Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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はあとのじゃっく(3)

ヘイジside

 

 2ターン目、今回も俺は、空いている『どくぼう』に入った。

 すると『どくぼう』のロックがひとりでにかかる。

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♡(はあと)』」

 

 何の変化も起こらないまま、時間だけが過ぎていく。

 そしてとうとう、時間になった。

 

《制限時間になりました。2ターン目の生存者は、22名中22名》

 

 アナウンスが流れると同時に、『チチチチチチ…』と2、3秒ほど首輪から小さな音が鳴り、やがてピタリと止まる。

 『どくぼう』のロックが解除されると、全員が『どくぼう』から退室する。

 今回も、誰も死ななかった。

 

「ヘイジさんっ!」

 

 『どくぼう』から出てきたダイナは、安堵の表情を浮かべて俺に駆け寄ってくる。

 今回も生き残れたのは、ダイナのおかげだ。

 

「また…誰も死ななかった…」

 

「い…いい事ですよね…?」

 

 ヒビノが言うと、カネコさんが安心したような表情を浮かべる。

 するとサトミさんが口を開く。

 

「『♡J(はあとのじゃっく)』は…動く気がないのかしら…?」

 

「この2ターンの間、全員パートナーが見つかってるみてーだし、誰か死んだら嘘ついた奴がわかっちまうんじゃん?きっと『♡J(はあとのじゃっく)』は、動こうにも何もできねーんだよ!そのうちシビレを切らしてボロを出すぜ!!『どくぼう』楽勝じゃん!!」

 

 カケルさんは、ニカッと笑って言った。

 随分と呑気だな…

 『♡J(はあとのじゃっく)』は、この2ターンの間で間違いなく動いている。

 

 俺達22人は、グループ、パートナー、フリーの3つに分類できる。

 イッペー君、ウルミ、カケルさん、カネコさん、ヒビノ、サトミさん、メイサさんの7人がグループ。

 俺とダイナ、ヤバとコトコさん、バンダとエンジさん、ミツルギさんとカリヤさん、ロクドーさんとタケダさんの5組がパートナー。

 アイゼンさん、ミノー、エイコさん、セト君、ゲンキの5人が、特定のパートナーを持たないフリーの人達だ。

 

 グループなら目立った行動はできないし、パートナーなら裏切りがあれば一目瞭然。

 そうなると一番怪しいのはフリーの人達…

 

 と、普通は考えるだろうが、俺はほぼ確実にパートナーを組んでいる人の中に『♡J(はあとのじゃっく)』がいると考えている。

 『♡J(はあとのじゃっく)』の立場になって考えてみれば、パートナーを組んで『げぇむ』を攻略するのが最適だからだ。

 アヤカの時のような仕(・)込(・)み(・)をするなら、グループの中にいると自由に動きづらい。

 かといってフリーだと、本当のマークを教えてくれる人を毎回探し直さなきゃいけなくなる。

 俺が『♡J(はあとのじゃっく)』なら、パートナーを取っ替え引っ替えしながら周囲を疑心暗鬼に陥らせるなんて、効率の割にハイリスクなマネはしない。

 俺なら、信頼できるパートナーを確保しつつ、グループを組んでる『ぷれいやぁ』の中で一番発言力のある奴を刺激してグループを崩壊させる。

 殺し合いを防ぐ為には、グループに入れてもらって、仲間を注意深く観察するべきだ。

 

 

 

「なぁ、ヘイジさん。オレ達のグループに入ってくれないか?」

 

 好都合な誤算が起こった。

 イッペー君が、俺をグループに誘ってくれた。

 だけど後ろにいたウルミは、心なしか不満げな表情を浮かべているように見えた。

 

「オレは構わないけど…他の仲間は了承したのか?」

 

「ほとんど皆賛成してくれたよ。何人かは渋々って感じだったけど…」

 

「オレが手当たり次第に『♡J(はあとのじゃっく)』の容疑者を殺すような奴だったらどうするつもりだ?」

 

「うまく言えねぇけど…オレには、アンタがそんな事するような人に見えねぇんだ。マークだったら、全員の前で言えばいい!そうすりゃ嘘はつけねーだろ!それにアンタ、『♡K(はあとのきんぐ)』を倒したんだろ?だったら、『げぇむくりあ』の糸口を掴んでるんじゃないのか?」

 

 俺が少し意地悪な事を言うと、イッペー君は頭を掻きながら言った。

 彼は本当に心の優しい人だ。

 

「ああ。確かにオレは、『♡K(はあとのきんぐ)』を『くりあ』した。他の参加者を皆殺し───」

 

 俺が言うと、イッペー君は分かりやすく驚く。

 

「───にはしてないけど、『ぷれいやぁ』全員を救う事はできなかった。むしろ、生き残った『ぷれいやぁ』より、死なせた『ぷれいやぁ』の方が多い。今回の『げぇむ』だって、全員を救える保証は無い」

 

 俺は、イッペー君を信用する為に、真実を包み隠さずに伝える事にした。

 下手に『全員で生きて帰りたい』って上っ面を繕うよりは、本心を伝えた方が信用できる。

 『♡K(はあとのきんぐ)』がそうだった。

 

「条件がある。オレのパートナーはあくまでダイナだ。も(・)し(・)も(・)の(・)事(・)があれば、オレはダイナの生存を優先する。それでもいいなら、キミのグループに入る」

 

「…ああ。それで構わない。オレ達のグループに入ってくれ」

 

「ありがとう。出来るだけ全員で生きて帰れるように努力するよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 俺とダイナは、イッペー君のグループに入れてもらった。

 ダイナも、イッペー君に向かって頭を下げる。

 すると、その時だった。

 

「……がっ!」

 

 声のした方を振り向くと、そこにはゲンキとセト君がいた。

 

「テ…メェ…!?」

 

 ゲンキの背中には、包丁が深々と刺さっていた。

 

「にゃああっ!?」

 

 ゲンキの背中に包丁が刺さっているのを見たダイナは、ビクッと肩を跳ね上がらせて悲鳴を上げた。

 

「な…にし…て、くれてんだよォォォ!?」

 

 背中を包丁で刺されたゲンキは、大声をあげて動揺していた。

 ゲンキの後ろに立っていたセト君は、まるで何かに取り憑かれたような笑顔を浮かべていた。

 だけど、その直後だった。

 

 

 

 ――ゴッ

 

 

 

「なァァにして、くれちゃってんだよォォォォ!!」

 

 セト君の顔面を殴りつけたゲンキは、セト君に馬乗りになってさらにセト君を何度も殴りつける。

 

「いきがっちゃったね!!いきがっちゃったよねェェ!!再教育!!再教育ッ!!雑魚の分際でッ!!いっちょ前にこのオレに逆らって、身の程ってもんを、教えてやらなくちゃねぇぇッ!!」

 

 ゲンキは、暴言を吐きながら両手を組んだまま、セト君の顔面に何度も拳を振り下ろした。

 セト君の顔面はグチャグチャになっていて、もう原型を留めていなかった。

 俺がゲンキを止めようとすると、後ろからダイナが俺に抱きついて止めた。

 振り向くと、ダイナは顔を真っ青にして首を横に振っていた。

 このままだと、セト君が……

 

 

 

 ――ピピピピピピ

 

 

 

「…あ!?」

 

 

 

 ――ボンッ

 

 

 

「な…!?」

 

 突然、ゲンキの首輪が爆発した。

 ゲンキは、首から大量の血を撒き散らしながら仰向けに倒れ込んだ。

 

「きゃあああああ!!」

 

「うわあああああ!!」

 

「にゃああああっ!?」

 

 会場内に、参加者達の悲鳴が響き渡る。

 皆、蜘蛛の子を散らすように、喚きながらセト君とゲンキから離れた。

 

「な…なんで!?」

 

「一体…どーなってんだよォ!?」

 

 メイサさんとカケルさんは、いきなりゲンキの首輪が爆発した事に混乱していた。

 すると絶望の表情を浮かべたイッペー君が口を開く。

 

「セトの奴…もう…死んでるんだ…『るうる』の禁止行為は、『他者を自力で解答できない状態にした場合』。オ…レの、せいだ…オレがセトを…見捨てたから…」

 

「イッペー君…」

 

 誰も、セト君を助けられなかったイッペー君の事は責められない。

 そんな事言ったら俺は、前のターンでその場にいる事すらできなかった。

 イッペー君だけが悪いんじゃない。

 この場にいる全員が、セト君とゲンキを殺したんだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺は、ダイナと一緒にゲンキとセト君の死体を、一番端の一般房まで運んだ。

 俺がリネン室から持ってきたシーツで二人の死体を覆い隠すと、二人を安置している部屋の隅でダイナが蹲って胃液をぶちまけた。

 

「うっ…おげぇっ、げほっ…!!」

 

 俺は、息を荒くして吐きながら嗚咽を漏らしているダイナの背中を摩った。

 

「無理するな。『げぇむ』を続けられなくなったら元も子もない」

 

「はい…すみません…」

 

「一旦皆の所に戻ろう。皆、今さっきの事で混乱してるだろうから」

 

「そう、ですね…」

 

 俺とダイナは、死体を一番端の部屋に運び終わった後、部屋を出てイッペー君達のところに戻ろうとした。

 よろよろと覚束ない足取りで歩くダイナの肩を支えながら歩いていると、俺達の様子を離れたところから窺っているバンダとエンジさんの二人が目に留まる。

 警戒している、というよりは、監視…もしくは観察しているように見えた。

 

 気弱なセト君に、ゲンキを殺す度胸があったとは思えない。

 まさか、あの二人がセト君を焚き付けたのか…?

 

「はぁ……」

 

 俺の肩を借りていたダイナは、窶れた様子でため息をつく。

 すると誰かが、ダイナにハンカチを差し出す。

 

「大丈夫ですか、ダイナさん」

 

 ダイナにハンカチを差し出してきたのは、アイゼンさんだった。

 

「先ほどは災難でしたね。目の前で無実の人が2人も亡くなったのですから、動揺するのも無理はありません。ですがこんな状況だからこそ、お互い協力し合うべきだと思いませんか?」

 

 この人…死体を運ぶのを手伝わなかったくせに、よくもまあぬけぬけと…

 

「戸惑う気持ちもわかります。では、こうしませんか?私が先にマークを教えますから、私にマークを教えていただけませんか?その方がお互い信頼し合えるじゃないですか」

 

 信頼、ねぇ…

 相手を信頼してる人の顔には見えないんだがなぁ。

 

「答えの選択肢は多い方がいいでしょう?」

 

 …ここは素直にマーク教え合っとくか。

 別に断る理由もないし、これ以上死人は出したくないしな。

 

「いいですよ。じゃあ先にダイナのマークお願いします」

 

「わかりました。ダイナさんのマークは、『♡(はあと)』です」

 

「『♡(はあと)』」

 

「…ありがとうございます」

 

 アイゼンさんと俺がダイナのマークを教えると、ダイナは安堵の表情を浮かべる。

 アイゼンさんの言葉通り、ダイナのマークは『♡(はあと)』だ。

 

「アイゼンさんも『♡(はあと)』です」

 

「は、『♡(はあと)』です…」

 

 俺とダイナは、アイゼンさんのマークを教えた。

 

「ありがとうございます。ヘイジさんのマークは『♢(だいや)』です」

 

「『♢(だいや)』…」

 

「…どうも」

 

 俺とダイナ、そしてアイゼンさんは、互いにマークを教え合った。

 俺が教えたマークは、本当のマークだ。

 そして多分、二人が俺に教えてくれたマークも本当だ。

 

「それじゃ、オレ達はこれで」

 

 俺は、アイゼンさんに会釈をして、ダイナを連れてグループに戻った。

 イッペー君のグループに戻った俺とダイナは、他の参加者を注意深く観察した。

 ロクドーさんとタケダさんは、互いにマークを教え合っていた。

 

「彼等の魂は悪魔に連れ去られてしまいました。偏に神の導きに背いたからです。儂の聴く神の声を信じてさえいれば、何も心配はありませぬ。ささっ!まずは儂のマークを教えなさい」

 

「だ…『♢(だいや)』です…」

 

「よろしい。聴こえますぞ、儂には神の声が。そなたのマークは、『♣︎(くらぶ)』ですぞ」

 

 タケダさんはロクドーさんに疑いの目を向けているけど、ロクドーさんの言葉は本当だ。

 …まあ、ハッキリ言って胡散臭いから、信じたくなくなる気持ちもわからなくないけどな。

 なんて思っていると案の定、タケダさんはそそくさとその場を離れた。

 

「あ…あのっ!」

 

 タケダさんは、一人で歩いているミノーに話しかけた。

 

「良かったら私のマーク、教えてくれませんか…?あのロクドーって人、だんだん信用できなくなってきて…」

 

「…いいけど、アンタが先に教えてよ」

 

「あ…はい…あなたのマークは…だだ…『♢(だいや)』です…」

 

 タケダさんがマークを教えると、ミノーはタケダさんを疑っているような表情を浮かべる。

 タケダさんが教えたマークは本当なんだけどな…

 

「オッケー『♢(だいや)』ね。アンタのマークは…『♡(はあと)』だよ」

 

 ミノーは、タケダさんに嘘のマークを教えた。

 タケダさんの本当のマークは『♣︎(くらぶ)』なのに。

 このターンで死人を出したくない。

 …助けるか。

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

 俺は、挙動不審になっているタケダさんに話しかけた。

 

「アンタ、今の男に嘘つかれてるよ。信じるなら、ロクドーさんにしておくべきだ」

 

「ほ、本当です!タケダさんのマークは、『♣︎(くらぶ)』です」

 

 俺が言うと、ダイナもタケダさんのマークを教えた。

 タケダさんは、目を泳がせてソワソワした様子で、足早に去っていった。

 タケダさんに嘘のマークを教えたミノーは、今度はエイコさんに話しかけた。

 

「ねぇ、オバサン。オレとマーク教え合わねースか?」

 

「あ…はい…あなたのマークは…『♠︎(すぺえど)』です…」

 

 エイコさんは、罪悪感に満ちた表情を浮かべながら、ミノーに嘘のマークを教えた。

 まぁ…さっきタケダさんを騙したから、自業自得だな。

 

「オッケー『♠︎(すぺえど)』ね」

 

「じゃあ次は…私のマークを…」

 

 エイコさんがマークを聞くと、ミノーは数秒間を置いて何かを考えてから、エイコさんにマークを教えた。

 

「『♢(だいや)』っス」

 

 エイコさんの本当のマークは、『♣︎(くらぶ)』だった。

 ミノーの言葉を信用していないエイコさんは、ロクドーさんにマークを聞きに行った。

 

「いやぁ、そなたも神の声を聴く気になったとは、良い心懸けですぞ。儂には聴こえますぞ。そなたのマークは、『♣︎(くらぶ)』ですぞ」

 

 エイコさんは、ロクドーさんを完全に疑っていた。

 …これ、ミノーの方を信じちまうかもな。

 さっきミノーを騙したから自業自得だけど、かといって見殺しにするのもな。

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

 俺は、落ち着かない様子のエイコさんに、本当のマークを教えた。

 

「このターンは、ロクドーさんを信じていれば大丈夫です」

 

「ど、どうも…」

 

 俺が言うと、エイコさんは会釈をして足早に去っていく。

 ダイナは、エイコさんの背中を不安そうに見守っていた。

 

「ヘイジさん…あの、大丈夫でしょうか…?」

 

「今は誰も正常な精神状態を保てていない。まずは皆に本当のマークを教えて、このターンを凌いでくれる事に賭けるしかない」

 

 ダイナが話しかけると、俺はため息をついてから答えた。

 まだこのターンじゃ、冷静になれというのも無理な話だ。

 まずはこのターンだけでも凌いでもらって、少しずつ信用を回復させるしかない。

 俺は、二人に嘘のマークを教えたミノーに話しかけた。

 

「皆に嘘教えて楽しいか?」

 

 俺が話しかけると、ミノーは足を止めて振り向く。

 

「何の事っスか?」

 

「とぼけるな。さっきタケダさんとエイコさんに嘘のマーク教えただろ」

 

「盗み聴きっスか?オニーサンいい趣味してんスねー」

 

 俺がミノーを問い詰めると、ミノーは飄々とした様子で減らず口を叩く。

 コイツ…このままだと死ぬって事に、まだ気付いてないのか?

 

「『♢(だいや)』」

 

 俺がマークを教えると、ミノーは俺に鋭い目を向ける。

 

「このターンは、本当のマークを教えてやる。これに懲りたら、もうあんな事やめろ。このままじゃ『♡J(はあとのじゃっく)』の思うツボだぞ」

 

 俺が言うと、ミノーはさらに目を細める。

 

「ご忠告どーも」

 

 そう言ってミノーは、太々しい態度をとりながら去っていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

タケダside

 

「………」

 

 あの2人…信じるなら教祖にしておいた方がいいって言ってたけど…

 あの2人は、この『げぇむ』に参加する前から面識があるのよね?

 だったらタキシードの男の言う通り、私に本当のマークを教える理由がない。

 

 もしかして、教祖に便乗して、私を消そうとしてるんじゃ…?

 そうよ…きっとそうだわ…!

 信じるなら、さっきの男の子だわ。

 私のマークは、『♡(はあと)』よ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ミノーside

 

 さっきのフードの男と痴女の2人組…

 アイツら、この『げぇむ』の前から面識あるんだよな。

 だったらほぼ確実にあの2人は『♡J(はあとのじゃっく)』じゃない。

 

 けどアイツら、オレらを騙してりゃ楽に勝てちまうんだよなぁ。

 オレがアイツらの立場なら、絶対そうする。

 

 特に男の方は、『♡K(はあとのきんぐ)』を『くりあ』したっつってたな。

 心理戦で一番難易度の高い『♡K(はあとのきんぐ)』を生き残ったって事は、平気で人を騙して殺せるような奴に決まってる。

 そもそも『げぇむ』を『くりあ』したっつー事は、絵札の主を殺してきたって事だろ。

 『♡J(はあとのじゃっく)』じゃないにしろ、安易に信用するのは危険じゃねーのか?

 

 あのババアはどう見ても人を殺す度胸がなさそうだし、信用するならあっちだな。

 オレのマークは、『♠︎(すぺーど)』っしょ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

エイコside

 

「どうしよう…」

 

 どうしよう、誰を信用したらいいの…?

 さっきの坊やとお嬢ちゃんは、教祖を信じろって言ってきたけど…本当にそれでいいの…?

 あの2人は、他の参加者を騙していれば生き残れるって、タキシードの人が言ってたわよね。

 実際その通りよ…!

 適当な事を言って、私を騙そうとしてるんじゃないの…!?

 やっぱりあの2人も教祖も、信用できないわ!!

 

 嘘をついてしまったのは申し訳ないけど…

 やっぱり信じるなら、マフラーの坊やだわ…!

 私のマークは、『♢(だいや)』よ…!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♢(だいや)』」

 

 俺は、自分のマークをハッキリと答えた。

 何も起こらなかった。

 その事に安堵した次の瞬間。

 

 

 

 ――ボン!

 

 ――ボン!!

 

 ――ボンッ!!

 

 

 

「…!?」

 

 俺のいる『どくぼう』の外から、爆発音が響いた。

 音の方向からして、タケダさん、ミノー、エイコさんの3人が入室した『どくぼう』からだ。

 

《制限時間になりました。3ターン目の生存者は、22名中17名》

 

 ロックが解除された『どくぼう』から、生存者が出てくる。

 『どくぼう』から出てこなかったのは、タケダさん、ミノー、エイコさんの3人だった。

 

「3人も…不正解!?」

 

「嘘でしょ…!?私達が本当のマークを教えたのに…!」

 

「急に…どうして…!?」

 

 ヒビノ、ダイナ、サトミさんの3人は、この状況に困惑していた。

 あの3人は、俺が本当のマークを教えたにもかかわらず自滅した。

 きっと、俺とダイナが本当のマークを教えるメリットが無いからって、嘘をついた人達の方を信じたんだ。

 

 ロクドーさんを味方にしておくべきだったか…?

 …いや、あれだけ皆が疑心暗鬼になってたら、どのみち結果は変わらなかった気がする。

 人を信じるって、難しいんだな…

 

「ななっ、なぜだァ!?何故あの者達は、神の声を聴き入れなかったのだァ!?」

 

 一気に信者を2人失ったロクドーさんは、大声で喚いて動揺していた。

 普通にアンタが胡散臭いからだよ。

 嘘はついてなかったんだけどな…

 

「中は…見ねぇ方がいい…不正解者の『どくぼう』はもう…ロックしたまま開かなくなってらァ…」

 

「『どくぼう』は人数分あるから、もう開ける必要はないんだね」

 

 カケルさんが『09』と書かれた『どくぼう』のドアノブを捻りながら言うと、ウルミもどこか達観した様子で言った。

 

「ぬおお…このままでは…!!もう神の声だなんだなど言っておられぬ…!!頼むから!!儂もそなたらのグループに入れてくれェ!!」

 

 マークを教えてくれる人がいなくなってしまったロクドーさんは、恥もプライドも信仰もかなぐり捨てて俺達に頼み込んできた。

 見捨てるわけにはいかないので、イッペー君はロクドーさんをグループに入れてあげた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺達10人は、マークを教え合う為に食堂に集まった。

 皆が深刻な表情を浮かべる中、ダイナは不安そうな表情を浮かべつつもビスケットを食べていた。

 3ターン目で5人も死人が出て皆正常な精神状態を保てなくなっていたけど、特にメイサさんはもう限界だった。

 

「ダメ…もう私…吐きそう…」

 

 メイサさんが泣いていると、カケルさんがメイサさんを慰めた。

 

「もう泣くなよ、オレ達は10人もいるんだぜ。この面前で誰も嘘なんてつかねーよ!なあリーダー!」

 

「お…おう。そうだよ……」

 

 カケルさんが話しかけると、イッペー君は不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。

 

「ほらメイサ、オメーから教えてやっからよ」

 

 カケルさんは、過呼吸になっているメイサさんに歩み寄ってマークを確認した。

 

「ウン、『♢(だいや)』だ!!」

 

「『♢(だいや)』!」

 

「『♢(だいや)』よ」

 

「『♢(だいや)』ですぞ!」

 

「『♢(だいや)』」

 

「だ、『♢(だいや)』です」

 

 他の皆がメイサさんのマークを教えるので、俺とダイナもメイサさんのマークを教えた。

 全員がメイサさんのマークを言うと、今度はカケルさんが首輪を見せる。

 

「よしっ!次はオレだ!オッサン!アンタから教えてくれ!」

 

「え…!?あ…はは、はいっ!!」

 

 カケルさんに指名されたカネコさんは、慌ててカケルさんのマークを確認する。

 近視なのか、カネコさんはしきりに目をこすって瞬きをしながらカケルさんの首輪のディスプレイを覗き込んでいた。

 

「すす…すぺ…あ…いや、『♣︎(くらぶ)』です…」

 

「あ…!?」

 

「スイマセン、咄嗟だったもので…貴金属は持ち込めないから眼鏡もなくて…」

 

 カネコさんは、困惑した様子で頭を掻きながら謝る。

 そんなカネコさんを見て、ウルミは冷めた表情を浮かべ、カケルさんは少し不安げな表情を浮かべる。

 

「フーン、ま、いいや。『♣︎(くらぶ)』でいいんだな?」

 

「ウン、『♣︎(くらぶ)』だよ」

 

「『♣︎(くらぶ)』!」

 

「『♣︎(くらぶ)』よ」

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

「『♣︎(くらぶ)』です」

 

「じゃ、次はー…」

 

 カケルさんのマークを確認し終わった後は、ロクドーさん、ウルミ、イッペー君、サトミさん、カネコさん、ヒビノ、俺、ダイナの順にマークを確認した。

 俺とダイナは元々ペアだったから最後にされた。

 

「じゃあ最後!ダイナちゃんね。ダイナちゃんは、『♠︎(すぺえど)』よん」

 

「ウン、『♠︎(すぺえど)』!」

 

「『♠︎(すぺえど)』…」

 

「『♠︎(すぺえど)』ですぞ!」

 

「『♠︎(すぺえど)』よ」

 

「『『♠︎(すぺえど)』だよ」

 

 10分ほどかけて、全員のマークを確認し終わった。

 俺は、さっきカネコさんがカケルさんのマークを言った時、ウルミの表情が一瞬険しくなったのを見逃さなかった。

 

「…悪い、オレちょっと飲み物取りに行ってくる」

 

「あ、はい。気をつけて」

 

 俺は、ダイナに声をかけてから、食糧庫に飲み物を取りに行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「っと…」

 

 食糧庫の棚からお茶のボトルを取った俺は、棚の奥のお菓子を手に取り、パーカーのポケットに入れた。

 するとその時だ。

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

 後ろから声をかけられたので振り向くと、バンダが立っていた。

 いつからいたんだ…?

 全然気付かなかった…

 

 大丈夫だよな…?

 今の、見られてなかったよな?

 

「君、さっきのターンで脱落者の3人にマークを教えてたよね。パートナー以外の参加者を騙せば『くりあ』できるのに、何故わざわざ本当のマークを教えたんだい?…それとも、混乱させて殺そうとしたのかな?」

 

 バンダは、貼り付けたような笑みを浮かべながらゆっくりと俺に歩み寄る。

 今までの俺だったら冷たいオーラと殺気に圧倒されて腰を抜かしていただろうけど、この国に来て色んな人間を見てきた今なら、自分でも驚く程に冷静でいられた。

 

「…決まってるだろ。『♡J(はあとのじゃっく)』に勝つ為だ」

 

 俺が言うと、バンダは僅かに目を見開く。

 

「オレは、誰かを騙して殺したりなんかしないって決めたんだ。たとえ生存者がオレとダイナだけになったとしても、それだけは絶対に曲げない。誰かを疑って殺すのも、それを見て見ぬフリするのも、『♡J(はあとのじゃっく)』の思うツボだから…『♡J(はあとのじゃっく)』になんかに屈しないってところを見せつけてやるんだ」

 

 『♡K(はあとのきんぐ)』の時は、一瞬でもアヤカに屈してしまった自分がいた。

 …いや、俺が『おうさま』を獲ってアヤカを殺した時点で、俺はずっとアヤカに屈していたんだ。

 今思えば、俺が『おうさま』を獲ってアヤカを『しょけい』する以外にも、『げぇむ』を『くりあ』する方法はあったのかもしれない。

 結局俺は、最後までアヤカの掌の上で踊らされていただけだった。

 

 だけどもう、二度と『今際の国』の国民には屈しない。

 俺は、誰一人騙す事なく、この『げぇむ』を『くりあ』してやるんだ。

 

 俺が言うと、バンダはスッと目を細めた。

 

「君とは…分かり合えそうにないね」

 

 そう言ってバンダは、ヒタヒタと足音を立てながら食糧庫から去っていく。

 俺は、去っていくバンダに、本当のマークを教えた。

 

「『♡(はあと)』」

 

「…ありがとう」

 

 俺が言うと、バンダは去り際に微笑んだ。

 俺が皆のところに戻ろうとした、その時だった。

 

 

 

「キャアアアアアッ!!」

 

 作業場から、ウルミの悲鳴が聴こえてきた。

 俺が作業場に駆け寄ると、グループの皆がザワザワしていて、騒ぎの中心にはウルミとカケルさん、そしてダイナがいた。

 

「何て事してくれてんだお前…!早く謝れよ!」

 

「ホントあり得ない…!何考えてんの!?」

 

 ダイナが床に膝をついて泣いていて、カケルさんとウルミがダイナを責めていた。

 床には、どういうわけかカッターが落ちていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「この子が、いきなりウルミをカッターで切りつけてきたのよ!」

 

 俺が尋ねると、ウルミはダイナを指差しながら、自分のパーカーの袖口を見せつけてきた。

 ウルミの服の袖には、長さ20cm程の大きな裂け目ができていた。

 

「ひどい、いきなり切りつけるなんて…」

 

「何考えてるの…?」

 

「もういやああ!誰かこの子を何とかしてよ!」

 

 ヒビノ、サトミさん、メイサさんは、ダイナに目を向けながら口を開く。

 ウルミは、床に座り込んで咽び泣いているダイナを指差して言った。

 

「きっと、『♡J(はあとのじゃっく)』がボロを出さないからってシビレを切らしたのよ!ウルミ、こんな危ない子と一緒にいるとか無理!この子、グループから外そうよ…!」

 

「お、おう!」

 

「そうね…」

 

「それがいいわ、うん」

 

「ウルミ殿がそう仰るのなら…やむを得ませぬな!」

 

 ウルミが言うと、他の皆もダイナをグループから外す事に賛成した。

 するとダイナは、涙で顔をぐちゃぐちゃにして土下座しながら皆に懇願した。

 

「ごめっ、なさっ…わたし、ひぐっ…何でもしますから…っ、身体に落書きして、いいですからっ…私の事、共用便器にしてくれて、いいですからぁ…!ぇぐっ、お願いじまずっ…私を捨てないでぇぇ…!!」

 

「うわぁ…」

 

 ダイナが過呼吸を起こして色々とやばい発言をしながら土下座すると、皆がドン引きした表情を浮かべる。

 皆の中ではもう、ダイナをグループから外す事は確定だった。

 だけど、その時だった。

 

「ちょ…ちょっと待てよ皆!」

 

 イッペー君が、ダイナをグループから外す事に反対した。

 

「誰も、ダイナがウルミを切りつけるところを見たわけじゃないだろ!?一方的に疑ってグループから外すなんて、あんまりなんじゃないのか!?」

 

「イッペー君の言う通りだ。まずは、ダイナの言い分も聞くべきだと思う」

 

 イッペー君と俺は、疑心暗鬼に陥っている皆を説得しようとした。

 するとウルミが、俺に冷たい目を向けて言い放つ。

 

「ヘイジ君。そもそもこんな事になったのってさ。キミのせいだよね?」

 

「え?」

 

「ダイナちゃんが頭おかしい子だって事は、ヘイジ君もわかってたはずだよね?キミがちゃんとこの子を制御しなかったからこんな事になったんだよ。だったら責任取って、ダイナちゃんを連れて自分の足でグループを抜けるのが筋じゃないの?」

 

 ウルミは、痛いところをついてきた。

 そもそもこんな事になったのは、俺がダイナを置いて1人で食糧庫に行ったからだ。

 ウルミの策略にしろ、ダイナが本当にウルミを切りつけたにしろ、ダイナから目を離した俺にも責任がある。

 

「ウルミ!お前、いい加減に…」

 

 イッペー君は、俺とダイナを庇おうとした。

 だけどこれ以上食い下がったら、イッペー君に迷惑をかけるだけだ。

 …今になって、グループを外されたセト君の気持ちがわかった気がする。

 

「…わかった。グループを抜ける。その代わり、もう二度とダイナを悪く言うな」

 

 俺は、ダイナを連れて、自分の足でグループを抜けた。

 

「ごっ、ごめん、なさい…ヘイジさん、私……」

 

「…それ以上は言うな。お前がやってないって事は、わかってるから」

 

 俺は、泣きじゃくるダイナの背中を摩った。

 ダイナは、ウルミを切りつけたりなんかしてない。

 そんな事はわかってる。

 だけどそれを証明する方法が無い以上、俺達はグループを抜ける他なかった。

 ダイナは、ウルミに嵌められたんだ。

 

 『♡J(はあとのじゃっく)』がウルミを操っているのか、それともウルミの自己判断かはわからない。

 ただ一つ確実なのは、このままじゃあのグループは絶滅の一途を辿るって事だ。

 『♡J(はあとのじゃっく)』は、こうなる事も読んでたか…?

 

 

 

 『げぇむ』『どくぼう』

 

 難易度『♡J(はあとのじゃっく)』

 

 4ターン目 残り17名

 

 

 

 

 




夢小説ではお馴染みカッターキャー。
本作ではグループ崩壊のきっかけにカッターキャーを取り入れてみました。
ウルミちゃんのキャラがカッターキャーと相性良さそうだったので
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