苦手な人はブラウザバック。
エンジside
俺の元の世界での職業は、催眠療法士だった。
俺の才能を活かせる天職ではあったが、マンネリ化した日常にどこか物足りなさを感じていた。
そんな中、学生時代に面倒を見ていた後輩に飲みに誘われて、特に断る理由も思い浮かばなかったから、7月の第一土曜日の夜に2人で会う約束をしていた。
その日待ち合わせ場所にしていたのは、麻布十番の隠れ家的なバーだった。
待ち合わせ時間の5分前に、客が入ってきた。
「お隣、いいかしら」
不意に声をかけられて振り向くと、俺の右隣に背の高い女が座った。
ウェーブのかかった長い髪を高い位置でまとめ、シンプルなワインレッドのドレスに身を包んだ美女だ。
素直に綺麗だと思った。
一流モデルを思わせる顔やスタイルもそうだが、入店から席に座るまでのたった数分の所作にも、気品が感じ取れた。
いきなり隣に座ってきた女が何を考えているのか分からずに内心戸惑っていると、女がクスッと笑い、女とは思えない野太い声で俺に話しかけてきた。
「
そう言ってソイツは、見覚えのある黒縁眼鏡をかけた。
その顔を見た瞬間、俺はソイツの正体に気付いた。
「お前、すめら──
俺が思わず口を開くと、ソイツは俺の唇に人差し指を当てて言葉を遮ってから微笑んだ。
「アヤカって、呼んでください♡」
皇紋嘉。
この日俺をバーに呼び出した後輩だ。
内気だが何にでも興味を持つ性格で、俺以上に催眠の才能があったから、学生時代は俺が面倒を見ていた。
「…お前、どうしたのそれ」
皇…もとい、アヤカの胸が不自然に膨らんでいる事に気付いた俺は、さりげなく指を差して尋ねた。
するとアヤカは、軽快に笑いながら答えた。
「ああ、パッドですよ。つけると胸が大きく見える魔法のアイテムです。1個要ります?」
「要らねーよ」
アヤカは、シリコン製のそれを片方だけ外して俺に見せてきた。
冗談を交えつつ、アヤカは俺に酒を勧めてきた。
「先輩何か飲みたいお酒あります?」
「お前に任せる」
「あら。じゃぁ、レッドアイなんてどう?トマトジュースとビールのお酒。度数低めだから飲みやすいわよ」
軽妙な話術で警戒心を解き、自然なタイミングで酒を飲ませ、会話のテンポを相手に合わせつつ少しずつ自分のペースに誘導していく。
流石は、銀座の高級クラブでNo.1に上り詰めただけある。
コイツが片乳だけデカいオカマじゃなかったら、俺もコイツの金づるにされていただろうと思った。
俺は、アヤカに自分の話をした。
アヤカの話も聞いた。
アヤカは、先月足を洗ったばかりだと言っていた。
これからどうするのか聞いたら、どっかの国に移住して別荘を買うってアイツは答えた。
「今日はありがとうございました。先輩と話せて楽しかったです」
そう言ってアヤカは、1人で帰路についた。
アヤカの話を聞いているうちに、俺もどこでもいいから知らない国に行って、このくだらない日常から抜け出したい、そんな考えがふと頭をよぎった。
俺が『今際の国』に迷い込んだのは、その翌週の事だった。
『今際の国』に迷い込んだ日、俺は運良く日が暮れる前に『げぇむ』に慣れた滞在者に会う事ができて、『げぇむ』や『びざ』の事を聞いてから、近くの『げぇむ』会場に入った。
俺が入った『げぇむ』会場は、眼科クリニックだった。
会場に入ってすぐにエントランスに置いてあった視力計を3秒間覗き込むように指示され、エントリーが終わると今度は首輪が置いてある診察室に通された。
他の参加者と同じように自分の名前が書かれたテープが貼られた首輪を装着すると、最後は手術室に通され、手術室のドアに鍵がかかった。
薄暗い手術室には、メスや鉗子だけじゃなく、何故かマイナスドライバーや錐なんかの工具や、フォークやスプーンなんかの食器も置かれていた。
俺が手術室で『げぇむ』が始まるのを待っていると、チャイナドレスを着たおかっぱ頭の女と、地味めの服装をした女の2人組が入ってきた。
おかっぱの女は、俺を見るなり声をかけてきた。
「あら!?もしかして、エンジ先輩!?」
「アヤカ…?」
「あはっ、ヤダァ久しぶり〜!!元気してました?」
アヤカは高笑いしながら、コツコツとヒールの音を立てて俺に歩み寄ってきた。
その時、アナウンスが鳴った。
《エントリーを締め切りました。『げぇむ』を始めます。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は、『にらめっこ』。エントリー数、無制限。賞品、なし。難易度…『
アナウンスが鳴ると、他の参加者達が動揺した。
始終冷静だったのは、アヤカと連れの女の2人だけだった。
《『るうる』の説明。皆様に装着していただいた首輪は、虹彩認証によってのみ外す事ができます。皆様の首輪には、それぞれ『かぎ』になる参加者がおられます。『かぎ』が首輪のカメラを覗き込むと、首輪のロックが解除されます。制限時間内に、自分の首輪を外す事ができれば『げぇむくりあ』。制限時間は1時間。1時間後に首輪が外れていなかった参加者は、首輪が爆発して『げぇむおおばぁ』。手術室内に置かれているものは自由に使用して構いません。それでは、『げぇむすたあと』》
『るうる』自体は、至ってシンプルだった。
制限時間内に自分の『かぎ』になる参加者を見つけ出し、『かぎ』の眼球の虹彩認証で自分の首輪のロックを解除できれば『げぇむくりあ』。
『かぎ』を見つける為には、片っ端から他の参加者とカメラを覗き合うしかない。
だが参加者の一人が他の参加者の首輪のカメラを覗き込むと、覗き込まれた参加者の首輪に『ERROR』と表示され、警告音が鳴った。
その直後、その参加者の首輪が、俺の目の前で爆発した。
「きゃあああああ!!!」
「うわあああああ!!?」
「な、何で急に爆発したんだよ!?」
いきなり目の前で人が死んで、会場は阿鼻叫喚だった。
そんな中、アヤカの連れの女がやけに落ち着いた様子で口を開く。
「解除方法を間違えたからでは?きっと、『かぎ』になる人以外にカメラを覗かれたら、即『げぇむおおばぁ』なんですよ」
「何だよそれ、完全に運ゲーじゃねーか!!」
アヤカの連れの女が言うと、他の参加者が喚いた。
そんな中、参加者の1人が最悪の仮説を立てる。
「ねぇ…まさかとは思うけど、自分自身が『かぎ』…って事は、ないよね…?」
自分自身が『かぎ』。
誰もが、その可能性を見落としていた。
それを聞いた時、ようやくわかった。
手術室に置かれていた道具の意味が。
貴金属の類は『げぇむ』会場に入る前に没収されたから、『げぇむ』会場には反射物になるものが無い。
つまり、
「くり抜くしか、ないのか…!?自分で、自分の目玉を……」
『げぇむくりあ』する為の唯一の方法は、自分で自分の目玉をくり抜いて、自分の目玉で首輪を解除する事だった。
そんな事、できるわけがない。
俺が『げぇむくりあ』を諦めかけたその時、首輪が爆発した死体が目に入った。
俺は、ああはなりたくない。
震える手で、テーブルの上に置いてあった工具を手に取った。
死ぬよりはマシ、死ぬよりはマシ、死ぬよりは──…
俺は、覚悟を決めて、自分の右眼に工具を突き刺した。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!あぎっ、がぁあっ…!!」
激痛で、気が狂いそうになった。
痛みのあまり、大人しく『げぇむ』から降りた方がいくらかマシだったんじゃないかとさえ思った。
それでも俺は、自分だけでも生き残りたかった。
「うぐぅぅぅ…っ、クソッ、クソ、クソ、クソ!!何でオレが、こんな目にぃぃっ…!!」
こんな『げぇむ』を作った奴を恨みながら、死にたくない一心で、自分で自分の右眼をくり抜いた。
制限時間ギリギリのところで、俺は何とか自分の首輪を解除できた。
《『こんぐらちゅれいしょん』。『げぇむくりあ』》
『げぇむ』を『くりあ』できたのは、俺とアヤカと連れの女の3人だけだった。
アヤカと連れの女は、あらかじめ互いの首輪を交換して『げぇむ』に参加し、自分の目玉をくり抜く事なく『げぇむ』を『くりあ』した。
他人の首輪を装着したら『げぇむおおばぁ』になる『るうる』だったらどうするつもりだったのかと聞いたら、アヤカは、『その時はその時』だと笑った。
その日から俺は、アヤカと、連れの女のアイと一緒に『げぇむ』に参加した。
「キャハ、生き残ったのこんだけ?まあいいや、アタシはヒミコ。こっちはルーナ。ヨロシク♪」
「………」
「良かったですねぇ先輩、ハーレムですよ!」
「ハーレムじゃねぇだろ、フルハウスだろ」
「あはぁ、確かに♪」
『ふぁあすとすてぇじ』の『げぇむ』で出会った
『ねくすとすてぇじ』が始まって3日目、俺はアヤカとアイの2人と一緒に『
俺が片眼を失う羽目になった『げぇむ』を作ったのは、『
アヤカが『
アヤカに陵辱されて心が折れた『
この国に残れば、俺が新たな『今際の国』の国民として、この国で好き放題できる。
俺はもう、『びざ』切れや『げぇむ』に怯える側じゃなくなる。
どうせ元の世界に戻ったって、退屈な日常を繰り返すだけだ。
だったら、この国で殺し合いを楽しむ側に回った方がずっといい。
だから俺は、この国に残って、永遠に殺し合いの『げぇむ』を続ける事を選んだんだ。
◇◇◇
10時間前。
『げぇむ』開始直前───
うっは♪役者が揃ってきやがった。
開演が楽しみすぎて、うっかり顔に出ちまいそうだぜ。
ようこそ───
この俺のご機嫌な
早めにエントリーして今回の役者を観察しておいた俺は、ヤバ、バンダ、アイゼン、ミツルギ、ついさっき入ってきたパーカーの男、そして最後に入ってきたパーカーの女に目を向けた。
人心誘導に長けていそうなご機嫌な役者は、ざっとあの6人。
もう少し…的を絞るなら…
主演は、
役者が何人いようと、そのほとんどはただのエキストラ。
この『どくぼう』はとどのつまり、圧倒的な自信とカリスマでもって他者を
グループを組んで付け焼き刃の信頼関係を築くなんてのは素人のする事。
あの2人は、最も操作しやすい人物ただ1人をパートナーに選び、得意のカリスマで完全な支配下に置くはず。
途中の過程はどうあれ、最後に残る席は4つ。
俺は出しゃばらずに裏方に回らせてもらうから、皆、楽しませてくれよな!
俺の用意したシナリオは、概ね順調に進んでいた。
ひとつだけ、想定外があったとすりゃあ…
「緊張するなぁ…でも他に参加できそうな『げぇむ』が無かったし、ここで『くりあ』しておかないと…!」
俺のご機嫌なミュージカルに、やべぇ女が乱入してきやがった。
パンツ一枚で『げぇむ』会場に入ってきやがったと思えば、放送禁止レベルの下ネタを言いまくる痴女。
流石に殺意が湧いたから嘘のマークを教えて殺してやろうかとも思ったが、ああいう奴はどうせ誰にもマークを教えてもらえずに脱落する。
だったら放置でいいと思っていたが、面倒臭ぇ事が発覚しやがった。
前回の『げぇむ』では、カップルで参加した『
厄介なのは、
そういえば、『ビーチ』とかいう大規模な『ぷれいやぁ』集団の中に、『
あんなイカレ女を飼い慣らして信頼すべき唯一のパートナーに選ぶなんざ、まともな神経じゃできやしねぇ。
今回は、主演役者をもう1人追加しておこうか?
「お願いします!助けて下さい!尺八でも本番でも、あなたの望む事は何でもしますからぁ!!」
ダイナは、何を考えたのか、1ターン目が始まってすぐ片っ端から他の参加者に声をかけた。
もちろん俺のところにも来やがった。
下手に相手をすれば俺が『
だが俺は、これを逆にチャンスと捉えた。
「やぁ…」
俺は、ダイナが1人になったタイミングを狙って、ダイナに話しかけた。
ダイナは、一度俺に追い払われたからか、俺が声をかけた途端に警戒して身構えた。
「ぁ…え……」
「さっきはごめん…その、いきなりあんな事言われたからびっくりして…」
「うぅ…」
俺が一度ダイナを追い払った事を謝ると、ダイナは目を泳がせながら髪をいじる。
俺は、どう見ても気弱そうな人物を演じながら、ダイナに話しかけた。
「あのさ、君…もしかして、いじめられてた?」
「っ…!?ど、どうしてそんな事…」
俺が図星を突くと、ダイナは目を見開いて動揺する。
どうしてそんな事わかるんだ、って…見るからにいじめられそうな奇行ばっかりしてるからだよ。
支離滅裂な言動と夥しいリストカットの痕を見りゃあ、コイツのバックボーンは大体想像がつく。
「わかるよ…君を見て、思ったんだ。君は、オレと同じなんじゃないかって。オレも、そうだったから…」
「……じ、実は…」
俺が言うと、ダイナは聞いてもいない身の上話をし始めた。
学生時代は酷いいじめを受け、今まで碌でもない男に搾取される人生だったという。
いじめで輪姦されたトラウマが原因で自分に自信が持てなくて、そこにつけ込まれて男達に騙され、すぐに服を脱いだり身体を売ったりするのは、身を守る為に自然と身についた癖だとも言っていた。
ダイナは、泣きながら俺に愚痴を言ってきた。
「ひぐっ…ぐすっ…抜け出さなきゃって、わかってても逆らえなくてぇ…」
「そうだよね…人に流されて、自信が持てなくて、頭ではわかってても抜け出せなくて…やっぱり、君はオレと同じだね」
この女と話していて、分かった事がある。
コイツは、俺の手駒にできる。
空気の読めない言動、落ち着きのなさ、情緒面の不安定さ、学習能力の低さ…
どれも発達障害の人間に当てはまる特徴だ。
この手の人間は依存体質になりやすく、俺の得意とする催眠にかかりやすい。
俺が元の世界で治療してきた患者のほとんどは、この女のような社会不適合者だった。
頭のおかしい露出女だろうと、一度俺の手中に収めちまえばどうって事はない。
「ところで、あのヘイジって男は、本当に信用できるの…?」
「え…?」
「彼は、君の事を利用しようとしてるだけなんじゃないのかな?自分が生き残る為だけに君に甘い言葉を囁いて、操ろうとしているんだよ。『
「そ、そんな事ありません…!ヘイジさんは、ヘイジさんは……!」
ダイナは、俺の言葉を必死に否定した。
だがハッキリ『違う』とは否定しなかった。
「ヘイジって男は、本心では君の事を見下して、邪魔になったらいつでも消せるって思ってるんだよ。オレにはわかる…オレもきっと、バンダにいいように利用されて、最後は切り捨てられて死んじゃうんだよ」
「ぇ…あ……」
俺が言うと、ダイナは汗をダラダラ流してどもった。
「君が何かを話した時、あの男が嫌な顔をした事はなかったかい?彼は、自分が生き残る為に優しくしているだけで、本当は君の事を大事なパートナーだなんてこれっぽっちも思っていないんじゃないかな」
「う…あ…うううう…!!」
「きっと彼は、今までの男と同じように、君を操って搾取しようとしているんだよ。このままだと君、彼に利用するだけ利用されて殺されちゃうよ」
俺は、言葉で誘導してダイナの中でのヘイジへの信頼関係を崩した。
するとダイナは、その場で膝をついて泣き始めた。
「何ですかそれ……私だって…嫌われないように、捨てられないようにって必死に頑張ってるのに…!何で私ばっかり嫌われなくちゃいけないんですかぁ…!!うわあああああん!!」
ダイナは、顔から汁という汁を垂れ流してボロボロ泣いた。
汚ねぇな。
「ひぐっ、えぐっ、ぐすっ…生きにくい…生きにくいですぅ…」
「いっぱいつらい思いをしてきたんだね」
「捨てられて殺されちゃうのはいやですぅ…私は…どうしたらいいんですかぁぁ…!」
「オレがいるから大丈夫だよ。オレが、君に本当のマークを教えてあげる。オレがダイナを、助けるから」
「エンジさん…」
そう言って俺がダイナの手を取ると、ダイナはとろんと蕩けた目を俺に向ける。
俺はダイナに、コトコにかけたのと同じ催眠をかけた。
俺の手にかかれば、
「ヘイジを信用しちゃダメだよ。奴は必ず君を裏切って殺そうとする。他の奴にマークを聞く必要もない。オレの言葉だけを信じるんだ」
俺は、何ターンにもわたってダイナに催眠をかけて、ヘイジとの信頼関係を薄れさせた。
いくら奴がこの露出女を懐柔していようが、俺の手にかかれば、この女を操って奴を殺させる事くらいわけはない。
せいぜい、この女を操れているつもりでいる自分に酔ってな。
「エンジさんは、わたしを捨てたりしないですよね…?」
「心配いらないよ。オレは、ダイナを捨てたりなんかしないから」
俺が催眠をかけると、ダイナは顔をだらしなく緩ませながら、俺の指先を口の中に入れて舐めた。
ぶん殴ってやりたかったが、全ては、ご機嫌な
バカ女との恋愛ごっこくらい、やってやるよ。
「ふふふ…好きです、エンジさぁん…」
「オレもだよ、ダイナ」
「わたしと、付き合ってくださぁい」
誰がお前みたいな頭の悪いドブスとなんか付き合うかよ。
男に媚び売る事しか能の無ぇビッチのくせに、捨てるとか捨てないとか重ぇよ。
お前はここで『げぇむおおばぁ』になって死ぬんだよ。
「残り6人…ここからは、誰がいつ裏切ってもおかしくない。このターンも、ヘイジは君に嘘のマークを教えてくるかもしれない。裏切られて殺される前に、奴に嘘のマークを教えるんだ。それしか、オレ達が生き残る道はないんだよ」
「ふあい…」
とうとう迎えた10ターン目。
生存者は、俺とバンダ、ヤバとコトコ、そしてヘイジとダイナの6人だけになった。
いよいよ、
「君のマークは、『
俺は、ダイナの首輪に表示された『
これでやっと、俺のご機嫌なミュージカルに乱入しやがった目障りな痴女が消える。
この時を、どれだけ待ち望んだ事か。
「えへへ…やっぱり、信頼できるのはエンジさんだけですね」
ダイナは、頬を染めてとろんとした目を俺に向けながら言った。
頭の悪い言動にはイライラさせられたが、元がバカだからか、殺人への抵抗が薄れるのはコトコより早かった。
時間をかけて催眠をかけ続けたら、たったの3ターンで殺人への抵抗が完全に消えた。
「エンジさん、わたしとキモチイイこといっぱいしましょうよぉ」
「…このターンが終わったらね」
「えへへへ…」
俺があたかもダイナの事を大事に思っているかのような演技をすると、ダイナは完全に俺を信じ込んで身体を擦り寄せてくる。
ジャージをはだけさせて胸や腹を見せつけてくるが、正直今すぐブチ殺したいとしか思わねぇ。
中身がスカスカだって事がわかってたら、こうも萎えるもんなんだな。
「それじゃあ、このターンでヘイジに嘘のマークを教えるんだよ」
「ふあい…」
ダイナに嘘のマークを教えられたヘイジと、俺の教えた嘘のマークを信じたダイナは、このターンで死ぬ。
じゃあな、ダイナ。
最期まで鬱陶しい女だったが、それなりに楽しませてもらったよ。
◆◆◆
???side
エンジに催眠をかけられたダイナは、一人でヘイジのいる『どくぼう』に戻っていた。
ダイナが『どくぼう』に入ると、ヘイジが口を開く。
「遅かったな。どこ行ってたんだ?」
「ちょっと…お手洗いに」
ヘイジが尋ねると、ダイナは目を逸らして誤魔化した。
するとその時、ヘイジが脇腹を押さえて痛がる。
「痛っ…」
「大丈夫ですか…?」
「麻酔なしで傷縫ったんだぞ…大丈夫なわけねぇだろ…バンダの野郎、本当にオレを刺しやがった…アイツ、絶対許さねぇ…!!」
ヘイジは、脇腹を押さえながら、バンダに刺された事を思い出して恨みを募らせた。
自分で傷の処置をしたからか、ヘイジの両手の指先は血で真っ赤に汚れていた。
ダイナは、痛みで脂汗をかくヘイジの手の上に自分の手を重ねて言った。
「それより、このターンも私達でマークを教え合いましょ」
ダイナが言うと、ヘイジは一瞬ピクッと目元を動かす。
だがすぐにため息をついて身体の力を抜いた。
ダイナは、エンジの催眠術によって記憶を一部失っているため、ヘイジの従順なパートナーとして振る舞っているが、潜在意識は既にエンジに支配されており、ヘイジを裏切るように仕込みをされていた。
ヘイジは、まさかダイナが自分を裏切るとは思ってもみなかった。
「…そうだな。じゃあオレが先に教えるよ」
「……はい」
ヘイジが言うと、ダイナはヘイジに背を向けてマークが見えるように髪をかき分ける。
ヘイジは、ダイナの首輪のディスプレイに表示された『
「ダイナのマークは、『
ヘイジが言うと、ダイナは髪をかき分けていた手を降ろした。
そして今度は、ダイナがヘイジの背後に回り込み、ヘイジの首輪のディスプレイを覗き込む。
「それじゃあ次は私がヘイジさんのマークを…ヘイジさんのマークは、『
ダイナは、ヘイジの首輪のディスプレイに表示された『
それを聞いたヘイジは、一言、ポツリと呟いた。
「……そうか。わかったよ」
◇◇◇
一方その頃、ダイナと同様にエンジに催眠を施されたコトコは、ヤバのもとに戻り、ヤバの従順なパートナーを演じていた。
残り時間が少なくなると、ヤバがコトコにマークを尋ねる。
「ではコトコ、私のマークを頼む」
「…はい、ヤバ様。あなたのマークは…『
コトコは、ヤバの首輪のディスプレイに表示された『
するとヤバは、自信満々に頷く。
「ウム!次はお前だ。首輪を見せろ」
「…はい」
ヤバが言うと、コトコは首輪のディスプレイが見えるように長い髪を掻き上げる。
ヤバは、コトコの首輪の首輪のディスプレイを覗き込んだ。
「お前の、マークは…」
◆◆◆
エンジside
ダイナとコトコに催眠をかけた俺は、バンダのところに戻った。
さっきの9ターン目、コイツはヘイジを刺して重傷を負わせた。
バンダもいつまでも続く千日手を望んじゃいないだろうし何かしでかすだろうとは思っていたが、あの野郎、本当に刺しやがった。
あの時は、『あーあ、とうとうコイツやっちまったな』って思ったよ。
まあこの異常者も、このターンで終わりだがな。
「とうとう…6人にまで減りましたね…」
「そうだね…僕らのどちらかが、『
…ここに来て、まだ主導権を主張する為の揺さぶりをかけてくるか。
最後まで…喰えない奴だ。
せいぜい、自分に酔ってな。
「じゃあ、僕から教えようか。君のマークは…『
『
コイツがこのターンで俺を殺そうと嘘を教えた可能性もある。
そんな事をしても無駄だとも知らずにな。
「では次はオレが、バンダさんのマークも、『
俺は、バンダの首輪に表示された『
完ッッッ璧だ!!
自分を支配者と疑わない男3人と、自分が操られている事にすら気付かない女2人!!
その全てを人知れず俺が支配する、完璧な
この達成感!!
優越感!!
充実感!!
高揚感!!
堪んねぇよなぁ!!
これだから『げぇむ』はやめられねぇんだ!!
こんなご機嫌な『
俺は、永遠にこの世界で『げぇむ』を楽しむ為に、『今際の国』の国民に
制限時間5分前まで1分を切り、全員が『どくぼう』に入室した。
上機嫌で3番目の『どくぼう』に入ると、扉がひとりでに閉まる。
《制限時間、5分前になりました》
ちなみに、実のところこの『げぇむ』には、端からお前ら『ぷれいやぁ』に勝ち目なんて無かったんだけどな!
何故なら…
俺は、前髪で隠していた右眼の瞼をこじ開け、中に仕込んでいた義眼を取り出す。
そのまま数秒経つと、義眼の表面にマークが浮かび上がる。
俺の首輪のマークと連動しているこの義眼モニターがあれば、間違えようが無いんだからな!!
義眼に浮かび上がったマークは、『
バンダが俺に教えたマークは、本当だった。
「マジで『
コイツは卑怯でも何でもないぜ。
『るうる』で貴金属の持ち込みを禁止されてるのは、『今際の国』の国民ではなく、『ぷれいやぁ』だけなんだ!
そもそも22人の中からたった1人生き残らなきゃならねぇ『
誰が
『るうる』を創ってんのは
俺は殺し合いの『
――何それ、ちっともカワイくない!先輩、いい加減そういうのやめた方がいいわよ。
一瞬、かつて俺を指差して文句を言ってきたアヤカの顔が脳裏に浮かんだ。
そういや、『ぷれいやぁ』と真剣に命の獲り合いをして早々に死んだバカがいたっけな。
アイツは、『大事なのは『げぇむ』に勝つ事じゃない』とかほざいてやがったが、負けは負けだろ。
真剣勝負に拘る奴ほど、呆気なく脱落する。
『
『
俺は、ああいうバカ共とは違う。
俺はな、自分さえ永遠に『げぇむ』を楽しめれば、それでいいんだよ。
《ロックされた5分の間に自分の首輪のマークを、口頭で当てて下さい》
「『
楽しい『
アンタら主演賞もんだったよ!
名残惜しいが、これにて閉幕…
早速俺の頭ん中は、次の『
《制限時間になりました。10ターン目の生存者は、6名中───5名》
……………は?
「オ…オイ、どうなってんだ…!?何かの間違い…」
俺が『どくぼう』から出て振り向くと、そこには、ヤバとバンダ、そしてヘイジとダイナが立っていた。
「あ…りえねぇ…何でお前らがまだ、生きてんだよォ!?」
『げぇむ』『どくぼう』
難易度『
11ターン目 残り5名
エンジ先輩の過去捏造回。
彼が義眼になった経緯を書いてみました。
原作ではどうしようもないズルをしてた彼ですが、『生きたい』という気持ちがあったからこそズルに逃げたり拷問にあっさり屈したりするあたり、絵札の主の中では一番人間臭いというか、元々は割と常人寄りの感性だったんじゃないかなって思ってます。
二次創作だと原作の9ターン目のヤバのダンナ並みの脳筋プレイでオリ主とチシヤを追い詰めるか、ダンナかバンダにお株を奪われてオリ主と一度も接点を持たずにフェードアウトするかの2パターンが多い(気がする)ので、催眠使えやとツッコまざるを得ないエンジ先輩。
ドラマだと、催眠療法士の設定がないから仕方ないんだろうか。