Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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♣︎J(くらぶのじゃっく)』編は、今まで『げぇむ』に参加し損ねていたネズミとヤヨイの二人がメインです。
流石に重傷の主人公組をその日のうちに参戦させるのは無理があるので。


かいさいみっかめ

ヘイジside

 

《『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』チームの『きんぐ』が『げぇむおおばぁ』になりました。よって、『ぷれいやぁ』チームの勝利。『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』チームの皆様は、全員『げぇむおおばぁ』》

 

 アナウンスが鳴り、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の飛行船が落ちていく。

 誰も、歓声は上げなかった。

 生き残る為とはいえ、俺よりも若い女の子をよってたかって殺した。

 何より、『げぇむ』を『くりあ』するまでに21人も死んだ。

 生き残った人達も、決して軽傷とは言えない。

 手放しで喜べるはずがない。

 

 

 

「ヘイ…ジ……寒いよ……」

 

 俺の足元に倒れていたヒヅルが、そう呟いた。

 ヒヅルは、顔が真っ白になってガタガタと震えていた。

 

「おい、しっかりしろ!!ヒヅル!!」

 

 …出血性ショックだ。

 刺されて銃弾も喰らった状態であれだけ動いたから、血を流しすぎたんだ。

 早く止血しないと…!!

 俺は、ヒヅルの傷を圧迫して止血しようとした。

 

 …ダメだ、出血箇所が多すぎて間に合わない。

 どうしたら…

 あ…!

 そうだ…!!

 

「カタビラさん!!アンタ、救急セット持ってたよな!?それに薬も…!!」

 

 俺は、カタビラさんにジェスチャーを交えながら伝える。

 カタビラさんは、救急セットを持ってる。

 さっきも、それでリナさんに応急処置をした。

 道具さえあれば、止血する事だって…

 

「……ダメだ」

 

 俺の言いたい事を汲み取ったカタビラさんは、苦い顔をしながら首を横に振った。

 

「何で……!!」

 

 ……あ。

 

 …そうだ。

 リナさんを治療した時、ほとんど使っちまったんだった。

 

 今残ってる分じゃ、薬も包帯も全然足りない。

 傷口を縫合しようにも、糸もない。

 他に止血できそうなものは無いし、元の世界で看護師をしていたリナさんは利き手を失っちまった。

 

「クソォッ!!せっかく『げぇむ』を『くりあ』したのに…!!こんなの…っ、あんまりじゃねぇかよォ!!」

 

 一緒に生きるって約束したじゃねぇか。

 ヒヅル…お前が死んじまったら、何の意味もない。

 頼むから…

 俺を、嘘つきにしないでくれ…!!

 

 ニーナを失った後も、お前がいたから生きられたんだ。

 お前までいなくなったら、俺は…何の為に生きればいいんだ。

 

 

 

「……方法は、あるにはある」

 

 唐突に、ヘイヤが口を開く。

 

「本当か!?」

 

 俺が顔を上げて尋ねると、ヘイヤがナイフを抜いて言う。

 

「傷口を焼いて塞ぐ。アタシは、『♠︎7(すぺえどのなな)』の時この方法で生き延びた」

 

 な……!?

 焼いて塞ぐ…って、それ、本気で言ってんのか!?

 

「ちょっと待て…!それ、失敗したらどうなるんだ…!?」

 

「そんなの、アタシに聞かれてもわかんないよ」

 

「ダメだ…そんな危険な事、できない!」

 

 そんな…失敗したら死ぬかもしれないんだぞ…!?

 仮に成功したとしても、一生遺る傷を負う。

 そんな決断、俺にはできない。

 

「じゃあ何ならできんだよ!?アンタ、さっきから『アレはダメ』『コレもヤダ』ばっかじゃんかよ!!迷ってる間に手遅れになってもいいの!?」

 

 俺が迷っていると、ヘイヤが怒鳴る。

 するとその時、ヒヅルが震える手で俺のシャツを掴んだ。

 

「ヘイ…ジ……オレ、は…大丈夫…だから……やっ、て………お…願い……」

 

「ヒヅル…」

 

 ヒヅルは、弱りきった声で言った。

 そうこうしている間にも、ヒヅルの脈が弱くなっていく。

 するとその時、カタビラさんが懐からライターを取り出しながら言った。

 

「やるしかねぇよ」

 

 カタビラさんが近くにあった木箱を壊してそこに火を灯しながら言うと、俺はゴクっと唾を飲んだ。

 まず一番出血が多い箇所を布で縛って圧迫して、それでも出血箇所が多すぎて追いつかないから、ナイフを炙って止血をする事にした。

 幸い内臓を貫通する傷は無かったから、裂けた血管を炙ったナイフで焼いて塞げば血が止まるそうだ。

 暴れないようにヒヅルを押さえつけて、目隠しをして布を噛ませる。

 

 俺は、ヘイヤとカタビラさんがヒヅルの止血をしてくれている間に、ひとつ下の階から冷やすものをありったけ持ってきた。

 幸い、『げぇむくりあ』してからさほど時間が経っていなかったから、部屋の冷蔵庫を探せば冷水や保冷剤が大量に入っていた。

 俺が持てるだけのペットボトルの水と大量の保冷剤を持って屋上に戻ると、耳を劈くヒヅルの悲鳴が聴こえてくる。

 ヘイヤが、赤熱したナイフをヒヅルの腹に当てて焼いていた。

 

「ん゛ーーーーーっ!!!ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!」

 

 ……ごめんな。

 お前が命懸けで『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を斃したってのに、俺にできる事が何も無くて。

 

 圧迫止血じゃ間に合わない箇所だけ、傷口を焼いた。

 何とか傷は塞がり、血も止まった。

 応急処置が終わると、カタビラさんがふぅっとため息をつく。

 

「よし。何とか傷は塞がった。だが輸血が必要だし、感染症も心配だ。あとはちゃんとした医者に診せねぇと…」

 

 医者…か。

 こんな時にクリハラさんがいれば…

 初日に逸れちまったけど、あの人も無事かな。

 …いや、今はそれよりも、ヒヅルの命を繋いでくれた二人に感謝しないと。

 

「……ありがとう。ヒヅルの為にここまでしてくれて…」

 

「別に…この子がいなきゃ、アタシまで『げぇむおおばぁ』になるとこだったし」

 

 俺が言うと、ヘイヤは照れながら言った。

 緊張から解放されて照れるヘイヤを、少しだけ可愛いと思った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ヒヅルの応急処置を終えた俺達は、ヒヅルを連れて地上に降りた。

 途中でドレッドとリナさんにも合流し、まずは車を確保する為にパーキングに向かった。

 すると、先にパーキングに着いていたナツキさんが俺達に声をかける。

 

「皆さん!使えそうなもの、揃えておきました!」

 

「ナツキさん…ありがとうございます。助かります」

 

 ナツキさんは、食料や武器、あとは薬とかを集められるだけ集めて車のトランクに積んでくれていた。

 ここにいる奴等の応急処置だけなら、ナツキさんが集めてくれた薬や道具で何とか事足りそうだ。

 俺がナツキさんに礼を言ったその時、コウタ君が俺の背中で寝ているヒヅルを見て目を見開く。

 

「お姉ちゃん…!」

 

「ヒヅルちゃん!!」

 

「すみませんが…車、出していただけませんか?目的地は後で言うんで」

 

「は、はい!」

 

 俺が言うと、ナツキさんは慌てて運転席に乗り込んだ。

 俺がヒヅルを後部座席に乗せようとした、その時だった。

 

「ひゃはは、生きてたかテメェら」

 

「ニラギ…!!」

 

 柱の影に立っていたニラギが、俺の方へ歩み寄って笑った。

 コイツ…まさかまたヒヅルをいじめる気か?

 

「今はお前に構ってる場合じゃない。早くヒヅルとリナさんを医者に診せないと…」

 

 そう言って俺が背負っていたヒヅルを降ろして車の後部座席に乗せると、ニラギがヒヅルを一瞥して口を開く。

 

「あれだけ大口叩いといて、『げぇむ』が終わりゃあコレかよ。ざまぁねぇな!」

 

 コイツ、こんな時に何を…

 

「…まぁでも、お前が命懸けなきゃ、オレは生き残れなかった……ありがとよ」

 

 そう言ってニラギは、どこかへと去っていく。

 アイツ…怪我してるのに、俺達について来なくて良かったのかな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ネズミside

 

 俺は、リーダーと分かれた後、ヤヨイと一緒に食料や武器、それから日用品なんかを集めてトランクに積んでいた。

 リーダーが『げぇむ』から戻ってきた時、もし怪我していても手当てできるように、薬や包帯も調達しておいた。

 

 あの後俺とヤヨイは、車を見つけて整備して、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』の『げぇむ』会場に向かった。

 だが『げぇむ』会場の近くのパーキングには、リーダー達に貸した車が停まっていなかった。

 まさかと思って望遠鏡で南を見ると、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の飛行船を中心に、江東区の街に、『びざ』切れや『げぇむおおばぁ』の時に降り注ぐ赤いレーザーで巨大なドームが形成されていた。

 

 嫌な予感がした。

 リーダー達が通ったのは清澄通りだ。

 江東区の城東エリアを通過する時、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』のテリトリーに入っちまって、そのままエントリーした事になっちまってたとしたら?

 …あり得ない話じゃない。

 『♠︎(すぺえど)』の『げぇむ』は、無傷で生還できる可能性が極めて低い。

 だったら、俺達でリーダー達を助ける為にできる事をしておかないと。

 

「よし。これだけ揃えとけば大丈夫か。あとはー…医者だな」

 

「医者?」

 

「リーダーの事だ。きっと『げぇむ』で重傷を負った人を連れてくる。その人を治してやれる人が必要だろ?リーダーは…あの人は、出会ったばかりの赤の他人だろうと、極悪人だろうと、迷わず助けちまう。そういう人だ」

 

 俺はかつて、ヘイジさんからこの国に来る前の話を聞かせてもらった事があった。

 ヘイジさんは、この国に来る前は就活生で、この国に来た日はちょうど企業の最終面接の日だったらしい。

 だけどその大事な最終面接を大遅刻して、絶望のどん底だったそうだ。

 

 ヘイジさんが遅刻したのは、面接会場に向かう途中のバスで発作を起こした子供を助けたからだ。

 救急車を呼んでも来なくて、このままじゃ間に合わないと思ったヘイジさんが取った行動を聞いて、俺は度肝抜かしたよ。

 あの人は、発作を起こした子をおぶって、病院までの最短距離を全速力で走ったそうだ。

 おかげでその子は助かったらしいけど、『それで肝心の面接に遅刻してちゃ意味ないけどな』って、ヘイジさんは笑ってた。

 

 その話を聞いて、俺の人生観が変わった。

 迷わずに人を助けられる人って、本当にいるんだなって思った。

 途端に、親のスネ齧ってバカばっかやってた自分が恥ずかしくなった。

 『オレが企業なら即採用っスよ!』って言ったら、『傷口に塩を塗るな』ってヤギさんに怒られた。

 要は何が言いたいかっていうと、ウチのリーダーはすげぇ人だって事だ。

 

「医者…といえば、クリハラさん…今どこにいるのかな」

 

「アンさんがいるし、死んじゃいないだろうけど…ああクソッ、こんな時ケータイが使えればなぁ」

 

 無線じゃ、遠くにいるクリハラさん達とは連絡取れねぇしなぁ…

 なんて思っていたその時、一台の車が近づいてきた。

 アンさん達の車だ。

 アンさん達は、俺達を見つけるなり車から降りた。

 

「やっぱり…あなた達もここに来てたのね」

 

「アンさん…それにクリハラさん!どうしてここに!?てっきり『(だいや)』の『げぇむ』に参加してるものかと…!」

 

「最初はそのつもりだったんだがな…『♢Q(だいやのくいいん)』が言ってたんだ。『♢J(だいやのじゃっく)』と『♢K(だいやのきんぐ)』は一人しか生き残れねぇからやめとけって。だから、比較的危険度が低くて仲間を蹴落とし合う事がない『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』に参加しないかって話になったんだよ」

 

「やっぱり、考える事は皆同じなのね…」

 

 クリハラさんが言うと、ヤヨイが呟く。

 とりあえず難易度が一番低い『♣︎J(くらぶのじゃっく)』を目指すのは、皆考える事らしい。

 なんて考えていると、クリハラさんが話しかける。

 

「なぁ、そういえばヘイジ君とヒヅルとリナは?」

 

「えっと…それが……」

 

 俺はクリハラさん達に事情を説明した。

 途中で『びざ』切れ間近の子供に出会ったから、リーダー達だけでその子を連れて『げぇむ』会場に向かった事。

 そして、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加するつもりが、うっかり『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』のテリトリーに入ってしまって、今リーダー達が『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に参加中だという事。

 俺達の話を聞いたクリハラさんは、ガシガシと頭を掻く。

 

「がぁー…まじかぁ〜…!」

 

「まずい事になったわね…『♠︎(すぺえど)』の『げぇむ』なら、『くりあ』出来ても大量に死傷者が出る可能性が高い。医者といっても、救える命には限度がある。()()も考えておかないと…」

 

「もしかしたら輸血が必要な重傷者が出るかもだろ?『ビーチ』の輸血パックは持って来れなかったし…治療するにしたって人手が足りねぇぞ…クソッ、何から手をつければ………あ」

 

 これからどうするかをブツブツ言いながら考え込んでいたクリハラさんは、唐突に何かを思いついたように見上げる。

 

「…なぁ。だったらこういうのはどうだ?」

 

 クリハラさんは、俺達に提案をしてきた。

 クリハラさんの提案は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の目につかない地下シェルターに仮設病院を作って、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加したい人をそこに招集し、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に俺達が一緒に参加する代わりに重傷者の治療を手伝ってもらうというものだった。

 『びざ』切れや『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に怯える他の『ぷれいやぁ』は戦力と身を隠せる場所を手に入れ、俺達は病院の設営に必要な人手が手に入る、まさにWin-Winの提案だ。

 

「確かに…やってみる価値はありそうね」

 

「今日はまだあと20時間くらいある。そろそろ『げぇむ』に参加してやろうって物好きも増え始める頃だろうし、今から呼び掛ければそれなりに人は集まるだろう。間違っても固まって行動するなよ。『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に狙われにくいルートをいくつか割り出してるとはいえ、大勢の『ぷれいやぁ』が固まって移動してたら流石に怪しまれる」

 

 クリハラさんは、地図を広げながら作戦を話した。

 普段は酒とタバコと女の事ばっかり考えてるダメ人間という印象だけど、こういう時は本当に心強い。

 それから8時間かけて、俺達は『♣︎J(くらぶのじゃっく)』の参加者を招集した。

 クリハラさんの読み通り、それなりに人が集まって、集まってくれた人達が薬や医療器具、寝具なんかを片っ端から集めてくれたおかげで、必要なものは全部揃った。

 

 そしてたった今、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』が陥落した。

 俺は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の『げぇむ』会場にいるリーダー達に、無線で仮設病院の事を伝えた。

 『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の陥落から1時間半、リーダー達が病院に来た。

 

「リーダー!!ご無事で…!!」

 

 リーダーは、重傷のヒヅルちゃんを背中におぶっていた。

 リナさんとドレッド、それから『げぇむ』を『くりあ』したと思しき4人の男女も一緒にいた。

 リナさんは『げぇむ』で右腕を失ったのか血塗れの布を右腕の断面に巻いていて、ドレッドも決して軽傷とは言えない傷を負っている。

 唯一無傷なのは、リーダーが『げぇむ』会場に連れて行った男の子だけだ。

 

「ヒヅル!!リナ!!」

 

 リーダー達が病院に駆け込んでくると、クリハラさんが血相を変えて駆け寄ってくる。

 

「クリハラさん…ヒヅルを助けてくれ…!今すぐ輸血しないと死んじまう!!」

 

 ヒヅルちゃんは、顔面蒼白になって、呼吸も弱くなっていた。

 出血性ショックだ。

 早く輸血しないと、取り返しのつかない事になる。

 クリハラさんは、仮設病院に逃げてきた人達に呼びかける。

 

「AB型の奴いねぇか!?仲間の輸血が必要なんだ!血を分けてくれ!!」

 

「は、はい!」

 

「オレも…!」

 

 クリハラさんが呼びかけると、何人か献血に応じてくれた。

 そんな中、ボロボロの状態の眼帯のオッサンも、クリハラさんの呼びかけに応じた。

 

「オレの血も…使って…く……れ………」

 

 だけど眼帯のオッサンは、呼びかけに応じた直後にその場に倒れた。

 

「お前さんはどう見ても輸血が必要な側だろうが!!もういいよ、誰かこのニーチャンベッドに寝かせてやれ!!」

 

 クリハラさんが指示を出すと、仮設病院にいた人達がオッサンをベッドに運んだ。

 クリハラさんは、早速ヒヅルちゃんの容態を確認し、輸血と手術を始めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「はァ!?全身滅多刺しにされて銃で撃たれて止血が間に合わなかったから焼いて傷を塞いだァ!?イカレてんのかテメェら!!破傷風になっても知らねぇぞ!!」

 

 クリハラさんをはじめとした医療技術を持った人達が、一番重傷のヒヅルを最優先に、次に重傷のリナさんとカタビラさんの手術をした。

 比較的軽傷の俺、ヘイヤ、ナツキさんの三人は、自分達で傷の手当てをした。

 そして、決して浅くはない傷を負ったドレッドはというと、俺とナツキさんが治療をした。

 

「テメェら…一体何のつもりだ…?」

 

「オレは、アンタのした事を許したわけじゃない。だけど今回の『げぇむくりあ』は、皆で掴んだ勝利だから…生きてる人はできるだけ助けたい。今はただ、それだけでいい」

 

 そう言って俺は、ナツキさんと一緒にドレッドの傷口を縫合した。

 日が暮れる頃には、重傷だった3人の手術が終わった。

 俺がヒヅルのいる部屋に行くと、ヒヅルは寝息を立てて眠っていた。

 ……良かった、助かった…。

 クリハラさんには後でちゃんと礼を言わないと…

 

「お姉ちゃん…」

 

 コウタ君は、眠るヒヅルを心配そうに見ていた。

 するとナツキさんが口を開く。

 

「コウタ君、『お姉ちゃんが起きるまでここにいる』って…」

 

 コウタ君は、ヒヅルの側から離れようとしなかった。

 あれだけの激戦に巻き込まれたのに、コウタ君は無傷だった。

 ヒヅルがナツキさんとの約束を守って、コウタ君を守り切ったからだ。

 

 ヒヅル。

 コウタ君に指一本触れさせずに『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を『くりあ』しちまうなんて…

 お前、すげぇよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 日がすっかり落ちた頃、ヘイヤとカタビラさんは出発の準備を整えて地上に出た。

 俺は二人を見送りに、一緒に地上に出た。

 

「もう行くのか」

 

「元々そのつもりだったし。ヒヅルが起きたら伝えといてよ。『助けてくれてありがと』って」

 

 俺が尋ねると、ヘイヤは地下シェルターの扉を顎でしゃくりながら言った。

 

「…どうかした?」

 

「いや…何つうか、ヘイヤって可愛いんだなって思って」

 

「は?何それ」

 

 俺が言うと、ヘイヤは呆れたような表情を浮かべた。

 カタビラさんは俺とヘイヤを見て笑うと、ジェスチャーを交えながら言った。

 

「オレは『びざ』がまだあるし、しばらくこの国を観光して回るつもりだぜ」

 

 ヘイヤはともかく、カタビラさんはまだ傷が癒えてないんだし、ここに残ってればいいのに…

 …でも、向かう先は人それぞれなんだな。

 二人を見送った後、俺はシェルター内の仮設病院に戻った。

 その時、さっきまでベッドにいたドレッドがいなくなっている事に気がつく。

 

「あれ?ドレッドは?」

 

「あの人なら、さっき出て行ったばっかりですよ」

 

 そっ…か。

 アイツなりに、『ビーチ』での事は負い目に感じてるのかな。

 だからって、何も言わずに出て行く事ないのに…

 俺がそう思った、その時だった。

 

 

 

「ふざけんじゃねぇ、バカかテメェは!!!」

 

 奥から、クリハラさんの怒鳴り声が聴こえる。

 手術を終えて後片付けをしていたアンさんは、ため息をついて呆れていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「彼女が、今夜の『げぇむ』に参加するって聞かないのよ」

 

 そう言ってアンさんが振り向いた先では、点滴スタンドを杖代わりにベッドから起き上がるヒヅルがいた。

 

「オレも…『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加する…」

 

「バカ言うんじゃねぇ!!この怪我で何ができるってんだ!?」

 

「もう治ったし…もう『ぷれいやぁ』がどれだけ生き残ってるかもわからない…早く『げぇむ』に参加しないと…」

 

「何でそんなに『げぇむ』に参加してーんだよ!?『げぇむ』はもういいんじゃなかったのかよ!?」

 

「事情が変わったの…!オレは、ヘイジと生きるって決めたから…邪魔する奴は全員ぶっ殺す…!!」

 

 そう言ってヒヅルが部屋を出ようとした、その時だった。

 クリハラさんが、ヒヅルの頬を引っ叩いた。

 

「お前一人を助ける為に、どれだけ多くの人に迷惑をかけたと思ってる?怪我したらまた治せってか?ふざけんな!!死に急ぐ前に、テメェの死が周りにとってどれだけ迷惑かを考えろ!!」

 

 クリハラさんがヒヅルの胸ぐらを掴んで怒鳴ると、ヒヅルは僅かに目を見開く。

 そしてすぐに俯いて、絞り出すように言った。

 

「…………ごめんなさい」

 

 ヒヅルが謝ると、クリハラさんはため息をつく。

 そのタイミングで、俺はヒヅルの病室を訪れた。

 

「ヘイジ……」

 

 俺が病室に来ると、ヒヅルは僅かに目を見開く。

 俺は、ヒヅルに歩み寄って、小さな身体をそっと抱きしめた。

 

「もう、いいんだ。ヒヅル。オレは、お前が生きていてくれればそれでいいんだ…」

 

「ヘイジ…?」

 

 俺がヒヅルの身体を抱きしめると、ヒヅルが戸惑う。

 ヒヅルがこんな大怪我をしたのは、俺のせいだ。

 俺が油断したせいで、ヒヅルは『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の銃撃から俺を庇って撃たれた。

 こんな事で償いになるとは思わないけど、ヒヅルの為にできる事はしてやらなくちゃと思った。

 

「オレは、お前が治るまでずっとここにいる。お前の為にできる事は何でもするから…今は、ここにいてくれ。頼む」

 

「……………うん」

 

 俺が言うと、ヒヅルは頬を染めて頷く。

 俺は、命ある限り、この国で戦い続けると決めた。

 でもそれ以上に、俺を生かしてくれたヒヅルには、これから先もずっと生きていてほしい。

 

 何もしなくても誰かが『くりあ』してくれるなんて、これっぽっちも思ってない。

 だけど俺達は、この国の理不尽ともう十分戦った。

 今だけは…ほんの少し、休んでもいいよな?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あの後、ネズミとヤヨイが、仮設病院に集まった人達を連れて『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に向かった。

 怪我人の俺とヒヅルとリナさん、そしてクリハラさんとアンさん達は、『げぇむ』で怪我した人達を治療する為に仮設病院に残った。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が来たらすぐに逃げられるように、交代で見張りを立てて荷物もまとめておいた。

 

 そして俺はというと、今ヒヅルの看病をしている。

 数時間前まで生死の境を彷徨っていたヒヅルは、信じられない事に、筋トレをする余裕があるくらいに回復していた。

 …いや、あれだけ大怪我しておいてその日のうちに全快って…どういう回復力してんだコイツ。

 

「…ねぇヘイジ。オレの為に何でもしてくれるって言ったよね」

 

「ああ…何してほしい?何か食べたいものとかあるか?」

 

 俺が尋ねると、ヒヅルは少し考え込む。

 そして何かを思い出したように口を開く。

 

「りんごが食べたい」

 

「えっ?」

 

「缶詰じゃなくて、生のりんごが食べたい」

 

 りんごって…確かに好物だって言ってたけど、冬の食い物だろ。

 随分と季節外れな…

 

「いや、この季節にりんごはないだろ…」

 

「わかってるよ。わかってて言ってるの。この国には7月しかないけど、他の季節も見てみたい。オレ、雪が好きなんだ」

 

「雪?」

 

「うん。雪が降ったら、外に出てクソデカ雪だるま作るんだ。そんで、焚き火でおもち焼いて食べるの」

 

「く、クソデカ雪だるま…」

 

 口悪いけど、言ってる事かわいいな…

 

「雪見ながら食べるおもちが一番おいしいんだよ。あんころもち、きなこもち、草もち、ずんだもち、フルーツもち、ぜんかもち…」

 

 おい、待てコラ。

 今、食べ物じゃないものが1個混じってたぞ。

 

「元の世界に戻りたくなかったから、本当にやりたい事は考えないようにしてた。随分と遠回りしたけど…やっと、やりたい事を思い出したの。オレの為に何でもしてくれるって言うならさ…少しはオレのわがままに付き合ってよ」

 

 ヒヅルは、少し恥ずかしそうに唇をモニョモニョさせながら言った。

 俺は、ヒヅルの頭に手を置いて言った。

 

「ああ。お前がやりたい事、全部やろう。オレが、お前にどこまでも付き合うから…一緒に生きよう」

 

 俺が言うと、ヒヅルは頬を赤らめてコクっと頷いた。

 普段は帽子を深く被っていてわかりづらいけど、すごく美人だと思う。

 凛とした印象を与える濃いめの眉も、長い睫毛に縁取られた猫のようなツリ目と日本人離れした赤い瞳も、小さくて可愛らしい鼻や口も、スッキリした印象を与える細くてシャープな顎も、全てが完璧な比率で並んでいて、黒髪と白い肌のコントラストが目を惹く。

 もしヒヅルがもう少し歳が上だったら、恋愛感情が湧くかどうかは別として、一人の女性として見ていたと思う。

 俺がヒヅルの髪を撫でた、その時だった。

 

「お姉ちゃん…」

 

 コウタ君が、病室に入ってきた。

 俺は慌ててヒヅルから離れ、ヒヅルも赤らめた顔を咄嗟に逸らした。

 

「ど、どうしたの!?」

 

 俺が話しかけると、コウタ君は恥ずかしそうに手をいじりながら話し始める。

 

「あのね…お姉ちゃん。助けてくれて、ありがとう」

 

「え?」

 

「えっと…お姉ちゃんが起きたら、言おうと思ってて…」

 

 コウタ君は、ヒヅルをチラッと見ながら言った。

 するとヒヅルは、ベッドから起き上がってコウタ君に話しかける。

 

「どこも怪我はない?」

 

「…うん」

 

「志々雄みたいな奴に変な事されなかった?」

 

 志々雄みたいな奴って…ニラギの事か?

 

「……うん」

 

「……そっか」

 

 ヒヅルが言うと、コウタ君は勇気を振り絞って言う。

 

「僕、お姉ちゃんみたいに強くて、優しくて、カッコいい人になりたい」

 

 コウタ君は、ヒヅルに向かってハッキリと言った。

 するとヒヅルは、コウタ君の肩に手を置いて言う。

 

「オレみたいにはならない方がいいよ。力の代わりに大事なものを失うから」

 

「大事なもの…って?」

 

「そうだなぁ…倫理とか、道徳とか…常識とか…安全、計画性、謙虚さ、協調性………あ、結構色々失ってんな」

 

 ヒヅルが顎に手を当てながら考え込むと、コウタ君は少し悲しそうな表情を浮かべる。

 ヒヅルお前、救いのない事言うなよ…

 そう思った、その時だった。

 

「…でも、カッコいいって言ってくれてありがと」

 

 ヒヅルが珍しく微笑みながら言うと、コウタ君は頬を染めてはにかむ。

 コウタ君、もしかしてヒヅルの事…

 ミズキ君の時も思ったけど、ヒヅルも罪な女だな。

 

 俺は、そんな事を考えつつ、ネズミ達の帰りを待った。

 皆、無事に帰ってきてくれるといいんだけど…

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在二十九日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 74日

 小鳥遊火鶴 124日

 一ノ瀬利奈 31日

 栗原鳳正 29日

 根津見護人 14日

 弥生美兎 15日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催3日目

 

 『げぇむ』 残り8種

 

 『ぷれいやぁ』 残り175人

 

 

 

 

 




アンに医療知識があるのは、ドラマ版の設定の逆輸入(?)です。
ドラマでは、解剖医っぽい事をしてる描写があったので。
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