ヘイジside
ネズミ達が『
包帯を替え終わったヒヅルは、俺に話しかける。
「…アイツら、ちゃんと戻ってくるかな」
ヒヅルは、心配そうに俺に話しかけた。
ヒヅルの不安もわからなくはない。
『
「大丈夫だ。今は、ネズミ達を信じよう」
「……うん」
俺が言うと、ヒヅルが頷く。
何というか…ヒヅルも変わったな。
「………何?」
「いや…何つうか、変わったなって。前のお前なら、人の心配なんかしなかっただろ?」
「別に…これ以上死なれたら、『
俺が言うと、ヒヅルは顔をふいっと逸らして言った。
そうは言いつつも皆を心配しているヒヅルの事を、優しい奴だと思った。
「ヒヅルは優しいな」
「…えっ?」
「この国で、人の事を気にしていられる奴はそう多くない。自分の事だけしか考えてなくても、別にそれでいいと思う。まずは自分が生き残る事が一番大事だから…そうやって人の事を考えられるってだけで、ヒヅルは優しいんだよ」
俺が言うと、ヒヅルは僅かに目を見開く。
そして唇をモニョモニョさせてはにかんだ。
「やめてよ…そんなん、違うし……」
ヒヅルは、俺の言葉に戸惑っていた。
きっと、この国に来てからずっと、人の温かさに触れずに生きてきたんだろうな。
するとその時だった。
『
「リーダー!!一人も死なずに戻ってきましたよ!!」
「皆…!!」
『
唯一の負傷者のチエさんも、頭の怪我を見る限りは、この病院での処置で事足りそうだ。
きっと、『
だけど今は、誰一人重傷を負う事なく、皆でこうして無事にまた再会できた事を喜び合いたいと思った。
中には『
俺達は、ここに残った皆でバカみたいに騒いだりくだらない話をしたりして、今生きている事を喜び合った。
◆◆◆
ネズミside
腹が膨れた後は、皆で後片付けをして、武器や日用品を調達してから眠りについた。
皆が寝静まった頃俺は、ランプの灯りで本を読んでいるヤヨイに話しかけた。
「オレ達さ。『
「…そうね」
俺が話しかけると、ヤヨイは本をめくりながら答える。
思わずドキッとした。
俺は多分、ヤヨイの事が好きなんだと思う。
『ビーチ』にいた時、『げぇむ』で親友を失って生きる希望を見い出せなかった俺を、ヘイジさんの派閥に引き入れてくれたのがヤヨイだった。
俺は、気がつけばヤヨイの明るさと優しさに惹かれていた。
…えっと、こういう時って何言えばいいんだろ。
『オレが守ってやるから心配すんな!』……いや、違うな。
『お前と一緒なら何も怖くないさ』…これも違う。
ああもう、こういうのはストレートに言っちまえ。
「何つうか…オレ、好きだわ」
「え…?」
「その、もし、ヤヨイが嫌じゃなかったら…オレ達、付き合うか?」
俺が言うと、ヤヨイは僅かに目を見開く。
そしてすぐに俯いた。
ヤヨイはきっと、ヘイジさんの事が好きなんだと思う。
…そりゃあ、そうだよな。
ヘイジさんは俺よりイケメンで背が高いし、勇敢で頭も良い。
俺が勝てる要素なんてひとつもない。
だけどあの人は、死んだ恋人の事を今でもずっと引きずってる。
ヤヨイも、ヒヅルちゃんも、それをわかってるから一歩前に踏み出せないでいる。
うまく言えねぇけど、俺にとってはそれがどうしようもなく心苦しかった。
俺がなんて言おうか考えていると、ヤヨイが口を開く。
「…ネズミ君は、私がヤギさんを死なせてしまったショックで何もできなくなってた時、一緒にいてくれたよね。…それだけじゃないわ。『まじょがり』で私が疑われた時に真っ先に庇ってくれたのも、ネズミ君だった。私がここまで生きてこられたのは…ネズミ君のおかげよ」
「ヤヨイ…」
「私にとってネズミ君は大切な人だから…もし、ネズミ君が望むなら、私は……ネズミ君と一緒に生きたい」
そう言ってヤヨイは、髪留めを外した。
カラフルなエクステをつけた長い髪が揺れる。
俺は、潤んだ目を向けてくるヤヨイの事を、素直に可愛いと思った。
「ヤヨイ…いや、美兎…!」
俺はヤヨイ…いや、美兎の身体を抱き寄せて、唇を重ねた。
そのまま美兎のスポーツウェアを胸の上まで引っ張り上げると、美兎が頬を染めて微笑んだ。
美兎に煽られて我慢できなくなった俺は、美兎をベッドに押し倒した。
俺は、美兎と激しく求め合った。
最初は戸惑っていた美兎も、俺の想いに応えてくれた。
髪の束をすくってキスを落とすと、どこか甘くて切ない香りがした。
◆◆◆
ヒヅルside
「ふぅっ…」
夜中に催した俺は、周りの奴等を起こさないようにトイレに行っていた。
それにしても、『げぇむ』会場以外にちゃんとしたトイレが無いってのは、最初『マジか』って思ったね。
何なら、電気と水目当てで毎日『げぇむ』に参加してた節すらあるし。
部屋に戻ると、俺が元々いた部屋の手前の部屋から、女の声が聴こえてきた。
少し気になったから覗いてみたら、ヘイジといっつも一緒にいた女…ヤヨイが、高い声を上げていた。
ヘイジと一緒にいたプリン頭のネズミが、ヤヨイと一緒にいる。
二人はお互い全裸で、ネズミがヤヨイの上に覆い被さっていた。
これって完全にアレだよね…?
何でどいつもこいつもいきなりおっ始めるわけ?
昨日までそんな感じじゃなかったじゃん。
…もしかしてアレか?
危機的状況になると、子孫を残そうとする生存本能とか、そういうやつ?
「………意味わかんないし…意味わかんないし…!」
俺は、混乱する頭を何とか整理しながら部屋に戻った。
……ホント、意味わかんないし。
◆◆◆
ヘイジside
次の日、朝食を済ませて、ヒヅルの為の朝食を作っていると、ネズミが声をかけてくる。
「おはようございます、ヘイジさん」
「あぁ…おはよ…」
ネズミは、ヤヨイと一緒だった。
…何か、コイツらやけに仲良くないか?
いや、『ビーチ』にいた頃から仲は良かったんだけどさ。
何つーか、まるでカップルみたいな…
「…あれ?お前ら、もしかして…」
「えっと……」
俺が言うと、二人は恥ずかしそうに顔を逸らして離れた。
二人とも、心なしか顔が赤くなっている。
…やっぱりか。
「おめでとう。お幸せに」
俺が言うと、二人は顔を見合わせて目をぱちくりさせる。
俺、そんなに変な事言ったかな。
……あ、もしかして、この状況で付き合うのが不謹慎だと思ったとか、そんな感じか?
別にそんなの気にしてないし、正直に言ってくれてよかったのに。
ヒヅルの為の朝食を作った俺は、ヒヅルの病室に顔を出した。
ヒヅルは、昨日に比べるとだいぶ顔色が良くなっていた。
「おはよ」
「…うん」
俺が声をかけると、ヒヅルが小さく頷く。
俺は、ヒヅルの為に作ったりんご粥をヒヅルに手渡した。
「はい、これ」
俺がりんご粥の入ったお椀を手渡すと、ヒヅルは目をぱちくりさせる。
「…これ、どうしたの?」
「あるもので作ったんだ。いっつもヒヅルに飯作ってもらってたから、オレも何か作ってやろうと思って」
俺が言うと、ヒヅルはしばらくりんご粥の入った器を眺める。
レトルトのお粥にりんごの缶詰とレーズンを混ぜたりんご粥だ。
子供の頃、風邪引いた時に母さんがよく作ってくれたのが懐かしい。
「それ食って少しでも体力つけとけ」
俺が言うと、ヒヅルはりんご粥を一口食べた。
「…おいしい」
「そっか、良かった。りんごが好きって言ってたもんな」
「それもあるけど…何だか、身体がぽかぽかするの。疲れとか、痛みとか、そういうの全部和らいで、元気が出てくる…そんな感じがする」
ヒヅルは、頬を微かに赤らめながら言った。
きっと今まで自分しか信用できずに生きてきたから、心と身体を休められる居場所を見つけて安心してるんだろうな。
俺は、ヒヅルの頭に手を置いて言った。
「そんなに好きならまた作るよ」
「……ありがと」
俺が言うと、ヒヅルは頬を緩める。
昨日より、声も顔色もいい。
クリハラさんの手術の腕がいいのもそうだけど、ヒヅルの回復力も並外れてるからなぁ。
「調子はどうだ?」
「だいぶ落ち着いてる」
「それは良かった」
ヒヅルが言うと、俺は安堵のため息を漏らす。
昨日は、ヒヅルが死んじまうんじゃないかと本気で心配したが、これならもうその心配はなさそうだ。
りんご粥を食べ終わったヒヅルは、ポツリと呟く。
「…今夜はお肉食べたい」
「飯食い終わってすぐ夕飯の話かよ…」
「だって、体力つけとけってヘイジが言うから…ちゃんとタンパク質摂らないと」
ヒヅルは、両手をグッパーしながら言った。
…本当に元気が有り余ってるな。
昨日まで生死の境彷徨ってたとは思えねぇよ。
「肉食いたいって言ってたけど、何の肉が一番美味いんだ?」
「そうだなぁ…やっぱりリスかな。木の実ばっか食べてるから、コクと甘みがあるの。そこら辺の街路樹の陰にわんさか住み着いてるから、簡単に手に入るし。つみれ汁にするのもいいけど、味噌に漬けて七輪で焼くのがおすすめ」
「西京焼きみたいなもんか」
「うん」
素直に聞いてるだけで美味そうだな。
俺が滞在5日目にヒヅルに食わせてもらったつみれ汁も美味かったし。
「それと、ハクビシンも好き。シチューにして食ったら美味かった。あとは…ヤマドリを捕まえた時は、一羽丸ごと焼き鳥にした」
…この国に来る前の俺の食事よりいいもの食ってんじゃねぇか。
道理で元気が有り余ってるわけだ。
つーか、何で都会育ちのお嬢様のヒヅルの方が、俺よりサバイバル知識が豊富なんだ?
勝手な偏見だが、箱入りのお嬢様って、そういう野営とかとは無縁なイメージがあるんだが…
「…なぁ、そういうのってどこで知るんだ?」
「昔どっかの本で読んだ。あとは…勘」
俺が尋ねると、ヒヅルはお気に入りのナイフを照明に翳しながら答える。
ヒヅルは頭がいいからな。
『何となく』で実際今まで生きてこられたのがすごいよな。
◇◇◇
俺は、狩りをしにシェルターの外に出た。
するとヒヅルも一緒についてくる。
まだベッドで寝てなきゃダメだろ…
「まだ寝てろよヒヅル…完治したわけじゃないんだし」
「一人でどうやって狩りをして戻ってくるつもり?」
「それは…」
「狩りはしないし、護衛もしない。道案内と、見張りだけだから。それならいいでしょ」
「…わかった。それでいい」
ヒヅルが言うと、俺はコクっと頷く。
俺は、ヒヅルに前教えてもらったやり方で、銃で大型の野鳥を撃ち落とした。
まだ息がある。
俺は、ナイフを持ってトドメを刺そうとした。
俺だって、いきなり銃で撃たれて殺されたくなんかない。
きっとコイツも、それは同じだ。
…だけど、食わなきゃ生きていけない。
『ねくすとすてぇじ』が始まってから、俺は、生きる為に『今際の国』の国民を7人も殺した。
救えなかった命は、ごまんとあった。
それでも俺は、今生きてる。
救える命は、まだある。
生きる為に、生かす為に、命を奪うんだ。
俺は、これまでも、そしてこれからも、そうやって生きていく。
「…ごめんな」
俺は、まだ温かい野鳥の身体に手を添えて、頸にナイフを突き刺してトドメを刺した。
『
「これだけ獲れれば十分かな」
「シェルターに20人以上もいるのに、2羽じゃ足りなくないか?」
「わかってるよ。だからお肉はつみれ鍋にするの。骨やモツまで無駄なく使えるし、つなぎとか野菜とかでかさ増しできるし、滋養強壮になる。大人数に振る舞うにはもってこいだと思わない?」
そう言ってヒヅルは、野鳥の足をロープで縛った。
俺とヒヅルが一羽ずつ持って、『
俺とヒヅルが獲物を持ってシェルターに戻ろうとすると、路地裏でしゃがんでいるコウタ君が目に留まる。
コウタ君は、何かを見ているようだ。
「どうしたんだ?」
俺が声をかけると、コウタ君は少し浮かない様子で口を開いた。
「この子、怪我してる…」
そう言ってコウタ君が指をさしたのは、ボロボロになって痩せ細った子猫だった。
右の後足を怪我しているようだ。
子猫は、コウタ君が手を近づけようとすると、牙をむいて威嚇した。
コウタ君は、子猫の足の怪我を心配して、シェルターに連れて帰ろうとしていた。
「野良猫は人の匂いがついた猫を嫌がる。それが自分の子供でもな。シェルターには連れて行けない」
「でも……」
「ソイツは、母親とはぐれて寂しい思いをしてるんじゃないのかな。二度と母親に会えなくなったら、どんな気持ちになると思う?」
俺が言うと、コウタ君は俯く。
妹が昔、野良の子猫を拾って家に連れてきた事があった。
そしたら父さんが、『命はおもちゃじゃない』って妹を怒鳴りつけた。
その時は、言っている意味がわからなかったけど、妹が泣く泣く放した子猫を次の日母猫が食い殺していたのを見て、初めて父さんの言葉の意味がわかった。
怪我を治す為に下手に触れれば、人の匂いがついて母親に見捨てられるかもしれない。
餌を与えれば、人の与えた餌の味を覚えて母親が与えた食べ物を食べなくなるかもしれない。
善意で命を奪ってしまう事ほど、残酷な事はない。
助けたいという気持ちはわかるが、放っておくのが一番この子の為だ。
俺がどう説明しようか考えていると、ヒヅルがコウタ君に話しかける。
「大丈夫だよ。この国は食べ物が豊富だし、野生動物は強いから…それに『
ヒヅルが言うと、コウタ君はもう一度子猫を見る。
コウタ君は、名残惜しそうに子猫に向かって小さく手を振った。
「…バイバイ」
コウタ君が言うと、子猫は短く鳴いてから、後ろ脚を引き摺りながら歩き出した。
するとその直後、物陰から母猫らしき三毛猫が出てきた。
きっと、この子を探しに来たんだ。
小柄で痩せ細っている。
生後8〜9ヶ月ってところか。
まだ幼いうちに妊娠したから、栄養が足りなくて痩せちまったんだろうな。
母猫は、子猫の首を咥えたままどこかへと去っていった。
コウタ君が猫の親子を名残惜しそうに見送っていると、ヒヅルが口を開く。
「動物はいい。狩りをするのに読まなきゃいけないのは、『心理』じゃなくて『戦略』だと思ってる。種の存続の為に最適化された合理的選択…そういうのを読むのは、どちらかというと『
とうとう身の回りのものを『げぇむ』のジャンルで分類分けしやがったぞコイツ…
どんだけ『げぇむ』好きなんだよ。
ヒヅルの事は大事な仲間だと思ってるし信頼してるけど、そこだけはやっぱり分かり合えねぇわ。
「でも、人はそうじゃない。自分が生き残る為でもないのに人を殺す奴もいるし、自分が死んでも誰かを助けようとする奴もいる。オレは、ヘイジみたいに『いい人』じゃないから、ソイツらの心なんてわからないし、わかりたいとも思わない。だから『
そう言ってヒヅルは、先にシェルターに向かった。
俺もコウタ君を連れて、ヒヅルの後を追う形でシェルターに戻った。
◇◇◇
「今日の夕飯は野鳥のつみれ鍋。お肉は貴重だから、骨まで余さず全部使う。あとは野菜なんかでかさ増しする」
シェルターに戻ってきたヒヅルは、ケロッとした様子で鍋の下拵えをしていた。
切り替え早いな…
俺達が調達した肉の他にも、シェルターのメンバーが野生の野菜を収穫してきてくれたりもしたから、鍋の具材は最低限揃った。
あとは豆腐もあれば良かったんだが…まぁ、無いものは仕方ない。
一応、ヤヨイをはじめとした料理担当のメンバーで野鳥の解体と野菜の下拵えをして、鍋のスープを作るところまでは終わった。
すると夕食作りに参加してノリのいいメンバーが、ヒヅルとヤヨイに尋ねる。
「けどシェフ!鳥の骨を入れたりなんかしたら、骨が喉に刺さって危ないのでは!?」
「だからまずは、骨を野菜くずと一緒に煮込んで鍋のスープを作っておくの。出汁を取って柔らかくなった骨は、ナタでひたすら砕く。そうすると、肉みたいに粘りが出てくるから、これをお肉に混ぜるのよ」
そう言ってヤヨイは、スープから骨を取り出すと、分厚い台の上に置いてナタで骨を砕き始める。
根気よく叩き続けていると、しまいには骨が肉状になった。
その近くでは、ヒヅルが肉を包丁で叩いてミンチにしていた。
「骨と分けておいた肉も、粘りが出るまで包丁で叩いて潰す。肉と骨のミンチに、出汁を取るのに使った野菜くずを細かく刻んだやつと、片栗粉と、そこら辺で採れた野生のショウガも入れて…あとはコンビニから持ってきた調味料で味を整える」
「おお…!」
「ゴボウや大根、ノビル、キノコなんかの野菜を投入して、煮立ってきたら、作ったタネを一口サイズに丸めて、スープに入れる。具材に火が通ったら味噌を溶き入れて…できた!」
日がすっかり暮れた頃には、味噌ベースの鍋が出来上がった。
…しかし、本当に美味そうだな。
食材を一切無駄にせずにこんなに美味いものが作れるとは…ヤヨイ達には感謝しないと。
「皆さん、ご飯できましたよ!野鳥のつみれ鍋です!」
「おぉっ、美味そうだ!」
ヤヨイが皆を呼ぶと、皆が鍋の周りに集まってくる。
ヤヨイは、皆の為に鍋を盛り付けた。
「うんめぇ〜!生き返る〜!」
「オレ、新鮮な肉なんてこの国に来て初めて食ったよ…!」
「オレら、明日死ぬのかな…」
「やめてよ、縁起でもない!」
「このスープにご飯をはめて雑炊にするのが美味しい食べ方なんですよ!」
皆は、鍋を囲んで楽しそうに笑っていた。
年少者のハルト君、コウタ君、そしてヒヅルも、仲良さそうに談笑している。
やっぱり、美味い食事って人を笑顔にするんだな。
鍋を食べ終わった後は、鍋のスープにパックの白飯を入れて雑炊にした。
出汁のきいたスープで作る雑炊の味は、格別だった。
全員で片付けをして、駄弁ったり酒盛りをしたりした後、俺達がランプの灯りを囲んでまったりしていると、アンさんが口を開く。
「…そろそろ、建設的な話をしましょう。私達がここに集まった目的は、『
「で、でも…!ここには食糧も薬も十分あるし、地上からは狙われないし、外にいるよりは安全なんじゃ…」
「必ずしも地下が安全ってわけでもねぇ。オレ達は、今まで運良く奴に狙われなかっただけだ。頭をぶち抜くレーザーなんてものがある時点で、オレ達は常に『
「うっ……」
クリハラさんが言うと、アンさんの言葉に反論したメンバーが黙り込む。
クリハラさんの言う通り、ここに『
むしろ、『
もし地下シェルターに『
『
「わからねぇか?そろそろ、このシェルターも潮時なんだよ」
クリハラさんは、酔っ払って浮かれていたメンバーに現実を突きつける。
皆、頭ではわかっていたはずなんだ。
地下に籠って現実から逃げたって、この世界の理不尽からは逃げられないって事は。
すると、チエさんが覚悟を決めた様子で口を開く。
「ここからは、何手かに分かれて移動しましょう」
チエさんが言うと、他のメンバーが顔を上げる。
「皆さんには、もう充分すぎる程助けてもらいました。この先は、自分達の力で生きていかないと…」
チエさんは、ハッキリと自分の意見を言った。
彼女はもう、自分の力で生きていく覚悟はできていたみたいだ。
するとウオズミさんも、手を挙げて言った。
「オレも…ここを出るのに賛成です。オレ、ここにいる皆さんに助けられて、『
チエさんに続けて、ウオズミさんも、シェルターを手放す事に賛成した。
俺は、いつでもシェルターから逃げ出せるように、ネズミが車を整備していた事を思い出す。
「ネズミ。今使える車何台だ?」
「4台っス。5人乗りと7人乗りが2台ずつ」
「…よし。じゃあ、すぐにでもここから逃げ出そう」
俺達は、それぞれ車の割り振りを決めて乗り込んだ。
俺、ヒヅル、クリハラさん、リナさん、ネズミ、ヤヨイの6人が7人乗り、アンさん達4人が5人乗り、他の皆はそれぞれ7人乗りと5人乗りに分かれて乗る事になった。
◆◆◆
クリハラside
俺は、医療器具や薬、食糧を車に詰め込んで、すぐに出発できるように支度をした。
するとリナが声をかけてくる。
「先生」
「おう、リナ。悪いけどこれ持って…」
俺は、薬が入った鞄をリナに渡そうとした。
だけどその時、リナの右腕がない事を思い出す。
「…悪い。またやっちまった」
「………」
俺は、気まずいのを誤魔化すように、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
俺とした事が、つい『ビーチ』にいた頃の癖でリナをこき使うところだった。
俺は、結ばれたカーディガンの袖に目をやって、リナが重傷を負ってここに来た時の事を思い出した。
◇◇◇
ヒヅルの輸血を終えた俺は、今度はリナの手術をした。
『
傷口の縫合をして、シェルターの奴等に分けてもらった血を輸血すると、リナのバイタルは安定してきた。
俺は、包帯を巻かれた切断面を見て、ポツリと呟く。
「…腕、もう本当に無いんだな」
俺が言うと、リナは暗い表情を浮かべて俯いた。
「……ごめんなさい」
リナは、俺の顔を見ずにポツリと呟いた。
生き残る為に腕を切り落とした事を、俺に怒られると思ったんだろう。
正直、馬鹿な事をしたと思った。
言いたい事は山ほどあった。
だけどまずは、リナが生きて戻ってきた事を喜ばなきゃいけない気がした。
「お前…生きてて良かったな」
「う…うぁああぁああああ…!」
俺が言うと、リナは俺の腕の中で泣いた。
自分で腕を切り落とす時、どれだけ怖かっただろうか。
それでも、コイツはやり遂げた。
やり遂げてしまった。
それ程の覚悟で、コイツは生き残ったんだ。
俺は、リナにだけは生きてこの国を出てほしいと思った。
◇◇◇
リナと一緒に後部座席に乗り込んだ俺は、白衣の内ポケットにしまっていた写真を眺めながらリナに話しかける。
写真に映っているのは、元嫁と娘、それから歳の離れた妹だ。
「もしこの国から生きて出られたら、腕のいい義肢装具士を紹介してやる。生意気だが、オレの知る限りじゃ一番優秀な奴だ。きっとお前に合った腕を造ってくれるだろうよ」
「…ありがとうございます」
「……だから、死ぬんじゃねぇぞ」
俺が言うと、リナは右の袖の結び目を握りしめながら唇を噛み締める。
ようやく、生きてこの国から出る理由ができた。
リナを連れてこの国を出て、装具士に会わせてやる。
それが今、俺が生きなきゃいけない理由だ。
◆◆◆
ヘイジside
荷物をまとめた俺は、シェルターの皆に別れを告げた。
「皆さん、今まで本当にありがとうございました。どうか、ご無事で」
「ヘイジさんも…あんまり無茶しすぎないでくださいよ」
俺が言うと、シェルターのメンバーが呆れたように笑いながら言うので、俺は「気をつけます」と笑って返した。
一方でコウタ君は、名残惜しそうにヒヅルとお別れをしていた。
「バイバイ、お姉ちゃん」
コウタ君が寂しがっていると、ヒヅルは珍しく微笑みながらコウタ君の頭に手を置く。
「そんな顔するな。きっとまた会える」
ヒヅルが言うと、コウタ君は精一杯の笑顔を作って手を振った。
コウタ君は、『
俺達がいなくても、きっと生きていける。
俺はコウタ君に手を振ってから、車の助手席に乗り込んだ。
◆◆◆
コウタside
僕は、シェルターを出ていく前に、ヒヅルお姉ちゃんとお別れをした。
最初は、綺麗だけど怖い人だと思った。
怖い顔をしていて、何を話したらいいのかわからなかったから。
僕と3歳しか違わないのに、すごく頭が良くて、落ち着いてて、いきなり『げぇむ』に巻き込まれても平気なのが、同じ『ぷれいやぁ』だと思えなくて何となく怖かった。
だけど、ヒヅルお姉ちゃんは、強くて優しかった。
僕が銃を持った女の人に殺されそうになった時、お姉ちゃんはすぐに駆けつけて僕を助けてくれた。
お姉ちゃんが敵の女の人と激しく戦ってて怖かったけど、僕はお姉ちゃんの事をかっこいいと思った。
気がつけば僕は、心の中で、お姉ちゃんを応援していた。
お姉ちゃんが怖いお兄ちゃんに襲われてた時、僕はお姉ちゃんを助ける為に、勇気を出してお兄ちゃんに石を投げた。
お姉ちゃんは、お腹を刺されて血が出ていた。
それでもお姉ちゃんは、最後まで戦った。
「ヒヅルちゃん、どこ行くの!?」
「『
「ダメよ!その傷でどうやって戦う気!?」
「だったら他に誰が『
お姉ちゃんは、ボロボロになっても、『
僕は、『ふぁあすとすてぇじ』で、『げぇむ』中に怪我をして泣き叫んだ大人を見た事があった。
大人でも、痛いのは怖いんだと思った。
でも、お姉ちゃんは違った。
お姉ちゃんは、僕が今まで出会ったどんな大人よりも強かった。
まるで、僕が昔見てたテレビに出てきたヒーローみたいだった。
「『
「は?オレに手伝えってか?嫌だね。何でテメェみてぇな生意気なガキに指図されなきゃならねぇ?」
「あっそ、出来ないなら別にいい。
「おい。別に出来ねぇとは一言も言ってねぇだろうが」
「生き残る気があるなら、少しは協力してよ。出来るだけ『
そう言ってお姉ちゃんは、『
僕は、怖いお兄ちゃんに何かされるんじゃないかと思って、怖くてたまらなかった。
「おいクソガキ。そこの廊下を出てすぐのところに予備のライフルと弾がある。今すぐ持ってこい。それくらいならできんだろ」
「えっ……」
「ただでさえお荷物なんだから、ちったぁ役に立てっつってんだ。『嫌だ』とか『帰りたい』とかほざきやがったら殺すぞ」
結局お兄ちゃんは、僕に何もしてこなかった。
お姉ちゃんとの約束を守ってくれたんだ。
僕が『
僕は、お姉ちゃんみたいに、強くて、優しくて、かっこいい人になりたい。
お姉ちゃんに助けられるんじゃなくて、お姉ちゃんを助けられるようになりたい。
いつかお姉ちゃんに、好きだって伝えられたらいいな。
───今際の国滞在三十日目
残り滞在可能日数
北句平治 73日
小鳥遊火鶴 123日
一ノ瀬利奈 30日
栗原鳳正 28日
根津見護人 24日
弥生美兎 25日
『ねくすとすてぇじ』開催4日目
『げぇむ』 残り7種
『ぷれいやぁ』 残り149人