「ん……」
滞在二日目。
俺は、テントの中で目を覚ました。
…腹が減った。
何だか美味そうな匂いがするな。
俺は、空腹感を我慢できなくなり、テントを開けた。
外のローテーブルの上にはパックご飯と粉タイプの味噌汁、レトルトの惣菜が何種類か置いてあった。
そして今は、ちょうどニーナが惣菜を皿に盛り付けているところだ。
「あ…おはようございます」
「おはよう。えっと…それは?」
俺は、テーブルに並んだ惣菜に目を向ける。
するとニーナは、小さく早口で話す。
「あっ…朝ごはんです。あの…お腹空いてると思って…よかったらどうぞ」
「…ありがとう。いただきます」
俺は、ニーナが用意してくれた朝飯に箸をつけた。
…美味い。
出来合いのものだけど、今の俺からすれば十分御膳だ。
…ふう。
食った食った。
飯を食って腹が膨れた頃、俺はニーナに話しかける。
「なあ、ニーナ。話せたらでいいんだけど、教えてくれないか?ここに来るまでの事と、一昨日参加した『げぇむ』の事」
「…………」
俺が話しかけると、ニーナは暗い表情をして俯く。
「あっ、話せないなら無理に話さなくても…」
「…いえ、大丈夫です」
ニーナは、ここに来るまでの経緯をポツポツと話し始めた。
俺は、緊張しながらもその話を最後まで聞き続けた。
◆◆◆
ニーナside
「ちょっと何よこの点数!?こんな点取って恥ずかしくないの!?」
「……ごめんなさい」
ここに来る前の私は、いつも怒られて、謝ってばかりだった。
私のママは大学で教授をしていて、だからか私にもいつも勉強を強要してきた。
パパは私に無関心で、話しかけてもいつも何も答えてくれなかったから、最初から頼りにしてなかった。
「しっかりしてくれよ。姉ちゃんのせいで、オレが嫌々勉強させられんだぞ」
「ごめん…」
弟は、勉強のストレスを発散する為にいつも私に八つ当たりしてきた。
弟は私よりもずっと優秀だから、ママも弟の教育には一層力を入れていた。
多分、ママは私が不出来な事に焦って、せめて弟だけはいい大学に入らせようと必死だったんだと思う。
学校でも、根暗な私は誰にも相手にされなくて、いつも独りだった。
元の世界に、私の居場所なんて無かった。
『どこでもいいから、どこか知らない国に行ってみたい』と思ってしまった。
…だけど、それが間違いだった。
二日前。
今際の国に迷い込んでしまった私は、幸いにもすぐにこの世界の事をよく知る人に出会う事ができた。
その人…サトウさんは、私に『げぇむ』の事や、この国の事について教えてくれた。
私は、サトウさんと一緒に『げぇむ』に参加した。
「『げぇむ』の傾向は大体把握してる。二人で協力して『くりあ』を目指そう」
「はい…」
初めての『げぇむ』の会場は、小学校だった。
協力すればきっと生きて帰れる、この時まではそう思ってた。
「あれ?何だ人いんじゃん!」
「おっ、カワイコちゃんはっけーん!お嬢ちゃんどっから来たの?」
「ギャハハハ!バーカやめとけ!」
最初の『げぇむ』には、私達の他にも二人参加者がいた。
二人とも私と同じで、この日この世界に迷い込んだ初参加者だった。
サトウさんは、お気楽な様子の二人を見て、眉間に皺を寄せながら舌打ちをした。
「マジかよ…クソッ。まあ、誰もいないよりはマシだが…」
私は、不安を覚えつつも、校内に書かれた順路通りに『げぇむ』会場に向かった。
『げぇむ』会場の小学校には暗幕がかかっていて、ドアや窓には血痕が付いていておどろおどろしい雰囲気だった。
校舎の前には懐中電灯とお札が置かれていて、私達はそれを持って校舎に入った。
すると校舎の入り口に鍵がかかり、玄関に設置されていたモニターが光った。
ーーー
エントリー数 無制限
制限時間 15分
賞品 なし
難易度
ーーー
モニターに文字が現れると、サトウさんは安堵のため息をついた。
「『
「え…?」
「『
サトウさんは、私に『げぇむ』で生き残る方法を教えてくれた。
すると、他の二人も軽い感じで割り込んできた。
「なになに何の話してんだ?」
「オレらにも聞かせてちょ〜よ」
他の参加者二人が割り込んでくると、サトウさんが二人を睨みながら言い放った。
「…その様子だと、アンタらすぐ死ぬぞ」
サトウさんがそう言った直後、別のモニターが光った。
ーーー
げぇむ 『おばけやしき』
るうる
・制限時間内に『おばけやしき』から脱出すること
・『おばけやしき』には、皆様を食い殺そうとする恐ろしい『おばけ』がいます
『おばけ』に捕まらないよう注意すること
・所持品の持ち込みは自由
・参加者の皆様には一人三枚ずつ『おふだ』を差し上げます
・『おふだ』を使用すると、『おふだ』を使用した参加者は1分間『おばけ』を退ける事ができます
・一度使用した『おふだ』は消滅します
・制限時間内に『おばけやしき』から脱出できた参加者は『げぇむくりあ』
・参加者が全員『おばけ』に捕まれば『げぇむおおばぁ』
・制限時間内に『おばけやしき』から脱出できなければ『げぇむおおばぁ』
ーーー
モニターに『るうる』が表示されると、他の参加者二人はどっと笑い出した。
「ハハハハ!何だよ『おばけやしき』って!ガキの遊びじゃねーんだからよ!」
「つーか『げぇむおおばぁ』って何だよ?」
「お尻ペンペンとかかぁ?」
「ギャハハ!」
二人は、これが命懸けの『げぇむ』だという事をまだ理解できていないのか、お気楽な様子で笑っていた。
そんな二人を見て、サトウさんがため息をついた。
「バカな奴らだ。その程度で済むわけがないだろう」
サトウさんがそう言った直後、モニターの画面が切り替わった。
ーーー
『げぇむすたあと』
15:00
ーーー
画面が切り替わると同時に、カウントダウンが始まった。
「行くしかない…」
私達は、4人で『おばけやしき』の中を歩いていった。
サトウさんが懐中電灯で道を照らしながら前を歩き、その後ろを私達が歩いた。
「おぉっ、結構本格的じゃん」
「もしかしてビビってんの?」
「オメーこそ、ガキじゃあるめぇしションベン漏らすなよ〜」
後ろの二人は、お気楽そうに話していた。
すると、ちょうど私の後ろを歩いていた男の人が、私のお尻を触ってきた。
「きゃ…!?な、何するんですか!?」
「ワリーワリー、暗くて手が滑っちまった」
軽い感じで笑ってたけど、絶対わざとだ、と思った。
するとサトウさんが、後ろの二人を睨みながら地を這うような声で忠告した。
「おい…!死にたくなかったら、余計な事をするな」
「わ、悪かったって…」
サトウさんが凄むと、流石に後ろの二人もばつが悪くなったのか、それ以上ふざける事はなかった。
サトウさんは、正面を向き直して私達に話しかけた。
「この先何があるかわからない。気を引き締めておけ」
「……?」
私は、この時はまだサトウさんの言葉を理解できていなかった。
だけどその直後、状況が急変した。
サトウさんは、急に後ろを振り向いて叫んだ。
「っ!おい!伏せろ!」
「え?」
サトウさんが叫んだ、その直後だった。
後ろから、バキャッとスイカが割れるような音が響いた。
恐る恐る後ろを振り向くと、床に血が飛び散っていて、最後尾を歩いていた男の人が倒れていた。
その人は、頭が縦に真っ二つに割れて、頭の中身が飛び出していた。
そしてその人の近くには、ハロウィンの仮装みたいな白い布を被った大男が立っていて、その大男は血のついた鉈を握っていた。
その大男が、『るうる』の説明にあった『おばけ』だった。
「っ………!」
「ひぃいいいっ!!」
「…『げぇむおおばぁ』になったら死ぬ。これが『げぇむ』だ」
私と後ろの人が恐怖で震え上がっていると、サトウさんが言った。
するとその直後、『おばけ』と目が合ってしまった。
『おばけ』は、鉈を振りかぶりながら私達を追いかけてきた。
「ひっ…!」
私と後ろの人は、咄嗟に『おふだ』を使った。
すると『おばけ』は、私達を追いかけるのをやめてどこかへと消えていった。
私が使った『おふだ』は、すぐに塵になって消えてしまった。
「な、なんなんだよあれは…!?」
私達がパニックになっていると、物陰に隠れて『おばけ』をやり過ごしていたサトウさんが説明する。
「おそらく、アレが『おばけ』だ。『おばけ』に殺されれば『げぇむおおばぁ』。唯一の救いは、この『おふだ』だが…『おふだ』の効き目は1分間だけ。オレ達が使える『おふだ』は、合計で3分。おそらく3分でゴールできるような親切設計にはしてくれちゃいないだろう。『おふだ』はそう簡単にポンポン使えるものじゃないって事だ」
サトウさんは、物陰から出てくると、最初に死んだ人のポケットを漁りながら言った。
制限時間が15分という事は、攻略にそれだけかかるルートになっているに決まってる。
つまり、攻略にかかるほとんどの時間は、『おふだ』を使わずに鉈を持った殺人鬼の目を掻い潜って進まなきゃいけないって事になる。
そんな事できるわけがない、その時の私はそう思っていた。
「そんな…っ!そんなの、『くりあ』なんてできっこないじゃないですか!!」
「…いや、方法はある。あの『おばけ』は、頭から被ってる布のせいで視界が悪い。おそらく、懐中電灯の灯りを頼りに『ぷれいやぁ』を追いかけているんだ。懐中電灯をつけていなければ、暗闇に紛れられる」
「でも…明かりが無い状態で、どうやってこっから脱出すんだよ…?」
「だから既に『おふだ』を使ったキミ達がルートを探ってきてくれ。オレは後から行く」
サトウさんは、この『げぇむ』で生き残る為の作戦を私達に教えてくれた。
だけど、私のお尻を触ってきた人が、サトウさんに反論した。
「アンタはまだ『おふだ』を使ってねえから余裕ぶっこいていられるんだろ…!?オレはもう、あと2枚しか残ってねえんだぞ…!」
「いや、
そう言ってサトウさんは、『おふだ』を一枚ずつ私達に手渡してきた。
「この『おふだ』は…?」
「さっき死んだ男から拝借したものだ。『おふだ』の強奪や譲渡は、『るうる』で禁止されていない」
私は、サトウさんから貰った『おふだ』を受け取った。
私達は、サトウさんが考えた作戦通りに、少しずつ『おばけやしき』を進んだ。
サトウさんは、やっぱりこの国に長く滞在しているだけあって、命の危険が迫った状態でも冷静さを保っていた。
だけど途中で、例のセクハラ男が『おふだ』を全部使い切ってしまった。
「クソォ…チクショオオオオ!!!」
「あっ、おい!」
ヤケを起こしたセクハラ男は、泣き喚きながら『おばけやしき』を駆け抜けて、そのまま『おばけ』に捕まって殺された。
結局、私とサトウさんの二人になってしまった。
私達は、何とか二人で協力して『おばけやしき』を攻略した。
『もう少しでゴールに辿り着く』…そう思った私には、絶望が待ち受けていた。
ゴールの手前は赤くライトアップされていて、ゴールの手前には『おばけ』が三人待ち構えていた。
私達と『おばけ』の間には何の障害物も無くて、赤い照明のせいで懐中電灯を使わなくても『おばけ』から私達の位置が丸見えだった。
ここで『おふだ』を使わずにゴールするなんて、不可能に決まっていた。
だけどもう既に、私は『おふだ』を使い切ってしまっていた。
「さ、サトウさん…私……」
「これを使え」
絶望の表情を浮かべながら振り向くと、サトウさんは私に三枚の『おふだ』を渡してきた。
「サトウさん…あなた、まさか…!」
「ああ。ここまで一枚も使わなかった。こんな事もあろうかと思ってな」
「何で、私に…」
サトウさんに尋ねると、サトウさんはふぅっとため息をついてその場に腰を下ろした。
「…ひとつだけ、キミに謝らなきゃいけない事がある。オレは、キミに嘘をついた。本当は、生き残る為にこの『げぇむ』に参加したんじゃない。ここを死に場所にする為に『げぇむ』に参加したんだ」
そう言ってサトウさんは、シャツを捲ってお腹を見せた。
サトウさんのお腹に巻かれた包帯は、血で真っ赤に染まっていた。
きっと私と出会う前に『げぇむ』で怪我をしていて、走ったせいで傷口が開いたんだと思う。
「この傷じゃ、どのみちもう永くない。どうせ死ぬなら、オレの命を誰かに使ってほしかった。何の事はない、オレはただ、贅沢な自殺の方法に飛びついただけさ」
サトウさんは、私に『おふだ』を差し出しながら力無く微笑んだ。
私は、泣く泣くサトウさんの『おふだ』を使って、出口の前で待ち伏せしていた『おばけ』に『おふだ』を使った。
『おばけ』の横を走って素通りして、出口の扉を開けた。
「う…うぅ…!ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
私は、泣いてサトウさんに謝りながら『おばけやしき』を脱出した。
校舎の外に出て、非常階段を駆け降りている間も、涙が溢れて止まらなかった。
「っはぁ…はぁ……」
私が校舎を出て裏庭まで走り抜けると、どこからかアナウンスが鳴った。
《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》
学校の裏庭にぽつんと置かれた机にはレジが置いてあって、レジから私の『びざ』と♣︎のAのトランプが発行された。
「う…うぅ…うぁああぁああああ…!!」
初めての『げぇむ』を『くりあ』した私は、日付が変わるまで泣き続けた。
◆◆◆
ヘイジside
そこでニーナの話は終わった。
「そうか…そんな事が…」
「…私は、サトウさんの犠牲の上で今生きてるんです。私は弱いから、そうでもしなきゃ生きられなかった。こんな人間に、生き延びる資格なんかないですよね…」
ニーナは、サトウさんを見殺しにして自分だけ生き残った事をいまだに悔いているようだった。
俺は、ニーナが自分を責めるのを見ていられなかった。
「サトウさんは…きっと、嬉しかったんだと思うよ。最期にキミを生かす事ができて。キミは、その場で最善の選択をしたんだ」
「……ありがとうございます」
俺がニーナを慰めると、ニーナはしきりに涙を拭いた。
「…それに、オレだって似たようなもんだよ。努力は報われなくて、信じてたものに裏切られて、生きる意味なんてとっくに失くしてた。でも、この世界に来て気付いたんだ。オレは今まで、何となく流されてきただけだった。『今日死ぬかもしれない』と思って必死に生きた事がなかったんだって。オレ、ここに来る前彼女にフラれたんだけど、何て言ってフラれたと思う?『ヘイジ君は真面目で優しいけど、ただそれだけ』、だってよ」
「いいと思います…!」
俺が自分の話をすると、ニーナが食い気味に言った。
「『真面目で優しい』…それって、すごく素敵な事だと思います」
ニーナは、恥ずかしそうに、けれどもハッキリと言った。
そう言われると…何か嬉しいな。
ニーナの話を聞けたし、俺も話して少しスッキリしたし、そろそろ行くか。
「よし、じゃあ行くか」
「行くって…どこに?」
「昼飯探しに行くんだよ。朝はニーナに用意してもらったし、昼飯はオレが探してくるのが筋だろ?」
俺は、デパートの中を移動して食えそうなものを探した。
俺が見つけたのは、レスキューフーズが入った段ボール箱だ。
俺とニーナは、その日の昼は箱に入っていたカレーを食った。
その後は、二人で近辺を探索して情報を集めた。
日が暮れかけた頃、別行動を取っていたニーナが興奮した様子で駆けつけてくる。
「ヘイジさん!来てください!すごいものを発見しました!」
そう言ってニーナが連れてきたのは、デパートの屋上だった。
屋上には小さなプールが設置されていて、そこには水が溜まっていた。
「プール…!?」
「はい!これで身体洗えますよ!」
ニーナは、いつになく興奮した様子で言った。
…何というか、こんなに笑うとこ初めて見たかもな。
「ははっ」
「?どうかしましたか?」
「いや…ニーナってそんなに明るく笑えるんだって思って」
俺が思わず笑みをこぼしながら言うと、ニーナはぽかんとした表情を浮かべる。
そして頬と耳を赤くして両手で頬を覆った。
「…そんな事、初めて言われました」
ニーナが恥ずかしそうに小さな声で言うので、微笑ましい光景に、俺はさらに笑ってしまった。
…それにしても、プールか。
これで水も確保できたし、しばらくは生活には困らなさそうだな。
雨でも降ってくれれば、もっと水が確保できるんだけど…というかこの世界って、雨は降るのか?
「ヘイジさん。私、少し身体を洗いたいので…先に仮宿に戻っていてくれませんか?」
「あっ…う、うん」
ニーナは、プールの水を手で掬いながら言うので、俺はアウトドアショップに戻った。
ニーナが身体を洗っている間、俺はこの日の晩飯を調達した。
そうして、今日もまた日付が変わる。
窓の外を見ると、何十本もの赤いレーザーが空から降り注いでいた。
「またレーザー…」
「これ、全部『びざ』切れか…この国に人ってどれくらいいるんだろうな」
ニーナと俺は、次々と降り注ぐレーザーを眺めながら呟いた。
俺とニーナの『びざ』は、あと2日で切れる。
あと2日で『げぇむ』を『くりあ』できなきゃ、俺達もああなるんだ。
「いつまで、こんな事続ければいいんでしょうか…」
「…わからない。でも今はただ、生き延びる事だけを考えよう」
この地獄がいつまで続くのかはわからない。
それでも、生きなきゃ…生きてさえいれば、きっといつかは『答え』が見つかるはずだ。
◇◇◇
滞在三日目。
俺とニーナは、街を探索してこの国についての情報を集めながら、使えそうなものを調達した。
今際の国や『げぇむ』についての情報を集めながら、この前の『げぇむ』で助けてくれたイバラの事も聞いてみた。
古参の滞在者にもかかわらず、俺が会った人達は誰もイバラの事を見た事すらないと言っていた。
だけどいい事もあった。
たまたまちょうど狩りをしていた滞在者に遭遇し、捕まえた鳩と採ってきた薬草を分けてくれたのだ。
「あっ、おかえりなさ…どうしたんですか、それ」
俺が仮宿に戻ると、ニーナが俺の持っているビニール袋を指差す。
ビニール袋の中には、俺が他の滞在者からお裾分けしてもらった鳩が入っている。
「さっきたまたま他の滞在者に遭ったんだ。それで、食い物を少し分けてもらってよ」
俺は、絞めてからまだ時間が経っていない鳩をニーナに見せた。
するとニーナは、キョトンとした表情を浮かべながら尋ねる。
「……鳩ってどうやって食べるんですか?」
「オレもわかんねえ」
…うん。
貰っておいて何だけど、俺も捌き方知らねえんだわ。
そもそも鳩を食った事なんか無いし。
「あの…私、参考になりそうな本集めてきますね」
「あ、うん。頼む」
俺は、ニーナにかき集めてもらった本の内容を頼りに、ニーナと二人がかりで鳩を捌いた。
最初は血の匂いや臓物の見た目で気持ち悪くなって吐きそうになったが、何とか一羽を捌き終えた。
「うぇっ…やっぱり、無理にでもイバラさんのところに行けば良かったかな」
「そうですね…」
「あの人、今頃どうしてんのかな」
「イバラさん、生きてるといいですね」
俺とニーナは、鳩を捌きながら、イバラの事を思い出した。
何だかんだであの人にも命を救われたし、この世界の事を色々教えてくれたからな。
…まあ強かなあの人の事だから、死んじゃいないだろうけど。
「…でも、この世界で生きていくには、人に頼ってばかりじゃダメだ。自分で生きていけるようにならないと」
「そう…ですね…」
俺が言うと、ニーナは暗い表情を浮かべて俯く。
…少し厳しい事を言いすぎただろうか。
「と、とりあえず、まずは食べよう!ほら、肉は鮮度が命だから」
「は、はい…!」
俺とニーナは、他の滞在者から貰った鳩肉や薬草を米と一緒にスープで煮込んで粥を作った。
久しぶりの新鮮な食い物だからか、それとも初めて料理らしい料理をしたからか、素人程度の出来栄えのはずなのに普段の食事より心なしか美味く感じた。
その後、俺は屋上のプールに水を汲みに行った。
「水、水〜っと…」
「〜♪」
水を汲みに屋上へ行くと、ニーナがプールの近くで水浴びをしていた。
俺は咄嗟にニーナから目を逸らしながら物陰に隠れた。
「あっ、ご、ごめん!!」
「い、いえ…私も、水浴びしてるって伝えてなかったので…」
ニーナがそう言うと、俺は逃げるように仮宿に戻った。
どこがとは言わないが…思ったよりデカかったな。
ひょっとして着痩せするタイプなのか?
って、何考えてんだ俺は。
キモすぎんだろ…
でも、何か元の世界にいた時より幸せだな。
このまま、ずっとこうやって過ごしていけたらいいんだけどな。
「…とりあえず、これからどうするか考えねえとな」
◇◇◇
その日の夜、ニーナと交代で見張りをしていた俺は、自分のテントに戻って眠った。
すると横になってから数分が経った頃、誰かが俺のテントに入ってくる。
まさか物盗りか…!?
そう思って咄嗟に武器を手に取ろうとすると、侵入者は俺の上に跨って胸元のボタンを開けた。
テントの中に入ってきたのは、ニーナだった。
「に、ニーナ!?何をして…」
俺が大きな声を出しそうになると、ニーナは俺にキスをしてくる。
俺の顔を覗き込むニーナの顔は、暗がりでもわかるほどに紅潮していた。
「ヘイジさん。明日、『げぇむ』の日ですよね。そろそろ
「な、何言ってんだよ…」
「ヘイジさん、本当はずっと我慢してるんでしょ。私に気を遣って一人でしてるの、知ってますよ」
ニーナは、上着を脱ぎながら言った。
バレないようにしてたつもりだったんだけど…年頃の女子って、何でそういうの鋭いんだろう。
「私、あなたに恩返しがしたいって言ったでしょ?私…弱くてトロいから、こんな事くらいしかできないけど…ヘイジさんの役に立ちたいんです」
「ダメだ!オレには恋人が─」
…そうだった。
もう佳奈は、彼女じゃないんだった。
そういう事をするのは結婚してからだと思ってたから、アイツと身体の関係を持った事は一度もない。
アイツが彰人と二股してるのを知った時はカッとなって勢いでバイトを辞めちまったけど、今思えばアイツにそういう堅苦しい考えを押し付けていた俺にも原因があったのかもしれない。
『真面目で優しいだけの奴』なんて言われるのも無理はない。
「…いや、もう恋人はいないんだった」
「だったら…」
「でも、ダメだ。キミを傷つけたくない。そういうのは、本当に好きな人とするべきだ…と思う」
俺は、自分の考えをニーナに伝えた。
俺だって、ニーナの事が嫌いなわけじゃない。
正直、そういう目で見てるんじゃないかって聞かれたら、否定はできない。
だけど、ニーナは大事な仲間だ。
俺の欲望の捌け口じゃない。
「…ヘイジさん。私が『げぇむ』を『くりあ』した時、『ありがとう』って言ってくれましたよね。私ね、嬉しかったんです。人から感謝された事なんて、なかったから…多分、好きなんだと思います。あなたの事が」
…えっ?
待って。
急展開なんだが!?
この子、俺の事そんな風に思ってたのか…
嬉しいけど、何というか…複雑な気分だ。
こんなに可愛くて優しい子が、俺なんかを好きになって本当にいいんだろうか。
「…変ですよね。この国に来てから、人がたくさん死んで、私だって『げぇむ』で死にかけたのに…私、今とても幸せなんです。あなたと過ごす時間が、人生で一番幸せ」
「ニーナ…」
「ヘイジさん。私の事……好き?」
ニーナは、服を脱ぎながら俺に尋ねる。
初めて見る女性の身体に、思わず目を奪われる。
ニーナは小柄だが、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、抜群のプロポーションをしている。
正直、こんなのを見せられて興奮しない男なんていないと思う。
…俺は最低だ。
大事な仲間に対して、俺を慕ってくれているニーナに対して、欲情している自分がいる。
ニーナに迫られて、俺の身体の一部は見事に盛り上がってしまった。
天使のようなこの子を、穢して俺のものにしてやりたくなった。
「オレも好きだ…ニーナ…!」
「あっ、ヘイジさん…!」
俺は、ニーナの肩を掴んで押し倒し、唇を奪った。
佳奈とした事がある触れるだけのキスじゃなく、舌を絡め合う大人のキス。
最初は戸惑っていたニーナも、俺の背中に手を回して応じてくれた。
たっぷりと舌を絡めてから唇を離すと、銀糸が伝う。
「ニーナ…すごく綺麗だ…オレにはもったいないよ」
「ヘイジさんだから良いんです」
そのまま俺は、俺の手垢か唾液がついてないところがないんじゃないかってくらいにニーナの身体を愛で、ニーナを抱いた。
最初は痛がっていたニーナも、慣れてくると身体を弓なりに仰け反らせて嬌声を上げた。
俺達が身体を重ね合っている間にも、日付が変わり空からレーザーが降り注ぐ。
人がゴミのように死んでいく狂った世界の中で、俺は女の温もりを感じながら絶頂に達した。
◇◇◇
滞在四日目。
「……怠い」
…はい。
無事童貞卒業しました。
ニーナも処女でした。
これでお互い
昨日張り切りすぎて身体は少し怠いけど、気分は快調だ。
「黄色…くはないな。別に」
よくそういう事をした翌朝は太陽が黄色く見えるっていうが、いつも通りの白にしか見えない。
…というか、眩しいな。
「うぅん……」
俺のテントの中では、毛布一枚だけを羽織ったニーナが寝ていた。
昨日やりすぎてグロッキーになっている。
下に敷いた毛布についた血や、散らばった二人分の服が何とも生々しい。
いくら溜まってたとはいえ、自分の性欲の強さに我ながら引いている。
今日は『げぇむ』に参加するってのに、何無理させてんだ俺。
それと、心配なのが……
「……ごめん。その…中に出しちまって」
俺は、中に出してしまった事をニーナに謝罪した。
ニーナに促されるまま
するとニーナは、服を着ながらふるふると首を横に振る。
「…気にしなくて大丈夫です」
「いや、気にするだろ…」
「私はきっと、この世界では長く生きられないから」
「え…?」
「前の『げぇむ』ですら生き延びるのに必死だったのに…あれ以上難易度が上がったら、多分私はもう生き残れません。私は、この世界で生きていくには弱すぎる」
「ニーナ…」
「…でも、良いんです。最期に、この世界には優しい人もいるんだって事を知れたから」
ニーナは、目に涙を浮かべながら言った。
守ってやらなきゃと思った。
俺は、後ろからニーナを抱きしめた。
「最期なんて言うな。二人で、一緒に生き延びる方法を考えよう」
「…ありがとう、ございます」
俺がニーナを抱きしめながら言うと、ニーナはほんのりと顔を赤らめて俺の手の甲に自分の手を重ねる。
…何か、こうやって触れ合ってるとまた滾ってきたな。
「…朝飯の前にもう一回……」
「まだやるんですか!?」
俺が言うと、ニーナは目を丸くする。
「うまく歩けない…」
「……ホントごめん」
ニーナがTシャツの裾を引っ張りながら生々しい事を言うと、俺は気まずさのあまり頭を掻いて謝った。
俺は、ニーナが持ってきてくれた缶詰や保存食で朝食を作って、遅めの朝飯を食った。
「これからどうしましょうか…」
「とりあえず、今日の『げぇむ』には参加しようぜ。この世界で生き延びる為には『げぇむ』に慣れる必要があるだろ?どのみち参加しないと『びざ』が切れるし」
「………」
俺が言うと、ニーナは不安そうに俯く。
「どうした?」
「あの…イバラさんが言ってた事なんですけど、限られた席数を巡って殺し合う『げぇむ』もあるって…もし殺し合いの『げぇむ』だったらって思うと私…」
ああ、そういえばイバラがそんな事を言ってたな。
だから俺達とは一緒に行動しないとも言ってたけど…
でも、もしそういう『げぇむ』に当たってしまったとしても、俺としては大した問題じゃない。
「その時は、オレが『げぇむ』を降りる」
「え…?」
「もし一人しか生き残れない『るうる』なら、オレは生き残る権利をニーナに譲る。生き残るべきなのは、どう考えてもオレじゃねぇよ」
「そんなのダメです!」
俺が言うと、ニーナが身を乗り出して食い気味に反対した。
「私…ヘイジさんがいなくなったら、一人じゃ生きていけないです」
ニーナは、目に涙を浮かべながら言った。
…しまった。
また悲しい顔をさせてしまった。
「…ごめん。変な事言った。もしそうなったら、最後まで二人で生き残る方法を探そう。それでダメなら、その時はその時だ」
「そう、ですね……あ、でも…もし今日の『げぇむ』が『
「それについては、オレに考えがある」
そう言って俺が持ってきたのは、アウトドア用の服やリュック、それからサバイバルグッズだ。
「よし、これだけ揃えれば十分だろ」
「あの、これは…?」
「昨日、イバラが言ってただろ?『
そう言って俺は、ニーナが使えそうな武器を見繕ってニーナに投げ渡した。
正直、たった数日で『
俺は早速、アウトドア用の服装に着替えた。
するとしばらくして、着替え終わったニーナが顔を出す。
「…あの。どうですか?これ…」
ニーナは、恥ずかしそうに俺の前に立った。
長い髪を高い位置でポニーテールにしていて、タンクトップとカーゴパンツを身につけている。
可愛らしさは残したまま、そこに凛々しさを足したような印象だ。
「うん、様になってるよ」
「えへへ…」
俺が言うと、ニーナは照れ臭そうに頬を掻く。
…大丈夫。
今度の『げぇむ』も、きっと二人で生き残れる。
そして、日没。
「…行こう」
「はい…」
俺が手を差し出すと、ニーナは頬を赤らめて俺の手を取る。
俺とニーナは、手を繋いで一緒に『げぇむ』会場に向かった。
───今際の国滞在四日目
残り滞在可能日数
北句平治 1日
伏木仁菜 1日