Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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はあとのじゃっく(4)

カケルside

 

 全員のマークを確認し終わった後、俺はウルミに呼び出されて作業場に向かった。

 作業場に入ると、既にウルミが待っていた。

 俺は、ウルミが言っていた『大事な話』の内容を尋ねる。

 

「2人きりで大事な話って、何だよウルミ…?」

 

 俺が尋ねると、ウルミはいつになく真顔で言った。

 

「ねーカケル君。あのカネコってオジサン、()()しない?」

 

「へ…?」

 

 排除…?

 何言ってんだコイツ…?

 

「すぐに誤魔化したけど、明らかに皆の前で一瞬嘘つこうとしたじゃん?彼が『♡J(はあとのじゃっく)』だとしたら…?焦りが出たのかも」

 

「けど…排除って…?セトの時みてーに、グループから外すのか…?」

 

「グループ全員で口裏を合わせて、カネコに嘘のマークを教えるのよ」

 

「…!!」

 

 嘘のマークを教えるって…それって、カネコを殺すって事かよ…!?

 

「こうして膠着状態が続いている間も、『♡J(はあとのじゃっく)』は密かに何かを仕掛けてるかもしれない。『げぇむ』が長引く程、『ぷれいやぁ』は不利になっていく…いつまでも、馴れ合いの協力ごっこをあてにしてなんていられない。怪しい奴から順に排除していくしかウルミらが生き残る道はないのよ」

 

「けど、そんな事イッペーとヘイジが許すわけ…」

 

「あの2人にだけは黙っとく。アイツらの正義感は、正直、邪魔なのよ…」

 

「いや、だからって…やっぱりなぁ…」

 

 いくら『♡J(はあとのじゃっく)』が何もしてこないからって、せっかくここまでマークを教え合ってうまくやってきたのに、嘘ついて仲間を殺すってのはなぁ…

 カネコが『♡J(はあとのじゃっく)』じゃなかったら、無実の奴を殺す事になるんだぞ?

 

「ウルミはね。カケル君の事、本気で心配してるんだよ。カネコに嘘のマークを教えられそうになったのは、キミだよね?」

 

「え…!?お…おう」

 

 そういえば…そうだったな。

 あのオッサン、一瞬俺を騙そうとしたよな。

 

「あの状況って、キミの命がかかってたわけだよね?」

 

「お…おう!」

 

 そ、そうだよ…

 

「いくらウッカリだったとしても酷いよね?」

 

「おう!」

 

 元はといえば、アイツが俺を騙そうとしたんだ。

 

「カネコはキミの命を軽く見てたって事じゃない?」

 

「おう!!」

 

 俺を騙して殺そうとするなんて、許しちゃおけねぇよな。

 

「そんな人を庇う必要なんて無いんじゃない?」

 

「おう!!」

 

 だったら、一回くらい痛い目見てもらった方がいいよな。

 

「じゃあ、次のターンでカネコを排除しちゃっても構わないよね?」

 

「おう!」

 

 俺は、何も悪くねぇよな。

 

「よしっ!じゃ、決まりっ!他の皆には、ウルミから話しとくからっ!」

 

 ウルミは、俺に向かって上機嫌で手を振りながら作業場から立ち去ろうとした。

 

 ………あれ?

 何かいつの間にか俺…賛成した事になってる…?

 

 ウルミが作業場から出て行こうとしたその時、カタッと物陰から物音が聴こえた。

 振り向くと、そこにはダイナがいた。

 

「あ、あのっ…すみません…服の糸が、ほつれちゃって…ミシン探してて…っ」

 

 ダイナは、オドオドした様子で言った。

 いつからそこにいたんだ…!?

 つーか、今の会話聞かれてねぇよな…?

 

「え、と…今、カネコさんに嘘を教える、って…聞いた気が、したんです、けど…」

 

 バッチリ聞かれてんじゃねぇか。

 これ、どうすりゃいいんだ…?

 放っといたらヘイジにチクられちまうよな?

 俺が動揺していると、ウルミは悪巧みをしたような笑みを浮かべて俺に耳打ちしてくる。

 

「いい事思いついた。カケル君、悪いけどちょっと話合わせてよ」

 

「え!?お、おう…」

 

 ウルミは、俺に耳打ちすると、作業場のテーブルにあったカッターを、ダイナにバレないように袖口に忍ばせる。

 ウルミはそのまま、ダイナに歩み寄った。

 

「あーあ、聞いちゃったんだ。もういいよダイナちゃん。キミ、もう用済みだから」

 

「え…?よ、う…ずみ…?」

 

 ウルミが冷たい目を向けながら言うと、ダイナは困惑する。

 ウルミは、ダイナにズイッと詰め寄って言い放つ。

 

「キミのドジや頭おかしい行動に皆迷惑してるのわかってる?ダイナちゃんはヘイジ君がいるから他人事かもしれないけどさ、キミのせいでウルミらが『♡J(はあとのじゃっく)』に殺されるかもしれないんだよ?」

 

「え…あ…ぅ……」

 

 ウルミは、ダイナを責めるような発言をした。

 するとダイナは、あり得ない量の汗をかいて言葉に詰まり、しまいにはその場で泣き崩れた。

 確かにコイツは、エントリーする時に服を全部脱いだり、口を開けばどぎつい下ネタを言いまくったり、飲み物や食い物こぼしまくったり、大事なところでどもったり、コミュニケーションに問題が大有りだった。

 ウルミの言う通り、早くこの頭おかしい女を何とかしないと、俺達が『♡J(はあとのじゃっく)』の標的にされるかもしれねぇ。

 

「ハッキリ言わないとわかんないかな。もうさ、グループから出てってよ」

 

 そう言ってウルミは、袖口からカッターナイフを取り出し、自分の服の袖を切った。

 そして床にカッターナイフを床に投げ捨て、大声を張り上げて叫んだ。

 

「キャアアアアアッ!!」

 

 ウルミが叫ぶと、遠くから足音が聞こえてくる。

 きっと、ウルミの叫び声を聞いた皆が駆けつけてきたんだ。

 皆が作業場に着く前に、ウルミが俺に目配せをしてきた。

 

「カケル君」

 

「お、おう…!」

 

 ウルミに目配せされた俺は、ダイナを指差して責めた。

 

「何て事してくれてんだお前…!早く謝れよ!」

 

「ホントあり得ない…!何考えてんの!?」

 

 俺はダイナを、ウルミを傷つけた裏切り者に仕立て上げた。

 こうでもしてコイツをグループから追い出さないと、俺がウルミと話した事を全部ヘイジにチクられちまう。

 それに、このイカレ女を排除しないと、他の皆に迷惑がかかるかもしれないんだもんな。

 仕方ねぇよな。

 俺は、悪くねぇよな…?

 

 

 

「あ〜、スッキリした。正直アイツら、邪魔だったのよね」

 

 ヘイジとダイナをまんまと追い出したウルミは、どこか楽しげな表情を浮かべていた。

 その後ウルミは、イッペー以外の全員に、カネコに嘘を教える話を伝えた。

 他の皆は、我が身可愛さにウルミの提案に賛成した。

 唯一ヒビノだけはウルミのやり方に口出ししたが、結局は同調圧力に負けてウルミのやり方に賛同した。

 

「それじゃ皆、お願いねん♪」

 

 場の空気を支配して皆を操っているウルミは、無邪気に笑った。

 殺らなきゃ、殺られるだけだ。

 生き残る為には、こうするしかない。

 俺は、間違った事は何もしてねぇ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

 俺は、緊張を落ち着ける為に、ため息をついてから解答した。

 何の変化も起こらないまま、時間だけが過ぎていく。

 そしてとうとう、時間になった。

 

《制限時間になりました。4ターン目の生存者は、17名中17名》

 

 このターンは、誰も死ななかった。

 『どくぼう』から出てきたダイナが、不安そうに俺に話しかけてくる。

 

「ヘイジさん…私達、どうすれば…?」

 

「そろそろイッペー君のグループは、身内殺しを始める頃だろう」

 

「え……?」

 

「カネコさんがマークを間違えかけた時、一瞬ウルミの目が険しくなった。オレ達がいたら()()ができないから、オレ達をグループから追放したんだ。何とか殺戮を止めたいところだけど…きっと、グループを外されたオレが何を言っても、皆は聞く耳を持っちゃくれないだろう」

 

 俺は、ウルミ達に騙された人達を助ける為の方法を考えていた。

 するとダイナが、俺の服の裾を掴んで話しかけてくる。

 

「ヘイジさんは…どうしてあの人達に構うんですか?私とヘイジさんを追い出した人達ですよ?」

 

「…確かに、アイツらはオレ達を切り捨てた。万が一の事があればオレはダイナの命を最優先にするつもりでいたし、本当は構うべきじゃないのかもしれない。だけど、出来ればもう誰にも死んでほしくないんだよ…」

 

 もちろん、一番大事なのは俺とダイナの命だ。

 だけど俺はもう、できればこれ以上『ぷれいやぁ』を死なせたくない。

 死ぬのは『♡J(はあとのじゃっく)』一人でいい。

 

「『(だいや)』」

 

 俺が考え事をしていると、ダイナが口を開いた。

 

「ヘイジさんのマークは、『(だいや)』です。ヘイジさんに死んでほしくないのは、私だって…」

 

「ありがとう。ダイナのマークは『(はあと)』だよ」

 

 俺がダイナのマークを教えると、ダイナは微かに頬を染めて会釈した。

 これ以上犠牲者を増やさない為には…イッペー君を味方につけるしかない。

 イッペー君は、責任感が強く優しい人だ。

 彼なら、グループの崩壊を止められるかもしれない。

 

「イッペー君」

 

 俺は、イッペー君が一人でいるタイミングを見つけて、彼に声をかけた。

 

「少し話、いいかな」

 

 俺は、一人でいるイッペー君に声をかけた。

 俺はイッペー君と2人でトイレに行って話をした。

 

「ヘイジさん…話って……」

 

「君のグループ、何か異変が起こったりしてないか?」

 

「えっ…?」

 

 俺が尋ねると、イッペー君が驚く。

 

「何で、そんな事…」

 

「『何でそんな事聞くんだ』…って事は、やっぱり何かあったんだな?」

 

「………すごいな、観察眼」

 

 イッペー君は、ため息をついてから、俺とダイナがグループから追い出されてから起こった事を話してくれた。

 今回のターンで、ウルミは、他の皆と口裏を合わせてカネコさんに嘘のマークを教えたらしい。

 

「…やっぱりな。この『げぇむ』で身内殺しは絶対やっちゃいけねぇってのに…君はウルミの作戦に加担したのか?」

 

「いや…あんなやり方には、賛同できねぇよ…さっきまで皆協力し合ってうまくやってたのに、何で皆カネコさんを騙したりなんかするんだよ…!!」

 

 イッペー君は、拳を握りしめながら悔しそうに言った。

 …やっぱりイッペー君は優しい人だ。

 彼に話をして良かった。

 俺は、イッペー君の肩に手を置いて言った。

 

「本当のマークなら、オレが教えてやる。君が、騙された人達に本当のマークを教えるんだ」

 

「え…?」

 

「このままウルミの好きにさせてたら、グループ全員が騙し合って、誰も生き残らない。グループを外されたオレが何を言っても、きっと皆には響かない。だけど君の言葉なら、皆は信じてくれるかもしれない。無意味な殺し合いを止められるのは、イッペー君しかいないんだ」

 

 俺が言うと、イッペー君は俯いて口を開く。

 

「そ…んな、事…何でオレに……」

 

「イッペー君、言ってただろ。オレが誰かを騙して殺すような奴には見えないって。オレにはわかる。君はいい奴だ。『♡J(はあとのじゃっく)』に勝てるとしたら、君のような優しくて強い人だとオレは思う」

 

 俺は、イッペー君に本心を打ち明けた。

 『♡J(はあとのじゃっく)』に本当の意味で勝てるのは、ヤバやバンダのような人間じゃない。

 イッペー君のような優しい人だと思う。

 俺が言うと、イッペー君は拳を握りながら口を開いた。

 

「オレは…強くなんかねぇよ…ゲンキが怖いからって、セトを見捨てた…そのせいでアイツは…!」

 

「イッペー君…」

 

「今回だって、自分が騙されるのが怖いからって、皆がカネコさんに嘘のマークを教えるのを止められなかった…!オレは、アンタが思ってるような人間じゃない…オレはもう、誰の事も信用できねぇんだよ…!」

 

 イッペー君は、俯いたまま絞り出すように言った。

 俺は、イッペー君に本当のマークを教えた。

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

「え…?」

 

 俺がイッペー君に本当のマークを教えると、イッペー君は顔を上げる。

 

「君がオレを信用できなくても、オレは君を信じる。さっきはダイナの命が優先って言ったけど、君にも死んでほしくないんだよ」

 

「………」

 

 俺が言うと、イッペー君は唇を噛み締める。

 イッペー君に、俺を信用しろと言うつもりはない。

 嘘をついていれば勝てる奴を信用しろという方が無理な話だ。

 それでも俺は、一度は俺を信じて、グループを追放された時に俺とダイナを庇ってくれたイッペー君を信じたかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「カネコさん」

 

 イッペー君に話をした後、俺は食糧庫に飲み物を取りに行っていたカネコさんに話しかけた。

 俺がカネコさんに話しかけると、カネコさんは困惑と罪悪感が入り混じったような表情を浮かべる。

 きっと、ウルミに流されて俺をグループから追放した事に、彼なりに後ろめたさを感じていたんだろう。

 俺は、何とか言葉を搾り出そうとするカネコさんにマークを伝えた。

 

「『(はあと)』」

 

「え…?」

 

「カネコさんのマークは、『(はあと)』です。それじゃ…」

 

 カネコさんに本当のマークを教えた俺は、食糧庫から立ち去る。

 カネコさんはきっと、俺じゃなくグループの連中を信じる。

 これは、ただの俺の自己満足だ。

 カネコさんが本当のマークを知る事もできないまま死んでいくのを黙って見てはいられなかった、それだけだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『(だいや)』」

 

 

 

 ――ボンッ!

 

 

 

 俺がマークを言った直後、カネコさんの『どくぼう』から爆発音が聞こえる。

 やっぱりカネコさんは、グループの連中の方を信じてしまったんだ。

 わかってはいた。

 だけど、いざ現実を突きつけられると、どうしても目を背けたくなってしまう自分がいた。

 

《制限時間になりました。5ターン目の生存者は、17名中16名》

 

 ロックが解除された『どくぼう』から、生存者が退室する。

 ダイナは、カネコさんが入っていた『どくぼう』を見て、暗い表情を浮かべる。

 

「そんな…カネコさん…」

 

「………」

 

「16名…!?グループ内で…何故不正解者が…!?」

 

 カリヤさんは、グループ内で不正解者が出た事に驚いていた。

 バンダとヤバは、同族殺しを始めたグループを見て面白そうに笑った。

 

 互いを疑い合って殺し合いを始めた今、ウルミ達の向かう先は破滅しかない。

 最後には全員が全員を騙し合って、誰も生き残らない。

 アイツらが外部の人間を拒絶し続ける限り、俺にはウルミ達の破滅は止められない。

 イッペー君が騙された人達に本当のマークを教えてくれる事に賭けるしかない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒビノside

 

 マークを教え合って皆と解散した私は、トイレに駆け込んだ。

 口の中が苦い。

 うまく息ができない。

 

 皆は、私のマークを『(だいや)』だって言ってた。

 カネコさんの時みたいに、皆が口裏を合わせているのかも…?

 でも、皆があれだけ疑っていたカネコさんは、『♡J(はあとのじゃっく)』じゃなかった。

 これ以上殺し合ったって、誰も得しないはず…

 私のマークは『(だいや)』…皆を信じていいのよね…?

 

 

 

「あ…ぇ、あにょ…っ」

 

 私が洗面台で手を洗っていると、ダイナさんが話しかけてくる。

 

「だ、ダイナさん…」

 

 急に私に話しかけてきて、どうしたんだろう…?

 もしかして、さっき私達がダイナさんを責めてグループから追放した事を責めに来たの?

 あの時はダイナさんがウルミさんを切りつけたものとばかり思ってたけど、冷静になって考えてみたら、ダイナさんがやったって証拠はどこにもなかった。

 ダイナさんは、ウルミさんに嵌められただけだったのかもしれない。

 だとしたら、私は無実の人を責めてグループから追放してしまったって事になる。

 どうしよう…早く謝らないと…

 

「あのっ、ダイナさん!本当にごめんなさい!さっきの事は…」

 

「す、すす、すぺっ…『♠︎(すぺえど)』…っ!」

 

 私が謝るのとほとんど同時に、ダイナさんはマークを言って立ち去っていった。

 『♠︎(すぺえど)』…

 さっき皆が言ってたマークと違う…!!

 どっちを信じればいいの…!?

 

 ダイナさんは、私に本当のマークを教える理由がない。

 それにダイナさんは、ウルミさんと一緒になって自分を責めた私達を恨んでるかもしれない。

 だから私達に嘘のマークを教えて、殺そうとしてるんじゃ…!?

 

 信じるなら、グループの皆よ…!

 私のマークは『(だいや)』…そうよね…?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

「あ、あの…!」

 

 俺とダイナが食糧庫で食糧を調達していると、メイサさんが後ろから話しかけてくる。

 

「えっと…良かったら、私のマークを教えてくれない…?私、もうグループの皆を信用できなくなってきて…」

 

 メイサさんは、見るからに挙動不審だった。

 仲間を騙したりするからそんな事になるんだろうが…

 俺が呆れてダイナが咄嗟に俺の後ろに隠れると、メイサさんはさっきの事を思い出してか、泣き喚きながら俺にしがみついてくる。

 

「さ、さっきの事は本当に悪かったと思ってるわ!!本当よ!!私だって、ウルミが怖くて逆らえなかったの!!お願い、私を助けて!!何でもするから!!」

 

 メイサさんは、土下座をして俺とダイナに懇願してきた。

 皮肉にも、彼女がゴミを見るような目で見ていた4ターン目のダイナと構図が真逆になっている。

 

 正直、こんな事でメイサさんのした事が許されるとは思わない。

 だけどメイサさんを見殺しにしたら、それこそ『♡J(はあとのじゃっく)』の思うツボだ。

 俺とダイナは、顔を見合わせてから、メイサさんにマークを教えた。

 

「メイサさんのマークは、『(はあと)』です」

 

「『(はあと)』…」

 

 俺がマークを教えると、ダイナもマークを教える。

 するとメイサさんは、絶望の表情を浮かべて乾いた笑いをこぼす。

 

「は、はあと……は、はは…ははは…」

 

 生気のない表情で笑うメイサさんは、そのままゆっくりと立ち上がり、フラフラとおぼつかない足取りでどこかへ向かった。

 きっと俺達が教えたマークと、グループの連中が教えたマークが同じだったんだ。

 連中の事を疑っているメイサさんは、俺達にまで嘘をつかれたと思い込んでしまったんだろう。

 …もしかしたら、メイサさんはもう、このターンで死んでしまうかもしれない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

メイサside

 

 どうしよう…

 聞く人を間違えたかも…

 

 グループの皆も、私のマークを『(はあと)』だって言ってた。

 でも、皆が本当の事を言うはずがない…!

 そうよ、今度は私が皆に騙されてるんだわ…!

 

 あの2人は、グループを追放された事をまだ恨んでるかもしれない。

 きっとグループを追放された腹いせに、私を殺そうとしてるのよ…!!

 そうじゃなきゃ、あの2人がグループの皆と同じマークを言うはずがないわ!!

 

 私のマークは、絶対に『(はあと)』じゃない…!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♠︎(すぺえど)』」

 

 俺がマークを言っても、何も起こらなかった。

 俺の言ったマークは正解だったんだ。

 だが…

 

 

 

 ――ボン!

 

 ――ボンッ!!

 

 

 

 ヒビノとメイサさんの『どくぼう』から、爆発音が聞こえる。

 …やっぱりメイサさんは、疑心暗鬼に陥ってマークを答えられなかったのか。

 ヒビノは…さっきのターンのカネコさんと同じように、グループの連中を信じてしまったんだろう。

 

《制限時間になりました。6ターン目の生存者は、16名中14名》

 

 『どくぼう』から退室した俺は、ちょうど隣の『どくぼう』に入っていたイッペー君と目が合う。

 イッペー君は、俺と目が合ってすぐに目を逸らした。

 

「ヘイジさん…っ」

 

 『どくぼう』から出てきたダイナは、俺のもとへ駆け寄ってきた。

 パートナーを組んで答えを教え合っていた俺とダイナ、ヤバとコトコさん、バンダとエンジさん、ミツルギさんとカリヤさんの4組は、パートナーを信じ合っていたから比較的冷静さを保てていた。

 だがそれ以外の皆は、すっかり疑心暗鬼に陥って、いかに人を騙して自分が生き残るかしか考えられなくなっていた。

 さっきのターンまでは、特定のパートナーを持たずに手広くやっていたアイゼンさんも、例外じゃなかった。

 

「あの…このビスケット美味しいですよ」

 

「ありがとう」

 

 ダイナがビスケットの袋を渡してきたので、俺はビスケットを一枚取って食べた。

 ダイナは、俺にマークを教えてくれた。

 

「ヘイジさんのマークは、『♣︎(くらぶ)』です」

 

「ダイナは『(だいや)』だよ」

 

 俺とダイナは、互いにマークを教え合った。

 俺は、ダイナが渡してくれたビスケットを食べながら、他の参加者を注意深く確認した。

 すると、他の参加者に手当たり次第に声をかけているアイゼンさんが目に留まる。

 

「お互いにマークを教え合いませんか?まずはあなたのマークから教えますから」

 

「結構よ!」

 

 アイゼンさんは、サトミさんに声をかけたが、話を聞く前に断られていた。

 サトミさんに断られたアイゼンさんは、今度はトイレから戻ってきたばかりのエンジさんに声をかける。

 

「お互い協力し合いましょう。あなただって、答えの選択肢は多い方が…」

 

「間に合ってるよ」

 

 アイゼンさんが話しかけると、エンジさんは鬱陶しそうな表情を浮かべ、アイゼンさんの話を聞こうともせず立ち去った。

 2人に断られたアイゼンさんは、今度はカケルさんに話しかける。

 

「あのっ、話だけでも聞いていただけませんか!」

 

「チッ、話しかけんじゃねーよ!」

 

 アイゼンさんがカケルさんに話しかけると、カケルさんは舌打ちをして暴言を吐きながら立ち去った。

 誰にも話を聞いてもらえなかったアイゼンさんは、表情に余裕がなくなっていた。

 アイゼンさんは、一人でいたカリヤさんに話しかける。

 

「あ…あのッ!!どうも皆さん、急にガードが固くなってしまって…こっ…このままでは…私は…!!どうか私のマークを、教えていただけませんかッ!!」

 

 アイゼンさんは、呼吸を荒くしてカリヤさんに懇願した。

 するとカリヤさんは、ため息をついてから口を開く。

 

「…仕方ないわね。アンタのマークは…『♠︎(すぺえど)』よ」

 

 カリヤさんからマークを聞いて安心するアイゼンさんだったが、彼の本当のマークは『(だいや)』だった。

 このままだと、アイゼンさんは『げぇむおおばぁ』になってしまう。

 何とか助けないとな。

 

「アイゼンさん」

 

 俺は、カリヤさんからマークを聞いて安心しているアイゼンさんに話しかけた。

 

「マークならオレとダイナが教えます。もうオレ達以外の人からマーク聞かなくていいですから」

 

「そ、それはどういう…」

 

「アンタ今、カリヤさんに嘘つかれてましたよ」

 

「え…!?」

 

 俺が言うと、アイゼンさんが動揺する。

 他の人と信頼関係を築く事ができなければ、いつか嘘をつかれるとは考えなかったのだろうか。

 

「オレが本当のマークを教えます。オレは、誰かを騙して殺したりなんかしません。たとえアンタが『♡J(はあとのじゃっく)』だったとしても」

 

 俺はあえて、アイゼンさんに揺さぶりをかけるような事を言った。

 ここまで言えば、他の人が彼をどう見ているかをわかってもらえただろう。

 俺が言うと、まずはダイナがアイゼンさんのマークを確認した。

 

「アイゼンさんのマークは…はあ…あ、いや、『(だいや)』です…」

 

「え…?」

 

 ダイナが一瞬アイゼンさんのマークを間違えかけると、アイゼンさんが戸惑う。

 ダイナは、緊張のあまりどもりながら話す。

 

「え、と…すみません…ピント合わなくて…わ、私、緊張してて…」

 

「あ、いや…私のマークは、『(だいや)』でいいんですね…?」

 

「はい。『(だいや)』です」

 

 ダイナと俺が言うと、アイゼンさんは安堵のため息を漏らす。

 それにしても…カリヤさんはどうしてアイゼンさんに嘘のマークを教えたりなんかしたんだ?

 彼はミツルギさんの、『共生』という理念に共感していたはずだ。

 やっぱりカリヤさんも…他人を蹴落としてまで生き残りたかったのかな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アイゼンside

 

 私の本当のマークは『(だいや)』…

 あの2人は、そう言っていたが、本当にそうなのか…?

 

 今まであの2人は私に本当のマークを教えてくれていた。

 だが、今回もそうとは限らない。

 殺し合いが始まった今、『♡J(はあとのじゃっく)』を殺そうと躍起になって、私を騙したのかもしれない。

 

 『たとえアンタが『♡J(はあとのじゃっく)』だったとしても』…

 あの発言はどう考えても、私を『♡J(はあとのじゃっく)』だと疑っている。

 あの2人が私を『♡J(はあとのじゃっく)』だと思っているのなら、本当のマークを教えるはずがない。

 

 信じるなら、カリヤさんの方だ。

 彼等はさっき、『殺し合いを放棄したい』と私に言ってきたばかりじゃないか。

 私のマークは、『♠︎(すぺえど)』…!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ウルミside

 

 ウルミは、カケル君とロクドーさんを呼び出して、次の標的を誰にするか話した。

 

「次はライダースーツの女。無口ですまして、絶対何か企んでる」

 

「おう…」

 

「しょ…承知しましたぞ!」

 

 カケル君は、俯いてブツブツと何かを言っていた。

 この子、放っておいたらそろそろ危ないかもね。

 このターンで排除しよっと。

 ウルミは、今度は作業場にロクドーさんを呼び出した。

 

「ねぇ…ロクドーさん…ヤンキー君の目つきがだいぶ危なくなってきてる…このターンであの子も排除した方がいいかもね」

 

「こ…今回は一度に、2人ですかなっ!?儂は自分が生き残る為なら、どこまでもウルミ殿の仰せのままにっ!」

 

 このジジイ、エゴ剥き出しでホント扱い易い。

 皆ウルミの思い通り。

 お人形みたいに操れちゃう!

 

 支配って、なんて気持ちいいんだろっ!

 『♡J(はあとのじゃっく)』探しなんて忘れて、排除の快感の中毒になっちゃいそうっ!

 

 

 

「そんなに仲間を殺して楽しいか?」

 

 いきなり、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、ヘイジ君とダイナちゃんが立っていた。

 

「あはっ、2人とも久しぶり!生きてたんだ」

 

「カネコさんとヒビノは、アンタのせいで死んだよ。2人とも、オレとダイナが本当のマークを教えたのに…アンタ、本当に『♡J(はあとのじゃっく)』を探す気あるのか?」

 

「え、『♡J(はあとのじゃっく)』探しなんてもうどうでもいいけど」

 

「は…?」

 

「だってみーんなウルミの思い通りになって、ホント気持ちいいんだもん!人を操って壊すのって、ホント楽しい!」

 

 もう『♡J(はあとのじゃっく)』探しも『げぇむくりあ』もどうでもいい。

 ウルミはここで他の皆を支配して排除するの。

 刑務所(ここ)はウルミのお城。

 ウルミはこのお城の女王様!

 なんて素敵なんだろっ!

 

「呆れた…アンタ、この調子じゃいつか仲間に騙されて殺されるぞ」

 

「大丈〜夫!皆はウルミのお人形だもん。それよりヘイジ君、自分の心配したら?」

 

「何?」

 

「ダイナちゃんさぁ、アレハッキリ言って病気だよ。ヘイジ君も気をつけないと、いつか殺されちゃうよん」

 

「病気なのはどっちだよ…」

 

 ヘイジ君が不満そうに言うけど、知ったこっちゃないよ。

 だってダイナちゃん、頭おかしい言動ばっかで、一緒にいるだけで頭痛いんだもん。

 ああいうのは、さっさと排除した方が身の為なのよん。

 

「『(はあと)』」

 

「は?」

 

 え、急に何?

 

「今回は、本当のマークを教えてやる。だが、覚えておけ。そうやって人を操った気になって仲間と信頼関係を築こうとしないなら、いつか操ってるつもりでいた奴等に背中刺されるぞ」

 

「ご忠告どーも。ヘイジ君のマークも『(はあと)』だよん」

 

 ま、嘘だけどね。

 ウルミに逆らって口答えする奴の事なんか、信用するわけないじゃん!

 さーてと、これからどうしよっかな。

 とりあえず、ジジイはまだ使えそうだからキープしとこっ♪

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

《制限時間5分前になりました。ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》

 

「『♣︎(くらぶ)』」

 

 俺がマークを言って、首輪が爆発しなかった事に安堵した、その直後だった。

 

 

 

 ――ボン!

 

 ――ボン!

 

 ――ボン!!

 

 ――ボンッ!!

 

 

 

 アイゼンさん、ウルミ、サトミさん、カケルさんの『どくぼう』から、爆発音が聴こえた。

 

《制限時間になりました。7ターン目の生存者は、14名中10名》

 

「にゃああああっ!!?」

 

「4人…か」

 

 アナウンスが鳴り響くと、ダイナが素っ頓狂な叫び声を上げた。

 これで残りは10人。

 半分以上の人が死んでしまった。

 これ以上犠牲者が増える前に、『♡J(はあとのじゃっく)』を見つけないと…

 

 

 

 『げぇむ』『どくぼう』

 

 難易度『♡J(はあとのじゃっく)

 

 8ターン目 残り10名

 

 

 

 

 

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