Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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だいやのくいいん(5)

クリハラside

 

 『げぇむ』『ひっとあんどぶろぉ』。

 難易度『♢Q(だいやのくいいん)』。

 

 0〜9の数字のうち、異なる数字を1回ずつ使って3桁の数字を作り、作った数字を当て合う。

 数字の種類と桁が一致していた場合は『ひっと』、種類が一致し桁が異なる場合は『ぶろぉ』となる。

 先に数字を当てた方が勝ち。

 

 『ぷれいやぁ』が一人一回ずつ『♢Q(だいやのくいいん)』と対戦し、最終的に勝ち数の多い方が『げぇむくりあ』。

 負け越した方は、強酸のプールに落下し『げぇむおおばぁ』。

 

 なお、代表者以外の『ぷれいやぁ』が代表者に答えやヒントを教えようとする意思を行動に移した場合、その試合は『ぷれいやぁ』チームの負けとなる。

 

 

 

「勝算もクソもあるかよ。こんな毛も生えてねぇお子ちゃまの考える数字なんざ、オレが一発で当ててやる」

 

 俺は、自分が一番偉いと思ってやがるクソガキに言ってやった。

 このガキ、見ててイライラするんだよなぁ。

 昔の俺にそっくりでよ。

 そろそろわからせてやらねぇとな。

 …あ、誤解の無いように言っておくと、『毛も生えてねぇ』ってのは腋毛の話な?

 

 俺は、ヒミコの反対側の椅子に座った。

 するとヒミコは、バカにしたように笑う。

 

「はぁ?私の数字を一発で当てる、ですって?そんなのどうやって当てるっていうのよ。マシロ(さっきの人)とはワケが違うのよ?アンタに私の数字を当てられるはずがないわ」

 

「ビビってんのか?」

 

 ヒミコが煽ると、俺はさらに煽り返した。

 

「本当は怖ぇんじゃねぇの?オレに数字を当てられんのが。そうじゃなきゃ、こんなお前さんに有利な勝負、受けねぇわけがねぇよなぁ?」

 

 俺が煽ると、ヒミコは顳顬に青筋を浮かせる。

 コイツ、本当に俺の写し鏡だな。

 こう言われたらイラつくなってとこ、面白ぇぐらいに反応してきやがる。

 

 だが、これだけは言える。

 俺は、絶対にコイツみたいにはなりたくない。

 『今際の国』の国王だの、支配だの、そんなくだらねぇ事、怪しいノート拾った殺人犯ですら考えねぇぞ。

 

「は?ビビる?冗談でしょ?私がアンタ如きにビビるわけないし。アンタこそ、わかってるんでしょうね?この試合で私に負けたら、仲間諸共死ぬって事」

 

「はは、カッカしてんな。殺すとか死ぬとか、そういうのはオレに勝ってから言ったらどうだ?」

 

 俺がヒミコを煽ると、ヒミコはガリッと飴を噛み締める。

 俺は顔の前で手を組みながら、不敵な笑み(のつもり)を浮かべた。

 

「勝負しようぜ。オレがお前のちっせぇケツの穴をでっかくしてやるよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アンside

 

「勝負しようぜ。オレがお前のちっせぇケツの穴をでっかくしてやるよ」

 

 クリハラは、『♢Q(だいやのくいいん)』を前に不敵な笑みを浮かべて挑発した。

 一発で当てると大口を叩きはしたけど…『♠︎(すぺえど)』も『(だいや)』も使わずに一発で当てられる確率は、たったの0.1389%。

 この余裕…彼には、この勝負に必ず勝てると確信できる程の、確実な必勝法があるとでも言うの…?

 

 4回戦は、クリハラがヒミコと戦う事になった。

 ヒミコが数字を入力しようとしたその時、クリハラがヒミコに声をかける。

 

「おい。この勝負、オレは一番好きな数字を選ぶ。お前も一番好きな数字を選べ。それでケリつけようぜ」

 

「は?そんな口約束に何の意味があるの?私は、この勝負で負けても次があるの。アンタと私は対等じゃないのよ」

 

 クリハラがヒミコと口約束を交わそうとすると、ヒミコはクリハラの提案を却下した。

 するとクリハラは、ニヤリと笑って言った。

 

「逃げるのか?」

 

「!」

 

「負けても次がある、なんて考えてる奴は一生勝てねぇよ。頭が良いんだろ?だったら一発でオレを殺してみろよ。まさか、出来ねぇなんて言わねぇよな?」

 

 クリハラが不敵な笑みを浮かべながら言うと、ヒミコはクリハラを睨みながら舌打ちする。

 だけどその直後、急に冷静な顔つきになったかと思うと、ふぅっとため息をついて言った。

 彼女は、殺人鬼のような冷たくて暗い目つきをしていた。

 

「……わかったわ。この試合で、アンタを仲間諸共殺してあげる。どうせ凡俗には、私がこの数字を選んだ意味すら理解できないもの」

 

 そう言ってヒミコは、クリハラを嘲笑った。

 『この数字を選んだ意味すら理解できない』…

 …やはり、何かの思惑があって、意味のある数字を選んだのね。

 

 ヒミコは、数字を入力すると、6枚残ったトランプの束の上から一枚引いた。

 クリハラも、数字を決めて入力して、ヒミコの後にトランプを一枚引いた。

 クリハラが引いたカードは…『♣︎J(くらぶのじゃっく)』か…

 これでもう、一発で数字を当てるのは絶望的になった。

 一体どうするつもりなの…!?

 

 すると次の瞬間クリハラは、カードを確認せずにその場で破り捨てた。

 な…カードを破り捨てた…!?

 この男、一体何を考えてるの…!?

 

「な…!?アンタ、何のつもり!?」

 

「ん?何のつもりって、言ったろ?テメェの数字なんざ一発で当ててやるって。オレに『あいてむ』なんざ必要ねぇ。クソガキ、お前も天才ならこれくらいの事してみたらどうだ?」

 

 クリハラの愚行に、流石のヒミコも驚くと、クリハラはハンッと鼻で笑ってみせた。

 するとイチローが、自ら私達全員を窮地に追い込んだクリハラを非難する。

 

「お前…何してくれてんだよ!?それで負けたら、オレ達まで死ぬんだぞ!?」

 

「大丈夫大丈夫。だって、負ける気がしねぇもん♪」

 

 イチローがクリハラを非難すると、クリハラはニカッと笑ってみせた。

 本当に、これで負けたら洒落にならないわよ…

 でも今は、クリハラを信じるしかない。

 頼んだわよ…!

 

《時間になりました。先攻の『♢Q(だいやのくいいん)』様は、1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「その前に、『あいてむ』を使うわ」

 

 そう言ってヒミコは、『あいてむ』を『あいてむぼっくす』にセットしてボタンを押した。

 

《『♢Q(だいやのくいいん)』様、質問をどうぞ》

 

「この質問に『いいえ』と答える?」

 

 ………!!

 最悪…!!

 まさか、ヒミコが引いた『あいてむ』が『♢Q(だいやのくいいん)』だったなんて…!!

 これでもう、ヒミコが次のターンで「何の数字を選んだのか?」って聞いたら、クリハラは数字を正直に答えるしかなくなる。

 私が想定していた最悪のやり方で勝ちに行こうとするヒミコを、イチローが非難した。

 

「な…!!テメェ!!そりゃ卑怯だろうが!!」

 

「は?卑怯って何が?私、別に『あいてむ』を使わないなんて一言も言ってないけど?」

 

 イチローがヒミコを非難すると、ヒミコは悪びれずに笑った。

 クリハラの提案に乗ったフリをして自分は確実な手に逃げたヒミコを、マシロが睨む。

 

「クリハラさんはリスクを冒したのに…あなたは安全な手に逃げるの…!?」

 

「それはそっちが勝手にやった事でしょ?誰がこんなバカの苦し紛れの挑発なんか本気にすると思うの?」

 

「コイツ…!!」

 

「臆病者?卑怯?何とでも罵ればいいわ。勝てばいいのよ、勝てば」

 

 そう言ってヒミコは、クスクスと笑った。

 何も、言い返す言葉が見つからない。

 確かにヒミコのやり方は狡いけど、完全にヒミコの言い分は正しい。

 生き残る為なら、卑怯だの何だのと言ってる場合じゃない。

 だけどこれでもう、クリハラが一発でヒミコの数字を当てるしか、私達が生き残る道はなくなったわよ…!

 

 絶望的な状況の中で、クリハラは…

 …まるで勝ちを確信したかのように、笑っていた。

 

「やっぱりな。お前ならそう来ると思ったぜ」

 

「は?」

 

「いいよな、お前は。オレがお前の数字を外して2ターン目にもつれ込んだら、オレに数字を吐かせりゃいいだけだもんな。やっぱりお前には、オレの数字なんかわかってなかったんじゃねぇか。お前も所詮は、凡人の域を出れてねぇんだな」

 

 クリハラは、余裕そうな表情を浮かべてヒミコを挑発した。

 ヒミコは、ピキッと顳顬に青筋を浮かべた。

 

《クリハラ様。質問にお答えください》

 

「はいはい、答えは『はい』ですよっと」

 

 アナウンスで指示が出ると、クリハラは余裕を保ったまま1回目の質問に答えた。

 その直後、ヒミコは人殺しの目つきをして不敵な笑みを浮かべた。

 

「…ふふっ、いいわよ。そんなに死にたいなら、このターンで殺してあげる」

 

 そう言ってヒミコは、卓上マイクのスイッチを押す。

 

「371」

 

『0ひっと 2ぶろぉ』

 

「な……!?」

 

 自信のあった数字を外したヒミコは、大きく目を見開く。

 そんなヒミコを見て、クリハラはニヤリと笑った。

 

「あれれぇ?オレを殺すんじゃなかったのか?」

 

 ニヤリと笑ったクリハラは、呆然とするヒミコに言った。

 

「ナルシシスト数」

 

 クリハラは、唐突に説明を始める。

 

「別名『アームストロング数』…ある自然数の桁数をnとおいた時、各桁の数をn乗した数の総和が元の自然数と等しくなる数の事だ。例えば、お前さんが言った371も、3^3+7^3+1^3で371になるから、ナルシシスト数だな。一説には、自分を構成する数のみで表現できる数だから、ギリシャ神話のナルキッソスにちなんでそう呼ばれるようになったと言われている。その他にも、371は1から21までの数の約数の総和だし、3連続奇数の平方和で表せるし、5連続三角数の平方和でも表せる。自然数の平方和なんか7連続だ。3桁の数字の中で美しい数字として挙げるには十分すぎる」

 

「………」

 

 クリハラは、ヒミコが『371』を『こぉる』した根拠を自信満々に話した。

 クリハラの言っている事をヒミコも考えていたのか、ヒミコは唇を噛み締めてクリハラを睨む。

 

「お前さんはオレの事を、自分の頭脳を過信した自意識過剰のナルシストだとプロファイリングしたようだな。だからこそ、一番好きな数字にナルシシスト数を選ぶと考えた。まあ3桁のナルシシスト数は、他にも153と370、それから407があるが、流石に1回戦でのお前さんの数字に被せて『1、3、5』の組み合わせを使うのはシツコイし、370はキリが良すぎて気持ち悪い。かといって407は、真ん中を狙いすぎてウッカリ当てられちまう危険がある。だからお前さんは、俺が選ぶ数字は371が妥当だと考えたんじゃないか?」

 

「くっ……!」

 

 クリハラが言うと、ヒミコは悔しそうに顔を歪める。

 どうやら、図星だったようね。

 ヒミコの勘を掻い潜った上に彼女の考えまで見通したクリハラは、頬杖をついてハンッと鼻で笑った。

 

「堅っ苦しいよ。気楽にイこうぜ、インテリちゃん♪」

 

 クリハラは、悔しそうに顔を歪めるヒミコを嘲り笑った。

 この男…たったこれだけの情報量で、そこまで彼女の思考をピタリと言い当てるなんて…

 『ビーチ』にいた頃から思ってはいた事だけど、只者じゃないわね。

 

 だけどヒミコは、開き直ったように笑った。

 

「は…はは…そうね。確かにこのターンじゃ、アンタの数字はわからなかった。でも、私が数字を外したから何…?それくらいでいい気にならないでよ!このターンでアンタが私の数字を当てるなんて事、できっこない。次のターンで確実に殺してやるわよ…!!」

 

「あ、そうそう。どうせ2ターン目にもつれ込む事はねぇだろうし、オレの数字を教えといてやるよ」

 

 そう言ってクリハラは、ヒミコの負け惜しみを封じてきた。

 あろう事か彼は、自分のタブレットの数字をヒミコに見せた。

 そこには、ハッキリと『917』と表示されていた。

 

「『917』…!?何なのよ、その数字は…!?」

 

「9月17日。オレの好きなAV女優の誕生日♪」

 

 ヒミコが尋ねると、クリハラは舌を出して笑った。

 思った以上に性格悪いわね、この男。

 そんなの、小学生が一発で当てられるわけないじゃない…

 

 するとヒミコは、バキッと飴を噛み砕き、飴の棒を握りしめてへし折った。

 彼女の表情には、クリハラへの殺意が宿っていた。

 

「くっっっだらない…!!」

 

 クリハラの小馬鹿にするような態度に、ヒミコはクリハラへの殺意をさらに増幅させた。

 こうして、先攻のヒミコのターンが終わった。

 次の後攻のターンで『3ひっと』を出せないと、私達の『げぇむおおばぁ』が確定する。

 この試合での勝率は、先攻のヒミコが『3ひっと』しない確率も合わせて考えるなら、たったの0.1387%。

 この窮地を一体どう乗り切る気なの…!?

 

《次はクリハラ様のターンです。1分以内に口頭で『こぉる』して下さい》

 

「さてさて…オレはこのターンでお前さんの数字を当てねぇと『げぇむおおばぁ』になっちまうからな。ここはひとつ、お前さんという人間をプロファイリングしてみるか。オレから見たお前さんは、万能感を拗らせたクソガキだ。お前さんが『今際の国』にすぐに適応できたのは、お前さんが人一倍純粋で幼稚だったからだ。自分にも他人にも完璧を求める潔癖さ故の選民思想。自分の知能をひけらかしたり、人を試して見下したりする『げぇむ』の傾向からわかる、高いプライドと支配欲。自分の思い通りに事が運ばないとイライラするだろう?…可哀想に。よっぽど碌な大人に恵まれなかったんだな。そんな厨二病拗らせた哀れなクソガキは、オレを殺す試合での数字に何を選ぶのかな?」

 

 クリハラは、まるでヒミコの人生を見てきたかのように、彼女という人間を語った。

 踏み込まれたくないところに土足で踏み込まれたのか、ヒミコは殺気のこもった目でクリハラを睨んでいる。

 でもクリハラは、そんな事はお構いなしに、彼女のプロファイリングを続ける。

 

「お前が望むのは、完全勝利。オレの考えうる手を全部潰して、完膚なきまでに叩きのめしてトドメを刺す。病的なまでに潔癖なお前なら、選ぶ数字も完璧な数字じゃなきゃいけないはずだ」

 

 そう言ってクリハラは、卓上マイクのスイッチを押した。

 

「『496』。3桁の数字の中で、唯一の完全数だ」

 

 完全数。

 自分自身が、自身を除く約数の総和と等しくなる自然数。

 確かに…完璧な勝利を求める彼女なら選びそうな数字ね。

 なんて思っていると、ヒミコ側のモニターに『3ひっと』と表示される。

 

『3ひっと』

 

《ここで『3ひっと』が出ました。勝者、『ぷれいやぁ』チーム》

 

 勝敗が決まると、私達『ぷれいやぁ』チーム側のモニターには『うぃん』、ヒミコ側のモニターには『るうず』と表示される。

 それを見て、イチロー、クロエ、マシロの三人は驚いていた。

 

「え…うそ…!?」

 

「勝った…!?勝ったのか…!?」

 

「これで2勝2敗…引き分けになったわね」

 

 これで引き分け。

 次の最終決戦で勝った方が『げぇむくりあ』、負けた方が『げぇむおおばぁ』になる。

 

 それにしても、この男…勝率0.1387%の勝負にこんなあっさり勝つなんて…

 この程度の修羅場、既に乗り越えてきたって事かしらね。

 

 そう考えていると、クリハラは背もたれにもたれかかって大きなため息をつく。

 

「あー危なかったぁ…!!」

 

 クリハラは、緊張の糸が解けたのか、いつもの頼りない感じに戻っていた。

 そんなクリハラを見て、クロエが尋ねる。

 

「『危なかった』…?ヒミコの数字がわかってたんじゃないの?」

 

「いやぁ、実はメチャクチャ迷った数字の候補がもう一つあったんだよ。最初は『496』かなって思ったんだが、自信満々にプロファイリングしてる途中で『495』がカプレカー数だったの思い出した」

 

 クロエが尋ねると、クリハラは片眉を上げながら頭を掻いた。

 クリハラが言うと、私以外の三人がきょとんとする。

 

「カプレカー数…?」

 

「聞いた事あるわ。ある自然数の桁を並び替えて、最大の数と最小の数の差をとった時、その差が元の自然数と同じになるような数の事よ。3桁の数字だと、『495』が唯一のカプレカー数よ」

 

「カプレカー数も、数学者の間じゃ最も美しいとされている自然数の一つだ。今思えば、ヒミコがカプレカー数を選んでも全然おかしくなかった。完全数かカプレカー数、ヒミコがどっちを選ぶかでメチャクチャ迷ったんだが、結局最後は……勘だな」

 

 クリハラは、『ははっ』と笑ってみせた。

 『495』か『496』…最後は1つ違いの2択だったのね。

 ノーヒントで0.1389%の確率を50%にまで引き上げた彼の推理力は、『天才』という言葉すら生ぬるいわ…

 クリハラを聞いたヒミコは、引き攣った表情を浮かべて笑う。

 

「はは…『495』にしときゃよかった…!」

 

 ヒミコは、カプレカー数ではなく完全数を選んだ事を後悔していた。

 クリハラは、ヒミコが完全数かカプレカー数かで迷う事すらも読んでいたのね…

 天才同士の対決は、クリハラに軍配が上がったようね。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 俺に負けたヒミコは、さっきまでの威勢を失って項垂れていた。

 まあ、殺す殺す言ってた相手にこんなあっさり負けたんだから、当然だわな。

 おしおきはもう充分だろ。

 

「人を見下してばっかいるからそういう事になるんだよ。無邪気にボードゲームやってた頃のお前さんは、もっと可愛げがあったんだがな」

 

「え……?」

 

 俺が言うと、ヒミコは呆然とした表情を浮かべる。

 何が何だか、って顔してんな。

 そろそろネタバラシしてやるか。

 

「フェイフォンって奴と昔オンラインでボードゲームやってたろ?あれ、オレ」

 

「は……!?」

 

「『飞凤』ってな、オレの名前から一文字取ってつけた名前なの。オレ、本名は栗原鳳正っていうんだわ。鳳凰の鳳に正しいって書いて鳳正な」

 

「そんな……」

 

 おうおう、ショック受けてるねぇ。

 まあ、自分が今まで友達になる為に必死に勝負を挑んできた相手が、まさかこんなくたびれたオッサンだとは思わねぇわな。

 

 俺がオンラインでボードゲームを始めたのは、ほんの数年前の事だった。

 休日にほんの暇つぶしのつもりでプレイしてみたら思いの外強い奴がいて、その時から時間がある時はオンラインのボードゲームをするようになった。

 だがゲームをしているうちに勝ってばかりでつまらなくなって、もう飽きたしそろそろやめようかとも考えていた。

 

 そんな中、唯一俺を破ったプレイヤーが現れたのは、2年前の事だった。

 そいつは対戦するたびに、俺の面白くもない個人的な話を興味津々に聞いてきたから、よく覚えている。

 俺の話を聞いてくれるだけじゃなくて、向こうも色々と話をしてくれた。

 話を聞いているうちに、相手が若い女の子なんじゃないかって勘付いた時は、流石にちょっとビビったけどな。

 

 だがその子は、ある日突然姿を消した。

 その子が姿を消したのは、ちょうど俺に勝った次の日からだった。

 心配になって何度連絡しても、一度も返事がなかった。

 それからしばらくして、俺はアカウントを消す羽目になった。

 結局、別れの言葉は伝えられなかった。

 

 そして今、ヒミコと対戦して確信した。

 2年前に俺に勝った奴は、多分ヒミコだったんだろう。

 あの時俺にボードゲームで勝った女の子にこの『今際の国』で出会うなんて、この国ってひょっとしたら神サマの気まぐれみたいなもんなのかもな。

 

 そんな事を考えつつ俺は本当の事をヒミコに話した。

 するとヒミコは、両手でテーブルを叩いて俺を問い詰める。

 

「その話が本当なら…どうしていきなりいなくなったりなんかしたのよ!!」

 

「それどころじゃなくなっちまったんだよ。ジジィ共に医療事故の全責任を押し付けられて、やってもない罪で逮捕されて、もう何もかもが嫌になっちまってた。お前さんこそ何だ、オレが送ったメッセージ全部無視しやがって。オレ、アカウントを消す事もちゃんとお前さんに伝えてたんだぜ?」

 

「っ……!そ、れは……」

 

 俺が言うと、ヒミコが黙り込む。

 やっぱり…そういう事だったのか。

 

 ヒミコは、初めて俺に勝った日を境に、俺に勝負を持ちかけてこなくなった。

 最初は俺に勝った事で満足してサイトを離れたのかとも思ったが、俺と友達になる為に何十回も勝負を挑んできた奴がそう簡単に別の事に興味が移るとも考えづらくて、ヒミコの身に何かあったんじゃないかと考えた。

 …やっぱり、何かあったんだな。

 

 だけど、ヒミコがサイトに来なくなってから2週間後、あの事件が起きた。

 医師免許を剥奪されて、クソハゲジジィ共に人生をぶち壊されて絶望のどん底にいた俺は、今まで使ってたアカウントを削除して、オンラインのゲームを全部やめた。

 アカウントを消す日、俺はヒミコに伝えたんだ。

 『このアカウントを消す事になったけど、今まで一緒にゲームができて楽しかった。ありがとう』って。

 別れの言葉すら、コイツには届いていなかった。

 

 俺が本当の事を話すと、ヒミコの目からはさっきまでの殺気が失せて、ただただ呆然と俺を見ていた。

 ずっと仲良くゲームやってた相手が、今まさに殺し合いをしている敵だったなんて、よっぽどショックだったんだろうな。

 俺は、そんなヒミコにさらに現実を突きつける。

 

「随分とショック受けてんじゃねぇか。オレを、品行方正で何の欠点もない完璧な人間だとでも思ってたのか?だったらひとついい事を教えてやろう。お前さんが今まで必死こいて追い越そうとしてたのは、お前さんみたいな綺麗な人間じゃない。毎日酒とタバコと女の事ばっか考えてるダメ人間で、濡れ衣で医師免許剥奪されたからって自暴自棄になって犯罪に手を染めるクソ野郎で、この国で一番のバカ野郎なんだよ。底辺中の底辺にすら勝てないお前が、国王になってこの国を支配するだって?笑わせんな、小娘が」

 

「あ…ああああ……!」

 

 俺がヒミコを嘲ると、ヒミコはショックのあまりその場に崩れ落ちる。

 …ちょっと灸を据えすぎたかな。

 ここからは、コイツに一番大事な事に気づかせる時間だ。

 

「何でオレがお前にこんな話をしたか、わかるか?お前は人の上に立つのに一番大事なものが致命的に欠けてる。それは知能でも、教養でも、武力でも、金でも、欺瞞でも、誠実さでもない。人の上に立つ奴が絶対にできなきゃいけない事は、『人の心』を理解する事だ」

 

「人の…心……?」

 

「持って生まれたものを振り翳して人を見ようとしない奴は、王には向かない。国を作るのはいつだって、絶対的な王じゃなく、人だからだ。人は、強い奴に付き従うんじゃない。最後まで信じ抜ける奴に従うんだ。人の心を知る努力をしなきゃ、見えるものも見えてこねぇと思わねぇか?」

 

「…………」

 

 俺は、ヒミコに言ってやりたかった事を伝えた。

 俺が言うと、ヒミコは項垂れてため息をついた。

 

 ヒミコが今まで『ぷれいやぁ』の命を弄んできた事は、決して許される事じゃない。

 だがもっと罪深いのは、コイツに人を信じさせてやれなかった周りの大人…そして何より、コイツの心を狂わせたこの『今際の国』だ。

 これ以上ヒミコに愚行を続けさせたら、それこそ『今際の国』を作った奴の思う壺だ。

 それじゃあ、ヒミコは永遠に救われない。

 ヒミコ自身の為にも、こんな事もう止めなきゃいけない。

 たとえそれで、コイツを殺す事になったとしても。

 

「元の世界では、汚いものばかり見てきたんだな。確かにお前の言う通り、人を妬んで嫌がらせするような奴は、最も軽蔑すべき人種だ。けどよ…それを関係ない奴にぶつけてどうする?お前が『選別』で殺してきた奴等の中には、お前の事を理解してくれる奴がいたかもしれない。受けた痛みばかり数えるな。今を一生懸命生きてる奴等を、ちゃんと見ろ」

 

 人を理解しようとしない奴が、周りから理解されるはずがない。

 自分が理解されない事を嘆くんじゃなく、今生きてる奴をちゃんと見る。

 この国で生きる奴等を見て、俺自身が学んだ生き方だ。

 

 俺は、諭すようにヒミコに伝えた。

 するとヒミコは、ブツブツと何かを呟きながら立ち上がる。

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさい…!」

 

 ヒミコは、爪を噛みながらブツブツと呟く。

 

「どいつもこいつも、綺麗事ばっかり…!!それ、()()()()()にも言われたよ…!!」

 

 前回の奴等…

 やっぱり、コイツにとってこの『げぇむ』は俺達が初めてじゃないんだな。

 ヒミコは、テーブルをバンッと叩きながら叫んだ。

 

「もう止まれないんだよ!!数え切れないくらい殺した!!今更、『げぇむ』から降りろっていうの!?ふざけんな!!勝てなきゃ死ぬだけだ!!私はもう、永遠にこの国で『げぇむ』をし続けるしかないんだよ!!」

 

 そう……か。

 ヒミコ、お前は…

 初めから、王になる気なんか無かったんだな。

 この国に迷い込んで、死の絶望や恐怖と向き合っているうちに、おかしくなっちまったんだ。

 もう、止まれないんだな。

 この国がコイツに与えた絶望は、それ程までに大きなものだったんだ。

 

 

 

「止まれるわよ」

 

 そう言って前に出たのは、アンだった。

 アンは、腕を組んで前に出ながらヒミコに言い放つ。

 

「私には、あなたを救う事も、今までの犠牲を無かった事にする事もできない。だけど、これ以上この『げぇむ』で無駄な犠牲を出さない事はできる。もう、終わりにしましょう。こんな事」

 

 そう言ってアンは、ヒミコと対峙した。

 …俺にできるのはここまでだ。

 ここからは、アンに任せよう。

 俺が下がると、アンはヒミコに言い放った。

 

「お互い2勝2敗。次の試合で勝った方が『げぇむくりあ』になる。次で決着をつけましょう」

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
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