Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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いよいよすぺえどのくいいん編です。
今回は原作キャラが多数登場します。
※ドラマ版のすぺえどのくいいんとは内容が大きく異なります。ご了承ください。





すぺえどのくいいん(1)

ヘイジside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催2日目、午前6時。

 俺とヒヅルは、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に注意しつつも、束の間の平穏を満喫していた。

 俺とヒヅルが原宿の街を後にして港区との区境に向かうと、ネズミ達が俺達の帰りを待っていた。

 

「リーダぁああああ!!無事でよかったっスぁあああああ!!!」

 

「うわっ!?」

 

 俺が待ち合わせ場所に向かうと、ネズミが飛び出してきて泣きながら俺に抱きついてきた。

 

「オレ、リーダーが死んじまったらって思うと%△#◎▲※&@□ぁあい!!」

 

「落ち着け、何言ってんのかわかんねぇ」

 

 ネズミが涙と鼻水を垂らしてわんわん泣きながら俺に抱きついてくるので、俺はネズミを引き剥がした。

 三人とも無事でいてくれたのは何よりだが、抱きついてきたネズミの鼻水が俺の服についてネチョォ、と糸を引いたのはちょっと嫌だった。

 ヤヨイが、かき集めてきた食糧を俺とヒヅルに分けてくれて、5人で食事をしながら情報を共有した。

 ヤヨイ達は、俺達が『げぇむ』をしている間に色々と情報をかき集めてくれていた。

 俺とヒヅルが『♡K(はあとのきんぐ)』を攻略している間に、『♢Q(だいやのくいいん)』と『♣︎K(くらぶのきんぐ)』が陥落したらしく、今残っている『げぇむ』はあと9種だ。

 倒したのはきっと、クリハラさん達とアリス達だ。

 

「何はともあれ…無事でよかったです。ヘイジさん、ヒヅルちゃん」

 

「皆もな。…そういや、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は?」

 

「何とか撒きましたよ〜!アイツはあの後杉並方面に向かったっス」

 

 俺が尋ねると、ネズミがため息をつきながら答える。

 杉並方面か…

 ネズミ達が作った地図だと、今は『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』の近くに『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が来る可能性が高い。

 ネズミ達が参加できる『げぇむ』を探すなら、この二つはやめておいた方がいい。

 

「そっちの方に『ぷれいやぁ』が大勢逃げたのね…私達は二度も『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に遭遇しちゃってるし、一箇所に固まって動くのはマズいわよ」

 

「他の『げぇむ』参加すりゃあいいじゃん。『げぇむ』会場にいる間は『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に狙われないんだから」

 

 リナさんが言うと、ヒヅルがしれっと当然のように言う。

 ヒヅルが言うと、ネズミ、ヤヨイ、リナさんの三人が固まる。

 三人が引き攣った表情を浮かべてヒヅルを見ると、ヒヅルは片眉を上げて尋ねる。

 

「…えっ、何?オレ何かまずい事言った?」

 

「誰もがアンタみたいな気の持ちようだったら苦労しないわ…」

 

「………何かごめん」

 

 リナさんが呆れた様子で言うと、ヒヅルはいまいちピンときていない様子で謝った。

 普通はヒヅルみたいに『びざ』が残ってるのに積極的に『げぇむ』に参加しようって気にはならないんだよなぁ。

 つーか…飯食ったからか眠くなってきた。

 『げぇむ』の最中は寝られなかったからな…

 

「とりあえず、まずはちょっと寝かせてくれ…徹夜で『げぇむ』してたから眠くて…」

 

「……オレも、ちょっと眠い」

 

 俺があくびをすると、ヒヅルも目をしぱしぱさせる。

 俺は、着ていた服を脱いで、Tシャツとハーフパンツだけを着て横になった。

 するとヒヅルも、俺の目の前で服を脱ぐ。

 ヒヅルは、白と水色のストライプのスポブラとショーツだけになって、白い肌を惜しみなく晒していた。

 背が低い割にメリハリのある体格をしていて、普段は男みたいな言動をしているけど、ちゃんと女の子なんだなぁと思う。

 

 …えっ、いや、何してんの!?

 

「えっ、ちょっ、お前何してんの!?」

 

「何って…着替え」

 

「隣の部屋でしてこいよ!」

 

「オレ寝る時いっつもこの格好」

 

「いや、だから隣の部屋で寝ろって!」

 

「…やだ。寝る時離れ離れになったら、ヘイジを守れない」

 

 俺が何度言っても、ヒヅルは少しも譲らなかった。

 意地でも部屋から出て行こうとしないヒヅルに、俺の方が根負けした。

 

「わかったよ。じゃあオレがソファーで寝るから」

 

「だめ。ヘイジがベッド使って。オレがソファー使う」

 

「いや、女の子をソファーで寝させるわけには…」

 

「じゃあ平和的解決の為に同じベッドで寝る」

 

「もっとダメだろ!!」

 

 全然平和的解決じゃねーだろ!!

 何言ってんだコイツ!?

 

 俺が思わず反射的にツッコむと、ヒヅルはきょとんとする。

 

「何で?」

 

「いや、何でってお前…」

 

「だから、何で?」

 

 ヒヅルは、眉間に皺を寄せて尋ねる。

 俺は、何もわかっていないヒヅルをベッドに押し倒して、ヒヅルの上に覆い被さったまま両手首を掴んで顔を覗き込んだ。

 

「お前、こういう事されたら逃げられねぇぞ?わかってるか?」

 

 俺が言うと、ヒヅルはようやく俺が何を言ってるのかを理解したのか、僅かに目を見開いてみるみる顔を赤らめる。

 それでもヒヅルは、俺の目を見て目に涙を浮かべながら、絞り出すように言った。

 

「…ヘイジが殺されちゃうのだけは嫌だ」

 

 ……本気かよ。

 これはもう、俺が何を言っても聞かねぇな。

 

「……あーもう、わかったよ。もしオレが何かしたら、迷わず蹴っ飛ばしてくれていいから」

 

「わかった。ヘイジに何かする奴がいたら迷わず蹴っ飛ばす」

 

 本当にわかってるか…?

 俺が呆れていると、ヒヅルは寝息を立てて寝始めた。

 俺も、寝て体力を回復させておかないと…

 

 ……いや、寝れるか!!

 眠気吹き飛んだわ!!

 ヒヅルが俺の腕に抱きついてくるものだから、あちこち『ぷにっ』とか『むにゅっ』とか当たったり擦れたりして、何だか俺の方がいけない事をしてる気分になってくる。

 

 落ち着け俺、相手は中学生だぞ!?

 それに俺には、ニーナがいる。

 ヒヅルとは一緒に生きたいと思うけど、それは決して恋愛感情じゃない。

 俺はただ、ヒヅルと一緒に生きられる、それだけでいいんだ。

 

「ヘイ…ジ……」

 

 俺が必死に気を紛らわそうとしていると、ヒヅルが寝言を言った。

 ヒヅルの薄桃色の唇からは、規則的に寝息が漏れる。

 俺は、ヒヅルの小さな身体を抱きしめたまま、微睡の中に落ちた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺が次に目を覚ましたのは、昼の11時の事だった。

 だいたい5時間くらい眠っただろうか。

 

「おはよう、ヘイジ」

 

「ああ、おはよ…」

 

 ヒヅルが、俺の顔を覗き込んで話しかける。

 俺よりも先に起きていたヒヅルは、タンクトップとショートパンツを身につけていた。

 

「ねえ、ちょっと散歩しない?」

 

「えっ?」

 

「ずっとここで引きこもってたら、気が滅入るじゃん?」

 

 そう言ってヒヅルは、俺の手を引いて飛び出した。

 俺は、ヒヅルにスケボーの乗り方を教えてもらって、一緒にスケボーで少し遠くまで行った。

 

「結構楽しいな、これ」

 

「でしょ?」

 

 スケボーで遠出をした俺とヒヅルは、2人で思いっきり遊んだ。

 

 

 

「ん!この杏子めっちゃ甘い」

 

「マジか!?ヒヅル、オレにも一個くれ!」

 

「自分で獲れよ」

 

 途中にものすごい数の杏子が実ってる木があったから、2人で杏子狩りをした。

 2人で収穫した杏子の味は格別だった。

 

 

 

「わっ、今の見た?すごい跳ねた」

 

「ああ、見た!今の新記録じゃねぇ?」

 

 川で石を投げて遊んだら、ヒヅルがすごい石を跳ねさせた。

 石が30回以上跳ねたのを見て、2人ではしゃいだ。

 その後も川で遊んでいると、巨大シジミが大量に棲み着いているのを見つけた。

 

「うわっ、すげぇデケェシジミ!」

 

「ナイトスクープで林先生が調理してたよね。ジミーがめっちゃえずいてたっけ」

 

「ははっ、何だそりゃ」

 

 巨大シジミを見てヒヅルが真顔で言うので、俺は思わず笑ってしまった。

 するとだ。

 

「ぎゃっ!!」

 

 ヒヅルが、いきなり悲鳴を上げた。

 

「どうしたヒヅル?」

 

「かっ…カニ…!カニがっ…!」

 

 見ると、ヒヅルの足元に、サワガニが登ってきていた。

 ヒヅルは、震える手で俺の服の裾を掴んでいた。

 命懸けの『げぇむ』を楽しんでいたヒヅルが、たかがカニにビビっているのを見て、少しおかしくて笑ってしまった。

 ヒヅルにも、怖いものがあったんだな。

 

 

 

「牛…と、馬」

 

 もう少し遠くまで行ってみると、牛と馬が草を食っていた。

 23区の端の方は、既に草木に侵食されていて、東京とは思えなかった。

 ヒヅルは、躊躇なく牛に近づいていくと、牛の身体の下に潜り込んで乳首を握った。

 すると、勢いよく牛乳が出た。

 

「うわ、牛乳出た」

 

「天然のドリンクバーだな!」

 

 俺とヒヅルは、たまたま見つけた牛の乳を搾って飲んだ。

 元の世界でいつも飲んでたスーパーの牛乳とは比べ物にならないくらい、濃くて甘かった。

 搾りたての牛乳を堪能したヒヅルは、今度は馬に乗って街を駆け回った。

 

「ハイヨー、シルバー」

 

「危なくないのかそれ?」

 

「知らん、何か乗れた」

 

 ヒヅルは、どういうわけか、さっき見つけたばかりの馬を乗りこなしていた。

 

 

 

 散々遊んだ俺達は、今度は別のルートを通って帰ろうとした。

 すると、ヒヅルが突然足を止める。

 

「…ん」

 

 ヒヅルは、鼻をつまんで顔を顰めた。

 

「今度はどした?」

 

「……臭い」

 

「えっ、マジ?」

 

 俺は慌てて、自分の臭いを確認した。

 するとヒヅルは、俺にジト目を向けてくる。

 

「……そうじゃなくて。何か腐った卵みたいな臭いがする……硫黄…?近くに温泉でもあるのかな…」 

 

 …マジか。

 俺とヒヅルは、顔を見合わせる。

 

「…行ってみるか」

 

「……だね」

 

 俺とヒヅルは、一緒に匂いの元を辿った。

 俺達が行き着いたのは、倒壊したスタジアムだった。

 スタジアムの中心からは、温泉が湧き出ていた。

 湧き出ている温泉に夕陽が当たって、小さな虹ができていた。

 

「……温泉…ホントにあった…」

 

 湧き上がる温泉を見て、ヒヅルは僅かに目を見開いていた。

 …いや、すげぇよこれ。

 スタジアムが丸ごと温泉になってら…

 もしかしたら入れるかもと思って、温泉に手をつけてみた。

 

「あっつ!これ、熱くて入れねぇよ!」

 

「ヘイジ…ここ、熱くない…!」

 

 ヒヅルが手をつけたところに手をつけてみると、ちょうどいい湯加減だった。

 せっかくだしひとっ風呂…

 なんて考えた、その時だった。

 

「よいしょ」

 

 ヒヅルが、いきなりタンクトップを脱ぎ始めた。

 は!?

 えっ、嘘だろ!?

 

「ちょっ、お前何してんの!?」

 

「…せっかく温泉見つけたから…入ろうと思って」

 

「だからっていきなり脱ぐ奴があるか!…ああもう、オレが向こう行きゃあいいんだな!?」

 

 俺は、ヒヅルに背を向けて、出来るだけヒヅルから離れた。

 『げぇむ』で疲れた心と身体を癒す為に、温泉に浸かった。

 

 …すげぇ気持ちいい。

 心が洗われるとは、まさにこの事だ。

 やべぇこれ、寝ちまいそう…

 

 俺がうとうとしていると、後ろからバシャバシャと音が聴こえる。

 流石に音が気になったので振り向いてみると、瓦礫の上に座って足だけ温泉に浸けたヒヅルが、鳥と戯れていた。

 神秘的な光景に思わず目を奪われていると、ヒヅルと目が合った。

 ハッとしたヒヅルが慌てて温泉の中に飛び込んだものだから、俺は慌てて背中を向けた。

 

「わっ、ご、ごめん!!」

 

 俺が慌てて謝ると、ヒヅルと遊んでいた鳥達がバサバサと羽音を立てて飛び立った。

 アホか俺は、何やってんだ…!

 俺がヒヅルに背を向けて邪念を取り払おうとしていると、ヒヅルが後ろから声をかけてくる。

 

「気にしてないから…そっち行ってもいい?」

 

「えっ!?」

 

 ヒヅルは、俺の後ろにピッタリとくっついてきた。

 いや、それは流石にまずいんじゃないですかね…!?

 俺が平常心を保てずにいると、ヒヅルが俺に話しかける。

 

「何かさ…前にもこんな事あったよね」

 

「その節は本当にすみませんでした…」

 

 俺は、『おにごっこ』の後に着替え中のヒヅルの裸を見てしまった事を思い出した。

 あれがきっかけで、ヒヅルが女の子だって事を知ったんだよな…

 

 …俺は、仲間の事すら、知った気になって何も知らなかった。

 俺なんかじゃ遠く及ばないすごい奴も、人間のクズみたいな下衆野郎も、何を信じればいいのかわからなくなって自暴自棄になってた奴も、皆『人間』だった。

 皆が皆、葛藤を、弱さを持ってる。

 『今際の国』の国民でさえも。

 

 『げぇむ』に参加するって事は、生き延びる事と引き換えに、『人』を殺すって事だ。

 『答え』もわからないままただ闇雲に人殺しを続ける事が、本当に正しい事だって言えるのか…?

 

「…ヒヅル。お前はまだ、『げぇむ』に参加したいか?」

 

 俺は、ヒヅルに背を向けたまま尋ねる。

 『♡K(はあとのきんぐ)』を『くりあ』してからずっと、ヒヅルに訊けなかった事だ。

 

「オレは正直、わからないでいる。このまま『げぇむ』に参加し続ける事が、本当に正しい事なのか…」

 

「ヘイジ……」

 

「……オレ、アヤカを見て、わかったんだよ。『今際の国』の国民も、オレ達と同じ『人間』だったんだって。アイツらにも、挫折や葛藤があって、守りたいものがあった。もし、全ての『げぇむ』を『くりあ』した先に待っている『答え』が、今度はオレ達が『今際の国』の国民になって新しい『ぷれいやぁ』達と殺し合いをする事だったとしたら?殺戮の権利を手に入れる為だけに、『人』を殺す事が、本当に────」

 

 俺がその先を言おうとした、その時だった。

 いきなり、ヒヅルがバシャッと俺の背中にお湯をかけてきた。

 

「わっ!?な、何すんだよ!?」

 

「油断してるから」

 

 俺が振り向くと、ヒヅルは何度も俺の顔面にお湯をかけてくる。

 大事な話してる時にふざけんなって…!

 

「うわっ、ちょっ、やめろって!このっ!」

 

 流石に一方的にやられすぎていい気分がしなくなってきたので、俺も一回やり返した。

 するとヒヅルは、今度は手で水鉄砲を作って俺の目をピンポイントで狙ってくる。

 そこからは、何かお湯の掛け合い合戦みたいになった。

 いい歳して10歳も歳下の女の子相手にムキになるのも恥ずかしいもんだが、何だかヒヅルと張り合っているうちに、さっきまで抱えていた迷いが薄れてきたように思える。

 俺が大事な話をしていたのを忘れかけてきた頃、ヒヅルが口を開く。

 

「オレ達さ…このタイミングで『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が来たら絶対殺されるよね」

 

「………そうだな」

 

 さっきまで散々俺にお湯をかけてきたヒヅルが急に大人しくなって言うので、急に恥ずかしさが込み上げてきて、思わず顔を逸らす。

 するとヒヅルが続けて言った。

 

「……でもさ、何でだろう。今日死んじゃうかもしれない、なんて事は微塵も思わないんだ。仮に今ここで『♠︎K(ヤツ)』が来ようが、絶対に勝つつもりで挑む。生きる為には一度の負けも許されないから、自分が一番強いと信じて生きてきたし、この先もそうやって生きていく。たとえその先に待つ結末が、『今際の国』の国民に成り代わる事だったとしても、オレは一向に構わない」

 

「お前らしいな…」

 

「勝ち残る為に戦って、何が悪いの?少なくともオレは、生き残る為に必死に戦ってるヘイジが間違ってるとは思わない」

 

「ヒヅル…」

 

「ヘイジはヘイジの正しいと思った道を進めばいい。オレだってそうしてるし…オレは、ヘイジが生きてくれればそれでいいから」

 

 俺が振り向くと、ヒヅルは俺の目を見て言った。

 

 ……そうだ。

 思い出した。

 俺は、ヒヅルと一緒に生きるって約束したんだ。

 それがどんなに過酷な道だったとしても、俺は、ヒヅルと…この国で出会った皆と生きる未来を諦めたくない。

 

 俺は、ヒヅルの身体に抱きついて、頭と腰に手を回して力強く抱きしめた。

 勢い余って後ろに倒れそうになるヒヅルの身体を、抱き寄せて支えた。

 

「……ヒヅル。決めたよ。オレは、『げぇむ』に参加する」

 

「ヘイジ…」

 

「どんなに残酷な『答え』が待ち受けていたとしても、オレはお前と…この国で出会った皆と生きる未来を諦めたくない。ここで一生『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に怯えながら過ごすくらいなら、オレはたとえどんなにこの手を血で汚したとしても、生き延びられる可能性に賭ける。どのみち誰かがやらなきゃいけないなら、オレがやる。オレは、何もしなくても誰かが『くりあ』してくれるなんて、これっぽっちも思ってないから…」

 

 俺は、絵札の『げぇむ』を全て『くりあ』するまで、『げぇむ』に挑戦し続ける。

 たとえ生き残っているのが俺とヒヅルだけになったとしても、最後まで諦めたくない。

 その先に待ち受けているのが残酷な『答え』だったとしても、俺は俺の大切な人達と生きられるならそれでいい。

 

 誰もやらないなら、俺がやる。

 ここで一生怯えて過ごすくらいなら、今生き残っている『今際の国』の国民を全員この手にかけてでも、俺は皆と生きる未来を勝ち取りたい。

 そうでなきゃ、アヤカにも、今まで死んでいった皆にも失礼だ。

 この命がある限り、俺はこの国の試練と戦い続ける。

 

「…やっぱり、変だね。オレ達」

 

 俺がヒヅルの身体を抱きしめながら言うと、ヒヅルは珍しく微笑みながら口を開いた。

 

「奇遇だね。オレも、全く同じ事考えてた。何もせずに死を待つくらいなら、オレは最後まで戦う。お前の望む未来を、オレも一緒に生きたいから」

 

 そう言ってヒヅルは、俺の肩に手を添えてくる。

 俺は、ヒヅルの髪を撫でながら、背中に回した右腕でヒヅルを抱き留めた。

 願わくば、この幸せな時間がもう少しだけ続いてほしい、そう思った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、俺とヒヅルは談笑しながら着替えた。

 

「…気持ちよかった」

 

「そうだな」

 

 ヒヅルは、普段は白い肌をほんのりと赤らめて、リュックに入っていたタオルで髪を拭いていた。

 ちゃんと温泉を堪能できたみたいだ。

 

「まだちょっと怠い」

 

「ああ…うん」

 

 気持ちよかったのはいいけど、ヒヅルは少しのぼせちまったみたいだ。

 ちょっと長居しすぎたかな。

 

「…うまく歩けない」

 

「ん…」

 

 のぼせてるからね。

 

「……ヘイジさ、結構激しかったよね」

 

「…お前、わざとやってんな?」

 

 何でいちいち誤解を招くような言い方をするんだ。

 いや、ヤってないからね?

 多分これ、お湯の掛け合いの話だから。

 

「………裸で抱き合うのはセーフ?」

 

「………アウト、だな…いや、ホントごめん」

 

 …うん。

 冷静に考えたら、俺キモすぎだろ。

 裸で抱きつくのもアウトだよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 着替え終わった俺とヒヅルは、一緒にビルに戻った。

 そこにはネズミ達がいたわけだが、俺とヒヅルはヤヨイが持っているものを見て思わずきょとんとする。

 

「え…?野菜…?どうしたんだこれ」

 

 ヤヨイが持っていたのは、小ぶりなカボチャだった。

 他にも、トマトやキュウリ、ピーマン、小玉スイカなんかがレジ袋の中に入っていた。

 

「近くの公園に生えてたから採ってきたんです。きっと誰かが育ててたんでしょうね。勝手に採っちゃって悪いけど、腐っちゃっても勿体無いし、皆で食べませんかって事で」

 

「肉も獲ってきたし、久々に焼肉でもする?」

 

 リナさんは、血のついた包丁を右手に、捕ってきたウサギを左手に持って言った。

 ヒヅルは、リナさんが捌いたウサギを見て、目を輝かせながら口の端から涎を垂らしている。

 逞しいなぁ…

 

「いいっスねそれ!ちょうどバーベキューコンロもありますし!オレ、ビール持ってくるっス!」

 

 ネズミが近くのコンビニからビールを持ってきてくれて、皆でバーベキューをしながらくだらない話をして馬鹿騒ぎをした。

 夕飯を食べ終わって片付けた後は、5人で一緒に遊んだ。

 

「せっかく麻雀卓あるし、皆で麻雀やりません?」

 

「でも私、麻雀やった事ないよ?ルール知らないし」

 

「じゃあオレやりたい」

 

「ヒヅルちゃん、麻雀やった事あんの?」

 

「ないけど、ルールは何となく知ってる。昔、爺ちゃんとお父さんがよくやってたから」

 

 結局、俺、ヒヅル、ネズミ、リナさんの4人で麻雀をする事になったわけだが…

 

「あっ、ツモ。大四喜」

 

「うわああ、あり得ねえ!!インチキだインチキ!!」

 

 3半荘やって、3回ともヒヅルの圧勝だった。

 3回目で直前までダントツのトップだったにもかかわらずどうしようもない負け方をしたネズミは、ヒヅルをインチキ呼ばわりしていた。

 

「この女、打ち方マジでやべぇよ!!この『げぇむ』中毒者!!ヘンタイ!!」

 

「………何かごめん」

 

 ネズミが半泣きになりながらヒヅルを罵倒すると、ヒヅルが眉間に皺を寄せて謝った。

 ヒヅルは、イカレてるとしか思えない大胆な打ち方もそうだけど、驚異的なツキと勘の良さで、『ビーチ』の中ではかなり強い部類だったネズミに圧勝していた。

 自分なりの理論や戦略を立てて勝負をする局面でこういう直感重視のファクターが混じると、途端に勝負の行方がわからなくなるからなぁ…

 まあそれが賭け事の面白いところでもあるんだけど。

 

「ヒヅル…お前、本当にやった事ないんだよな?」

 

「うん。初めて」

 

 そういやヒヅル、『♢7(だいやのなな)』を『くりあ』してるんだよな。

 道理で毎日『げぇむ』に参加して生き残ってきたわけだよ…

 アレだな、生まれついてのギャンブラー気質なんだろうな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 どうしようもない負け方をして落ち込んでいたネズミを宥めてから、俺は本題に入った。

 

「そろそろ本題に入るぞ。オレとヒヅルは、『げぇむ』に参加しようと思ってる。皆はどうしたい?」

 

 俺が尋ねると、リナさんは咥えていたタバコにライターで火をつける。

 

「そうね…私は別に参加してもしなくてもいいわよ」

 

「このメンバーで参加できる『げぇむ』となると…少し遠いけど、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』かな…」

 

「墨田区か…車が使えれば早いんだけど…」

 

「あ、車使えますよ。オレが整備しといたんで」

 

 リナさん、ヤヨイ、ヒヅルが言うと、ネズミがしれっと言った。

 ネズミが言うと、リナさんとヒヅルが目を点にする。

 

「あなた…車整備できたの?」

 

「『ビーチ』でタッタにやり方教えてもらったんス。……タッタ、今頃どうしてんのかなぁ」

 

「…無事だといいね」

 

 ネズミとヤヨイは、『ビーチ』にいた頃一緒に車の整備をしていたタッタの事を思い出していた。

 俺も、『ビーチ』じゃアイツには色々世話になったからな…

 タッタの底抜けの明るさには、俺も何度も救われた。

 タッタだけじゃない。

 アリスも、ウサギも、クイナさんも、皆無事だといいな。

 

 車に乗り込んだ俺達は、墨田区の『♣︎J(くらぶのじゃっく)』の『げぇむ』会場を目指してひたすら東進した。

 幸いにも、俺達が選んだルートは『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の射程範囲外で、命を狙われる事なく中央区に到達する事ができた。

 中央区から清澄通りを通って江東区に入ろうとした、その時だった。

 歩道に立っている誰かが、俺達の乗っている車に向かって懐中電灯をチカチカ照らしているのが見えた。

 

「おい、ネズミ!車停めろ!」

 

「えっ?あ、ハイ!」

 

 俺がネズミに声をかけると、ネズミは歩道に車を寄せて停めた。

 歩道には、子連れの女性が立っていた。

 ネズミは、車の窓から顔を出して女性に話しかける。

 

「どうしました?」

 

「ごめんなさい、いきなり止めちゃって…あなた達、これから『げぇむ』会場に向かうところですか?」

 

「そうだけど…それがどうしたの?」

 

「あの…これから『げぇむ』に参加するなら、この子だけでも一緒に参加させてもらえませんか…?この子、もう今日までしか『びざ』がなくて…」

 

 そう言って女性は、男の子の肩に手を置く。

 見たところ、10歳くらいだろうか。

 

「…あなた、この子の母親?」

 

「いえ…知らない子です。ただ、この子、両親を『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に撃ち殺されたらしいんです。たった一人で怯えていたこの子を見捨てる事はできなくて…」

 

 そう言って女性は、男の子に目を向ける。

 男の子は、俯いて俺達と目を合わせようとしなかった。

 後部座席に座っていたリナさんが、俺達に話しかける。

 

「…どうする?もうこの車、定員オーバーよね?」

 

「だからって、この子を置いて『げぇむ』会場に行く事なんてできるかよ…」

 

 リナさんが尋ねるので、俺は自分の意見を言った。

 この車には7人も入らないが、だからって『びざ』切れ間近のこの子を見殺しにする事なんてできない。

 かといって、もう他の車を探して整備してる時間なんて無い。

 『げぇむ』に参加する権利をこの子に譲る事を考えたその時、ネズミが手を挙げて言った。

 

「あの…オレ、やっぱりここに残ってもいいっスよ」

 

「ネズミ…?」

 

「オレ、まだ『びざ』10日以上ありますし。皆で先に『げぇむ』を『くりあ』してて下さい。オレが、どっかから適当に車見つけて迎えに行くんで」

 

 ネズミは、頭を掻いて笑顔を浮かべながら言った。

 するとヤヨイも、手を挙げて口を開く。

 

「ネズミ君が降りるなら…私も降りるわ」

 

 そう言ってヤヨイは、ネズミと一緒に車を降りた。

 俺達が今から行く『げぇむ』は『♣︎(くらぶ)』だから、『ビーチ』の仲間同士で協力して攻略したかったけど…

 昨日ルキヤさんが言っていたように、『びざ』切れ間近の人がいるなら、その人に参加する権利を譲るべきだ。

 それに、ネズミもヤヨイも、仮にも『ビーチ』で上位メンバーに上り詰めた猛者『ぷれいやぁ』だ。

 今はコイツらを信じて、先に進むべきだ。

 

 結局俺達は、ネズミとヤヨイを置いて、代わりに女性と男の子を『げぇむ』に参加させる事にした。

 リナさんがネズミに代わって運転していると、後部座席に座っていた女性が俺とリナさんに話しかける。

 

「あの…すみません。皆で一緒に参加するはずだったんですよね…?」

 

「困った時はお互い様ですよ。…それに、大丈夫です。アイツらなら、自分達で何とかしますよ」

 

 女性が申し訳なさそうに話しかけると、俺は女性と男の子を不安にさせないように笑顔を浮かべて答える。

 俺は、後ろを振り向いて男の子に話しかける。

 

「なぁボク。名前は?」

 

「……コウタ」

 

「コウタ君か。今、いくつだ?」

 

「10歳」

 

「…ふぅん。オレと3歳しか違わないんだ」

 

 コウタ君が俺の質問に答えると、頬杖をついて窓を眺めていたヒヅルが口を開く。

 コウタ君がヒヅルの方を振り向くと、ヒヅルが車のドアに頬杖をついたままコウタ君に話しかける。

 

「オレ、ヒヅル。13歳…よろしく」

 

 ヒヅルが声をかけると、コウタ君は恥ずかしそうに俯いた。

 何にせよ、俺達が今から参加する『げぇむ』が『♣︎J(くらぶのじゃっく)』で良かった。

 絵札の『げぇむ』の中でも一番難易度が低い『♣︎J(くらぶのじゃっく)』なら、コウタ君を守りつつ、皆で生きて『げぇむくりあ』できるかもしれない。

 …少なくとも、『♡K(はあとのきんぐ)』の時みたいな殺戮は起こらずに済む。

 だけどそう思った、次の瞬間だった。

 俺達を乗せた車が江東区の城東エリアに入ったその瞬間、ぞく、と一瞬背筋が凍った。

 

「……ヘイジ。何か…嫌な感じしない?」

 

「ああ…オレもだ」

 

 ヒヅルが窓の外を警戒しながら言うと、俺もそれに答えた。

 『げぇむ』に慣れてきたからこそ肌で感じる悪寒。

 俺はこの感覚を、何度も味わってきた。

 

「まさか……!!」

 

 リナさんも、頬に冷や汗を垂らし、すぐに急ブレーキをかけて車を停めた。

 車が急に止まったので、女性とコウタ君が困惑する。

 

「あの…どうしたんですか…?」

 

 女性が恐る恐る尋ねると、リナさんはギリッと歯を食いしばりながら車から降り、悪寒がした地点まで歩いて戻ると、ちょうどオイルが残りわずかになった百円ライターを投げ捨てる。

 するとその瞬間、百円ライターにバチバチっと火花が走り、激しく燃え出した。

 

「油断した…!!私達は、既に参加してしまったのよ。奴等の『げぇむ』に…!!」

 

 リナさんが言うと、女性とコウタ君は目を見開いて冷や汗をかく。

 俺とした事が…とんだ失態だ。

 『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に辿り着く前に、他の『げぇむ』にエントリーしちまうなんて…!!

 

「…ねぇ、ヘイジ。城東の『げぇむ』会場って…何の絵札だったっけ」

 

 ヒヅルが言うと、俺はめぼしい場所に目を向ける。

 江東区を代表する2棟の超高層マンション。

 その2棟のちょうど間には、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の幕が吊るされた飛行船が浮かんでいた。

 

「『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』…!!」

 

 ……最悪だ。

 よりにもよって、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』かよ…!!

 

「お姉ちゃん…あれ……」

 

 コウタ君がヒヅルに話しかけながら恐る恐る指をさしたその先には、巨大なモニターが設置されていた。

 白く点灯したモニターには、『げぇむ』の説明が表示されていた。

 

 

 

ーーー

 

エントリー数 無制限

 

げぇむ 『ちぇっくめいと』

 

難易度 ♠︎Q(すぺえどのくいいん)

 

ーーー

 

 

 

 『ちぇっくめいと』…

 どんな『げぇむ』なんだ…?

 そう思って下のモニターに目を向けると、そこには別の画面が表示されていた。

 

 

 

ーーー

 

午前0時丁度に『るうる』の説明を開始します。

 

エントリー済みの『ぷれいやぁ』の『びざ』はカウントされません。

なお、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の『げぇむ』会場は、飛行船の係留地点から半径2km以内とします。

午前6時丁度に『げぇむすたあと』。

 

エントリー締め切りまで あと2時間45分

 

ーーー

 

 

 

 ふと空を見上げると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の飛行船を中心に、赤いレーザーで巨大なドームが形成されていた。

 このドームの範囲内が全部『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の『げぇむ』会場って事かよ…

 ふざけやがって…

 

「『るうる』説明から『げぇむすたあと』まで6時間って…それだけ時間をかけて準備しないと『くりあ』できない『げぇむ』って事…?」

 

「まさか…今から街一つ消し飛ばすから生き残ってみせろ…なんてふざけた『げぇむ』じゃないわよね…」

 

 ヒヅルとリナさんは、街を見渡しながら口を開く。

 『るうる』の説明から『げぇむすたあと』までの、6時間というあまりにも膨大な時間。

 尚且つ、半径2kmもの敷地を要する『げぇむ』内容。

 何つうか…そこに『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』と似たものを感じざるを得ない。

 考えれば考えるほど、悪い想像をしてしまう。

 

 不安ばかりが募る中、午前0時まで1時間を切った。

 家電量販店のテレビのモニターが点き、地図が表示される。

 

 

 

ーーー

 

1時間後に『るうる』の説明を開始します。

指定の地点までお越し下さい。

 

ーーー

 

 

 

 地図で印がつけられた場所の方角を見ると、ショッピングモールが白くライトアップされていた。

 あそこに向かえ…って事か。

 

「……行こう」

 

 俺達5人は、ライトアップされたショッピングモールに向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「………!!」

 

「何だよこれ…」

 

 俺達は、ショッピングモールに来て思わず目を疑った。

 そこには、銃火器やら刃物やら爆薬やら、武器になりそうなものが至る所に置かれていた。

 ショッピングモールが、丸ごと全部武器庫になっていた。

 

 武器庫には、既に数十人の男女が集まっていた。

 アリスやウサギと同い年くらいの、弓矢を背負った義足の女の子もいる。

 あとは…ほとんどは俺達と同じように知らずにエントリーしちまった『ぷれいやぁ』ばかりだが、猛者『ぷれいやぁ』の面構えをしている奴が何人かいるな。

 

 そんな中、俺は『ぷれいやぁ』の中に見覚えのある顔を見つけた。

 かつてボーシヤ一派だったにもかかわらず武闘派一派に寝返って『ビーチ』壊滅の原因を作った…『ビーチ』では『ドレッド』と呼ばれていた男だ。

 リナさんは、ドレッドの顔を見るなり不愉快そうに眉間に皺を寄せる。

 

「ドレッド…!!よりにもよって、アイツがいるなんて…」

 

 リナさんは、『ビーチ』での殺戮を思い出して顔を歪めていた。

 ドレッドの方も、俺達に気付いたのか、俺達と目を合わせないように顔を逸らした。

 …正直、大勢の仲間を殺したドレッドの事は許せない。

 だけど今は、アイツを責めてる場合じゃない。

 なんて思っていると、見覚えのある二人が俺とヒヅルのもとへ歩いてくる。

 

「お前ら、生きてたのか」

 

「アンタらは…!」

 

 俺は思わず目を見開いた。

 俺達に話しかけてきたのは、『♠︎5(すぺえどのご)』で生き残った、レスラーとミリタリーマニアの二人組だ。

 

「アンタじゃねぇ、(ホロ)(ごう)だ」

 

「……御堂(ミドー)武蔵(むさし)だ」

 

「ヘイジ。北句平治だ」

 

 ホロさんとミドーさんが名乗ると、俺も自分の名前を名乗る。

 二人とも、生きてたんだな…

 懐かしい顔を見て俺が胸を撫で下ろした、その時だった。

 

 

 

「よぉ、久しぶりだなぁ」

 

 全身に火傷を負った男が、俺達に話しかけてくる。

 俺達は、その男に見覚えがあった。

 

「お前は…ニラギ…!!」

 

 俺は、ニラギがヒヅルに酷い事ばかりしてきた事を思い出し、ヒヅルを庇う形でニラギの前に立った。

 ヒヅルとリナさんも、ニラギの方を向いて口を開く。

 

「生きてたのね…」

 

「アンタ、何でこんなところにいるのよ」

 

「うるせーな、『げぇむ』を『くりあ』した後適当にほっつき歩いてたら、勝手にエントリーした事になっちまってたんだよ。…まァ、オレは楽しけりゃ何でもいいけどよぉ」

 

 ニラギが舌をべっと出して言うと、ヒヅルが何とも言えない表情でニラギを見る。

 すると楽しそうに笑っていたニラギが急に真顔になる。

 

「……何見てんだテメェ」

 

「いや…何か……哀れだなぁって…」

 

「はっ、相変わらず生意気で何よりだぜ。ヒヅルちゃんよぉ」

 

 ヒヅルがニラギに憐憫の目を向けながら言うと、ニラギがずいっとヒヅルに顔を近づけて笑う。

 笑ってはいるが、絶対機嫌悪くなっただろ今ので。

 ヒヅル、お前も余計な事言うなよ…

 

「あ?何だお前ら、子連れか?」

 

 ニラギがコウタ君に気付いて目をやると、リナさんがニラギを睨む。

 

「アンタには関係ないわ」

 

「大有りなんだなぁ、これが。お荷物増やしやがって。ガキはガキらしく迷子センターにでも行ってろ」

 

 ニラギがコウタ君の顔を覗き込んでバカにしたようにヒャハッと笑うと、コウタ君はニラギを怖がってヒヅルとリナさんの後ろに隠れる。

 これから『げぇむ』の説明があるってのに、こんな時に小さい子いじめるなよ…

 

「ニラギ。お前いい加減にしろ」

 

「つーか…アンタこそその怪我でまともに『げぇむ』できるの?」

 

 俺がニラギを諌めると、ヒヅルもニラギの全身の火傷を見て口を開く。

 するとその時、ショッピングモールに設置されていたモニターが点灯する。

 

《げぇむ『ちぇっくめいと』。難易度『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』。『るうる』の説明。これから『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』チームと、皆さん『ぷれいやぁ』チームとで対戦をして頂きます。『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』チームは5名、『ぷれいやぁ』チームは30名。制限時間は6時間。互いの持ち点を競って殺し合いをし、制限時間経過時点での持ち点が多いチームの、その時点で生き残っているメンバーは全員『げぇむくりあ』。持ち点が少ないチームのメンバーは、『げぇむおおばぁ』》

 

「ちょっと待って、殺し合いって…!!」

 

「だからわざわざ武器庫が用意してあんのか…」

 

「持ち点って…要はこれ、キル数を競い合う『げぇむ』って事…?」

 

 最悪だ…

 よりにもよって殺し合いの『げぇむ』かよ…!

 

「ねぇ見て、人数分の腕輪が置かれてるわよ…!」

 

 参加者の一人が、武器庫の奥の方を指差す。

 さっきまで何もなかったはずの場所には、白い腕輪が置いてあった。

 液晶画面にチェスの駒が表示されている腕輪と、そうじゃない腕輪がある。

 

「チェスの駒のマークが表示されてる…」

 

 俺が腕輪を確認して『げぇむ』の内容を推測していると、既に『るうる』の内容に目星がついたらしいニラギが舌を出して笑った。

 

「ヒャハ、なるほどなぁ。()()()()()()()』か」

 

《皆様には、『げぇむ』開始前に役職を決めていただきます。『きんぐ』と『くいいん』が1名ずつ。『るうく』、『ないと』、『びしょっぷ』が2名ずつ。それ以外の参加者は全員『ぽおん』。一度決めた役職は、変更できません。『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』チームには、『ぽおん』を除く5つの役職のメンバーが1人ずつおられます。敵チームのメンバーが死亡すると、そのメンバーの役職に応じた得点がチームの得点として加算されます。『ぽおん』が『1点』、『ないと』と『びしょっぷ』が『3点』、『るうく』が『5点』、『くいいん』が『9点』。そして『きんぐ』を殺害した際に手に入る得点は───『∞』》

 

「む、無限!?」

 

「それって…どうなるんだ!?」

 

《どちらかのチームの『きんぐ』が死亡した時点で、『げぇむ』終了。相手のチームの『きんぐ』を殺害したチームは、『げぇむくりあ』。『きんぐ』を殺害されたチームは、『げぇむおおばぁ』》

 

 得点『∞』って…そういう事か。

 だから『ちぇっくめいと』か…

 どんなに点数を稼ごうが、『きんぐ』を殺されれば一発で『げぇむおおばぁ』…

 この『げぇむ』、最初の役職決めが一番重要な気がしてならない。

 

《午前6時丁度に『げぇむすたあと』。それまでは自由にお過ごし下さい》

 

「『♠︎(すぺえど)』の『げぇむ』のくせに、『るうる』はチェスかよ…」

 

「何つーか…『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』っぽい?」

 

 『げぇむ』の準備時間が始まると、何人かの参加者が話す。

 確かに…この『げぇむ』は『♠︎(すぺえど)』だけど、最初の戦略が鍵を握る『げぇむ』でもある。

 もう既に、『げぇむ』は始まってるんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の飛行船の中では、5人の男女が談笑をしていた。

 5人のうち4人の視線の先のモニターには、『ぷれいやぁ』達のいるショッピングモールの映像が映っていた。

 

「おうおう、今回もまた骨のありそうな奴等がいるねぇ」

 

「うっは、そりゃ楽しみ♪今回はちゃんと制限時間いっぱいまで遊べるかな」

 

「前回は30分で『げぇむ』終わったからな」

 

「オレは……『げぇむ』に勝てれば何でもいい……」

 

 ブリーチをかけた金髪の男、赤毛のポニーテールの女、筋骨隆々の大男、長い黒髪をした黒ずくめの男の4人が話す。

 そんな中、腰まで伸びたプラチナブロンドの髪を持ち、口元をマフラーのような布で隠した美女が、髪を高い位置で括って緩めのシニヨンにしながら4人に歩み寄る。

 

「…………」

 

「へへっ、ウチの大将もやる気満々だぜ」

 

 プラチナブロンドの女が後ろに立つと、金髪の男が笑った。

 女の手には、スナイパーライフルが構えられていた。

 女は、アクアマリンのような淡い碧の鋭い眼光でモニターを眺める。

 

 『げぇむすたあと』まで、残り5時間30分。

 

 

 

───今際の国滞在二十九日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 62日

 小鳥遊火鶴 112日

 一ノ瀬利奈 19日

 

 

 

 

 




原作では『♠︎5(すぺえどのご)』であえなく犠牲になったオッサン二人に名前をつけてみました。
名前の元ネタは、ボロゴーヴとミドブーです。

♡J編にオリキャラを登場させるつもりなんですが、定員を増やすのと原作通り20人で進めるのとどちらがいいですか?

  • 人数増やす
  • 原作通り20人で進める
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