Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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【番外編その4】だいやのきんぐ(2)

チシヤside

 

《脱落者が1人出た事により、新『るうる』を1つ追加します。追加『るうる』。『0』を選択した方がいる場合に限り、『100』を選択した方が勝者。1、11回戦と同様、新『るうる』の理解の為に、13回戦の制限時間は5分とします。それでは、13回戦を開始します》

 

 『るうる』の説明が終わると、タイマーが動き出した。

 

「最後は…随分シンプルな『げぇむ』になったもんだね…これで実質この『げぇむ』は、『0』と『1』と『100』のジャンケンになったわけだ。もう『2』〜『99』を選ぶメリットはどこにもないもんね。まあ、2人になった時点で、リードしてるアンタが『0』を選び続けたら勝っちゃうから、当然の追加『るうる』だよね。けれど公平な3択勝負とはいえ、『げぇむおおばぁ』まで1手のオレは、一度の()()()も許されない…これって結構、ピンチじゃん♪」

 

 俺が話をしている間にも、30秒が過ぎた。

 制限時間はまだ、4分以上ある。

 …そろそろ、知っておきたいよね。

 何が『♢K(アンタ)』を、そこまで公平に拘らせるのか。

 

「しかしなんだね、流石に最終局面のこの2人に、ただのジャンケンで5分は長いんじゃない?公平、公平…って、そろそろ押し付けがましくてうるさいよ…何がアンタを、そこまでさせるのかな…?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クズリューside

 

 3年前。

 私は、アメリカのエリート弁護団に所属していた。

 私はそこで、企業の発展の為に尽力するつもりでいた。

 だが待ち受けていたのは、目を背けたくなるような残酷で理不尽な現実だった。

 

 発展途上国にある企業の工場が排出した汚染物質による環境被害について、私は現状の和解額では原住民を納得させる事は難しいと顧客に報告した。

 だが彼は、シラを切り通せばいいと指示を出してきた。

 さらには同僚からも、どうせ被害者には金も気力も無いのだから、わざわざ相手にしなくていいと告げられた。

 

 その同僚は、国や法を管理するには、強者と弱者がいて当然だと語っていた。

 さらには、自分や私のような強者側の人間は、弱者の負け惜しみに耳を貸す必要など無いとも言っていた。

 私は、目の前の階段を駆け上がる事に必死で、自分が強者側だという事を自覚した事すらなかった。

 

 全ての人間が豊かになれるとは思わないが、正体不明の罪悪感は何だ…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「私達の、暮らしていた社会の人間の多くは…1億円の手術で難病の我が子を助けたい両親の訴えを美談と称し、多額の寄付をする一方で、100円の予防注射で地球の裏にいる子供を救えるキャンペーンには目もくれない…この命の差は?救うに値する命と、そうでない命は、メディア次第…ただ、それだけの事なのか…?」

 

 私が疑問を口にすると、チシヤは俯きながら答える。

 

「さあ…どうだろうね…オレは多分、どっちも無視しちゃうだろうから…けど仮に、その1億円で、100円の予防注射を100万本用意できたとして、どの100万人を救う?1000万人がその注射を待ってたら、()()100万人を救うんだい?皆は救えない。やっぱり、平等にってのは無理なんじゃない?それとも、アンタには決められるってのかい?」

 

「…わからない。私にはもう、何を決めればいいのかも…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 私の弁護していた企業に訴訟をしようとしていた原告団は、訴訟を取り下げた。

 企業の被援助国の政府に脅しをかけ、原告団が訴訟を取り下げるよう仕向けさせたのだ。

 顧客は、司法とは、弱者を強者から守る為に存在するのではなく、強者が弱者から都合よく搾取するシステムを維持する為に存在するのだと語っていた。

 貴族にあらずんば人にあらず。

 それが、彼が口癖のように言っていた言葉だった。

 

 私がアメリカで出会った強者側の人達は皆、自分が弱者から搾取する事を、もっともらしい言葉で正当化した。

 私は彼等の持論を聞いているうちに、命の価値を決める事に疲れ、日本への帰国を決意した。

 私が『今際の国』に迷い込んだのは、丁度帰国した日の事だった。

 

 

 

「あ、そうそう。アメリカといえば、モンゴロイド(黄色い猿)の分際で調子に乗って、いじめられてドロップアウトした社会不適合者がここにいますけどね。貧富どころか肌の色で態度変えるような奴等が、命の価値が同じだなんて考えるわけないじゃん」

 

 私と同じ『(だいや)』の絵札の主になったヒミコは、呆れたようにため息をつきながら言った。

 彼女は元の世界で、幼くしてその身に余る理不尽を受けて生きてきた。

 元の世界で被害者だったからこそ、彼女はこの国で加害者側に回る事を選んだ。

 私には、彼女の選択を責める事はできなかった。

 

「言っとくけど、私はあなたの考えを、できるだけ尊重したいと思ってるから。それだけは、覚えておいてほしいな」

 

 どうにもならない現実に、私が辟易していると、ヒミコはいつになく神妙な面持ちで言った。

 …思えば、同じ『今際の国』の国民の中で、私の個人的な相談に一番真剣に向き合ってくれたのは、彼女だった。

 彼女は、人の命は平等じゃないと言っていたが…死の間際にも、同じ事を思ったんだろうか。

 

 

 

「オレァよ…元の世界で、関わってもない医療ミスの責任を取らされて、医師免許を剥奪されたんだよ。裁判官も弁護士も金で買収されてたから、裁判で勝ち目なんかなかった。その上妹を殺されかけて、加害者は金と権力で警察を味方につけて、自殺未遂って事にしやがった。貧乏人が調子に乗ったから、杭を打たれたのさ。元の世界に、『平等』なんてものはどこにも無かった。…いや、それは…この国も同じかな」

 

「……何?」

 

「この国に来て初めて参加した『げぇむ』を、他の参加者を皆殺しにして『くりあ』したんだ。オレただ1人が生き残る為だけに、9人死んだ。まだ若い女の子もいた。なぁ…教えてくれよ、弁護士さんよ。命の価値が皆同じだってんならよ…未来ある若者を9人殺したオレが、何で今ものうのうと生きてやがる?……賢いアンタなら、本当はとっくにわかってるんだろう?『公平』、『公正』、『平等』…そんなもんは、この世のどこにもねぇんだよ」

 

 新たに『ビーチ』に来た元医者の男…クリハラは、項垂れて言った。

 ヒミコも、クリハラも、元の世界で知能の高さを妬まれて搾取され、心が摩り切れた。

 かつての世界で不平等に苦しめられた者達が、受けた苦痛を和らげる為にこの国での不平等を肯定する矛盾に、私はまた、命の価値がわからなくなった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「何を決めていいのかもわからない…か。そっか、つまりアンタは…命の価値がわからないんじゃなく、命の価値を自分で決められないんだ。それならいっそ『今際の国』の国民になって、『♢K(だいやのきんぐ)』としてここで永遠に『げぇむ』に参加し続けてしまえ、とでも思った?自分じゃ決められないから、いっそ『げぇむ』というシステムにその判断を委ねれば、いずれはその苦痛も麻痺するかもしれないと願った?敬服せずにはいられないよ、あまりの青臭さと頭の悪さに」

 

 チシヤは眉間に皺を寄せながら言った。

 

「もしも仮に、仮定の話に過ぎないが…命の価値なんてものがあるとしたら、そんなものは、それぞれが勝手に決めてりゃいいのさ。大企業は経済効果で決めればいいし、生命保険会社は生涯賃金で決めればいい。ヒューマニストは女子供を優先すれば良いし、損害賠償は遺族と世論が納得する額で手を打てばいい。アンタにとっては世界が滅んででも生かしたい価値のある命があるかもしれないし、他の誰かにとってはその命は道端のゴミ以下の無価値なものかもしれない。命の価値なんてものは自分が勝手に決めればいい。誰もがそうしてるし、オレもそうしてる。自分が感じた事を絶対的な価値だと勘違いして、その価値基準の違いを、いい歳した大人がいちいち人に押し付けるなよ。平等だなんだと拘って、本当は…アンタが一番、人の命に優劣をつけたがってるんじゃないのか?」

 

 私が一番、命に優劣をつけたがっている…か。

 違う…私は……

 

「ハ…ハハ…やっと、出会えたじゃん…アンタ、面白いね♪オレは、アンタと『げぇむ』をする為に、この『今際の国』に来たのかもしれないね。子供のように、なんで?なんで?を繰り返すアンタに…オレがささやかな手助けをしてやるよ」

 

 そう言ってチシヤは、タブレットを操作して私に見せた。

 チシヤのタブレットには、『100』と表示されていた。

 

「…な、何の…つもりだ…!?」

 

「ここに…死に向かって突き進む命がある。この命に価値があるのか?ないのか?アンタが()()()決めてみなよ♪」

 

 そう言ってチシヤは、不敵な笑みを浮かべた。

 この男、一体何を考えている…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 66日前。

 私は、『ぷれいやぁ』のフリをして、『今際の国』を巡回していた。

 特定の『ぷれいやぁ』に動きがあれば、その『ぷれいやぁ』を監視する為だ。

 私がボラードの上に座って休憩していると、ある男が声をかけてくる。

 

「やあ。今日も、暑いね…」

 

 私に話しかけてきたのは、後の『ビーチ』幹部No.5となる男、マヒルだ。

 マヒルは、私の隣に立って口を開く。

 

「『今際の国』に来て、永いのかい?」

 

「まぁ…そうかな」

 

「僕はまだ3日目なんだ。自分なんてものを探し回っているうちに、気付けばこんな世界に迷い込んでしまったよ…それとも、このどうしようもない場所に、『答え』が待ってたりするのかな…?」

 

「さあ…どうかな…私もまだ、探し物の途中だから…」

 

 蝉の声を聴きながら、私がマヒルの言葉に答えた、その時だった。

 後ろから、足音が聴こえてくる。

 

「逆境に、屈する必要なんかねーぞ!!」

 

 そう声をかけられて振り向くと、かつての『ビーチ』の王、ボーシヤが立っていた。

 その後ろには、アグニ、ニラギ、アンの3人が立っていた。

 ボーシヤは、私とマヒルに手を差し伸べてくる。

 

「『今際の国(ここ)』に希望がないなら、テメェ自身で創ればいい!オレ達に、ついて来い!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 チシヤは、『100』と表示されたタブレットの画面を私に見せてきた。

 

「ここに…死に向かって突き進む命がある。この命に価値があるのか?ないのか?アンタが()()()決めてみなよ♪」

 

 こ…の男…

 正気なのか…!?

 

 先に『100』を選んだ以上、私が『0』を選ぶ他、生き延びる道はないというのに…

 これを…この私に、決めろだと…?

 

 決めるまでもない。

 国民になった以上、私はその決定を、この国の『げぇむ』の『るうる』に委ねてきた。

 『るうる(それ)』は現状、この世界における唯一の『法』と『秩序』に他ならないからだ。

 彼は自らの意思でこの『げぇむ』に参加した。

 途中棄権など認められていない『げぇむ』の最中に、彼が生きる意思を放棄しようと、私はこの国の『るうる』に則り、勝ちを選択するだけの事。

 

 …何の、為に。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 65日前。

 私は『でぃいらぁ』用の管理室で、ミラとイバラの2人に、ボーシヤが話していた『ビーチ』の話をした。

 

「『ビーチ』…?」

 

「日中、接触した『ぷれいやぁ』の1人が言ったんだ…『今際の国(ここ)』に絶望しかなければ、自分達の手で『理想郷(ビーチ)』を創ればいいと…しばらく…『ぷれいやぁ』を装い、彼らに付き合ってみようと思う。興味があるんだ…」

 

 私は、『ビーチ』に潜入する事を2人に相談した。

 私は、ボーシヤ達が創る『理想郷』に興味があった。

 するとイバラが、クスッと笑いながら話しかける。

 

「確かに…潜入してみる価値はありそうですね。ただ…普段から遊んでいる私が言うのもなんですけれど…『げぇむ』の運営はどうするんです?この様子だと、絵札以外の全ての『げぇむ』が『くりあ』されるのも時間の問題じゃなくって?」

 

「もちろんその間も、国民としての義務を怠るつもりはない。頃合いを見て、『ねくすとすてぇじ』が始まる前には、彼等の元から姿を消すつもりだ」

 

「おもしろ…そうね。私も、同行していいかしら♡」

 

 イバラの質問に私が答えると、ミラが笑顔を浮かべながら言った。

 それを見て、イバラは少し考えてから口を開く。

 

「ミラさんが行くなら、私も…と言いたいところですけど、今回は遠慮しときます」

 

「あら、珍しいわね」

 

()()()を放って潜入するわけにもいきませんし…それにこんなオバサンが混じったら、皆ビビってしまうでしょう?」

 

 イバラは、髪を掻き上げて耳にかけながら、八重歯を見せて笑った。

 私は、ミラと2人で『ビーチ』に潜入する事にした。

 ミラの事は、私が偶然遭遇し成り行きで行動を共にする事になったという体で、彼女をボーシヤに紹介し、共に『ビーチ』の一員となった。

 

 そして、59日前。

 私は、ボーシヤとアグニが、大量のプロパンガスのボンベをホテル内に運び込んでいるのを見た。

 

「夜通し…運んだのか…!?」

 

「流石に肩が外れそうだ!そろそろ車を直せる整備士を探さねーとな!川のポンプも発電機もうまく動いてるし順調だが、人も増えてきたし…ここの全員が資源を気にせずジャンジャン使えるようになるには、まだまだ踏ん張らねーとな!」

 

「…何故、そこまでする…?」

 

 私には、理解できなかった。

 何故ボーシヤが、そこまでして快適な理想郷を創る事に拘るのかが。

 私が尋ねると、ボーシヤは笑顔を浮かべながら言った。

 

「大勢で楽しく騒いでんのが好きなんだ。きっと、根が寂しがり屋なんだよ。こんなロクでもねぇ世界で生きてんだ。理想まで捨てたらおしまいだべ!」

 

「理想…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《制限時間になりました。13回戦の結果を発表します》

 

 私は、最後まで迷った挙句、『0』を選んだ。

 私には、チシヤを…彼をここで殺す事はできなかった。

 ここで勝ったところで…そんなのは、公平でも何でもない。

 

《『0』に対して『100』を選択した参加者がいるため、追加『るうる』により、勝者、チシヤ様》

 

 チシヤが勝った事で、私は1ポイント減点となった。

 これで私と彼の点差は、1点差にまで縮んだ。

 

「それがアンタの選択か。オレを生かす事に決めたのかい?」

 

「こんなやり方は、私の本意とするところではない…決着は、あくまで『げぇむ』で公平につけよう…」

 

《14回戦を、開始します》

 

「公平ねぇ…どこまでも、その言葉が好きなんだね。アンタが自分で決める気が無いのなら、さっさと殺せばいい。それが()()な『るうる』だろ?」

 

 そう言ってチシヤは、また『100』を選んで私にタブレットを見せてきた。

 

「…二度も茶番に、付き合う気はないぞ…!」

 

 私は、何を躊躇っているのだ…!?

 彼が死を望もうが、好きにすればいい。

 私は『るうる』に則り、自分が生き残れば…

 

「…………」

 

 …私は、彼を殺してまで生きるべきなのだろうか…?

 それとも、自分の命に代えてまで、彼を生かすべきなのだろうか…?

 私は永住権を手に入れて、『今際の国』の国民になった時点で、いずれは『げぇむ』で命を落とす身…

 自らの選択で、自分の命を捨てたのだ…

 しかしそれは、他人の決断に自分の命を委ねた彼も同じ…

 そんな私達のどちらかに…生きる価値などがあるのだろうか…?

 

 この思考は、今までの堂々巡りだ…

 私に問われているのは、生きるべき、死ぬべき人間を決める事ではないのか…?

 

 私は一体…何を…決めればいい…?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 28日前。

 私は、キューマが作った『げぇむ』に参加した。

 『げぇむ』は、『らんなうぇい』。難易度『♣︎4(くらぶのよん)』。

 スタート地点からすぐ近くのバスが『ごおる』。

 怪我人に扮した『でぃいらぁ』を見捨てなかった『ぷれいやぁ』だけが『くりあ』できる『げぇむ』だった。

 

 キューマは、自分の作る『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』は皆で助け合って『くりあ』する『げぇむ』でありたいと語っていた。

 私は、もしこの国にまだ、自分が死ぬリスクを冒してまで、敵かもしれない私を見捨てない『ぷれいやぁ』がいるのだとしたら、その人間と話がしたかった。

 

 結局、1人の女性だけは、私を見捨てずに『げぇむくりあ』した。

 彼女は、私を見捨てて生き延びるくらいなら、たとえ命を落としたとしても私を助けたいと言っていた。

 

「私はこの小さな親切のバトンを、次へ渡し続ける為に生きよう。もしも困ってて、ウチに招いた人が実は強盗で、殺されちゃったとしても、後悔なんてきっとしない。それが私の生き方だって決めたから」

 

「生き方…」

 

 その後『げぇむ』を『くりあ』した彼女は、『ねくすとすてぇじ』まで生き延びて、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』を撃破した。

 彼女はあろう事か、『げぇむ』中に起こった事故に巻き込まれそうになった『今際の国』の国民を助けた。

 彼女が『げぇむくりあ』したのは、彼女に仲間を救われたワスベが、彼女に報いたからだった。

 

「ボクは、誰よりも仲間を想える優しい人に『げぇむ』を『くりあ』してほしい。そんな人と全力でぶつかり合えたのなら、『げぇむおおばぁ』になっても、後悔なんかしない。それが、ボク達の決めた生き方だから」

 

 それが、『げぇむおおばぁ』になったワスベが、『ねくすとすてぇじ』が始まる直前に言っていた言葉だった。

 

 

 

「ヘイジ君」

 

「…はい?」

 

「聞いたよ。ここに来てから『(はあと)』の『げぇむ』を、1人も犠牲者を出さずに『くりあ』してるって…自分の命がかかった極限状態で、何故他の『ぷれいやぁ』を助けようとする?」

 

 私は、26日前に『ビーチ』に来た新入りの『ぷれいやぁ』に話しかけた。

 彼は『(はあと)』の心理戦を、1人の犠牲者も出さずに『くりあ』していた。

 私は、『ねくすとすてぇじ』が始まる前に、彼と話をしておきたかった。

 

「…オレ、この国に来る前は、目標を何一つ成し遂げられない半端者だったんです。この国に来てからできた彼女も、『げぇむ』で命を落として…もう無理だって思った時に、助けてくれた人達がいた。この世界は絶望だけじゃないって事を、教えてくれた人達がいた。今オレが生きてるのは、その人達のおかげだから…だから決めたんです。この国で絶望してる人達に、絶望する必要なんかないって事を教えてあげようって。拒否されて、罵られて、殴られたとしても、あの日与えられた希望を、今度はオレが誰かに与えたい。それが、オレの生き方だから」

 

 彼は、『ねくすとすてぇじ』が始まってすぐ、『♡K(はあとのきんぐ)』を撃破した。

 全員を救う事はできなかったが、彼の行動は、他の『ぷれいやぁ』の心を動かし、『げぇむくりあ』へと導いた。

 

「ミラお姉様は『遊び』だなんて言うけれど…アタシの創る『(はあと)』の『げぇむ』は、純愛とほんの少しの勇気で乗り越えられる『げぇむ』でありたいと思ってるわ。自分が生きたいと思うのと同じくらいに、誰かを生かしたいと思えたら…それって、殺されてもいいと思えるくらい、素敵な事だと思うの。それが、()()()()の望んだ生き方」

 

 それがアヤカの、最期の言葉だった。

 彼の作る『げぇむ』は、どれも自分の命を他人に委ねる事でしか『くりあ』できない『げぇむ』だった。

 自己犠牲を美徳とする彼らしい『るうる』だ。

 彼は最期まで、望む生き方を貫いて死んでいった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《制限時間になりました。14回戦の結果を発表します》

 

 私はまた、『0』を選んだ。

 

《勝者、チシヤ様》

 

 チシヤが勝った事で、私は1ポイント減点。

 これで互いに、同点になった。

 次で勝者が決まる。

 

《それでは、15回戦を開始します》

 

「これが…狙いなのか…?私には決められない…そう踏んで君は、この同点の状況に私を誘い込むのが狙いだった…?」

 

「だとしたらオレって相当意地悪な策士だよね。それも悪くはないけど…残念ながらオレは…人の命ってやつにも、くだらない『げぇむ』にも、どうしても関心が持てなくてね…今やオレ達の興味は、同じだろう?オレも知りたいんだよ、アンタが最後に出す数字を」

 

 そう言ってチシヤは、また『100』と表示されたタブレットを見せてきた。

 

「……わかったよ…私が、決めさせてもらおう…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ったく、ちったぁ大人しく手術されやがれってんだ。オレはただ、死に損ないのお前さんを治療したいだけなんだよ」

 

 クリハラは、『ビーチ』で、重傷を負って戻ってきた仲間を治療していた。

 私は、何故治療を望んでいない者まで必死に助けようとするのか、彼に尋ねた事があった。

 

「オレァよ、目の前の患者が、たとえ金の払えねぇ貧乏人だろうと、100万人殺した戦犯だろうと、治療を望んでない死にたがりだろうと、迷わず助けるって決めたんだ。一度は躓いて摩り切れたけど、それでもオレは、『理想』を貫きたい」

 

「『理想』……」

 

「……なぁ、弁護士さん。オレァ、命の価値は平等じゃないって言ったけどよ…その言葉にはまだ、続きがあるんだよ。命の価値は平等じゃない。だからこそ、助からなかった奴の命に価値があるか無いかは、生きてる奴次第なんだ。オレは、オレを生かす為に死んだ9人の命を、無かった事にはしない。手の届く命を助ける為に、ソイツを生かす為に死んだ命を無価値なものにしない為に、オレは泥水を啜ってでも生きる。それがオレの『理想』だ」

 

 彼は、どんなに心が摩り減っても、理想の為に生きていた。

 『死んだ命を無価値にしない為に、今ある命を救う』…それが彼の『理想』の形だった。

 

「まさか彼が、イバラをダシに昇格するとはね…彼がボーシヤに気に入られる為にでっち上げたストーリーでしょうけど、『彼女が絵札の『げぇむ』の鍵を握ってる』なんて言うものだから、笑い堪えるの必死だったわ」

 

 ミラが、ハッタリを使って昇格しているクリハラを見て笑っていた。

 彼の想像力が豊かすぎるのか、それともイバラが喋りすぎたのか…

 まさかそのハッタリが真実だったとは、誰も思うまい。

 

「…それで、どうするの?彼」

 

「……彼に話を合わせてみようと思う」

 

「あら、正気?」

 

「興味があるんだ…彼の『理想』とやらに」

 

 私は、クリハラに話を合わせ、あたかも彼の話に真実味があるかのように、『ビーチ』の幹部達に思わせた。

 国民の立場上、私やイバラの正体を『ぷれいやぁ』に明かす事はできなかったが、彼の仮定を否定しない権利くらいは私にもある。

 私はこの目で、彼の『理想』を見届けたかった。

 

 

 

「私は、いずれはこの国を支配する唯一の王になって、この国に蛆虫のように蔓延る無能なゴミを全員排除して、全ての命が合理的に管理された理想の世界を作るの。その為に『今際の国』の国民になったのよ」

 

「…………」

 

「……なんて、言いはしたけど…本当は、そうならない事を望んでるのかもしれない。いつか正義の味方が現れて、私のくだらない計画も、この国の理不尽な『げぇむ』のシステムも、全部ぶっ壊すの。私は、私を殺し(救け)に来た英雄の、正義の礎になる。それが私の、本当の『理想』。物語には、()()が必要でしょ?」

 

 最後まで私に付き合ってくれたヒミコは、クリハラに敗れて命を落とした。

 彼女も、最期は自分の理想を貫いて散っていった。

 

 

 

「井上…萌々花か?君が『まじょがり』の『まじょ』役を遂行する、『でぃいらぁ』だな?」

 

 私は、『まじょがり』が始まる前、『でぃいらぁ』のモモカと接触した。

 私は最後に、何故『まじょ』役を引き受けたのかを彼女の口から聞いておきたかった。

 

「理想の…為よ…人の心は美しいって、人の命は尊いって…私は、信じてるから…その理想があるから、私は、こんなどうしようもない世界でも何とか生きてこられた…私が『まじょ』として死ぬのは、あなた達の『るうる』に屈したからじゃない…あなた達の思惑通りになんてならないって事を…殺し合いなんて起こらないって事を、見せつけてやる為よ!どうせいつかはここで尽きる命なら、私は、理想の為に死ぬって決めたのよ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 おそらく…私には…

 命の価値もその差異もわからないし…

 きっとこの先も、それを決められる日は来ないのだろう…

 

 私が決めるべきは、命の選別ではなく…

 私がこの絶望に塗れた世界で、どう生き、どう死にたいか…

 それはつまり、私の…

 私の、理想は…

 

 私は悩んだ末に、『0』と『1』を同時に押した。

 

「…………………そっか、アンタは…命の価値を、『自分では決めない』事に、決めたんだね…」

 

《制限時間になりました。15回戦の結果を発表します》

 

 モニターに、結果が表示される。

 私がタッチの差で先に押したのは…『0』だった。

 

《勝者、チシヤ様。ここで、減点が10に達した参加者がおられます。その参加者は、『げぇむおおばぁ』》

 

「いつもの…顰めっ面はどうしたんだよ?それだとまるで…理想を捨てるくらいなら、その為に死ぬ事になっても悔いなんてない…って、顔じゃんか」

 

「だとしたら私は…ようやく、自分の生き方を決められたんだな…君の、お陰だ」

 

 私は最期に、ようやく自分の望む生き方を決められた。

 私は、この答えを見つける為に、この国に来たのかもしれないな…

 

 

 

 ――バシャアアアッ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 9日前。

 私は、ミラと共に、燃え盛る『ビーチ』を眺めていた。

 

「『まじょがり』が『くりあ』された。これで残すは絵札の『げぇむ』のみ…」

 

「いよいよ、私達の出番ね」

 

 絵札以外の全ての『げぇむ』が『くりあ』され、私達は『ねくすとすてぇじ』の準備に取りかかった。

 …また、『ぷれいやぁ』との殺し合いが始まるのか…

 

「乗り気じゃないのね…だったらあなたは、どうして国民としてここに永住する事を選んだのかしら?」

 

「殺し合いを楽しむような人間が永住権を手に入れ、悪趣味な『げぇむ』を創るくらいなら、私が国民となり、せめて私が務める『げぇむ』くらいは、公正でありたい…そう思っただけだ。それに…国民といえど、今は私も『げぇむ』の運営を任されるこの国の駒にすぎないが…もしかしたら、いつかは…この国の全てを統轄する『じょおかぁ』の地位に上り詰める事ができれば、この国の『法』と『秩序』である理不尽な『げぇむ』のシステムそのものを変えられる日が来るかもしれない…」

 

「大した…理想ね。…けれど、実現しない『理想』は、ただの『幻想』よ♡」

 

 私は、ビーチを燃やす炎を眺めながら、『理想』に生き、『理想』に死んでいった者達の顔を思い浮かべた。

 彼等の『理想』は…『幻想』なんかじゃない。

 

「私は、そうは思わないよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

チシヤside

 

《参加者が最後の1人になりました。『げぇむくりあ』》

 

 クズリューは、笑顔を浮かべたまま、王水を浴びて溶けた。

 最後に残ったのは、俺だけだ。

 

「…何か、ずるいよね…勝ち逃げされたみたいでさ…」

 

 何故アンタを、面白い奴だと思ったのかわかったよ…

 アンタと俺が対極の人間だからだ。

 アンタが命を懸けてまで苦しみ抜いて、悩み続けたのは、狂おしいまでの、命への関心…

 

「アンタが、羨ましいよ…」

 

 誰もいなくなった裁判所に、虚しい俺の独り言だけが響いた。

 

 

 

『ねくすとすてぇじ』開催7日目

 

 『げぇむ』 残り3種

 

 『ぷれいやぁ』 残り91人

 

 

 

 

 

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