ヘイジside
「……お前だよ、アヤカ。それが本名かは知らないけどな」
俺が言うと、アヤカさん…いや、アヤカは、冷や汗を垂らして目を見開く。
だがその直後、口角を吊り上げて笑顔を浮かべた。
「ちょっと、何言ってるのヘイジ君?あたしが『
「オレだって、アンタの事は疑いたくなかったよ。でも、だからこそアンタが『
俺が言うと、アヤカは目元をひくつかせる。
だがアヤカは、それでも自分が『
「そんな理由であたしを疑うなんて、心外だわ。あたしが『
「最初はオレも騙されたよ。アンタの言う通り、『めいれい』を使って順番に『
俺達は、まんまとアヤカに騙された。
アヤカは、俺達の疑惑を逸らす為に、敢えて自らローラー作戦を提案したんだ。
『
「『おうさま』が自分で言う『めいれい』と、実際の『めいれい』が同じとは限らない。アンタは、6ターン目でルキヤさんを酒に酔わせて、ルキヤさんが油断しているうちにタブレットを奪って、『めいれい』の内容を書き換えたんだよ。『『お前は『
今思えば、アヤカが次『おうさま』を取る予定のルキヤさんに酒を勧めてきたのは、『めいれい』の内容を書き換える為だった。
ローラー作戦の順番を決めたのもアヤカだ。
自分に心を許しているルキヤさんを利用して罠を仕掛ける為に、あえて自分の前にルキヤさんを『おうさま』にして、ルキヤさんが『
おそらく、『誤字脱字がないか確認してあげる』とでも言って、自然な流れでタブレットを奪ったんだろう。
『るうる』で禁止されているのは、あくまで『自力で投票できなくする行為』だけであって、投票さえ終わっていれば、タブレットを奪ったり、『めいれい』を書き換えたりしても『るうる』違反にはあたらない。
ルキヤさんは、自分に優しくしてくれたアヤカにすっかり心を許して、アヤカに勧められるまま酒を飲んでしまった。
自称ホステスの彼女らしいやり方だ。
「アンタは、オレ達の前で自分の『なんばぁ』が『2』だと嘘をついた。ルキヤさんはアンタの『なんばぁ』を『2』だと思い込んでたから、『めいれい』を書き換えられていても特に疑問に思わなかった。そうやってアンタは、まんまとローラー作戦を掻い潜ったんだ。そりゃあ、ルキヤさんの『めいれい』に『違う』と答えても、嘘をついた事にはならないよな。だって『
『おうさま』が申告する『めいれい』と実際にセットした『めいれい』が必ずしも一致しているとは限らない。
アヤカが既に罠を仕掛けていた事に気付かなかったルキヤさんは、俺達の真似をして『自分が『
自分が口にした『めいれい』と、実際にセットされた『めいれい』が全くの別物だという事も知らずに。
その事が、余計に『
アヤカに嘘の『なんばぁ』を教えられていたルキヤさんは、『自分が『
『2番は『
なぜなら、本物の2番は、本当に『
本来ならアヤカが『おうさま』になるはずのターンで、おそらくアヤカはトドロキさんに投票した。
トドロキさんを『おうさま』にしたのは、もし本物の2番が『おうさま』になってしまえば、アヤカが嘘をついていた事がバレてしまうから。
わざと過激派のトドロキさんを『おうさま』にして殺戮を起こす事で、自分の本当の『なんばぁ』を知られるのを防いでいたんだ。
もっと早く気付くべきだった。
他の皆はちゃんと『自分は『
正直、アヤカの事は今までずっと信頼していた。
いい人だって、本気で信じてた。
だからこそ疑った。
俺にとって嫌なシナリオは、信頼していたアヤカに裏切られる事だったから。
『
「これで終わりだ。白山アヤカ…いや、『
俺は、アヤカを指差しながら言った。
冷や汗をかいて目を見開いていたアヤカは、髪を掻き上げながら妖艶な笑みを浮かべた。
その時、アイが手元のスイッチを押す。
すると部屋中に設置されていた噴射口が開き、大量の煙が噴き出す。
「な、何だ…!?」
大量の煙で、視界が悪くなる。
俺の目の前にいたアヤカの姿が、霞んでいく。
数秒ほどして、煙が晴れた頃、そこには王冠とマントを身につけ、両手を腰に当てて仁王立ちしたアヤカが立っていた。
「アハハハハッ、『こんぐらちゅれいしょん』!!そうよ。アタシが『
自分が『
他を圧倒するオーラを、肌で感じた。
たら、と冷や汗が頬を伝う。
さっきまでの優しいアヤカさんは、もうどこにもいなかった。
『改めてようこそ、アタシが取り仕切る、愛と勇気と修羅場の『げぇむ』会場へ!』
アイがDJ機器を操作すると、アヤカは無駄に良い体幹を見せつけるように、動きのあるダンスを踊りながら、マイクを手に取って言った。
「何を見せられてんのオレ達…」
「…さぁ?」
完全に茶番としか思えないショーを見せつけられたヒヅルとトカゲは、真顔で呆れていた。
何なんだ、さっきまでの空気が嘘のような、この緊張感の無さは。
『よくアタシに辿り着いたわね。流石はここまで生き延びてきたカワイイ『ぷれいやぁ』の皆ね!褒めてあげる。でも『げぇむ』はまだまだこれから。皆、楽しんでいってね!』
アヤカは、ストリップショーのような妖艶な動きで王冠とマントを脱ぎ捨てた。
アヤカが脱ぎ捨てた王冠とマントを、アイが拾う。
すぐに脱ぐんなら、何で一度王冠とマントを身につけた…?
「意外だな。4ターン目に、アイさんは『
さっきまでアヤカの茶番に呆れていたトカゲは、ようやく冷静さを取り戻したのか、真顔からいつもの笑顔に戻ってアヤカに話しかける。
するとアヤカは、笑いながら答える。
「ああ、それ?別にアイは嘘なんかついてないわよ」
そう言ってアヤカは、自分の頭を掴んでそのまま下に引っ張った。
すると、アヤカの髪が下にずり落ちる。
ウェーブのかかった長い黒髪は、ウィッグだった。
ウィッグを取ったアヤカの頭は、坊主頭だった。
「アタシ…実は男なのよ♡」
アヤカは、衝撃の事実をカミングアウトした。
ヒヅルとトカゲは、シンプルにショックだったのか、「えっ」と小さく声を漏らしながら目を点にしていた。
「ガチで言ってる…?」
「あら、じゃあ確かめてみる?」
「いや、いい」
ヒヅルが半信半疑で尋ねると、アヤカはクスッと笑ってフレアデニムのチャックを下ろすので、トカゲが食い気味に言った。
「所謂ニューハーフってやつ?アヤカは源氏名よ。本名の読み方を変えただけ。アタシ、本名は
「やめて下さい。恥ずいんで」
アヤカがキャッキャとはしゃいでアイに抱きつきながら言うと、アイが無表情で口を開く。
アヤカは、アイの内腿を、そして腰を撫でながら、不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「アタシに辿り着いたのはあなた達だけよ。素晴らしいわ♡」
『
心理学者 ニューハーフホステス(源氏名:アヤカ)
大学生
得意ジャンル 『
「でも残念。気付くのがちょっと遅かったわね」
「いいや、これで終わりだ。オレ達は、誰もアンタを『おうさま』にしない。アンタを『しょけい』すれば『げぇむ』は終わりだ」
「あら、そう思う?じゃあ全員で票を集めてみれば?」
俺が言うと、アヤカはアイに後ろから抱きついたまま頬を撫でながら自信満々に言った。
俺は、俺とアヤカ以外の5人に向かって叫んだ。
「皆!オレの『なんばぁ』は『13』だ!!オレに投票してくれ!!」
俺が『おうさま』になって0番を『しょけい』すれば、『げぇむ』が終わる。
皆、もうこれ以上殺し合いをする理由はないはずだ。
今度こそ、これ以上血を流さずに『げぇむ』を終わらせられる。
◇◇◇
13ターン目の投票時間が終わり、『おうさま』を決める時間になる。
全員が決められた位置に立ち、『おうさま』の発表を待つ。
ちょうど時間になると、アイが口を開く。
『時間になりました。それでは、『おうさま』を発表します。今回の『おうさま』は、『
………!?
なん、で……
何でアヤカが『おうさま』になってるんだよ!?
「……あなた方に投票するわけがないでしょう。私はもう、『げぇむ』を降りるのですから」
そう告げたのは、アキモトさんだった。
「アキモトさん、あなたどうして…!?」
「どうせ『げぇむ』を『くりあ』したって、『
「確実に生き残る方法…何だよ、それ……」
「『げぇむくりあ』したら『
「いいわけないだろ…こんなとこで一生過ごせっていうの…?」
「私は、自分さえ生き残れればそれでいいんですよ。『
「………」
「まあ、結果的にアヤカ様が『おうさま』になってしまいましたが、それでもこの『げぇむ』を強制終了されて『
アキモトさんが開き直ったように言うと、ヒヅルが軽蔑の眼差しを向ける。
アキモトさんがトドロキさんに協力していたのは、俺達が『げぇむくりあ』するのを邪魔する為だったのか…
アキモトさんの言う通り、アキモトさんがアヤカに投票して、俺達の票と同数になれば、『おうさま』は発生せず『しょけい』は執行されない。
それが何ターンも続けば、半永久的に生き延びられる。
だからって…それでいいのかよ…!?
『それでは『どれい』を発表します。今回の『どれい』は、アキモト様。『めいれい』の内容は…『しょけい』』
「は………!?」
アイは、無表情でアキモトさんに『しょけい』を告げる。
するとアキモトさんは、絶望の表情を浮かべる。
「アヤカ様…!!どうして…どうしてですか!?私は確かにあなたに投票しました!!あなたの望む事は何だってしてきました!!あなたに投票すれば、『
アキモトさんは、絶望の表情を浮かべてアヤカに詰め寄った。
するとアヤカは、微笑みながら口を開く。
「そうね。確かに、アキモト君はアタシに良くしてくれたわね。それはよくわかってるわ」
「だったら何故…!!」
「あら。アタシは、『
「あ……ああ……!!」
「良かったじゃない、あなたの望み通り、『
「う…あ…うああああ…!!」
アヤカがアキモトさんの頬に手を添えて言うと、アキモトさんは絶望の表情を浮かべてその場に崩れ落ちる。
アヤカは、アキモトさんを心酔させて、『安全』をチラつかせる事で票を獲得していたんだ。
…いや、それでもおかしい。
俺は、自分とヒヅル、それからミズキ君のタブレットの票で3票を獲得してる。
それでもアヤカが『おうさま』になったって事は、アヤカは、4票以上獲得したって事になる。
つまりこの中に、自らアヤカに投票した人がいるって事だ。
「……まだいるよね。アヤカに投票した人」
ヒヅルが尋ねると、トカゲが頭を掻きながら答える。
「あー…ごめん。ボク」
「は…!?」
何でだよ…
せっかく、『
なのに何で、ここに来て『
「『ヘイジ君に投票しないでくれたらあなたとメイちゃんは『しょけい』しないであげる』って言われちゃったからさぁ、もう従うしかないよね。さっきのターンでヘイジ君がやったみたいに『
トカゲの奴…アヤカにそんな事を吹き込まれてたのか…!!
『
何で、『
「アヤカ、お前…!!」
「だってトカゲ君とメイちゃんってば、相思相愛でカワイイんだもん!やっぱり、この『げぇむ』の
俺がアヤカの方を振り向くと、アヤカは悪びれずに笑った。
……そうか。
これがコイツのやり方だったんだな。
トカゲの、自分とメイさんだけは生き残りたいという心理を利用して、自分に票を入れるように誘導した。
今までの『げぇむ』でも、そうやって『ぷれいやぁ』を『げぇむおおばぁ』にしてきたんだ。
《ここで、『しょけい』の対象となった参加者がおられます。その参加者は……『げぇむおおばぁ』》
「ありがとう、アキモトくん。おかげでとっても楽しかった。愛してるわ♡」
「は…はは……あはははははは…」
アキモトさんが絶望の表情を浮かべて笑った、その直後だった。
アキモトさんの真下の床が開き、アキモトさんが下に落ちる。
無慈悲にも、『しょけい』が始まった。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!い゛た゛い゛、い゛た゛い゛い゛た゛い゛!!!も゛う゛こ゛ろ゛し゛て゛く゛れ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!』
アキモトさんは、穴という穴から血を流し、皮膚が弾けて捲れた状態で、内側から処刑場の壁を叩いていた。
そんなアキモトさんを見て、アヤカは恍惚とした表情を浮かべていた。
「アキモト君…すっごくカワイイわ…!!あらヤダ、泣かせないで!必死に助けを求めちゃって、何て健気なの!!」
アヤカは、身体をくねらせて頬を赤らめ、目を潤わせながら叫んだ。
もう決して戻れないところまで堕ちてしまった人間特有の顔は、まさに『病気』としか言い様がなかった。
「今までありがとう、アキモト君…あなたの死は決して無駄にはしない…あなたの死に様は、一秒たりとも余さずこの目に焼き付けてあげるから」
そう言ってアヤカが涙を流したその瞬間、アキモトさんの身体が弾け飛んだ。
また、無実の人が殺されてしまった。
チクショウ…何でこうなっちまうんだよ…
せっかく『
『『しょけい』が執行されました。13ターン目の生存者は、7名中6名。それでは次のターンも、生かしたい人を慎重に選んで下さい』
アイがそう告げると、14ターン目に移行する。
アキモトさんの『しょけい』が終わると、アヤカは涙を拭ってから、何事もなかったかのように笑顔を浮かべた。
「…さ、続けましょう♪」
アヤカは、無邪気な笑みを浮かべて俺達の方を振り向く。
ヒヅルは、そんなアヤカを睨みながら言い放った。
「もう終わりだよ。今回はトドロキやトカゲを騙せても、いつまでもこんな事続けられるわけがない」
ヒヅルは、アヤカに事実を突きつけた。
次こそ、他の3人が俺に投票すれば、この『げぇむ』を終わらせられるんだ。
だけどアヤカは、全く焦りを見せずに言った。
「うーん…正直に言わせてもらうと、まだ全然負ける気がしないのよねぇ。だってアタシには、とっても頼もしいナイトがいるから♡」
そう言ってアヤカが背中に抱きついた相手は、トドロキさんだった。
「トドロキ…!」
トドロキさんが俺達を敵意のこもった目で睨むと、ヒヅルもトドロキさんを睨み返した。
「アンタ、何でアヤカに協力するわけ?コイツが勝つって事は、アンタが死ぬって事なんだよ?なのに何で…?」
ヒヅルは、全員の疑問を代弁するかのように、トドロキさんに尋ねる。
するとトドロキさんは、口に含んだ葉巻の煙を吐いてから、ヒヅルを睨みつける。
「うるせぇぞガキ。大人には大人の事情があるんだよ」
トドロキさんは、殺意のこもった目で俺達を睨んできた。
だけど、俺は見逃さなかった。
トドロキさんの目に宿った、殺意の奥に隠れた絶望を。
彼がアヤカにだけ向ける、親愛の目を。
「そうか…トドロキさん。アンタの目的は、オレ達を全員『げぇむおおばぁ』にして、アヤカを生かす事だったんだな」
「……………」
俺は、トドロキさんの目を見て、全てを理解した。
トドロキさんが『げぇむくりあ』を邪魔してくる理由も、『
トドロキさんは、『ビーチ』と心中しようとした時のアグニや、『
彼も、大切な人を手にかけて、その絶望に苦しめられていたんだ。
だが、誰にも心を許さず常に壁を作っていたトドロキさんは、なぜかアヤカを見る時だけは、ほんの少しだけ目つきが優しくなっていた。
それはまるで、父親が娘に向ける親愛の目だった。
「アンタはかつて、大切な人を亡くした。そっくりだったんだろ?アヤカが、アンタの大切な人に。アヤカに大切な人の幻影を見たアンタは、アヤカを生かす事で、大切な人を亡くした絶望を紛らわせようとしたんじゃないのか」
俺が言うと、トドロキさんは俺を睨みつけてきた。
彼がアヤカを生かす為に俺達と心中しようとした理由…
彼にとってそれ程大切だった人って、一体誰なんだ…?
◆◆◆
トドロキside
滞在6日目。
部下と一緒に『今際の国』に迷い込んだ俺は、『げぇむ』を『くりあ』して生き延びてきた。
部下の一人がたまたま娘を見つけて、この日は娘を連れて『げぇむ』に参加した。
だが、それが間違いだった。
《『げぇむ』の時間です。難易度『
俺達が参加したのは、最悪の『げぇむ』だった。
参加者が『おおかみ』と『ひつじ』に分けられて、『おおかみ』は『ひつじ』と目が合うと、『おおかみ』と『ひつじ』が入れ替わる。
『ひつじ』は『おおかみ』に見られないように隠れろ、という『るうる』だ。
《『くりあ』の条件。制限時間の10分を過ぎた時点で、『おおかみ』の方が、『げぇむくりあ』。制限時間を過ぎた時点で、か弱き『ひつじ』だった方は、装着していただいた首輪が爆発して、『げぇむおおばぁ』》
『るうる』の説明が終わってすぐに『げぇむ』が始まった。
最初の『おおかみ』は俺だった。
『るうる』を聞いてすぐに、俺は迷わず娘を『おおかみ』にする事を決めた。
一緒に参加した部下は、全員俺の娘の為に命を差し出すと言ってくれた。
だが娘は…亜弥は、『げぇむ』が始まってすぐに逃げた。
「おい、亜弥!!どこに逃げた!?早く出てこい!!『おおかみ』にならなきゃ生き残れないんだぞ!!」
俺は、会場のどこかに隠れた亜弥を探し回った。
初めて、娘を本気で怒鳴った。
アイツは、啜り泣きながら言った。
『お父さん…あたしはいいよ…お父さんが『おおかみ』でいいから…!』
「何言ってんだお前…!!」
『ねえお父さん、聴こえてる?あたしさ…お父さんに酷い事言って家を出てった事も、お父さんにもらった大事な顔を勝手にいじった事も、ずっと謝らなきゃって思ってた…今まで、本当にごめんね…』
「お前、まだそんな事気にしてたのか…」
『今まで散々『普通のお父さんがよかった』とか、心にもない事言ってきたけどさ…あたしは、お父さんが生きてくれさえすれば、もう何も要らない…!!』
亜弥は、泣きながらヘッドセット越しに打ち明けた。
それはこっちの台詞だ。
俺は、お前さえ生きてりゃ、何も要らねぇんだ。
俺は、制限時間いっぱいまで必死に亜弥を探し回って、あと1分のところでやっと見つけた。
だがアイツは、俺が目の前に来ても、目を合わせようとしなかった。
俺は亜弥を『おおかみ』にする為に、馬乗りになって力ずくで目を開けさせようとした。
「亜弥!!!さっさと目ぇ開けろ!!いい加減にしねぇと指詰めんぞ!!」
娘に対して絶対やっちゃならねぇ脅しをしても、アイツは頑なに目を開けなかった。
俺が必死に亜弥の目を開けさせようとしているうちに、その時が来た。
「バイバイ。大好きだよ、お父さん」
亜弥が泣きながらそう言った直後、亜弥の首輪が爆発した。
娘も部下も、全員死んだ。
生き残ったのは、俺だけだった。
『ねくすとすてぇじ』が始まったのは、その3日後の事だった。
俺は、娘と部下の後を追って死ぬ事を何度も考えた。
だが俺が簡単に死んだら、アイツらに顔向け出来ねぇ気がした。
せめて絵札の『げぇむ』を全種類『くりあ』するまでは、生き延びて『答え』を見つけるつもりだった。
「あの。はじめまして…タバコ、お好きなんですか?」
『
その女を見て、俺は目を疑った。
ソイツは、顔立ちだけじゃなく、髪型や服装まで亜弥と瓜二つだった。
よく見りゃあ髪や目の色味も骨格も違うが、まるで亜弥が生き返ったかのように思えた。
「どうかしましたか?…もしかして、あたしの顔に何かついてたりします?」
「あぁ…いや…アンタの顔が、知り合いに似てたもんだから…すまねぇ、変な事言った。忘れてくれ」
俺が話を終わらせようとすると、女は自然な身体運びで俺の隣に座ってきた。
「良かったら話していただけませんか?何があったのか」
俺は、何故かこの女を警戒できなかった。
ソイツは、たったの一ミリの不信感も与えずに俺の心に溶け込んできた。
気付けば俺は、俺がこの国に来てから起きた事を全部話しちまってた。
「トドロキさん。あたしの目、見てもらえます?」
吸い寄せられるように、俺の視線はその女…アヤカの瞳に引き込まれた。
俺がアヤカの瞳を見ると、アヤカはふぅっと深く息を吐いてから、ゆっくりと目を閉じる。
アヤカがばち、と目を開いたその瞬間、俺は信じられないものを見た。
「ただいま。お父さん」
「亜弥…!?」
俺の目の前には、亜弥がいた。
…いや、頭ではわかってんだ。
亜弥が生き返るはずがない。
アヤカの演技だって。
だが目の前のアヤカは、仕草も、話し方も、雰囲気も、亜弥そのものだった。
別人だってわかってるのに、目が離せない。
コイツにだけは、本物の亜弥と同じくらいに心を許せちまう。
俺にはもう、コイツを殺せねぇ。
「あたしさ…お父さんを置いて逝っちゃった事、申し訳ないなって思ってたんだよ。でもさ、いくらあたしを生かしたいからって、娘に対して『指詰めるぞ』は酷くね?」
「あの時は…それしか思い浮かばなかったんだよ」
ああ、ちくしょう。
本当に、本物の亜弥に見えてきやがった。
「亜弥…ごめんなぁ…オレだけが生きてて、申し訳ねぇ…!!」
俺は、亜弥と部下を殺して自分だけが生き残っちまった事を、泣いて亜弥に謝った。
亜弥は、俺の手を取って、優しく語りかけてきた。
「大丈夫だよ。あたしはもう、お父さんを置いていったりなんかしないから。あたしは、お父さんと一緒に生きられれば、それでいいの」
俺は、亜弥が生きてくれさえすれば、何も要らない。
もしこの『げぇむ』が亜弥しか生き残れない『るうる』なら、俺はたとえ他の『ぷれいやぁ』を全員手にかけてでも亜弥を生かす。
『今際の国』の『ぷれいやぁ』全員を敵に回したとしても、亜弥の事だけは俺が守る。
◆◆◆
ヘイジside
トドロキさんは、アヤカを庇う形で俺達に立ちはだかった。
…俺が甘かった。
まさか『
昔聞いた話だが、心理学の世界には、『逆転移』という言葉がある。
患者が治療者に特別な感情を向ける事で、治療者も患者に対してそれに呼応する感情が生まれてしまう事だ。
アヤカがトドロキさんの娘になりすます事で、トドロキさんもアヤカに父親としての情が生まれてしまった。
最も人を強く支配する感情、それは愛情だ。
人に与えたいという好意や自己犠牲も、アイツを殺してやりたいという殺意や憎悪も、その最たるものは全て愛情から生まれる。
アヤカがトドロキさんに向ける敬愛が、トドロキさんにとって、絶対に解ける事のない『洗脳』になってしまっていたんだ。
「断言してもいい。彼はアタシに投票するわ。だって……」
アヤカは、トドロキさんに抱きついたまま、深く息を吐きながらゆっくりと目を閉じる。
その意識を、無意識の奥底へと堕とし込んでいく。
アヤカがばち、と目を開いた、その瞬間だった。
「あたしは、お父さんの娘だから」
目を開いた瞬間には、アヤカは全くの別人になっていた。
目の前にいるのはアヤカのはずなのに、俺の目にはコイツが、父親想いで、人一倍繊細で、ほんの少し不器用な女性に見えた。
…本当に、自分でも寒気がする。
一瞬だけ、アヤカを死なせたくないと本気で思ってしまったのだから。
「にししっ♪」
トドロキさんの娘になりきったアヤカは、無邪気に笑う。
どんなに強力な洗脳や催眠をもってしても、人殺しを強制する事はできない。
だが、現実世界にいた頃から人を殺めてきたトドロキさんなら、アヤカの洗脳技術で倫理的抑制を削がれてしまったとしてもおかしくはない。
だからこそアヤカは、トドロキさんに目をつけた。
何ターンも前からこの展開に持っていくために狡猾に計算し、これまでまんまと俺達を騙し通してみせた高い知能。
自然と俺達の輪の中に溶け込み、本性を一切悟らせない演技力。
トドロキさんの心の弱みや、他の『ぷれいやぁ』の生きたいという欲望を瞬時に見抜き利用する観察眼。
自分の人格さえも支配し、他人が自分に向ける感情を自在に操る洗脳技術。
人心誘導において、アヤカは間違いなく
『人に優しくされたい』という、この国にいる誰もが持つ心理を巧みに利用して、自分に心酔させる。
それがコイツのやり方だ。
今まで誰一人としてこの『げぇむ』を『くりあ』できなかった理由がようやくわかった。
コイツを殺さなきゃ『げぇむくりあ』できないのに、『ぷれいやぁ』達がこの世界の絶望に抗い続けて、絶対に失わないように保ってきた戦意すら、コイツは簡単に削いじまう。
『
俺達が誰かに優しくされたいと心のどこかで願う限り、『
「っ……」
アヤカは、トドロキさんに抱きつきながら、俺達に目を向けてくる。
まるで蟲か何かが纏わりつくような、悍ましいものを感じた。
肌がヒリヒリ痛くて、うまく呼吸ができない。
夏なのに、寒気と震えが止まらない。
それなのに、引き寄せられるように、目が離せない。
アヤカの、姿が見えない……
「オレは、亜弥が生きてくれさえすればそれでいい。テメェらに怨みはねぇが…後生の頼みだ。死んでくれ」
トドロキさんは、アヤカを庇うように立ちながら、俺達にハンドガンの銃口を突きつけてくる。
俺とヒヅルは、アヤカを睨みながら言い放つ。
「「絶対嫌だ」」
「そうか…ならもう、一人ずつ殺しちまうしかねぇな?」
そう言ってトドロキさんは、クロダさんのタブレットで投票し、自分のタブレットでもう一票入れる。
すると、いつの間にか『トドロキさんの娘モード』を解除していたアヤカは、ニンマリと不敵な笑みを浮かべる。
「はい、今のでアタシに3票入った♪」
トドロキさんに票を入れられたアヤカは、得意げな笑みを浮かべる。
するとヒヅルは、アヤカを睨みながら言い放つ。
「まだ投票は終わってない。トカゲとメイがヘイジに投票すれば、『げぇむくりあ』できる可能性はまだ残ってる。なのに何なの、その余裕は」
「あら。この程度でアタシが動揺すると思ったら大間違いよ、ヒヅルちゃん。ヘイジ君がどうして今まで他の皆に信用してもらえなかったのか、考えた事ある?」
アヤカは、後ろからアイに抱きつき、左手をアイの腰に添えて右手でアイの胸を下から掬い上げながらクスッと笑う。
「アタシが、そうなるように仕向けたからよ」
な……!?
コイツ、トドロキさんだけじゃなく、他の参加者にまで洗脳を仕掛けてたってのか!?
「アキモト君と仲良くなったのは、1ターン目。2ターン目は、メイちゃん、クニエダ君、アカマツ君の3人とも仲良くなったわ。他の皆は、アタシが何も言わなくてもトドロキ君が勝手に支配下に置いてくれたおかげで、アタシが仲良くなる手間が省けたわ。トカゲ君が、ショーゴ君に不満を持ってる3人に目をつけて仲間に引き入れたみたいだけど…時すでに遅しってヤツよ。だってその3人は、既にアタシのお友達だったんだもの♡」
「っ……」
「あ、先に言っておくけど、アタシを『卑怯者』だなんて言わないでね。アンタ達がアタシの策に気付いていれば、この『げぇむ』の必勝法にもっと早い段階で気付いていれば、アタシがこうやって生き延びる事もなかったのだから」
アヤカがネタバラシをすると、俺達は目を見開いて冷や汗を垂らす。
アヤカの言う通りだ。
2、3ターン目で俺が必勝法に気付いていれば、アヤカの戦法はとっくに破綻していた。
アヤカが他の皆を洗脳して疑心暗鬼にさせていた可能性を見落とし、メイさんがショーゴに復讐するのを防げず、『げぇむ』を長引かせてしまった俺達が悪い。
絶望の表情を浮かべる俺達を見回したアヤカは、クスッと妖艶な笑みを浮かべた。
「残念だったわね。仲間同士で信頼し合えば勝てると思った?甘いわ。何故なら、この『げぇむ』を『くりあ』するのに必要なものは、『信用』や『信頼』なんて生易しいものじゃないから」
「何……?」
「この『げぇむ』を『くりあ』するのに必要なものは、純然たる『情愛』。生き残る為に利用し合う関係なんて、論外。その程度の信頼関係を崩すのなんて、お茶を淹れるくらい簡単な事よ♡」
アヤカの言葉に対して、俺は何も言い返せなかった。
…俺は、最初からやり方を間違えていたんだ。
俺は、皆で信頼し合えばこの『げぇむ』を『くりあ』できると思ってた。
でも、違ったんだ。
この『げぇむ』を『くりあ』する為に必要なものは、
俺にはわかる。
ネズミ達と一緒にこの『げぇむ』に参加してたとしても、きっと同じ結果になってた。
どんなに時間をかけて築いてきた信頼関係だろうと、たったの数分で崩しちまう。
…道理で、今まで誰もこの『げぇむ』を『くりあ』できなかったわけだ。
「そういうわけで、このままだとアタシが勝っちゃうわけだけど…どうしようか?」
……完敗だ。
『げぇむ』が始まる前から、既に負けていたんだ。
『ぷれいやぁ』の心理を巧みに利用した高度なマインドコントロール。
アヤカは、今までの『げぇむ』で、人心掌握のみで『ぷれいやぁ』を全員『げぇむおおばぁ』にしてきた。
ここまで追い詰めてもなお、全く底の知れない怪物。
それがアヤカ…いや、皇紋嘉という男だ。
生半可な覚悟でこの『げぇむ』に挑んだのが間違いだった。
俺達とコイツでは、文字通り次元が違う。
これが、『
『げぇむ』『おうさまげぇむ』
難易度『
14ターン目 残り6名
『
ちなみにアヤカが『
♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?
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人数増やす
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原作通り20人で進める