Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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はあとのきんぐ(7)

ヘイジside

 

「そういうわけで、このままだとアタシが勝っちゃうわけだけど…どうしようか?」

 

 絶望の表情を浮かべる俺達を見回したアヤカは、クスッと妖艶な笑みを浮かべた。

 するとトカゲは、はぁっとため息をつきながら上を向いた。

 

「あーあ、無理だな、こりゃ。勝てないや」

 

 トカゲは、諦めたように乾いた笑いをこぼしながら言った。

 

「何、言ってんだよお前…!?」

 

「トドロキが『げぇむくりあ』を邪魔しようとしてるのは知ってたけど、まさか『♡K(はあとのきんぐ)』とここまで癒着してたなんて誰が予測できるかよ。ハハッ…こりゃ、さっさとトドロキを『しょけい』しなかったボクのミスだね」

 

 そう言ってトカゲは、両手を挙げてアヤカに対して降参の意を示す。

 

「はいはい、降参降参。もうアンタが『おうさま』で構いませ〜ん」

 

「は…!?」

 

 トカゲ…

 お前、何言ってんだよ!?

 アヤカが『おうさま』でいいって…本気で言ってんのか!?

 前回は、トカゲは自分とメイさんの安全と引き換えにアヤカを『おうさま』にした。

 でも今回もアヤカが約束を守る保証なんてどこにもない。

 次『しょけい』されるのは自分かもしれないんだぞ!?

 

「まぁ、ボクの事はこのターンで『しょけい』してくれて構わないんだけどさ。アンタに票を入れるから、メイさんの事だけは、このターンで『しょけい』しないでほしいな」

 

「トカゲ様…!?」

 

 トカゲがメイさんの事だけはこのターンで見逃すようにアヤカに言うと、メイさんが目を見開く。

 アヤカは、トカゲを品定めするような目で見てから、左手の人差し指で自分の唇を撫でながら尋ねる。

 

「まあ…アタシは誰から『しょけい』しても構わないんだけど、どうしてメイちゃんをそんなに守りたいわけ?」

 

「さぁ…何でだろうね。この世界で生き残るのに情なんかいらないって思ってたけど…ボクって存外仲間想いみたい♪」

 

「…ふぅん?」

 

「別にナイト気取りってわけでもないんだけどさ。男は、惚れた女の為なら何でもできちまうもんなんだよ。…どう?アンタの気に入りそうな答えだろ?」

 

 アヤカが尋ねると、トカゲは腕を組んで笑みを浮かべながら答える。

 するとメイさんが、トカゲの腕にしがみついて叫ぶ。

 

「トカゲ様!!何を仰っているのですか!?私の代わりにトカゲ様が犠牲になるなんて…そんなの、嫌です!!私には、トカゲ様が全てなんです!!トカゲ様が犠牲になるくらいなら、私が代わりに…!!」

 

「メイさん。そこは、水差さないでほしかったな。ボクの割には、ちゃんとカッコつけた事言えたんだからさ。もう『げぇむくりあ』は絶望的になっちゃったけど…ここまでボクについてきてくれたキミには、たったの数時間でも長生きしてほしいんだよ」

 

「イヤ…イヤ、イヤ!!トカゲ様!!お願いだから…私を置いていかないで!!」

 

 トカゲがメイさんの頭に手を置くと、メイさんはトカゲにしがみついて泣きながら首を横に振った。

 それを見ていたアヤカは、恍惚とした表情を浮かべながら涙ぐんでいた。

 

「素敵…!!これが真実の愛なのね…何てカワイイの…!!アタシ、涙腺にきちゃった」

 

 アヤカは、両腕をクロスさせて両手で両腕を抱えながら、顔を紅潮させて興奮気味に叫んだ。

 

「いい!!最高!!文句なしの百点満点よ!!あなた達二人は、最後まで生かしておいて正解だったわ!!ふふふ、いいわ!!あなた達は、最後のターンまで生かしてあげる!!」

 

 アヤカは、目をかっ開いて頬を赤らめ、口の端から涎を垂らし、まるでクスリでもキメたかのような表情を浮かべていた。

 トカゲとメイさんを気に入ったアヤカは、自分に票を入れさえすれば最後のターンまでは生かしておくと約束した。

 だけどそんなのは、俺が認めない。

 

「ふざけるな…冗談じゃねぇ!!」

 

 俺は、お互いの大切な人を守る為にアヤカに票を入れようとしている二人と、二人の愛情を利用して票を集めようとしているアヤカに向かって叫んだ。

 俺の声がメインルームに響き、全員が俺の方を見る。

 

「ヘイジ……?」

 

 俺が叫ぶと、ヒヅルが少し心配したような表情で俺を見る。

 俺は、少し驚いたような表情を浮かべて俺を見るトカゲとメイさん、そしてトドロキさんに向かって話しかける。

 

「アンタら…本当にそれでいいのか?」

 

「あぁ?何だ?今頃命乞いか?」

 

 俺が三人に尋ねると、トドロキさんは眉をピクッと動かして尋ねる。

 命乞い…か。

 確かに、そう見えるだろうな。

 アヤカの気が変わらなければ、このターンで殺されるのは俺かヒヅルだ。

 実際、俺はやっぱりまだこんなところで死にたくない。

 俺は、ふぅっと息を吐いてから答えた。

 

「…ああ、そうだよ。やっぱり、死ぬのは怖ぇ。だけど一番怖ぇのは、このまま大事なものを守れずに、アヤカの思い通りに弄ばれる事だ。オレは、たとえオレがここでくたばったとしても、ここまでオレについてきてくれたヒヅルには、生きてこの『げぇむ』を『くりあ』してほしい。だけどそれと同じくらいに、もうこれ以上アンタらにも死んでほしくないんだよ」

 

「……あ?」

 

「オレはやっぱり、最後まで、皆で生き残る道を諦めたくない。もしそれが絶対に叶わない事だったとしても、オレは最後まで足掻き続けたい。だって、悔しいだろ!?コイツらに媚びて、たった数時間の命を引き伸ばして、コイツの生み出した娘の幻影に縋ったまま殺されて、本当にそれで満足か!?」

 

 俺は、トカゲとメイさん、そしてトドロキさんの心に訴えかけた。

 トカゲとメイさんの互いを生かしたいと思う気持ちも、トドロキさんの娘を失った絶望も、俺にはそう簡単には計り知れない。

 だけどアヤカの思い通りにこのまま皆が『げぇむおおばぁ』になっちまうのだけは嫌だ。

 

「…確かに、このままじゃ投票でアヤカに負けるのは目に見えてる。今までアンタらと信頼関係を築けなかったオレの責任だ。だけど、最後まで諦めなければ…アンタら皆が、自分の大事な人を生かしたいって思う気持ちを、ほんの少しだけ、他の奴にも向ける事ができたら…!!無駄かもしれなくても、もう少しだけ、足掻き続けたいって思えたら…!!オレ達もう一度、信じ合えるんじゃないのかよ!?」

 

 俺は、必死に三人に訴え続けた。

 俺が叫ぶと、トドロキさんの顔が歪む。

 

「うるせぇ……」

 

「今までの犠牲は、無かった事にはできない!!全てを許しはしない!!それでもオレは、アンタらと生きたい!!オレには、アンタらの大切な人の代わりになってやる事はできない。だけどここで死んじまったら、大切な人を思い出す事すらできなくなっちまうんだぞ!!」

 

 俺が言うと、トカゲは僅かに目を見開く。

 俺はそんなトカゲに詰め寄って、胸ぐらを掴んで叫んだ。

 

「そんなに強く人を想えるんなら…オレを利用するくらいの事、してみろよ!!」

 

 俺がトカゲの顔の前で叫ぶと、トカゲはいつもの飄々とした笑顔を崩して目を見開く。

 だがトカゲは、呆れたようにため息をつくと、突き刺すような視線を俺に向けながら言った。

 

「…理想論は聞き飽きたって言ったろ?嫌いなんだよ。キミのその、青臭くて泥臭い理想論が。皆が皆、キミみたいに清く正しく生きられるわけじゃない。それにボク達が今更協力したって、『♡K(はあとのきんぐ)』の票には届かない。万策尽きたってやつだよ」

 

 トカゲは、半ば諦めたように笑った。

 俺は今度は、トカゲの肩を掴んで叫んだ。

 

「それでも、オレ達はまだ、生きてる!!!生きてる限り、何度だって足掻けるんだよ!!」

 

 俺は、トカゲの、メイさんの、そしてトドロキさんの心に訴えかけるように叫んだ。

 するとトカゲは、俺の手を引き剥がしてから、目を細めて言った。

 

「……やっぱり、キミとは到底分かり合えそうもないね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アヤカside

 

「……やっぱり、キミとは到底分かり合えそうもないね」

 

 トカゲ君は、ヘイジ君の手を肩から引き剥がして言った。

 やっぱり、そうなるわよね。

 トカゲ君は、私の機嫌を損ねたらメイちゃんを殺されるかもしれないから、ここでヘイジ君に協力するなんて言えないわよね。

 何にせよ、これでカワイイ純愛に満ちた理想の最終幕(フィナーレ)を迎えられそうだわ。

 

 ヘイジ君とヒヅルちゃんも、きっとカワイイものを見せてくれるはずだと信じて生かしてきたけど…

 ……残念。

 私は、トドロキ君と娘の亜弥ちゃんのカワイくて救いのない父娘愛と、トカゲ君とメイちゃんのカワイくて狂おしい純愛の方が気に入っちゃったのよね。

 

 票の取り合いや『めいれい』なんて、この『げぇむ』の本質じゃない。

 アイの言う通り、この『げぇむ』は『生かしたい人を決める『げぇむ』』。

 即ちこれは、愛の強さを問う戦い。

 この『げぇむ』では、誰かに愛される素質も、誰かを愛し守り抜く気概も無い者から死んでいく。

 強い愛と勇気を持った『ぷれいやぁ』が、私とアイの狂愛の前に脆くカワイく散っていく。

 これが、この『げぇむ』の最高にカワイイシナリオ。

 

 トドロキ君も、メイちゃんも、アキモト君も、サクマちゃんも、アカマツ君も、クニエダ君も、クロダ君も…ショーゴ君も、みーんな私のカワイイお友達になってくれた。

 特にアキモト君は、最初は誰も信用してなかったのに、ちょっとお話したらすぐに私を信じてくれた。

 ああやって心に壁を作ってる子ほど、一度心を許したらズブズブ堕ちるからねぇ。

 

 サクマちゃんは私を裏切って殺そうとしてたけど…

 …可哀想に、私の愛が足りなかったのね。

 でも、最期に私に一矢報いようとしたサクマちゃんの事は、ちょっとカワイイと思っちゃったけどね。

 

 さて…と。

 ヘイジ君とヒヅルちゃん、どっちから先に『しょけい』しようかしら。

 

 ……決めた。

 ヘイジ君にしよっと♪

 

 ヒヅルちゃんを失い心を毒されて最凶の怪物(モンスター)になるヘイジ君も見てみたい気がするけど、私はカワイイ方が好きなのよね。

 片想い中のヘイジ君が死んで、無力感に苛まれながらヘイジ君の幻影に縛られ続ける傷心の乙女。

 …うん、こっちのシナリオの方がカワイイわね♪

 

 私は、セットする『めいれい』に『しょけい』を設定して、『13』を押した。

 ヘイジ君はミズキ君のタブレットを持ってるから3票獲得できるけど、それでも私の票には届かない。

 ぶっちゃけ、トカゲ君とメイちゃんに裏切られたら負けちゃうけど、まぁ無いでしょ。

 

 …それにしても、私とした事が迂闊だった。

 まさか私が壊したミズキ君のタブレットを、ヘイジ君に直されちゃうとはね。

 そういえばヘイジ君が工学系の大学通ってたの忘れてた。

 ミズキ君のタブレットを回収したら不審に思われると思って、回収するんじゃなくて壊したわけだけど…やっぱり回収しておけばよかったかしら。

 

 まあ、過ぎた事を後悔したって仕方ないし…というか、むしろ私は嬉しい。

 『ビーチ』で活躍してたヘイジ君の事だから、このまま終わるはずがないとは思ってた。

 そう来なくっちゃってやつよ。

 

 でも、残念。

 ヘイジ君の悪足掻きも、このターンでもうおしまいね。

 ありがとう、ヘイジ君。

 あなたのおかげで、とってもカワイイ『げぇむ』になったわ。

 あなたの死は、決して無駄にはしない。

 

『時間になりました。それでは、『おうさま』を発表します。今回の『おうさま』は───

 

 

 

 

 

 

 

──────ヘイジ様』

 

 

 

 …………は?

 

 何で…?

 何でヘイジ君が『おうさま』になってるのよ…!!

 

「ちょっ…何で…?何でヘイジ君が『おうさま』なの!?あり得ない…こんなの、何かの間違いよ!!」

 

 あり得ない。

 だって、ヘイジ君の票は、3票しか入らないはず。

 ヘイジ君を毛嫌いしてるトカゲ君が、ヘイジ君に票を入れるわけ───

 

「ごめんね?ボクってば気まぐれで嘘つきだからさぁ…付き合ってみたくなっちゃったんだよね。青臭くて泥臭い理想論に♪」

 

 そう言ってトカゲ君は、飄々とした笑顔を浮かべながらヘイジ君の隣に立った。

 何これ…どうなってるの…!?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 アヤカは、俺の隣に立ったトカゲを、信じられないといった表情で見ていた。

 正直俺も、トカゲが俺に協力してくれたのはすごく意外だった。

 俺とトカゲは、分かり合えないと思ってたから。

 

 だけど、分かる気がした。

 トカゲの、メイさんを守りたいって気持ちは、決して嘘じゃないと思った。

 トカゲにとってのメイさんが、俺にとってのヒヅルだった。

 その一点においてだけは、互いに分かり合える仲間だと思ったから。

 だからこそ、『正解』に辿り着けた。

 

「言っただろ?男は、惚れた女の為なら何だってできるって。それがたとえ、自分を曲げて、アンタを敵に回す事であってもね」

 

「っ………」

 

「ねぇアヤカさん。ボク達、やっぱり似た者同士だね」

 

 トカゲが飄々とした笑みを浮かべながら言うと、アヤカは眉間に皺を寄せる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

トカゲside

 

 14ターン目の投票時間、ヘイジ君が僕に話しかけてきた。

 

「トカゲ…アンタ、本当は『♡K(はあとのきんぐ)』の言いなりになんかなってないんだろ?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

「ヒヅルが教えてくれた。アンタは1ターン目からずっと、オレ達の味方でいてくれていた。さっきのターンも、『♡K(はあとのきんぐ)』に投票したのはアンタじゃない。アンタは、『♡K(はあとのきんぐ)』に操られて投票したメイさんを庇ったんじゃないのか?」

 

「………」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 8ターン目、僕はヒヅルちゃんにヘイジ君に投票するよう説得された。

 

「アンタさ…本当は殺し合いを止めようとしてたんじゃないの?」

 

「何の事?」

 

「…だって、トドロキが『おうさま』になった時、アンタ見るからに不機嫌そうだったから。それで気付いた。アンタがトドロキの仲間になったのは、殺し合いに加担する為じゃなくて、トドロキ陣営の奴等を味方につけて『げぇむ』を平和的に『くりあ』する為だったんじゃないかって」

 

「それで?キミはボクを善人だとでも思いたいの?」

 

「違う。でも、わかるんだよ…アンタもきっと、オレと同じだから。オレは、何の見返りも求めない優しさが怖かった。だけどヘイジがオレを助けてくれたから、オレはもう一度人を信じる事ができたんだと思う。もしアンタに誰かを生かしたい気持ちがあるなら…その気持ちを、ほんの少しだけ、ヘイジにも向けてあげてほしい」

 

 ヒヅルちゃんは、頭を下げて僕に頼み込んできた。

 そんなに、ヘイジ君の事が大事なんだね。

 

「そんなに簡単に人を信じていいのかな。彼が『♡K(はあとのきんぐ)』かもしれないのに」

 

「誰が『♡K(はあとのきんぐ)』かなんて知るか。そんなの、この『げぇむ』においては何ら重要じゃない。この『げぇむ』で探さなきゃいけないのは、命を懸けてでも生かしたいと思える『誰か』…オレにとっては、それがヘイジだから」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ボクはね、弱い人間なんだよ。死にたくないという気持ちを、それでもメイさんを守りたいというわがままを、『♡K(はあとのきんぐ)』に弄ばれた。キミのように、強く正しくは生きられない。笑いたきゃ笑えよ」

 

 僕は、弱い人間だ。

 ヘイジ君のように、強くは生きられない。

 僕がトドロキと組んだのは、僕はトドロキが『♡K(はあとのきんぐ)』なんじゃないかと思っていたからだ。

 トドロキと手を組んだフリをして、クロダさん達を説得してトドロキの支配から解放すれば、この『げぇむ』を平和的に終わらせられるんじゃないかと思っていた。

 

 とんだ思い上がりだった。

 僕は、トドロキさえをも操る『♡K(はあとのきんぐ)』の影に気づけなかった。

 メイさんやアカマツさん、クニエダさんがずっと前から『♡K(はあとのきんぐ)』に操られていたというのに、結局彼等の洗脳を解く事ができなかった。

 守らなきゃいけないはずのメイさんを、こんなくだらない殺し合いに巻き込んだ。

 

 最後までヘイジ君に投票し続けたのは、僕とは違って『♡K(はあとのきんぐ)』に踊らされずに足掻き続けていたお人好しの彼には死んでほしくないという、自分本位のわがままだ。

 結局僕も、『♡K(はあとのきんぐ)』の掌の上で踊らされていただけだった。

 

「オレはずっと、アンタがこの『げぇむ』で他の『ぷれいやぁ』が殺し合うのを楽しんでいるものだと思ってた。でも、違ってた。アンタは、オレ達の見えないところで、トドロキさんや『♡K(はあとのきんぐ)』と戦ってたんだろ?」

 

「…………」

 

「アンタはアヤカの洗脳を受けていなかった。アンタは、トドロキさんと手を組んだフリをして、殺し合いを止めようとしていたんだ。だけど、アンタ以外は既にアヤカの息がかかっていたから、トドロキさんを止める事ができなかった。アンタだって、理不尽な殺し合いにずっと足掻き続けてたんだろ」

 

「…そう思いたいなら、そう思えばいいんじゃない?どのみち、今となってはわからない事だよ」

 

「オレは、アンタを嗤わない。アンタは、オレと同じだから…」

 

「同じ?ボクが、キミと?」

 

「オレもアンタも、同じ弱さを持ってる。弱いなりに、大事なものを守りたいと思ってる。その気持ちだけは、嘘じゃないと思うから…オレは、アンタを信じるよ」

 

 ………やっぱり、ヘイジ君とは到底分かり合えそうにない。

 僕は、彼のように正しく生きられない。

 だけど、僕にとってのメイさんが、ヘイジ君にとってのヒヅルちゃんで、ヒヅルちゃんにとってのヘイジ君だった。

 それだけは理解できる気がしたから、たとえ無駄に終わったとしても、彼の泥臭い理想論に付き合うと決めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

メイside

 

 2ターン目の時、私がシャワーを浴び終えると、アヤカさんが私にタオルを差し出してくれた。

 

「酷い事されたわよね…あたしの前では泣いていいのよ」

 

「すみません…ありがとうございます」

 

 アヤカさんは、泣きじゃくる私の背中を撫でてくれた。

 本当に、優しくて良い人だと思った。

 するとアヤカさんが、耳元で私に囁いてくる。

 

「……ねぇ。ショーゴの奴、殺さない?」

 

「え…?」

 

「これ以上アイツが好き勝手する前に、『しょけい』して殺すのよ。ヘイジ君は皆で『くりあ』しようなんて甘い事言ってるけど、次アイツに『おうさま』を取られたら、あなたがまた傷つくかもしれないのよ。女の子が他にもいるのに、放置するわけにはいかないでしょう?アイツがまた『めいれい』で他の『ぷれいやぁ』を傷つける前に、殺しておいた方がいいと思わない?」

 

「…………」

 

 アヤカさんは、一緒にショーゴを殺そうと言ってきた。

 アイツの事は殺してやりたいし、『殺し合いはダメだ』なんて甘い事を言ってるヘイジさんの事なんか信用できない。

 だけど今の私じゃ、『おうさま』を獲得してアイツを殺すなんてできない。

 

「…それにアンタ、アイツに復讐したいんじゃないの?」

 

「え……?」

 

「アタシに考えがあるわ。ねぇメイちゃん。アタシのお願い聞いてくれる?」

 

「アヤカさん……」

 

 アヤカさんは、ばち、と瞬きをする。

 私は、自然と彼女の視線と声に惹きつけられた。

 彼女の言う事なら信用できると思った。

 

「大丈夫よ。アタシは、あなたの味方だから。アタシの前では、いい子ぶらなくていいのよ」

 

 アヤカさんは、私の全てを理解してくれる。

 アヤカさんを信じていれば、何も悪い事は起こらない。

 私は、アヤカさんに従うと決めた。

 

 私はまず、アヤカさんに『ヘイジ君の仲間のフリをしつつ、トカゲ君の仲間になりなさい』と言われた。

 『トカゲ君はあなたの事が気になってるみたいだから、頼み込めば必ず仲間にしてくれる』とも言っていた。

 私はアヤカさんの言う通り、トカゲ君に『仲間にしてほしい』と頼み込んだ。

 そうしたらトカゲ君は意外にもあっさり私を仲間にしてくれて、私が『おうさま』になる為に皆で私に投票する話にも賛成してくれた。

 全てが、アヤカさんの言う通りになった。

 

 その後のターンも、アヤカさんの言う通りにした。

 私は、アヤカさんが伝えた『なんばぁ』に投票した。

 アヤカさんが、トドロキ陣営の人達は危険だと言ってたから、アカマツさんとグルになってクロダさんを吊った。

 最初は人を殺す事に抵抗があったかもしれないけど、そんな抵抗はすぐに吹き飛んだ。

 

 私はアヤカさんを信じる。

 たとえ他の『ぷれいやぁ』が何人死んだとしても。

 

 

 

「…メイさん。ここまで、ボクのわがままに付き合ってくれてありがとう。こんなくだらない殺し合いに巻き込んで、本当にごめん。……それから、ボクはメイさんの事をわかったつもりになって、何もわかっていなかったね」

 

 前回のターンでアヤカさんに投票した後、私はトカゲ様に呼び止められた。

 トカゲ様は、本気で私を『げぇむくりあ』させようとしてくれている。

 だけど、私はトカゲ様じゃなくてアヤカさんについていく。

 たとえ彼女…いえ、彼が『♡K(はあとのきんぐ)』でも構わない。

 アヤカさんだけが、本当の私を理解してくれた。

 私にはもう、アヤカさんしかいないの。

 

「今更、ボクの事を信用してくれなんて言わない。誰に投票するかは、キミが自分で決めろ」

 

「え……?」

 

「キミはもう、誰かの言う事を聞いて生きる必要なんか無い。ボクの事も信用できないなら、それでいい。キミが信じたいと思うものを、自分の頭で考えて見つけてくれ。キミはキミの、生きたいように生きていいんだ」

 

 トカゲ様は、私に『生きたいように生きていい』と言ってくれた。

 アヤカさんは、一度もそんな事を言ってくれた事はなかった。

 私の事を理解してくれるアヤカさんに依存して、自分の頭で考える事を放棄して、散々殺し合いに加担してきた。

 トカゲ様は本気で私の為を思って『げぇむ』を終わらせようとしていたのに、私はずっとそれを邪魔していた。

 

 ようやく、気がついた。

 私は、信じる人を間違えてたんだ。

 私を理解してるかどうかなんて、()()()()()()()()

 ただ、私を対等に見てくれるトカゲ様の事を、信じなきゃいけなかったんだ。

 

 今からでも、信じていいのなら…私はトカゲ様を信じる。

 こんなどうしようもない私を助けてくれた彼にだけは、生きていてほしいから。

 

「……トカゲ様。私は、ヘイジ君に投票します。だって、あなたが、そうしたそうな顔をしてたから」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「トカゲも、メイさんも、アンタが思ってるほど心の弱い人じゃなかった。トカゲとメイさんの気持ちをみくびったアンタの負けだ」

 

 俺は、トカゲがアヤカの魂胆に気付いていた事、そしてメイさんはアヤカの都合のいい駒なんかじゃなかった事をアヤカに突きつけた。

 するとアヤカは、観念したように乾いた笑いをこぼした。

 

「ははっ…確かに……アタシ達、似たもの同士だわ」

 

 そう言ってアヤカが笑ったその時、アイが無表情で言った。

 

『今回の『どれい』は、『♡K(はあとのきんぐ)』様。『めいれい』の内容は…『しょけい』』

 

 アイが言うと、アヤカはふぅっとため息をつく。

 俺は、アヤカを殺す『めいれい』をセットした。

 『♡K(はあとのきんぐ)』を殺さない限り、この『げぇむ』は終わらない。

 これは……仕方のない事だったんだ。

 

「あーあ、負けちゃった。アイ、ごめんね。最後まで守ってあげられなくて」

 

「…いえ。私は、どこまでもあなたにお供すると決めましたから。本望です」

 

「ははっ、アンタってホントいい女よね」

 

 アイが珍しく微笑みながら言うと、アヤカは眉を下げて笑った。

 二人は、これっぽっちも互いの事を恨んではいなかった。

 その時、床の穴が、処刑場への門が開いた。

 アヤカは、アイを抱きしめて、そのまま二人一緒に処刑場へ飛び降りようとする。

 

「待ってくれ!」

 

 俺は思わず、アヤカとアイを呼び止めた。

 俺は、『げぇむ』の最中に気付いた事をアヤカに尋ねる。

 

「アヤカ。これはオレの勘だけど…アンタらは、元々はオレ達と同じ『ぷれいやぁ』だったんじゃないのか?」

 

 俺が尋ねると、アヤカは僅かに目を見開く。

 その反応は……やっぱり、そうだったのか。

 やっぱりアヤカ達『今際の国』の国民は、元々俺達と同じ『ぷれいやぁ』だったんだ。

 アヤカが正体を明かした時から、薄々そんな気はしていた。

 

「アンタらは、前回の『ねくすとすてぇじ』を『くりあ』して、『今際の国』の国民になったんじゃないのか?絵札の『げぇむ』を全部『くりあ』したら、今度はオレ達が『今際の国』の国民として永遠に終わらない殺し合いをする事になる。本当に…そんなのが、オレ達の求めている『答え』なのか…!?」

 

 俺が尋ねると、アヤカはクスッと笑って口を開く。

 

「その質問には答えないわ。『どれい』が聞いてあげられる『おうさま』の命令は一つまで。アタシには、アンタの質問に答える義務はない」

 

 アヤカは、これから『しょけい』を受けるというのに、余裕の笑みを浮かべていた。

 …どうしてだろう。

 俺達はアヤカに勝ったはずなのに、全くそんな気がしない。

 

「アヤカさん」

 

 今度はトカゲが、アヤカに声をかけた。

 

「ボク達は、『げぇむ』でアンタらに勝った。だけどボクは、最期まで一途に愛を貫き通すアンタらの生き方を、誰よりも羨ましいと思うから……この勝負は、アンタらの勝ちだよ」

 

 トカゲは、純粋にアヤカとアイの生き方に敬意を表して脱帽した。

 するとアヤカは、クスッと微笑む。

 

「ありがとう」

 

 トカゲの言葉に微笑むアヤカの顔は、後悔や恐怖といった負の感情が一切なく、気高く美しかった。

 トカゲの言葉を聞いて、俺が全くアヤカに勝った気がしない理由が分かった。

 俺達は、ただただ『げぇむ』の『くりあ』条件を満たしただけで、本当の意味でアヤカに勝ったわけじゃない。

 そもそもアヤカを追い詰めたのだって、ミズキ君のタブレットを使った変則技で無理矢理『おうさま』を勝ち取っただけであって、言ってしまえばズルして勝ったようなものだ。

 むしろ俺達は、ずっとアヤカに負けてた。

 

 俺達は、思い通りにいかなくて葛藤して、自分の生き方を曲げまくってやっとアヤカに『げぇむ』で勝った。

 でも当のアヤカは、今の今まで一切自分の生き方を曲げなかった。

 実質、この勝負はアヤカの勝ち逃げだ。

 

《ここで、『しょけい』の対象となった参加者がおられます。その参加者は……『げぇむおおばぁ』》

 

「『ぷれいやぁ』の皆様、『げぇむくりあ』おめでとうございます」

 

「皆ありがとう。おかげで、今までで一番楽しかったわ…外はまだまだ危険だらけだけれど、頑張って生きるのよ。アタシ達はいつだって、あなた達の未来を祝福してる」

 

 ……やめてくれよ。

 敵に塩を贈るなんて…

 せっかく、『『げぇむ』だから仕方ない』って割り切ろうとしたのに…

 

 おかげで、俺…アンタらにまだ、生きてほしいって思っちまったじゃねぇかよ。

 やっぱり俺…一生アンタらを超えられそうにねぇよ。

 

「…よし、行こっか」

 

 アヤカはふぅっと息を吐いてアイと一緒に処刑場に飛び降りようとする。

 だがその時、トドロキさんがアヤカの脚にしがみついた。

 

「ま…待ってくれ!!亜弥…!」

 

 トドロキさんは、アヤカの脚にしがみついて離れようとしなかった。

 トドロキさんにはまだ、アヤカの事が本当に自分の娘に見えていた。

 そんなトドロキさんを見て、アヤカはふぅっと深く息を吐きながら目を閉じ、ばち、と目を開いた。

 トドロキさんの娘になりきったアヤカは、泣き崩れるトドロキさんに笑顔で話しかけた。

 

「お父さん、ありがとう。あたしに会いに来てくれて。あたし、あの時お父さんを生かした事、ちっとも後悔してないよ」

 

 そう言ってアヤカは、トドロキさんの前でしゃがむと、そのままトドロキさんにハグをした。

 トドロキさんは、泣きながらアヤカを強く抱きしめた。

 

「亜弥ぁ…頼むから、もうオレを一人にしないでくれ…!!オレは…お前が生きてさえくれればそれで良かったんだ…お前がいなくなったら…オレは、何の為に生きていけばいいんだ…!!」

 

「じゃぁ…ね。あたしの分まで生きてね。大好きだよ、お父さん」

 

 そう言ってアヤカは、トドロキさんの背中を軽く叩くと、優しくトドロキさんを引き剥がしてから立ち上がった。

 そして、ばち、と瞬きをしてさっきまでのアヤカに戻ると、俺達に微笑みかける。

 

「バイバイ皆。愛してるわ♡」

 

 そう言い残して、アヤカはアイと抱きしめ合ったまま、自ら処刑場へと飛び降りた。

 アヤカを追いかけようとするトドロキさんの目の前で、処刑場の扉が閉まった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アイside

 

 物心ついた時から、私は『いらない子』だった。

 大物芸能人が一般人女性と不倫をして、その時孕ませられた女性が、子供の父親に認知してもらえずに、一人で子供を産んで育てた。

 自分で話していても吐き気を催すエピソードだけど、そうして産まれたのが私。

 

 私の家は母子家庭で、母親がろくに働かないから貧乏だった。

 おまけに私の母は、家事もろくにしなかったから、家の事は全部私がやっていた。

 しかもアイツは、遊ぶ金欲しさに、当時まだ幼かった私に売春をやらせてきた。

 まああれに関しては、自分の人生を狂わせた私への恨みもあっただろうけど。

 

 学校では、貧乏を理由にいじめられた。

 家にも、学校にも、私の居場所なんか無かった。

 

 私が中学3年生の頃、母親が薬物中毒で呆気なく死んで、私は親戚の家に引き取られた。

 本当の娘じゃない私は、家の中ではほとんど空気だった。

 家族に迷惑をかけないように、国立大の附属高校に進学した。

 高校でも、大学でも、私はいらない子扱いだった。

 

 私の居場所は、どこにあるんだろう。

 私を必要としてくれる人は、いるんだろうか。

 

 

 

「生きる理由が無いなら、アタシがアンタの生きる理由になるわ。アタシと、お友達になりましょう」

 

 『今際の国』に迷い込んで初めて参加した『げぇむ』で、アヤカさんはそう言ってくれた。

 アヤカさんは、死の恐怖に怯えていた私に希望を与えてくれた。

 生まれて初めて、私を必要としてくれる人に出会えた。

 生まれて初めて、誰かの為に生きたいと思えた。

 私にとって、アヤカさんだけがこの国で生きていく理由だった。

 

 

 

《おめでとうございます。ただ今を持ちまして、()()の全ての『げぇむ』が『くりあ』されました。これより、生き残った『ぷれいやぁ』の皆様全員には、この『今際の国』の国民となって()()の『げぇむ』に参加する事が出来る『永住権』を、取得するか放棄するかの選択が与えられます。それぞれがお答え下さい。この国に永遠に身を置き、これからも殺し合いを続ける権利を、『手にする』か『手にしない』かを》

 

「勿論、オレは『手にする』ぜ。こんなご機嫌な『げぇむ(ショー)』を最前列で楽しめるなら、もう元の世界になんて戻れねぇよなぁ!!」

 

「先輩も物好きですね。でもまぁ、アタシも『手にする』わ。とってもカワイイものが見られそうだし♪」

 

「私も…アヤカさんがそれを望むのなら、永住権を『手にします』」

 

 全ての『げぇむ』を『くりあ』して永住権を手にするか手にしないかの選択を迫られた私は、アヤカさんと一緒に永住権を手にした。

 私は、アヤカさんと、アヤカさんに出逢わせてくれたこの国が好き。

 大好きなこの世界を、アヤカさんの為に生きる事が、私の幸せ。

 

 

 

「んじゃ最後!『♡K(はあとのきんぐ)』やりたい人!」

 

 私達が『今際の国』の国民になってから最初に行ったのは、『げぇむ』の配役決めだった。

 絵札の『げぇむ』は、皆それぞれ自分が『くりあ』した絵札を担当する事になったのだけれど、唯一、シーラビさん、クズリューさん、キューマさん、ミラさん、イバラさんの5人で倒した『♡K(はあとのきんぐ)』だけは、誰も立候補しなかった。

 

「ウッソ、誰もいないワケ!?」

 

「『♡K(はあとのきんぐ)』は私達が『くりあ』したからな。誰か適任がいるといいんだが…」

 

「えー、どうする?空席作っちゃまずいよね?」

 

 クズリューさんが言うと、キューマさんはまだ立候補していない私達を見て困り果てる。

 『♡K(はあとのきんぐ)』をやりたいと自ら名乗り出る人はいなかった。

 私もそうだ。

 『♡K(はあとのきんぐ)』なんて大役、私には荷が重すぎる。

 …というかそもそも私、女だし。

 多分皆、私と同じ事を思ったんだと思う。

 そんな中、私は手を挙げて言った。

 

「あの。私、推薦したい人がいるんですけど」

 

「…誰だ?」

 

「アヤカさんです」

 

 私が手を挙げると、シーラビさんが訊いてきたので、私はアヤカさんを指した。

 するとアヤカさんは、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「えー、アタシヤダよ!そんな大役引き受けるの!アタシはミラお姉様かエンジ先輩のヘルプでいいわ」

 

「アヤカさんの補佐は私がやります。『♡K(はあとのきんぐ)』は、アヤカさんでいいですか?」

 

「アイちゃ〜ん、アタシの話聞いてた?」

 

 私は、アヤカさんが露骨に嫌がっているのを無視して話を進めた。

 『♡K(はあとのきんぐ)』を撃破した5人が賛成しないと話が進まないと思ったけど、5人とも意外にもあっさり私の推薦に賛成した。

 

「私は賛成よ。だって彼、私より『(はあと)』の才能あるもの」

 

「ミラがそう言うならオレもいいぜ!THE AWESOME GAME(最高にイカした『げぇむ』)にしてくれそうじゃねぇの!」

 

「私も、アヤカちゃん本人がいいならいいですよ。アヤカちゃんの作る『げぇむ』、とっても楽しそう♪」

 

 特にミラさん、キューマさん、イバラさんの三人は、あっさり私の推薦を受け入れてくれた。

 そんな中、クズリューさんがアヤカさんに尋ねる。

 

「アヤカといったな。君は元の世界で何をしていた?」

 

「え、昼間は心理学の講師やってて、夜はクラブで働いてたけど」

 

「…いいだろう。私も、異論は無い」

 

「オレも…他に適任がいないならアヤカ(オマエ)で構わない」

 

「マジかぁ〜…でも、ここで引き受けなきゃ()()()()ってもんよね。やってやろうじゃないの!」

 

 クズリューさんとシーラビさんも賛同すると、アヤカさんは『♡K(はあとのきんぐ)』を引き受けた。

 そして、初めての『ねくすとすてぇじ』の日。

 

「とは言ったものの…なぁんでアタシみたいな下っ端が『♡K(はあとのきんぐ)』になっちゃったのかしらね」

 

「クソくだらない愚痴はどうでもいいんで早く段取りを確認しましょう」

 

「アンタ割とアタシに厳しいわよね」

 

 愚痴をこぼすアヤカさんを私が諌めると、アヤカさんが露骨に嫌そうな顔をする。

 アヤカさんは、自分が引き受ける事になった『♡K(はあとのきんぐ)』のタペストリーが吊るされた飛行船を見上げながらポツリと呟いた。

 

「でもホント、フクザツだわ。『♡K(はあとのきんぐ)』なんてアタシには不相応よぉ。アタシ、『♡Q(ミラお姉様)』より立場弱いし。なのになんでこんな大役引き受けちゃったのかしらね〜。アタシ、『キング』って柄じゃないのに」

 

 …アヤカさん、違うんですよ。

 私は、何も人心掌握の才能だけであなたを推薦したわけじゃない。

 あなたは、あまりにも優しすぎるから、人の苦痛を自分の苦痛のように感じてしまう。

 だけどあなたのその優しさが、無邪気さが、(わたし)の心を動かした。

 これだけはわかる。

 誰よりも人の心がわかるあなたなら、きっと誰よりも素晴らしい『♡K(はあとのきんぐ)』になる。

 

「アタシの作る『げぇむ』はさ。拍子抜けするくらいに簡単で、純愛とほんの少しの勇気で乗り越えられる、そういう『げぇむ』にしたいのよ。もしアタシ達を倒す『ぷれいやぁ』が現れたとしたら、それはきっと、誰よりも誰かを大切に思える人だと思う。だって『(はあと)』は、愛のシンボルでしょ?」

 

 アヤカさんは、両手を腰に当てて誇らしげに言った。

 これがただ単に『ぷれいやぁ』の命を弄んで楽しむだけの下衆野郎なら、どんなに簡単に敵意を抱けただろうか。

 アヤカさんは、今までに殺した『ぷれいやぁ』の顔も、名前も、好きだったものも、全部覚えてる。

 命の奪り合いをしなきゃいけないはずの人達の事が、本当にただただ大好きだったんだ。

 

 アヤカさんは、この『げぇむ』で命を落とした全ての『ぷれいやぁ』の人生に、敬意と愛情を向けてきた。

 強くて、気高くて、誰よりも可愛い人。

 

 アヤカさん。

 『♡K(はあとのきんぐ)』に相応しいのは、他の誰でもない、あなたなんですよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 アヤカさんと一緒に処刑場に飛び込んだ私は、アヤカさんと手を繋いで抱き合った。

 私はこれから、激痛の中でゆっくりと時間をかけて死ぬ事になる。

 それでも、アヤカさんと一緒なら、ちっとも怖くはない。

 

「アヤカさん……」

 

 私は、アヤカさんの身体に身を寄せて、アヤカさんを呼んだ。

 全身を灼熱と激痛が襲うけれど、そんなの、()()()()()()()

 私はこの国で、アヤカさんに出会って、アヤカさんを愛して、アヤカさんの為に生きた。

 私を必要としてくれたアヤカさんが、私の側にいてくれる。

 私は、世界一の幸せ者だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アヤカside

 

 最初は、ただ羨ましかっただけだった。

 自分の命を懸けて誰かを想えるって事が、愛おしくて、眩しくて、可愛かったから。

 誰よりも可愛くなって、誰かに愛されていたかった。

 そして、誰かに愛されたいと思う以上に、誰かを愛していたかった。

 

 私に挑みにくる人の中には、大切な人を失った絶望を味わった人が何人もいた。

 『ぷれいやぁ』と『今際の国』の国民との対人戦である以上は、殺し合いは避けられない。

 大好きなアイを守る為にも、私は絶対に勝たなきゃいけなかった。

 それでもせめて死ぬ瞬間までは、『ぷれいやぁ』の皆を、絶望から救ってあげたかった。

 殺されても構わないと思えるくらいに、この国に生きる皆が愛しかった。

 

 

 

 ルキヤ君、私ね。

 あなたが私を好きだって言ってくれた事、すごく嬉しかったのよ。

 あなたとお酒を飲んで、くだらない話をして笑い合ったあの時間が、私の宝物だった。

 せめて、あなたの前では正直でいたかった。

 だから私は、あなたには男だって事を打ち明けたの。

 

「カンケーねーっスよ!オレはそれでもアヤカさんの味方ですから!!ジャンジャンオレを頼ってください!!」

 

「………バカね」

 

 …本当に、馬鹿な人。

 これからあなたを殺す相手を、こんなにも大事に思えるなんて。

 もっと早く出会っていたら、あなたと共に生きられた未来もあったのかもね。

 

 

 

 私は、アイと一緒に処刑場に入って『しょけい』を受けた。

 『しょけい』を『めいれい』されれば殺される。

 『♡K(はあとのきんぐ)』の私も、それは例外じゃない。

 だけど、私を一途に愛してくれたアイが一緒にいてくれる。

 それだけで、もう何も怖くない。

 

「アヤカさん……」

 

 私の腕の中にいたアイが、私の名前を呟いた。

 思わず涙が溢れた。

 身体を焼かれる苦痛の涙でも、逃れられない死への絶望の涙でもない。

 こんな私のわがままに最期まで付き合ってくれた、アイへの感謝の涙だ。

 

 『私のせいでごめん』とか、『あなただけでも生きて』、なんて言うつもりはない。

 アイが私と運命を共にする事が本望だと言ってくれた、それだけで充分だから。

 私は、笑顔を浮かべながらアイの頬を撫でた。

 

「アイ…」

 

 意識が飛びそうになる中、私は今までの人生に思いを馳せた。

 今まで、たくさんの人を愛して、たくさんの人に愛されてきた。

 一度は呪った才能を、もう一度愛してあげる事ができた。

 大好きなアイと一緒に最高の幕引きを迎えられた。

 こんな絶望にまみれた世界だからこそ、私は私の望むように生きられた。

 私は、この『今際の国』が…このどうしようもない世界が好き。

 

「アヤカさん…」

 

 もう目が濁って何も見えない。

 全身の皮膚が焼けて、何も感じ取れない。

 私は、焼け爛れた手で、アイの身体を抱きしめた。

 

「なぁに」

 

 ……ああ、そっか。

 私は、皆の事が大好きだったんだ。

 

 私を変えてくれたミラお姉様やガモン先輩、エンジ先輩。

 

 元の世界で私に居場所を与えてくれたクラブのママと、同僚の皆。

 

 私をたくさん愛してくれたお客さん達。

 

 この国で出会った、イバラちゃんやキューマ君、クズリュー君、シーラビ君…私の、大事なお友達。

 

 命を賭して私に会いに来てくれた、今までの『ぷれいやぁ』の皆。

 

 私に家族の尊さを教えてくれたトドロキ君と、娘の亜弥ちゃん。

 

 最期にとっても可愛いものを見せてくれたヒヅルちゃん、トカゲ君、メイちゃん。

 

 私に最高の引導を渡してくれたヘイジ君。

 

 こんな馬鹿な私に最期まで付き合ってくれたアイ。

 

 皆のおかげで、今の私がある。

 今となっては、今まで出会ったもの全てが、身を焦がすこの痛みすらも、狂おしい程に愛おしい。

 

「ずっと…好き、で…す………アヤ…カ……さ………」

 

 私は今、とっても幸せ。

 好きに恋して、好きに愛して、好きに生きた。

 何一つ後悔なんか無い、最高に可愛い人生だった。

 

 

 

「アタシも、あなたが好きよ」

 

 ありがとう、みんな。

 愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

 ――バンッ!!

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 激しい音と共に、アヤカとアイの身体が爆ぜた。

 大量の血と肉片が飛び散り、モニターが真っ赤に染まる。

 

《『♡K(はあとのきんぐ)』が『げぇむおおばぁ』になりました。残った『ぷれいやぁ』は全員、『げぇむくりあ』》

 

 アヤカが死んで、『げぇむ』が終わった。

 誰も、歓喜の声は上げなかった。

 

「ズルいよ…アンタらばっかり……これじゃ全っ然、勝った気しないや…」

 

 トカゲは、アヤカとアイが落ちた穴を眺めながら、どこか哀しそうな笑顔を浮かべてポツリと呟いた。

 メイさんは、そんなトカゲを心配そうに見ていた。

 

 俺は結局、最後までアヤカを憎む事はできなかった。

 今まで散々『ぷれいやぁ』の命を弄んで奪ってきた相手なのに、殺してやりたいって気持ちが全く湧かなかった。

 

 アヤカはきっと、『今際の国』の国民になる前は、すごくいい奴だったんだと思う。

 ルキヤさんと酒を交わしながらくだらない話をして笑い合った時の笑顔も、ルキヤさんが吊られた時の涙も、決して嘘じゃないと思えたから。

 本当にいい奴だったから、俺はアヤカを最後まで疑えなかった。

 もし出会ったのがこんな形じゃなかったら、俺はアヤカと友達になれてたのかな。

 

「…ヘイジ…!」

 

 ヒヅルが声をかけるので、俺が振り向くと、絶望の表情を浮かべたトドロキさんが自分の顎にハンドガンの銃口を突きつけていた。

 

「何してんだ、やめ───

 

 俺がトドロキさんを止めようとした、その瞬間だった。

 

 

 

 ――パァン

 

 

 

「………!!」

 

 ……間に合わなかった。

 トドロキさんは、自分の顎を撃ち抜いて自害した。

 メインルームに鮮血が飛び散り、トドロキさんが力無く倒れた。

 

 トドロキさんの洗脳は、結局最期まで解ける事はなかった。

 『ぷれいやぁ』を1人でも多く『げぇむおおばぁ』にするというアヤカの目的は、皮肉にも『げぇむ』が終わった後に達成された。

 アヤカはこんな事、望んでいなかっただろうに…

 

「せっかく『くりあ』したってのに…死んだら意味ないじゃん」

 

 ヒヅルは、自殺をしたトドロキさんの方を見て言った。

 俺は、トドロキさんの遺体の瞼を閉じながら、感じた事を話した。

 

「オレはさっき、アヤカが死んだトドロキさんの娘になりすまして『ぷれいやぁ』を全滅させようとしたって言ったけど…本当にそうだったのかな」

 

「え?」

 

「オレには…ただ救いたかったように見えた」

 

 俺は、トドロキさんの遺体を見ながら言った。

 俺には、アヤカがトドロキさんを救いたかったように見えた。

 トドロキさんを操る為じゃなくて、娘を亡くした絶望を、少しでも軽くしてあげたかったんじゃないのかな。

 最期にトドロキさんに言った言葉も、きっと本心だ。

 そういう奴だったから、俺は最後までアヤカを殺すのを躊躇った。

 

「…あんまり水差すような事言いたくないけどさ。そう思わせて悩ませる事が、アイツらの狙いだったのかもよ」

 

「ヒヅル…」

 

「そうやって死んだ人間の事で悩めるのは、生きてる人間の特権だから…今は、『げぇむ』を『くりあ』できた事を喜ばないと…いけない気がする」

 

「………」

 

 ヒヅルは、アヤカの事で悩む俺を気遣ってか、俺の肩に手を置いて言った。

 アヤカとアイが極悪人であってくれれば、どんなに簡単に憎む事ができただろうか。

 『人を愛していたい』、そのたった一つの信念を、アイツらは、一ミリもブレる事なく貫き通して死んでいった。

 死んだ人も、俺達も含めて、この『げぇむ』に参加した誰もが、最後までアイツらの掌の上で踊らされていた。

 

 ………完敗だ。

 俺はきっともう、一生アイツらを越えられない。

 散々人の心と命を弄んで壊してきた奴なのに、その生き様を、美しいと思ってしまったのだから。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

 その頃、千代田区の『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』会場では。

 かつての後輩であった『♡K(はあとのきんぐ)』の脱落を知った『♡J(はあとのじゃっく)』は、頭を掻きながらため息をついた。

 

「チッ、アヤカの奴…絶対アイを守るだとか息巻いといて、真っ先に死にやがって。『ぷれいやぁ』なんかと真面目に命の獲り合いなんかするからだ」

 

 『♡J(はあとのじゃっく)』は、空になったボトルを手に持って揺らしながら、刑務所の食堂にただ一人佇んでいた。

 

「お前の事だけは最後まで、可愛い後輩だと思ってたのによ……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 同刻、港区の『♡Q(はあとのくいいん)』の『げぇむ』会場では。

 『♡Q(はあとのくいいん)』ことミラが、ビルの屋上から、落ちていく『♡K(はあとのきんぐ)』の飛行船を眺めていた。

 

「アキヨシ君…いえ……アヤカ、アイ……あなた達の愛を貫き通す生き方、私は好きだったわよ。私はあなた達の事を、妹のように思ってた」

 

 ミラは、かつての後輩だったアヤカと、その恋人のアイの事を、最後まで本当の妹のように思っていた。

 

「最期まで、カワイイものを見せてくれてありがとう」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 俺達が会場を後にしたちょうどその時、真上に浮かんでいた飛行船から吊り下げられていた幕の表示が、『♡K(はあとのきんぐ)』から『げぇむくりあ』に変わる。

 そしてその直後、飛行船が内側から爆発し、原宿の街へと墜落した。

 俺とヒヅル、トカゲ、そしてメイさんの4人は、会場の外に置いてあったレジから、『びざ』と『♡K(はあとのきんぐ)』のトランプを受け取る。

 『びざ』を受け取ったトカゲは、少し寂しそうな目をメイさんに向けて話しかける。

 

「今までありがとう、メイさん。…これでお別れだね。キミはもう、自由だ」

 

 そう言ってトカゲが去っていこうとすると、メイさんが後ろからトカゲに抱きついた。

 

「言ったはずですよ。私は、どこまでもトカゲ様についていきます」

 

「…はは、キミならそう言う気がしたよ。でもそろそろ『様』呼びはやめてくれないかな。どうも性に合わなくてね」

 

 トカゲは、『げぇむ』中の飄々とした笑顔とは打って変わって、無邪気な子供のような笑顔を浮かべた。

 するとメイさんは、頬を染めて恥ずかしそうに俯いたまま、手をいじって口を開く。

 

「わかりました…えっと……トカゲ…君」

 

 メイさんが恥ずかしそうに言うと、トカゲは目尻を下げて笑った。

 トカゲは、メイさんの手を取ると、俺達の方を振り向いて話しかける。

 

「じゃあね。またいつか、キミ達とどこかで会えるといいね」

 

「……アンタ、この短時間で随分変わったな」

 

 手を振るトカゲに対して俺が微笑みかけると、トカゲは無邪気に笑った。

 トカゲとメイさんは、二人で歩幅を揃えて『げぇむ』会場を去っていく。

 

「ヘイジ…オレ達も行こう」

 

「…ああ」

 

 この『げぇむ』で、多くの命を失った。

 だけど、死んでいった皆の思いは、俺達が紡いで生きていく。

 俺は、アヤカとアイを含めた、この『げぇむ』で命を落とした全ての人への餞として、『♡K(はあとのきんぐ)』のトランプを置いていき、ヒヅルと一緒に渋谷の街を去っていった。

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在二十八日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 62日

 小鳥遊火鶴 112日

 栗原鳳正 30日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催2日目

 

 『げぇむ』 残り9種

 

 『ぷれいやぁ』 残り217人

 

 

 

 

 

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
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