Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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だいやのくいいん(2)

クリハラside

 

 『げぇむ』『ひっとあんどぶろぉ』。

 難易度『♢Q(だいやのくいいん)』。

 

 0〜9の数字のうち、異なる数字を1回ずつ使って3桁の数字を作り、作った数字を当て合う。

 数字の種類と桁が一致していた場合は『ひっと』、種類が一致し桁が異なる場合は『ぶろぉ』となる。

 先に数字を当てた方が勝ち。

 

 『ぷれいやぁ』が一人一回ずつ『♢Q(だいやのくいいん)』と対戦し、最終的に勝ち数の多い方が『げぇむくりあ』。

 負け越した方は、強酸のプールに落下し『げぇむおおばぁ』。

 

 なお、代表者以外の『ぷれいやぁ』が代表者に答えやヒントを教えようとする意思を行動に移した場合、その試合は『ぷれいやぁ』チームの負けとなる。

 

 

 

《5分後に2回戦を始めます。『ぷれいやぁ』チームは、次の選手を決めて下さい》

 

 アナウンスが鳴る中、ヒミコはランドセルからルービックキューブを取り出して解いていた。

 するとその時、『カチャ…』と機械音が聴こえる。

 

「……何の音だ?」

 

「見て、あれ!」

 

 クロエは、ヒミコの後ろを指差す。

 ヒミコが座っている椅子の下の床板を支えている留め具が勝手に外れていた。

 

「負ける度に、床のガラス板を支える留め具が外れるのね…全部の留め具が外れた時点で、床が抜けて『げぇむおおばぁ』…ってところかしら」

 

 アンが腕を組みながら言うと、俺とアン以外の三人が青ざめる。

 話し合いの結果、2回戦はマシロがヒミコと対戦する事になった。

 

「1回戦見て、やり方は覚えたわ」

 

「マシロ、頼んだわよ」

 

「…ええ」

 

 アンが言うと、マシロが頷く。

 マシロは、ヒミコの反対側の席に座った。

 するとちょうどルービックキューブを全面揃え終わったヒミコが、キューブをテーブルの端に置いて不敵な笑みを浮かべる。

 こうして、2回戦が始まろうとしていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

マシロside

 

 私は、ヒミコの反対側の席に座って、数字をセットした。

 私の選んだ数字は『472』。

 相手の出方がわからないうちは、とりあえず0からか9からのローラー作戦で数字を特定しに来る可能性が高い。

 だから、0〜9の数字を3つずつ連続になるように順番に区切った時、3つの区切りの中の数字が1つずつ入るように3桁の数字を決めた。

 012、345、678と小さい順に『こぉる』しても、987、654、321と大きい順に『こぉる』しても、判定結果は必ず『0ひっと 1ぶろぉ』か『1ひっと 0ぶろぉ』になる。

 その中でも、真ん中の数字を使えば、初手で特定される可能性は低くなる。

 

 1回戦で選んだ数字は避けたくなるところだけど、試しに1回戦の数字を最初に『こぉる』される可能性も捨て切れないから、1回戦でクロエが選んだ2を今回の数字にも入れた。

 数字を選んだ私は、『あいてむ』を引いた。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』か…

 って事は、3つの数字を見る事ができるのよね。

 私が『あいてむ』を引くと、今度はヒミコが『あいてむ』を引く。

 

「あっ♪」

 

 『あいてむ』を引いたヒミコは、笑顔を浮かべながら小さく声を漏らした。

 

「……?」

 

 『あっ』って何…?

 狙ってた『あいてむ』を引いたって事?

 それとも、私を混乱させる為のブラフ…?

 

 …いいえ。

 惑わされちゃダメ。

 勝負は既に始まってるんだわ。

 

《時間になりました。先攻のマシロ様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「その前に、『あいてむ』を使うわ」

 

 私は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』のカードを『あいてむぼっくす』にセットしてボタンを押した。

 すると、タブレットに『桁を指定して下さい』と表示される。

 私が一の位を選ぶと、『『♢Q(だいやのくいいん)』様の数字の一の位は『8』です』と表示された。

 

《マシロ様。『こぉる』をどうぞ》

 

 そうね…

 まずは、1回戦でヒミコが使った数字から潰そうかな。

 

「135」

 

『1ひっと 0ぶろぉ』

 

「がぁーーー1個当たったぁ!」

 

 ヒミコは、頭を抱えてわかりやすく悔しがっていた。

 『1ひっと 0ぶろぉ』って…

 この子、前回使った数字を順番を変えずに使ってるっていうの…!?

 そんな事して数字を当てられたらとか…そういうの、考えないの…!?

 

《次は『♢Q(だいやのくいいん)』様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「はぁーい、『♡J(はあとのじゃっく)』使いまぁーす!」

 

 ヒミコは、高らかに宣言しながらカードを『あいてむぼっくす』にセットした。

 しかも、私にカードが見えるように高々と掲げながら。

 

 このタイミングで『(はあと)』を使う事自体は何もおかしくはない。

 むしろ、次で当てられるリスクを考えたら、1回しか使えない『あいてむ』でもなるべく早く使った方がいい。

 それは、わかるんだけど…

 何でわざわざ自分がどの『あいてむ』を引いたかを言うの…!?

 

「はいセットぉー!」

 

 そう言ってヒミコは、勢いよく『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 私が呆然としていると、ヒミコはニヤニヤしながら私に話しかけてくる。

 

「あれれぇ?何で驚いてるの?もしかして、『(はあと)』を使われたら都合が悪い事でもあった?」

 

 ヒミコは、私を挑発するようにニヤニヤした。

 この子…私が『♠︎(すぺえど)』の『あいてむ』を引いた事をわかってて、わざと『(はあと)』の『あいてむ』を見せたんだ。

 『指定した桁の数字を変えられたかもしれない』、そう思わせる事で相手を不安にさせて『げぇむ』を引っ掻き回す。

 それがこの子の狙いだったのね…

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

「んー…そうだなぁ…じゃあ……」

 

 ヒミコは、自分の頬をつついて考えるそぶりをする。

 

「135♡」

 

 ヒミコは、ニッコリと笑って数字を言った。

 私の言った数字と被せてきた…!?

 

「コイツ…数字を被せてきやがった…!!」

 

 ヒミコが『こぉる』をすると、イチローが口を開く。

 

『0ひっと 0ぶろぉ』

 

 ヒミコの『こぉる』が終わると、私達の側のモニターに結果が表示される。

 少なくとも2手目くらいまでは『0ひっと 1ぶろぉ』になると思ってたのに…!

 

「あれれぇ?どうしたのかなぁ?あ、もしかして、ローラー作戦か、前回キミの仲間が使った数字を確認してくると思ってた?私もそこまで馬鹿正直じゃないよ。何でもかんでも自分の思い通りに事が運ぶと思ったら大間違い♪」

 

 そう言ってヒミコは、キャンディーを舐めながら笑った。

 彼女のペースに乗せられちゃいけない。

 『0ひっと 0ぶろぉ』を出されたからって、数字が7個にまで絞られただけ。

 ヒミコが選んだ数字をあと2回見られる私の方が有利なのには変わりない。

 

《2ターン目を開始します。マシロ様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「『あいてむ』を使うわ」

 

 私は、『あいてむ』の使用を宣言して『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 

 どうしよう…

 次は十の位と百の位、どっちを選べば…?

 

 さっきのターンで当てたのは、1か3のどっちか。

 リスクの高さを考えるなら、どちらかと言えば若干3が当たってる可能性が高い…?

 じゃあ百の位を選ぶべきなのかな…

 

 …あ、でもそっか。

 私が『あいてむ』でどの桁を特定したのかがわからない以上、ヒミコは私がさっきのターンで当てた数字を変更した可能性が高い。

 つまり、十の位と百の位、どっちを選んでも、このターンじゃ数字を特定できない。

 

 よし、今回は十の位を選ぼう。

 『♡J(はあとのじゃっく)』を既に使った今、ヒミコはもう数字を変更できない。

 次のターンで百の位がわかれば、数字を当てられるはず…!

 

 私が十の位を選ぶと、『『♢Q(だいやのくいいん)』様の数字の十の位は『6』です』と表示された。

 6、か…

 これで、ヒミコの数字が3じゃない事は確定した。

 

《マシロ様。『こぉる』をどうぞ》

 

 どうしよう…

 一の位の『8』が合ってるかをこのターンで確認した方がいいのかな?

 ヒミコがさっきのターンで一の位を変更した可能性も捨て切れないし…

 

「028」

 

『1ひっと 0ぶろぉ』

 

 私が『こぉる』すると、ヒミコ側のモニターに結果が表示される。

 これで、一の位は『8』だって事と、百の位が『0』じゃない事が確定した。

 百の位が『0』だった場合、例えば最初の数字が『068』で一の位を変更したとすると、1ターン目の私の『こぉる』と矛盾するし、逆に最初の数字が『こぉる』と矛盾しない数字だったとすると、1ターンで1桁しか変更できない『るうる』と矛盾する。

 一の位と十の位が確定したから、次のターンで百の位を特定すれば、私の勝ちが確定する。

 

《次は『♢Q(だいやのくいいん)』様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「はぁーい、その前に、『あいてむ』使いまーす!」

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………は!!?

 

 何で…!?

 もうヒミコは『あいてむ』を使えないはずでしょ!?

 なのに、何で…!

 

「ちょっと待ってよ!あなた、さっきのターンで『♡J(はあとのじゃっく)』を使ったんでしょ!?なのに何でもう一回『あいてむ』を使ってるの!?」

 

「そ、そうだ!『るうる』違反だろ!!」

 

 私がヒミコに抗議すると、イチローも抗議した。

 するとヒミコは、平然とした顔で答える。

 

「ん?別に『るうる』違反じゃないけど?だって私、さっきのターンで『あいてむ』を使ってなかったから♪」

 

「は……?」

 

「私は、『『♡J(はあとのじゃっく)』を使う』って宣言しただけ。ボタンを押して『あいてむ』の使用を実行したわけじゃない。だから私はまだ『あいてむ』を使えるのよ」

 

「嘘よ!だってあなた、さっき…」

 

「アンタは私がボタンを押すところをハッキリと見たの?」

 

「それは…!」

 

「私はボタンを()()()()()()()だけ。実際に押したわけじゃないわ」

 

 言われてみれば、私はヒミコがボタンを押すところをハッキリと見たわけじゃない。

 『あいてむぼっくす』は、セットしたカードが相手に見えないように奥が高くなってて、相手から『あいてむぼっくす』のボタンは見えない。

 『あいてむ』を使う時は宣言しなきゃいけないって『るうる』はあったけど、逆に宣言したら必ず『あいてむ』を使えなんて『るうる』は無かった。

 だからって、ボタンを押したフリをして勝負を急がせるなんて…!

 この子、只者じゃない…!!

 

「差し詰め…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を使って次のターンで私の数字を当てるつもりだったのかな?だったら、『1ひっと』が出るような『こぉる』をしちゃダメじゃん。もっと頭を使って考えなきゃさぁ」

 

 そう言ってヒミコは、私を見下すように笑った。

 さらにヒミコは、私に揺さぶりをかけてくる。

 

「例えば……今回も、さっきのターンみたいに押したフリをしたのかもしれない。さっき私は『♡J(はあとのじゃっく)』って言ったけど、本当は別の『あいてむ』を引いてて、アンタに見せたのは別のカードかもしれない。ただ数字を当てるだけなんてナンセンス。頭を使って相手の行動を何手先も読むのが、この『げぇむ』の面白いところだよ?」

 

 そう言ってヒミコは、不敵に笑った。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

「んー、624」

 

『0ひっと 2ぶろぉ』

 

 ヒミコの『こぉる』が終わり、2ターン目が終了した。

 

《3ターン目を開始します。マシロ様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

 どうしよう…

 次のターンで百の位を当てれば勝てると思ってたのに…

 それすらも読まれてた…しかも、あんなやり方で騙してくるなんて…!

 せっかく2つ数字を絞り込んだのが、全部リセットされた。

 

 また一から数字を絞り込まなきゃいけない。

 でもせっかく数字を絞っても、さっきの『あいてむ』もハッタリで、またさっきみたいに不意打ちでリセットされて、その間に『3ヒット』されるかも…!?

 守備型の『あいてむ』を持ってない私は、ヒミコの『こぉる』を防ぐ手段が無い。

 このターン、私はどうすればいいの…!?

 

「マシロ。ああやって余計な情報を与えて、あなたの判断力を鈍らせるのが彼女の狙いなのよ。落ち着いて考えれば、まだチャンスはあるわ」

 

 私が混乱していると、アンが私を落ち着かせてくれた。

 …そうよ。

 何も別に、私が不利になったわけじゃない。

 数字が特定できてないのは、ヒミコだって同じ。

 落ち着いてやれば、まだ巻き返せる…!

 

「あ、そうそう。何か可哀想だし、入れ替える前の数字を教えてあげる。私が最初に決めた数字は…『168』だよ♪」

 

 私が作戦を考えていると、ヒミコが茶々を入れてくる。

 

「知ってる?『168』って、風水的には最強の数字なんだって。確か中国でも『一路發』と同じ読みで縁起がいい数字って言われてたかな?ま、一種の願掛けだね」

 

「何よそれ…さっき私が『168』を『こぉる』してたら終わりだったのに…!」

 

「だから、勝手にビビって安牌に逃げてくれたじゃん。無駄撃ち覚悟で『こぉる』しとけば良かったのにねぇ」

 

 そう言ってヒミコは、不敵に笑った。

 するとアンが、ヒミコに話しかける。

 

「お喋りが過ぎるわよ。そんなに楽しい?」

 

「んー、楽しいかと言われれば楽しいかな?『♡Q(はあとのくいいん)』だって言ってたでしょ?私達は、病気なのよ♪」

 

 ヒミコは、飴を舐めながらアンを見上げて笑う。

 この子…極端に小さくて、しかも推測されやすい数字を連続で選んできた。

 負けるかもしれないとか、死ぬかもしれないとか、そういうのを全く考えてないんだ。

 彼女も、死の瀬戸際を楽しめる側の人間だというの…?

 まさしく『病気』…これが、『今際の国』の国民の本性…!!

 

「……『あいてむ』を使うわ」

 

 私は、宣言しながら『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 どうせ『あいてむ』を使っても使わなくても推理を邪魔されるなら、使えるものは使えるうちに使う。

 『邪魔されるかも』、なんて考えていつまでも『あいてむ』を使わないんじゃ、この子には勝てない。

 私が残った百の位を選ぶと、『『♢Q(だいやのくいいん)』様の数字の百の位は『1』です』と表示された。

 

 『こぉる』はどうする…?

 新しい数字を言った方がいいのかな?

 …いや、でも、1回戦で使った数字に変更するなんて事、彼女ならやりかねない。

 だったらここは、あえて『356』を『こぉる』しよう。

 これなら、仮に外したとしても、数字を5個まで絞れる。

 

「……356!」

 

『0ひっと 0ぶろぉ』

 

 『0ひっと 0ぶろぉ』…!

 これで決まりね。

 ヒミコが変更したのは、十の位。

 それがわかれば、どんなに運が悪くてもあと3ターンあれば数字を特定できる。

 次に『あいてむ』を使われたとしても、まだチャンスはある。

 

《次は『♢Q(だいやのくいいん)』様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「えー、どうしようかなー…」

 

 ヒミコは、手を組んだまま腕を上に伸ばしながら、次は何の数字を『こぉる』するかを考えていた。

 私はここで、ヒミコに揺さぶりをかけた。

 

「どうしたの?『あいてむ』は使わないの?次で私が『3ひっと』するかもしれないのよ?」

 

「あー、無理して見え透いた嘘つかなくていいよ。数字わかってないのバレバレだから」

 

 私が言うと、ヒミコは飴を舐めながら挑発で返した。

 でも、これでわかった。

 彼女が引いたのは本当に『♡J(はあとのじゃっく)』で、もう数字を変更する事はできない。

 もしヒミコが引いたのは『♡Q(はあとのくいいん)』か『♡K(はあとのきんぐ)』なら、私が最後の『あいてむ』を使って『0ひっと 0ぶろぉ』を出した時点で、数字を変更してくるはず。

 そもそも1ターン目でハッタリをかましたのも、2ターン目で私に揺さぶりをかけてきたのも、数字を1回しか変更できないからこその策でしょうし。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

「んー……709」

 

『0ひっと 1ぶろぉ』

 

 ヒミコが『こぉる』すると、結果が表示される。

 次で2択にまで絞れる私と違って、ヒミコはまだ、私が0、2、4、6、7、9のうちどれか3つを使って数字を作ったって事しかわかってない。

 単純に確率で言えば、私の方が勝つ可能性が高いのは明白。

 この勝負、落ち着いて考えれば勝てるわ…!

 

《4ターン目を開始します。マシロ様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「947」

 

『0ひっと 1ぶろぉ』

 

 私が『こぉる』すると、結果が表示される。

 これでハッキリした。

 ヒミコの数字は、『178』か『198』のどっちか。

 このターンさえ凌げば、次のターンは1/2の確率で勝てる…!!

 

《次は『♢Q(だいやのくいいん)』様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「えー、どーしよっかなぁー。まあでもまだお互い『0ひっと 1ぶろぉ』だし、焦らず考えれば何とかなるっしょ」

 

 この子…

 私がもう既にリーチかけてるのに気付いてない…?

 

「さーてと、ストレッチでもしながらゆっくり考えよ〜っと。ラジオ体操第一〜♪」

 

 そう言ってヒミコは、その場で軽くストレッチを始めた。

 この状況で何やってんのこの子…?

 焦らなきゃいけない状況だって事、わかってないの?

 この余裕は何…?

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

 残り時間が10秒になると、アナウンスが流れる。

 すると、さっきまでふざけていたヒミコが急に真顔になる。

 

「……よし。決めた」

 

 ヒミコは、真顔のまま卓上マイクに顔を近づけて、マイクのスイッチを押しながら口を開く。

 

 

 

「472」

 

 …………。

 

 …………。

 

 ………は!!?

 

『3ひっと』

 

《ここで『3ひっと』が出ました。勝者、『♢Q(だいやのくいいん)』様》

 

 うそ、うそうそうそうそうそうそうそうそうそ!!?

 何で!?

 さっきまで『0ひっと』しか出してなかったのに…

 何で急にピッタリ数字を当ててきたわけ!?

 

「うしゃしゃしゃしゃ!!マジで『472』じゃん!ほんとケッサクなんだけど!はぁ〜お腹痛い!」

 

 ヒミコは、右手でテーブルをバンバン叩いて左手でお腹を抱えながら、ゲラゲラと下品な笑い方をしていた。

 私は、身を乗り出してヒミコを問い詰めた。

 あり得ない…こんなの、あり得ないわ!

 

「ちょ…ちょっと待ってよ!!あなた、さっきまで『0ひっと』だったじゃない!!なのに何でいきなり当ててきたりなんか…!?」

 

「はぁ〜…あのね、違うんだよ。私、本当は1ターン目の時点でキミの数字をいくつか絞ってたの。でもキミを油断させる為に、『こぉる』する時わざと『0ひっと』になるような数字を選んでたわけ。ドゥーユーアンダースタァンド?」

 

「1ターン目って…あり得ない…!!どうやって私の数字を特定したっていうの!?」

 

 ヒミコが言うと、私はさらにヒミコを問い詰めた。

 絶対に1発で特定されない数字を選んだのに…

 1ターン目から特定してたなんて…そんなはずないわ!

 イカサマでもしなきゃ、『3ひっと』なんかできるわけがない!!

 

 私が問い詰めると、ヒミコははぁっと深いため息をついて、私を冷めた目で見てきた。

 ヒミコは、失望の表情を浮かべながら、腕を組んで話し始める。

 

「あーあ。中途半端に頭の回るバカってさぁ…何でもかんでも理屈で語りたがるよね。自分の物差しでしか世界を測れないから、理解できないものを無理矢理こじつけて自分の理論の範囲内に押し込めようとするのです。それがどんなに傲慢で低俗な事かを自覚できない、バカの中でも最悪の部類のバカ。そういう大人にはなりたくないものです」

 

 ヒミコは、真顔で私を見ながらそう言った。

 まるで実物を見てきたかのような口ぶりだけど…

 そうやって話を逸らされて、納得できるわけがない。

 私がヒミコを睨むと、ヒミコはため息をつきながら椅子から立ち上がる。

 

「しょーがないなぁ…どうやって数字を当てたか言えばいいんでしょ?いいよ、教えたげる。どうせバカには真似できないだろうし」

 

 ヒミコは、椅子から立ち上がると、そのままテーブルの上に片膝を乗せて登る。

 テーブルの上で四つん這いになったヒミコは、四つん這いのままゆっくりと私の方へと歩いてくる。

 

「じゃあまず、キミの筋書きを説明してあげようか。キミは、私が初手でローラー作戦か、1回戦で使った数字の確認をしてくると考えた。ローラー作戦を想定するなら、0とか9みたいに極端な数字とか、連続した数字は避けたいよね。あと、まあ1回戦で使った数字を一応確認するっていうのもやりがちな手。だったら1回戦の数字を全部使うのもヨクナイね。かといって、1回戦の数字を1個も使わなかったら、『0ひっと 0ぶろぉ』が出て数字が特定されやすくなっちゃうぞ〜?そうだ!じゃあ1回戦の数字を1個だけ使おう!…とまあ、こんなところ?」

 

「……………」

 

「それじゃ次は、ローラー作戦対策しとこっか。数字を012、345、678に区切る場合と123、456、789に区切る場合、2種類考えられるけど…どっちの分け方をしても共通してる『1と2』、『4と5』、『7と8』。この中から1個ずつ数字を抜き出しておけばいいよね。でも『157』と『248』の組み合わせは、偶数か奇数に偏っちゃってるから、偶数と奇数はちゃんと混ぜ混ぜしておこうね。となると、『148』か『247』になるわけだけど…大きすぎても小さすぎても怖いから、出来るだけ真ん中に近い数字になるように並び替えてみよう!いくつになったかな?『472』と『481』だね!それじゃ、まずは試しに1が入った数字を『こぉる』してみよ〜っと」

 

「………っ」

 

「あれれ〜?おっかしいぞ〜?『0ひっと 0ぶろぉ』になっちゃった!じゃあもう『472』で決まりだね!」

 

 気がつけば、ヒミコは私の眼前まで迫っていた。

 ヒミコは、咥えていた飴の棒を私の喉に突きつけながら無邪気に笑った。

 

「Q.E.D. キャハッ☆」

 

 ヒミコは、数字を決める時の私の思考をほとんど完全に再現してみせた。

 全部、読まれてたんだ……

 私がローラー作戦と1回戦の数字の確認の対策をする事は。

 

「負けたくないからって無難な数字に逃げすぎ。ノーリスクでこの『♢Q(だいやのくいいん)』様に勝とうなんて、百那由他年早いぞっ。ざぁこ♡」

 

 ヒミコは、不敵な笑みを浮かべながら私の耳元で囁いた。

 ヒミコに筋書きを聞かされた私は、腑に落ちるどころか余計に混乱していた。

 

「尚更わからないわよ…!そこまでわかってたなら、どうして2ターン目でトドメを刺さなかったの…!?私が『♠︎(すぺえど)』の『あいてむ』で先にあなたの数字を特定してたかもしれないのよ!?」

 

 私は、ヒミコに疑問を投げかけた。

 1ターン目の時点で既に私の数字がわかっていたなら、2ターン目で私の数字を『こぉる』すればよかったはず。

 なのにヒミコは、それをしなかった。

 その事を疑問に思っていると、ヒミコはニヤリと笑ってから答える。

 

「だって、その方が面白そうだったから」

 

「は……?」

 

「せっかく『♠︎(すぺえど)』の『あいてむ』で数字を特定したのに、それを『(はあと)』の『あいてむ』で台無しにされて、それでも自力で頑張ってリーチをかけたのに、すんでのところで『3ひっと』されて負ける絶望。自信満々の筋書きを全部読まれてたと知った時の絶望…格の違いを思い知る絶望!ああっ、何て快感!!お姉さん達の絶望顔は、『げぇむ』を楽しくする最高のスパイスなの!!」

 

 ヒミコは、両腕を両手で掴んで、恍惚とした表情を浮かべながら言った。

 口の端から涎を垂らし、顔は微かに紅潮している。

 完全に、クスリか何かをキメてる人のそれだった。

 

 この子、どうかしてるわ…

 私の数字を読んでいただけじゃない。

 私がどの程度ヒミコの数字を把握していたかも、ヒミコに負ける直前に私がリーチをかけていた事も、ヒミコは全部お見通しだった。

 格の違いを見せつけて、私達により強い絶望を植え付ける為だけに、わざと苦戦してるふりをして私を泳がせた。

 

 私だけじゃない。

 皆も、そんなヒミコを見て引いていた。

 

「そんな…自分が楽しむ為だけに、リスクを冒してまで勝負を引き延ばしたっていうの…!?」

 

「イカレてやがる…!!」

 

「彼女に正当性や常識を求めてはいけないわ。彼女も、このふざけた『げぇむ』を仕切っている側の人間なのよ。まともな神経でこんな悪趣味な『げぇむ』を仕掛ける事なんてできっこない。…もっとも、あの子は『今際の国』の国民の中でも、その()が特に濃いようだけど」

 

 皆が引いている中、アンだけは冷静にヒミコを見据えていた。

 私達は、何もわかっていなかった。

 人の心を狂わせる、『今際の国』の恐ろしさを。

 ヒミコは、幼くして()()()()の人間になってしまった。

 『今際の国』に来ておかしくなってしまったのか、元々その素質があったのかはわからない。

 だけど、これだけはわかる。

 彼女はもう、戻れないところまで行ってしまった。

 

「ごめんなさい、皆…私…」

 

「気にすんな。引き分けになっただけだ。オレ達で必ず勝つさ」

 

 私が皆のところに戻ると、イチローが私を励ましてくれた。

 するとテーブルに座っていたヒミコが、両手の拳を握りながら話しかけてくる。

 

「うんうん、その意気その意気!皆、もっと頑張って!頭を使って!私を楽しませてちょうだい!アッハハハハハハハ!!」

 

 ヒミコは、両腕でお腹を抱えながら大笑いした。

 私達は、興奮しているヒミコを呆然と眺める事しかできなかった。

 

 2回戦は、ヒミコに負けてしまった。

 次は3回戦…

 次も負ければ、私達はもう後がなくなってしまう。

 皆、どうか私の無念を晴らして…!

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

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  • 原作通り20人で進める
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