言った。

 そもそも死因が本当に刺殺かどうかもわかんねぇしな。

 

「『誰か』がわからなくても、指紋のつき方で、利き手や刺し方がわかる。それさえわかりゃあ、大方の犯人の特徴は絞り込める。状況整理には十分役立つ。あとは、そこから怪しい奴の指紋を採取して、さらに絞り込むだけだ」

 

 つってもまぁ、俺も素人程度の知識しかねぇがな。

 胸の刺し傷以外の外傷は見当たらない。

 毒を摂取したような痕跡もない。

 こりゃあ、胸の刺し傷が死因とみて間違いなさそうだな。

 

「一応他の死因の可能性も疑ってはいたが…こりゃガチで刺殺の可能性が濃厚だな」

 

 俺が一応検視結果を伝えると、アンはハンカチを持った手で包丁の柄を握った。

 

「…あなたを殺した『まじょ』は、私が必ず見つけ出してあげるから…」

 

 そう言ってアンは、モモカちゃんの胸から包丁を引き抜いた。

 

「この凶器が、『げぇむくりあ』の唯一の希望…!!」

 

 アンが凶器の包丁を回収すると、クイナはモモカちゃんの遺体を眺めながら口を開く。

 

「……頭の切れるアンタなら、とっくに気づいとる事やと思うけど…この子が『まじょ』に殺される事でしか、この『まじょがり』っちゅう『げぇむ』は始まらんかった…つまり、『ビーチ』の中にいる誰かっちゅう、その『まじょ』は、少なからず、『()()()()()()()()()()の協力者っちゅう事にはならへんか…!?」

 

「…ええ。『まじょ』には、いくつか質問する事が、ありそうね」

 

 クイナが言うと、アンも口を開く。

 『げぇむ』を仕掛けてる側の連中…ねぇ。

 ……考えたくはねぇな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 俺とヘイジは、アリスのいる部屋に向かった。

 するとその途中、どこからか悲鳴が聴こえてくる。

 

「いやああああ!!助けてぇ!!何でもするからぁ!!」

 

「だったらさっさと歩け!」

 

 武闘派に寝返った奴が、銃で女の人を脅していた。

 ヘイジは、女の人を助けようと、男に向かって威嚇射撃をしようとした。

 だけどここは、ヘイジの出る幕じゃない。

 

「任せて」

 

 俺は、男に向かって全速力で走った。

 走っている時、脳裏に前のお父さんの顔が思い浮かんだ。

 

 

 

 ――ヒヅル…お前、なんてひでぇ面してやがんだ。

 

 俺の本当のお父さんは、俺が小1の時に家を出て行った。

 元々総合格闘家だったけど、俺が生まれる前に事故で後遺症を負って引退して、かつての名声は過去のものになった。

 その上、俺がいじめっ子を病院送りにしたせいで、お母さんと喧嘩して家を追い出された。

 俺は、俺に生きる術を教えてくれたお父さんの事だけは、嫌いになりたくなかった。

 生きてるか死んでるかもわからない、絶望しかない毎日を生きていて、それでも命を絶たなかったのは、お父さんがギリギリのところで俺を踏みとどまらせてくれていたからだった。

 

 ――オレはもう翔べなくなっちまった。けどな、ヒヅル。お前はまだ、翔べるだろ。

 

 

 

 俺は、男に向かって飛び掛かると、思いっきり男の脇腹を蹴っ飛ばした。

 男は、身体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。

 その隙にヘイジは、女の人を助け出した。

 

 身体が軽い。

 今なら、何だってできる気がする。

 だって俺はもう、独りじゃないから。

 

 

 

「あっ、リーダー!それにヒヅルちゃんも!」

 

 俺がやっつけた男の身柄を拘束しようとしたその時、ヘイジの仲間が駆けつけてくる。

 えっと…名前なんだっけ、そういや知らない。

 

「ヤギ…ネズミ…!お前ら、生きてたのか…!」

 

「リーダーこそ、ご無事で何よりです」

 

「…これからアリスを助けに行く。もちろん、強要はしない。お前達も、ついてくるか?」

 

 ヘイジは、仲間二人に話しかける。

 するとソイツらは、笑顔を浮かべて言った。

 

「愚問ですよ。オレは一生アンタについていくと決めたんだ。当然、お供します」

 

「オレも!リーダーなら、『げぇむ』を『くりあ』する方法見つけてくれるかもしんねーしな!」

 

 んなお気楽な…

 そんな簡単に『まじょ』が見つかるわけないじゃん。

 …でも、何だか二人とも、ヘイジと仲良さそうだな。

 ちょっと羨ましい。

 

 

 

「411号室…この部屋だ!」

 

「本当にこの部屋で合ってるんだな?」

 

「…うん。オレもその時一緒にいたし…」

 

「開けるぞ…!」

 

 俺達は、アリスが閉じ込められている部屋に駆けつけた。

 するとだ。

 

「…ス!!アリス!!」

 

 中から、ウサギの声が聴こえてくる。

 ちょうど、ウサギがアリスを助け出したところだ。

 

「ウサギ…」

 

「良かった…!生きていてくれて…!」

 

 ウサギは、涙を流しながらアリスを抱きしめた。

 ……何つーか、感動の再会…ってやつ?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 俺達は、アリスが閉じ込められている部屋で無事合流を果たした。

 ウサギがアリスの生存を喜んでいると、タッタが声をかける。

 

「ん゛ん゛っ!!あ、あのさ…お楽しみのとこ悪いんだけどさ…」

 

 タッタが声をかけると、抱き合っていた二人は恥ずかしがりながら離れた。

 そのタイミングで、俺達4人もベッドルームに駆けつける。

 

「皆…!良かった、無事だったんだな」

 

「リーダー…!」

 

 俺が顔を出すと、ヤヨイは安堵の表情を浮かべる。

 俺も全員の無事を確認して安心していると、アリスが話しかける。

 

「ヘイジ…アンタら、いつからここにいたんだ?」

 

「あーっと…ウサギがアリスの拘束を解いたあたりから?」

 

 俺が苦笑いを浮かべながら言うと、アリスとウサギは恥ずかしがって赤面する。

 ああ…うん、ごめん。

 バッチリ見てた。

 すげぇ気まずい。

 

 その後俺らは、アリスに『げぇむ』の事を説明した。

 すると何も知らされていないアリスは、驚いた表情を浮かべる。

 

「……『げぇむ』!?今この『ビーチ』が『げぇむ』会場なのか…!?」

 

「ええ。だからもうアリスは今夜の『びざ』切れを心配しなくていいの。この『げぇむ』を『くりあ』すれば助かるのよ…!!」

 

「そう…か」

 

 ウサギがアリスに説明すると、アリスは安心したような、けれどどこか複雑そうな表情を浮かべた。

 

「けどその身体じゃ、どっかに隠れて休んでた方がいいよ…」

 

「そうよ!アンタはどう考えたって『まじょ』じゃなさそうだし…」

 

 タッタとアサヒは、どこかに隠れて休んでいるようアリスに言った。

 アリスは、顔の血をタオルで拭いながら俺らに話しかける。

 

「いいから、『るうる』を説明してくれないか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ラスボスside

 

 ――隆寅…母さんね…もう…限界かもしれない…あなたが、何を考えているのかわからないのよ。

 

 ――お願いだから部屋から出て、何か話してちょうだい…!!

 

 親、という理由だけで、俺を知る権利があるとでも言いたいのか…?

 それがどれだけ傲慢な事かに何故気づかない?

 他人の心を理解する事など、誰にもできないというのに…

 

 誰にも俺の事はわからない…

 頼むから…

 俺の中に入ろうとするな…

 

 

 

「うわ、すっげぇ!BUCK110(ワンテン)じゃん!本物だよね!?どこで手に入れたのこれ!?」

 

 新しく入ってきた子供…

 奴は、一切警戒せずに俺に馴れ馴れしく話しかけてきた。

 奴の馴れ馴れしさは、絶対的な自信から来るものだ。

 無防備で他人の領域に踏み込んでくるのは、自分が優位に立てると本気で信じているから。

 他人など、一切信用しちゃいない。

 信用できるのは、己のみ。

 俺と同類だ。

 

「お前に…やる……」

 

「え、いいの?やった♪」

 

 己の力を試したくて仕方がない。

 何者にも邪魔されず望むままに生きられる場所を、己の力のみで生を勝ち取る実感を欲していた。

 だからこそ、俺も奴も、『今際の国』での永住を望んだ。

 

 

 

「オレはオレの生きたいように生きる。お生憎様、()()に手を貸せるほどオレも臆病者(バカ)じゃないんでね」

 

 だが奴は、俺達に刃向かった。

 生をもぎ取る事を放棄した。

 俺と同類だと思っていたアイツが、だ。

 

 だが俺には、奴への怒りも失望も無い。

 他人の事など、誰にもわからない。

 奴は俺とは違った。

 ただ、それだけの事だ。

 

 

 

「あと、何人運ぶんだよ…!?こんな調子で時間内に『まじょ』を見つけられんのか…?くそっ!!もう腕に力が入らねぇ…!!」

 

 俺達の仲間の一人が、死体を運んでいる途中で尻餅をついた。

 俺は、ソイツの前で死体の頭を俯かせて、刀で首を切って血抜きをした。

 

()()()をして…軽くすればいい…喉を切る時は…俯かせれば頸動脈が露出し…飛び散る血も少ない…逆に頭を反らせると…気管が邪魔をして血管を切りにくい…」

 

 頭を逸らして頚動脈のあたりを指差しながら、尻餅をついている男に伝えた。

 

「あ…ありがとよ………ところでよ、どこで…知ったんだ…?」

 

「インター…ネット…」

 

 俺は、刀を鞘に納めながら答える。

 

 残り時間が少ない…

 片っ端から斬っていくか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ニラギside

 

 ――よっしゃァ!!メガネだ!!20点ッ!!

 

 ――オイ、何してんだよー?的は動くなっつってんだろ。

 

 ――さっさと立たねーと、また()()食わしちゃうよ?ションベン茶漬け。

 

 なぜ…俺ばかりがこんな目に…?

 

 そのうち海外の学会か何かが発表するんじゃないかと本気で思っていた…

 『嫌われ者の遺伝子が発見されました』と。

 嫌われ続けるだけの人生。

 今までも…

 そしてこれからも、俺が変わらない限り…?

 

 

 

「へー、オニーサン『げぇむ』好きなんだ。オレも一緒」

 

 新入りの女のガキが、平然とそう言ってきた。

 銃を突きつけてもピクリとも動かねぇ仏頂面を見てると、見下された気がして虫唾が走った。

 死んだみてぇに暗くて赤い眼が、ただただ気味悪かった。

 何でもねぇみてぇにスカしてやがる無表情が、ムカついて仕方なかった。

 ソイツの顔を憎悪で歪めてやりたくて、嬲って犯そうとした。

 だがソイツは、眉間に皺一つ作らず、すまし顔で言った。

 

「好きにすれば?アンタがアグニに怒られても、オレ知らないから」

 

「あ?」

 

「何でアイツがオレみたいな幼気な女子に声をかけたと思う?アイツに直接声をかけられたオレに、こんな事していいのかな?」

 

「…テメェ、大将と2人で何話してた?」

 

「どいてくれたら教える」

 

「チッ。お前…さてはオレの事、バカにしてんだろ」

 

「バカにする…?いや、これ素なんだけど」

 

 あの女は、ガキのくせに自分の立場をわかっていやがった。

 アイツはバカだが頭の切れるガキだった。

 それが余計に俺を苛つかせた。

 

 何であの女を見てると虫唾が走るか、分かった気がした。

 俺と、同じだからだ。

 嫌われて、否定されて、ブッ壊れた。

 あの眼は、他人に期待も信用もしてねぇ眼だ。

 あの頃の俺と同じくらいの歳のガキがそんな眼をしてるのを見てると、いやでも俺自身を見てる気分になる。

 消したくて、アイツのやる事なす事全部否定したくて仕方なかった。

 

「オレはオレの生きたいように生きる。お生憎様、()()に手を貸せるほどオレも臆病者(バカ)じゃないんでね」

 

 結局ヒヅル(アイツ)は、俺から離れていった。

 俺が何もしなくたって、アイツが勝手に去っていった。

 ストレスの原因が消えたはずなのに、清々するどころか、虚しくなっただけだ。

 アイツは俺にとって、何だったんだ…?

 

 

 

「ひいいっ!!」

 

 俺は、ホテルからノコノコ出てきた奴等をメインロビーの屋根から狙い撃ちした。

 だが今出てきた奴がちょこまかと動いたせいで弾が外れ、思わず舌打ちする。

 

「的のくせにチョロチョロ動いてんじゃねーよ!」

 

 せっかく『(はあと)』の『げぇむ』っぽくなってきたと思ったのによ。

 なんか…つまんねぇな。

 

「…………なーんか、飽きてきたな…」

 

 俺らに刃向かったガキも、出てこねぇしよ。

 アイツを殺せば、この退屈から解放されんのか…?

 

「これで…何人だっけか。数えんのもメンドーになってきたな…」

 

「やあ♪」

 

 突然、後ろから声が聴こえてきた。

 振り向くと、チシヤとかいったか…新しく幹部入りした野郎が、窓からメインロビーの屋根に降りていた。

 

「…あ?」

 

「誰から殺るか迷ったんだけど、やっぱ最初は、君しかいないんだよね♪ムカつくんだよ。オレ自身を見ているようで…」

 

 ハハッ、やっと面白そうな奴が出てきやがった。

 やっぱ『げぇむ』はこうじゃなくっちゃなぁ…!!

 

「退屈すぎて、危うく『げぇむ』嫌いになるとこだったぜ…!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 俺は、ヘイジ達から、『げぇむ』が始まってから起こった事を全て聞いた。

 

「次の瞬間、ラスボスがオレの友達の頭をゴルフクラブで…その後はもう…大量虐殺の始まりだ…武闘派(ヤツら)の頭ん中は…まともじゃねーよ」

 

「鬼か…悪魔か…少なくとも…人間のやる事じゃない…」

 

「この『げぇむ』が始まるまでは、少しは分かり合える連中だと思ってたんだけどな…とんだ見込み違いだった」

 

 タッタとアサヒ、そしてヒヅルは、武闘派連中を悪魔か何かのように語っていた。

 だけど、皆の話を聞いていて俺は、自然と涙が溢れていた。

 

「………アリス?」

 

「わかる気がする…何故…オレ達が、『今際の国』に迷い込んだのか」

 

 痛みを、悲しみを、闇を持たない人間なんて、この世にいるだろうか…

 俺達は皆、ほんの少し誰かより傷つきやすくて、ほんの少し誰かに優しくされたいだけなんだ…

 

「ここにいる誰もが持ってる。オレと同じ『弱さ』を。これ以上…『げぇむ』の思い通りにはさせない。殺し合いを止めて、もう誰一人傷つけずに、『げぇむ』を『くりあ』する。きっと止められるさ。オレ達は皆、同じだから…」

 

「…ああ。そうだな。オレ達で、この殺し合いを止めよう」

 

 俺が言うと、ヘイジは撃たれた腕を押さえながら俺に賛同した。

 すると今度はアサヒが口を開く。

 

「…アリス、皆…あのね…私…」

 

 アサヒは何かを言いかけたが、すぐに言い淀んだ。

 

「……ううん。やっぱり…何でもない」

 

「言ってっ事はよくわかんねーけど、ウサギ達が必死で探してただけあって、アンタがいると何とかなりそーな気がしてくるぜ!!で?どーやって『まじょ』を見つけんだ!?まずはアリバイとかか?」

 

 タッタが言うと、皆は今日何をしてたのかを話し始める。

 

「私は…今日の午後はモモカとは一緒にいなかった…どうして…今日に限って…」

 

「オレが『げぇむ』の始まる1時間くらい前にロビーを通った時は、あの娘の遺体はまだ、無かったぜ」

 

「私は『げぇむ』の直前、武闘派集団の大半と同じ部屋にいた…少なくとも彼等はシロなのかも…」

 

「それで言ったら、オレらもシロだぜ!皆で一緒にアリスを探してたもんな?」

 

「だが手分けして探してたから、確実なアリバイとは言えない…」

 

 アサヒ、タッタ、ウサギ、ネズミ、ヤギは、自分達のアリバイを証言した。

 するとヒヅルも、俯いたまま話し始める。

 

「オレは、クリハラのオッサンと一緒にいた……おつかい頼まれて、5分くらい1人になってた時間があったけど」

 

「5分くらいって…何してたんだよ?」

 

 ヒヅルが言うと、タッタがヒヅルを問い詰める。

 問い詰められたヒヅルは、少し躊躇いながら証言をした。

 

「………ロイヤルスイートに侵入して、武器を盗んでた」

 

「なっ……!?」

 

「でも、事件とは関係ない。『ビーチ』から逃げるのに、武器が必要だっただけ…そもそも、オレが『まじょ』だったらこんな事わざわざ言わないし」

 

「あなた…モモカが殺されたかもしれない時に、そんな事してたの…!?」

 

「…しょうがないじゃん。だって、こんな事になると思わなかったんだから」

 

 タッタに続けてアサヒも問い詰めると、ヒヅルは項垂れてポツリと言った。

 ……そうだ。

 誰も、まさかこんな事になるなんて思ってなかったんだ。

 『げぇむ』を仕組んだ『まじょ』以外は…

 

「とりあえず…話を聞いてる限り、ウサギちゃんと武闘派連中はシロって事?」

 

「いや、そうとも限らない…」

 

「1時間の空白の間に殺したのかも…『げぇむ』前にロビーを通った人の証言がもっと必要だわ」

 

 ヤヨイ、ヤギ、アサヒは、事件の状況を整理していた。

 するとネズミが、何かを思いついたのか、人差し指を立てて提案する。

 

「…なぁ、一回ロビーに戻ってみねぇか?犯人に繋がる証拠とかが残ってるかも…」

 

「…いや、物的証拠には期待しない方がいい」

 

「どうしてです?」

 

「だって『まじょがり』の『るうる』の説明があったのは、オレ達が全員ロビーに集まってからだろ?証拠隠滅する時間なんていくらでもあった。ロビーから犯人に繋がる証拠が見つかる可能性は…ほぼゼロだと思っていい」

 

「大体、銃を持った奴がいるかもしれないロビーに戻ってどうしろって?」

 

「ダメかぁ。せめて検視だけでもって思ったんだけどなぁ」

 

 ネズミの提案を、ヘイジとヒヅルが却下した。

 二人に却下されたネズミは、ガクッと肩を落とす。

 

「そもそも殺害場所もロビーとは限らないし、犯行時刻もわからないんじゃ、アリバイなんて、証明しようがないのかも…」

 

 ウサギがそう言ったその直後、タッタがハッとした表情を浮かべる。

 

「…そうだ!!電話だよ!!生き残ってる連中は多分、オレ達のようにどっかの部屋に隠れてるだろ!?宿泊用の部屋なら内線がある!!片っ端から電話して皆の持ってる情報をかき集めりゃあ、『まじょ』を絞り込めるかも!!」

 

「確かに…」

 

「アンタ、見かけの割に頭働くじゃない!!」

 

「どーゆー意味だよッ!!」

 

 片っ端から電話をかけて証言を集める。

 一見いい方法に思えるかもしれないが、その方法には致命的な欠陥がある。

 

「いや…それじゃあダメだ…!!『まじょ』が嘘をついたら?アリバイを持たない人が、保身の為に偽の証言をしたら?途端に矛盾の嵐だ。この『まじょがり』は、正攻法で推理しようとする程、互いが疑心暗鬼に陥り、結果、潰し合いの渦…」

 

 そうさ…

 もう、わかってる…

 『(はあと)』のやり方は、十分すぎる程わかってんだよ…!!

 

「なら…どうすれば…?」

 

「攻めるべき本丸は、この『まじょがり』の本質…つまり、『まじょ』の立ち位置。『♡10(はあとのじゅう)』…紛れもなくこれまでで最悪の『るうる』だが…その『るうる』のおかげで、今日まで一切その影すら見せなかった()()()()を、ハッキリと意識する事ができた。オレ達と全く違う目的で動いている『まじょ』は、明らかに、『げぇむ』を()()()()()()()()()()って事だ」

 

「そういう奴等がいるんじゃないかとは、疑ってはいたけど…」

 

「…やっぱり、人間…信じたくはなかったけど…この『げぇむ』は人の手で行われているんだね…」

 

 俺が言うと、ヒヅルとウサギが口を開く。

 

「『まじょ』がオレ達と同じただの滞在者で、オレ達とは別の『げぇむ』、違う『るうる』の元に行動しているという可能性も残っちゃいるが、どちらにせよ『まじょ』の目的は同じ。それは、少女を殺し、『まじょがり』を開始させ、制限時間まで生き延びて、『ビーチ』の全員を『げぇむおおばぁ』にする事…!!」

 

「そうなると…オレが『まじょ』なら…なるべくこの場を引っ掻き回す…皆が冷静に推理なんてできねーくらいの状況に…」

 

「真っ先に怪しくなるのは…武闘派連中!?」

 

()()()に回ってしまうのが一番ね…逃げ回って殺されてしまえば、『げぇむ』を『くりあ』されてしまう」

 

「だったらアイツだ!!アイツしかいねーよ!!ボーシヤ一派だったドレッドの大男…!!わざわざ敵対してた武闘派に入るなんて、いかにもだろ!?」

 

「仲間に入れなければ殺されてたかもしれないのよ。『まじょ』が取る行動にしてはリスクが大きすぎるわ」

 

「だったらやっぱり…最初に皆をけしかけたニラギ。殺しを行動に移したラスボス。彼等を指揮するアグニ。この3人の誰かが『まじょ』…!?」

 

 そう…この推理は、結局ここで行き詰まる…

 『まじょ』は『(はあと)』の趣旨通りに俺達を殺し合わせたいはず。

 それは間違いないが…

 問題は…この『ビーチ』のキャスティング。

 

 『げぇむ』を楽しむ人間。

 『くりあ』の為には手段を選ばない人間。

 そんな連中の存在が、『まじょ』にとって絶好の隠れ蓑になってしまっているという事だ…!!

 

 俺がそう考えていると、ヒヅルが口を開く。

 

「……アイツらの味方するわけじゃないけどさ。あの3人は『まじょ』じゃないと思う」

 

「奴等が『まじょ』じゃない…?根拠は?」

 

「勘」

 

「勘って…そんなフワッとしたものに頼ってる場合かよ!?」

 

 タッタが言うと、ヒヅルは俯きながら話し始める。

 

「だってアイツらを見て、何となくだけど『違うな』って思ったんだもん…短い間だったけど、オレだってアイツらの仲間だったから、それくらいはわかる…それに、アイツらが『まじょ』なら、何というか……『(はあと)』っぽくない…?気がする」

 

「『(はあと)』っぽくない…?」

 

「うん…オレが今まで参加した『(はあと)』の『げぇむ』は一貫して、力技や理屈が入り込む余地なんかない、もっと悪辣な『げぇむ』だった。アイツらを倒さないと終わらないなんて、そんなの『(はあと)』の『げぇむ』じゃない……でも、皆の話聞いてるうちにわかんなくなってきた。あの3人が『まじょ』じゃなきゃ、どう考えても『げぇむくりあ』を邪魔しようとしてるとしか思えない3人の行動は、説明がつかないし…はは、オレやっぱ『(はあと)』は向いてないわ。人の心なんか、考えるだけで息が詰まる」

 

 ヒヅルは、疲れ切った表情で言った。

 そして深いため息をつくと、ヘイジを見上げる。

 

「…ねぇ。ヘイジ。ヘイジはどう思う?オレはもう、誰が『まじょ』だかわかんない…お願い、助けて」

 

「…ヒヅルの言う通り、オレも、武闘派連中が『まじょ』かと言われれば疑問が残る。もし奴等が『まじょ』なら、『(はあと)』の『げぇむ』にしちゃやり方が雑すぎるんだよ」

 

「雑、ですか…?」

 

「ああ。もっと周到に、徹底的に、オレ達が一番嫌がるやり方で、人の心を弄んで壊すのが『(はあと)』だ。大体、あんな全員の前で皆殺し宣言なんかしたら、生き残る為に奴等を殺そうとする勢力が現れてもおかしくない。もし武闘派連中が『まじょ』なら、対抗勢力が奴等を討ち取ってしまえば、『げぇむ』を『くりあ』されてしまう。『げぇむ』の運営側がそれを想定してないと思うか?」

 

「確かに…」

 

 ヘイジが言うと、ウサギが納得する。

 

 ヒヅルとヘイジの言う通り、この『げぇむ』はそんなに単純じゃない。

 まだ何か、見落としがあるはず…

 

 考えろ…!!

 『まじょ』の身になって考えるんだ…!!

 俺が『まじょ』なら、この『げぇむ』をどう動かす…!?

 俺が『まじょ』なら…

 

 

 

「あのさ…一個思ったんだけど、『げぇむ』が始まった時点で()()()()()()()()()()『まじょ』がいるって可能性はねぇか?」

 

 ネズミが手を挙げて言うと、全員がネズミに注目する。

 ヤギは、呆れたようにため息をついてからネズミに言った。

 

「…ネズミ。何を言ってるんだ。死人に人は殺せないだろ?」

 

「正確には、オレらが()()()()()()()()()()()()の中に『まじょ』がいるって事っスよ。まさか誰も、死人が『まじょ』だとは思わない。『死人』なら、制限時間まで焼かれずに逃げ切る事ができるんじゃねーか?」

 

「誰なのよ、それは?」

 

「そうだな…例えば、クズリューさんとか」

 

「え…!?」

 

 ネズミが言うと、全員が目を見開く。

 

「ほら、最初にゴルフクラブで殴られて殺された奴、『偶然ボーシヤの死体を見つけて』…って言ってたよな?それって裏を返せば、クズリューさんの遺体は見つかってない…って事にならないか?」

 

「なっ…!た、確かに、オレらが見たのはボーシヤの遺体だけだったけど、だからって…」

 

「ボーシヤ殺しの件は、この『げぇむ』の前振りだと考えれば一応説明はつく。ボーシヤの死に便乗して自分も死んだ事にして、『ビーチ』に潜り込んでる…って可能性もあるんじゃないかなって…」

 

 ネズミは、頭を掻きながら自分の推理を話した。

 確かに、武闘派連中が『まじょ』って可能性よりは、その方がよっぽど『(はあと)』の『げぇむ』らしい。

 だけど肝心な部分がおざなりになってる気がする。

 

「ちょっと待ってよ…『げぇむ』の説明の時は、全員が集まってたのよ!?死んだはずの人がロビーにいれば、普通誰かが気づくでしょ!?」

 

「だったら、例えば通気口とかをウゴウゴしたりして隠れてたのかも…それか、変装してたとか…?」

 

「ル◯ン三世…?」

 

 アサヒの反論に対してネズミが答えると、ヒヅルが眉間に皺を寄せながらきょとんとする。

 

「真面目に考えてよ…!時間内に『まじょ』が見つからなきゃ『くりあ』できないのよ?」

 

「そうよネズミ君、今はそんな迷推理してる場合じゃないでしょ!?」

 

 ウサギとヤヨイは、ネズミの推理を一蹴した。

 

 既に死んでる奴が『まじょ』…か。

 確かに、その可能性は見落としてたけど…

 

 考えろッ!!

 『まじょ』の身になって考えるんだ…!!

 俺が『まじょ』なら…『まじょ』なら…『まじょ』なら…

 俺が、『まじょ』…

 

 …違う!!

 俺が考えるべきは、『まじょ』の身じゃない…!?

 見つけた…『まじょがり』の、突破口…!?

 

 

 

 『まじょがり』

 

 残り時間32分

 

 生存者 45/76名

 

 

 

 

 

 

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