Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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いよいよ、イバラさんとの対決です。
原作では最後の方まで残っていた絵札にもかかわらず一切の描写なく片付けられた『♣︎Q(くらぶのくいいん)』ですが、本作では妄想盛りまくりの長編でお届けします。


くらぶのくいいん(1)

ヘイジside

 

 日付を跨ぐ、数時間前。

 

「いっちち…」

 

「自業自得だ、大人しくしてろバカガキ」

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』で怪我をしたヒヅルは、クリハラさんに治療されていた。

 

「大体お前よぉ、あれだけ『げぇむ』には参加すんなっつったろ?しかも、よりによって『♠︎(すぺえど)』なんぞに参加しやがって。勝ったから結果オーライか?あ?こん中にはなーにが詰まってんだ?ん?」

 

「脳汁」

 

「真面目に答えてんじゃねぇよ」

 

 クリハラさんに額をビシビシ叩かれながら責め立てられたヒヅルが真顔で答えると、クリハラさんがツッコミを入れる。

 クリハラさんは、いまいち噛み合わない返答をするヒヅルに対し、ため息をつきながら言い放つ。

 

「…お前もうさ、確信犯だろ」

 

「確信犯の使い方間違ってるよ」

 

「うるせぇ。反省しろっつってんだよ、このバカタレ」

 

「あぅ」

 

 クリハラさんは、ヒヅルの頬をつねりながら怒った。

 何というか…この2人の漫才みたいなやりとりも、今ではすっかり見慣れたものだ。

 クリハラさんが治療を終えると、俺はヒヅルに話しかける。

 

「…なあ、ヒヅル」

 

「ん?」

 

「少し話、いいか?」

 

「あ…うん……」

 

 俺はヒヅルを呼び出して、二人きりになった。

 しばらく無言が続いて気まずくなったので、俺が先に口を開いた。

 

「…『げぇむ』さ、これで残り3種だな」

 

「うん」

 

「ここまで生き残ってきたけど、いつ死んじまうかわからないから…これだけは、お前に伝えておこうと思ったんだ」

 

 俺は、意を決して、伝えようと思っていた事をヒヅルに伝えた。

 

「お前が好きだ。ヒヅル」

 

「………え」

 

「ニーナが死んで絶望してたオレを救ってくれたのは、お前だった。お前はそんなつもりじゃなかっただろうけどさ…オレがここまで生きてこられたのは、お前のおかげなんだぜ?オレが命懸ける時、思い浮かべるのはいつもお前の事だった。お前がいたから、こんなどうしようもない世界でも生きたいって思えた。オレは、この先もずっと、お前と生きたい。お前の隣を、歩いていたい。お前といつまでも、笑い合っていたい。お前は、オレと一緒に雪が見たいって言ったけど…オレは、それだけじゃなくて、もっといろんなものをお前と一緒に見たい。この気持ちは、本当だから…この先どんな未来が待ち受けていようと、お前の側にいさせてくれないか?」

 

 俺は、自分の想いをヒヅルに打ち明けた。

 俺にとってヒヅルは、希望だから…たとえ世界を敵に回してでも、ずっと一緒にいたいと思えるから。

 ニーナを失って生きる理由を見い出せなかった俺に、生きる理由をくれたのがヒヅルだから。

 俺は、ヒヅルに恋愛感情を抱いてるわけじゃない。

 付き合いたいとか、結ばれたいとか、そんな事は考えてない。

 ただ、ヒヅルと一緒に笑い合って過ごせる事が、俺の幸せなんだ。

 

「ヘイジ…オレは……」

 

 ヒヅルは、僅かに目を見開いたかと思うと、帽子の鍔を握って目元を隠した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 俺は、昔見たアニメのヒーローに憧れた。

 ヒーローになって、大好きな家族と、昔好きだった幼馴染みを守る事が、俺の夢だった。

 俺は、気弱だけど優しくて、俺の知らなかった事を色々知ってたタッくんの事が好きだった。

 だけどアイツは、あの日俺を悪者にした。

 

 ――ひ…ヒヅルちゃんが悪い…と、思う……

 

 『助けてくれてありがとう』、その一言さえあれば、俺は救われたんだ。

 だけど俺が一番欲しかった言葉は、言ってもらえなかった。

 あの日から、俺のアイツに対する興味は失せた。

 

 自分に嘘をつき続ける人生だった。

 元の世界でも、この世界でも。

 踏み込まれるのが、間違いを否定されるのが怖いから、自分を嘘で塗り固めた。

 人間らしい感情を、人への関心を捨てる事で、賢くなった気でいた。

 向き合わなきゃいけないものから、目を背け続けた。

 

 それでもヘイジは、俺の心に踏み込んで、触れてくれた。

 俺を正してくれた。

 痛くて苦しかったけど、色が無かった世界が色づいて見えた。

 世界がこんなにも美しかったんだって教えてくれたヘイジに、一緒に歩みたいと伝えたかった。

 

 俺は、被っていた帽子の鍔を掴んだ。

 この国に来てから、俺はずっと帽子を被って過ごしてきた。

 これは、吹けば飛ぶようなちっぽけな自己愛を守る為の、殻みたいな物だった。

 触れられないように、本当の自分を覆い隠してきた。

 

 でも、もう脱がなきゃ。

 もう、俺には必要のないものだから。

 俺は、そのまま帽子を脱ぎ捨てた。

 

「ヘイジ…オレも、ヘイジが好きだよ…!この先もずっと、ヘイジと歩いていきたい…ヘイジの見る景色を、一緒に見ていたい…痛みも、苦しみも、幸せも、全部ヘイジと分かち合いたい…!!」

 

 俺は、ヘイジに抱きついて想いを伝えた。

 ヘイジは、俺を抱き寄せて、俺の想いを受け止めてくれた。

 

 遅かったけど…随分と遠回りしたけど、やっと辿り着いた。

 俺は、ヘイジに出会う為にこの国に来たんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 俺は、ヒヅルと一緒にビルのエントランスに戻った。

 エントランスでは、クリハラさんが、ネズミ、ヤヨイ、リナさんの3人と一緒にいた。

 

「おかえり。2人で何話してたん?」

 

「ちょっと…ね」

 

 クリハラさんが声をかけると、ヒヅルが目を逸らす。

 するとその時、ネズミが、ヒヅルが帽子を被っていない事を指摘する。

 

「あれ?ヒヅルちゃん帽子は?いっつも被ってるやつ」

 

「……いいの。アレはもう…オレには、必要ないものだし…もう、お別れも済ませたから」

 

 ヒヅルは、髪を耳にかけながら言った。

 そんなヒヅルを見て、クリハラさん達4人が動揺する。

 

「ありったけの食料をかき集めて、地下に籠るぞ!!大雪が降る!!いや、雷か!?地震か!?竜巻か!?それとも隕石か!?とにかく、皆落ち着いて行動しろ!!」

 

 クリハラさんは、動揺のあまり滅茶苦茶な事を言った。

 アンタが1番落ち着けよ…

 

「アンタらな…」

 

 ヒヅルの変わりようを見て動揺する皆に、俺は思わず呆れた。

 ふとヒヅルを見ると、相変わらずの4人をぼんやりと見ていた。

 俺とヒヅルは、顔を見合わせて、2人で同時に笑い出した。

 そんな俺達を見て、クリハラさんが変なものを見るような目を向ける。

 

「お前ら何2人で笑ってんの…?コワッ、キモッ!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、俺達6人は、新宿区の『げぇむ』会場に向かった。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の『げぇむ』会場は、森林の中にある教会だった。

 『げぇむ』には、俺とヒヅルで参加する事にした。

 他の皆は、右腕に重傷を負ったリナさんを看る為に『げぇむ』会場の近くで待っている事にした。

 だけど俺とヒヅルが『げぇむ』会場に向かおうとしたその時、クリハラさんが声をかけてくる。

 

「待てよ、オレも参加するぜ」

 

「クリハラさん…」

 

「『♣︎(くらぶ)』はチームワークが要の『げぇむ』だぜ?オレがいなきゃ、誰がお前らみてーな問題児を制御するんだ?」

 

 そう言ってクリハラさんは、白衣を脱いで腕を回した。

 

「このオレ様が、お前らの頭になってやらぁ。お前らは、オレの手足になれ」

 

 クリハラさんは、ニッと笑って先頭を歩いた。

 初めて出会った時の、『げぇむ』にビビりまくってた頃のあの人とは別人だった。

 『げぇむ』会場の教会の入り口のテーブルには、腕輪が3つ置かれていた。

 一緒に置かれていた三角スタンドには、注意書きが書かれている。

 

 

 

ーーー

 

エントリー数 20名じゃすと

 

開催7日目 午前0時に『げぇむすたあと』

 

武器の持ち込み不可

 

ーーー

 

 

 

 注意書きを見て、クリハラさんがポツリと呟く。

 

「…なるほどね。だから7日目にスタートか」

 

「え?」

 

「我らが父は、7日間でこの世界をお創りになられた。キリスト教で『7』は、『完全』や『完成』、『神聖』を表す特別な数字だ。この『げぇむ』会場といい、会見での発言といい、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』様は聖職者か何かなのかね」

 

 聖職者、か…

 そういえばイバラは、孤児院の院長だって言ってたな。

 この教会は、差し詰め元の世界でのイバラの『職場』…ってところか。

 

「武器の持ち込み禁止っていうのは…暴力を極力防ぐ為?」

 

「そうだろうな…暴力がアリなら、チームワークもクソもないからな」

 

「…確かにね」

 

 俺が言うと、ヒヅルは小さく返事をしてから腕輪を右手首に装着した。

 俺とクリハラさんも、左手首に腕輪を装着し、教会の扉を開ける。

 

 そのまま真っ直ぐ歩くと、礼拝堂に辿り着いた。

 礼拝堂の窓は全てステンドグラスで、全ての造形が緻密な計算によって生み出された美しい調和の中にあった。

 正面のオルガンは、自動演奏機能によって演奏されているのか、誰も触れていないにも拘らず、音楽が流れていた。

 どこか、聴き覚えのあるメロディーだ。

 

「この曲は…」

 

バッハ作品総目録(BWV)727、『Herzlich tut mich verlangen(わが心の切なる願い)』」

 

 俺が口を開くと、ヒヅルが腕を組んだまま答える。

 ヒヅルが空席に座ろうとするので、俺もその隣の席に座ろうとした。

 すると、その時だ。

 

「やぁ…ここでなら、君達に会えると思ってたよ」

 

 俺が席に着こうとすると、声をかけられた。

 振り向くと、一番端の席にマヒルさんが座っていた。

 

「マヒルさん…!!」

 

 俺達がマヒルさんに気付くと、マヒルさんは俺達に向かって軽く手を振った。

 知り合いがいて安心していると、またしても聴き覚えのある声が聴こえてくる。

 

「あれ!?ヘイジ君じゃないですか!!」

 

 声のした方を振り向くと、そこにはダイナがいた。

 …案外、短い別れだったな。

 

「ダイナ…」

 

「あはっ、やっぱり会えた!『♡J(はあとのじゃっく)』ぶりですねぇ!」

 

 ダイナは、ピョンと席から飛び上がると、俺に抱きついてくる。

 俺に懐いているダイナを見て、ヒヅルが俺の顔を見て尋ねる。

 

「ねえヘイジ…この人が、ヘイジのパートナーの…?」

 

「ああ」

 

「はじめまして。私、ヘイジ君のフィアンセのダイナです♡」

 

 ダイナは、俺の右腕に身体を密着させて笑いながら大嘘をついた。

 

「…………え?」

 

 ダイナが嘘をつくと、ヒヅルが目を僅かに見開いて固まる。

 ヒヅル、違うから。

 フィアンセじゃないから。

 ただの友達だから。

 

「しれっと嘘をつくな」

 

「つれないですね。一緒に()()()()()()をした仲じゃないですか」

 

「おいコラ」

 

 ダイナが自分の胸を揉みながら言うので、俺はダイナを軽く小突いた。

 何でコイツ、息をするようにすぐにバレる嘘をつく…?

 ヒヅルは、真顔で俺の顔を見てくる。

 

「え?そうなの?」

 

「してないから」

 

「オイオイ何だこのヤベーお嬢ちゃん…」

 

 息をするように虚言を繰り返すダイナを見て、クリハラさんがドン引きする。

 …もしかしてこの人、ダイナの正体に気付いてない?

 どうしようかな…この状況で、ダイナがクリハラさんの推しだって言うのもアレだし、黙っとくか。

 

「…それより、マヒルさん。ここに来るまでの話、聞かせてよ。まだ『げぇむ』が始まるまで時間あるし」

 

 俺がダイナの虚言に内心困惑していると、ヒヅルが俺を一瞥してから席に座りながら言った。

 俺が困ってるのを、察してくれたのか…?

 

「そうだね…まずはどこから話そうか…」

 

 マヒルさんは、ここに来るまでの話を俺達に聞かせてくれた。

 旅の途中で『でぃいらぁ』のアジトを見つけて、そこで冷蔵庫の中身を物色していた『ぷれいやぁ』からこの国の秘密を聞かされて、彼等のキャンプに案内された事。

 唯一この国の『答え』を知る女性から話を聞こうとしたが、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の襲撃に遭ってその女性が殺され、結局何も聞き出せなかった事。

 『今際の国』の真実を記録する為に同行していた男性は、それでも女性から真実を聞き出そうとして、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に殺された事。

 

 俺達の話もした。

 俺達が『♢Q(だいやのくいいん)』、『♡K(はあとのきんぐ)』、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』、『♣︎J(くらぶのじゃっく)』、『♡J(はあとのじゃっく)』、『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』を撃破した事。

 初日で『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の襲撃を受けて散り散りになったけど、アンさんやクイナさんには『げぇむ』で再会できた事。

 そして、俺達が、『今際の国』の国民から直接聞き出した、この国の秘密を。

 

 俺達が話を終えたちょうどその時、テーブルの上の蝋燭がフッと消え、代わりにモニターの画面が点く。

 壇上には、5人の男女が現れる。

 

 

 

「ようこそ。迷える仔羊達よ」

 

 礼拝堂に、鈴を転がすような声が響く。

 壇上に現れたイバラは、帽子を脱いで頭を下げる。

 

「私は茨原花江…『♣︎Q(くらぶのくいいん)』よ」

 

 

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)

 茨原(イバラ)花江(はなえ)

 保育士

 

 

 

「さ…皆、『ぷれいやぁ』の皆さんにご挨拶して差し上げて」

 

「はい、ママ」

 

 イバラが言うと、アリスやウサギと同い年くらいの男の子が頷く。

 男の子は、律儀に頭を下げて挨拶をする。

 

「ようこそお越し下さいました、皆様。僕は雛菊(ヒナギク)貞次(ていじ)といいます」

 

 

 

 雛菊(ヒナギク)貞次(ていじ)

 高校生

 得意ジャンル 『♣︎(くらぶ)』(バランス型)

 

 

 

 次は、カチューシャと眼鏡が特徴的な、知的そうな女の子が口を開いた。

 見たところ、沙由と同い年くらいだろうか。

 

鬼塚(おにづか)柚莉愛(ユリア)よ」

 

 

 

 鬼塚(おにづか)柚莉愛(ユリア)

 高校生

 得意ジャンル 『(だいや)』(知能型)

 

 

 

 次は、一番体格の大きい男の子が口を開く。

 体格こそ大きいけど、多分ヒヅルやドードーと同年代だ。

 

「オレ、飛燕(ヒエン)輝彦(てるひこ)。よろしく」

 

 

 

 飛燕(ヒエン)輝彦(てるひこ)

 中学生

 得意ジャンル 『♠︎(すぺえど)』(肉体型)

 

 

 

 最後に、おそらく最年少と思われる、花のヘアピンをつけた小さな女の子が口を開いた。

 どう見ても、コウタ君より小さい。

 

花咲(はなさき)(スミレ)です。よろしくお願いします」

 

 

 

 花咲(はなさき)(スミレ)

 小学生

 得意ジャンル 『(はあと)』(心理型)

 

 

 

 イバラの隣に立つ4人は、十字架の刺繍が施された制服らしき服を着ていた。

 その全員が、どう見ても子供だった。

 この子達が、俺達と対戦する『今際の国』の国民だってのか…?

 

「何だよこれ…ガキばっかじゃねぇか…!!」

 

「あなた達が、私達と殺し合いをするって言うの…!?」

 

「いやいや…いくら何でも…なぁ?」

 

 他の『ぷれいやぁ』達は、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 そりゃあ、ここまで来て対戦相手が子供だって言われても、信じられねぇよな。

 するとユリアが、自分達を笑った『ぷれいやぁ』に向かって言い放つ。

 

「あら。子供だからって手加減してくれなくていいわよ。少なくともあなた達よりは、やれる事多いから」

 

「このアマ…!!」

 

 ユリアが言い放つと、馬鹿にされた『ぷれいやぁ』がユリアを睨みつける。

 その時、イバラが口を開く。

 

「口が悪いわね。神聖な礼拝堂で暴言を吐くなら、出て行ってもらって結構よ」

 

 イバラは、突き刺すような視線を俺達に向けながら言った。

 荊の棘のように鋭い視線に圧倒された『ぷれいやぁ』達は、冷や汗をかいて黙り込んだ。

 

《『げぇむ』『いすとり』。難易度『♣︎Q(くらぶのくいいん)』》

 

 アナウンスが鳴り、モニターに♣︎Qのトランプが表示される。

 

「『るうる』の説明を行う前に、まずは皆さんに、全員5人1組でチームを作ってもらいます。全員がチームを作り終えた時点で、『るうる』の説明を始めます。急かすつもりはありませんから、ゆっくり話し合って決めて下さいな…」

 

 そう言ってイバラは、銀時計をチラつかせる。

 どう見ても急かしてんじゃねぇか。

 ヒヅルとクリハラさんと組むのは確定として、あと2人はどうしよう。

 …まあ、そのうち1人は、既に決めてあるけどな。

 

「マヒルさん。オレとチームを組んで下さい。協力して一緒に『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を倒しましょう」

 

 俺は、マヒルさんに手を差し伸べた。

 マヒルさんは、『ビーチ』のNo.3だった。

 『げぇむ』の内容はまだわからないけど、仲間になってもらえればとても心強い。

 

「ああ、僕でよければ」

 

 マヒルさんは、迷わずに俺の手を取ってくれた。

 これで俺とマヒルさんはチームメイトになった。

 チームを組まなきゃいけないのは、あと1人だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

「ねぇ。アンタさ。オレと組まない?」

 

 俺は、さっきから長椅子に座ってニヤニヤしながらこっちを見ている女に声をかけた。

 ダイナとかいう、ヘイジと一緒に『げぇむ』を『くりあ』した女だ。

 俺が声をかけると、ダイナが口を開く。

 

「……どうして私なんですか?他にもたくさん人がいるでしょう?」

 

「オレについてこられそうなのがアンタだけだったから」

 

「あなたに何ができるんですか?」

 

「どんなクソゲーだろうと勝つ。その為なら、何だってできる」

 

 俺は、ダイナの目を真っ直ぐ見て言った。

 俺が言うと、ダイナは僅かに目を見開く。

 

「そう言うアンタは?何ができる人?」

 

「この国を壊せる。その為なら、何だってする」

 

 俺が尋ねると、ダイナはニマッと笑顔を浮かべて答える。

 …面白いじゃん、この女。

 やっぱり、コイツを誘って良かった。

 

「そう言うと思ったから誘った」

 

「あはっ♪面白いわね、あなた」

 

 俺とダイナは、握手を交わした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 あの後、すんなり5人目も集まった。

 俺達のチームのメンバーは、マヒルさん、俺、クリハラさん、ヒヅル、そしてダイナだ。

 クリハラさんは、髪をいじっているダイナを見て顔を引き攣らせる。

 

「このお嬢ちゃんが最後の1人かい?ヘイジ君、何でよりによってこんな虚言癖のヤバい娘を…」

 

「オレじゃないですよ」

 

 クリハラさんが不安そうな表情を浮かべながら言うので、俺はヒヅルの方を見た。

 

「オレがチームに誘った」

 

 ヒヅルは、ポケットに手を突っ込んだまま答えた。

 すると、その時だった。

 

「へぇ。なかなか…面白いチームになりましたね」

 

 いつの間にか俺の背後の席に座っていたイバラが、クスクスと笑いながら口を開く。

 この女…いつの間に…!?

 

「まだチームに入れていない『ぷれいやぁ』もいる事ですし…少しの間、お話ししません?あなた達も、私に聞きたい事が色々あるはずでしょう?」

 

 イバラは、歯を見せて笑いながら俺達に話しかける。

 俺は、イバラに詰め寄って話しかける。

 

「ニーナを、覚えてるか?オレと一緒に『♡3(はあとのさん)』を『くりあ』した女の子だ」

 

「ええ。覚えてるわ」

 

「ニーナは…死んだよ。オレの、たった一人の大切な恋人だ」

 

「知ってるわ。ずっと視てたもの。それにしても、本当に可哀想だわ。せっかく『げぇむくりあ』できたのに死んじゃって…ああ、私達が『げぇむ』で死なせたんだったわね」

 

 俺がニーナの事を話すと、イバラは平然と答える。

 コイツ…よくもまあいけしゃあしゃあと…

 俺は、怒りをぶちまけたいのを堪えながら、イバラに尋ねる。

 

「『答え』を教えろ。あの花火を見た日、オレ達は何故、どうやってこの国に迷い込んだ?何故オレ達が、こんな理不尽な殺し合いに巻き込まれなきゃいけなかった?何故アンタを助けようとした優しい女の子が、あんなふざけた死に方をしなきゃいけなかった?答えろ」

 

「……その質問には答えないわ。あなた達にはまだ、その『答え』を知る資格は無い」

 

 俺が尋ねると、イバラはクスクスと笑いながら言った。

 俺がイバラをぶん殴りたいのを必死に堪えていると、マヒルさんがイバラに尋ねる。

 

「だったら…聞き方を変えたら、答えてくれるかい?」

 

「?」

 

「僕は、『げぇむ』を『選別』だと思っているんだ。僕達は、この国に迷い込んだ時からそれぞれ重さの違う『ノルマ』を課せられていて、僕達が生きる為に課せられた『ノルマ』が、『げぇむ』なんだろう…?『げぇむ』は目的ではなく、()()…『げぇむ』である事自体に意味はなくて、この国に迷い込んだ人間が生き残るに相応しいかを試す為の手段に過ぎない…僕の仮説は、正しいのかい?」

 

 マヒルさんは、イバラに尋ねる。

 するとイバラは、クスッと笑って答える。

 

「『選別』…ねぇ。私の考えと、半分同じね。だけど私はね、『選別』じゃなくて『赦し』だと思ってるの」

 

「『赦し』…だと……?」

 

 イバラは、読んでいた聖書をパタンと閉じながら話し始める。

 

「人は誰しもが罪を抱えて生きている。この国に来た人達は、誰もが到底赦し難い罪を背負った人達。私達も含めてね。滞在日数の長さは、『罪の重さ』。『げぇむ』は、罪を洗い出し贖う為の…謂わば『懺悔』。そこで赦された者のみが、この国を出る事ができる…それが『げぇむおおばぁ』…即ち、この世界での『死』よ」

 

「『赦し』…ねぇ。だったら、今こうして生きてるオレ達は、まだ神サマとやらに赦されてねぇってか?ははっ、だったらさっさと赦されに逝ってこい。案外、アンタの信じる神サマってのは、寛大なお方かもしれねぇぞ?」

 

 イバラが言うと、クリハラさんは笑いながら言った。

 するとイバラは、クリハラさんの発言を無視して口を開く。

 

「あなた達は、自分が生き残る為に一体今まで何人を犠牲にしてきたかしら?か弱くて優しい人達が死に、力を持った殺人者だけが生き残るこの世界の理不尽に、苦悩した事はなかった?だけど見方を変えれば、理不尽は全て一貫した『道理』になり、やがてただ一つの美しい『真実』へと収束する…」

 

「何を言ってるんだ、お前は…」

 

「この世界は、あなた達が『地獄』と呼ぶ何か。この国にいる1000人のうち100人だけが生き残ったとして、あなた達は『900人が死に100人が生き残った』事実ばかりを重視するけれど、真実は違う。『100人の罪人の苦しみと引き換えに、900人の罪が赦された』…あなた達が今まで生き残ってこられたのは、神に赦されない罪人だから。この国で死んだ人達は、きっと今頃、私達の理解の到底及ばないような、高次で完璧な存在としての復活を果たしているのかもしれない…」

 

 は…?

 何を言ってるんだ、コイツは…

 『死は赦し』だと…?

 そんな事の為に、ニーナは……

 

「ふざけるな!!」

 

 俺は、イバラに向かって感情任せに怒鳴った。

 

「ヘイジ…?」

 

「『死は赦し』だと…?そんなものが、『答え』だっていうのか…!?そんなものが『答え』だっていうなら…オレは……!!」

 

 そんなものが『答え』だというのなら、そんな『答え』……

 

「『そんな『答え』、要らなかった』?本当に?」

 

 イバラは、まるで俺の心を見透かしたように、俺の顔を覗き込んでクスッと笑う。

 するとその時だった。

 

「あら、最後のチームができたわね。それじゃ、『るうる』の説明をしましょうか」

 

「待て!!まだ話は終わってねぇぞ…!」

 

「ごめんなさいねヘイジ君。話の続きは、『げぇむ』が終わったらしてあげる」

 

「ふざけんな、今ここで話せ!」

 

「ダメよ」

 

 俺がイバラの手首を掴んで食い下がると、イバラは俺の手を振り払う。

 イバラは、突き刺すような視線を俺に向けて言い放った。

 

「何でもかんでも人に聞けばわかると思わない事ね。少しは自分の頭で考えなさい。もう、いい大人でしょう?」

 

 イバラは冷淡に言い放つと、壇上に上がった。

 その直後、『るうる』説明のアナウンスが放送される。

 

《『るうる』の説明。これから皆様には、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを含めた5チームで対戦をして頂きます》

 

「この『げぇむ』は、『いす』と『ぽおる』、それから『きばくすいっち』の3つの要素で構成されています。まずは『いすとり』の説明からしますね」

 

《まず皆様には、制限時間10分の間に、会場内のどこかに隠された『いす』を探し出して着席していただきます。着席できなかった参加者は、『げぇむおおばぁ』。これを1ターンとします。1ターンを終えるごとに、『いす』がランダムに爆破され、その『いす』には二度と着席できなくなります。これを繰り返し、生存者が1名以下となったチームは『げぇむおおばぁ』》

 

「最終的に1つの『いす』に着席できていれば、着席タイム中は何度でも『いす』に着席できます」

 

「要は椅子取りゲームでしょ…?」

 

「それって…体力ゲームだよな?」

 

「何というか…『♠︎(すぺえど)』の『げぇむ』っぽくない…?」

 

「っていうか、『げぇむくりあ』の条件は?まだ聞かされてないんですけど…」

 

 イバラが説明をすると、他の『ぷれいやぁ』が口を開く。

 『げぇむくりあ』の条件…

 ただ『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を倒せばいいって単純な『るうる』じゃなさそうだが…

 

《次にこの『いすとり』における勝敗ですが、最後に残った1チームのみが『げぇむくりあ』となります》

 

 アナウンスが鳴ると、『ぷれいやぁ』達が動揺する。

 

「何それ…『ぷれいやぁ』同士で争えっていうの!?」

 

「『♣︎(くらぶ)』は協力型の『げぇむ』なんじゃなかったのかよ!?」

 

「あら。『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』なら全員生きて帰れるとでも?絵札の『げぇむ』がそんな甘い『げぇむ』だと思ったら、大間違いですよ…」

 

 『ぷれいやぁ』達が抗議すると、イバラは鋭い視線を向けながら言い放つ。

 今まで『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』で生存枠が限られている『げぇむ』は無かった。

 ここに来て初めて、バトルロイヤル形式の『げぇむ』が現れた。

 ネズミ達が参加したのがこっちじゃなくて良かったよ…

 

《続いて、『ぽおる』の説明。『いすとり』の10分間が終了したら、参加者の皆様には、自分のチームの『ぽおる』に触れていただきます。『ぽおる』に触れなければ、次のターンで『いす』に着席する事ができませんのでご注意下さい。なお、『いす』に触れたままの状態では、『ぽおる』に触れる事ができません》

 

「1ターンを終えるごとに、いちいち『ぽおる』に触んなきゃいけねぇのかよ…面倒くせえな」

 

「これは『いすとり』だ。『いす』の奪い合いの余地は残されてなきゃダメなんだろ。この『るうる』が無いと、最初に『いす』を取ったチームの『げぇむくりあ』が確定しちまうからな」

 

 『ぷれいやぁ』の1人が言うと、クリハラさんが口を開く。

 

《次に、『きばくすいっち』の説明。会場内には、『いす』同様『きばくすいっち』が隠されています。そのターンで最初に『きばくすいっち』を押した参加者は、爆破する『いす』を指定できます。指定できる『いす』の数は、最大で3つ。一度押された『きばくすいっち』は、二度と押す事はできません。『きばくすいっち』が押されなかった場合は、ランダムに『いす』が5つ爆破されます》

 

「つまりこの『げぇむ』に勝つには、『きばくすいっち』を押して他のチームが確保した『いす』をジャンジャン爆破しまくれって事ね…『いす』の確保か敵チームの『いす』の爆破のどっちに重きを置いた布陣にするか、どうやって敵の『いす』を特定するか、誰から殺すか…そこら辺の戦略が必要になってくるわけ…何つーか、一気に知能戦っぽくなってきたね」

 

「戦局によっちゃあ、わざと『きばくすいっち』を押さずに一気に『いす』を減らして他のチームを焦らせるって戦法も使えないわけじゃない。要はこれは心理戦でもあるわけだ」

 

「つまりこの『げぇむ』は、『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』でありながら、『♠︎(すぺえど)』でもあり『(だいや)』でもあり『(はあと)』でもあるって事?あはっ、何それ面白っ♪」

 

 ルールの説明を聞いたヒヅルとクリハラさん、そしてダイナが口を開く。

 

《最後に、この『げぇむ』における反則行為の説明。ターン終了時点で前回と同じ『いす』に連続で着席している事。腕輪を外す事。着席していない他の参加者を殺害・拘束等により自力で移動できない状態にする事》

 

「なるほどね…エントリー時に武器を没収されたのは、この為か…暴力でも殺戮でも何でもアリの『るうる』なら、『げぇむ』が成立しなくなってしまうからね」

 

「そういう事。これは、できるだけ暴力による殺し合いを避ける為の措置だと考えて下さいな…荒っぽいのはあまり、好きじゃないの」

 

 マヒルさんが言うと、イバラはクスッと笑いながら答える。

 するとその時、他の『ぷれいやぁ』が抗議する。

 

「ちょっ…待てよ!『るうる』はわかったけどよ、『げぇむ』を仕掛ける側って事は、アンタらは『いす』の場所も『きばくすいっち』の場所も知ってるんだろう!?」

 

「それにアンタ達は、これまで何度もこの会場で『げぇむ』をしてるんだから、『げぇむ』には慣れてるはずよね…?そりゃあまりにもアンタらに有利すぎなんじゃないの!?」

 

 『ぷれいやぁ』達が抗議をすると、イバラと4人の仲間は、顔を見合わせてクスクス笑う。

 そしてヒナギクとヒエンが口を開く。

 

「ご心配なく。僕達はこの『げぇむ』自体は初めてですし、『いす』や『きばくすいっち』の隠し場所も知りません」

 

「オレらだけ知ってたらズリーもんなぁ」

 

 ヒナギクは礼儀正しく、ヒエンはケラケラ笑いながら言った。

 

「それでは、今から30分間を作戦タイムとします。この建物からの退出と反則行為さえしなければ、この時間中は何をしても構いません。30分経過したら、『げぇむすたあと』です」

 

 イバラは、銀時計を取り出しながら言った。

 イバラの澄んだ声が、礼拝堂に響く。

 

 結局は、蹴落とし合って殺し合うしかないのか…

 でも、俺達だけでも生き残るしかない。

 『死は赦し』…それが『答え』だったとしたら、俺は赦されなくても構わない。

 俺は、ヒヅルと、ここで出会った大切な人達と生きていくと決めたから。

 

「皆…この『げぇむ』、絶対勝つぞ」

 

 俺は、チームの4人に向かって意志を表明した。

 …何より俺は、高いところから見下して余裕そうに笑ってる『♣︎Q(イバラ)』に一泡吹かせなきゃ、気が済まないんだよ。

 待ってろイバラ、すぐにそこから引き摺り堕ろしてやる。

 

 

 

 ───今際の国滞在三十三日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 82日

 小鳥遊火鶴 131日

 栗原鳳正 25日

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催7日目

 

 『げぇむ』 残り3種

 

 『ぷれいやぁ』 残り91人

 

 

 

 

 




原作では『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』はオールラウンドな能力が必要になるバランス型って説明があっただけで、チーム戦とは一言も言ってないんですよね(ドラマ版だとチーム戦って設定になってましたが)。
だったら限られた人数しか生き残れない理不尽な『げぇむ』が1つくらいあってもいいやろって思って、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』はかなり理不尽な『るうる』にしてみました。
『げぇむ』の内容の元ネタは、ライアーゲームの椅子取りゲームです。
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