Hedgehog in Borderland   作:M.T.

59 / 90
♡J編ですが、オリキャラの分枠を増やしてほしい派が多数派だったので、原作の20人はそのままで、枠を増やす事にしました。
22人ってキリ悪いけどしゃーなしやで、ガハハ
ドラマ版ではチシヤが♡Jに参加していたので、本作では♡Jにオリキャラをぶち込もうと思った次第です。
ちなみに首輪のデザインや仕様は、本作ではドラマ版のものを使用しています。






はあとのじゃっく(1)

ヘイジside

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目。

 墨田区と江東区の区境にあったシェルターを抜け出した俺達6人は、そのまま西に向かった。

 中央区を抜けて、千代田区のとある施設の中に身を隠していた。

 生の食糧を探しに行くのは危険だから、この日の食事はインスタント食品とヒヅルに分けてもらった干し肉で済ませた。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に気をつけながら過ごしているうちに、すっかり日が暮れた。

 食事を終えた後、リナさんは地図を広げながら俺に尋ねる。

 

「何とか無事に逃げ出せたのは良いけど…これからどうするの?」

 

「そうだな…まだ『げぇむ』が7種ある。生き残ってる『ぷれいやぁ』がどれだけいるかわからない以上、早いとこ残ってる『げぇむ』は『くりあ』しておきたいよな」

 

 俺は、持っていたノートの、絵札のカードが書かれたページを開く。

 12枚のカードのうち、『くりあ』した5種のカードは、『ビーチ』の壁みたいにバツ印をつけて消してある。

 

 残りの『げぇむ』は、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』、『♡J(はあとのじゃっく)』、『♢J(だいやのじゃっく)』、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』、『♡Q(はあとのくいいん)』、『♢K(だいやのきんぐ)』…そして『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の7種。

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』を倒すまでには、残りの絵札は全て『くりあ』しておきたい。

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』は、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』みたいなガチの殺し合いだったら詰みだしな…

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』も、体力戦の可能性もゼロじゃない。

 今のヒヅルやリナさんには、負担が大きすぎる。

 となると、今参加できそうなのは、『(だいや)』か『(はあと)』のどっちかだな。

 

「残りの『(だいや)』の絵札は一人しか生き残れない『るうる』だしな…明日まで待って、まだ参加枠が余ってたら、オレが『♢K(だいやのきんぐ)』」

 

「オレが『♢J(だいやのじゃっく)』に参加するっス」

 

 頭脳戦が得意なクリハラさんとネズミは、それぞれ『♢K(だいやのきんぐ)』と『♢J(だいやのじゃっく)』に参加する事にした。

 一人しか生き残れない『るうる』なら、二人に任せるしかないか。

 となると、残りは…

 

「直近で参加できそうなのは…『♡J(はあとのじゃっく)』か『♡Q(はあとのくいいん)』だね」

 

「うわぁ、どっちも『(はあと)』かよ」

 

「大丈夫っスよ!『(はあと)』は皆で協力すれば全員で生きて帰れる『げぇむ』ばっかりですから!」

 

 ヤヨイが言うと、クリハラさんが顔を引き攣らせ、ネズミが慌てて場の空気を元に戻そうとする。

 確かに、『(はあと)』は自分だけが生き残りたいと思わなければ全員で生きて帰れる『げぇむ』ばかりだったけど、だからといって全員生きて帰れるとは限らない。

 アリスが参加した『♡7(はあとのなな)』は一人しか生き残れない『るうる』だったし、俺が参加した『♡K(はあとのきんぐ)』も、たとえチームで参加したとしても全員で生き残るのはほぼ不可能な『げぇむ』だった。

 むしろアヤカに仲間割れさせられる事を考えたら、『♡K(はあとのきんぐ)』にチームで参加するのを邪魔してきたルキヤさんの行動は、ある意味正しいものだったのかもしれない。

 

 …やっぱり、全員で参加するのはやめて、リスクは分散しておくべきなのか?

 俺の頭の中でそんな考えが頭をよぎったその時、空を眺めていたヒヅルが呟く。

 

「……デカいのが来る」

 

 デカいの…?

 デカいのって、何が来るっていうんだよ…

 

「何だ、生r「死ね」

 

 クリハラさんがデリカシーの欠片もない発言をしようとすると、ヒヅルが真顔でどストレートに暴言で遮った。

 ヒヅルに暴言を吐かれたクリハラさんは、わかりやすく落ち込んでいた。

 …うん、今のは10:0でクリハラさんが悪い。

 

「夜が明ける前に、台風が来る。『げぇむ』に参加するなら、早いとこ会場探さないと」

 

 屋根の上に登って空を眺めていたヒヅルが、軽い足取りで屋根から降りながら口を開く。

 

「一番近いのは…『♡J(はあとのじゃっく)』か」

 

「地図でいうと半蔵門あたりね。今いるのが神田だから…大体3kmくらいあるわね」

 

「じゃあ早いとこ移動しようぜ」

 

 ネズミとリナさんが言うと、クリハラさんはリュックを持って立ち上がりながら言った。

 俺達は、車で『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』会場へ移動した。

 移動する事10分、『げぇむ』会場に到着した。

 『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』会場は、見たところ刑務所のようだ。

 無事に会場に辿り着いたのはいいものの…

 

「…マジですかい」

 

 会場の入り口に置かれているものを見て、クリハラさんは顔を引き攣らせる。

 『エントリー数 22名じゃすと』『『ぷれいやぁ』の貴金属の持ち込みは不可』と書かれた張り紙と、『首輪を装着して会場にお入り下さい』と書かれた三角スタンドが目に留まる。

 テーブルの上には、小さな円形の液晶ディスプレイがついた首輪が3つ置かれていた。

 つまり、あと3人しか参加できないって事らしい。

 

「誰が参加する…?」

 

 ヒヅルが尋ねると、リナさんが口を開く。

 

「私はパス。()()があるし」

 

 そう言ってリナさんは、右腕の袖を揺らした。

 確かに…いくら『(はあと)』とはいえ、右腕を失ったリナさんが参加するのはリスクが大きいな。

 するとクリハラさんも手を挙げる。

 

「んじゃオレもパスで。まだ『びざ』はたっぷり残ってるしな」

 

 リナさんとクリハラさんは、ここで待機だ。

 となると…あとは俺、ヒヅル、ネズミ、ヤヨイの4人のうち3人だな。

 まあ、そのうちの1人はもう決まりだがな。

 

「だったらオレが参加する。他の皆は、参加してくれてもいいし、待機でも構わない」

 

 俺は、首輪を手に取りながら言った。

 するとヒヅルが心配そうに俺の顔を見てくる。

 

「ヘイジ……」

 

 ヒヅルが俺を心配してくると、ネズミとヤヨイも心配そうに俺を見てくる。

 

「心配するな。必ず『くりあ』して戻ってくる」

 

 そう言って微笑むと、俺は首輪を自分の首にはめる。

 すると、『カシャッ』と音を立てて首輪にロックがかかる。

 首輪を装着した俺は、『げぇむ』会場へ入っていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 結局話し合いの結果、残りの2人はヒヅルとヤヨイちゃんがエントリーする事にした。

 ネズミは、『♢J(だいやのじゃっく)』に参加するつもりだって言ってたからな。

 『(はあと)』なら、怪我人のヒヅルが無茶しなきゃいけない『げぇむ』でもないだろう。

 

「じゃあ、私達は近くで待ってるから」

 

 リナが言うと、ネズミも車に乗り込む。

 ヒヅルとヤヨイちゃんは、早速『げぇむ』にエントリーしようとした。

 

「じゃ、オレ達も…」

 

「待て」

 

 二人がエントリーしようとするのを、俺が止めた。

 

「仲間がいる事が他の参加者に知られたら不利になる『げぇむ』って可能性もゼロじゃない。3人同時にエントリーするのは、他の参加者に怪しまれるかもしれないからやめとけ」

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

 

「少し様子を見てからエントリーすればいい。『げぇむ』の内容がわかるまでは、親しい仲だって事を隠しておけ」

 

「……わかった」

 

 俺は、わざと別々にエントリーして、『げぇむ』が始まるまでは仲間だって事を隠しておくようアドバイスをした。

 ヘイジ君が今まで参加した『(はあと)』の『げぇむ』は協力すれば『くりあ』できるものばかりだったらしいが、それはヘイジ君が運良くそういう『げぇむ』しか引いてこなかったってだけかもしれない。

 仲間同士で参加したら不利になる『げぇむ』が用意されてる可能性も十分あり得る。

 『るうる』もわからないうちに手の内を晒しちまうのは、リスクがデカすぎる。

 少なくとも『るうる』を確認するまでは、他人のフリをしておくべきだ。

 そんなわけで、俺が『げぇむ』会場の近くで様子見をしていた、その時だった。

 

「あー、良かった!まだエントリーできる『げぇむ』あった!」

 

 クマ耳がついたフードの女と帽子の女が、『げぇむ』会場にやって来た。

 アイツら…もしかしてこの『げぇむ』に参加するつもりなのか?

 俺が様子を見ていると、女二人が、ヒヅルとヤヨイちゃんに話しかける。

 

「あの…すみません。それ、譲っていただけませんか?私、今日で『びざ』が切れるんです」

 

「ウルミも!そろそろ『げぇむ』参加しとかないと、『びざ』がもう残り少ないんだよね」

 

 女二人は、『びざ』が残り少ないから『げぇむ』の参加枠を譲れと言ってきた。

 できれば、残り2つの参加枠を俺達で確保しておきたかったけど…『びざ』切れ間近の奴等を見捨ててまで『げぇむ』に参加するのもな。

 俺がアイツらの立場なら、迷わず参加枠を譲るわな。

 

「どうする…?」

 

「いいですよ。私達、まだ『びざ』があるので」

 

「良かった…ありがとうございます」

 

 ヒヅルとヤヨイちゃんは、女二人に首輪を譲った。

 結局、エントリーできたのはヘイジ君一人だけか。

 メンドクセー事になったな。

 まぁでも、ヘイジ君なら何とかするだろ。

 ………………多分。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 首輪を装着して刑務所に入ると、既に19人の参加者が集まっていた。

 

「18…19…まーだ20人か…もーかれこれこうして半日だぜ…いつになったら22人集まんだよー、エントリー数多すぎだっつーの!なあ兄チャン!」

 

「…………誰に、タメ口利いてんだガキが…!何なら、19人に減らしてやろうか?」

 

「…スイマセン」

 

 ヤンキーのような男、カケルさんが軽口を叩くと、参加者の中で一番図体の大きい男、ゲンキがカケルさんを睨みつける。

 そんな中、スーツを着こなした男、アイゼンさんが、気弱そうな中年男性のカネコさんに話しかける。

 

「いやぁまさか、ここで同郷の方にお会いできるとは!登別ですかー、いい町ですよね。行かれました?くま牧場」

 

「ええ…まあ…しかしあなた…この状況でよくそんな悠長に話ができますね…私なんか恐ろしくて…」

 

「だってこれから始まるのは、『(はあと)』の心理戦でしょう?だったらお互いの事を、少しでも理解しておいた方がいいじゃないですか!」

 

 アイゼンさんは、営業スマイルを浮かべてカネコさんと話していた。

 一方で、ライダースーツを着たベリーショートの女性、サトミさんが、トイレを探していた。

 すると青みがかったグレーの服を着た短髪の男が話しかける。

 

「…御手洗いを探しているのなら、そこの食堂を抜けて突き当たりの左手だよ」

 

「あ…りがと。けど…確か誰もこっちには入ってないでしょ?どうして…知ってるの?」

 

「…それは、まあ…ちょっとね…」

 

 …磐田素那斗。

 以前、ニュースで見た事がある。

 4人の女性を残虐な手口で殺害した殺人鬼だ。

 元の世界で殺人鬼だった奴まで参加してんのかよ…

 

 俺が不安に思いつつ視線を逸らすと、バンダの一番近くに座って本を読んでいる小柄な女性が目に留まる。

 素肌の上に直接ブカブカのピンク色のジャージを着ていて、ピンクのグラデーションがかかったネコ耳ツインテールの髪型が特徴的な女性だ。

 手の甲を覆い隠す袖口からは、黒い付け爪をつけた細い指が覗いている。

 気のせいかもしれないが、他の参加者達は、その女性を避けているように見える。

 俺は、その人の顔に見覚えがあった。

 

「あれ?あの人…」

 

 どっかで見た事あるんだよなぁ…

 俺がその女性とどこで会ったか思い出そうとしていると、カケルさんが話しかけてくる。

 

「何だ兄チャン、アイツと知り合いか?」

 

「えっと…」

 

「悪い事は言わねぇ。あのやべー女と関わるのはやめとけ。アイツ、『げぇむ』会場に入る前何したと思う?」

 

 カケルさんは、ここに来た時の話をしてくれた。

 あの人が一体何をしたっていうんだ…?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

カケルside

 

 10時間くらい前、俺は『♡J(はあとのじゃっく)』の『げぇむ』会場の前まで来ていた。

 そろそろ『げぇむ』参加しとかねぇと『びざ』がやべぇし、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が来る前に一番難易度が低い『J(じゃっく)』の『げぇむ』に参加しとこうと思ったわけだ。

 …まぁ、一言で言っちまえば消去法だな。

 俺がエントリーしようとすると、ちょうど同じタイミングで例の女が来た。

 そのダイナって女は、張り紙を見て首を傾げながら口を開いた。

 

「貴金属がダメって…電気かX線でも使う『げぇむ』なんでしょうか?」

 

「さぁな。貴金属ダメって事は、アクセ外さねーと」

 

 ダイナが話しかけると、俺は身につけていたアクセサリーを外しながら適当に答えた。

 するとダイナも、アクセサリーを外し始めた。

 

「だったら私もピアスとヘアピン外さないと。あっ、この服も、金のボタンが付いてるからダメじゃん!スカートも!ブーツも!ブラも金属のホックがついてるからダメだよね?じゃあもう全部脱がなきゃ!」

 

 …は?

 なーにやってんだコイツ。

 暑さでとうとう頭おかしくなったのか?

 

 俺が呆気にとられている間に、ダイナは服をポイポイ脱ぎ捨てた。

 あっという間に、黒のレースのTバック一枚だけを残した露出狂の完成だ。

 しかも両腕には夥しい切り傷がついてやがる。

 一目見てやべぇ女だなって思ったよ。

 ダイナは、そのまま首輪を装着して『げぇむ』会場の門を通った。

 

「よーし、これで大丈夫!」

 

 全然大丈夫じゃねぇよ。

 

「うわっ…」

 

「何なんだアイツ…」

 

「何考えてんの…?」

 

「関わるのやめとこ…」

 

 案の定、ダイナが裸で会場に入ると、『げぇむ』会場はザワザワしていた。

 普段なら眼福だとか呑気な事を言えたんだろうが、状況が状況だからイカレてるとしか思えなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「……………」

 

「な?やべー女だろ?『げぇむ』会場に服が無かったら、パンイチで参加するつもりだったのかね」

 

 ………バカなのか?

 確かに『貴金属の持ち込み禁止』とは書いてあったけど、だからって服を全部脱ぐ奴があるか。

 バンダの他にもやべー奴が参加してんのかよ。

 

 …あれ?

 ちょっと待て、ダイナって…

 

 …思い出した。

 『♡9(はあとのきゅう)』に一緒に参加した、ダメ男に引っかかりやすい体質の人だ。

 DV彼氏に囮にされそうになってたから、俺とヤギで助けたんだよな。

 あの人、生き残ってたんだな…

 

 俺がダイナに目を向けると、ダイナは僅かに目を見開く。

 向こうも、俺に気付いたみたいだ。

 何はともあれ、知ってる人がいてよかった。

 …人前で服を脱ぐやべー女だとは思わなかったけど。

 

 

 

「ああーッ!!あッ!!ああッ!!」

 

「な…なんだァ!?」

 

 突然、女の喘ぎ声が聴こえてきた。

 すると他の参加者は、ほとんど全員が動揺を見せる。

 

「あッ!!ああああッ!!」

 

「向こうからだ!!」

 

「気をつけろよ!!」

 

 優しそうなアフロヘアーの青年のイッペー君とカケルさんが、声の聴こえる方へと走っていった。

 するとダイナも、読んでいた本を閉じて立ち上がり、ヒタヒタと足音を立てて歩く。

 

「………」

 

 イッペー君とカケルさん、そしてダイナが、廊下の奥へと走る。

 するとだ。

 

「あッ!!あッ!!あッ!!ああああーッ!!」

 

 タキシードを着たオールバックの男と、レディーススーツを着たロングヘアの女が、情事に耽っていた。

 

 何やってんだコイツら…

 こんなの、ヒヅルがいたら卒倒してたぞ。

 

「あ…ああっ…」

 

 情事に耽っていた女性は、身震いをして床に倒れ込む。

 まともな頭じゃ理解が追いつかないこの状況に、イッペー君が口を出す。

 

「ア…アンタ…!!こんな時に…何考えて…!?」

 

「ただ待つほど野暮な事はない。時間は有限なのだから。それとも何か?お前達も混ざりたかったのか?」

 

 イッペー君が尋ねると、タキシードの男が服装を正しながら答える。

 床に倒れた女性は、恍惚とした表情を浮かべながら息を整えていた。

 

「こ…んなの…初めて…」

 

「まだまだこんなものじゃないぞ。私の事を忘れられなくしてやろうか?」

 

 …マジかよ。

 やべー奴ばっかじゃねーか、『♡J(はあとのじゃっく)』の参加者。

 俺がドン引きしていると、ダイナがコソッと俺に声をかけてくる。

 

「あ、あの、ヘイジさん…ですよね」

 

「ああ」

 

 ダイナが声をかけてきたので振り向くと、ダイナは安堵の表情を浮かべる。

 

「良かったぁ、生きてたんですね」

 

「…ダイナもな」

 

 ダイナが胸を撫で下ろすのを見て、俺も思わず安堵のため息をつく。

 やっぱりダイナの方も、俺の事を覚えてくれていた。

 どんな『げぇむ』かはわからないけど、顔見知りがいるのは心強い。

 何とかダイナを仲間に引き入れたいところだけど…

 

 俺がそう思っていたその時、女子が二人入ってくる。

 クマ耳のパーカーを着た女子と、帽子を被った女子の二人組だ。

 

「あはっ!人がこんなに、たくさんいるんだぁ!」

 

 クマ耳パーカーの女子は、無邪気な子供のように笑った。

 ヒヅル達は…結局参加しない事にしたのか。

 …それとも、この二人が来たから首輪を譲ったのか?

 元々無理して『げぇむ』に一緒に参加してもらうつもりはなかったし、参加しないならしないで別にいいんだが…

 

 ……何というか…浮き足立つってのはまさにこの事だな。

 貴金属の持ち込みが禁止されてたから、無線も置いてきちまったし…

 仲間の存在は大きかったんだと、今になって思い知らされる。

 

 でも、ダイナもいるし、協力プレイができないわけじゃない。

 『(はあと)』の『げぇむ』は、いかに早く他の参加者と信頼関係を築けるかが重要だと思う。

 今度こそ、『♡K(はあとのきんぐ)』の時みたいな殺戮が起こらないようにしないと。

 

「これで、22人か!」

 

 さっきのタキシードの男、ヤバが言った直後、入り口がひとりでに閉まりロックがかかる。

 今から『げぇむ』が始まるって事か…

 

《エントリー数が22名に達しました。これより、『げぇむ』を開始します。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は、難易度『♡J(はあとのじゃっく)』。『どくぼう』》

 

「独…房…!?」

 

 アナウンスが鳴った直後、『22』という数字とタイマーが表示されたモニターが上に設置された扉が開く。

 扉を開けると、『01』から『22』までの数字が割り振られた独房がちょうど人数分並んでいた。

 

「独房が……22ある…」

 

「何の…『げぇむ』なの…!?」

 

 右眼を前髪で隠した男と、帽子を被った女子が動揺した様子で口を開く。

 するとその時だった。

 

 全員の首輪から、『チチチチチチ…』と小さな音が聴こえる。

 音が気になってふとダイナの首輪を見てみると、ちょうど頸の位置に設置された小さな円形のディスプレイにトランプのマークが表示され、小刻みにマークが変化していた。

 2、3秒ほどマークの変化が続いたかと思うと、『♢』のマークでピタリと止まった。

 

「ねぇ…あなたの首輪の後ろに…何かのマークが現れたわよ…」

 

 ヘアバンドをつけた女子高生、ヒビノが、マフラーの青年、ミノーを指差しながら言った。

 ミノーの首輪には、『♠︎』のマークが表示されている。

 

「スペ…っ、言っていいのかしら!?」

 

 ミノーのマークを言おうとしたヒビノは、ハッとして口を手で塞ぐ。

 すると最後に入ってきたクマ耳パーカーの女子が、ヒビノを指差す。

 

「キミの首輪にもマークが出てるわよん!」

 

「えっ!?見えな…い?何?何のマークなのッ!?」

 

「なるほど、そういう『げぇむ』ですか」

 

 クマ耳パーカーの女子が言うと、ヒビノは自分のマークを確認しようとする。

 それを見ていたアイゼンさんが、やけに落ち着いた様子で口を開く。

 

《『るうる』の説明です。皆様には、自分の首輪の後ろに現れたマークを、当てていただきます。制限時間は、1時間。終了5分前になると『どくぼう』の扉がロックされますので、それまでに『どくぼう』に『1人ずつ』お入り下さい。ロックされた『どくぼう』内の5分間に限り、口頭による解答が認められます。誤答、無解答の参加者は首輪が爆発して、『げぇむおおばぁ』》

 

「要は互いに首輪のマークを教え合って、最後の5分に答えればいいんでしょ?それのどこが難しいのよ…」

 

 『るうる』説明のアナウンスが放送されると、髪を高い位置でシニヨンにした女性、メイサさんが口を開く。

 一見簡単そうだけど、まだ『くりあ』条件聞いてないからな…

 

《正解した参加者は、首輪のマークが描き変えられ、次のターンへと進み、同じ工程を繰り返していただきます》

 

「何よそれ!?エンドレスなの!?」

 

「まさか…生き残るのは1人だけってパターンかよ!?」

 

「ちょ…ちょっと待てよ、その前に!!絵札の『げぇむ』は『今際の国』の国民との対人戦って聞いてんぞ!!『♡J(はあとのじゃっく)』は、どこにいんだよ!?」

 

 カケルさんは、『げぇむ』会場のどこかにいるはずの『♡J(はあとのじゃっく)』を探した。

 俺はこれと似たような事を、前にも経験している。

 まさか…

 

《次に、この『どくぼう』における勝敗ですが、この『げぇむ』の主催者である『♡J(はあとのじゃっく)』は、既にこの22名の中に、潜んでおります》

 

「は…!?オ…オレ達の中に…」

 

「既に…『♡J(はあとのじゃっく)』が…!?」

 

 やっぱりか。

 俺が最初に参加した『♡K(はあとのきんぐ)』と同じ『るうる』だ。

 

《『♡J(はあとのじゃっく)』が『げぇむおおばぁ』になった時点で、残った『ぷれいやぁ』は全員、『げぇむくりあ』。参加者が残り2人になり、『♡J(はあとのじゃっく)』が誰かが確定した時点で、『♡J(はあとのじゃっく)』ただ1人が『げぇむくりあ』となります。なお、『げぇむ』上での禁止事項は3つ。ロックされた『どくぼう』内に2人以上がいた場合。他者の『どくぼう』への入室を妨害した場合。他者を自力で解答できない状態にした場合。会場内の皆様の行動は常に監視されていますので、違反者を発見した場合は、その場で、『げぇむおおばぁ』》

 

 天井を見上げると、監視カメラが作動している。

 あれで行動を逐一監視してんのか。

 徹底してやがる…

 

《最後に、この『どくぼう』は、いかに相手を信用できるかの『げぇむ』です。皆様、いち早く信頼できるパートナーを見つける事をオススメします。それでは、『げぇむすたあと』》

 

 アナウンスでの『るうる』説明が終わった直後、タイマーが動き出す。

 最初の数秒間は、誰も動かなかった。

 最初に動いたのは、右眼にガーゼを当てた中年女性、エイコさんだった。

 エイコさんは、とりあえず近くにいた気弱そうな青年のセト君に話しかけた。

 

「どうします…?とりあえず、身近な人同士で教え合ってみます?」

 

「そうですね…あなたが『♡J(はあとのじゃっく)』の確率は、1/21な訳だし…」

 

 エイコさんが話しかけると、セト君はエイコさんの意見に賛成する。

 するとだ。

 

「ワハハ!お前達は随分と呑気だな!要はこの『げぇむ』は、この22人でジャンジャン殺し合って、最後の2人になる前に『♡J(はあとのじゃっく)』を仕留めればいいのだろう?『♡J(はあとのじゃっく)』じゃない人間だとしても、容易に信頼していいのかな?」

 

 ヤバが水を差すような事を言うと、二人の表情が曇る。

 ヤバは、顎に手を当てながら、面白そうに続ける。

 

「しかし『♡J(はあとのじゃっく)』という人物は余程の自信家のようだ。とかいう私だったりしてな!」

 

 俺は、確信した。

 ヤバが『♡J(はあとのじゃっく)』かどうかはわからないが、少なくともこの男は、殺し合いを楽しむ側の人間だ。

 あっという間に場の空気を塗り替え、他の『ぷれいやぁ』を疑心暗鬼にしてしまった。

 『♡J(はあとのじゃっく)』じゃないにしろ、この男のペースに乗せられたら、平和的に『げぇむくりあ』できなくなる。

 何とか、平和的に『げぇむくりあ』を目指す流れに戻さないと…

 

 場の空気がうつったのか、ダイナは落ち着かない様子でさっきからしきりに唇を触っている。

 帽子の女子がカケルさんのマークを見ると、視線を感じたカケルさんが慌てて自分のマークを手で覆い隠しながら声を荒げる。

 

「何だよ!!気安く人のマーク見てんじゃねーよ!まだ誰が信用できるかわかったもんじゃねーってのによ!」

 

 さっきまで俺に親しげに話しかけてくれていたカケルさんまでもが、疑心暗鬼に陥って攻撃的になっていた。

 それを見た他の参加者達にも、疑念が伝染していく。

 だけどその時、アイゼンさんが床に腰を下ろしながら口を開く。

 

「『いかに相手を信用できるかの『げぇむ』』…か。早速、ミスリードですね…この『げぇむ』の本質は、こっちじゃないですかね」

 

 そう言ってアイゼンさんは顔の前で手を組み、右手の人差し指を口の前で立てた。

 

「『いかに相手を、()()()()()か』」

 

 『いかに相手を信用させるか』…ね。

 なるほどな…この人、()()()()()()()か。

 

 だけど『♡J(はあとのじゃっく)』相手に、そのやり方がどこまで通用するかな。

 …いや、そんな事を言っている彼が『♡J(はあとのじゃっく)』かもしれない。

 

 とにかく今は、この『げぇむ』を平和的に『くりあ』する方法を考えないと…

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在三十一日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 72日

 小鳥遊火鶴 122日

 一ノ瀬利奈 29日

 栗原鳳正 27日

 根津見護人 23日

 弥生美兎 24日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催5日目

 

 『げぇむ』 残り7種

 

 『ぷれいやぁ』 残り133人

 

 

 

 

 




原作に名前のわからない女性キャラが3名いたので、ドラマ版の『♡J(はあとのじゃっく)』の参加者の名前から拝借しました。
それぞれ、

ライダースーツの女性:青木聡美/サトミ
帽子の女性:竹田美香/タケダ
右眼ガーゼの中年女性:山口英子/エイコ

としています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。