Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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アサヒの回想兼今までの『げぇむ』のネタバレ回です。



はあとのじゅう(5)

アサヒside

 

 私とモモカは、ある日突然『今際の国』に迷い込んだ。

 

「何よ…これ?どう…なってるの…?」

 

 私達が『今際の国』に来て、すぐの事だった。

 

「井上萌々花、九条朝陽、だな?」

 

 サラリーマンっぽいおじさんがいきなり現れて、私達に声をかけてきた。

 

「『今際の国』へ、ようこそ」

 

「『今際の国』…!?」

 

「ついてきたまえ」

 

 そう言っておじさんは、私達を路地裏に案内した。

 

「これから君達は、この『今際の国』で生き延びていく為に、僕達と()()()()をしていく事になる」

 

「仕…事って…」

 

 おじさんは、壁に取り付けられたスイッチボックスの蓋を開け、指紋認証で隠し扉を開いた。

 私は、モモカと一緒に隙を見て逃げようとした。

 だけどその時、おじさんが私達に言ってきた。

 

「心配するな。君達は、()()()()()()だ」

 

 そう言っておじさんは、隠し扉の先の階段を降りていく。

 私達も一緒に階段を降りると、その先に広がっていたのは、無数のモニターが設置された管理室だった。

 

「何なの…これ…!?」

 

「ここでは23区中に設置された数万を超えるカメラで常に()()の行動を監視している。()()は『今際の国』に滞在する、『ぷれいやぁ』だ」

 

「『ぷれいやぁ』…!?」

 

 私達が驚いていると、おじさんは資料を見ながら私達に説明した。

 

「そして僕達は、同じ滞在者の中から選ばれたのだ。彼等に『げぇむ』を仕掛ける運営者…『でぃいらぁ』に。滞在者がこの国で生きる為には『びざ』が必要だ。『びざ』が切れれば上空からレーザーが照射され、死に至る。その条件は、『ぷれいやぁ』も『でぃいらぁ』も変わりない。ただ僕達と彼等の違いは、『ぷれいやぁ』は『げぇむ』を『くりあ』する事で、難易度に応じた日数の『びざ』を手に入れ、僕達『でぃいらぁ』は、『ぷれいやぁ』を『げぇむ』で殺す事で、殺した人数に応じた日数の『びざ』が手に入る」

 

「…!?」

 

「全ての『でぃいらぁ』は、いずれかの『げぇむ』運営を担当してもらう。『げぇむおおばぁ』は、『ぷれいやぁ』にとっての死を意味するが、もし『ぷれいやぁ』に『げぇむくりあ』されれば、その時点で担当『でぃいらぁ』の『びざ』は全て無効。それはつまり『でぃいらぁ』にとっての死を意味する」

 

「ちょっと…待ってよ…さっきから…何の話を…」

 

 訳がわからなかった。

 『ぷれいやぁ』だの、『でぃいらぁ』だの…

 私がおじさんの話を遮ると、おじさんは資料を見ながら説明を続けた。

 

「君達の『びざ』は今夜で切れる。早速今夜から『げぇむ』の運営を担当してもらう事になるワケだが…君達は、どこまでもラッキーだな…初日の担当は『♢10(だいやのじゅう)』だ。おそらく『ぷれいやぁ』は誰も生き残るまい」

 

 そう言われて私達が立ち尽くしていると、椅子に座ってくつろいでいた小太りのおじさんが口を開く。

 

「難しく考えんなや。俺達『でぃいらぁ』は恵まれてんだ…オレァ毎晩ここでモニター越しに、苦しみ悶えて死んでいく『ぷれいやぁ』共を眺めてるが、同じ死の恐怖に怯えるなら…あんな思いするよか、物見櫓から奴等の『げぇむおおばぁ』を願ってる方が、幾分マシだァ」

 

「知りもしない人同士が殺し合ってるんですか…?一体…何の為にそんな事を…!?何なんですか…『でぃいらぁ』って!?」

 

「ただのマンパワーだ。『げぇむ』の運営には、何かと人手が要るんだろうよ…んな事より、早速仕事を教えてやる…モニターの操作。『げぇむ』会場のセッティング。清掃。死体の処理。覚える雑務は山程あるぞ!!」

 

 モモカが尋ねると、小太りのおじさんは椅子から立ち上がってどこかへと歩いていく。

 すると私達を案内したおじさんが、私達に話しかけてくる。

 

「最後に、重要な事項を伝えておく…日中、『ぷれいやぁ』との接触は自由だが、僕達『でぃいらぁ』の存在は、決して他言無用。それが口頭であれ、文書であれ、果てはモールス信号だろうとも…」

 

「『ぷれいやぁ』同様監視されてるってワケ?私達は、誰が監視してくれるの?」

 

 私が尋ねると、おじさんは自分の頭を指差しながら言った。

 

「キャッチされてるんだろうよ。脳波をね。秘密を漏らす意志を行動に示すと、この国から強制排除される」

 

 何なのよ、それ…!

 意味わかんない…

 

 私達は、訳のわからないまま、指示された通りに『げぇむ』の運営をした。

 最初の『げぇむ』は、誰も『くりあ』できずに『げぇむおおばぁ』になった。

 

「大勢…死んだね…7人も…同い年くらいの女の子もいた…私達の…せいで…」

 

「私らが殺したっていうの!?ふざけないでよ!!」

 

「じゃあこの『びざ』は何なのよッ!!7人殺した私達が1週間生き延びた!!その証明でしょ!!違う!?私には…とても耐えられない…」

 

 私がモモカの言葉を否定すると、モモカは泣きながら『びざ』を見せた。

 私は、泣き崩れるモモカの身体を抱きしめた。

 

「モモカ…これは全部悪い夢よ…大丈夫…夢はいつか必ず覚めるから…」

 

 私は、モモカを抱きしめながら、モモカと一緒に泣いた。

 すると、その時だった。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 杖をついた盲目の女の人が、ハンカチを差し出しながら私達に話しかけてきた。

 

「私、王馬歩美っていいます。あなた達、今日来た人達ですよね…?」

 

 アユミさんは、私達に『でぃいらぁ』の事やこの世界の事を色々教えてくれた。

 毎日送られてくるメールの指示通りに『げぇむ』を運営しているから上層部の事は誰もわかっていないという事、優秀な『でぃいらぁ』は固定で難易度の高い『げぇむ』の担当を任せてもらえる事、アユミさんは今『♢9(だいやのきゅう)』を担当している事。

 アユミさんは親身に接してくれて、私達はすぐにアユミさんと仲良くなった。

 だけど私達が『今際の国』に来た次の日、アユミさんは自分の担当の『げぇむ』会場に行く為に『でぃいらぁ』の拠点を離れた。

 

「そろそろ時間ですね…行かないと」

 

 アユミさんが『げぇむ』会場に向かおうとすると、モモカはアユミさんを引き留めて話しかけた。

 

「アユミさんは…怖くないんですか…!?今度こそ誰かに『げぇむ』を『くりあ』されるかもしれないのに…」

 

「そうね…怖くない、と言えば嘘になるでしょうね。でも、私が認めた強敵に引導を渡してもらえるなら、それはそれで本望かもしれないわね…お互い生き残る為に全力で戦って、勝っても負けてもその結果を受け入れる。そういう生き方を選んだのは、私だから。今までも、これからも」

 

 そう言い残して『げぇむ』会場に向かった後、アユミさんは二度と戻ってこなかった。

 『げぇむ』で『ぷれいやぁ』に負けて死んだ。

 全力で勝負をして死ねるなら本望とアユミさんは言っていたけど、処刑される瞬間にも同じ事を思ったんだろうか。

 私は…彼女のように気高くは生きられない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ゼッテー『くりあ』すんじゃねえぞ!!死ね!!死ね!!頼むから全員死んでくれェ!!」

 

「ぎゃはは!!見たかよ今の!?」

 

「足がもげたぞ!!人形みてーに!!」

 

「っしゃああ!!『げぇむおおばぁ』!!ザマァ見やがれ!!」

 

「オレ達の勝ちだァ!!今夜も生き延びたぞぉ!!」

 

 皆…どうしてこんなに『ぷれいやぁ』の死を喜べるの…?

 アユミさんは、『ぷれいやぁ』の死を願ったり喜んだりせずに、最期まで『ぷれいやぁ』と真剣勝負をして死んでいった。

 『ぷれいやぁ』を見下した事なんか、一度もなかった。

 それなのに、どうしてこんな奴等ばっかり生き残るのよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おい、聞いたか!?ホージョーさんの担当してる『げぇむ』、『くりあ』されちまったんだってよ!」

 

「嘘だろ!?『♠︎10(すぺえどのじゅう)』だよな!?誰が『くりあ』したんだよ!?」

 

「中学生の女の子だってよ」

 

「マジかぁ、あの人せっかくあと少しで100人達成するところだったのにな」

 

「じゃあ今回の賭けはオレの勝ちな」

 

「がぁーーークソッ!!」

 

 『でぃいらぁ』の間では、100人殺せば元の世界に戻れる、なんて噂が流れたりもしていた。

 唯一100人達成できそうだった人は、あと1人で100人達成ってところで『ぷれいやぁ』に殺されて『げぇむくりあ』されちゃったけど…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「荻野勇人。君が次に担当する『げぇむ』の難易度は『♡3(はあとのさん)』だ。それから今回は珍しく、この『げぇむ』を作った上の人間が細かい注文をつけてきた。『カワイイのが見たいから恋人と一緒に『げぇむ』に参加しなさい』、だそうだ」

 

「え…!?」

 

「ちょうど4日前から『ぷれいやぁ』として『今際の国』に滞在している君の恋人、今は代々木にいるそうだな。セッティングはこちらでしておくから、彼女を誘い『♡3(はあとのさん)』の『げぇむ』に参加しろ」

 

 上層部の気まぐれで、『ぷれいやぁ』として『今際の国』に滞在している恋人と殺し合いをさせられた人もいた。

 その人が『でぃいらぁ』として参加したのは、小瓶に入ったシロップを順番通りに飲むという『げぇむ』だったけど、『(はあと)』の『げぇむ』らしくタチの悪い仕掛けが施されていた。

 私達の上司は、その人に薬剤の入った注射器を渡してきた。

 

「非致死性の麻痺毒だ。打てば速やかに意識を失う。苦しんでいる演技をしながらこれを自身に打ち込んで、小瓶に毒が入っていると『ぷれいやぁ』に思い込ませ、自滅を誘うのがこの『げぇむ』の狙いだ」

 

 この『げぇむ』のシナリオはこうだ。

 『げぇむ』が中盤になったら、『でぃいらぁ』は瓶の中身を飲んで苦しむ演技をして、死んだフリをする。

 すると『ぷれいやぁ』は、『でぃいらぁ』が飲んだ瓶の中身が毒だったと思い込んで、毒かもしれないシロップを飲むのを拒んだり、毒を回避する為のヒントを必死に探したりする。

 でも実は瓶の中のシロップには毒なんて入ってなくて、『ぷれいやぁ』は、ありもしないヒントを探して時間切れで『げぇむおおばぁ』。

 『げぇむ』を『くりあ』するには、『でぃいらぁ』の演技を見抜くか、全員が自分を犠牲にする覚悟で瓶の中身を飲むしかない。

 

 芝居を打って恋人を殺すなんて、ひどい『げぇむ』だと思った。

 だけどその人は、何の躊躇いもなく『げぇむ』の『でぃいらぁ』を引き受けた。

 

「大丈夫だ。愛南なら、『げぇむ』を『くりあ』できる。オレは、アイツが生き延びられるならそれでいい」

 

 だけど結局、その人の恋人は『げぇむおおばぁ』になって、違う人が『げぇむ』を『くりあ』した事で彼自身も猛毒を打ち込まれて処刑された。

 あの人は恋人を生かす為に自らが犠牲になろうとしたのに、恋人も自分も死ぬという皮肉な結末を辿った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「このクソガキ、性懲りも無く毎日『げぇむ』に参加しやがって…!今日こそ死ね!!」

 

「おいコラ待てガキ!!スケボーなんて反則だろォ!!」

 

「ぶっ殺してやる!!死ね!!死ね!!死ね!!」

 

「クッソ、何なんだ!?今回の『ぷれいやぁ』連中、レベル高くねぇか!?」

 

 別の日の『♠︎4(すぺえどのよん)』の『げぇむ』では、毎日『げぇむ』に参加してほぼ無傷で生還している子供の『ぷれいやぁ』を今度こそ殺そうと、『でぃいらぁ』達が躍起になっていた。

 いくら自分が生き残りたいからって、大人達がよってたかって小さい子を殺そうとしているのを見ていると、正直醜いと思った。

 そんな中、この日の『げぇむ』の『でぃいらぁ』の一人が、泣きながら『ぷれいやぁ』を殺そうとしていた。

 

「っごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」

 

 その人が殺そうとしていたのは、私達くらいの歳の女の子だった。

 その女の子は、全身に怪我を負ってボロボロになりながらも、『げぇむ』を『くりあ』しようとしていた。

 

『強く、なるんだ…ヘイジさんみたいに……私は…負けない……!!アンタなんかに…!絶対、生きて帰るんだ…!!』

 

 女の子は、壁に手をついて前に進みながら、モニター越しに私達を睨んできた。

 するとその視線に気圧された『でぃいらぁ』が、怯むあまり椅子から転げ落ちた。

 

「ひっ!!な、なんで死なないんだよ!?頼むからさっさと死んでくれよぉ!!」

 

 『でぃいらぁ』は、泣いて縋りながら女の子を何度も罠で痛めつけた。

 どうして皆…こんなにも人の死を願う事ができるの?

 人の心がこんなに醜いなんて…知りたくなかった。

 

 結局、その女の子も含めた『ぷれいやぁ』達に『げぇむ』を『くりあ』されてしまった。

 『びざ』が切れる瞬間、『♠︎4(すぺえどのよん)』を担当していた『でぃいらぁ』は泣き喚いていた。

 

「いやだ…いやだいやだいやだぁ!!死にたくない…死にたくないぃぃ!!お父さん、お母さん!!誰でもいいから誰か助け……」

 

 『でぃいらぁ』が誰かに助けを求めようとした瞬間、レーザーで身体を撃ち抜かれた。

 女の子は、『げぇむ』を『くりあ』した直後に命を落とした。

 彼女が『げぇむ』を『くりあ』しようがしまいが、既に『くりあ』寸前の『ぷれいやぁ』が2人いる時点で、『でぃいらぁ』の生存は絶望的だった。

 それにね。あなたが命を懸けて抗おうとした相手は、自分が生き残る為に人の死を願うような…あなたと同じ土俵に立つ度胸もない、くだらない奴等だったんだよ。

 あなたがそこまでして足掻いた意味は、一体何だったの…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私達が『今際の国』に来て19日目。

 私達の直属の上司から、ある『ぷれいやぁ』集団の話を聞かされた。

 

「『ビーチ』…!?」

 

「世田谷区の川沿いに、大規模な『ぷれいやぁ』の集団が確認されている。上からの指示では、彼等の拠点であるホテルを『げぇむ』会場にしての、大掛かりな『げぇむ』を展開する事になった。肝心の『げぇむ』内容だが…『げぇむ』は『まじょがり』。難易度『♡5(はあとのご)』。今回に限り異例の処置だが、担当者の定員は先着2名。志願者を募るとの事」

 

「マジで!?」

 

「『びざ』大量獲得のチャンスじゃねーか!!」

 

「こんなおいしい話はねーぞ!!」

 

「オレが担当する!!」

 

「オレだ!!」

 

「私もよ!!」

 

 大勢の人間が滞在している場所が『げぇむ』会場と聞いて、次々と志願者が現れた。

 だけどその直後、上司が『げぇむ』の説明をする。

 

「『げぇむ』は担当する『でぃいらぁ』のうち1名が、自身の心臓にナイフを突き立て自害する事によって開始される」

 

「「「「…………え?」」」」

 

 上司が言うと、他の『でぃいらぁ』達は困惑の表情を見せた。

 

「『ビーチ』の均衡は一触即発状態。すぐに内輪で疑心暗鬼が生じ、平和的解決は望めない。『まじょ』は最初の被害者自身。どこにもいない『まじょ』を捜して『ぷれいやぁ』同士を殺し合わせる事が、この『げぇむ』の狙いだ。『でぃいらぁ』の誰かが『まじょ』役を完遂できなければ、先に消滅するのは僕達の支部なんだけど…どうしようか?」

 

 上司は、遠回しに『死にたくなければ生贄を差し出せ』と私達に圧をかけてきた。

 するとさっきまで我先にと志願していた他の皆は、顔を見合わせる。

 

「ど…どうしようったって…なぁ?」

 

「なぁ…?」

 

「お前がやれよ!!」

 

「テメェこそ、さっき志願したじゃねぇか!!」

 

 他の皆は、お互いに『まじょ』役を押し付け合っていた。

 当たり前だ。

 誰だって、自殺なんかしたくない。

 だけどその時、モモカが手を挙げた。

 

「私とアサヒが志願してもいいですか?『まじょ』役は、私で構いませんから」

 

「ちょ…モモカ!?」

 

 モモカが『まじょ』役を志願すると、私は慌てて止めようとした。

 だけど早く『まじょ』役を決めてしまいたかったのか、上司は私の制止も聞かずにモモカの志願を受け入れた。

 

「いいだろう。2人の『びざ』は残り12日…これを『まじょがり』の準備期間とする。君達は『ぷれいやぁ』を装い『ビーチ』に潜入し、『げぇむ』の準備を進めたまえ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『げぇむ』の説明を聞いた翌日、私達は『ビーチ』に潜入した。

 ヘイジさんっていうお人好しの男の人が『ビーチ』の事を色々と教えてくれたおかげで、私達は周りに怪しまれる事なく『ビーチ』に溶け込む事ができた。

 

「腹減ったらヤヨイに言うといいよ。パパっと軽食作ってくれるから。あ、こっちはネズミ…根津見護人。『今際の国(ここ)』に来る前はゲーム実況やってただけあって、いざって時は頭が切れる」

 

「よろしく!」

 

「…ヘイジさんは、すごいですね。『ビーチ』の皆に慕われてて…」

 

「…別に、オレはすごくないよ。惚れた女の子一人救えなかった、ただの半端者だ」

 

 ヘイジさんの話を聞いて、私達は確信した。

 この前の『げぇむ』で死んだ女の子は、ヘイジさんの恋人だったんだ。

 私達『でぃいらぁ』が、ヘイジさんの大切な人を殺した。

 罪悪感に苛まれたモモカは、その事をヘイジさんに謝ろうとした。

 

「あの…ヘイジさん、私……」

 

「モモカ!」

 

 モモカがヘイジさんに謝ろうとするのを、私が止めた。

 『『でぃいらぁ』の存在を漏らせば強制排除』、このルールがどこまで適用されているのかはわからないけど、それを抜きにしても余計な事を話せば『げぇむ』に支障が出る。

 

「どうした?」

 

「いえ…何でも、ないです…」

 

「そっか。わからない事あったら気軽に声かけてな」

 

 そう言ってヘイジさんは、仲間と合流しに行った。

 二人きりになったところで、私はモモカに話しかける。

 

「モモカ…そろそろ話してよ。どうしてあんな馬鹿げた志願をしたのか…でないとアンタを、引っ叩く…」

 

「34人…私達がこれまでに『げぇむ』で殺した、『ぷれいやぁ』の人数…ここで『ビーチ』の全員を『げぇむおおばぁ』にできれば…100人越え達成でアサヒだけでも出国できるかもしれないでしょ?」

 

「モモカ…」

 

 私の為に志願したっていうの…?

 そんなの、あんまりじゃない…

 

「…でもね、本当は…そうならない事を願っているのかもしれない…」

 

「え…?」

 

「この国では毎晩、何も知らない『ぷれいやぁ』と、全てを知る『でぃいらぁ』が、意味もなく殺し合ってる…私はもうこれ以上…自分が『でぃいらぁ』でいる事に、耐えられそうもない…『でぃいらぁ』は自分が生き延びる為、ただただ『ぷれいやぁ』の死を願ううちに、いつしか『死』そのものに無頓着になり、その眼は歪に濁り、腐っていく…そんなのが本当に、人が生きてる姿だって言えるの…?」

 

 そう語るモモカは、俯いて悲しそうな目をしていた。

 

「もし…もしも…もしもよ?『でぃいらぁ』なんかの思惑通りに『げぇむ』が運ばなかったら?『ビーチ』の人達が冷静に話し合って、すんなり私の死体を『まじょ』だと見破って火に焼べる事ができたら?『ぷれいやぁ』をこれ以上1人も傷つけずに、私はこの悪夢の日々を終わらせる事ができるのよ?殺し合いなんて起こらない。最後くらい…キレイなものを信じてみたいの。それを証明できるなら、私は喜んで『まじょ』の務めを果たせるわ」

 

「…………そんなのは…ただの、現実逃避だよ…」

 

 人の心の醜さは、今まで散々見てきた。

 誰も死なずに『げぇむくりあ』するなんて、そんな幻想に縋ったって、叶うはずもない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『今際の国』滞在29日目。

 『まじょがり』開始2日前、モモカは何度も自分の胸にナイフを突き立てるシミュレーションをしていた。

 

「ナイフで心臓を一突き…ナイフで心臓を一突き…」

 

 モモカは、当日のシミュレーションをしているうちに、不安を募らせていた。

 

「ねぇ、どうしたらいい…?やっぱり私には…うまくやれるか…自信がないよ…」

 

「散々話し合って決めた事でしょ!?アンタに出来ないなら、私がやる!!どの道…大勢が死ぬのよ…!!」

 

 私がモモカを説得しようとした、その時だった。

 

「アサヒ、モモカ!」

 

 後ろから不意に声をかけられる。

 振り向くと、ヘイジさんと、新入りの男の子が立っていた。

 

「何を話してたんだ?オレで良かったら相談乗ろうか?」

 

「な、何でもない…!モモカ、行くよ!」

 

 大丈夫だよね…?

 今の、聞かれてなかったよね?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

「大変だ!!これを見ろ!!」

 

 『でぃいらぁ』のうちの一人が、モニターの一つに注目する。

 モニターには、ボーシヤが撃たれて川に落ちる瞬間が映っていた。

 

「アグニがボーシヤを…殺したのか…!?」

 

「まずいわよ、このままじゃ『まじょがり』が成立しないかも…」

 

 『でぃいらぁ』達が困惑していたその時、女性二人が管理室に現れる。

 

「心配は要らないわ」

 

「世田谷支部にすぐに通達を出しなさい。『『まじょがり』の『げぇむ』難易度を『♡5(はあとのご)』から『♡10(はあとのじゅう)』へ引き上げる』と。アグニは『まじょ』にとって最高の守護者(ガーディアン)に化ける。生存者は皆無。素晴らしい『げぇむ』になるわ」

 

「それ、すっごくカワイイ。流石()()()♪」

 

 黒髪の女性が指示を出すと、後ろに立っていた女性がはしゃぐ。

 『でぃいらぁ』達は、二人の指示に従って『げぇむ』の準備を進めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アサヒside

 

 『今際の国』滞在31日目。

 『まじょがり』当日。

 

「日没まであと…1時間もないね…この時間、メインロビーに人が通らないのは調べ尽くしてる。後は…私がここで…アサヒ…あなたは『まじょがり』が開始されたのを確認したらすぐに、地下の『でぃいらぁ』専用通路から無事に脱出してね。そろそろ…別行動を取らないと…一緒のところを見られてアサヒが疑われたら、元も子もないよね…」

 

 そう言ってモモカは、悲しそうに笑う。

 私は、モモカにずっと黙っていた事を話した。

 

「モモカ…私…決めたの。制限時間ギリギリまで、『ぷれいやぁ』として『まじょがり』に参加するから!」

 

「アサヒ!?」

 

「アンタが命をかけてまで信じようとしたものがあるんでしょ!?だったらそれを、私がこの眼で見届けてやるのよ!!」

 

「アサヒ…」

 

 モモカは、最期まで人の心は美しいって信じようとした。

 だったら、友達の私がそれを見届けなくてどうするのよ…!

 殺し合いなんか起こらない。

 きっと皆が冷静に話し合って、誰一人血を流さず真相に辿り着いてくれる。

 そうじゃなきゃ、モモカが命をかけた意味がなくなってしまう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私は、モモカの言う通り、誰も殺し合わずに『げぇむ』を終わらせられる。

 そう信じてた。

 モモカの理想を見届けられるなら、私はこれ以上生き存えなくたっていい。

 そう思ってた。

 だけどいざ『げぇむ』が始まってみれば、そこからは地獄絵図だった。

 

「とりあえず試しに、『焼べて』みるか?」

 

 何よ…これ。

 

「『性』だからな。人は放っときゃあ…殺し合う生き物なんだよ」

 

「殺せ!!」 

 

「燃やせ!!」

 

「殺せ!!」

 

「焼き殺しちまえ!!」

 

 何なのよ…これ…!?

 

「手当たり次第に焼けばいい…」

 

「テメェら全員、今から『まじょ』だ!!」

 

 まるで『でぃいらぁ』の思惑通り…

 どうしてここまで手の上で踊る事ができるのよ…!?

 

 こんな…

 『ぷれいやぁ(こんなやつら)』を最後に信じて…

 モモカは自ら命を絶ったっていうの…!?

 

 結局、『でぃいらぁ』も『ぷれいやぁ』も…人間の本性なんて変わらない。

 だったら『ぷれいやぁ』なんて『げぇむおおばぁ』になって、私を元の世界に帰してよッ…!!

 

 死ね死ね!!

 死ね!!

 お願いだから、さっさと全員死んでちょうだ──────

 

 

 

「ここにいる誰もが持ってる。オレと同じ『弱さ』を」

 

「一緒に生きよう、ヒヅル。お前が生きていてくれる、それだけで、オレにとっては希望なんだ」

 

「あなたが託した希望は…私が必ず、次へ繋げてみせるわ…!」

 

「ヘイジがいなくなるのだけは嫌だ。ヘイジの事は、オレが守る」

 

「殺し合いを止めて、もう誰一人傷つけずに、『げぇむ』を『くりあ』する」

 

「もうこれ以上、無駄な血を見たくない。それに、謝りたい奴がいるんだよ…」

 

「誰かを守ろうなんて思った事もないマザコン野郎と、一緒にされてたまるかいな!!」

 

「オレ達で、この殺し合いを止めよう」

 

「最期まで人間だけは辞めたかねーんだよォォ!!」

 

「生きてさえいれば、平和的に『くりあ』する方法を探せる。だからまずは生きて」

 

「今度は私が、アリスを守る番よ!!」

 

「私を変えてくれた先生の事だけは、殺させない…!!たとえ、この命にかえてもッ!!」

 

「まだ…ここに生きてる連中の、命は救える…」

 

「殴られて、拒絶されたとしても、オレはアグニの事も救いたいんだ」

 

「生きてる人間を、なめんなッ…!!」

 

 

 

 ……どうして、こんな…どうしようもない世界にいながら…

 媚びないの?

 労われるの?

 どうしてそこまでただ…気高く…!!

 

 殺し合いは起こってしまった…

 けど…それでも…モモカ…

 

「ちゃんとあったよ…!!アンタに…見せてあげたい…!!」

 

 モモカが望んだものを最後に見られて、私は思わず涙が溢れた。

 だけどその直後、現実に引き戻される。

 アグニが皆を殴り飛ばしている中、私は涙を拭って、アリスとヘイジさんに向かって叫んだ。

 

「待って!!私なら、この混乱を止められるかもしれない…!!一瞬でも皆の注意を引いて、アグニを止められるかもしれない!!」

 

「な…なんて…!?」

 

「何だアサヒ、聴こえない!」

 

「勝つのよ!!『げぇむ』の思い通りになんてならないで!!そして…できる事なら、優しいあなた達に、この国の全ての無意味な殺し合いを終わらせてほしい…アリス…ヘイジさん…あなた達に出会えて、よかった…」

 

 私の正体をバラして、皆の気を引く。

 もうこれしか、『くりあ』する方法はない。

 私の正体をバラせば、私はこの国から強制排除される。

 だけど、それでもいい。

 最期に、アリスに、ヘイジさんに…心の優しい人達に、出会う事ができた。

 モモカが信じてきたものを、この眼で見る事ができたから。

 

 

 

「私は、『でぃいら…  

 

 

 

 

 

 ――ズッ

 

 

 

 口を開いた瞬間、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

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