Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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くらぶのくいいん(7)

イバラside

 

《それでは、9ターン目を開始します》

 

 9ターン目が始まると同時に、私達は森の中へと駆け込み、真っ先に『きばくすいっち』を押した。

 さっきのターンで『いす』を3脚消したから、マヒル君のチームは今『いす』を2脚持ってる。

 『きばくすいっち』を押すと『1』と表示されたので、私はマヒル君のチームの『いす』を1脚消した。

 これで次のターンでの生き残りは、私達のチームただ一つになる。

 

「あの人達、本当にこのまま何もしないつもり…?」

 

「オレ達に勝てねぇってわかって諦めたんだろ。『きばくすいっち』はオレ達が押した。オレ達が一塊になってここから動かねぇ限り、奴等に勝機なんかねぇよ」

 

「これで終わりね」

 

 このターンの残り時間は、あと5分。

 ヘイジ君達は一体、()()2人を生かして、どの3人を殺すつもりなのかしら?

 そう思っていた、その時だった。

 

 

 

 ――ボォオオオン!!

 

 

 

「………!?」

 

 突然、どこからか爆発音が響いた。

 『いす』を爆破する音じゃない…!!

 何これ…どこで、()()爆発した音…!?

 

「何、今の音…!?」

 

「爆発…!?一体どこから…」

 

 突然の爆発に、スミレとユリアも動揺していた。

 するとその時、輝彦が西の方角を指差す。

 

「おい、見ろよアレ…!!」

 

 輝彦が指差した先には、黒煙が上がっていた。

 あの煙は…

 まさか…まさか…!!

 

「教会よ…私達の」

 

 やられた…!!

 アイツら…私達の教会を爆破したっていうの…!?

 

「教会だと…!?けど、教会が爆発したって何の問題も…」

 

「いいえ、大有りよ」

 

 輝彦が言うと、ユリアが首を横に振る。

 ユリアの言う通り、教会を爆破される事は、私達にとって最悪の事態。

 教会を爆破されるって事は、『げぇむ』を成立させるのに必要な『ぽおる』ごと吹き飛ばされるって事だから。

 『ぽおる』を吹き飛ばされたら、私達は『ぽおる』に触れない。

 『ぽおる』に触る事ができなければ、次のターンで着席できない。

 それはつまり、私達の『げぇむおおばぁ』が確定するって事。

 

「確かに…走れなくするのは『るうる』で禁止されていたけど、()()()()()は『るうる』で禁止されてなかった…!」

 

「だからって、『ぽおる』を教会ごと吹き飛ばしたりなんかするかよ普通!?だって、『ぽおる』を吹き飛んじまったら困るのは、アイツらだって同じじゃねぇか!!」

 

「いいえ、アイツらならやりかねないかも…?それとも、アイツらは既に自分達の『ぽおる』だけ安全な場所に移動させた…?どうやって…?」

 

 スミレと輝彦、そしてユリアは、想定外の事態に困惑していた。

 『ぽおる』を吹き飛ばされていたら、私達の『げぇむおおばぁ』が確定してしまう。

 だったら、やるべき事はひとつ。

 

「皆はここで待ってて!」

 

 私は、『いす』の見張りを子供達に任せて、森を全速力で駆け抜けて教会に戻った。

 まずは、『ぽおる』の無事を確認しないと…!

 

 私が森を抜けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 『ぽおる』が設置してある教会の裏から、炎と黒煙が上がっていた。

 幸い、雨のおかげで森にまで炎が広がる事はなかったけど、『ぽおる』の無事を確認するまでは安心できない。

 『ぽおる』は…教会の裏……!!

 私は、『ぽおる』の状態を確認する為に、すぐに教会の裏に駆けつけた。

 

 教会の裏にある5本の『ぽおる』は、全部無事だった。

 炎を上げていたのは、教会の裏に設置してあるゴミ箱だった。

 私が『ぽおる』の無事を確認して安堵のため息を漏らした、その時だった。

 

「おやおや、やけに焦ってるじゃねぇか。オネーチャン」

 

 私が振り向くと、そこには余裕そうな笑みを浮かべて『いす』にどっかりと座るクリハラ君がいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

クリハラside

 

 俺は、『いす』に座って、足を組み替え頬杖をついてほくそ笑みながらイバラを見た。

 何が起こったのかわからねぇって顔してやがるな。

 俺は、驚いている様子のイバラを見て、俺達のチームの勝利を確信した。

 

「イスカリオテのユダ」

 

 俺がポツリと呟くと、イバラは怪訝そうな表情を浮かべる。

 俺はそんなイバラに対し、余裕を見せながら話を振る。

 

「ユダは銀貨30枚でイエス・キリストを売り、『裏切り者』の代名詞にもなっているが…オレはこの説に少々疑問を呈したい。そもそもユダは、本当に裏切り者だったのかね?」

 

「え……?」

 

「全てを見通せるはずのキリストなら、ユダの裏切りを予知して、事前にそれを防ぐ事だってできたはずだ。なのにあえてそれをしなかったのは何故だと思う?」

 

 俺は、小学生の頃に考えた事を、そっくりそのままイバラに話した。

 イバラは、俺の話よりもいきなりゴミ箱が爆破された事に対する驚きと焦りの方が勝っているのか、ここまで話してもまだ、俺が言いたい事の本質を理解していない様子だった。

 

「オレは、視点を変えて、こう考える事にした。キリストはユダに裏切られたんじゃなく、()()()()()んじゃないかって。全ては、自分を神格化し、完全な存在として復活を果たす為の布石だった。オレの考えが正しければ、ユダは裏切り者どころか、託された密命を果たした、誰よりも忠実な使徒だったって事になる」

 

 俺が言うと、ようやく俺が何をしたのかを全て理解したイバラは、大きく目を見開く。

 イバラが全て理解した事に気付いた俺は、今自分にできる精一杯の悪い男の笑顔をしてみせる。

 

「まさか…あなた達…!!」

 

「やっと気付いた?お前らは、嵌められてたんだよ。初めから」

 

 そう。

 さっきのターンでヘイジ君とヒヅルが戦犯ムーブをかましてチームの足を引っ張ったのも、アイツらが見てるところで仲間割れを起こしたのも、チームを見限ったダイナが孤立したのも、全ては俺が指示した事だ。

 俺が他のチームに協力を持ちかけた時点で、俺は2つの作戦を軸にこの『げぇむ』を動かしていた。

 

「勿論、分断した時点でお前らを脱落させられれば、それが理想だった。だが、お前らが一筋縄じゃいかない事くらいわかってた。だから、プランAでお前らを分断し切れなかった時のプランBは、もちろん用意してあったさ。他のチームは、プランBも織り込み済みでオレ達に協力してくれたよ。お前ら『今際の国』の国民を、確実に潰す為にな」

 

 まずは、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームを分断して確実に1人ずつ削っていくプランA。

 そして、プランAが失敗した時の為の、プランB。

 プランBを実行するには、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの勝利を確実なものにする必要があった。

 奴等が『いす』と『きばくすいっち』を独占し、俺達のチームワークが崩れた、この理想的な状況が欲しかった。

 奴等に勝利を確信させて最大限に気持ち良くさせて、油断し切った『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームに、『ぽおる』の爆破というイカレたアクションをぶち込む。

 そうすりゃあ、奴等はパニックを起こして、よく考えもせずに『ぽおる』を確認しに来る。

 万が一にも『ぽおる』が吹き飛んじまえば、次のターンで着席できずに全員『げぇむおおばぁ』になっちまうからな。

 イバラの性格的に、焼死のリスクを冒してまでテメェの子供に『ぽおる』の無事を確認させるような奴じゃねぇだろうから、『ぽおる』を確認するなら高確率でイバラ本人が来る。

 全ては、イバラを『いす』から引き剥がす為の布石だ。

 

 この作戦の下準備をしたのは、『げぇむ』の準備時間中だ。

 俺、マヒル、ヘイジ君の3人が他のチームの説得をしている間、ヒヅルとダイナには、教会中を片っ端から探して、爆発物になりそうなものを集めてもらっていた。

 さっきダイナが孤立したのは、ゴミ箱に仕込んだお手製爆弾に着火してもらう為だ。

 完全に自分達が勝ったと思って油断した『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームは、孤立したダイナにまでは注意を払っていなかったがな。

 

 まさか奴等も、俺達が教会を爆破するとは思わなかっただろう。

 完全に油断し切って俺達を舐め腐っていたからこそ、想定外の事態に動揺してのこのことこんな所に来ちまった。

 

 ヒヅルが、怪物(バケモン)に勝つには自分達も怪物(バケモン)にならなきゃいけないと言っていた。

 勝つ為なら、相手の考えを何十手先まで読んで、頭のネジをぶっ飛ばすくらいの事、してやるさ。

 

「私達が…嵌められてた…?最初から…!」

 

 イバラは、前髪を掻き上げながら俺を睨んだ。

 イバラは、この『げぇむ』を自分の思い通りに動かせていると思っていたようだが、それは違う。

 この『げぇむ』を思い通りに動かしていたのは、俺達だ。

 

「残念だったな、お嬢ちゃん。お前ら全員、ここで『げぇむおおばぁ』だ」

 

 俺は、ココアシガレットを歯で挟んでパキッと折りながら、イバラを煽ってみせた。

 さっきのターンまで余裕そうに笑っていたイバラは、ここに来て初めて、怒りに顔を歪めた。

 なぁんだ、ちゃんと人間らしい顔できんじゃねぇか。

 …いいね、その顔が見たかった。

 

「……クソッ!」

 

 俺に散々煽られたイバラは、血相を変えて森に戻る。

 それが、俺が仕組んだ罠だとも知らずに。

 

 いいぞ、急いで仲間のところに戻れ。

 お前が『いす』を守る為に戻った道が、お前の墓場だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒエンside

 

 教会の方から黒煙が上がっているのを見たママは、血相を変えて様子を見に行った。

 俺達は、ママに言われて、確保した『いす』を3人で守っていた。

 

「ママ遅いね……」

 

「本当に『ぽおる』が吹き飛んじまったんじゃ…?」

 

「確かに、自棄を起こしたアイツらならやりかねないけど…」

 

 俺達3人は、なかなか戻ってこないママを心配していた。

 様子を見に行くだけにしては、戻ってくるのが遅い。

 残り時間も、あと2分しかない。

 このままママが戻ってこないと、ママは『げぇむおおばぁ』になっちまう。

 それでも、俺達が『いす』に座ってさえいれば、俺達が全員『いす』に座れず『げぇむおおばぁ』っつー最悪の事態は免れる。

 何としてでも、この『いす』だけは死守する…!!

 俺がそう思った、その時だった。

 

 ザッ、と森の奥から足音が聴こえる。

 聴こえてきた足音は2つ。

 1人はマヒルとかいう男の『ぷれいやぁ』、そしてもう1人は…

 

「あはぁ♪まぁた会えたねぇ、ヒヅルちゃん!」

 

 ヒヅルちゃんが、俺の前に現れた。

 この子、絶対俺の事好きじゃん。

 こう何度も誘われちゃ、もうじっとしてなんていられないじゃんかよ。

 

「じっと『いす』に座ってるだけなんて、じれったくてしょうがないんでしょ?どうせなら、()()()オレと一緒に踊ろうぜ」

 

「やめなさいヒエン!そんなわかりやすい挑発に乗せられてんじゃないわよ!!」

 

 姉ちゃんは、ヒヅルちゃんの誘いに乗ろうとしている俺を止めた。

 でもさ…最高の好敵手が誘ってくれてんだ。

 乗ってやらなきゃ、男が腐るってもんだろう?

 

「悪いな姉ちゃん、ちょっと踊ってくるわ」

 

「ヒエン!!」

 

 俺は、姉ちゃんの制止を無視して、ヒヅルちゃんに飛びかかって思いっきり蹴りを振り抜いた。

 するとヒヅルちゃんは、最小限の動きで俺の蹴りをいなすと、距離を取って手招きしてきた。

 あはっ、いいね。

 そう来なくっちゃ♪

 

 俺は、逃げるヒヅルちゃんに何度も攻撃を仕掛けた。

 だけどヒヅルちゃんは、俺の攻撃を避けるばかりで、一向に攻撃を仕掛けるそぶりを見せなかった。

 攻撃らしい攻撃は、俺に木の葉を散らして雨粒を飛ばしてきたり、川の水をかけてくるくらいで、大したダメージにはならなかった。

 ママに負わされた怪我がまだ響いてるのかな?

 欲を言うなら、万全な状態のヒヅルちゃんと戦り合いたかったけど…しょうがないか。

 

「避けてるだけじゃ勝てねぇって、知らねぇのか!?」

 

「っ……」

 

「ヒヅルちゃんが踊りたいって言ったんだぜ?もっとオレと踊ろうぜ!」

 

 俺は、避けてばかりのヒヅルちゃんを煽った。

 するとヒヅルちゃんは、ママに怪我させられたはずの右手で、俺の拳を受け止めた。

 

「あー、やっぱりダメだなお前。ウチのチームの野郎共の方がよっぽどイカしてるよ」

 

「あ?どういう意味だ?」

 

「バァカ。ダンスってのは、相手にテンポ合わせるもんだろうが」

 

 ヒヅルちゃんはそう言って、俺の腕と襟首を掴んだ。

 

「Un…」

 

 俺の腕と首を掴んだ彼女は、身体を回転させながら腕をグイッと引っ張る。

 

「Deux…」

 

 ヒヅルちゃんに身体を引っ張られて、俺の身体は宙に浮いた。

 その直後、ヒヅルちゃんが俺の背中を思いっきり地面に叩きつけてきた。

 

「Trois!!」

 

 背中を叩きつけられた瞬間、俺の下から『カチッ』と音が聴こえる。

 その瞬間だった。

 

 

 

 ――バチバチバチィッ!!

 

 

 

「ぁが…!!」

 

 突然、俺の全身に電撃が走った。

 焼けるような痛みが全身に迸って、身体がガチガチに固まって動かなくなった。

 な…んだ……これ……!?

 さっき俺は、一体何を踏んだ…!?

 

 …そういえば、一度押された『きばくすいっち』は、横取り防止の為に、押した参加者以外が触れると電流が流れる仕様にしてあるって姉ちゃんが言ってた…

 その仕掛けを利用して、俺が『きばくすいっち』を踏むよう誘い込んだ…!?

 さっき雨粒を飛ばしてきたり川の水をかけてきたりしたのは、俺に電撃を浴びせるため…!?

 最初から、これが狙いで…!!

 

「悪いけど、お前じゃオレに釣り合わないから。出直して来な、お坊ちゃん」

 

 そう言ってヒヅルちゃんは、元いた場所に全速力で戻っていく。

 動けねぇわけじゃねぇけど、全身が痛え…!!

 

 てっきり、ゴリゴリの武闘派かと思いきや…

 何だよ、メチャクチャクレバーでクレイジーな女じゃねぇか。

 いいねぇ…シビレるぜ…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スミレside

 

 輝にぃは、『いす』の守りも忘れてヒヅルちゃんを追っかけた。

 もう、輝にぃのバカ!

 何あんな挑発に乗せられちゃってんのよ!

 後でママに言いつけてやる!

 

「っ!!」

 

 私が呆気に取られていると、マヒル君が私達に突進してきた。

 何をする気…?

 いくら私達が女子だからって、ママに育てられた私達2人を、1人でどうにかできると思ってるの?

 

「今だ、ダイナ!!」

 

 マヒル君は、私達に向かって突進しながら叫んだ。

 だけど何も起こらなかった。

 

「何よ、やっぱりハッタリじゃない!あの女はあなた達と決別したんでしょう?今更助けに来るわけ…」

 

 お姉ちゃんが『今更助けに来るわけない』、そう言いかけた、その時だった。

 突然マヒル君の背後から人影が現れたかと思うと、ソイツはマヒル君の身体を飛び越えて、通り過ぎざまに『いす』を奪い取った。

 

「誰が決別したって?」

 

「な…!?」

 

 いきなり現れて『いす』を奪い取ったのは、マヒル君達に愛想を尽かして決別したはずのダイナだった。

 ダイナは、懐から何かを取り出すと、それを私とお姉ちゃんに向けてきた。

 その直後、私とお姉ちゃんは、ゲル状の何かを全身に浴びる羽目になった。

 

 何これ、すごいヌルヌルするんだけど…?

 このオバサン、今私達に何をかけたわけ…!?

 私とお姉ちゃんが混乱した、その時だった。

 

「っ!?」

 

 マヒル君が、いきなりお姉ちゃんの『いす』の足を蹴ってきた。

 普通なら、『いす』の足を蹴られたくらいで、どうにかなるはずがない。

 だけどさっきダイナが浴びせたゲル状の何かのせいで、軽く蹴りを入れられただけで『いす』が横転して、お姉ちゃんの身体は宙に投げ出された。

 

「しまっ…!!」

 

 『いす』から投げ出されたお姉ちゃんは、咄嗟に『いす』を掴んでもう一度着席しようとしたけど、ダイナが浴びせてきたヌルヌルのせいで手が滑ってしまった。

 マヒル君が蹴ったせいで横転した『いす』は、そのまま勢いよく滑っていったかと思うと、さっき私達にヌルヌルを浴びせてきたダイナがキャッチした。

 私達が呆気に取られている間にも、マヒル君がもう1つの『いす』を奪って着席した。

 これで私達のチームの『いす』は、私が今着席している『いす』1脚だけになってしまった。

 

「アンタ…今、何を浴びせたわけ…!?」

 

 ヌルヌルのせいで転んで地面に膝をついたお姉ちゃんは、ダイナに尋ねる。

 するとダイナは、さっき私達に向けてきた筒状の容器を投げる。

 ダイナが投げたのは、ローションの容器だった。

 

「乙女の必需品♪」

 

 そう言ってダイナは、不敵な笑みを浮かべる。

 このババァ…!!

 

「お姉ちゃん、私どうしたら…」

 

 私は、『いす』から投げ出されたお姉ちゃんに尋ねる。

 お姉ちゃんは、地面に靴を擦りつけて、靴についたローションを取ってから、『いす』を奪ったダイナに飛びかかった。

 

「スミレはそこに座ってて!」

 

 そう言ってお姉ちゃんは、ダイナから『いす』を奪い返そうとする。

 するとその時、ダイナが、最初に奪った方の『いす』を掴んで真上に投げた。

 

「なっ…!?」

 

 突然ダイナが『いす』を真上に投げたものだから、お姉ちゃんの意識はどうしてもそっちに向かってしまった。

 お姉ちゃんが真上に放り投げられた『いす』に気を取られた一瞬の隙に、ダイナが『いす』に着席する。

 そしてダイナが真上に投げた『いす』は、放物線を描いて落下を始める。

 お姉ちゃんが『いす』に手を伸ばした瞬間、誰かが『いす』に飛びついて、お姉ちゃんが『いす』に触れる前に着席した。

 

「ナイスパス」

 

 そこには、さっき輝にぃを挑発してどっかに消えたはずのヒヅルちゃんがいた。

 着席したヒヅルちゃんの腕輪のランプは、赤色から緑色に変わる。

 残り時間は、あと3秒。

 『♣︎Q(くらぶのくいいん)』チームの中で着席しているのは、私1人だけだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

イバラside

 

 迂闊だった…!

 私とした事が、まんまと嵌められた…!!

 まさか、最初から私達を出し抜くつもりだったなんて…!

 

 じゃあ何?

 さっきのターンで、ヒヅルちゃんが私に突進して返り討ちに遭ったのも、ヘイジ君が怒りに身を任せて私を殴ってきたのも、あの時2人が見せた涙も、全部演技だったっていうの…!?

 

 ……いや、今はそんな事、大して重要じゃない。

 問題は、私達のチームがこのターンで『げぇむおおばぁ』になる可能性も十分にあり得るって事。

 最悪のパターンは、私が『ぽおる』を確認している間に、ヘイジ君達が私達の『いす』を奪う為に全員で襲撃を仕掛けているパターン。

 もしダイナさんの離反がクリハラ君の指示だとしたら、ダイナさんはとっくにヘイジ君達と合流して襲撃に参加してる可能性が高い。

 残り時間は、あと1分。

 何としてでも『いす』を死守して、このターンを凌ぐのよ…!!

 

 私は、全速力で『いす』の隠し場所に向かった。

 その周辺には、案の定、ヒヅルちゃんとマヒル君、そしてダイナさんの靴の痕が残っていた。

 そこで私は、やっぱりクリハラ君達が全員で襲撃を仕掛けるつもりだった事を確信する。

 だけど、私はここで、重要な事を見落としていた事に気がつく。

 

「…………!?」

 

 私は、クリハラ君の挑発に乗せられて冷静さを欠くあまり、致命的な見落としをしていた。

 

「ヘイジ君の靴の痕だけ、無い……?」

 

 私が気付いたその時、背後に気配を感じた。

 私が咄嗟に振り向くと、私の後ろには、血まみれになったヘイジ君が立っていた。

 ヘイジ君は、私が受け身を取るよりも早く、私の右の手首を掴んだ。

 

「っ!?」

 

「これは、ヒヅルの分」

 

 そう言ってヘイジ君は、私の右肘に渾身の膝蹴りを入れてくる。

 ボキッと何かが折れる音が響いたかと思うと、ヘイジ君はそのまま私の右腕を引っ張った。

 すると肘から先が、()()()()()()()

 ヘイジ君は、私の腕を見せつけながら口を開く。

 

「7ターン目にアンタがオレ達を撒いた時、マヒルさんが気付いて教えてくれたんだ。義手なんだろ、アンタ」

 

 ヘイジ君は、自分でへし折った私の義手を、茂みに放り投げた。

 ……やっぱり、気付いてたのね。

 

「もっと早く気付いときゃよかった。道理で、真夏なのに長袖と手袋なんて身につけていたわけだ」

 

「ヘイジ君…あなた、どうやってここに…?」

 

 そう、理解できないのはそこよ。

 私がここに来るまでに、ヘイジ君の姿なんてどこにもなかった。

 跡をつけられてもいなかった。

 なのにいつ、どこから出てきたっていうわけ…!?

 

 私が混乱していると、ヘイジ君はあるものを指差す。

 そこには、脱落した『ぷれいやぁ』達の死体が積まれていた。

 

「死体に紛れて、不意を突くタイミングを窺ってた。木を隠すなら森の中って言うだろ?」

 

 ……………!!

 やられた…!

 まさか、死体の中に隠れてたなんて…

 

 ……でも、甘いわよ。

 ヘイジ君に不意を突かれたから、何?

 残り時間はまだ充分にある。

 私が皆の所に戻って、残った『いす』に座れば、まだ勝機はあるわ。

 

「……ははっ。私に不意打ちをして、勝ったつもり?甘いわよ。残り時間はまだ40秒ある。今から私が皆の所に戻って、『いす』に座れば…」

 

「終わりだよ」

 

「え…?」

 

「お前はこのターンで『いす』に座れずに脱落するんだよ。何故ならお前は、()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな」

 

 何を言っているの?

 私が着席できなくなった、ですって?

 義手を壊したくらいで、いい気にならないでよ。

 別に片腕しか無くたって、『いす』を奪い返して座る分には何の問題も……

 

「あ……!!」

 

「気付いた?『いす』に着席したと見做されるのは、()()()()()()()()()()()()()。今のでお前はもう、どう足掻いても着席の条件を満たす事ができなくなったんだよ」

 

 ヘイジ君に言われて、やっと思い出した。

 私は、両手の五指が『いす』に触れた場合のみ、着席と判定される仕様にした。

 『いす』の奪い合いで暴力行為が発生するのを極力防ぐ為だ。

 『るうる』を作った時は私も気付かなかったけど、この『るうる』が私にとってかなり有利な『るうる』になっている事に、後で気付いた。

 私の義手はかなり頑丈に作ってもらったから、それこそ意図的に壊そうとしない限り、使い物にならなくなる事はない。

 私に有利なはずの『るうる』を逆手に取って、私の着席を妨害してくるなんて…!!

 

「お前らのチームの絆は、オレ達を上回ってた。それは認めるよ。だけど残念…『げぇむおおばぁ』だ」

 

 そう言ってヘイジ君は、隠しておいた『いす』を引っ張り出して着席した。

 ……あーあ、やられた。

 私もここで脱落…か。

 

 子供達を守ってあげられなくなるのは残念だけど、そういう『るうる』だったんだから、しょうがないわね。

 だけど死ぬ前に、ひとつだけヘイジ君に確認しておきたい事があった。

 

「……ひとつだけ、聞かせてもらえるかしら?」

 

「何だ?」

 

「さっきのターンで、あなたは私の挑発に乗って、私を殴り殺そうとしたわね。ヒヅルちゃんが止めてくれたから、踏み留まれたけど。…あれも、クリハラ君に指示されてやった事だったの?」

 

 ヘイジ君は、さっきのターンで、私を本気で殴り殺そうとしたように見えた。

 あの時の彼の目には、確かに殺意が宿っていた。

 彼が演技をしていたとは、とても思えなかった。

 

「……ああ。確かにオレとヒヅルは、『わざとイバラの挑発に乗って気持ちよくさせろ』と言われてた。だけどあの時、アンタをここで殺しても構わないと思っていたのは本当だ。あの時オレは、本当にアンタを殺すつもりだった」

 

「やっぱりね…」

 

 演技のはずがないと思ってた。

 あの時ヘイジ君は、本当に殺意と憎悪に呑まれそうになっていたから。

 

「だけど、ヒヅルがオレを止めてくれた。殺意に呑まれて死に突き進もうとしていたオレを、連れ戻してくれたんだ。オレは、仲間とただ笑い合っていたい。ニーナの事も、オレの納得のいく理由を見つけたから…もうアンタの事は恨んじゃいない」

 

「納得のいく理由?」

 

「ニーナが死んだのは…救えたはずの人達を救えなかったのは、オレが弱くて、独りよがりのガキだったからだ。だけど今はもう、独りじゃないから…背負い切れないものを、一緒に背負ってくれる仲間がいるから…だからオレも、自分の弱さと向き合って生きていく」

 

 そう語るヘイジ君は、さっきまでとはまるで別人だった。

 もう、子供みたいに駄々を捏ねて、答えを人に委ねていた頃の彼とは違う。

 

「……優しいのね」

 

「今はただ、知りたい。アンタが何を思ってきたのか、何の為に今ここにいるのか」

 

 ヘイジ君は、真剣な眼差しで私に話しかけた。

 初めて見た時から、彼に似てると思った。

 お人好しで甘いところも、怒ると周りが見えなくなっちゃうところも、少し臆病で頼りないけど、本当は誰よりも勇敢なところも。

 ……本当に、強くなったね。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 残り時間は、あと数秒。

 命懸けの勝負の末に、イバラの『げぇむおおばぁ』が確定した。

 イバラとの殺し合いを終えた今だからこそ、思う事がある。

 

 今はただ、知りたい。

 イバラがどんな人間なのか。

 何を思って生きてきたのか。

 何の為に、今ここにいるのか。

 

「……本当に、強くなったね」

 

 そう言ってイバラは、微笑みながら涙を流した。

 俺はずっと、イバラの事を、血も涙もない女だと思ってた。

 だけど、命懸けの『げぇむ』を乗り越えた今ならわかる。

 

 イバラも、俺達と同じだ。

 ここで出会った皆と同じように、悩み、間違えて、傷ついてきた。

 俺達と同じ弱さを持った、ただの人間だったんだ。

 

「…それが、アンタの本性か」

 

 俺が言うと、イバラは頬に流れた涙を拭った。

 イバラは、俺の頬に手を添えて言った。

 

「私は、あなたと『げぇむ』をする為にこの国に来たのかもね…私はずっと、あなたのその顔が見たかった」

 

 

 

 

 『げぇむ』『いすとり』

 

 難易度『♣︎Q(くらぶのくいいん)

 

 9ターン目 残り9名

 

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