Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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ごめんなさい展開を修正しました。





くらぶのくいいん(4)

『ぷれいやぁ』D side

 

「『何しに来た』…か。当然、勝ちに来たのよ」

 

 そう言って『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、不敵に笑った。

 俺達は、武器を構えて『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の前に立ちはだかる。

 

「丸腰の女1人に、何ができるってんだ…?」

 

「この『いす』だけは、絶対に死守する…!!」

 

 俺達は、余裕そうな笑みを浮かべながら立っている『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を警戒した。

 焦るな、今俺達が相手にしてるのは、女1人だ。

 残り時間は、何が何でもこの『いす』を守り切ってやる…!!

 

「あら…『丸腰の女に何ができる』…ですって?なら、試してみる?」

 

 そう言って『♣︎Q(くらぶのくいいん)』はクスッと笑うと、俺達の方へと歩き出した。

 正面突破かよ…!?

 俺達が『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に向かって武器を振り下ろそうとした、その瞬間だった。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が、俺達の目の前で高く飛び上がる。

 すると『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の着ているドレスのスカートがぶわっと広がり、視界が封じられる。

 

「な…!?」

 

 いきなり視界を塞がれて混乱した、その一瞬だった。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、俺達の隙間を縫って音もなく着地すると、2つの『いす』を脇に抱えた。

 

「『丸腰の女1人に』…何でしたっけ?」

 

「っ…!?やられた…!!」

 

「悪いわね…『いす』、貰っていきますね」

 

 いとも容易く俺達から『いす』を強奪した『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、不敵に微笑んだ。

 今、何をされた…!?

 全く反応できなかった…

 

「今、何を…!?」

 

「ミスディレクション」

 

 俺が尋ねると、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は微笑みながら答える。

 やられた…俺達の『いす』が…!!

 何なんだ、コイツ…!?

 

「貞次!」

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、森の奥に向かって叫んだ。

 すると後ろの木の陰から、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の仲間の男が現れる。

 コイツ、いつの間に……!?

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、仲間の男に向かって『いす』を投げた。

 仲間の男は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が投げた『いす』を受け取ってニヤリと笑う。

 

「チーム戦だって事、忘れちゃいけませんよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 5ターン目。

 俺達『ぷれいやぁ』は、不利な状況に追い込まれていた。

 マヒルさんが見つけてくれた『きばくすいっち』は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの女子に先に押されてしまった。

 俺達が自分達の守っている『いす』の近くで待っていると、ヒヅルが戻ってくる。

 ヒヅルは、木の上から飛び降りて俺の近くに着地した。

 ヒヅルは、いつになく息を切らして、深刻そうな表情を浮かべていた。

 

「ヒヅル…!」

 

「ごめん、皆。()()()()

 

「え……?」

 

 ミスった…?

 何を…?

 

「『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームに、『いす』を奪われた」

 

「な……!」

 

 ヒヅルは、息を整えてから、神妙な表情を浮かべて言った。

 すると『いす』を守っていたダイナが、貼り付けたような笑みを浮かべながらヒヅルを責める。

 

「あら。あなたがいながら、何をやってたんですか?」

 

「やめとけよ。とりあえず状況を整理したい。ヒヅル、何があったのか詳しく説明しろ」

 

 ダイナがヒヅルを責めると、クリハラさんが間に入って状況説明を求める。

 するとヒヅルは、起こった事をありのまま話した。

 

「……相手のチームに足の速い奴がいてさ。ソイツが『いす』を奪おうとしてたから、『いす』を奪われないように足止めしてたら、いきなりソイツが逃げたの。それで気付いた。確証はないけど、他の奴が既に『ぷれいやぁ』から『いす』を奪ったから、アイツは逃げたんじゃないかって……迂闊だった。囮だってわかってたら、あんな奴相手にしなかったのに」

 

「けど囮だってわかってたところで、『いす』を奪われるのは防ぎようがなかったろ?『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの奴等がいつどこから襲ってきて誰の『いす』を奪うかなんて、オレ達にわかりっこねぇんだから。それに『いす』を奪われたのは、そのチームの自己責任だ。テメェのケツはテメェで拭く。他のチームの奴等も、それを納得の上で同盟を結んだはずだ」

 

「防げたとか自己責任とか、そういう問題じゃない!!」

 

 ヒヅルが言うと、クリハラさんはヒヅルをフォローしようとするけど、ヒヅルは悔しそうに拳を握りながら、珍しく怒鳴り声を上げた。

 

「考えればわかったはずなのに、読めたはずなのに読めなかった。読み違えた時点で、オレ達は奴等に負けてるんだよ…!」

 

「……お前さん、アレだろ。小学生の頃、テストで100点じゃないと気が済まないタイプだったろ」

 

 ヒヅルが言うと、クリハラさんは呆れた様子でため息をつく。

 それにしても、子供を囮に、『いす』を奪い取るなんて…

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームは、想像以上のやり手だ。

 

「『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームは何かがおかしい…10歳に満たない子供ですら、僕達を軽くあしらえる程の立ち回りを見せている」

 

「まるで訓練された軍隊…だよね」

 

 マヒルさんが言うと、ヒヅルも雨と汗で濡れた顔を拭いながら口を開く。

 確かに、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームは、子供ばかりだとは思えない立ち回りを見せている。

 だが奴等の強さは、もっと別のところにあるような気がしてならないんだよな……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ぷれいやぁ』E side

 

 俺と兄ちゃんは、自分達の『いす』を守っていた。

 だけどいきなり『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が現れて、俺達の『いす』を奪い取った。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、俺達から奪い取った『いす』を仲間の男に投げた。

 

「か、返せ!!『いす』、返せよぉ!!」

 

 俺は、『いす』を奪った『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に向かって攻撃しようとした。

 すると『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、仲間の男に向かってまた『いす』を投げた。

 仲間の男も、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に向かって『いす』を投げる。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と仲間の男は、『いす』の投げ合いをして俺達を翻弄した。

 俺と兄ちゃんは、『いす』を奪い返そうとしたけど、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と仲間の男のチームワークの前には手も足も出なかった。

 

「クソッ…!!」

 

「あはっ、こっちよ」

 

「んのっ…!」

 

「ねぇ貞次。この2人、兄弟よね?この連携、一朝一夕でできるものじゃないわ」

 

「でも僕達のチームワークには及ばないよ、ママ」

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と仲間の男は、俺達を挑発するように二人で笑い合って話しながら、俺達には一度も『いす』に触れさせずに、何度も『いす』をパスし合った。

 するとその時、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が俺達に話しかける。

 

「……ねぇあなた達。生き残りたい?」

 

「当たり前だろ!」

 

「じゃあ助けてあげる。ただし、助けるのは1人だけよ」

 

 な……

 何言ってんだ、コイツ…!?

 

「私達は既に『いす』を6個持ってるから、片方はいらない」

 

 俺達が呆気に取られていると、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』はクスッと笑いながら、兄ちゃんの分の『いす』を地面に置いた。

 

「弟を見捨てて、アンタ達の施しを受けろっていうのか…!?」

 

「受け取っておきなさいな…この先『げぇむ』が進めば、望んでも『いす』が手に入らなくなるのだから。…あ、弟さんの方を助けたいならそれでもいいですよ。このターンが終わるまでに、どっちが生き残りたいかを話し合っておいて下さい」

 

 兄ちゃんが『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に話しかけると、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は俺達を嘲笑った。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、兄ちゃんの『いす』を抱えたまま、器用に木の上に登って手を振る。

 

「ご機嫌よう。貞次、悪いけど『いす』片方持てる?」

 

「うん」

 

「それじゃあ、一緒に帰りましょう。残り時間が少ないわ」

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と仲間の男は、俺達の『いす』を持って走り去っていった。

 クソッ、どうしよう…このままだと2人とも『げぇむおおばぁ』だぞ…!!

 

「兄ちゃん、どうしよう…オレ達の『いす』が…!」

 

「追いかけよう」

 

「えっ、でも…」

 

「奪われたのはオレ達の『いす』だ。ただでさえ残り時間が少ないのに、皆に助けを呼んでいる時間はない。オレ達だけで、『いす』を奪い返すしかないんだ」

 

 兄ちゃんは、腕輪のディスプレイを見せながら俺に言った。

 腕輪のディスプレイには、残り時間が3分と表示されていた。

 3分以内に『いす』を取り返せなきゃ、俺も兄ちゃんも死んじまう。

 ……やるしかない。

 

 俺と兄ちゃんは、すぐに『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を追いかけた。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、男にハンドサインをすると、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』と仲間の男が二手に分かれる。

 俺は仲間の男を、兄ちゃんは『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を追いかけた。

 

「ゼッテー『いす』を取り返すぞ…!」

 

「うん…!」

 

 兄ちゃんと俺は、互いに頷き合って、自分の『いす』を取り返す為に全速力で森を駆け抜けた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒナギクside

 

 僕は、追いかけてくる『ぷれいやぁ』から全速力で逃げた。

 地形を最大限に利用して、フェイントを入れて、『ぷれいやぁ』を撒こうとした。

 だけど追いかけてくる『ぷれいやぁ』の足は想像以上に速くて、すぐに距離を詰められた。

 追いかけっこだと、分が悪いな…

 

 僕は、足元の岩から飛び降りて、下の川に着地した。

 するとすかさず『ぷれいやぁ』が追いかけてくる。

 ……しつこいな。

 

「返せ…それはオレの『いす』だぞ…!!」

 

「『返せ』?随分と人聞きの悪い事を…この『いす』のどこかに、あなたの名前でも書いてあるんですか?」

 

 『ぷれいやぁ』が叫ぶと、僕は鼻で笑いながら答える。

 

「これはこういう『げぇむ』です。生き残りたかったら、力と知恵で僕を上回るしかありません」

 

 そう言って僕は、『いす』を使って足元の川の水を『ぷれいやぁ』に浴びせた。

 『ぷれいやぁ』の視界が水で塞がれた一瞬の隙に、『いす』を持って逃げる。

 だけど『ぷれいやぁ』は、すぐに僕に追いついてきた。

 『ぷれいやぁ』が、僕に向かって全速力で走ってくる。

 僕は、『ぷれいやぁ』の視界を塞ごうとした。

 だけどその時だった。

 

「そうやってすぐ姿を消そうとするよな、お前は!!」

 

「!」

 

 『ぷれいやぁ』は、手に持っていた木の実を、僕の顔面目掛けて投げつけてきた。

 僕は咄嗟に避けようとしたけど、反応が遅れて木の実が僕の顔にぶつかって潰れる。

 クッソ、汁が目に入った…しみる……!!

 

 僕が怯んだ一瞬の隙に、『ぷれいやぁ』が飛びかかって僕が持っていた『いす』をものすごい力で引っ張る。

 クソッ、目がしみて力が入らない…!!

 『いす』を引っ張られて、踏ん張りがきかなくなった僕は、『いす』の足から手を離した。

 すると僕から『いす』を奪った『ぷれいやぁ』が、僕から奪った『いす』に座る。

 

「うぅっ……!!」

 

 残り時間は…あと3秒…!!

 早く『いす』を奪い返さないと…

 僕は、物音を頼りに『ぷれいやぁ』に飛びかかって、『いす』を奪い返そうとした。

 だけど僕が飛びかかったその瞬間、腕輪のタイマーが0になった。

 僕の腕輪のランプは赤色のまま。

 

「あーあ…これで『げぇむおおばぁ』か…」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ぷれいやぁ』D side

 

「待て!!」

 

 俺は、逃げる『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を、全速力で追いかけた。

 拾った木の実や枝を投げつけて、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に当てようとした。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、のらりくらりと俺の攻撃を躱して逃げ続けた。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、女で、しかも動きにくそうなドレスを着ているにもかかわらず、俺よりも足が速かった。

 だけど、俺は知ってた。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が逃げた先が、行き止まりだって事を。

 

「行き止まり……」

 

 崖に追い詰められた『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、足を止めて俺の方を振り向く。

 俺は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』に向かって突進した。

 すると『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、さっきみたいにスカートで俺の視界を塞ごうとする。

 さっきと同じ手は、喰らうかよ!

 

 俺は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の目の前で高く跳び上がって、そのままドロップキックを放とうとする。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、俺の蹴りを避けようとしたが、その拍子に濡れた苔で足を滑らせた。

 

「あっ…!」

 

 足を滑らせた『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、そのまま崖から転落する。

 俺は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』が手放した『いす』を掴んで取り返した。

 

 やった……

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』から、『いす』を奪い返したぞ…!

 

「は…はは…やった……」

 

 俺が思わず笑ったその時、崖の下から声が聴こえる。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、ドレスについた泥や木の葉を払いながら、俺を見上げた。

 そんなに高くなかったのかよ、この崖…

 大袈裟なリアクションしやがって。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、何事もなかったかのように、笑って俺に話しかける。

 

「おめでとうございます。よく私から『いす』を奪い返せましたね」

 

「随分と余裕そうだな、アンタ…『いす』に座れなかったら、このターンで死ぬんだぞ」

 

「誰が死ぬって?」

 

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、クスッと笑うと、ちょうど俺の死角になってる崖壁から『いす』を取り出して座った。

 

「テメェ…仲間がここに『いす』を隠してるのを知っててオレを誘い込んだのか…ハナからオレと命の獲り合いなんかするつもりはなかったんだな」

 

 自分は確実に安全を確保しつつ、俺達の命を弄んでやがったのか…

 どこまでも狡い女だな…

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は、髪を耳にかけながら俺に話しかける。

 

「それで、何か言いたい事は?」

 

「そうやって威張っていられるのも今のうちだぜ。『♣︎Q(くらぶのくいいん)』さんよぉ」

 

 俺が言うと、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』は俺を小馬鹿にしたように笑う。

 

「フッ…アハハハハ!」

 

「何がおかしい…?」

 

「…本当にいいんですね?()()()()()()()()()

 

 最期の言葉……?

 どういう意味だ…?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ぷれいやぁ』E side

 

《制限時間になりました。ここで、『いす』に座れなかった方がおられます。その方は、『げぇむおおばぁ』》

 

 アナウンスが鳴ったかと思うと、俺の『いす』を奪った男は深くため息をついてから立ち上がる。

 

「あーあ…これで『げぇむおおばぁ』か…でも、案外悪くないかもしれませんね。さようなら」

 

 そう言って男が微笑んだ、その直後だった。

 

 

 

 ――ピィン!!

 

 ――ズッ…

 

 

 

 男の頭をレーザーが貫き、男は力なく地面に倒れ込んだ。

 やった…勝った…

 勝ったんだ俺…!!

 『今際の国』の国民に勝ったぞ!!

 

「は…はは…やった…やったよ兄ちゃん、オレ…勝ったんだ!!『今際の国』の国民に勝った!!」

 

 

 

 ――ピピピピピピピ…

 

 

 

「……あ?」

 

 唐突に、腕輪から警告音が鳴る。

 さらには、アナウンスが鳴った。

 

《そして今回は、『るうる』違反をした参加者がおられます。その方は、『げぇむおおばぁ』》

 

 『るうる』違反だと…?

 じゃあ、このアナウンスはまさか……

 

 俺は、警告音が鳴った自分の腕輪を見た。

 俺の腕輪には、『げぇむおおばぁ』と表示されていた。

 

 は…?何で…!?何で、何で何で何で…何で…!!

 

 混乱で頭が追いつかなかった。

 だけどその時、ある可能性が頭をよぎった。

 『るうる』違反の条件は3つ。

 

 『腕輪を故意に外した場合』、『着席していない参加者を殺害・拘束等により自力で移動できない状態にした場合』…

 そして3つ目が、『制限時間終了時点で、前回のターンと同じ『いす』に着席していた場合』。

 

 俺は、制限時間ギリギリに座った自分の『いす』を確認した。

 『いす』に取り付けられたプレートは外れかけていて、ちょうどプレートが嵌め込まれていた窪みには『28』と刻まれていた。

 『28番』……俺が前回のターンで座った『いす』だ。

 

 やられた……

 アイツら…『いす』の投げ合いをした時、『いす』のプレートを取り替えてやがったのか…!!

 

 チクショウ、せっかく『いす』を取り返したと思ったのに…

 こうなる事も全部、計算ずくで……

 初めから、仲間の命と引き換えに、俺達を道連れにするつもりだったのか…!!

 

 俺達を殺したいだけなら、俺達に『いす』を奪わせない方法なんていくらでもあったはずだ。

 なのにわざと奪わせて、希望をチラつかせた。

 仲間の命も、俺達の命も、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の掌の上だって事を思い知らせる為に。

 自分達がいかに狂ってるかを、俺達に見せつける為に…

 それに気付かないようなら、絶望しないようなら、『♣︎Q(ヤツ)』にとってはそれまでの奴だって事だ。

 

 イカレてんだろ……!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

イバラside

 

 罠にかかった『ぷれいやぁ』は、レーザーで撃ち抜かれて崖から転落した。

 落ちた拍子に血が飛び散って、私の顔にかかる。

 このターンを生き延びた私は、貞次が『ぷれいやぁ』を誘導した場所へと向かった。

 

「貞次……」

 

 その場所に行くと、血を流して倒れた貞次と、ターゲットの『ぷれいやぁ』がいた。

 私は、レーザーで撃たれて死んだ貞次の顔を撫でながら、開いた瞼を閉じた。

 貞次との思い出が脳裏をよぎって、涙が溢れて止まらなかった。

 

 私が座った『いす』は、ユリアが隠してくれた『いす』だった。

 ユリアは、私か貞次、どちらかが『いす』を見つけて座れるように、『ぷれいやぁ』に見つからない場所に『いす』を隠してくれた。

 『いす』を見つけたのは私だった。

 『ぷれいやぁ』は、私に命の獲り合いをするつもりが無かったって言ってたけど…私が生き延びたのは、運以外の何物でもない。

 つくづく、私の仮説は間違っていないんじゃないかと思う。

 …神様は、敬虔に慎ましく生きてきた貞次じゃなくて、醜く穢れた私を生かす事を選んだ。

 

「ありがとう。あなたのおかげで、たった今2つの尊い命が天に帰りました。あなたの覚悟は、決して無駄にはしないわ」

 

 私は、少しずつ冷たくなっていく貞次の頬に手を添えて、手向けの代わりに口付けを交わした。

 溢れ出す涙を拭ってから、私は貞次の遺体を抱えて教会に戻った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ユリアside

 

 5ターン目を生き延びた私達は、教会に戻って『ぽおる』に触れた。

 ママは、『ぽおる』の近くに兄さんの遺体を置いた。

 スミレは兄さんの遺体に縋って泣いていて、ヒエンも泣きそうになるのを堪えていた。

 兄さんが死んだ。

 私が考えた作戦を、実行に移したから…

 

 

 

 時は遡り、4ターン目。

 『ぷれいやぁ』チームの後をつけて内情を探っていた兄さんが、偵察から戻ってきた。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「『ぷれいやぁ』の中に、兄弟同士で『いす』を交換し合ってる奴等がいた」

 

「まあ…身内同士で『いす』を交換するのは、予想できてたわね。万が一他の仲間が脱落しても、自分達だけは確実に生き残れるから」

 

 私が兄さんから聞いた話を噛み砕いていると、『いす』に座っていたママが口を開く。

 

「だからこそつけ入る隙がある…そうでしょ、ユリア」

 

「……ひょっとしてママ、私と同じ事考えてる?」

 

「そうかもしれないわね」

 

 私とママは、考えた作戦を他の兄妹に話した。

 私とママが考えた作戦は、その兄弟から『いす』を奪って、『いす』のプレートを入れ替えてから奪い返させる、というものだった。

 そうすれば、プレートを入れ替えられた事に気づかないバカな連中が前回と同じ『いす』に座って、勝手に自滅してくれる。

 正直不確定要素が多い作戦ではあったけど、最低でも2人の『ぷれいやぁ』は道連れにできる。

 私達が自分達の命を死の淵に放り込んでまで『ぷれいやぁ』を皆殺しにしようとしてる事を『ぷれいやぁ』共に気づかせれば、奴等はビビって私達の『いす』を奪おうだなんて発想が湧かなくなる。

 そうなれば、その先の『げぇむ』をこっちのペースで進められる。

 だけど問題は、誰がその囮の役をやるかだった。

 

「囮は僕がやる」

 

 囮役を名乗り出たのは、兄さんだった。

 

「ソイツらに何ができるのかわからない以上は、何でもそつなくこなせる僕が囮をやるのがいいと思う。ママは言わずもがな、ブレーンのユリアも、パワーとスピードに長けたヒエンも、ここで失うわけにはいかないし、最年少のスミレにはこんな役任せられないだろ?」

 

 兄さんはそう言うけど、私達は納得できなかった。

 私達にとっては、兄さんだって、ここで失うわけにはいかない大切な人だから。

 するとママが、兄さんの前に立って言った。

 

「やめなさい貞次。神の前には皆平等…そう教えたはずでしょ?」

 

「…ごめん、ママ。よしっ、じゃあここはひとつくじ引きで決めるか。それなら、誰が囮役になっても文句はないだろ?」

 

 そう言って兄さんは、木の枝を拾って、それをくじにした。

 

「短いのを引いた奴が囮な」

 

 兄さんがくじを作ると、私達は一斉にくじを引いた。

 囮役になったのは、兄さんとママだった。

 

「それじゃあ…目標のポイントまで誘い込むから。ユリアは、どっちかのポイントに、残りの『いす』を隠しといて」

 

「…わかったわ」

 

 私は兄さんに言われた通り、『いす』を崖の裏に隠した。

 囮作戦を実行すれば、確実に1人は死ぬ。

 だけど『いす』を既に4つ確保している以上、もう1人の囮まで死ぬ必要はない。

 だから私は、ママか兄さん、どっちが『いす』を取ってもいいように、残りの『いす』を隠した。

 私が隠した『いす』を取ったのは、ママだった。

 兄さんは、自分の命と引き換えに、『ぷれいやぁ』を道連れにした。

 

 ……兄さん、あなたの死は、決して無駄にはしないわ。

 私達が、残りの『ぷれいやぁ』を全員あなたのところに送ってあげる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

《5ターン目の生存者は、20名中17名》

 

 俺達が『ぽおる』に触ると、アナウンスが今回の生存者を知らせる。

 モニターには参加者の顔写真が表示されていたが、そのうち3人の顔写真が暗くなる。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームに『いす』を奪われた双子の『ぷれいやぁ』と、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームのヒナギクの3人だ。

 

「ひぐっ、ぐすっ…お兄ちゃん…」

 

「泣くなスミレ…!兄ちゃんは、こうなる事をわかってて作戦を実行したんだ…オレ達だって、納得して決めた事だろ…!?」

 

 ふと『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを見ると、仲間を失った『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの連中が『ぽおる』の前で泣いていた。

 ソイツらの足元には、ヒナギクの遺体があった。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの奴等を見て、ヒヅルが口を開く。

 

「…意外だった。仲間の為に泣ける奴らだったんだね」

 

「だったら何ですか?私達がやるべき事は、変わらないでしょう?」

 

「……わかってる」

 

 仲間の死を悼む『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを見て驚くヒヅルに対してダイナが言い放つと、ヒヅルはすぐに切り替える。

 その直後、『いす』の爆破を知らせるアナウンスが放送される。

 

《ここで、5ターン目に『きばくすいっち』を押した方がおられます。今回爆破される『いす』は、『3番』、『8番』、『25番』》

 

 今回は、俺達『ぷれいやぁ』チームの『いす』を爆破された。

 『ぷれいやぁ』チームの『いす』は12個。

 それに対して、残りの『ぷれいやぁ』は13人。

 あと1つ『いす』を奪い返さないと、さらに犠牲者が増えちまう。

 

《それでは、6ターン目を開始します》

 

「まずい事になったな…完全に、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームのペースに呑まれちまった。早くこの状況を打破しねぇと、誰も生き残れねぇぞ」

 

 クリハラさんは、深刻そうな表情を浮かべながら言った。

 幸い、俺達のチームからは犠牲者は1人も出ていない。

 だけどこれ以上他のチームの犠牲者が増えたら、『げぇむくりあ』が遠のく一方だ。

 何か…打開策は無いのか…!?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 6ターン目。

 結局俺達は、何の打開策も見つけられずに、ただ時間だけが過ぎていった。

 他の『ぷれいやぁ』は、自分の息子の命を犠牲にして『ぷれいやぁ』を道連れにしたイバラに完全に気圧されて、何もできなくなっていた。

 このターンはダイナが『きばくすいっち』を押してくれたけど、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームから『いす』を奪う事はできなかった。

 仲間を1人失ったアイツらが、今まで以上に『いす』の防御を固めていたからだ。

 

 奴等の防御は、完璧だった。

 それぞれの弱点を補い合ったチームワークに加え、俺達の弱点を見抜いた上での戦術。

 頭のいい奴は力で捩じ伏せ、力のある奴は知恵で捩じ伏せ、両方とも優れてる奴は心を壊して捩じ伏せる。

 相手の得意分野に持ち込ませない事、それが奴等の戦術だった。

 そして、無情にもその時はやって来た。

 

《制限時間になりました。ここで、『いす』に座れなかった方がおられます。その方は、『げぇむおおばぁ』》

 

 森の中に、アナウンスが鳴り響く。

 今回も、『いす』に座れなかった『ぷれいやぁ』の頭をレーザーが貫く。

 俺達のチームは誰も死ななかったけど、他のチームから脱落者が出た。

 俺達が『ぽおる』に触りに教会に戻ると、脱落者の顔写真が暗くなっていた。

 

《6ターン目の生存者は、17名中16名》

 

 とうとう、生存者が16人にまで減った。

 今回も、他の『ぷれいやぁ』を助けられなかった。

 仲間を一人失って4人になった『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームは、相変わらず余裕そうな表情を浮かべていた。

 

《ここで、6ターン目に『きばくすいっち』を押した方がおられます。今回爆破される『いす』は、『16番』、『28番』》

 

「……で、どうするんです?あの足手纏い共」

 

「ダイナ」

 

 ダイナが『ぽおる』にもたれかかって他のチームの『ぷれいやぁ』を非難すると、マヒルさんがダイナを窘める。

 するとダイナは、わざと他のチームの『ぷれいやぁ』に聴こえるように言った。

 

「だって事実でしょう?『きばくすいっち』を押したのだって、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームから『いす』を奪ったのだって、ほとんど私達の手柄じゃないですか。もう戦う度胸も無いんなら、せめて『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの男の子みたいに囮として死んでほしいと思いません?どうせ1チームしか生き残れないわけですし」

 

 ダイナは、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームに萎縮して完全に闘志を失っている他のチームを責めた。

 俺は、ダイナに責められて何も言い返せなくなっている他のチームの『ぷれいやぁ』に歩み寄る。

 そして残りの2チームのメンバーに、頭を下げて謝った。

 

「……ごめんなさい。オレ達の無茶に巻き込んで、仲間を死なせてしまって」

 

「え……?」

 

 俺が頭を下げて謝ると、消沈していた他の『ぷれいやぁ』が顔を上げる。

 

「皆で協力して『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを倒すって言っておきながら、あなた達の仲間を助けられませんでした。これ以上オレ達の作戦に付き合えないっていうなら、もうオレ達の事も敵でいいですから…1チームしか生き残れない『るうる』ですし」

 

 俺が言うと、他のチームの『ぷれいやぁ』は黙って俯く。

 

「言いたかったのはそれだけです。今まで協力してくれて、ありがとうございました」

 

 そう言って俺は、自分のチームの『ぽおる』に戻っていった。

 その時だった。

 他のチームの『ぷれいやぁ』の1人が、立ち上がって口を開く。

 

「…お礼を言わなきゃいけないのはこっちの方です。絶望していた僕達をここまで導いてくれて、ありがとうございました」

 

 他のチームの『ぷれいやぁ』は、俺達に頭を下げてきた。

 無理矢理作戦に参加させたのは俺達なのに、責められるどころか感謝されるとは思わなかった。

 他のチームの『ぷれいやぁ』は、戸惑いながらも俺に提案をしてくる。

 

「……本当は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの人数がもう少し減ってから実行するつもりだったんですが…僕達には、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を倒す為の秘策があります。もし、もう一度チャンスをいただけるのであれば…僕達が絶対にあなた達を勝たせます」

 

 

 

 『げぇむ』『いすとり』

 

 難易度『♣︎Q(くらぶのくいいん)

 

 7ターン目 残り16名

 

 

 

 

 

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