Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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くらぶのくいいん(5)

ユリアside

 

 『げぇむ』『いすとり』。

 難易度『♣︎Q(くらぶのくいいん)』。

 

 参加者は、5人1組のチームを作る。

 制限時間は10分間。

 制限時間内に会場内に隠された『いす』を探し出し、着席する事ができれば、次のターンに進める。

 10分の間に、会場内に隠された『きばくすいっち』を最初に押した参加者は、指定した『いす』を爆破できる。

 『きばくすいっち』が押されなかった場合は、ランダムに『いす』が5つ爆破される。

 

 制限時間終了後は、必ず自分のチームの『ぽおる』に触れなければならない。

 『ぽおる』に触れなければ、次のターンで『いす』に着席できない。

 なお、『いす』を持ったまま『ぽおる』に触れる事は不可。

 

 生存者が1名以下になったチームは、その時点で『げぇむおおばぁ』。

 最後に残った1チームのみが『げぇむくりあ』。

 

 禁止事項は3つ。

 制限時間終了時点で、前回のターンと同じ『いす』に着席していた場合。

 腕輪を故意に外した場合。

 着席していない参加者を殺害・拘束等により自力で移動できない状態にした場合。

 

 

《それでは、7ターン目を開始します》

 

 アナウンスが鳴ると同時に、私は森の中へ駆け込んだ。

 私達のチームの『いす』を2つ爆破されたけど、『ぷれいやぁ』達から奪えば何の問題もない。

 『ぷれいやぁ』共は、5ターン目の道連れ作戦にビビって、私達から『いす』を奪い返そうだなんて発想が湧いてこない。

 この『げぇむ』、このまま『いす』を奪い続けていれば勝てるわ。

 

 私は、『ぷれいやぁ』達から『いす』を奪いに行こうとした。

 するとその時、大柄な『ぷれいやぁ』がいきなり私の行く手を阻んできた。

 

「な…!!」

 

 私が足を止めると、他の『ぷれいやぁ』がゾロゾロと出てくる。

 何よこれ…

 一体、何のつもり…!?

 

「奈落の果てへようこそ。マドモアゼル♪」

 

 声が聴こえた方を振り向くと、メガネをかけた中年が、丘の上の『いす』に座って余裕そうにココアシガレットを咥えていた。

 中年の男、クリハラがニヤニヤしている間にも、他の『ぷれいやぁ』がジリジリと私に詰め寄ってくる。

 

「は……?ちょっと、何よこれ。何のつもり?」

 

「お前さん、見たとこブレーンだろう?頭のいい奴に生き残られると、やりづらいんでな。悪いがここで脱落してもらう」

 

「他のチームの『ぷれいやぁ』を肉壁にして、私を『いす』に座らせないつもり…?」

 

 コイツら、私達が5ターン目でやったように、仲間を犠牲にして私一人を道連れにするつもり…?

 いくら『きばくすいっち』を早く押して『いす』を多く確保したって、『いす』に座れなければ意味がない。

 だから仲間を『げぇむおおばぁ』にしてでも、私を『いす』に座らせずに殺そうと……

 

 ……馬鹿ね。

 自分達の命を犠牲にして私達に一矢報いようとしてくる『ぷれいやぁ』なら、過去にもいたわよ。

 この程度の足止めなんて、嫌がらせにすらならないわ。

 

「甘いわよ。私がそんな手に引っ掛かるとでも?」

 

 そう言って私は、何もない方向をチラッと見た。

 すると私を足止めしてきた『ぷれいやぁ』が、私がチラッと見た方を振り向くので、私はぬかるんだ地面を蹴り上げて、『ぷれいやぁ』達に泥を浴びせた。

 

「チッ…!!」

 

 私は、『ぷれいやぁ』達が怯んだ隙に、『ぷれいやぁ』達を押し除けて『いす』を探しに行った。

 ママに教わったミスディレクションの技術。

 ブレーンの私を切り離せば『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームのチームワークを崩せると踏んだのでしょうけど…甘いわよ。

 私を頭でっかちのガリ勉だと思ったら大間違い。

 私は、アンタ達なんかには殺されないわよ。

 

 『ぷれいやぁ』共がどこに『いす』を隠したのかは、大方予想がついてる。

 このまま逃げ切って、『いす』を奪ってやる。

 私が『いす』を探し出そうとした、その時だった。

 いきなり、私の目の前で木が倒れた。

 

「っ……!!」

 

 振り向くと、クリハラがニヤニヤしながら私の方を見ていた。

 今の、まさかアイツの仕業…!?

 私が避けられなかったら、巻き添えを喰らって死んでたのに…

 自分が『るうる』違反で脱落してでも、私を殺そうっていうの…!?

 

「安心しろ。お前さんが今のを避けるのは、ちゃんと計算済みだ。流石にオレも、自分が『げぇむおおばぁ』になってまでお前さんを殺そうって程バカじゃねぇよ」

 

 クリハラは、私を見下しながら余裕そうに笑った。

 私は、すぐに別の『いす』を探しに行こうとした。

 そしたら今度は、土砂崩れが起きて足場を塞がれた。

 

「っクソ!」

 

「おいおい、口が悪いぜお嬢ちゃん。足元に気をつけな?」

 

 クリハラがそう言った直後、また木が倒れて道を塞がれた。

 私が『いす』を探しに行こうとする度に、道を塞がれた。

 

「オレがお前らの特攻にビビり散らかしてただ『いす』を守ってただけだと思うか?1ターン目からずっと、どうやってお前らを出し抜いてやろうか考えてた。お前さんの行動パターンは、既に分析済みだ。お前さんがどこへ逃げようと、オレからは逃げられない。ここがお前らだけの庭だと思ったら大間違いだぜ」

 

 あの男…

 1ターン目からずっと、この展開に持っていく為に計算し尽くしてたっていうの…?

 ……は、はは…

 

 …この程度で、私に勝ったつもり?

 こんな修羅場、今までいくらでも乗り越えてきたわ。

 私は、既に崩れた足場を渡って、クリハラが高みの見物をしている丘へと忍び寄った。

 足場が既に崩れてるって事は、もうこれ以上崩れるものがないって事。

 私なら、崩れた足場だろうと、逃げ道として使う分にはどうって事ない。

 他の『ぷれいやぁ』から『いす』を奪えないなら、コイツから奪うまでよ。

 私を嵌めて勝ったつもりでしょうけど、その余裕そうな顔を歪ませてやるわよ。

 私がクリハラの『いす』に手を伸ばした、その瞬間だった。

 

「そう来ると思ったぜ」

 

「っ!?」

 

 クリハラが一言そう呟いた直後、他の『ぷれいやぁ』が私に襲いかかってきた。

 私は、咄嗟に丘から飛び降りて『ぷれいやぁ』の攻撃を避けた。

 だけど避けた先には、他の『ぷれいやぁ』がいて、私の行く手を阻んできた。

 クリハラは、丘からゆっくり降りると、私の目の前に立ち塞がった。

 私は、行く手を阻んできた他の『ぷれいやぁ』を押し退けようとした。

 だけど丘から飛び降りた時に無理な体勢で着地したから左足を捻ったのか、身体にうまく力が入らずに当たり負けした。

 クソッ…もう体力が……

 

「お前さんの逃げ足は確かに大したもんだが、逃げる時たまにハァハァ言ってんな?『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの中じゃ、お前さんが一番体力がないと見た。オレらはお前さんを『いす』に座らせない為に、決死の覚悟でここに立ってる。お前さん1人を『いす』に座らせないくらい、5人いれば充分だ」

 

 コイツら…

 

「悪いな。チェックメイトだ、お嬢ちゃん」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒエンside

 

「姉ちゃん……?」

 

 森の奥から、大きな音が響いた。

 姉ちゃんのいる方角だ。

 何だ……?

 何が起こってんだ…?

 

「っ、そうだ、『いす』…!!」

 

 姉ちゃんの方が気になるけど、今は『いす』を『ぷれいやぁ』から奪う事が最優先だ。

 姉ちゃんを助けに行ったところで、座れる『いす』が無いんじゃ意味がない。

 俺は、姉ちゃんの分の『いす』を探し出そうとした。

 

 っと……確か姉ちゃんは、敵の残した痕跡をよく見ろって言ってたよな。

 俺は、近くの木の枝の折れ方や、木の葉の散り方なんかから、『いす』が隠してありそうな場所に目星をつけた。

 注意深く探していると、木の葉で隠してある『いす』を2つ見つけた。

 

「っしゃ、『いす』ゲット……」

 

 俺が『いす』を引っ張り出そうとしたその時、ヒヅルちゃんが木の上から飛び降りて、俺が『いす』を奪うのを阻止してきた。

 俺が『いす』に手を伸ばそうとすると、ヒヅルちゃんが俺に拳を振りかぶってくる。

 

「アンタならここに来ると思ってた」

 

「ホントオレ達ってさ。相性いいよね」

 

 ヒヅルちゃんが言うと、俺は笑って返す。

 俺ならここに来るって思ってたってさ…それってもう、俺の事好きって事じゃん?

 本当にヒヅルちゃんってば可愛いよね。

 なんて思っていると、ヒヅルちゃんは、『いす』を引っ張り出して俺の前に置いた。

 

「そんなにこの『いす』が欲しいならあげる。ただし、オレに勝ったらね」

 

 ヒヅルちゃんは、俺を睨みながら言い放つ。

 

「へぇ。面白いじゃん。どうやってオレを負かす気?」

 

 俺が尋ねると、ヒヅルちゃんはミリタリーベストとタンクトップを脱ぎ捨てた。

 上はスポブラ一枚だけになったヒヅルちゃんが、クイクイっと手招きをしながら俺を睨む。

 ……良い身体してんな。

 服を脱いだら、スタイルの良さが際立って見える。

 ここに来るまでの『げぇむ』で大怪我したのか、ところどころに切り傷の痕や火傷の痕がある。

 尚の事、良い身体だぜ。

 

「……感謝します。天に在します我らが父よ。オレを、心置きなく闘り合えるライバルに出逢わせてくれて」

 

 俺は、制服のジャケットとシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸でヒヅルちゃんの目の前に立ちはだかった。

 中学生離れした体格をした上半身を見せつけてやると、ヒヅルちゃんが僅かに目を見開く。

 

 俺は、ヒヅルちゃんとの距離を詰めると、ヒヅルちゃん目掛けて右ストレートを放つ。

 ヒヅルちゃんは、俺の拳を避けると、そのままカウンターの回し蹴りを放とうとする。

 俺は、ヒヅルちゃんの蹴りをギリギリのところでいなすと、そのままヒヅルちゃんを殴りつけた。

 俺が殴りつけると、ヒヅルちゃんは頭から地面に倒れ込む。

 俺はヒヅルちゃんの腕を掴んで、お腹に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「かはっ……!」

 

 俺がヒヅルちゃんのお腹に蹴りを入れると、ヒヅルちゃんの身体からはミシッと音が聴こえる。

 ヒヅルちゃんは、目を見開いて血反吐を吐いた。

 あーあ、肋折れちゃったかな。

 女の子相手に暴力振るうのは気が引けるけど、しょうがないよね。

 女の子以前に、神様が出逢わせてくれたライバルなんだもの。

 本気で挑まなきゃ、それこそ失礼ってもんだよ。

 俺は、地面に倒れるヒヅルちゃんを何度も蹴った。

 ヒヅルちゃんを蹴飛ばした俺は、『いす』を1つ引っ張り出した。

 

「もう1つは君にあげるよ。君には、まだ死んでほしくないからね」

 

 楽しい勝負だったけど、勝ったのは俺だ。

 俺は、『いす』を持ってその場から立ち去ろうとする。

 するとその時だった。

 

「おい…テメェ…何、人のもん勝手に盗ってんだ…?」

 

 ヒヅルちゃんは、頭や口から血を流しながらも、俺を睨みつけてきた。

 ヒヅルちゃんは立ち上がると、口に溜まった血を吐き捨てる。

 

「その『いす』は、オレに勝ったらやるっつったよなぁ…まだ勝負はついてねぇぞコラ」

 

 あはっ♪

 いいね、そう来なくちゃ。

 

 俺は、ヒヅルちゃん目掛けて蹴りを放つ。

 ヒヅルちゃんは、俺の蹴りを軽々と受け止めると、俺を睨みながらポツリと呟いた。

 

「遅ぇよ」

 

 その直後、身体の回転を活かしたヒヅルちゃんの回し蹴りが、俺の側頭部に直撃する。

 

「がっ……!!」

 

 何だ、今の……

 クッソ重ぇ…!!

 一瞬意識飛んだ…何つー馬鹿力だよ…!?

 

 俺が態勢を立て直す隙も与えず、ヒヅルちゃんは俺の顎や喉、腹に蹴りを入れてきた。

 ミサイルみてぇな蹴りが、俺の全身に突き刺さる。

 それでも俺は、何とか攻撃に耐えてヒヅルちゃんを見据えた。

 

「いいねぇ…やっぱり君、最高だよ…でも、パワーが足りないねぇ…こんなんじゃ、オレを足止めなんかできねぇぞ?」

 

 俺は、挑発するように笑いながらヒヅルちゃんに突進した。

 もう、『いす』とかどうでもいい。

 俺はヒヅルちゃんと死合いがしたい。

 俺は、ヒヅルちゃんの頭に拳を叩き込もうとした。

 するとヒヅルちゃんは、俺の攻撃を軽く受け流した。

 

「だろうね。さっきのは…踏ん張りが効いてなかったからなぁ!!」

 

 そう言ってヒヅルちゃんは、俺の顔面に思いっきり回し蹴りを入れてきた。

 俺がよろけると、ヒヅルちゃんはさらに身体を回転させて、俺の腹に蹴りを入れてきた。

 ヒヅルちゃんに蹴られた俺は、そのまま後ろの木を薙ぎ倒しながら地面に倒れた。

 

「っがはっ…!!が…ぁあっ……」

 

 俺は、血反吐を吐いてぬかるんだ地面に仰向けに寝転んだ。

 するとヒヅルちゃんが、口や鼻から出た血を拭いながら俺に話しかける。

 

「まだ動けるよね?オレもこんな事で『るうる』違反して『げぇむおおばぁ』になんかなりたくないし」

 

 俺に散々殴られて蹴られたはずのヒヅルちゃんは、笑顔を浮かべていた。

 ヒヅルちゃんの攻撃を受けて、わかった事がある。

 ヒヅルちゃんは、洒落にならないくらい強い。

 俺じゃ、手も足も出なかった。

 

 俺とヒヅルちゃんの違いは、何だ…?

 『げぇむ』は俺の方が慣れてる。

 ヒヅルちゃんは女で、俺は男だ。

 俺が負ける要素なんて、無いはずなのに…

 それなのに、何で……

 

「何、で……」

 

 俺が尋ねると、ヒヅルちゃんは俺に手を差し伸べながら話しかける。

 

「強くなりたいだけじゃなかったから。助けたい、守りたいって思えたから強くなれた」

 

 『強くなりたいだけじゃない』…か。

 ……そっか。

 俺は、初めから負けてたんだね。

 

「もう1つはアンタにあげるよ」

 

 ヒヅルちゃんは、俺の前に『いす』を置いて言い放つ。

 だけどその直後、『いす』をひょいと持ち上げた。

 

「……なんてね。アンタは二度と『いす』に座らせない。付け入る隙なんか与えない。残り時間まで震えてろ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スミレside

 

「ママ…お姉ちゃん…輝にぃ…」

 

 私は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの『いす』を守っていた。

 さっきのターンで、お兄ちゃんは自分の命を犠牲にしてまで、私達のチームに勝機を残してくれた。

 私達が『げぇむおおばぁ』になったら、お兄ちゃんの気持ちが全部無駄になっちゃう。

 何がなんでも、4人で『げぇむくりあ』してやるんだから。

 

「あら、一人でお留守番?偉いじゃない」

 

 声が聴こえた方を振り向くと、猫みたいな髪型をした女の人…ダイナが立っていた。

 ダイナは、たった一人で堂々と私に歩み寄ってきた。

 

「ねえスミレちゃん。お姉さんと一緒に遊ばない?どうせそんなところでずっと座ってたら暇でしょ?」

 

 ダイナは、ニコニコしながら私に歩み寄ってくる。

 何か企んでるのバレバレ。

 どうせ私の隙をついて、『いす』を奪おうだなんて考えてるんでしょ?

 悪いけど、付け入る隙なんて与えないから。

 私は、後ろから忍び寄ろうとしてるお兄さんに声をかけた。

 

「後ろのお兄ちゃんも、私と遊びたいの?」

 

 私が声をかけると、私を出し抜いて『いす』を奪おうとしたお兄さんが足を止める。

 どうせ、ダイナが気を引いている隙に、私から『いす』を奪うつもりだったんだろうね。

 

「まぁいいや。『いす』、持っていけば?」

 

 私は、あえて取りやすい場所に『いす』を移動させた。

 すると後ろのお兄さんは、私が置いた『いす』……じゃなくて、私に襲いかかった。

 なるほどね。

 コイツらはじめから、まずは『いす』を守ってる私を何とかするつもりだったわけ…

 

 ……うん。バカだね。

 私は、ママに教わった視線誘導の技術を使って、襲いかかってくるお兄さんの死角に入り込むと、そのまま耳元で思いっきり大声を張り上げた。

 

「わ!!!!!」

 

「っ〜!!?」

 

 私が大声で叫ぶと、お兄さんは痛みのあまり顔を歪める。

 お兄さんが動きを止めた間に、私はお兄さんの顎を思いっきり引っ叩いて頭を揺らした。

 

「うぐ……」

 

 頭を揺らされたお兄さんは、その場に膝をつく。

 頭の中がぐらぐらして気持ち悪いだろうね。

 子供を舐めるからそういう目に遭うんだよ。

 私がそう思った、その時だった。

 

「今だ、ダイナ!!」

 

 お兄さんが叫ぶと同時に、『いす』に何かが覆い被さる。

 私は、咄嗟にそれに反応して薙ぎ払おうとした。

 だけどそれは、ダイナの上着だった。

 

 その直後だった。

 私の死角に入り込んだダイナは、完全に虚をついて『いす』を奪い取った。

 

「しまっ……」

 

 その直後、ダイナは『いす』を持ったまま飛び上がって、『いす』を使って私を押さえつけてきた。

 

「ぐ……!!」

 

「大人を舐めるからこういう目に遭うのよ、お嬢ちゃん♡」

 

 私を『いす』で押さえつけたダイナは、クスリと笑った。

 すると私が頭を揺らした『ぷれいやぁ』が、ダイナに話しかける。

 

「おい…相手を拘束するのは、『るうる』違反なんじゃ…」

 

「動きを封じたわけじゃありませんよ。いくら相手が子供だからって、流石にこれで押さえつけるのは無理があります。でもスミレちゃん。あなたは別の意味でここから動けないわよね?」

 

 この女……

 まさか…

 

「あなたはここで、『いす』の守りを任されてる。年長者の指示が無い以上、ここから迂闊に動く事はできない。待たなきゃいけないっていうのは、不便なものよねぇ。『♣︎Q(くらぶのくいいん)』やお姉ちゃんの()()()()()()()とやらを」

 

「くっ……」

 

「あ、この『いす』に着席したければしてもいいわよ。だって、スミレちゃんが『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの最後の生き残りになっちゃうかもしれないから♪」

 

 この…クソババア…!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

イバラside

 

 『げぇむ』が始まってすぐ、森の中へ駆け込んだ私は、『ぷれいやぁ』が隠していた『いす』を見つけた。

 『いす』を守る見張りは、誰もいない。

 罠の可能性を懸念しつつも『いす』を奪った、その瞬間だった。

 

「そんなにその『いす』が欲しけりゃくれてやる」

 

 私が『いす』を奪うと、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、ヘイジ君とマヒル君が立っていた。

 

「その代わり、知ってる事を洗いざらい話してもらう。今ここで」

 

 ヘイジ君は、私に一歩ずつ歩み寄りながら話す。

 どうしてそんなに、『答え』を知りたがるのかしらね…

 私は、『いす』を持ったままヘイジ君とマヒル君に話しかける。

 

「どうして今になってそんな話を?」

 

「今この国に残っている『げぇむ』は、この『げぇむ』を含めてたったの3つしかない。だからこそ、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の君の口から、話を聞きたいんだ。この『げぇむ』は1チームしか生き残れない。このターンで脱落するのは君かもしれないし、僕達かもしれないから…今のうちに君と話しておきたくて」

 

 私が尋ねると、マヒル君がそれらしい事を言った。

 私の後ろには、他の『ぷれいやぁ』が2人立っている。

 ここで時間稼ぎでもするつもりかしら?

 私を子供達と合流させないため?

 4対1だとちょっと不利ね…

 

「…仕方ないわね。できればこの話は、もう少し人数が減ってからしておきたかったのだけれど…少し、昔話をしましょうか」

 

 私は、『ぷれいやぁ』達の隙のない構えに内心少し感心しつつ、話を始めた。

 これは、私がこの国に来る前の話。

 

「私達は、神でも悪魔でもありません。あなた達が推測している通り、あなた達と同じようにこの国に迷い込んだ元『ぷれいやぁ』で、あなた達と同じただの人間です。私の元の世界での職業は、孤児院の院長でした」

 

「孤児院の…?じゃあアンタと一緒に『げぇむ』に参加してる子供達は、その孤児院の…」

 

「ええそうよ。あの子達は、私の孤児院にいた子達。私が孤児院の院長をしていたのはね。私が学生時代に働いてた孤児院を継いだのが始まりなの。子供の頃は毎日の食事にすら困るほど貧乏でね。親がいなかったから、弟と一緒に施設を転々としてた。弟を支える為にも、私は一銭でも多く稼がなきゃいけなかった。そんな私を雇ってくれたのが、その頃の院長だったの」

 

 私は、ヘイジ君達にこの国に来る前の話をした。

 …今となっては、懐かしいわね。

 もうあの世界に戻る事は、叶わなくなったけれど。

 

「私がこの国に迷い込んだのは、子供達と買い出しに行っていた時だったわ。あの日、あなた達と同じように花火を見て、この国に迷い込んだ……そして今のあなた達のように、子供達と一緒に『げぇむ』を勝ち抜いて、『今際の国』の国民に成り代わった…どう?あなた達の知りたい事は聞けた?」

 

「それは、全ての『げぇむ』を『くりあ』した後、この国で永遠に『げぇむ』を続ける権利を…『永住権』を自らの意思で手に入れた、と…そう捉えていいわけだ。元の世界に帰る場所も、帰る理由もあった君達が、どうしてこの国に残る事を選んだんだい…?」

 

 私が話すと、マヒル君が質問をした。

 どうしてこの国に残る事を選んだのか…か。

 別に今ここで話してもいいけど、それを話したら皆が『げぇむ』にやる気を失くしてしまうかもしれないのよね。

 

「……さぁ。どうしてかしらね」

 

 私は、この国に残る事を選んだ理由を、『ぷれいやぁ』の皆には話さなかった。

 私が話をはぐらかすと、今度はヘイジ君が質問してくる。

 

「おい。まだ一番聞きたい事を聞いてないぞ。この国は、一体何なんだ?誰が、一体何の目的で、オレ達をこの国に連れてきて『げぇむ』なんてものをやらせてるんだ…?罪を贖う為の試練…本当にそんなものが、オレ達の求めていた『答え』なのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 私がキッパリと断言すると、『ぷれいやぁ』達がざわつく。

 私は、『ぷれいやぁ』達の反応を確認してから、笑いながら続ける。

 

「…と言ったら、あなた達はどうするんですか?」

 

「……は?」

 

「私を拷問して、納得のいく『答え』を聞き出す?私じゃ信用できないなら、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』か『♡Q(はあとのくいいん)』にでも会ってみる?それとも、この世界にあなた達を連れてきた“誰か”に、『元の世界に帰してください』ってお願いでもしてみる?それとも…今ここで死ぬ?」

 

 私が言うと、『ぷれいやぁ』達は何も言い返せずに黙り込んだ。

 私はそんな『ぷれいやぁ』達に対して、笑いながら言い放つ。

 

「ほら、何もできませんね?余計な事なんか考えなくていいの。どうせ何もできないんだから。あなた達はただ、生き残る事だけを考えていればいいのよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 イバラは、俺達を見下したように笑いながら言った。

 イバラは、クスッと笑ってから、『いす』を持って俺達の目の前から立ち去ろうとする。

 

「…それじゃあ、私はそろそろ行きますね。あ、そうそう。たった今、娘から報告が入りました。娘が、ダイナさんからあなた方の作戦を聞き出したみたいです」

 

「な……!!お前ら、まさかダイナを…!?」

 

「彼女の命が心配なら、今すぐにでも助けに行った方がいいですよ…曲がりなりにも、仲間なんでしょう?」

 

 イバラは、俺達の目論見を見透かしたように、『いす』を片手で持ち上げながら言った。

 作戦を聞き出したって事は、ダイナは……

 

「ダイナ…!!」

 

「ヘイジ君、行ったらダメだ!」

 

 俺がすぐにダイナと合流しようとすると、マヒルさんが俺を止める。

 

「でも、このままだとダイナが…!」

 

「彼女の言葉は、十中八九ハッタリだ。仮に本当だったとしても、着席していない参加者を自力で移動できなくする行為は、『るうる』で禁止されてる。それに、作戦がバレていようがいまいが関係ない。僕達が今すべき事は、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』を仲間と接触させない事…そうだろう?」

 

 マヒルさんの言葉を聞いた俺は、ようやく冷静になった。

 このターンでの俺達の作戦の要は、数の利を生かして『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを分断し、ターンが終了するまで誰一人接触させない事だ。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームのチームワークは大したものだが、それは最後に『いす』に座る為に合流するという前提があってこその連携だ。

 そこを切り崩しさえすれば、俺達にも勝機がある。

 

 他者を自力で移動できなくする行為は『るうる』で禁止されてるが、それはあくまで殺害や拘束等で自力で歩けなくするのがダメって話であって、時間稼ぎしまくって一ヶ所に留まらせるのは『るうる』違反じゃない。

 クリハラさんはユリアを、ヒヅルはヒエンを、ダイナはスミレを、俺とマヒルさんはイバラを引きつけて、制限時間いっぱいまで合流を妨害する。

 

 仲間と合流する為に俺達にハッタリをかまして連携を崩す事が、イバラの狙いなんだ。

 だったら俺が今すべき事は、ダイナを助けに行く事じゃない。

 俺自身の役目を全うする事だ。

 

「あら。仲間を見捨てるんですか?冷たいんですね」

 

 俺達がハッタリに釣られなかったのが面白くなかったのか、イバラは冷たい視線を向ける。

 そのままイバラが立ち去ろうとするので、他の『ぷれいやぁ』2人がイバラを足止めする為に立ちはだかる。

 『ぷれいやぁ』に行く手を阻まれたイバラは、コキッと手を鳴らして言い放つ。

 

「…私、もしかして弱いと思われてる?」

 

 イバラがそう言った直後、他の『ぷれいやぁ』2人はイバラに向かって突進した。

 ……ダメだ。

 この2人が、イバラに勝てる未来が見えない。

 イバラが2人を見据えてスッと目を細めながら無駄のない身体運びで一歩前に出ると、それを見てハッとしたマヒルさんが2人に向かって叫ぶ。

 

「よせ、退くんだ!接近戦じゃ勝てない!」

 

「舐めんな!!たかが女1人に、オレ達が負けるかよ!!」

 

「こんな女1人、2人で同時にかかれば…!!」

 

 2人は、マヒルさんの制止を無視して、イバラ

 するとイバラは、最小限の力で『ぷれいやぁ』2人の攻撃をいなし、顳顬と顎に掌底を叩き込んだ。

 

「がっ…!?」

 

「ぐふっ…!!」

 

 イバラの掌底を喰らった2人は、その場に倒れ込む。

 ほとんど腕力を使わずに男2人を瞬殺したイバラは、不敵な笑みを浮かべる。

 

「人体の急所と力積さえ知っていれば、非力な女でも侮れないものでしょ?パワーの差は、知恵とテクニックで補うまでよ」

 

「瞬殺……!!」

 

「私が孤児院で子供達を育てると決めた時、最初に極めたのは、学問でも家事でもなく、武術でした。世の理不尽から身を守る方法を子供達に教える為に、まずは私が正しい力の使い方を修めなければならなかった」

 

 そう言ってイバラは、今度は俺に歩み寄ると、すかさず顎を軽く打ってくる。

 脳を揺らされて立っていられなくなった俺は、思わず膝をついた。

 

「ぁぐ…!!」

 

「ヘイジ君!」

 

 俺が膝をつくと、マヒルさんが叫ぶ。

 その直後、イバラがマヒルさんに接近して、俺達と同じように倒しにかかった。

 咄嗟にイバラの攻撃を防いだマヒルさんは、何かに気付いたのか、驚いた表情を浮かべる。

 

「…!?君は、まさか……」

 

「チッ…」

 

 マヒルさんが何かに気付くと、イバラは舌打ちをしながら大きく距離を取って、蹴りで木の葉を散らしてマヒルさんの視界を塞いだ。

 木の葉が全て地面に落ちる頃には、イバラはいなくなっていた。

 

「クソッ…やられた…!!あの女…!!」

 

「ヘイジ君、立てるかい?」

 

 俺が起き上がろうとすると、マヒルさんが手を差し伸べてくれた。

 

「…作戦は失敗だ。僕達の見通しが甘かった。彼女を取り逃してしまった以上、今は『いす』をできるだけ多く確保して、このターンでの犠牲者をできるだけ減らす事を考えないと…」

 

 マヒルさんは、すっかり熱くなっていた俺に現実的な話をした。

 マヒルさんの言う通り、俺達の見通しは甘かった。

 今までの『げぇむ』がそうだったように、決死の覚悟で挑めば『今際の国』の国民に一矢報いる事ができるんじゃないかと、心のどこかで思っていた。

 その覚悟すら、イバラの前では吹けば飛んじまう程軽いものだったんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スミレside

 

 私は、ダイナに『いす』で押さえつけられて動けずにいた。

 正確には動こうと思えば動けるけど、ママからの指示がないせいで迂闊に動けない。

 このままここで制限時間が過ぎるのを待つしかないのかと思った、その時だった。

 今まで何の反応もなかった腕輪が振動した。

 

 ……やった。

 ママが、うまく奴等を出し抜いたんだ。

 だったらもう、私がここに留まらなきゃいけない理由はない。

 輝にぃとお姉ちゃんのところに行かないと。

 

「…お姉ちゃん達。ハエみたいにしつこくて邪魔くさいからさ。害虫駆除しないとね」

 

「はぁ?害虫駆除?できるならしてごらんなさいよ」

 

 私が言うと、ダイナがバカにしたように笑う。

 私は、ダイナともう1人の『ぷれいやぁ』に向かって、虫除けスプレーを思いっきり吹きかけた。

 至近距離で虫除けスプレーを喰らったダイナは、激しく咳き込む。

 

「っ!?ゲホッ、ゲホッ…!!」

 

 私は、ダイナが苦しそうに咳き込んだ隙に、『いす』を持ってその場を離れた。

 残り時間は、あと1分もない。

 早く輝にぃかお姉ちゃんと合流しないと。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

 俺は、『いす』に座ったまま、ヒエンを見張っていた。

 せっかく分断したんだ。

 コイツには、『いす』に座らせない。

 

 このまま制限時間が過ぎれば、コイツは確実に『げぇむおおばぁ』になる。

 だけど制限時間の5秒前、状況が急変した。

 

「輝にぃ!!」

 

 ダイナが足止めしてたはずのスミレが、俺のところに来た。

 子供は、ヒエンに向かって『いす』を投げた。

 そしてそのまま、俺が確保していたもう一つの『いす』に座ろうとする。

 

「チッ……!」

 

 2人同時には対処できない。

 だったら、せめて1人でもこのターンでぶっ殺す…!!

 俺は、『いす』に座ろうとするスミレを体当たりで吹っ飛ばそうとする。

 だけどその瞬間、スミレが虫除けスプレーを俺の顔面に吹きかけてくる。

 俺はそれと同時に、香辛料を混ぜて作った手作りの催涙スプレーをスミレの顔面に吹きかけた。

 

「ガハッ…!!」

 

「ゲホッ、ゲホッ…!!」

 

 スミレと相打ちになった俺は、勘を頼りに、スミレが座ろうとしていた『いす』に飛びついた。

 その間、コンマ数秒。

 俺が『いす』に飛びついた瞬間、制限時間が0になった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ユリアside

 

「ッハァ…ハァ……クソ……!!」

 

 トラップと『ぷれいやぁ』の攻撃から逃げ続けていた私は、体力に限界を迎えていた。

 このまま『いす』に座れなきゃ、本当にここで脱落する…!!

 何か、何か打開策は無いの…!?

 私が必死にこの窮地を切り抜ける方法を探していた、その時だった。

 

「おい、お前ら!!すぐに『いす』を確保しに行け!!この作戦は、失敗だ!!」

 

「は…?どういう事だよそれ!?」

 

「ヘイジ達がしくじった!!今はソイツに構ってる場合じゃない!!全員、生き延びてこのターンを凌ぐ事だけ考えろ!!」

 

 クリハラは、私を道連れにしようとした奴等に向かって叫んだ。

 すると、その時だった。

 

「ぐあっ…!!」

 

 いきなりクリハラの頭に石が飛んできて、石が直撃したクリハラは『いす』ごと丘から転げ落ちる。

 石が飛んできた方向を見ると、そこには木の枝の上に登ったママがいた。

 ママは、木から降りると、『いす』を掴んで私に投げてくる。

 

「ユリア!!」

 

 ママが投げた『いす』は、放物線を描きながら私の方へ飛んでくる。

 すると他の『ぷれいやぁ』が、私を『いす』に座らせまいと妨害してくる。

 私は、『ぷれいやぁ』の間をすり抜けて、『いす』に向かって手を伸ばした。

 私が『いす』の足を両手で掴んだ、そのコンマ数秒後、制限時間が0になる。

 

「命を捨てれば、私達に届くと思った?ここに来るまでに積み上げた努力と経験が、決死の覚悟が、『げぇむくりあ』への執念が、私達をも凌駕するとでも思った?」

 

 ちょうど木の真下にあった『いす』に座ったママは、私を足止めしていたせいで『いす』に座れなかった『ぷれいやぁ』達を嘲笑った。

 その時、アナウンスが鳴り響く。

 

《制限時間になりました。ここで、『いす』に座れなかった方がおられます》

 

「ここに来るまで、相当努力したのでしょうね。私達を斃す為に、相応の覚悟で挑んだのでしょうね。認めるわ」

 

《その方は、『げぇむおおばぁ』》

 

「でもね…()()()()()、オバサンと子供の戯れで簡単に崩せるの。こればっかりは、年季の差ね」

 

 そう言ってママは、『ぷれいやぁ』達に微笑んだ。

 優しく妖艶に微笑んだママは、『げぇむおおばぁ』になった『ぷれいやぁ』達からすれば、どんなに恐怖と絶望を抱かせた事だろう。

 『ぷれいやぁ』達が最期に見たのは、悪魔の微笑みだった。

 

 

 

 ――ピィン!!

 

 ――ズッ…

 

 

 

 『ぷれいやぁ』達の頭に、レーザーが降り注いだ。

 たった今、私を妨害してきた4人の『ぷれいやぁ』が、神の元へ帰った。

 

 

 

 『げぇむ』『いすとり』

 

 難易度『♣︎Q(くらぶのくいいん)

 

 7ターン目 残り12名

 

 

 

 

 

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