ヘイジside
「アグニが、ボーシヤを…」
「殺した…!?」
アリスが言うと、アサヒとウサギが驚きを露わにする。
そんな中アリスは、皆の前で話し始める。
「何故アグニが『まじょ』としか思えない行動を取るのか、やっと、わかったよ…ボーシヤ殺しも、この『まじょがり』も…全ては、繋がっていたんだ…アンタの眼を見て、やっと、わかったよ…自己嫌悪…自暴自棄…やり場のない怒りに満ちたその眼はまるで…あの時のオレと同じ、ダチを殺した眼だ…!!」
「ダ…チ…って、まさか…」
「アグニと…ボーシヤが?」
アリスが言うと、ウサギとアサヒが目を見開く。
アリスは、アグニに掴まれたまま話を続けた。
「『ビーチ』に来てから…ずっと疑問に思ってた…ボーシヤ率いるカルト派と、アグニ率いる武闘派の二大派閥…そもそも…武闘派連中にとって、ボーシヤ一派は本当に脅威だったのか?『まじょがり』で何の躊躇いもなく皆殺しを決断できる武闘派なら、とっくに『ビーチ』を暴力で制圧できてたんじゃないか?そう考えたら、こうも見えないか?ニラギやラスボス…『ビーチ』にとって危険な連中を暴走しない程度に、アンタが制御してきたんじゃないのか?」
「…ちょうどオレも、同じ事を考えてた」
アリスが言うと、俺も続けて口を開いた。
俺は、ずっと感じていた違和感を口に出す。
「オレが違和感を感じたのは、アンタがヒヅルを無理矢理武闘派集団に加入させた事だ。変だろ?ヒヅルが武闘派のNo.4に上り詰めたのはあくまで結果論であって、ヒヅルを引き入れた段階では、アンタはまだヒヅルの事をろくに知らなかった。小さな女の子を仲間にしたところで、せいぜい囮か奴隷にするくらいしかメリットが無いと普通は思うはずだ」
ヒヅルが『
少なくともヒヅルを武闘派に引き入れた時点で、アグニはヒヅルに戦力としての期待をしていなかったはずだ。
それに、あれだけ強引に引き入れておきながら、今日までヒヅルが誰からも手を出されていないというのはおかしい。
そもそも、もしカルト派と武闘派が対立組織なら、小さな女の子を無理矢理奴隷にするなんて行為、ボーシヤ一派が黙ってるはずがない。
ヒヅルが何のトラブルも無く武闘派集団の一員でいられた事、この事実こそが、二大派閥が対立組織じゃないと言い切れる根拠だ。
「だからオレは、こう考えた。逆だったんだ。アンタは、ヒヅルが
「どういう事…!?」
俺が言うと、アサヒが俺に尋ねる。
アグニがヒヅルを武闘派に引き入れた理由は、別のところにあったんだ。
「ヒヅルをあのまま放置していたら、他の武闘派連中に目をつけられて嬲られる危険があった。でもアンタが直接引き入れた仲間なら、いくらアイツらでも手出しできない。アンタは、ヒヅルを手の届くところに置いて、守ってくれていたんじゃないのか?」
アグニがヒヅルを守ってくれていた。
こう考えれば、全て辻褄が合う。
いくらニラギ達が危険人物だろうと、アグニが直接引き入れた仲間を嬲るような真似は許されない。
実際、アイツらがヒヅルに手を出さないように釘を刺してくれていたんだと思う。
ボーシヤがあの日介入してこなかったのは、それをわかってたから…アグニを信用してたからだ。
「アンタが『ビーチ』の秩序を守る理由も、ボーシヤがアンタを信用してた理由も、一つしか思い浮かばない」
「誰も知らない2人の信頼関係…アンタとボーシヤは、
アリスが言うと、アグニが目を見開く。
この反応は……やっぱり、そうだったんだな。
◆◆◆
アグニside
――
――ああ。ガンジーは言った!『テメェが見たいと思う世界の変革に、テメェ自身がなれ』ってな!『
――『今際の国』でビビってる奴等のために、理想の
剛は、俺に背中を預けた親友だった。
昔馴染みでカタギのダチは、アイツだけだった。
不良と喧嘩した時も、『今際の国』に迷い込んだ時も、ずっとアイツと一緒だった。
俺は、アイツを信じて陰で『ビーチ』を支えてきた。
こんなはずじゃなかったんだ。
◆◆◆
ヘイジside
「アグニが…ボーシヤの為に、陰で『ビーチ』を支えてたっていうの…?だったら尚更、どうして友達を…!?」
「ボーシヤ殺しなんて関係ない!!『ビーチ』の全員を皆殺しにしようとして、アリバイのあるアリスにも手を出した!!『まじょ』よ!!アグニが『まじょ』で決まりじゃない!!」
俺とアリスが言うと、ウサギとアサヒが反論する。
だけどその時、生き残っていた他の皆が、次々と出てきた。
するとアリスが口を開く。
「確かに…アサヒの言う通り、この『まじょがり』は…皆が冷静に話し合う機会さえあれば、誰も傷つけずに『くりあ』できたかもしれなかったんだ…『まじょ』捜しを何よりも難解にした『
アリスが言うと、アグニが目を見開く。
…そう。
アグニが『ビーチ』の人間を皆殺しにしようとしなければ、もっと早く『まじょ』を見つけて『くりあ』できたんだ。
アグニの本当の目的は──。
◆◆◆
アグニside
「インフラは充実、食糧も酒もクスリも腐るほどある。かつての現実世界以上の
「しかしいくら『今際の国』の絶望から目を背けたところで、日々迫る『びざ』切れの死の恐怖からは逃れられない。事実、『ビーチ』の連中は刹那的な生き方を求めるようになり、『げぇむ』に参加するのをやめ、自殺や、クスリ漬けで『びざ』切れを待つ者も出てきた。規模を拡大し、粗暴な連中も増えた事で、傷害や強姦事件も後を絶たない」
剛が満足げに語る中、クズリューが山積みになっている『ビーチ』の課題点を指摘した。
すると剛は、何かを考え込んでから言った。
「…フム、まだ、希望が足りねーって事か」
今思えば、剛が壊れ始めたのは、この時からだった。
アイツは、真夜中に俺をプールサイドに呼び出して、考えている事を話した。
「『答え』…!?」
「快楽だけじゃ『ビーチ』の連中の心は救われねぇ。皆の気持ちが一つになって、生きる活力が湧いてくるような、もっとドデケェ、希望が必要なんだよ!!」
「だから皆に嘘をつくのか…?『全てのトランプを集めれば、この『今際の国』から出国できる』と」
「『答え』は…必要だろ?
「…剛。お前は…王にでも、なるつもりか…?」
その日から、剛は狂っていった。
「聞け!!同志ら!!希望は確かに存在する!!我々は諸君の求める、『答え』を知っている!!」
アイツは、『ビーチ』の王として振る舞うようになった。
それでも俺は、アイツを信じて陰で『ビーチ』を支え続けた。
あの日の惨劇を見るまでは。
アイツは、『ビーチ』の仲間を殴り殺し、仲間の死体を見て笑っていた。
「…殺したのか?素手で…」
「コイツらは…同志などではなかった…隠し持ってやがったんだよ…皆の希望…出国の為のトランプを。彼等は侮辱したんだ。同士が一丸となり、命を懸けて一人の出国者を誕生させるという、『ビーチ』の希望を…!!本日をもって三つ目の『ルール』を制定する!!『裏切り者には死を』!!」
「何故…そこまで、希望に執着する…?そもそも『答え』なんてものは、お前がでっち上げたまやかしに過ぎないだろ?」
「………でっち上げ…?まやかし…?一体、何の話をしているんだ?」
アイツの顔にはもう、かつて俺に背中を預けた親友の面影は無かった。
俺にはアイツが、『希望』に取り憑かれた化け物に見えた。
そこに追い討ちをかけるように、三人組の新入りが来てから、アイツの暴走は加速した。
クリハラという男は、『ビーチ』の仲間を売り、イバラハナエとかいう女の名前を出して剛を惑わせ、まんまと幹部格にまで上り詰めた。
「クリハラ君は『ビーチ』の為に本当によく働いてくれている。彼の為に幹部の席を用意しようと思う。“イバラハナエ”の捜索範囲も拡大しなくてはな…」
「正気か?奴はよく知りもしない女の名前を出してお前を惑わせ、王の座を奪おうとしているだけだ。その女が絵札の『げぇむ』の事を知っているなんていうのは、幹部に昇格する為のハッタリだ。他の幹部連中は、奴が嘘をついてる事に薄々気付いてる。いい加減に目を醒ませ…!」
「お前は、王の決定に逆らうのか?」
剛は、俺の説得に耳を貸さなかった。
それどころか、怪しい男に入れ込んで、生きているかも死んでいるかもわからない…そもそも実在するかすらわからない女の影を追うようになった。
奴のせいで、剛は余計に虚構に取り憑かれていった。
「諸君!!同志諸君!!臆せず進め!!全ては『ビーチ』の悲願!!使命!!大義の為!!戦おう!!!同志諸君!!!」
…違うだろ、剛。
お前が目指した理想は、こんなものじゃなかったはずだろ。
ある日、俺は剛を橋の上に呼び出して、二人きりで話をした。
「『げぇむ』の直後に俺をこんな所へ呼び出して、何事かね?同志達がこの王の帰還を待ち望んでいるのだが」
「今夜生き残ったのは、お前1人か?」
「王を守る盾にすらならん。『ビーチ』の戦力強化も、今後の重要な検討課題だ。いっそ自衛官だったお前の指導の元、軍隊を組織しようではないか!」
「…もう、やめろ…」
「『今際の国』という大国にも決して怯まず、王の為には死をも恐れぬ、最強の国王軍を──」
「その喋り方は何だッ!!いつか背中を預けたオレのダチはどこにいる!?お前は…誰なんだ!?」
俺は、我慢ならなくなって剛に向かって叫んだ。
奴はもう、俺の知ってるダチじゃなくなっていた。
「…オレ達は特別だ。そうは思わないか…?たった2人でこの理不尽な世界に立ち向かう、『楽園』という名の希望を創り、怯える同志達を…」
「怯えていたのは、お前だ。だからお前は、より大きな、確かな希望を求め続け、創り、信じ、縋った…たとえそれが、ニセモンの希望だとしても…気付いてやれなくて…すまなかった…」
「…それは、『ビーチ』への侮辱と捉えても構わないのか…?」
「オレは今日限りで、『ビーチ』を抜ける…」
そう言って俺は、剛に背を向けて立ち去ろうとした。
「『裏切り者には死を』…『ビーチ』の『ルール』は絶対だ…」
「…かつてオレには、信頼できる
俺がそう言って歩き出すと、剛は背後からハンドガンの銃口を俺に向けた。
「王には…苦渋の決断を迫られる時もあるのだな…残念だべ…杜ちゃん」
銃声が三度、響き渡った。
撃たれる、そう思って反射的に振り向き、俺は持っていたハンドガンで剛を撃った。
俺に撃たれた剛は、そのまま川に落ちた。
それから2日後、『まじょがり』の『げぇむ』が始まった。
俺は、悪ガキ共を扇動して、『ビーチ』の人間を皆殺しにさせた。
剛…お前が生み出したこの、『
◆◆◆
ヘイジside
「…オレとウサギが疑われた時、ヤヨイは『コイツらを出国させる理由が思いつかない、皆死ねばいい』と言っていた。似てるんだよ…アンタのその顔、オレの仲間の絶望の顔に。アグニ。アンタも、同じだったんじゃないか…?『ビーチ』の連中なんか、みんな死ねばいいと思ってたんだろ?」
アグニは、『ビーチ』の奴等に失望した時のヤヨイと同じだったんだ。
殺す事でしか親友を止められなかった自分なんか、親友を狂わせた『ビーチ』の連中なんか、皆死ねばいいと思ってる。
この『げぇむ』を作った奴は、親友を自ら手にかけたアグニの絶望を、巧みに利用した。
アグニは、『まじょがり』に乗じてわざと『げぇむおおばぁ』になる事で、『ビーチ』と心中しようとしたんだ。
「…アグニ、アンタははじめから…自分諸共この『ビーチ』の全員が、『げぇむおおばぁ』になればいい…そう思ってたんだろ?だからアンタは、
俺とアリスが言うと、アグニが目を見開く。
すると、他の皆が次々と口を開き始める。
「マジ…かよ?その話が…本当なら、アグニは『まじょ』捜しとは関係なく、オレ達全員を、殺そうとしてたのか…!?」
さっきまで混乱していた他の皆の熱が、少しずつ冷めていく。
するとアグニは、ギリっと歯を食い縛り、アリスを思いっきり床に叩きつけた。
「アリス!!」
「オレと…ボーシヤが、ダチ…だァ!?全ては何の根拠もねぇ、お前らの妄想だろう…!?」
「言っ…た…だろ?眼を見て…わ…かった…って…オレも『げぇむ』で、ダチを殺した…!!全てをブッ壊してぇ怒りや…何もかもがどうなってもいい虚無感…アンタの気持ちくらい、痛ぇくらいにビシビシ伝わってんだよォ!!けどさぁ…だからって…それを、生きてる連中にぶつけてどーすんだよ?『ビーチ』と心中する事が…自分へのケジメか、ボーシヤへの手向けか何かのつもりかよ…!?
アリスがそう叫んだ、その時だった。
クリハラさんと一緒にいた女の人に肩を貸した武闘派連中が、俺達のところに来た。
「アンタ…ら!?」
連中は、女の人を安全な場所に降ろしてから、アグニの前に立ちはだかって言った。
「新入りの…言う通りだ…アグニさん…アンタが『まじょ』じゃないんなら…今からでも全員で話し合って、『まじょ』を捜そう…!!オレ達のしてきた事は取り返しがつかねぇが…まだ…遅かねぇ…まだ…ここに生きてる連中の、命は救える…」
◆◆◆
???side
俺達は、アンとクリハラを逃がした女を殺そうとしていた。
女は、何度殴られても、抵抗をやめなかった。
だけど攻撃を避けている途中で蹴躓いて尻餅をついたところを、二人で囲んだ。
「いい加減…大人しく殺されてくれよ…!」
そう言って俺が女にバットを振り下ろそうとした、その時だった。
女は、バタフライナイフの刃を俺に向けながら叫んだ。
「……殺したければ好きにすればいい。どうせ私が『まじょ』じゃないって言ったって、信じないんでしょう?だけど…!!私を変えてくれた先生の事だけは、殺させない…!!たとえ、この命にかえてもッ!!」
女は、震える手でナイフを構え、目に涙を浮かべながら俺達を睨んだ。
何で、あのヤブ医者の為にそこまで身体張れるんだよ…?
アイツの何が、アンタにそこまでさせるんだ。
「……そんなに、あのヤブ医者の命が大事か」
「あの人は、こんな救いようのない私の事も、救けてくれた。たとえどんなに多くの血が流れても、あの人だけは、生きて元の世界に帰してみせる」
「本当に、アイツは『まじょ』じゃないんだな?」
「…………」
「本物の『まじょ』が誰だか、アンタらは知ってるのか?」
「…………」
俺が質問すると、女はナイフを下に降ろした。
……何をやってたんだ俺は。
『まじょ』じゃない奴を殺したって、何の意味もねぇだろ…
俺は、ボロボロになった女に肩を貸した。
「…立てるか?」
「え……?」
「アイツが『まじょ』じゃないなら、殺す理由はない。今更、遅いかもしれねぇけど…まだ、生きてる奴の命は救えるだろ」
俺がそう言うと、女は立ち上がって上着の袖を破り、さっきバレーボールをぶつけて気絶させた俺の仲間の顔の血を上着の袖で拭いた。
ソイツは、さっき連れの首を刺して殺した俺の仲間を手当てして壁にもたれさせた。
「アンタ、何を…?」
女は、仲間を殺した俺達を助けた。
その行動が理解できなくて、戸惑っていると、女は俺達を睨みながら言った。
「勘違いしないで。アンタ達のした事を許したわけじゃないのよ。ただ…あの人なら、きっとこうしてたと思うから」
ここでこの女を助けなかったら、俺達はもう二度と引き返せなくなっちまう。
俺達は、ボロボロになった女を二人で支えてロビーへと向かった。
ロビーへ向かう途中、俺はさっきの金髪の女を刺し殺した事を謝った。
「…友達の事は、悪かったと思ってるよ」
「本気で悪いと思ってるなら、ちゃんと責任取ってよ」
俺が謝ると、女は俺を睨みながら言った。
俺達で、アグニさんを止めに行こう。
こんな事で許されると思っちゃいない。
今更アグニさんを止めたって、俺達が殺した奴等は生き返らない。
だけど最後の最後くらい、コイツに報いたいんだよ。
◆◆◆
チシヤside
俺は、ロビーの屋根の上に座って、夜空をぼんやりと眺めていた。
すると、後ろからミラが歩み寄ってくる。
「拾わなくていいの?大事なトランプ。『ビーチ』を出し抜いて金庫のトランプを持ち出そうとして、すんでのところで『げぇむ』に巻き込まれた…概ねこんなところかしら?」
ミラが俺の隣に立って尋ねると、俺は落ちていたトランプを一枚拾って眺めながら答えた。
「もう、いいんだ…ふと…意味がない気がしてきたんだ。このトランプを集めても…」
「それはそうと、残り時間は20分よ。最後の悪あがき、しなくていいの?」
「今回は、『彼ら』に任せるよ。やっぱどうしても『
◆◆◆
ニラギside
プールに飛び込んで身体の炎を消し、ギリギリのところで生き存えた俺は、プールサイドに這い上がった。
クッソ、いてぇ…!
やってくれるじゃねぇか、あの野郎…!!
「ひゃは…痛ぇ…ひゃはは…!!痛ぇなチクショウ…!!」
飲み込んだ水を吐き出し、燃えてボロボロになった服で顔を縛って止血する。
散々な目に遭ったが、気分は最高だ。
これだから『げぇむ』はやめらんねぇんだよなァ…!
「これだよなァこれこれ…ヘタなヤクよかよっぽどキマるぜ…!!やっぱ『げぇむ』…最高ォォ…!!」
◆◆◆
クリハラside
俺とアンは、皆のところに証拠を持っていこうとした。
するとその途中、曲がり角から物音が聴こえた。
咄嗟に俺とアンが身構えると、曲がり角からマヒルが出てきた。
「マヒル…!」
「何だ、心臓に悪いぜ…」
武闘派連中じゃないとわかって、一気に緊張が解けた。
息を切らしている俺達を見て、ただ事ではないと察したのか、マヒルは怪訝そうな表情を浮かべて俺達に話しかける。
「君達、こんな所で何をしているんだ…?」
「説明してる時間は無いわ。早くロビーに降りて、皆に伝えないと…『まじょ』の正体を…!!」
マヒルが尋ねると、アンは凶器を持ってロビーに向かおうとする。
するとマヒルが、アンの行く手を阻んだ。
「邪魔しないで…この凶器が、『げぇむくりあ』の唯一の希望なのよ…!」
「無茶だ。武闘派連中に見つかったらどうする?彼等はもう、正気じゃない。話し合いに持っていける望みは、もう無い」
無防備の状態でロビーに向かおうとするアンを、マヒルは冷静に諭した。
確かに、マヒルの言う通りだ。
連中にはもう正常な判断力は無い。
証拠の凶器を見せたところで、奴等が大人しく殺し合いを止めてくれるとは思えない。
事実、レイを殺した奴等は、アンが凶器を見せようとしても聞く耳を持たなかった。
今ロビーに行けば、俺達は真っ先に殺される。
だけど、だからって…今生きてる奴を見殺しになんてできねぇんだよ。
「それでも、行かなきゃいけないんだ。もうこれ以上、無駄な血を見たくない。それに、謝りたい奴がいるんだよ…きっと、こんな事になったのは、オレのせいだと思うから」
俺は、俺達の身を案じるマヒルを説得した。
アンが凶器の指紋を浮かび上がらせた瞬間、俺はこの『げぇむ』の真相に気付いた。
それと同時に、俺の犯した最大の罪を自覚した。
俺の推測が正しければ、殺し合いが起こったのは俺のせいだ。
今更遅いって事くらい、わかってる。
それでも俺は、アイツに謝らなきゃいけないんだ。
するとマヒルは、観念したようにため息をついてから言った。
「…わかった。その代わり、僕も一緒に行こう」
◆◆◆
ヘイジside
「アグニさん…アンタが『まじょ』じゃないんなら…今からでも全員で話し合って、『まじょ』を捜そう…!!まだ…遅かねぇ…まだ…ここに生きてる連中の、命は救える…」
武闘派連中は、ボロボロになった女の人を下に降ろしてから、アグニを説得した。
するとアリスも、アグニに説得を試みる。
「オレ…には、本物の『まじょ』が、誰だかわかってる…!!その…人物は!!『まじょ』は…!!」
アリスが『まじょ』の正体を言おうとした瞬間、アグニが連中のうちの一人を殴り飛ばした。
「…話し合う、必要なんざねぇ…!!オレが『まじょ』だ。全員相手してやるから…『くりあ』したけりゃオレを殺してみろ…!!」
「どこまでも意地張ろうってんなら、やってやるよクソがァァ!!」
アグニが宣戦布告すると、他の皆が次々とアグニに殴りかかる。
アグニは、立ち向かってきた奴等を片っ端から殴り飛ばした。
「おい…やめろよ…!!何でだよ…!?もう『まじょ』の正体はわかってんのに…誰も殺し合う必要なんか無いのに…もうやめてくれよ!!」
俺は、アグニや皆に向かって叫んだ。
俺の言葉はもう、皆には届かなかった。
「なん…で…止まってくんねーんだよ…今更引っ込みがつかねーってのか!?これじゃ『げぇむ』の思うツボじゃねーかよ!!ダチを想う気持ちを『げぇむ』に利用されて、悔しくねぇのかよ!!」
そう叫んだ瞬間、アリスは目を見開く。
◆◆◆
アグニside
弾は…入っちゃいなかった…
あの時…アイツの銃には…弾は入っちゃいなかったんだ…
結局、オレは…何も理解していなかった…
アイツの絶望、恐怖、孤独を。
あんな形でしか止まれなかった苦しみを…
ダチなのに!!
◆◆◆
アリスside
俺は、仲間を次々と殴り飛ばしていくアグニを見て、気づいてしまった。
そう…か、その眼…
アグニ…
アンタはもう止まれないんじゃなくて…
止まる理由が…どこにも無いんだな…
『
これほどまでに、深いなんて…!!
「ダメだ…!!オレにはもう…アグニを止める術が、何も…思いつかねぇ!!」
「アリス…」
俺が諦めかけていたその時、ヘイジが口を開く。
「オレがアグニを止める」
「ヘイジ…!?」
「わかるから…大事なものを失くした時の絶望も、引き留められなかった自分を呪う気持ちも。それに…オレはやっぱり、人の心は美しいって信じたい。殴られて、拒絶されたとしても、オレはアグニの事も救いたいんだ」
ヘイジは、無理して笑顔を作りながら言った。
ヘイジの手は、震えていた。
自分が殺されるかもしれないってわかってるからだ。
自分が死の淵に立たされた時でも、ヘイジは自分の理想に生きようとしている。
自分が助かる為じゃない。
アグニを救う為に、この『げぇむ』を終わらせようとしているんだ。
俺には、アグニを救う方法がわからなかった。
あとはこのまま、ヘイジに任せるしかないのか…!?
ヘイジがアグニを止めに行こうとした、その時だった。
「待って」
アグニを止めに行こうとしたヘイジを、アサヒが止めた。
喧騒の中、アサヒが何かを言っている。
何だ…よく、聞き取れない…
「…え?」
「………なら、………を、…………るかも、……ない…!!」
「な…なんて…!?」
「何だアサヒ、聴こえない!」
アサヒが何かを言うと、俺とヘイジはアサヒの方を見る。
するとアサヒは、笑顔を浮かべながら言った。
「アリス…ヘイジさん…あなた達に出会えて、よかった…」
アサヒは、皆に向かって何かを叫んだ。
「私は、『でぃいら…」
その瞬間だった。
――ズッ
突然、何の前触れもなくアサヒがレーザーで撃ち抜かれた。
アサヒは、その場で力無く倒れ込んだ。
「アサヒっ!!」
「嘘でしょ…!?アサヒちゃん!!」
ウサギとヤヨイは、レーザーが貫通した穴から血を流して息絶えるアサヒに向かって叫んだ。
「ウソ…?何で…?」
「『びざ』切れでもないのに…レーザーが…!?」
いきなりレーザーで撃たれたアサヒを見て、他の皆は動揺していた。
アグニも、こうなる事は予想外だったのか、目を見開いて固まっていた。
この瞬間、俺は、『まじょ』が誰かという推測に、確信を持った。
そして同時に、
あまりにも、悲しい仮説を────。