Hedgehog in Borderland   作:M.T.

35 / 90
だいやのくいいん(3)

クリハラside

 

 2回戦は、ヒミコの勝ちで終わった。

 これで、1勝1敗。

 次は勝っておきたいところだが…

 

《5分後に3回戦を始めます。『ぷれいやぁ』チームは、次の選手を決めて下さい》

 

 3回戦前の作戦タイムが始まると、ヒミコはランドセルから今度は真っ白なパズルを取り出して解き始めたかと思うと、アンをしばらくじっと見つめてから、急にアンに話しかけてくる。

 

「ねぇ、サングラスのお姉さん。あなた、お名前は?」

 

「安梨鶴奈。アンよ」

 

「じゃあアン。あなた、元の世界で何してた人?」

 

 ヒミコは、真っ白なパズルを解きながら、アンに尋ねる。

 するとアンは、少し間を置いてから答えた。

 

「…それ、『ビーチ』にいた頃クイナにも聞かれたわね。警視庁刑事部鑑識課、指紋鑑定官よ」

 

「ふぅん。そっかぁ。…もしかして、『♡K(はあとのきんぐ)』が言ってた、カワイイ『♡10(はあとのじゅう)』の『げぇむ』に水を差した邪魔者って…あなたの事?」

 

「邪魔者っていうのが何を指しているのかはわからないけど…凶器の指紋を採取して『まじょ』を見つけたのは私よ」

 

「やっぱり。だったら、尚更ここで倒しておかなくちゃね。『♡Q(はあとのくいいん)』と『♡K(はあとのきんぐ)』が残念がってたよ。せっかく生存者皆無の素晴らしい『げぇむ』になるところだったのにって」

 

 そう言ってヒミコは、パズルのピースをはめながら、アンを真顔で見据える。

 ヒミコがアンに向けた目は、本物の人殺しの目だった。

 普通の人間が人を殺そうとする時、その目には恐怖や罪悪感が宿る。

 それはどんなにうまく誤魔化したって、簡単に消えるものじゃない。

 

 だがごく稀に、恐怖や罪悪感が全く目に宿らない奴がいる。

 ソイツらの目に宿るのは、静かに燃える殺意。

 遺伝子のレベルで刻み込まれた、純然たる狂気。

 ヒミコも、紛う事なき“病人”だ。

 

「そんな事はどうだっていいわ。あなたには、聞かなきゃいけない事が山ほどあるわ。アサヒとモモカは、一体何者だったの?どうして彼女達は、死ななければならなかったの?あなた達は一体、何の目的で『げぇむ』をしているの?」

 

「そんな事知ってどうするの?」

 

「あの『げぇむ』で、多くの仲間を失った。アサヒとモモカだって、短い付き合いだったけど、私達の仲間だったのよ。『答え』も知らないまま私達が死んだら、あの日犠牲になった皆が浮かばれない」

 

 そう言ってアンもまた、強い目でヒミコを見据えた。

 するとヒミコは、馬鹿にしたようにハンッと鼻で笑いながら口を開く。

 

「…で?」

 

 ヒミコは、アンの質問を嘲笑で返した。

 

「『♡Q(はあとのくいいん)』だって言ってたでしょ?『答え』を求めるのなんてやめなさいって。キミ達はただただ、運が悪かった。はい終わり」

 

 そう言ってヒミコは、強引に話を終わらせようとする。

 だが、アンは一歩も引き下がらない。

 強情なアンを見て観念したのか、ヒミコはため息をつく。

 

「…しょうがないなぁ。じゃあ、1個だけ質問に答えてあげる。さっきは思ったより楽しませてもらったしね。アサヒとモモカだっけ?あの子達はね、『でぃいらぁ』だったのよ♪」

 

「『でぃいらぁ』…!?」

 

「昨日の会見で『♣︎K(くらぶのきんぐ)』が言ってた奴等の事か…!」

 

「そ。この国には、2種類の滞在者がいるの。『げぇむ』の『くりあ』を目指すあなた達『ぷれいやぁ』と、『げぇむ』を仕掛ける側の人間…『でぃいらぁ』。彼女達は、『でぃいらぁ』としてこの国に迷い込んだの」

 

 そう言ってヒミコは、細長い飴を噛んでポキっと折った。

 

「『ぷれいやぁ』を全員『げぇむおおばぁ』にすれば『でぃいらぁ』の勝ち。『ぷれいやぁ』が絵札以外の全種類の『げぇむ』を『くりあ』すれば、『でぃいらぁ』の負け。負けた『でぃいらぁ』は全員殺処分。そういう『るうる』だったのよ。まあ、そもそも『でぃいらぁ』は、担当してる『げぇむ』で『ぷれいやぁ』を殺さないと『びざ』を獲得できないから、どのみち『ぷれいやぁ』を『げぇむおおばぁ』にするしかこの国で生き残る道はなかったんだけどね」

 

「何だよそれ…?『でぃいらぁ』にも『びざ』があんのかよ!?」

 

「当たり前でしょ?『びざ』が獲得できなきゃ、この国から排除される。それは『ぷれいやぁ』も『でぃいらぁ』も同じなの。あなた達が『びざ』を獲得する条件が『げぇむくりあ』なら、『でぃいらぁ』が『びざ』を獲得する条件は、担当の『げぇむ』で『ぷれいやぁ』を全員『げぇむおおばぁ』にする事。『でぃいらぁ』は、殺した『ぷれいやぁ』の数だけ『びざ』を獲得できる代わりに、一人でも『げぇむくりあ』されたら即『びざ』切れ。アイツらも、自分が生き残る為に必死だったのよ」

 

 何だよそれ…

 『特に理由はない』とか、『人殺しが好きな奴が自ら志願して『でぃいらぁ』になった』とか、そんな理由だったらどんなにマシだったか…!!

 あの二人も生き残る為に俺達を殺そうとしてたって…そんなの、あんまりじゃねぇかよ!!

 

 …ちょっと待て。

 『ぷれいやぁ』が『げぇむくりあ』すれば『でぃいらぁ』は死ぬ…

 まさか、俺が『♢9(だいやのきゅう)』で死なせたアユミも、『でぃいらぁ』だったのか…?

 

「ちなみに『まじょがり』は、『でぃいらぁ』のうちの一人が自殺する事でしか始まらない『げぇむ』だったの。『まじょがり』が始まらなきゃ、世田谷支部の『でぃいらぁ』が全員死ぬだけだったから…モモカは、アサヒを生き残らせる為には自分が死ぬしかなかったってわけ」

 

「そんな…」

 

 ヒミコがネタバラシをすると、クロエがショックを受ける。

 モモカは、アサヒを生かす為に自殺をした。

 あの二人も、『げぇむ』に踊らされた挙句若くして命を落とした、紛れもない被害者だ。

 そんなのが、真実であっていいはずがない。

 

「ちょっと待ってよ…!だったらどうしてアサヒは死んだの!?『びざ』はまだ残ってたはずでしょ!?」

 

 今度は、マシロがヒミコに尋ねる。

 するとヒミコは、俺達を見上げてクイっと口角を上げながら話し始める。

 

「ああ、アレね。『でぃいらぁ』は、自分の存在を『ぷれいやぁ』に知らせればこの世界から排除されるの。口頭だろうが暗号だろうが、正体をバラそうとする意思を実行に移せばレーザーで撃たれる。ま、約束を守らなかったんだから自業自得だよね♪」

 

 そう言ってヒミコは、無邪気に笑った。

 コイツは、人が死ぬ事なんて何とも思っちゃいない。

 そんなヒミコを見て、アンは何かを諦めたようにため息をついてから言い放つ。

 

「…もういいわ。聞きたい事はまだ残ってるのよ」

 

「はいはい、もうおしまい。質問に答えるのは1個だけって話だったでしょ?そんな事より、次の試合は誰が出るの?もうすぐ3回戦なんだけど」

 

 アンがヒミコに『答え』を聞こうとすると、ヒミコは手を叩いて強引に話を終わらせた。

 『答え』をはぐらかそうとするヒミコに少しイラっときたが、今は『げぇむ』に勝つ事を第一に考えねぇと。

 

「次はオレが行く」

 

 そう言ってイチローが前に出た。

 するとヒミコは、頬杖をついてニヤニヤ笑う。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

イチローside

 

 俺は、ヒミコの反対側の席に座って、数字をセットした。

 俺が選んだ数字は『214』。

 前に謙介と一緒にやった格ゲーでよく使ったコマンドが由来の数字だ。

 知ってる奴には簡単に予測されちまう数字ではあるが、予測されにくい数字を狙いすぎると逆にさっきみたいに狙い撃ちされちまう。

 勝負に勝つには、もう安全な数字を選んでる場合じゃねぇ。

 だったら俺は、多少危ない橋を渡りに行く。

 

 ヒミコが『あいてむ』を決めた後、俺も『あいてむ』を引いた。

 俺が引いた『あいてむ』は…『♡Q(はあとのくいいん)』か。

 つまり、数字を2回まで入れ替える事ができる。

 さっきヒミコがしてきたように、俺もこの『あいてむ』を有効活用して、ヒミコの攻撃を躱さねぇと。

 

 俺が『あいてむ』を引くと、ヒミコがニヤリと笑う。

 わざとリアクションをしてまた揺さぶりをかける気か。

 

《時間になりました。先攻の『♢Q(だいやのくいいん)』様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「その前に、『あいてむ』を使うわ」

 

 そう言ってヒミコは、『あいてむ』を『あいてむぼっくす』にセットしてボタンを押した。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様、質問をどうぞ》

 

「それじゃあ〜…キミは何の数字を選んだの?」

 

 『あいてむ』をセットしたヒミコは、俺に質問してくる。

 コイツ…『(だいや)』を引いたのか。

 ここで正直に答えたら『3ひっと』されちまうし、適当な数字言っておくか。

 

《イチロー様。質問にお答えください》

 

 ヒミコが質問すると、俺のタブレットにタイマーが表示される。

 タイマーが0になる前に質問に答えろって事か。

 

「602」

 

 俺は、ヒミコの質問に答えた。

 するとヒミコは、ニヤッと笑ってから口を開く。

 

「おっけー、602ね。それじゃ、一応確認しとくか」

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

 アナウンスがヒミコの『こぉる』を催促してくると、ヒミコは卓上マイクのスイッチを入れて『こぉる』をする。

 

「602」

 

『0ひっと 1ぶろぉ』

 

「あれ!?数字違うじゃん!お兄さんの嘘つき!」

 

 『ぷれいやぁ』チームのモニターに結果が表示されると、ヒミコがキッと俺を睨んでくる。

 さらにヒミコは、わざとらしく嘘泣きをしてきた。

 

「嘘ついてヒミコの事殺そうとするなんて…ひどいよぉ…ぐすっ…えぐっ…」

 

 何なんだコイツ…

 こんなわかりやすい嘘泣きに騙される奴がいると思ってんのか?

 俺が呆れていると、嘘泣きをしていたヒミコは、両手で顔を覆い隠したままポツリと呟く。

 

「…お兄さんはもう、ダメだね」

 

「は?」

 

「知らないの?嘘つきは泥棒の始まりなんだよ」

 

 いや、それを言うなら、2回戦でハッタリかましたお前も人の事言えねぇんじゃ…

 なんて思っていると、ヒミコは、ニヤリと不気味な笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「断言してあげる。この試合、お兄さんが自滅する」

 

「は……?」

 

 俺が自滅するだと…?

 コイツ、何を根拠にそんな事言ってんだ?

 

《次はイチロー様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

 次は俺のターンか…

 『あいてむ』は今のうちに使っておくか。

 いつ使えなくなるかわかんねぇしな。

 

「じゃあこっちも『あいてむ』を使うぜ」

 

 俺は、『♡Q(はあとのくいいん)』のカードを『あいてむぼっくす』にセットしてボタンを押した。

 すると、タブレットに『桁を指定して下さい』と表示される。

 俺が一の位を指定すると、0から9のボタンがモニターに表示された。

 俺が6のボタンを押すと、数字が『214』から『216』に変更された。

 

《イチロー様。『こぉる』をどうぞ》

 

「168」

 

 そうだな…

 とりあえず、まずはさっきの試合で使った数字を確認しておくか。

 

『0ひっと 2ぶろぉ』

 

 コイツ…

 やっぱり、さっきの試合の数字に寄せてきたか。

 さっきの試合も、1桁目を1回戦と同じにしてきやがってよ。

 どう考えても死にたがりとしか思えない、自殺行為。

 そんな事して、俺が引いたのが『♠︎(すぺえど)』だったら、すぐに数字を当てられてたかもしれねぇってのに…

 このガキ、やっぱり頭のネジ何本かぶっ飛んでんな。

 

 ヒミコは、戸惑う俺を見て、ニヤニヤと笑っていた。

 これで、1ターン目は終わりだ。

 

《2ターン目を開始します。『♢Q(だいやのくいいん)』様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

 アナウンスが鳴ると、ヒミコは、頬杖をついてタブレットを眺めながら俺に尋ねる。

 

「ねぇ、お兄さん。誕生日って何月何日?」

 

「言っておくけど、誕生日じゃねぇぞ」

 

「何よ、誕生日聞いただけじゃん!」

 

 ヒミコは逆ギレしながら両手でドンっとテーブルを叩いた。

 いや、そんなマジになってキレられても。

 

「じゃあさっきの質問使って聞いときゃ良かったろ。『あいてむ』使って質問してねぇんだから、答える義理はねぇぞ」

 

「ケチ!」

 

 俺がヒミコに反論すると、ヒミコは『いーっ』と口を横に開いてべっと舌を出しながら俺を睨んだ。

 だが俺が質問に答えない事がわかると、ようやく諦めがついたのか、『あいてむ』の使用を宣言する。

 

「…わかったよ。それじゃ、『あいてむ』使いまーす」

 

 ヒミコは、『あいてむ』の使用を宣言してから『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様、質問をどうぞ》

 

「んー…じゃあ、お兄さんが最初に選んだのは、お兄さんの好きなものに関係する数字?」

 

 『好きなものに関する数字』…か。

 なかなか核心をついた質問じゃねぇか。

 コイツ、地頭の良さだけじゃなくて勘の良さもずば抜けてんな。

 格ゲーが好きだったのは謙介だが、俺もよく一緒にやってたからな。

 答えは『はい』でいいだろ。

 

「答えは…『はい』だ」

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様。『こぉる』をどうぞ》

 

「お兄さんが好きなものに関する数字…何だろうなぁ。562?…違うな。319でも349でもないし、301、501、701、901は違うかな?……じゃあ136?それか216?036と153と306は違うから〜…018、816のどっちか?108かもしれないし…643かもしれない。うーん……」

 

 ヒミコは、顎に手を当てながらブツブツと言い、思いついた数字をわざと口に出して言った。

 コイツ…俺の反応を見て数字を当てようとしてんのか?

 『好きなもの』の定義なんか人それぞれだし、こんなガキに俺の好きなものに関係する数字なんか当てられるはずがない。

 質問の内容自体は核心を突いてるが、それで『3ひっと』を出すのなんかほぼ不可能だ。

 

「ダメだ〜、大人の趣味なんて、私にはサッパリ」

 

 そう言ってヒミコは、ため息をつきながら椅子の背もたれにもたれかかる。

 

 コイツ…何が『大人の趣味はサッパリ』だ。

 大人の趣味色々知ってんじゃねぇか。

 

 562は語呂合わせで『ゴルフ』って読めるし、319と349はパチンコ由来だ。

 301、501、701、901の4つはダーツのゼロワン。

 136は麻雀の牌の数。

 018、036、153、306、816は競馬の当たる確率。

 216、108、643は野球由来だ。

 

 実際、ヒミコが言った数字の中には、俺が選ぶかどうしようか迷った数字もいくつかあったし。

 つーか俺、さっきのターンで『214』から『216』に変えちまったから、野球由来で『216!』とか『こぉる』されたらヤベェぞこれ。

 怪しい数字を羅列して俺の反応を窺うヒミコだったが、ようやく諦めたのか、唸り声を上げながら頭を掻く。

 

《10秒前》

 

「…あーもう、考えてもわかんないし、ここは思い切って勘でいってみるか」

 

 そう言ってヒミコは、卓上マイクのスイッチを入れて『こぉる』をする。

 

「128」

 

『0ひっと 2ぶろぉ』

 

「あー、ハズレか。ワンチャンいけると思ったんだけどな」

 

 そう言ってヒミコは、大きくため息をつく。

 

 128…?

 そんな数字、一体どこから…

 

 …待てよ?

 『128』…って、ビット数か…?

 コイツ、まさか…俺の数字がコンピュータゲーム由来だって事に気付いたんじゃねぇだろうな…!?

 いや…俺がゲーム由来の数字を使う事を予測するなんて、どう考えても不可能だ。

 流石に今のはたまたまだろ。

 大体、ゲームが由来だってわかったからって、それがコマンドだって一発で見抜いてきたり…しねぇよな?

 

《次はイチロー様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「『あいてむ』を使うぜ」

 

 俺は、『あいてむ』の使用を宣言して『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 俺が『あいてむ』を使えるのは、これで最後だ。

 どうする……?

 最初は『あいてむ』を2回使って『214』を『236』にするつもりだったが、やっぱり連番は危険か…?

 かといって、ビビって安全な数字に逃げたら、それこそヒミコに当てられやすくなっちまう。

 ブッ飛んだ奴に勝つには、退くわけにはいかねぇ。

 

 俺が十の位を選んで『3』を選択すると、数字が『216』から『236』に変更される。

 もうこれで俺は、数字を変更できない。

 

《イチロー様。『こぉる』をどうぞ》

 

 どうする…?

 さっきとは違う数字を『こぉる』した方がいいのか?

 さっき『2ぶろぉ』が出たから、違う数字で『1ぶろぉ』が出れば数字を6個にまで絞れるよな?

 …よし。

 どの数字を選んだかわかんねぇし、とりあえず2回戦の数字を潰しとくか。

 

「472」

 

『1ひっと 0ぶろぉ』

 

 『1ひっと』…!?

 せいぜい『0ひっと 1ぶろぉ』だと思ってたよ。

 コイツ、わざと当てられやすい数字を選んで俺達を弄んでんのか…!?

 

「あー、1個当てられちゃったか。でもまあもうすぐこの試合終わるだろうし、私の数字のヒントを教えてあげる。私はねぇ、6月生まれだよ♪」

 

 そう言ってヒミコは、俺の顔を見てニヤニヤ笑う。

 コイツ、自分の誕生日をそのまま数字にしてたのか。

 だから俺に、誕生日はいつかを聞いてきたのか。

 舐めやがって…

 

 …いや、それすらも、俺を混乱させる為の罠かもしれない。

 誕生月が嘘かもしれないし、そもそも誕生日由来だってのも嘘かもしれない。

 安易にコイツの言葉を鵜呑みにしない方がいい。

 

 俺の『こぉる』が終わると、2ターン目が終わった。

 次は3ターン目…

 ヒミコはどう攻めてくる気だ?

 

《3ターン目を開始します。『♢Q(だいやのくいいん)』様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

 3ターン目が始まると、ヒミコは俺の方を見てクスクス笑う。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「断言してあげる。お兄さんは、このターンで自滅するよ」

 

「は?」

 

 俺が自滅するだと…?

 さっきもそんな事を言ってたが、コイツ、何を根拠にそんな事を…

 俺がヒミコを警戒していると、ヒミコはニコッと笑って言った。

 

「まあ、見てればわかるよ。『あいてむ』を使うわ」

 

 ヒミコは、『あいてむ』の使用を宣言してから『あいてむぼっくす』のボタンを押した。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様、質問をどうぞ》

 

 ヒミコは顔の前で手を組みながら、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「この質問に『いいえ』と答える?」

 

「は?何だその質問」

 

 そんな質問で俺が自滅するわけ…

 

 

 

「…あぁっ!!」

 

 クッソ、この質問、『はい』って答えても『いいえ』って答えても嘘ついた事になっちまう!!

 『(だいや)』の『あいてむ』を使った質問への回答には、『1回だけ嘘をつく事ができる』って『るうる』があった。

 逆に言えば、2回以上嘘をついたら失格って事になる。

 2択の質問には、『はい』か『いいえ』しか答えちゃいけないって『るうる』があるし、かといって制限時間内に答えを言わなかったら失格になる。

 このガキ…!!

 『あいてむ』の『るうる』を利用してきやがった…!

 こんな勝ち方アリかよ!?

 

「ぅぐ……答えは、『いいえ』だ…!」

 

 俺が回答すると、卓上のランプが赤く光り、『ブーッ!』とブザーが鳴る。

 

《『るうる』違反が確認されました。よって、イチロー様は失格。勝者、『♢Q(だいやのくいいん)』様》

 

 俺が失格負けすると、ヒミコはバカにしたようにクスクスと笑ってきた。

 

「あーあ、お兄さんが嘘つくからだよ。言ったよね?『嘘つきは泥棒の始まり』だって」

 

「クッソォ…!!」

 

 ヒミコが笑うと、俺は悔しさのあまり歯を食いしばる。

 今回の負けは、完全に俺のミスだ。

 『あいてむ』の『るうる』を利用するなんて、完全に盲点だった。

 

「これでわかったでしょ?私とキミ達じゃ、『格』が違うの。出直してらっしゃい?おバカちゃん♡」

 

 ヒミコは、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んで煽りに煽ってきた。

 俺が悔しさのあまり俯くと、ヒミコは吹き出して大笑いする。

 

「ぷっ!!ぎゃはははははは!!あっははははははははは!!!」

 

 ヒミコは、腹を抱えて下品な笑い方をした。

 これで俺達のチームは1勝2敗。

 あと一回でも負ければ、『げぇむおおばぁ』になっちまう。

 俺にはもう、ヒミコに勝つ方法が思いつかねぇ。

 どうすれば……?

 

 

 

「おい。いい加減にしろよクソガキ」

 

 俺が頭を抱えていたその時、クリハラが前に出た。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 3回戦は、ヒミコが勝った。

 これで俺達は1勝2敗。

 もう後がない。

 ()()()()()

 ヒミコの戦法は別に卑怯でも何でもないし、イチローに関しちゃただ運が悪かっただけだ。

 ヒミコに抗議するつもりも、負けたイチローを責めるつもりもない。

 

 だがこのメスガキは、()()()()()()()()()()()()をやりやがった。

 命を懸けて勝負に挑んだ俺の仲間(マシロとイチロー)を侮辱しやがった。

 俺がバカにされんのはいい。

 実際、俺はバカだからよ。

 

 だが、相手が女だろうと子供だろうと、一生懸命戦ってる仲間を侮辱する奴だけは絶対に許さねぇ。

 俺は、ヒミコを睨みながら言い放つ。

 

「黙って聞いてりゃ、さっきからオレの仲間をバカにしやがって。人を見下すのがそんなに楽しいか?」

 

「は?何よアンタ。いきなりキレたりなんかして。もしかして、もう後がなくなったからって八つ当たり?」

 

 俺が言うと、ヒミコは俺をバカにしたように笑う。

 決めた。

 コイツの事は、俺が完膚なきまでに叩きのめしてやる。

 ガキだからって何してもいいと思ったら大間違いだって事を、腐れ切った性根に叩き込んでやる。

 

「お前の事は絶対にオレとアンが倒す。後で謝ったって、命乞いしたって、許さねぇからな」

 

「はぁー?許さない?何それ、ウケる。そもそも勝者しか生き残れない『るうる』だし…というかアンタ達みたいな凡愚が私に勝つとか、太陽が西から昇って東に沈むくらいあり得ないんですけど?」

 

 俺がヒミコに言い放つと、ヒミコは俺を見下してゲラゲラと笑った。

 するとアンも、ヒミコに言い放つ。

 

「…本当に、可哀想」

 

「………は?」

 

 アンが言い放つと、さっきまでバカにしたように笑っていたヒミコは、急に真顔になる。

 急に嘲笑うのをやめたヒミコに対し、アンは表情ひとつ変えずに言い放った。

 

「それだけの知能を持っているなら、人の幸福の為にその頭脳を活かす事だってできたはずでしょう?なのにあなたときたら、人を見下して、気に入らない人間を排除して、こんなくだらない『げぇむ』の為だけに才能を無駄遣いして…なんて、孤独で哀れなの。どうしてその才能を、人の為に使おうとは考えなかったのかしら?」

 

 アンは、腕を組んだままヒミコに尋ねた。

 アンの言う通り、ヒミコの知能はかなりのものだ。

 少なくとも地頭の良さだけなら、俺が生涯で出会った奴の中でも5本の指に入る。

 それだけの知能を、人を救ける為に使わなかった事が残念でならないが、人を救ける事に興味が無かった、と言ってしまえばそれまでだ。

 俺も、先輩に出会うまではそうだったからな。

 孤独で哀れだとは思うが、別に人を救ける為に才能を使えと強制するつもりはない。

 人を救けるのが嫌なら、哲学に思考を費やしたりこの世の真理なんかを解き明かしたりして、自由気ままに生きていればいい。

 だが少なくとも、人を傷つける為にその才能を使う奴とだけは、到底分かり合えないし分かりたくもない。

 

 アンが尋ねると、ヒミコは不機嫌そうに口を開いた。

 

« Ta gueule.(黙れ。) Tu me casses les pieds, une salope.(ウゼェんだよ、クソ女。)»

 

 ヒミコは、フランス語の、ネイティブですらそう軽々しく使わない下品なスラングでアンを罵倒した。

 あまりの口の汚さに、俺もアンも思わず顔を引き攣らせる。

 

「フランス語…!?」

 

「何て言ってるの…?」

 

 ヒミコがいきなりフランス語で罵倒をすると、俺とアン以外の3人が困惑する。

 自分の言葉を理解できない奴には、自分の事を知る資格もないって事か。

 どこまでも選民思想が好きらしいな、このクソガキは。

 

« 仲間とか、人の為とか、本当にくだらない。群れるしか能のない馬鹿にはお似合いでしょうけど。 »

 

 このガキ…隙あらば語学マウントかよ。

 

「どうしてそこまで人を見下すんだ?」

 

« アンタ達に話す事なんか何も無い。どうせ私の事は私しか理解できない。私のレベルについてこれない凡愚どもは、いつも私を苦しめる。本来なら使い捨てられて然るべきの、愚民のくせに! »

 

 早口で捲し立てられて、流石に何言ってるのかわからなくなってきたのか、アンは俺に耳打ちしてくる。

 

「……何て言ってるかわかる?」

 

「いちいち相手にしなくていい。友達いなくてぼっちだったクソガキが愚痴こぼしてるだけだ」

 

 アンが訊いてくると、唯一クソガキ(ヒミコ)の言葉を聞き取れた俺は、クソガキの愚痴を翻訳せずに俺が率直に思った事をアンに伝えた。

 こんな罵詈雑言、アンに聴かせるのも不愉快だ。

 

「どいつもこいつも、知能の低い家畜のくせに…!!アンタ達に、私が元の世界でどれだけ苦しんできたか、わかるわけないじゃない!!」

 

 とうとう感情のボルテージが最高潮に達したのか、ヒミコはとうとう語学マウントをやめて激昂した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒミコside

 

 ――お前なんか、生まれてこなきゃ良かったんだ!!

 

 私は、仲間だの人の為だのとくだらない事をほざいてくる愚民共に向かって激昂した。

 普通に生きてきただけのくせに。

 信じてた人にある日いきなり裏切られて、殺されかけた事なんかないくせに。

 

 どうせ能無し共には、私の事なんか理解できない。

 だったらもう、理解しなくていい。

 私はもう、私しか信じないって決めたから。

 あの日から……!

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。