Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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たいざいにじゅうよんにちめ

ヘイジside

 

 ある者は、居た堪れずにその場を去り、ある者は、ただ茫然とその場に佇み、ある者は、知らないうちにその場で眠りに落ちていた。

 こうして…俺達のあまりにも永く耐え難い夜は、皆の心に決して癒える事のない傷を残して、ようやく終わった…

 次の日、俺とヒヅル、そしてクリハラさんの三人は、ウサギ、クイナさん、アンさん、マヒルさんの四人と一緒に集まって話をしていた。

 

「アリスは…優しすぎるから…他人の痛みがわかりすぎる…だから生き残った皆にのしかかる悲しみに、アリスは…誰よりも苦しんでる…なのに今の私は…彼の為に出来る事が何もないの…」

 

 ウサギが落ち込んでいると、クイナさんが口を開く。

 

「簡単な事や。男と女やろ?元気づける方法はなんぼでもあるがな」

 

「男と…女…って…」

 

 クイナさんの言葉の意味に気付いたウサギは、顔を真っ赤にして俯く。

 

「アリスといい…進展せんワケやな…」

 

「クイナさん…」

 

 ここぞとばかりにアリスとウサギをくっつけようとするクイナさんに、俺は思わず引き攣った笑みを向けた。

 するとアンさんが口を開く。

 

「生産的な話をしましょう。アサヒとモモカは何者だったのか?彼女達が『げぇむ』の運営者だったとしたら、他にも滞在者の中に彼女達の仲間が大勢紛れているのか?『ビーチ』が焼けて集めたトランプを全て失った今、私達の取るべき次の行動は?考える事は山程あるわ」

 

「それを言い出すならそもそも、『今際の国』って何なんや…?」

 

 アンさんが言うと、クイナさんが疑問を口にする。

 すると今度はマヒルさんが口を開いた。

 

「『ビーチ』の『げぇむ』会場の檻の役目を果たすビーム装置は、僕達があのホテルをアジトにする以前から設置されていた事になる。同様にこの街のあらゆる施設に、既に『げぇむ』会場の用意が施されているのだとしたら…こんな場所が、我々の知る東京の近未来なワケがない」

 

「これが大規模な東京のセットやっちゅーんか?タイムスリップ説より少しはマシかもな…」

 

 マヒルさんが言うと、クイナさんが呟く。

 するとクリハラさんが空を見上げながら口を開く。

 

「地球に似た星が発見されたって話、知ってるか?」

 

「は?」

 

「その星には、水も外気もあって、生命体が住んでいる可能性があるそうだ。宇宙人だか何だか知らねぇが、オレらが神と崇める高尚な存在が、オレらの到底理解の及ばない高等技術で、オレら下等な生物の脳ミソをいじくって遊んでんのかもなぁ」

 

「何やそれ…アホらしっ」

 

 クリハラさんが突拍子もない事を言うと、クイナさんが呆れ返った。

 そんな中、地面に座り込んで草をいじっていたヒヅルが口を開く。

 

「オレは、異世界なんじゃないかなって思ってる」

 

「異世界?」

 

「うん。ラノベとか、漫画とか、ゲームとかで、何かの拍子に違う世界に迷い込んじゃうって、よくあるストーリーじゃん。オレ、漫画とかゲームとか、そういうの好きだからさ…そのおかげか、非現実的なこの世界にも、割とすぐに適応できたんだよね。だから、この世界は本当にそういうものなんじゃないかって…ちょっと思ってたりはする」

 

 ヒヅルは、少し恥ずかしそうに自分の考えを言った。

 異世界…か。

 そういえば、チシヤも主人公としての選択がどうのとか言ってたっけ。

 

「じゃあオレ達は、花火を見た事で、その異世界とやらに迷い込んじまったってか?」

 

「わからないけど…そういう考え方もあるんじゃないかなって…思ってる」

 

 クリハラさんが尋ねると、ヒヅルは膝を抱えながら少し自信なさげに口を開く。

 そんな中、ウサギが少し恥ずかしそうに口を開く。

 

「あの…わ…笑わない…ですか?『今際の国』には自然が溢れてて、野生動物もたくさん生息してる…なのに、この中で『げぇむ』を強いられ、死の恐怖に苦しめられるのは私達人間だけ…まるでこの国が人間を懲らしめてるみたい…」

 

「…は?」

 

「日本の精神文化の原点は、木を、森を、山を神として、敬い、畏れ、自然との調和を重んじ、恵みを享受して生きてきた。もしかしたらこれは…文明の進歩だけを優先させて、いつしか自然への感謝を忘れ、軽んじ、自分達だけが勝手な事をしてきた…人類への、神様からの『警鐘』……」

 

 ウサギはそう言った直後、恥ずかしそうに手を振りながら笑った。

 

「…なんて、ウソウソ!やっぱり、こんなのおかしいよね…」

 

「まぁ…否定する気もあらへんけど…流石にオカルトすぎるっちゅーか…」

 

 ウサギが言うと、クイナさんが呆れ返る。

 そんな中、アンさんはウサギの話を真剣に聞いていた。

 

「笑わないわよ」

 

「意外やな。科学者が神を信じるんか?」

 

「科学と信仰が対立するものと考えているなら偏見よ。どんな問題も究極的には科学で説明できなくなる。頭上の宇宙にも顕微鏡の中にも無限に広がっていて、科学はその一部の目に見える範囲内で理論を作っているに過ぎない。真理を追求する科学者だからこそ、感じざるを得ないのよ。人智を超えた『神秘』というものの存在を…」

 

 アンさんは、ウサギの説に肯定的だった。

 するとクリハラさんは、ココアシガレットを一本取り出しながら口を開く。

 

「まあ、一理あるわな。ブレーズ・パスカル、アイザック・ニュートン、ガリレオ・ガリレイ、アルベルト・アインシュタイン…歴史を振り返ってみりゃあ、宗教家でもあった科学者は少なかねぇ。信じる事から始まるのが『信仰』なら、疑う事から始まるのが『科学』…だが、『信じる事』と『疑う事』は必ずしも両立しないとは限らねぇ。案外『信じる』って事は、『疑う』事から始まるもんなのさ」

 

「何やねんアンタ」

 

 クリハラさんが若干カッコつけながら言うと、クイナさんが呆れ返る。

 言ってる事に説得力はあるんだけど、日頃の行いがアレだからな…

 

「『警鐘』ねぇ…むしろ……『罰』やろ。あるいは逆に『救い』のつもりやったりしてな!ハハッ」

 

 クイナさんは、軽快に笑いながら言った。

 俺は、自分の考えを口にした。

 

「オレは……『試練』なんじゃないかと思ってる」

 

「『試練』…?」

 

「ウサギの言う通り、『げぇむ』の恐怖に怯えているのはオレ達人間だけだ。それはきっと、今を生きる事に一生懸命な野生動物と違って、オレ達人間は安全が保障された社会の中で、生きている実感を味わう事なく惰性で生きてるからだと思う。オレだってこの国に来るまで、生きている事へのありがたみを忘れて、ただ流されて生きてきた。オレ達はこの国で、『生きる力』を試されてるんじゃないのかな」

 

 俺が自分の意見を言うと、今度はマヒルさんが口を開く。

 

「『ビジネス』、『ギャンブル』、可能性ならいくらでもある」

 

「ギャンブル…って、誰にとっての…!?」

 

「もちろん、僕達のじゃないだろうね。ただ、何にせよアンの言う通り…あまり簡単に測らない事だ、人の想像の範囲で」

 

 マヒルさんが言うと、俺達は言葉を失う。

 するとクイナさんが、頭を掻きながら口を開く。

 

「あ〜もう、やめややめや!!ますます辛気臭うなる!!当面の課題は、()()()()から生き残った皆が、どうやったら立ち直れるかや…」

 

「…そうね。でも…どうやって…」

 

 結局答えは出ないまま、日が暮れた。

 俺達が街に戻ると、『ビーチ』の皆がある提案をしてくる。

 

「追悼…式?」

 

「オレ達で話し合って決めたんだ。『まじょがり』で死んでった仲間達を偲んで、皆で送り出してやろうって…ソイツらの名前…好きだったものや、夢とかさ、何でもいいから知ってる思い出を語り合うんだ。オレ達はこのままじゃ進めねぇ…起きちまった事から目を逸らさずに、ちゃんと前に進みたいんだ!!だからその…アリス君…だっけ?できれば彼にも出席してほしいんだ」

 

「彼はここにいる私達を救ったヒーローだから」

 

「アイツがいねーと始まらねーんだ!!」

 

 『ビーチ』の皆は、アリスを追悼式に呼ぶよう俺達に言ってきた。

 するとウサギは、微笑みながら返事をする。

 

「わかった。すぐに呼んでくるね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あたりがすっかり暗くなった頃、俺達は焚き火を囲んで順番に話し始めた。

 

「私は、幼馴染みを『まじょがり』で亡くしたの…名前は晃南。晃南はバレエの先生になるのが夢で、週末はいつも子供達にダンスを教えてた…不思議よね…いつかはこんな日が来るのを覚悟してたからかな…悲しみも怒りも寂しさも…感じないんだ…ただ今は…悔しい…晃南がここにいない事が…どうしようもなく、悔しい…」

 

 一人の女性が話すと、今度はクリハラさんと一緒にいた女性…リナさんが話し始める。

 

「私…いい?私は友達を二人、『まじょがり』で亡くしたわ。名前は、二瀬玲と、三ツ瀬茉茅…二人とも、私の学生時代の部活の後輩だった。レイはオリンピックの女子バレー日本代表になる事が、マチは武道館でライブをする事が夢だって言ってた…二人とも、私腹を肥やす為にくだらない生き方をしてきた私とは違って、真面目に生きてきた子達だった。二人とも、アンさんとクリハラ先生を助ける為に、必死で戦ったの…だから、あの子達の事を、どうか覚えていてあげてほしい」

 

 リナさんが目に涙を浮かべながら言うと、クリハラさんがリナさんの肩に上着をかける。

 すると今度は、別の仲間が手を挙げて話し始める。

 

「次、オレ、いいか…?柏木謙介…って、角刈りで変なメガネかけた奴…誰も覚えてねーのかよ?『♢7(だいやのなな)』を初めて『くりあ』したのはアイツなんだぜ!?とにかく格ゲーが、ありえねー程上手くてよ、何かの大会で優勝したって言ってたっけ!ゲームばっかしてっから全然女にゃ縁がなくて、どうやったらドーテー捨てられんのかって、そればっかオレに相談してたんだよ!」

 

 その人は、笑いながら仲間の話をした。

 だけど話しているうちに少しずつ目から涙が溢れてきて、俯きながら言った。

 

「…もっと真面目に…聞いてやればよかったなァ…女の1人も知らずに…死んじまう事ねーのにな…………オレが、オレがもしこの先…『げぇむ』で死んでも…謙介の話をしてやってくれ!!アイツが…生きてたって事を忘れないように、この話を誰かに伝えてくれよなッ!!」

 

 仲間の話を聞いて、『ビーチ』の皆は涙を流していた。

 オレ達が生きる事は、ただ命を維持する事じゃない…

 紡いでいくんだ。

 誰かが『生きていた証』を。

 

 

 

 仲間の皆が死んだ仲間の思い出を話しながら、慰霊碑に一人ずつ名前を書いていく。

 慰霊碑に名前を書かれた人は、20人もいなかった。

 

「もう、他…いねーか?たったの18人か…知らねー奴もいっぱい死んだな…」

 

 死んだ仲間の話がもう出てこなくなって、俺達が追悼式を終えようとした、その時だった。

 

「毅斗…」

 

 武闘派連中が、後から追悼式に参加してくる。

 

「芹沢毅斗。金髪でいつもタバコ咥えてた…知ってんだろ…?」

 

「テメェら…!!」

 

「どういうつもりだ!!」

 

「どのツラ下げてオレ達の前に…!!」

 

 武闘派連中が追悼式に参加しようとすると、仲間の皆が連中を責める。

 だけどその時だった。

 

「待って!!」

 

 ツインテールの女性が叫んだ。

 

「その…タケトって人は…私を殺せたのに殺さなかった…私が今、生きてるのは、彼が見逃してくれたから…!!」

 

 女性が言うと、仲間の皆は連中を責めるのをやめた。

 すると連中は、タケトさんの話を始める。

 

「タケトは…とにかくサーフィンが好きで、仕事明けでも平気でオールして毎日海に出掛ける奴だった…親を早くに亡くして昔は手がつけられねぇ程荒れてたが、職についてからは、マメに貯金なんかをするような奴だった…弟を大学に入れてやりてぇからって、弟には自分のようになってほしくねぇからって…いつも口癖のように言ってた…そういう…奴だった……水を差すようなマネをして、悪かったな……………それから…」

 

 連中が何かを言おうとすると、俺達の仲間はそれを遮るように言った。

 

「もう…いいよ…憎んだり…恨んだりとか、もう…そんなのは…充分なんだ…」

 

「……そうか…」

 

 そう一言言い残して、連中は去っていった。

 最後に皆で焚き火を囲んで、追悼式を締め括る。

 

「…これで、良かったんだよな…?これでオレ達、前に進めるんだよな…?」

 

「ああ。進もう」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 翌朝。

 車の中で眠っていた俺を、ヒヅルが起こす。

 

「おはよ…ヘイジ」

 

「あぁ…おはよう」

 

 ヒヅルは、雑炊の入ったお椀を俺に差し出してきた。

 

「朝ごはん…皆で作ったの。食べて」

 

「…ああ」

 

 俺が返事をすると、ヒヅルは雑炊をスプーンで掬って俺の口の前まで持ってきた。

 

「はい」

 

「……えっ?」

 

 えっ…待って。

 これって『あーん』…だよな?

 何でそうなる!?

 このシチュエーションは流石にマズ…

 

「怪我…まだ治ってないんでしょ。今は無理しないで」

 

 …そっ、か。

 ヒヅルも、俺の事を心配してくれてたんだな。

 前は、俺の事を生き残る為の道具としか見てなかったのに…

 何か変わったな。

 

「…ありがとう。いただきます」

 

 俺は、ヒヅルに朝飯を食べさせてもらいながら、他の皆を見た。

 皆、ほとんど会話も交わさず、静かに過ごしていた。

 

 進める…と、思っていた…

 なのに…

 相変わらず空気は…重いままだ。

 

 

 

 ――ギャギャギャギャギャギャッ!!!

 

 

 

 突然、車が回転しながら俺達のところへ突っ込んできた。

 何だ、朝っぱらから…!?

 

「タ…タッタ!?危ねぇなテメェ!!殺す気かよ!!」

 

「てか、この車どうしたの!?」

 

 皆がきょとんとしていると、タッタが大声で叫ぶ。

 

「らんっ…ぼるぎいにいいいっ!!!」

 

 …………は?

 

「6.5LV型12気筒エンジン!!最高時速は350km/h!!4000万超えのスーパーカー!!ランボルギーニ・アヴェンタドールだぜッ!!貧乏人はよーく拝んどけよ!!」

 

「アンタが…直したの?」

 

「徹夜でな!!整備士の息子舐めんなよっ!!今からコイツで首都高かっ飛ばす!!風になりてぇ奴は手ェ挙げろォ!!先着1名!!早い者勝ちだぜ!!」

 

「い…行く行く!!」

 

「私も乗りたい!!」

 

「アタシが先だったでしょ!!」

 

「マジかよ、オレにもモテ期到来!?まーまーケンカすんなって♪」

 

 タッタは、仲間の女の人を連れて、ランボルギーニで首都高を滑走していった。

 

「一通!?信号!?何だそりゃ!?行くぜオラァ!!300km/h出してやる!!」

 

 な、何だったんだ今の…

 俺がポカンとしていると、クイナさんが笑い出す。

 

「……ぷっ!!わはは!!ははははは!!何ボケっとしとるんや!!ウチらも遊ぶで!!いつまでも辛気臭い顔してても仕方あらへん!!ほれアリス!!アンタもや!!楽しめ!!それが生きてる人間の、義務や!!」

 

 楽しむのが生きてる人間の義務…

 ……そうだよな。

 今はただ、限りのある人生を、思いっきり楽しまないと。

 

「ほら、ヒヅルも」

 

「…うん」

 

 俺は、まだ完全には癒えていない手で、ヒヅルの手を取って走り出した。

 ある奴はゴルフをしたり、ある奴は楽器を演奏したり、ある奴はボードゲームをしたり、皆思い思いに楽しんだ。

 そして俺はというと。

 

「マジか…これが、オレ……?」

 

「似合ってますよ!」

 

「やばっ…超イケメンなんだけど」

 

「抱かれたい…」

 

 俺は、『ビーチ』で美容師をしていた人に髪を整えてもらって、服も用意してもらった。

 ファッション雑誌の男性モデルが着てるような服だ。

 正直、こんな芸能人が着こなすような服、俺には似合わないと思っていたが…

 馬子にも衣装と言うべきか、自分で言うのも何だけど、前よりはカッコよくなった気がする。

 というか、流石に今までが服装に無頓着すぎたからな。

 

 …それはいいんだけど、何かすげぇ見られてる…特に女性陣に。

 何か、恥ずかしいな。

 まあ、悪い気はしないけど…

 

 一方でクリハラさん達は、他の男性陣に混じってゴルフ大会をしていた。

 

「うおぉ、すげぇ!」

 

「アンタ、ゴルフ上手いんならそう言えよ…」

 

「まあオレってば優秀だから?」

 

 クリハラさんが今までで一番の成績を叩き出すと、他の皆がどっと湧き上がる。

 他の皆に褒め称えられたクリハラさんは、すっかり天狗になっていた。

 だけどその直後、ヒヅルが挑戦すると歓声が上がった。

 

「ウッソだろ、すげぇ飛んだぞ!!」

 

「400ヤードいったんじゃねぇ!?」

 

「マジかぁ!?あり得ねぇ!!」

 

「ヒヅルちゃんゴルフやってたの?」

 

「ううん。初めて。部活でテニスはやってたけど」

 

「…………」

 

 ヒヅルが初心者でありながらプロ並みの腕前を披露すると、他の皆がヒヅルを褒め称え、注目を根こそぎ掻っ攫われたクリハラさんは今にも舌打ちしそうな表情を浮かべていた。

 いや、そんな顔でこっち見られても…

 結局ゴルフ大会は、ウサギとヒヅルの初心者2人がツートップだったらしい。

 …才能って怖いね、うん。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 遊んでいるうちに、空が茜色に染まってきた。

 俺達は、かき集めてきた食材を使って、皆でバーベキューをした。

 ヤギをはじめとした体力に自信があるメンバーが、肉や魚を持ってきてくれた。

 

「焼けたやつから持ってってくれるかい?」

 

「あっ、はい!」

 

 俺は、マヒルさんが焼いた食材をテーブルに運んだ。

 

「テメー負けたくせに何食ってんだコラァァ!!」

 

「ホントだって!!でけー熊見たんだって!!」

 

「オレ、すげぇ掘り出し物見つけたんだけどさ。見ろよこれ、木達あいなちゃん主演のAV」

 

「うっひょぉ!!」

 

「マジか!オレ、後でテレビ直すわ!」

 

 他の皆は、食事を囲みながら馬鹿騒ぎしていた。

 その中には、クリハラさんやネズミもいる。

 だけど、その中にヒヅルの姿がなかった。

 

「………」

 

 俺が食材を運びながらヒヅルを探していると、クイナさんが声をかける。

 

「どないしたん?」

 

「ああいや…クイナさん、ヒヅル知りませんか?」

 

「知らんな。あの子、一度もここに来ぇへんかったさかい」

 

 そ…っか。

 ここには一度も来てないのか…

 本当に、どこ行ったんだろう。

 俺が不安を募らせていると、クイナさんも不安そうな表情を浮かべながら言った。

 

「……一人で勝手に『げぇむ』会場に行きよったりして」

 

 ……え?

 『げぇむ』会場に…?

 え、いやいやいや。

 今日は『げぇむ』の事は忘れて皆で遊ぼうって話だったのに…一人だけ抜け駆けするか?

 

「え…?いや、さっきまで一緒に遊んでたのに、そんな事って…」

 

 俺が言うと、クリハラさんが話に加わってくる。

 

「いや、ガチであり得るぞ。アイツ、『げぇむ』中毒の変態だからな」

 

 『げぇむ』中毒の変態って…

 ひどい言いようだな。

 なんて思った、その時だった。

 

「誰が『げぇむ』中毒の変態だって?」

 

 後ろから、ヒヅルの声が聴こえる。

 振り向くと、リナさんとヤヨイが俺の後ろに立っていた。

 

「遅れてごめんなさい」

 

「えへへ、ピッタリの服探してたら時間忘れちゃって…」

 

「……スカート穿くの久々だからスースーする」

 

「じゃーん!」

 

 リナさんとヤヨイは、そう言って俺の正面を避ける形で横に移動する。

 すると二人の後ろからは、おめかしをしたヒヅルが歩いてきた。

 オフショルダーの白いトップスとグラデーションのかかったピンクのミニスカートを身につけていて、低めのヒールがついた革のサンダルを履いている。

 うっすらと化粧をしていて、まるで人形みたいだ。

 

「うおおおおっ!!ド美女ォォォッ!!!」

 

「か、可愛い…」

 

「イェス!!イェスッッ!!」

 

 誰かが、おめかしをしたヒヅルを見て興奮して叫んだ。

 男性陣の何人かは、ヒヅルに見惚れていた。

 ヒヅルは、中学生らしく幼さを残しつつも、端麗な顔立ちをしている。

 スタイルも良くて、歳と身長の割に大きな胸やキュッと締まった腰、スカートからスラっと伸びた脚が目を引く。

 元々美形だとは思っていたけど、おめかししたらここまで化けるとは…

 ヒヅルをイメージチェンジさせたリナさんとヤヨイは、キャッキャとはしゃいでいた。

 

「元の素材がメチャクチャ良いから、オシャレしたら化けると思ってたのよね!」

 

「ほらっ、ヒヅルちゃん!一番見せたい人のところ行かなくていいの?」

 

「わっ…」

 

 ヤヨイは、ヒヅルを俺のところに連れてくる。

 ヒヅルは、全身が見えるように俺の前でくるっと回ってみせた。

 細かい所作に、育ちの良さが垣間見える。

 

「…ヘイジ。どう?変……じゃないかな」

 

 ヒヅルは、俺を見上げながら話しかけてきた。

 すごく可愛い……

 すっかり普段の格好に見慣れてたけど、やっぱり女の子らしい格好も似合うな。

 

「え…?あ、と…似合ってるよ。すごく、綺麗だ」

 

 俺が言うと、ヒヅルは満更でもなさそうに手をいじる。

 うぶな感じが、ヒヅルっぽくて可愛らしい。

 あと何かいい香りするし…

 近頃の女子ってのはこうも発育が良いもんなのか?

 若いメスの匂いをプンプンさせやがって、中学生ってのも満更でもねぇなこりゃ…チンチンがイライラしやがるぜ」

 

 ……おい、待て。

 何か邪な声がヌルッと俺の思考に紛れ込んできたんだが。

 俺はそんな事考えたりしてない。

 振り向くと、クリハラさんが俺の耳元で囁いていた。

 

「何言ってんですかクリハラさん!?」

 

「オレの囁きはサブリミナル効果を引き起こし、本人の思考のように錯覚させる事ができる」

 

「要らん事しなくていいですから!!」

 

 何なんだこの人は!?

 俺は決して、ヒヅルをそんな目で見てない!!

 相手は中学生だぞ!?

 それに俺には、ニーナがいる。

 

 ヒヅルは大事な仲間だし、すごく可愛いと思ってるのは事実だ。

 だけど、そこに恋愛感情は無い。

 俺はただ、ヒヅルに幸せになってくれれば、それでいいんだ。

 

「オレァな、お前さんみたいな真面目ちゃんを無理矢理誰かとくっつけていじって遊ぶのが大好きなんだよ」

 

「下っ衆い趣味だな!!」

 

 クリハラさんがニヤニヤしながら俺にウザ絡みしてくると、俺は立場も忘れて思わずクリハラさんに暴言を吐いた。

 この人、まだ日が暮れかけたばかりだってのにもう酒入ってんな…

 

「ヘイジ君、最近妙にヒヅルちゃんと仲がいいみてぇだがよぅ……実際のとこ、ヤったのか?」

 

 ヤっ……!?

 何言ってんだこの人!?

 

「は!?やるわけないでしょ!?こんな小さい子相手に!それに、オレには恋人がいるんです!」

 

「だから何だ?ここは『今際の国』だぜ?道徳倫理は捨ててガバっとヤっちまえ!刺激が欲しけりゃバカニナレってな!」

 

「アンタいい加減にして下さいよ!!」

 

 クリハラさんが俺とヒヅルをまとめていじり倒してくるので、俺は食い気味に否定した。

 クリハラさんにいじられたヒヅルは、顔を真っ赤にして両手で顔を隠しながら俯いていた。

 関係ない事で俺と一緒にいじられて、何だか申し訳ないな…

 

「サイッテー!」

 

「不潔…」

 

「品性のカケラもないわ」

 

 クリハラさんが俺達をいじって遊んでいると、女性陣がクリハラさんを非難した。

 いくらここが『今際の国』だからって、中学生へのセクハラが許されるはずがない。常識的に考えて。

 そんな中、俺達が困惑しているのを察してか、マヒルさんが俺に声をかけてくる。

 

「ヘイジ君。焼けた魚持っていってくれるかい?」

 

「あっ、はいスイマセン」

 

 マヒルさんのおかげで、俺はクリハラさんのイジリから抜け出せた。

 …ホント、助かります。

 

 こうして俺達は、この日も皆で食事にありつけた。

 だけど食事中、衝撃の事実が判明する。

 

「ウソ!?あなた男なの!?」

 

「せや!」

 

 衝撃の質問をクイナさんがあっさり肯定すると、俺は思わず飲み物を思いっきり吹きこぼした。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

 

 マジかよ…!?

 クイナさん、男だったのか…

 

「マっジっかよー!!」

 

「なんだよそりゃー!?」

 

「オレ…お前をオカズに何度も…!!ショックだよ!!どーしてくれんだよー!!」

 

 タッタは、クイナさんが男だと知ってショックを受けていた。

 あまりにもタッタが大袈裟にショックを受けるので、クイナさんはイラっとしたような表情を浮かべる。

 

「男やと分かったら勃たへんってか?そないな事ぬかすなら…試したろやないかーい!!」

 

 そう言ってクイナさんは、その場でビキニを脱いだ。

 うわっ、ま、マジかよ!?

 思わず目を逸らそうと隣にいたヒヅルを見ると、ヒヅルは両手で顔を覆ってはいたけど、両手の中指と薬指の間がガッツリ開いていて、ガン見する気満々だった。

 オイコラ。

 

「しっかり反応しとるやないかーい!!」

 

「何故だオレーっ!!」

 

「いいぞォ!!」

 

「下はどうなってんだー!?」

 

「クイナって、ち「コラァヒヅル!」

 

 その先は言わせねぇよ!?

 女の子がそういうお下品な事言うんじゃありません。

 

 その日は、皆でバカ騒ぎして夜を明かした。

 …大丈夫。

 俺は…俺達はまだ、こんなにも笑えるんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アグニside

 

 俺は、河川敷に腰を下ろし、ただ茫然と川を眺めていた。

 他の連中が何をしているのか、今の俺にはもうわからない。

 ヘイジは、俺にも一緒に生きようと言ってきた。

 だが俺には、アイツらと生きる資格なんか無い。

 

 そう考えていたその時、ちょうど川に架かっている橋を、誰かが渡ってくるのが見える。

 橋の下からでも、ソイツらの話し声が聴こえた。

 

「なぁ、この話聞いたか?川の向かいのテントの連中、今夜の『げぇむ』に行ってきたんだと」

 

「ああ、聞いてるぜ。全員『くりあ』して戻ってきたんだろ?」

 

「それがよォ…妙〜な事言うんだ…」

 

 ソイツは、隣にいるであろう仲間に何かを話した。

 何だ…?

 何の話をしている…?

 

「は…!?日没になっても、『げぇむ』が始まらなかった?」

 

 な…んだと…!?

 今まで、日没までに『げぇむ』が始まらなかった事は一度もなかった。

 なのにここに来て、何故…!?

 

「レジのモニターには、こう表示されてたんだとよ。『いんたあばる』って」

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在二十五日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 49日

 小鳥遊火鶴 99日

 栗原鳳正 19日

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
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