Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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くらぶのじゃっく(1)

???side

 

 『ねくすとすてぇじ』開催3日目。

 中野区の地下鉄のホームでは、何人かの男女が焚き火を囲んでいた。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の追撃から逃れる為に、地下に籠城していたのだ。

 

「地下に籠って…もう3日です…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の追撃から逃れる為とはいえ…オレ達…いつまでこうしてるつもりですか…?」

 

 一人の男性が全員に尋ねると、ウェーブのかかったミディアムヘアーの若い女性が口を開く。

 

「あ…あの…この子の『びざ』が…今日で切れるんです…今日中に『げぇむ』に参加しないと、この子は…」

 

 女性は、小学校低学年くらいの少年の肩に手を添えながら言った。

 

「私達、話し合って決めたんです!この子の為に、皆で絵札の『げぇむ』に参加しようって…!」

 

 女性が言うと、中年女性二人も彼女に賛同する。

 だがそんな中、焚き火の一番近くにいた年配の男性が反論する。

 

「成り行きで一緒にいる事になっただけのガキだ…誰が親ってわけでもないのに、何でそこまでする…?」

 

 年配の男性は、『げぇむ』に参加するのを反対した。

 だが、その時だった。

 

「オレも…付き合いますよ…」

 

 最初に口を開いた男性が、『げぇむ』の参加に賛成した。

 

「…オレは、小心者だからな…結局は…そういう奴が生き残るんだよ…」

 

 結局年配の男性は、地下に残る事を選んだ。

 結局、女性3人、男性、少年の5人が『げぇむ』に参加する事になった。

 5人が地下鉄から出ると、ちょうど一台の車が停まる。

 車からは、カラフルなエクステをつけた髪をポニーテールにし、サングラスをかけ、ホルターネックのビキニとショートパンツを身につけ腰にパーカーを巻いた女性が現れる。

 

「あの…!すみません、ちょっといいですか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヤヨイside

 

 クリハラ先生の提案で『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加してくれる人を探していた私は、中野区の地下鉄の駅で5人の『ぷれいやぁ』を見つけた。

 このタイミングで出てきたって事は『げぇむ』に参加する人達だろうと思って、私は迷わず声をかけた。

 

「私、実は訳あって『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加する人を探してて…あの、もし迷惑でなければ、話だけでも聞いていただけませんか?」

 

 私が話しかけると、5人の『ぷれいやぁ』が顔を見合わせて頷き、若い男性の『ぷれいやぁ』が口を開く。

 

「いいですよ。オレ達もちょうど、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加するところだったので…」

 

 5人は話を聞いてくれると言ってくれたので、私は事情を話した。

 仲間がたった今『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を『くりあ』したばかりで、これから大勢の重傷者を抱えて戻ってくる事。

 仲間に医者がいて、一緒に地下シェルターに仮設病院を設営したけど、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の生還者を治療するには人手が全然足りない事。

 『げぇむ』に慣れた熟練『ぷれいやぁ』達が『げぇむくりあ』を手伝う代わりに、怪我人の治療を手伝ってほしい事。

 私が事情を話すと、若い女性が迷わず決断して口を開く。

 

「…分かりました。すぐに病院に連れてってください」

 

「えっ、でも…いいんですか?こんな、見ず知らずの他人の頼みを…」

 

「負傷者が大勢戻ってくるんでしょ!?生きてる人を一人でも多く助けたいって気持ちは、私達も同じです!」

 

 女性は、私の目を見てハッキリと言った。

 正直、信じられなかった。

 こんなにも心の綺麗な人達が、まだ生き残っていただなんて…

 

 私は、彼女達を連れてすぐに病院に戻った。

 私が誘った『ぷれいやぁ』達は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の生還者を助ける為に、献血に協力したり、手当てを手伝ったりしてくれた。

 そして日が暮れた頃、私達は皆で『げぇむ』会場に向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ネズミside

 

 俺達は、墨田区に聳え立つ未完成のタワー、その入り口に来ていた。

 結局、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に参加してくれる『ぷれいやぁ』を集めに集めて、俺とヤヨイを含めて23人の『ぷれいやぁ』が参加する事になった。

 頂に展望台が見えるタワーに足を踏み入れた瞬間、タワーの周辺が暗幕のようなもので包まれる。

 そしてタワーのエントランスに設置されたモニターが点く。

 

 

 

ーーー

 

エントリー数 無制限

 

げぇむ 『さあかす』

 

難易度 ♣︎J(くらぶのじゃっく)

 

ーーー

 

 

 

 

「『さあかす』…?」

 

「どんな『げぇむ』なんでしょうか…」

 

 画面を見た『ぷれいやぁ』達は、不安そうに呟く。

 するとその時、どこからかマイク越しの声が聞こえる。

 

『レディースアーンドジェントルメン!!ボク達の『げぇむ』会場へようこそ!』

 

 声がした方を見ると、エントランスに設置されたステージの上に、5人の男女が立っていて、中央に立つ男にスポットライトが当たる。

 羽根つき棒を被り、フェイスペイントをした道化師風の若い男だ。

 

『ボクは琶州部(ワスベ)雀晴(すばる)!『♣︎J(くらぶのじゃっく)』さ!』

 

 

 

 『♣︎J(くらぶのじゃっく)

 琶州部(ワスベ)雀晴(すばる)

 サーカス団団長

 

 

 

 ワスベと名乗る男は、リングに飛び乗ってパフォーマンスをする。

 どうやら元の世界では曲芸師か何かをやっていたようだ。

 

「早速だけど、ボクの愉快な仲間達を紹介していくよ!」

 

 ワスベが言った直後スポットライトが当たったのは、5人の中では一番背が高い坊主頭の男だ。

 

「オレは霊山(レーザン)柊一(しゅういち)。空中ブランコ担当だぜ!」

 

 

 

 霊山(レーザン)柊一(しゅういち)

 サーカス団団員(空中ブランコ担当)

 得意ジャンル 『♠︎(すぺえど)』(肉体型)

 

 

 次にスポットライトが当たったのは、腰に鞭を携えたスタイル抜群の女の子だ。

 

「アタシは動物曲芸担当、波多月(はたつき)帆奈(ハンナ)よ!」

 

 

 

 波多月(はたつき)帆奈(ハンナ)

 大学生 サーカス団団員(調教師)

 得意ジャンル 『(はあと)』(心理型)

 

 

 

 次にスポットライトが当たったのは、細身のリーゼントのような髪型の男の子だ。

 

「ワイはジャグリング担当、黄斑(キマダラ)長亮(ちょうすけ)や!よろしくな!」

 

 

 

 黄斑(キマダラ)長亮(ちょうすけ)

 大学生 サーカス団団員(ジャグラー)

 得意ジャンル 『♣︎(くらぶ)』(バランス型)

 

 

 

 最後にスポットライトが当たったのは、男の子にも見える小柄な女の子だ。

 

「ボクは綱渡り担当、木場田(きばた)絵馬(エマ)!よろしくね!」

 

 

 

 木場田(きばた)絵馬(エマ)

 高校生 サーカス団団員(綱渡り担当)

 得意ジャンル 『♣︎(くらぶ)』(バランス型)

 

 

 

《げぇむ『さあかす』。難易度『♣︎J(くらぶのじゃっく)』。『るうる』の説明。これから『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームと皆さん『ぷれいやぁ』チームとで、対決をしていただきます》

 

「対決の内容はズバリ、レース!あらかじめ決めておいた長さ1kmのコースを一周して、先にスタート地点に戻ってきたチームの勝利!勝ったチームは全員『げぇむくりあ』、負けたチームは『げぇむおおばぁ』!シンプルな『るうる』だろ?」

 

 電子音声の後で、ワスベが『るうる』を説明する。

 頭上のモニターには、コースの図が表示される。

 

「レース?それのどこにサーカス要素があるんだよ?」

 

「まさか…!」

 

「察しのいい人は気付いたと思うけど、コース上にはサーカスの演目をテーマにした試練が5つあるんだ。試練を乗り越えた時だけ、先に進む事ができる。でも、絵札の『げぇむ』だからね。試練に失敗したら怪我したり、運が悪かったら死んじゃったりするから気をつけて!」

 

 『運が悪かったら死んじゃう』、その一言で俺達全員に緊張感が走る。

 一番簡単な『げぇむ』といえど、絵札の『げぇむ』だ。

 何のリスクも冒さずに『くりあ』できるはずがない。

 

「レースはリレー形式で、1つの試練の定員は5人。全員必ずどれかの試練には挑戦してもらう!キミ達のチームは23人だから、誰かが2回以上試練に挑戦しなきゃいけないけどね」

 

「ちょっと待って、定員が5人って…じゃああなた達のチームは…!」

 

「もちろんボク達は全員、全部の試練に挑戦するよ!」

 

 マジかよ…

 たった5人で、俺ら全員を相手するってのか?

 舐めやがって…

 

「サーカスの演目って…何か、『♠︎(すぺえど)』の『げぇむ』っぽい…?」

 

「私、運動苦手なんですけど…どうすれば…」

 

「ノープロブレム!ちゃんと頭使って考えれば、運動に自信がない人でもクリアできる試練ばっかりだから!」

 

 他の『ぷれいやぁ』達が不安そうに言うと、ワスベはリングにぶら下りながら答える。

 すると別の『ぷれいやぁ』が、ワスベに疑問を投げかける。

 

「ちょっと待て。アンタらの得意分野でガチンコ勝負しろってか?しかもアンタらは、『げぇむ』に慣れてるわけだろ?そんなの、フェアじゃなくないか?」

 

「それも大丈夫!ボクらもこの『げぇむ』やるの初めてだから。『るうる』聞いたのだって、ついさっきだし。ちなみに『げぇむ』を考えたのはー…」

 

「アタシよ。試練を考えるのは『♣︎Q(くらぶのくいいん)』にやってもらったから、アタシ達は全員今回の試練の内容を知らないわ」

 

 ワスベがハンナを指さすと、ハンナが答える。

 できるだけ対等な条件で勝負をする為の措置、か…

 どこまでも徹底してるぜ。

 

「それじゃ最後に、注意事項を言っておこうか。コースの外に出たら即『げぇむおおばぁ』。妨害はアリだけど、相手チームのメンバーを殺すのはアウト!ちなみに、試練の内容はこんな感じ!それぞれの試練を見て、皆で考えて配役を決めてね!皆が配置についたら『げぇむすたあと』!」

 

 そう言ってワスベが指差した先には、試練の内容が表示されていた。

 試練の内容は、『ぶらんこ』、『ひのわくぐり』、『ないふなげ』、『はしわたり』、『まじっく』の5種類だ。

 俺達は、話し合って誰がどの試練に挑戦するかを決めた。

 全員がそれぞれの配置についたところで、最初の試練である『ぶらんこ』に挑戦する俺達5人がスタート地点に移動する。

 スタート地点には、5人乗りの車が2台停まっていた。

 俺達5人が車に乗り込むと、同じようにチームの仲間と一緒に車に乗り込んだワスベがピストルの銃口を上に向ける。

 

「皆、位置についたね?それじゃ、『げぇむすたあと』!」

 

 ワスベがピストルを発砲すると同時に、俺は爆速で車をぶっ放した。

 

「な!?ちょっ、速…!!」

 

 俺が最高時速でコースを駆け抜けると、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームのエマが驚く。

 悪いね、俺ァこう見えても元の世界じゃマリカーで無双してたんだよ。

 どうせ試練じゃ、どうやったって『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームに遅れを取っちまう。

 だったらせめてレースでリードしておくのが得策ってもんだろ。

 

 200mくらい爆走すると、早速最初の試練が見えてきた。

 俺達が決められた位置に車を停めると、リフトに乗せられた車が移動する。

 俺達は、その間に最初の試練に挑戦した。

 

 高さ10mはありそうなハシゴのような鉄棒に、ブランコがぶら下がっている。

 俺達『ぷれいやぁ』チーム専用のコースと『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チーム専用のコースが用意されていて、それぞれの鉄棒にブランコが2本ずつ吊るしてある。

 

《第一の試練『ぶらんこ』。この試練では、チームの代表者1名が、5本のブランコを渡って反対側にあるゴールを目指します。なお、全ての鉄棒にブランコが2本ずつ吊るされており、どちらか片方は掴んだ瞬間に『げぇむおおばぁ』になる即死トラップのブランコです。代表者には、どちらのブランコが安全かの2択を選択しながらゴールを目指していただきます》

 

 電子音声による『るうる』説明と映像が流れる。

 そこには、間違ったブランコを掴んで頭にレーザーが貫通する挑戦者の映像が映っていた。

 

《なお、どちらが安全なブランコかは、鉄棒に記載された暗号を解読する事で判別できます。代表者以外の挑戦者の方は、暗号を解いて正解のブランコを判別して下さい》

 

 なるほどな…肉体型と知能型に分かれてお互い助け合う『げぇむ』か。

 『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』っぽいな。

 そう考えていると、ガタイのいいお兄さん…シンゴさんが、上着を脱いでタンクトップ姿になる。

 

「オレが渡る。趣味でボルダリングをやってたから、この手の競技には自信がある。皆は正解のブランコを見分けてオレに教えてくれ」

 

「分かりました!一緒に『くりあ』を目指しましょう!」

 

 俺達は、それぞれ鉄棒の上に立って、暗号を解読した。

 最初の鉄棒の暗号を解読した男性…フジキさんが、シンゴさんに答えを教える。

 

「左です!」

 

「っしゃ!」

 

 シンゴさんは、足場から跳んで正解のブランコを両手で掴んだ。

 

「次は!」

 

「右です!」

 

 2番目の鉄棒の暗号を解読した女性…カエデさんが答えを教えると、シンゴさんは両脚を振って大きくブランコを揺らしてから勢いよく跳び上がり、そのまま遠心力を利用して次のブランコに飛び移った。

 

「よし、次!」

 

「えっと…右!」

 

 ユズトさんがシンゴさんに答えを教え、3番目のブランコも危なげなく突破した。

 そして次は、俺が今いる4番目の鉄棒にぶら下がったブランコだ。

 奥に行けば行くほど暗号の難易度が上がっているのか、俺のはちょっと難しいかなって思ったけど、何とか答えを見つける事ができた。

 

「左っス!」

 

 俺が答えを教えると、シンゴさんは俺のいる鉄棒にぶら下がったブランコに飛び移った。

 だけどその時、5番目の鉄棒に先回りして暗号を探していたカエデさんが絶望の表情を浮かべる。

 

「嘘でしょ…!?」

 

「どうした!?」

 

「最後の鉄棒、暗号が書かれてない…!!」

 

 暗号が書かれてないだと…!?

 それじゃあ、どうやって判別しろっていうんだよ…!

 

「そんな、じゃあどうすれば…!?」

 

「ちょっと待ってください、オレも一緒に考えるっス!」

 

「早くしてくれ、ロープがもうもたない!」

 

 そう叫ぶシンゴさんが乗っていたブランコを支えているロープは、今にも切れそうになっていた。

 早く正解のブランコがどっちか判別しないと…

 考えろ、考えるんだ…!

 

 ………あれっ?

 そういえば、さっき何で『げぇむおおばぁ』の時の映像が流れたんだ?

 2択を勘で選ぶ『げぇむ』なら、わざわざあんな映像を用意する必要なんてないはず…

 あの映像の中にヒントがあったのか…?

 

 …あっ、そういう事か!

 

 答えがわかった俺は、服のボタンを外して、左右のブランコに1個ずつぶつけた。

 …よし、これでどっちが正解かわかった。

 

「答えは左っス!!」

 

「本当か!?信じていいんだな!?」

 

「はい!」

 

 俺が言うと、俺の言葉を信じたシンゴさんが左のブランコに飛び移る。

 レーザーは、降り注がなかった。

 シンゴさんはそのまま、向こう岸へ着地した。

 するとモニターに『第一の試練 くりあ』と表示される。

 俺達が最初の試練を突破すると、シンゴさんが声をかけてくる。

 

「ありがとう。おかげで助かった。ところで、どうして最後正解がわかったんだ?」

 

「音ですよ。シンゴさんが掴んだブランコは、全部鳴らした時の音の高さが同じだったんです。でも『げぇむおおばぁ』の映像の時は、半音だけ低かった。だから、鳴らした時の音の高さで正解のブランコを判別したんです」

 

「フッ、さすが修羅場を乗り越えてきた猛者『ぷれいやぁ』ってだけの事はあるな」

 

 俺が正解のブランコを見分けた方法を教えると、シンゴさんが笑った。

 だけどその時、他の『ぷれいやぁ』が口を開く。

 

「って、やばいやばい!『♣︎J(くらぶのじゃっく)』がもうすぐそこまで来てる!」

 

 見ると、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームのレーザンが、あり得ない動きでブランコを素早く渡っていた。

 他の4人は、鉄棒の上でレーザンに指示を出していた。

 

「左だよ!」

 

「次は右やで!」

 

「オッケーオッケー!愛してるぜお前ら!」

 

 クソッ、何つーチームワークだアイツら!?

 せっかくリードしたのに、このままじゃ追いつかれちまう…!

 

「早く乗って!!」

 

 振り向くと、次の試練に挑戦する4人が、既に車に乗り込んでいた。

 俺は急いで運転席に乗り込み、次の試練のステージへと車を爆速で走らせる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 次は、床の色味が違うだけの、一見何の変哲もないレーンだ。

 だが、レーンの前に置かれているテーブルには、スカウターのようなヘッドセットが置かれている。

 

《第二の試練『ひのわくぐり』。この試練では、チームのうち4人が馬役となり、残りの1人を支えてコースを走ります。馬の上に乗る騎士役には、テーブルの上のヘッドセットを装着していただきます。炎のトラップを潜り抜けて、ゴールを目指してください》

 

 今度はさっきとは逆に、頭脳派1人を肉体派4人が支える『げぇむ』らしい。

 騎士役が的確に指示を出す事と、馬役の4人が息を合わせる事が求められる、地味に難易度の高い『げぇむ』だ。

 話し合いの結果騎士役になった俺は、ヘッドセットを装着して4人の上に乗る。

 

「それじゃ、行くっスよ!!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 俺が合図をすると、下の4人は一斉に駆け出した。

 すると床からゴゥッと勢いよく炎が上がる。

 一度でも巻き込まれれば丸焦げになっちまうが、俺達は何とか炎を回避できた。

 俺の装着しているヘッドセットには、レトロなゲーム画面のようなものが表示されていて、それを見れば次にどこから炎が出てくるのかを予測する事ができる仕組みになっている。

 俺は、このステージのモデルになっているゲームをやった事があった。

 自慢のゲームスキルを総動員して、炎を喰らわないように馬の4人に指示を出した。

 

「10時の方向に回避!そしたらそのまま3秒待機!」

 

 俺が指示を出すと、馬の4人が俺の指示通りに動く。

 俺のゲームスキルと4人のチームワークのおかげで、俺達は炎を喰らわずに着実にゴールまでの距離を縮めていた。

 だけどゴール寸前、俺達は信じがたいものを目の当たりにする。

 

「ハンナ、次は?」

 

「思いっきりジャンプ!」

 

「よしきた!」

 

 『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームは、サーカスで鍛えられた身体能力と見事なチームワークを存分に活かして、炎の輪を飛び越えていた。

 まずい、このままだと追いつかれちまう…!!

 即席のチームの俺達と、何度も同じチームで『げぇむ』を乗り越えてきた『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームとじゃ、信頼関係の差は歴然だ。

 それでもやるしかない。

 こうなったら…

 

「全速力で走れ!!」

 

「えっ!?」

 

「いいから走れ!!振り返るな!!」

 

「「は、はい!」」

 

 俺は、下の4人に全力で走るよう指示を出した。

 下の4人は、俺の両脚をしっかりと掴んで、息を合わせて全速力で走った。

 その直後、俺達が走っていたレーンに、炎の竜巻が巻き起こる。

 俺達は、炎の竜巻をギリギリで回避し、ゴールのラインを踏み越えた。

 するとモニターに『第二の試練 くりあ』と表示される。

 

 俺達が第二の試練を突破すると、第三の試練に挑戦する5人を乗せた車が通り過ぎる。

 俺は、爆速で駆け抜ける車に向かって叫んだ。

 

「ヤヨイ、後は任せた!!」

 

 俺が叫ぶと、ヤヨイは車の窓から腕を出してサムズアップをする。

 そしてそれと同時に、炎の竜巻を難なく突破した『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームが車に乗り込み、ヤヨイ達を追いかける。

 

「よしっ、いいよハンナ!距離詰めてるよ!」

 

「それにしても、今回の『ぷれいやぁ』達、すごいチームワークよね。即席のチームとは思えない」

 

「ま、ワイら程やあらへんけどな!」

 

 『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームは、次の試練を目指しながら談笑する余裕すら見せていた。

 確かに、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』達のチームワークは見事なものだ。

 きっと俺にとってのリーダーやヤヨイみたいに、仲間同士が強い絆で結ばれているんだろう。

 だけど俺達だって、生きてる人達を助けたいって気持ちは負けてないはずだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヤヨイside

 

 ネズミ君に次の試練を託された私は、第三の試練のステージを目指して車を走らせた。

 私は、『ねくすとすてぇじ』の初日にヤギさんを死なせてしまった事を、ずっと後悔してた。

 リーダーやネズミ君をヤギさんのような目に遭わせたくなくて、今まで『げぇむ』から逃げてきた。

 

 …でも、リーダーも、ヒヅルちゃんも、リナさんも、ネズミ君も、皆生きる為に命を懸けてる。

 私だけがいつまでも弱いままでいるわけにはいかない。

 私を生かしてくれたヤギさんの思いを無念にしない為にも、私が命を懸けて皆を生かすんだ。

 

 第三の試練は、ドラム缶や鉄パイプ、木の板、ボールなんかの地上曲芸に使う道具が置かれたステージだった。

 パネルには、試練に使うダガーナイフが5本固定されている。

 どれも、本物の刃でできている。

 間違って刺さったりなんかしたら、大怪我は確実ね…

 

《第三の試練『ないふなげ』。この試練ではまず、ここにあるセットを全て使って代表者が乗る足場を作ります。足場は、必ず十字の印の上に置いてください。他の4人は、赤いラインの向こうのボードに乗り、的を持って立ちます。代表者には、足場の上に乗って、的に向かってナイフを投げていただきます。代表者が5つの的にナイフを当てたら、第三の試練は『くりあ』となります》

 

 私がふと赤い線の向こう側を見ると、車輪のついたボードが4つ、的が5つ置かれていた。

 

《なお、的役が生きている限り何度でも挑戦できますが、代表者がナイフを投げる際に参加者が指定された場所に立っていなかった場合は失格となり、即刻『げぇむおおばぁ』》

 

 つまり、ナイフを投げる時は、挑戦者は足場の上に、的役はボードの上に立ってなきゃダメって事ね。

 私が試練の『るうる』を頭の中で整理していると、参加者の一人が恐る恐る口を開く。

 

「あの…オレ、ジャグリングはやった事あるって言いましたけど…本物のナイフを使った事なんてないですよ…もし皆さんに当たったらって思うとオレ、足が竦んじゃって…」

 

 参加者の男性…カズキさんが本物のナイフを見て怖気付いていたので、私はカズキさんに微笑みかけた。

 

「大丈夫です。これは『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』ですよ。皆で協力すれば、必ず『くりあ』できますから。まずは皆で足場を作りましょう」

 

 私達は、置いてあるセットを使って足場を作った。

 何も考えずに組み立てるとすぐに崩れるから、ちゃんと考えて安定した足場を作らないといけない。

 私達は、知恵を絞ってできるだけ崩れにくい足場を作った。

 

「あの…すみません、オレやっぱり自信ないです…」

 

 カズキさんは、足が竦んで震えていた。

 このままだと、まともに的を狙えそうにない。

 どうすれば…

 

 私が考えたその時、釣竿を背負った『ぷれいやぁ』…カイリさんが目に留まる。

 …そうだ、この方法なら確実に『くりあ』できる。

 

「すみません、それお借りしてもいいですか?」

 

 私は、カイリさんから釣竿を借りた。

 的役の私達は、赤い線の向こうに足を踏み入れ、ボードの上に乗り、的を一つずつ手に取った。

 私が的を高く掲げると、カズキさんは震えながらもナイフを投げてきた。

 それとほぼ同時に、私が叫ぶ。

 

「今です!リール巻いて!!」

 

 私が叫ぶと、カイリさんが釣竿のリールを巻く。

 するとカズキさんが投げたナイフが、私達の方へ引き寄せられた。

 私はそのまま引き寄せたナイフを片手で拾い上げ、自分の的に突き刺す。

 ナイフを手繰り寄せてボードに乗ったまま的を刺せるように、あらかじめ釣り糸をナイフにくくりつけておいたってわけ。

 この『げぇむ』は持ち込み自由だったし、『指定の位置から動いてはいけない』という『るうる』は守ってるから、別に『るうる』違反じゃない。

 自分の的にナイフを刺した私は、他の的役の人と交代した。

 私達は、その調子で他の3つの的も危なげなくクリアした。

 

 ふと『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームを見ると、不安定な足場に立ったキマダラがナイフを投げ、それを他のメンバーが的を動かしてナイフを当てに行っていた。

 

「ほな行くでエマ!しっかり構えとき!」

 

「よしっ、いつでも来い!」

 

 キマダラは、今にも崩れそうな足場に立っているにもかかわらず、一切の躊躇なくナイフを投げ、的の真ん中にナイフを当てていた。

 仲間を信頼してなきゃ、こんな芸当できるはずがない。

 絵札の『げぇむ』は、今までの『げぇむ』とはレベルが違うという事ね…

 

「おい、皆見ろ!この的、一人じゃ支え切れない!」

 

 そう言って他の的役のキヒロさんが指をさしたのは、最後の的だった。

 最後の的は、重量的にも形状的にも4人全員で支えないといけないタイプだ。

 これだと、今までの作戦が使えない。

 …それでも、やるしかない。

 

「大丈夫!ちゃんと狙えば当たります!私達を信じて!」

 

 私が叫ぶと、カズキさんは意を決してナイフを投げた。

 私はほぼ同時に、他の的役の3人に叫んだ。

 

「持ち上げて!!」

 

 私達4人は、同時に的を持ち上げた。

 すると、カズキさんの投げたナイフが私達の持っている的の真ん中に突き刺さった。

 その瞬間、モニターには『第三の試練 くりあ』と表示される。

 

「『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に遅れを取ってる…!急がなきゃ!!」

 

 第四の試練に参加する私は、急いで車に乗り込んだ。

 車に乗った私は、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』の車を追いかけた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 第四の試練のステージを目指して車を走らせた私達は、コース上に設置されたプールに辿り着いた。

 プールの近くには、電極がついたベルトが置かれている。

 

《第四の試練『はしわたり』。この試練ではまず、4人の参加者がプールの中に入り、一列に並んでいただきます。残りの1名は、電極付きのベルトを装着した状態で、身体が水に浸からないように反対側までプールを渡りきっていただきます。ただし他の4人は、代表者を抱えたままプールの中を3歩以上移動すると『げぇむおおばぁ』》

 

「身体が水に浸からないようにプールを渡れって…それって要は…」

 

「5人のうち4人が橋になれって事だよな…!?」

 

 『るうる』の説明を聞いたマイさんとユーキさんが、顔を見合わせる。

 迷ってる時間はない。

 早く試練を突破しないと…!

 

「やりましょう。『♣︎J(くらぶのじゃっく)』に遅れを取るわけにはいかないじゃないですか」

 

 そう言って私は、ショートパンツとパーカーを脱いで水着姿になる。

 そしてそのまま、お腹に電極ベルトをつけた。

 すると男性陣は、咄嗟に顔を逸らした。

 別に水着だし気にする事ないのに…

 

 私は、橋になった4人の身体を踏み台にして、水に浸かる事なくプールを渡った。

 昔はバレエをやってた事もあったし、こういうのは割と得意な方だと思う。

 

「大丈夫ですか?」

 

「平気です!それより、急いで!『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームがこの関門を突破しちまう!」

 

 私が声をかけると、ユーキさんが叫ぶ。

 ふと『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームを見ると、エマが他の4人の身体の上を飛び跳ねて、あり得ないスピードで第四の試練を攻略していた。

 

「よっ、ほっ、それ!」

 

「いいぞエマ、その調子!」

 

「いったれいったれ!」

 

 私達より先に第四の試練を突破した『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームは、プールから上がると急いで車に乗り込む。

 その時、お調子者のキマダラが私達を煽ってきた。

 

「へへっ、ほなお先〜!」

 

「おいコラあんま煽んな!」

 

 キマダラが私達を煽ると、ハンナがキマダラの手を引いて車に乗せる。

 どうしよう…追い抜かれた…!

 私が焦っていると、下にいたタクマさんが話しかける。

 

「ヤヨイさん、落ち着いて…!オレ達なら、きっと『くりあ』できますから!」

 

「…はい!」

 

 タクマさんのおかげで冷静さを取り戻した私は、皆で協力して第四の試練を突破した。

 私達が第四の試練を突破すると、さっき出会ったお人好しの女性…チエさん達を乗せた車が私達の横を通り過ぎる。

 最後の『まじっく』に挑戦するのは、チエさんと、『びざ』切れ間近の男の子…ハルトくん、それからウオズミさん、トードさん、イーダさんの5人だ。

 5人が『♣︎J(くらぶのじゃっく)』チームより先に『まじっく』を『くりあ』すれば、私達は全員生きて『げぇむくりあ』できる。

 『♣︎(くらぶ)』は絆の『げぇむ』だ。

 5人を信じて、ヘイジさん達のところに生きて帰るんだ。

 

 

 

 

 




厳密には原作で示されていた『♣︎J(くらぶのじゃっく)』の場所とは少し違いますが、墨田区といえばスカイツリーって事で『げぇむ』会場をスカイツリー周辺にしました。

♣︎J(くらぶのじゃっく)』の国民達の名前の由来は、鏡の国のアリスに登場する虫達です。
それぞれ、

ワスベ:かつらをかぶった雀蜂
レーザン:燃えブドウトンボ
ハンナ:バタつきパン蝶
キマダラ:黄斑蝶
エマ:木馬バエ

となっています。
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