Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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本作では『ビーチ』に来るまでにアリス達が何してたのか気になるってお声があったので、ねくすとすてぇじ編の前に番外編として書かせていただきました。




【番外編その1】たいざいようかめ

アリスside

 

 滞在8日目。

 ウサギのおかげでようやく生きる気力を取り戻した俺は、ヘイジ達が向かった『ビーチ』を探す事にした。

 わかっているのは、『ビーチ』が世田谷区の中にあるって事だけだ。

 俺は、飯を食いながらウサギに『ビーチ』の話をした。

 

「『ビーチ』?」

 

「ああ。『♠︎5(すぺえどのご)』を一緒に『くりあ』した、ヒヅルと、背の高い男がいただろ?ソイツらが、先に『ビーチ』に向かったんだ」

 

 ウサギが尋ねると、オレはヘイジ達の話をした。

 ヘイジ達は、『びざ』切れ間近のチョータとシブキさんを『ビーチ』に連れて行くには不安要素が多すぎるからと、3人で先に『ビーチ』の下見に行った。

 丸一日経ってもヘイジ達が来ないのは、俺が生きる希望を失って約束の場所に行かなかったから、俺達が『げぇむ』で全滅したと思ったんだろう。

 俺がその事をウサギに話すと、ウサギが再び尋ねる。

 

「ねぇ…その『ビーチ』って何なの?」

 

「…わからない。ただ、その男…ヘイジが見つけたタクシー無線には、『ビーチ』って言葉が出てくる音声が残っていたらしい。『我々は『答え』を知っている』…って言ってたそうだ」

 

「『答え』……?」

 

「ヘイジとカルベは、元の世界に帰れるかもしれないっつってた。オレは、『ビーチ』を探してみようと思う。今はそれしか、手掛かりがない」

 

 この理不尽な『げぇむ』を作っている連中をつきとめて、ウサギと一緒に『今際の国』から脱出する。

 その為には、少しでも情報が必要だ。

 今は、ヘイジとカルベが残した最後の手がかり、『ビーチ』に賭けるしかない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 8日目の日没から、俺は世田谷区の『げぇむ』会場を次々と回って、参加者に『ビーチ』の事を聞いた。

 日没前の『げぇむ』会場を巡り、自分は『げぇむ』には参加せず、そこに集う滞在者から『ビーチ』の情報を集める。

 昼間、どこで何をしているかわからない滞在者を、アテもなく探し回るよりは、この方法が最善だと考えた。

 

 『今際の国』では、『びざ』が切れた滞在者には、上空からレーザーが照射され、死に至る。

 オレ達に残された『びざ』が切れるまで、1週間と少しの期間…

 その間に『ビーチ』の場所を突き止めて、ウサギと2人で、このふざけた『今際の国』から抜け出す『答え』を手に入れる!!

 

 だが、『げぇむ』会場を探し回っても、有力な情報を持っている参加者はいなかった。

 

「そんなもん知るか!!こっちはそれどころじゃないんだよ!!」

 

「何ソレ?」

 

「頭おかしくなっちゃったんじゃないの?」

 

「気安く話しかけんじゃねーよッ!!何なんだよお前はーッ!!」

 

 参加者達は、俺の言葉を一蹴した。

 結局この日は、何の手掛かりも見つからなかった。

 いや…おそらく、本当は情報を持っていて、あえて俺に何も話さなかった奴も中にはいたはずだ。

 『ビーチ』に辿り着く資格があるかどうかを試すテストが、既に始まっているのだとしたら!?

 

「明日の夜も『ビーチ』の捜索は続ける」

 

「え?」

 

「少し、気になった事があるんだ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 9日目、俺は昨日と同じように『げぇむ』会場に向かった。

 だけど『げぇむ』会場に来てすぐ、そこに俺の求める情報は無い事がわかった。

 

「どうしたのアリス?『ビーチ』の事を聞かないの?」

 

「ここはもういい。別の会場を探そう」

 

「どういう事?」

 

「この会場には、()()は来てないからだ」

 

「連…中?」

 

 俺とウサギは、すぐに別の会場を目指した。

 次の会場は、飲食店だった。

 俺が探していた4人組が、『げぇむ』会場に入っていくのが見える。

 

「見つけた!!アイツらに間違いねぇ!!」

 

「彼らが『ビーチ』の場所を知ってるっていうの?」

 

「多分な。だが連中は知ってても話さない。オレ達は既に試されているから」

 

 俺とウサギは、『げぇむ』が終わるまで、会場の近くで待つ事にした。

 

「このままここで連中が出てくるまで、今夜の『げぇむ』が終わるのを待とう。1人でも、生き残ってくれればいいが…」

 

 俺がそう言うと、ウサギが俺に話しかける。

 

「……そろそろ、話してくれてもいいんじゃない?」

 

「この2日間、『げぇむ』会場である共通点を持った連中を見かけた」

 

「共通点?」

 

「腕にキーをつけた連中だ。安物のロッカーのキーか何かだろう。ソイツが何を意味するかまではわかんねーが、その連中は、常に4人1組のチームを組んで、組織立った行動を取っていた…!!」

 

「すごいわアリス!昨日の今日でよくそこまで気付いたわね!」

 

 俺は、1人でもロッカーキーをつけた連中が生き残ってくれる事を願いながら、『げぇむ』が終わるのを待った。

 するとだ。

 

 

 

「ぐすっ…ぇぐっ…」

 

 小さな女の子が、泣きながら一人で『げぇむ』会場から出てきた。

 

「子供…!?」

 

「しかも、一人……!?」

 

 『げぇむ』を『くりあ』して出てきたのか…?

 ロッカーキーをつけた連中は?

 聞きたい事は山ほどあった。

 

「ねぇキミ、ちょっといいかな?」

 

 俺は、一人で『げぇむ』会場から出てきた女の子に声をかけた。

 女の子は、警戒しつつも俺の方を振り向いた。

 

「ここにロッカーキーつけた人達がいたよね。その人達、どうなったか知らない?」

 

 俺は、ロッカーキーをつけた連中の事を女の子に尋ねた。

 その中に生存者がいるなら、情報を得られる望みはあると思った。

 すると女の子は、泣きじゃくりながら話し始める。

 

「……死んじゃった」

 

「え…?」

 

「みんな、『げぇむ』で死んじゃった……『くりあ』できたのはあたしだけ…ママは戻ってこないし…もうやだ…わけわかんないよぉ…おうち帰りたぁい…」

 

 女の子は、泣きながら言った。

 とりあえず俺とウサギは、一人で『げぇむ』会場から出てきた女の子から話を聞く事にした。

 『げぇむ』会場の近くの休めそうな場所を見つけて、その子が腹を空かせていたから、食べ物を分け与えてから話をしてもらった。

 その女の子…スミレちゃんは、ポツポツと話し始めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スミレside

 

 あたしは、ママと一緒に『今際の国』に迷い込んだの。

 昨日の夜、ママと一緒に最初の『げぇむ』を『くりあ』して、何とか生き延びる事ができたんだけど…

 

「ダメね…全部腐ってる」

 

 あたしとママは、食べ物を探す為に、近くのお店に入った。

 でもお店の食べ物は全部腐ってて、ごはんにありつけなかった。

 

「ママ…あたしもう歩けないよ…おなかすいたよぉ」

 

 ママはごはんを探しに行こうとしたけど、あたしはおなかが空いてそれ以上歩けなかった。

 ママは、いつもみたいに優しく笑うと、あたしに言い聞かせた。

 

「ここで待ってて。食べ物を探してくるわね。大丈夫よ、すぐに戻ってくるから」

 

 そう言ってママは、あたしの分のごはんを探しに行った。

 あたしは、ママに言われた通り、お店で待ってたの。

 だけど空が赤くなった頃、今まで真っ暗だったお店の電気が、いきなりついた。

 

「え……!?」

 

 お店についてた大きいテレビがいきなりついて、昨日の『げぇむ』と同じ画面になった。

 

 

 

ーーー

 

エントリー数 10名

 

賞品 なし

 

ーーー

 

 

 

 この国の事を色々調べてたママが言ってた。

 『げぇむ』は、東京のいろんな建物でやってるって。

 だから『げぇむ』に参加するつもりが無くても、建物の中にいたまま日が暮れて、そこが『げぇむ』会場になっちゃう事だってある。

 あたしのいたお店が、たまたま『げぇむ』会場に選ばれちゃった…って事みたい。

 あたしが『げぇむ』会場で待っていると、他の参加者が会場に入ってきた。

 人数が揃うまでしばらく待っていると、派手な格好をした人が4人、『げぇむ』会場に来た。

 

「No.1の演説カッコ良かったよなぁ〜」

 

「今回もサクッと『くりあ』して昇格だぜ!」

 

 その人達は、腕にロッカーキーをつけていて、『げぇむ』に慣れているみたいだった。

 あたしがテレビを眺めていると、テレビに矢印が映った。

 矢印の指す方向に皆で行くと、ベルトとヘッドセットがついた金属製の椅子が10個まるく並んでいた。

 『お掛けください』って書いてあったから座ったら、テレビの画面がついた。

 

 

 

ーーー

 

『げぇむ』

 

難易度 ♡6(はあとのろく)

 

ーーー

 

 

 

 金属の椅子が置かれた部屋のテレビには、♡の6のトランプが映っていた。

 

「『♡6(はあとのろく)』…」

 

「かぁーーー惜しい!数字1つ違いだよ!」

 

「これで一気に昇格できると思ったんだけどな〜」

 

 後から来た4人は、『昇格』だの『1つ違い』だの、よくわからない事を言っていた。

 その時、どこからか声が聴こえてきた。

 

《これから皆様に参加していただく『げぇむ』は、『じんろう』》

 

「人狼…?」

 

「え、人狼ってあれだよな?」

 

「多分な…」

 

 『るうる』説明のアナウンスが鳴ると、参加者達がお互いの顔を見た。

 『げぇむ』の内容自体は皆知ってるらしくて、人狼ゲームのルールを知らないあたしにやり方を教えてくれた人もいた。

 

《『るうる』の説明。皆様の中に、『おおかみ』が2人潜んでいます。皆で『おおかみ』に裁きを下しましょう》

 

 詳しい『るうる』はこうだった。

 まず『おおかみ』が2人、『きし』『うらないし』『れいばいし』が1人ずつ、それ以外の人は全員『むらびと』になる。

 最初の10分間で話し合いをして、『おおかみ』だと思う参加者に投票。

 1位になった参加者は、その時点で椅子に致死量の電流が流れて『げぇむおおばぁ』。

 その後、1分の間に『おおかみ』が参加者を1人選ぶ。

 選ばれた参加者は、電流が流れて『げぇむおおばぁ』。

 これを繰り返して、『おおかみ』が全員死ぬか、『おおかみ』がそれ以外の参加者の人数と同数になるまで続ける。

 

 『きし』は1分の間に誰か一人を『おおかみ』の攻撃から守る事ができる。

 『うらないし』は、参加者のうち誰か一人の役職がわかる。

 『れいばいし』は、既に『げぇむおおばぁ』になった参加者の役職がわかる。

 これは後でわかった事だけど、『びざ』の残り日数によってどの役職になるのかが決まる…?らしい。

 というのが、『げぇむ』のおおまかな流れだった。

 

《『くりあ』条件。『おおかみ』を全員殺せば『げぇむくりあ』。『おおかみ』の数がそれ以外の参加者の数と同じになれば、『おおかみ』のみが『げぇむくりあ』。それでは、『げぇむすたあと』》

 

 訳がわからないまま、『げぇむ』が始まった。

 よりにもよって、あたしの役職は『おおかみ』だった。

 他の参加者の人達を騙して殺すなんて嫌だったけど、あたしだって死にたくなかったから、生き残るのに必死だった。

 もう一人の『おおかみ』の人と一緒に、『むらびと』側の参加者を『げぇむおおばぁ』にしていった。

 

 最初は皆協力して『おおかみ』を探そうって流れだったけど、『げぇむ』が長引くうちに皆お互いがお互いを信じられなくなって、仲間同士で悪口を言い合ったり殺し合ったりした。

 結局『おおかみ』が一人殺されちゃったけど、あたしは最後まで投票されずに生き延びて、最後は2対1になった。

 最後に残った2人は親友同士だったけど、『げぇむ』のせいで2人ともお互いを『おおかみ』だと思い込んで投票した。

 投票で1位になった人は電流を浴びて殺されて、最後の1人になった人も、『げぇむおおばぁ』が確定して電流を浴びて死んじゃった。

 結局、あたし一人だけが生き残った。

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

「もうやだぁ…こんなのやだよぉ…!!うわああああああん…!!」

 

 あたし以外、みんな真っ黒焦げになって死んだ。

 皆で協力すれば『くりあ』できるって言ってたのに、最期の最期には皆お互いを疑って、悪く言い合って、結局最後は仲間を恨みながら死んじゃった。

 あたしは、たった一人きりになった部屋の中で、ひたすら泣いた。

 あたしはただ、ママの帰りを待ってただけなのに。

 こんな『げぇむ』になんか、参加するつもりじゃなかったのに。

 一緒に『げぇむ』に参加した人達は皆、あたしのせいで死んじゃった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 スミレちゃんは、泣きながらも、ロッカーキーをつけた連中の事、そして『げぇむ』の事を話してくれた。

 奴等の居場所を突き止められそうな情報は手に入れられなかったが、思いもよらない形で有益な情報を手に入れた。

 

「『昇格』…それに、『1つ違い』って…一体何なの…?」

 

「わかんない…一緒に『げぇむ』会場にいた人達がゆってた…」

 

 ウサギが尋ねると、スミレちゃんが泣きながら答える。

 スミレちゃんが言っていた、『昇格』、『1つ違い』…その言葉が、『ビーチ』にあるという『答え』と関係があるように思えてならない。

 スミレちゃんがロッカーキーの連中の事を話すと、ウサギが俺の方を見る。

 

「アリス…」

 

「『昇格』…『ビーチ』には、序列のある組織があるのかもしれないな。それに、『1つ違い』って言葉…もしかしたら、探してる『げぇむ』があったんじゃないのか?」

 

 スミレちゃんだけでも生き残ってくれたおかげで、『ビーチ』がどういう場所なのか少しずつわかってきた。

 もしかしたらヘイジとカルベが言っていた『ビーチ』には、俺達が想像している以上に大規模な組織があって、序列制度を導入しているのかもしれない。

 それに、ソイツらが難易度を見た途端に言ったという『1つ違い』…この言葉が聞き間違いじゃなけりゃ、ソイツらの狙いは『♡5(はあとのご)』か『♡7(はあとのなな)』だったって事になる。

 

 特定の難易度の『げぇむ』を探している…?

 何の為に?

 俺が探している『答え』と何か関係があるのか?

 

 それにしても…俺が直接聞いても何も言わなかった奴等が、こうもベラベラと組織の事を喋るものなのか…?

 他の参加者が子供だけだからって、うっかり口を滑らせたのかもしれないな。

 俺が色々と考えていると、スミレちゃんが目に涙を浮かべながら口を開く。

 

「ママも……きっともう、死んじゃってるよね…?」

 

 スミレちゃんは、泣きながらそう言った。

 食い物を探しに行っただけなのに、こんなにも長く戻ってこないのは変だ。

 もしかしたら、スミレちゃんと同じように、彼女の母親も意図せず『げぇむ』に巻き込まれてしまったのかもしれない。

 

 俺は、スミレちゃんの目線に合わせてしゃがみ、スミレちゃんに言った。

 

「ママは、きっと生きてる。またすぐに会えるから。それまで、いい子で待っていような」

 

「………うん」

 

 俺が言うと、スミレちゃんは涙を拭いながら頷いた。

 するとウサギが俺に尋ねる。

 

「アリス、この子どうするの…?」

 

「母親を探そう。『すぐに戻ってくる』って言ってたって事は、そう遠くには行ってないはずだ。彼女と同じように運悪く『げぇむ』に巻き込まれちまったのかもな…」

 

「『ビーチ』探しは?キーをつけた連中は追わなくていいの?」

 

「もちろん、奴等の足取りも追えるだけ追うさ。だけど当分は、母親探しを優先しないか?スミレちゃんをいつまでも一人にしておくわけにいかないだろ」

 

「そうね…ねぇ、あなた、『びざ』はあと何日あるの?」

 

「んっとね…あと10日」

 

 ウサギが尋ねると、スミレちゃんは自分の手をいじりながら答えた。

 

「10日か…」

 

「どのみち、猶予はあと1週間と少ししかないわね…」

 

 1週間と少しの間に、スミレちゃんの母親と『ビーチ』、両方探さないといけないわけか。

 唯一の救いは、どっちも世田谷区の中だって事だけど…

 …いや、『ビーチ』は、本当に世田谷区にあるとは限らないか。

 チシヤが渡してきたっつー地図が、本当に『ビーチ』の場所を指してるかどうかもわかんねぇしな。

 俺が考えていると、スミレちゃんが口を開く。

 

「ねぇ…本当に、ママを探してくれるの…?」

 

 スミレちゃんが尋ねると、俺はウサギと顔を見合わせて頷いてから、スミレちゃんに微笑みかける。

 

「ああ」

 

 俺が言うと、スミレちゃんはパァッと笑顔を浮かべる。

 

「あたし、何でもお手伝いする!」

 

 スミレちゃんは、満面の笑みを浮かべて言った。

 俺達は、『ビーチ』探しを続行しつつ、スミレちゃんの母親を探す事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 滞在11日目。

 スミレちゃんの母親を探し始めて3日目。

 俺は、彼女の母親を探しつつ、キーをつけた奴等の足取りを追っていた。

 ウサギは、俺とスミレちゃんに、この世界で生き延びる為のサバイバル術を色々教えてくれた。

 

「ダメか…」

 

「こっちもいなかったわ」

 

 スミレちゃんが『げぇむ』に巻き込まれた会場から徒歩で行ける距離で、食い物がありそうな場所を片っ端から探したが、彼女の母親は見つからなかった。

 俺達がテントに戻ると、スミレちゃんは、コンビニで手に入れた地図を眺めていた。

 

「………」

 

「スミレちゃん…あのさ」

 

 俺は、まじまじと地図を見つめるスミレちゃんに話しかけた。

 このままだと、『びざ』が切れる前に母親が見つからないかもしれない。

 もっと詳しい情報を彼女から聞き出そうと思って話しかけた、その時だった。

 

「川」

 

「えっ?」

 

「ここの近く…おっきな川、あるよね?お兄ちゃん達が探してる『ビーチ』って、人がいっぱいいるところ…?なんだよね?人がいっぱいいるって事は、水がいっぱい要るって事だから、『ビーチ』は川の近くにあるんじゃないかなって…思ったんだけど…」

 

 そう言ってスミレちゃんは、地図に記された多摩川を指差す。

 俺とウサギは、ハッとして顔を見合わせると、スミレちゃんの方を見て同時に叫んだ。

 

「「それだ(よ)!!」」

 

「え…?」

 

「そうよ、大きな文明は、どれも大河の辺りで発展してきた…!」

 

「それはきっと、『今際の国』も例外じゃない…何でそんな単純な事に気付かなかったんだ…!」

 

 俺達はこの4日間で、キーをつけた連中を何組も見つけた。

 あれだけの大人数で動いている組織なら、大勢が快適に過ごせる場所をアジトに選ぶはずだ。

 そうなると、必然的に水が必要になる。

 だったら、水が大量に手に入る川沿いの施設をアジトにしている可能性が高い。

 

 スミレちゃんのおかげで、『ビーチ』へ大きく近づいた。

 俺は、地図に記された多摩川の近くの街を注意深く確認した。

 すると、『リゾートホテル多摩パシフィックビーチ』と書かれている施設を見つけた。

 

「ハ…ハハ、ハハハ!」

 

「……アリス?」

 

「お兄ちゃん…?」

 

「ここだ…!!ハハッ!!ここだよウサギ!ここだったんだ…!!とうとう見つけた…!!『ビーチ』をッ!!」

 

 順番が逆になっちまったけど、やっと『ビーチ』を見つけた。

 あとはスミレちゃんの母親を探すだけだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 滞在12日目。

 スミレちゃんの母親を探し始めてから4日目、とうとう奇跡が起こった。

 

「アリス!!スミレちゃん!!見つけた…!!ついてきて!!」

 

 日付が変わる直前、ウサギが息を切らしながら叫ぶ。

 俺達がウサギについていくと、病院の待合室に、メガネをかけた黒髪の女性がいた。

 この人がスミレちゃんの母親だ。

 腹と頭には血の滲んだ包帯を巻いている。

 きっと、俺の考え通り、運悪く『げぇむ』に巻き込まれて、一人で戻れない程の重傷を負ったんだ。

 女性は、スミレちゃんの顔を見るなり、ボロボロの身体でスミレちゃんに駆け寄った。

 

「スミレ!!」

 

「ママ…!!」

 

 スミレちゃんは、涙を流しながら母親と抱き合った。

 

「ごめんね…一人で置いて行ったりなんかしてごめんね…!」

 

「ママぁ…!うわぁああああん…!」

 

 母親が泣きながらスミレちゃんを抱きしめて頭を撫でると、スミレちゃんは母親に抱きついてわんわん泣いた。

 スミレちゃんの母親は、彼女を抱きしめたまま、俺達に礼を言ってくる。

 

「あの…本当にありがとうございます…!何とお礼を申し上げたらよいか…」

 

 スミレちゃんの母親が泣きながら礼を言うと、俺は彼女に微笑みかけて言った。

 

「無事娘さんに会えて、何よりです」

 

 俺が言うと、今度はスミレちゃんが満面の笑みを浮かべて俺とウサギに話しかけてくる。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!ママを見つけてくれてありがとう!」

 

 スミレちゃんは、笑顔で俺とウサギに感謝してきた。

 母親に再会できたのはいいけど…母親の方はボロボロだ。

 いくらまだ『びざ』が残っているとはいえ、次の『げぇむ』で生き残るのは難しいかもしれない。

 俺は、彼女達も『ビーチ』に連れて行けないかと考えた。

 

「あの…良かったら、オレ達と一緒に来ませんか?『答え』が見つかれば、皆でこの国から脱出できるかも…」

 

 俺が言うと、スミレちゃんの母親は、首を横に振って言った。

 

「…お誘いありがとうございます。ですが、これ以上ご迷惑をかけるわけにはいきません。私は、この子と2人で、この国で生きていきます」

 

 そう言って彼女は、スミレちゃんの手を取って、二人で歩いていった。

 ……生き方は、人それぞれなんだな。

 俺も、この国から脱出する日まで、ウサギと2人で生きていこう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

 『びざ』切れのレーザーが次々と降り注ぐ中、母親と娘が手を繋いで暗い夜道を歩く。

 二人は、人通りの無い路地裏へと入っていった。

 

「…本当に、いい人達だったね」

 

「ええ…」

 

 娘が話しかけると、母親が頷く。

 母親は、路地裏の壁に設置されたスイッチボックスを開けると、スイッチボックスのスイッチに指の腹を押し当てた。

 すると指紋が認証され、隠し扉が開く。

 娘は、母親の後ろを歩きながら尋ねる。

 

「ねえママ。見たいものは見れた?」

 

 娘が尋ねると、母親はメガネと腹の包帯を外し、さらには頭につけていた包帯とウィッグを外す。

 血糊の染み込んだ包帯の下は、全くの無傷だった。

 そしてウィッグの下からは、明るい茶髪が露わになる。

 

「ええ、とってもいいものを見させてもらったわ」

 

 長い茶髪を頭の後ろでまとめ、前髪を切り揃えた女性は、女神のような微笑みを浮かべる。

 娘の母親の正体は、後に『♣︎Q(くらぶのくいいん)』として滞在者達の前に立ちはだかる事になる、イバラであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

イバラside

 

 数日前、私は『♡K(はあとのきんぐ)』、『♢Q(だいやのくいいん)』、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』、『♢J(だいやのじゃっく)』、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』、『♡J(はあとのじゃっく)』の7人と話をしていた。

 ちなみに『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』、『♢K(だいやのきんぐ)』、『♣︎K(くらぶのきんぐ)』、『♡Q(はあとのくいいん)』のは、『げぇむ』の管理で席を外している。

 私は、ウェッジウッドのアールグレイ・フラワーズ(お気に入りの紅茶)を飲みながら、皆に思い切って話をした。

 

「ねぇ皆…私、次の『げぇむ』に『ぷれいやぁ』として参加しようと思うの」

 

 私が言うと、何人かがざわつく。

 …うん、予想通りの反応ね。

 私は、彼等が驚くのも気に留めず、続きを話した。

 

「それだけじゃないわ。『今際の国』の国民としての仕事がない間は、子供達と自由気ままにこの世界を見てみようと思う。この世界に生きる人達と出会って、彼等の生き様に触れて、同じ目線でこの世界を見てみたい」

 

「理解に苦しむぜ。何でアイツらと同じ条件で『げぇむ』に参加する事にこだわる?」

 

「そうよ。せっかく永住権を手に入れて、愚民共を見下せる立場になったのにさ。なに?『自分探し』ってやつ?」

 

「…………」

 

 私が言うと、頬杖をついて私の話を聞いていた『♡J(はあとのじゃっく)』と、紅茶にポッキーを突っ込んで掻き回していた『♢Q(だいやのくいいん)』が反論する。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』も、無言で腕を組んだまま怪訝そうな表情で私の方を見てきた。

 私は、彼等の反論を聞き流しながら、理由を話し始める。

 

「…そうね。どうしてかと聞かれれば、この世界で生きる人達が美しいからよ」

 

「は?答えになってないんですけど?」

 

「私は、この目で見てみたいの。死の淵でこそ力強く燃える、人の魂の輝きを。元の世界では、薄汚れたものばかり見てきたから…私の子供達には、綺麗なものを見せてあげたいの。その為に、『今際の国』の国民に()()()のだから」

 

 私がそう言うと、マティーニを嗜んでいた『♡K(はあとのきんぐ)』がパァッと笑顔を浮かべる。

 

「アハっ♬いいね、それ。超カワイイよイバラちゃん」

 

「あなたなら理解してくれると思ってましたよ…『♡K(はあとのきんぐ)』さん。早速なんですけど、あなたの作った『げぇむ』に参加してもいいですか?」

 

「うん、いいよ。とびっきりカワイイの用意したから、思いっきり楽しんできなよ。子猫ちゃん♪」

 

 そう言って『♡K(はあとのきんぐ)』は、舌なめずりをする。

 私は、『♡K(はあとのきんぐ)』に笑顔を向けた。

 

「ありがとうございます♪あなたとは気が合いますね」

 

「♡」

 

 私が言うと、『♡K(はあとのきんぐ)』は機嫌良さそうに笑った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんな話をしていたのも、今となっては懐かしいわね…

 私は、隣を歩くスミレに声をかける。

 

「さ…帰りましょう、スミレ。皆が待ってるわ」

 

「うん、ママ!」

 

 私が言うと、スミレは満面の笑みを浮かべて返事をした。

 私の可愛い子供達。

 もうすぐよ…もうすぐ、『ぷれいやぁ』の皆と遊べるからね。

 あの日みたいに、皆でまた一緒に遊びましょう♪

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
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