Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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すぺえどのきんぐ(2)

ドードーside

 

 『今際の国』滞在2日目。

 アリスさんやヘイジさんのおかげで最初の『げぇむ』を生き残れた俺は、1人でこの国で生きてきた。

 

「4日なんてあっという間だ…『げぇむ』に慣れる為にも、今夜も参加しよう」

 

 俺は、この日も『げぇむ』に参加する為に、最寄りの『げぇむ』会場に向かった。

 俺が『げぇむ』会場の前まで行くと、ガラの悪そうな男の人が大勢いて、中には銃を持っている人もいた。

 どう見てもカタギじゃない人達を見て、俺は『来る会場を間違えた』と思った。

 すると男の人に混じっていた可愛い女の子が、俺に声をかけてくる。

 

「アンタ…参加すんの?しないの?」

 

「えっ…」

 

「ヒヅルちゃ〜ん!早くしないとエントリー終わっちゃうよ〜!」

 

「今行く」

 

 女の子は、ガラの悪い男の人についていった。

 結局俺は、その日の『げぇむ』にエントリーしそびれちゃった。

 自分の臆病さに嫌気が差しつつ、この日食べるものを探しに行こうとした、その時だった。

 突然、俺が入ろうとしていた『げぇむ』会場が、音を立てて崩れた。

 

「な…!?」

 

 嘘でしょ…!?

 建物ごと吹き飛んだ…!?

 俺、『げぇむ』に参加してたら、あんなのに巻き込まれるところだったんだ…

 

「うわあああああっ!!」

 

 俺は、叫びながらその場から走って逃げた。

 

 無理、無理無理無理!!

 俺も少しは頑張れるんじゃないかって思ったけど…やっぱり無理ですっ!

 

 俺が前を見ずに走っていると、何かにぶつかった。

 当たり負けした俺は、地面に倒れ込んだ。

 恐る恐る顔を上げると、スーツを着た男の人が立っていた。

 右眼に眼帯をつけていて、威圧感を与える人だった。

 

「す、すみませっ…」

 

「子供…!?お前、1人か?」

 

「えっ…?」

 

 俺が戸惑っていると、眼帯の男の人は俺に話しかけてくる。

 

「オレは帷子碧。しがない元スナイパーだ。行く宛がねぇなら、オレんとこ来るか?」

 

 そう言ってカタビラさんは、俺に手を差し伸べた。

 俺は、カタビラさんの手を取った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あれからカタビラさんは、俺をテントに連れてきてくれて、食べ物を分け与えてくれた。

 それだけじゃなくて、俺にこの国で生きる術を教えてくれた。

 

「新鮮な肉食いたきゃ手伝え。獲物の捌き方教えてやる」

 

 カタビラさんは、俺にテントの設営や薪の割り方、天気の読み方、魚の釣り方なんかの基本的なサバイバル術を教えてくれた。

 俺は、どうしてカタビラさんがこんなどうしようもない俺にこんなにも優しくしてくれるのかがわからなかった。

 

「あの…カタビラさんは、どうしてオレにこんなに親切にしてくれるんですか?」

 

「そりゃあお前、子供が1人でウロウロしてんの見てたら、放っておくわけにはいかねぇだろ。警察官ってのは、市民を守るのが仕事だからな」

 

 カタビラさんは、銃の手入れをしながら答える。

 カタビラさんは、初めて参加した『げぇむ』で片眼を失う重傷を負っても『くりあ』して、それから60日間生き延びてきたらしい。

 

「強いですね、カタビラさんは…オレは、カタビラさんみたいに、強く生きられそうにないです…」

 

「強くねぇよ。オレはただ…死ねなかっただけだ」

 

 俺が言うと、カタビラさんは聴こえるか聴こえないかくらいの声で呟いた。

 銃の手入れを終えたカタビラさんは、思い出したように俺に話しかける。

 

「時にドードー。『びざ』はあと何日残ってんだ?」

 

「えっと…あと1日です」

 

「よし。じゃあ今日の『げぇむ』に参加するぞ。明日そう都合よく『くりあ』できそうな『げぇむ』会場が見つかるとも限らねぇしな」

 

「………」

 

 『げぇむ』か…

 この国で生き延びるには、また()()に参加しなきゃいけないんだよね。

 『♡4(はあとのよん)』ですら命懸けだったのに、あれ以上難易度が上がったら生き残れそうにないよ…

 

「安心しろ。今夜の『げぇむ』、必ずお前を生き残らせてやる。()()()()()()()()()()()

 

「えっ…」

 

 『たとえどんな事をしても』、その言葉が俺にとってはとても重く感じられた。

 まさかとは思うけど、自分を犠牲にしようだなんて…考えてないよね?

 

「そうと決まれば、善は急げ。会場を探しに行くぞ」

 

「ま、待って下さい!」

 

 カタビラさんが先に出発すると、俺は慌ててカタビラさんを追いかけた。

 俺がカタビラさんと一緒に向かったのは、野球場だった。

 俺達が『げぇむ』にエントリーすると、既に5人の男女が会場内にいた。

 会場の中心には、大きなメリーゴーランドみたいな装置が設置されていた。

 

「何だこれ…」

 

「メリーゴーランド?」

 

 装置の内側は壁で仕切られていて、小部屋みたいなものが並んでいる。

 その小部屋ひとつひとつには数字が書かれていて、まるでカジノで見るルーレットみたいだった。

 俺がその装置を見て何の『げぇむ』かを考えていると、モニターがつく。

 

 

 

ーーー 

 

『げぇむ』

 

難易度 ♣︎7(くらぶのなな)

 

ーーー

 

 

 

「『♣︎7(くらぶのなな)』…!!」

 

「ちょっと、よりにもよって7って…!」

 

 難易度を示すトランプが表示されると、他の参加者が動揺する。

 

「でも、幸い『♣︎(くらぶ)』なら、何とかなりそうですね…」

 

「どうだろうねぇ。まだ『るうる』聞いてないからね」

 

 他の参加者が、そんな会話をしていた。

 俺がモニターに目を向けると、『るうる』説明の動画が流れる。

 

 

 

ーーー

 

げぇむ 『るうれっと』

 

・『るうれっと』上の『ぽけっと』のうち、どの『ぽけっと』に『たま』が入るかを予想し、その『ぽけっと』に入っていただきます

・全員が『ぽけっと』に入った時点で、『げぇむすたあと』

・正解の『ぽけっと』を当てる事ができれば、次のターンに進めます

・3回連続で正解の『ぽけっと』を当てれば『げぇむくりあ』

・不正解の『ぽけっと』に入室していた場合、『げぇむおおばぁ』

 

ーーー

 

 

 

 モニターには、ちょうど後ろにある装置が高速回転する映像が流れた。

 回転していた装置は、少しずつ回転速度を落としていって、やがて止まった。

 すると、会場に設置されている砲台から砲丸が発射され、10番の『ぽけっと』に豪速球が飛んできた。

 激突した砲丸がめり込んだ10番の『ぽけっと』だけはピカピカと点滅して、他の『ぽけっと』にはレーザーが降り注いだ。

 

「ちょっと何よこれ、完全に運ゲーじゃない!!」

 

「運良く予想を当てたとしても、こんな豪速球喰らったら死んじまうよ!」

 

「これのどこが『♣︎(くらぶ)』なんだよ!!」

 

「えっと…3回正解の数字を当てる確率は…」

 

「50653分の1」

 

「5万分の1以下なんて、そんなの無理よ!外すに決まってる!!」

 

 『るうる』説明が終わると、他の参加者が文句を言った。

 そんな中、髪をハーフアップにした男の人が口を開く。

 

「全てがうまくいけばの話だけど、全員生き残れるかも」

 

 そう言って男の人は、迷わず0番の『ぽけっと』に入った。

 

「信じるか信じないかはキミ達次第♪」

 

 男の人が0番の『ぽけっと』に入ると、カタビラさんも0番の『ぽけっと』に入った。

 

「あっ、ま、待って下さいよ!」

 

 俺も慌てて、0番の『ぽけっと』に入った。

 結局全員が、0番に賭けた。

 咄嗟にカタビラさんについてきちゃったけど…

 本当に0番を選んで大丈夫だったのかな…?

 外したら死ぬんだぞ…!?

 そう思っていると、最後に入った男の人が、最初に入った男の人に尋ねる。

 

「おい、0番の根拠は何だ?」

 

「根拠?そんなの無いよ。適当に好きな数字選んだだけ」

 

「は!?テメェふざけんな!!」

 

「全員生き残れるとか言っといて、結局当てずっぽうかよ!!」

 

 最初に入った男の人が平然と言うと、他の参加者がその人を責めた。

 するとその人は、飄々とした態度で言った。

 

「落ち着きなよ。この『げぇむ』の本質は、『『たま』が入る『ぽけっと』を当てる事』じゃない」

 

 その人がそう言った直後、『るうれっと』が動き出した。

 

《全員の入室を確認しました。それでは、『げぇむすたあと』》

 

「始まった…!!」

 

「何だこれ、いくら何でも速すぎねぇか!?」

 

「どーすんのよぉぉっ!!」

 

 『るうれっと』は、ものすごいスピードで回転を始めた。

 ちょっとこれ、速すぎない…!?

 猛スピードで振り回されて立ってるのがやっとだし、『くりあ』する方法はわかんないし、俺どうしたらいいんだよ…!

 

「おい。お前さん、正解がわかってんなら、他の奴等に教えてやったらどうだ?これは『♣︎(くらぶ)』の『げぇむ』だ。全員で協力しねぇと、『くりあ』できねぇぞ」

 

 カタビラさんは、最初に『ぽけっと』に入った男の人に声をかけた。

 するとその人は、仕切りの柵を握りながら口を開く。

 

「この『げぇむ』の本質は、『選んだ『ぽけっと』に『たま』を入れる事』。親切に『たま』が飛んでくる位置を最初から教えてくれてるんだ。だったら、やる事はひとつだろ?」

 

「……そういう事かよ」

 

「この仕切りを使って、『るうれっと』にブレーキをかける。皆でうまくタイミングを合わせれば、この『ぽけっと』に『たま』を入れられる」

 

 そう言って男の人は、ガシャガシャと仕切りを揺らした。

 マジで言ってんの…?

 

「ちょっとそれ…マジで言ってます…?」

 

「やらなきゃ、どのみち死ぬだけだ」

 

 カタビラさんは、男の人に続いて柵を掴んだ。

 すると他の人達も、柵を掴んだ。

 

「クソが…失敗したら、呪うからな」

 

 俺達は、最初に0番を選んだ男の人の提案に乗って、仕切りの柵をしっかりと掴んだ。

 そのタイミングを待っている間にも、『るうれっと』は少しずつ回転速度を落としていく。

 

「今だ!!」

 

 男の人の合図と同時に、俺達は全員で協力して仕切りをずらして、『るうれっと』の溝に仕切りを引っ掛けてブレーキをかけた。

 ブレーキ音と火花が散って、反動で肩が外れそうになる。

 それでも踏ん張って仕切りを支えて、『るうれっと』にブレーキをかけ続けた。

 

「う…ああああああ!!!」

 

「うう、腕が千切れる…!!」

 

「踏ん張れぇぇぇっ!!」

 

 『るうれっと』の振動が伝わって腕が千切れそうになるのを耐えていると、やがて『るうれっと』が止まった。

 

「止まっ…た……?」

 

 振り向くと、男の人の狙い通り、大砲が俺達の方に向いていた。

 作戦が上手くいって安心した、その時だった。

 

「伏せろ!!」

 

 カタビラさんが、俺の頭を掴んでしゃがみながら叫んだ。

 その直後、『たま』が発射されて、豪速球が飛んでくる。

 『たま』は、『ゴッ!!』と大きな音を立てながら壁に穴を開ける程の威力で着弾して、『るうれっと』が大きく揺れた。

 『たま』が着弾したのは、0番と26番の間…ギリギリ0番側だった。

 俺達が選んだ0番の『ぽけっと』は、ピカピカと光った。

 

「生き…てる…?オレ、生きてる…?」

 

「ああ。生きてるよ」

 

 俺が思わず腰を抜かすと、カタビラさんが笑顔で声をかけてくれた。

 

 

 

《『こんぐらちゅれいしょん』。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

 結局、その後の2ターンも、男の人の機転のおかげで生き延びた。

 この日の『げぇむ』を生き延びた俺は、泣きながらカタビラさんに抱きついた。

 『げぇむ』会場から帰る途中、俺は生き残る方法を教えてくれた男の人に声をかけた。

 

「…あの。さっきはありがとうございました。オレ、堂道隼人っていいます。あなたは…?」

 

「トカゲ。戸蔭飛龍。またどこかで会えるといいね、ドードー君」

 

 そう言ってトカゲさんは、手を振って去っていった。

 

 カタビラさんとトカゲさん。

 俺が『ふぁあすとすてぇじ』を生き延びる事ができたのは、2人の命の恩人のおかげだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして現在。

 『ねくすとすてぇじ』5日目。

 

「『♠︎K(ヤツ)』なら、オレを殺してくれるのか?」

 

 大柄な男の人…アグニさんは、俺にそう尋ねた。

 

「……えっ?」

 

「『♠︎K(ヤツ)』について、知っている事を話せ」

 

「知ってる事って言われても…姿も見てないですし…だってオレ…ずっと…隠れてたから…」

 

 俺は、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に襲撃された時の事を、アグニさんに話した。

 すると彼は、僅かに目を見開く。

 

「…『♡K(はあとのきんぐ)』が陥落した日、オレ、成り行きで『げぇむ』を『くりあ』した人達と一緒に行動してたんですけど…その日のうちに『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の襲撃に遭って…その人達が、オレを逃がす為に戦って、殺されたんです…さっき、オレを匿ってくれた人達が皆、殺された時も…ものすごい爆音や銃声が延々と鳴り響いてて…オレ…ただ、怖くて…怖くて…!!」

 

 俺は、起こった事をそのままアグニさんに話した。

 アグニさんは、俺の話を聞いて、失望したような目を向けてくる。

 

「……大した、神経だな。いかにも軟弱で、卑怯で、無様な精神だ」

 

 …本当にその通りだ。

 トカゲさんも、メイさんも、俺を匿ってくれた人達も、俺のせいで…

 

「面を見た時から、わかっていた…」

 

 そう言ってアグニさんは、先に行ってしまった。

 

「あ…ま…待って下さいよォ…!!1人じゃ…1人じゃ心細くてッ…!!」

 

 俺は、慌ててアグニさんを追いかけた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あれから俺は、アグニさんの後ろをただ黙って歩いている。

 …あれから、一言も口を利いて…くれるわけないよね…

 

 あれからずっと…ただ森の中を歩いてるだけだ…けど、何でだろう…

 ただ闇雲じゃなく、目的を持っているかのようなこの人の歩みは…?

 

「…あれ?確かここってさっきも…」

 

 …そうか。

 この人は隅々まで把握しようとしてるんだ…この森の地形を…!!

 武器じゃ『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』には敵わない…その圧倒的な火力の差を、埋めようとしてるんだ…地の利で…!!

 この森を自分の庭のように知る為に、『ねくすとすてぇじ』が始まってからずっと森の中を、何日も…たった1人で…

 

 

 

 森の中を歩いているうちに、日が落ちて夜になった。

 アグニさんは、木に寄りかかって座ったまま俯いていた。

 まさか…あの姿勢で寝てる…?

 

 なんて思っていると、森のあちこちからガサガサと物音や動物の鳴き声が聴こえる。

 その度に俺は、ビクッと身体を跳ね上がらせて悲鳴を上げそうになった。

 

「あ…あのっ…!!もうちょっと…そっちに寄ってもいいですか…?」

 

 話しかけても、返事はなかった。

 そりゃあ、そうだよね…

 

「………あなたの…言う通りです…オレ…『今際の国』に来てからずっと逃げ回ってばかりで…前に参加した『げぇむ』も、たまたま一緒に参加した人が助けてくれたから生き残れただけで…自分では何もできなくて…ホント…情けないですよね…」

 

 俺が話している間も、アグニさんは相変わらず顰めっ面だった。

 

「あ…でも…ここに来て、最初の『げぇむ』だけは、ちょっとは頑張ったんですよ…!オレを助けてくれた人達が、いたから…アリスと、ヘイジって人達に、オレ、スッゲー助けられたんですよ」

 

 アリスさんとヘイジさんの名前を出したら、一瞬だけアグニさんの表情が変わった気がした。

 

「あの人のおかげで、少しは変われた気がしたんだけどなァ…けど…やっぱりオレは、この世界が怖くて…怖くて仕方ないです…教えて下さい!!どうやったらあなたのように、あんな恐ろしい相手と戦う意志を持てるん──」

 

 

 

 ――ガァーーーン!!ガァン!!

 

 

 

 俺がアグニさんに話しかけていると、森の奥から銃声が聴こえた。

 

「銃声だ…!!とうとう『♠︎K(アイツ)』がこの森にまで…!!早く逃げなきゃ…!!」

 

 俺が逃げようと立ち上がった、その時だった。

 

「素人は…敵に見つかるまいと闇に乗じて逃げようとする…だが人間の目では完全な闇の中を動く事はできず、僅かな月明かりの下を走る…すると、見えるんだよ…昼の間は陽の反射などで遮られていた、様々なものが全て削ぎ落とされ、闇夜で動く人間の姿が、鮮明にな。犬死にが嫌なら、動くな」

 

 アグニさんが、ここに来て初めて口を開いた。

 アグニさんが話している間にも、銃声が聴こえる。

 この森のどこかで、また1人、誰かが撃ち殺された。

 俺が足を止めて息を呑むと、アグニさんはハンドガンを俺に手渡してくる。

 

「使え」

 

「え…!?」

 

「まだ戦う意志が僅かでも残っているのなら…撃ち方を教えてやる」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催6日目。

 俺はアグニさんに、銃の撃ち方を教えてもらって、遠くの木の枝の上に積んだ石を狙って引き金を引いた。

 だけど俺が撃った球は、石には当たらなかった。

 

「外れた…」

 

「いちいち照準は覗くな。実戦じゃ、相手は待ってちゃくれねぇ。後ろの木に当たればいいくらいのつもりで、大まかな感覚で狙え。大体、人間の胴体の太さと同じだろ」

 

「人間…」

 

 俺は、アグニさんのアドバイス通りに、もう一回撃った。

 すると今度は、狙い通りに石に当たった。

 

「あ…当たった……!もしかしてオレって、才能あります!?」

 

 俺がアグニさんに話しかけると、アグニさんは無言で俺を睨む。

 …ごめんなさい、調子に乗りました。

 

 …でも、銃を撃つ感覚って…思ってたよりずっと、『軽い』…

 こんなに簡単に人が殺せちゃうなんて、それって…すごく…怖い事だよね…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「焼けたぞ、食え」

 

 射撃の練習を終えた俺に、アグニさんは食事を振る舞ってくれた。

 …のは、いいけど…

 アグニさんが調理していたのは、カイコやセミ、イモムシなんかの…虫だった。

 

「ムッ…!!無理だと思われますッ!!」

 

「人間が…穀物や家畜を喰い始めてせいぜい1万年。それ以前の数百万年の生活を支えてきたタンパク源は…虫だ」

 

 そう言ってアグニさんは、焼けたイモムシを噛み砕いた。

 …食べるしか、ないんですね。

 

 俺は、出来るだけ直視しないように、焼けたカイコを指で摘んで口に含んだ。

 さ…最後の望みは…見かけによらず…案外美味い!?

 

「う…うえええぇぇぇぇぇ…」

 

 初めて食べた虫は、ものすごく後味が悪くて、食感が気持ち悪かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「発煙筒の…ワイヤートラップ…?」

 

 日が暮れてきた頃、アグニさんは、今度は罠の張り方を教えてくれた。

 

「一番危険なのは寝込みだ。運良く敵がトラップにかかれば、こっちは襲撃に気付く上に、発煙筒の火で闇の中でも敵の姿が丸見えだ。手榴弾でもありゃあ、もっと話は早いんだがな。あとは手分けして、この防衛線の内側に、ありったけのワイヤーを張っとけ」

 

「え…?何でワイヤーだけ……って、そうか!」

 

 トラップが全て本物である必要はないんだ…

 肝心なのは、無数のトラップの中を慎重に進まないといけないという、プレッシャーとストレスを相手に与える事…!

 やっぱり…この人はすごいや…

 この人と一緒なら…もしかしたらオレにも…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アグニside

 

 俺は小僧に罠の張り方を教えて、防衛線の内側に罠を張った。

 するとだ。

 

「よう!杜ちゃん!」

 

 死んだはずの剛が、俺の背後に立っていた。

 

「カカカ、まだしぶとく生き残ってるとは、さすがだべ!」

 

「剛…!?」

 

「ひどいべ杜ちゃん!10年来のマブダチのオレを撃ち殺すなんてよ。まあ、先に銃向けたのはオレだっけか。カカカ」

 

 どうなっている…!?

 何故、お前がここに…

 

「にしても、お前があんな足手纏いにしかならねぇ小僧(ジャリ)を連れて歩いてるたぁ、一体どういう風の吹き回しだ?アル中親父の暴力に怯えるしかなかった、ガキの頃の自分を重ねてんのか?それとも…あの小僧(ジャリ)を守る事が、お前の独りよがりで、『ビーチ』と心中しようと、数え切れねぇ同志を殺した事への…贖罪のつもりかよ?」

 

 剛の言葉のひとつひとつが、俺を刺した。

 

「あの『♠︎K(バケモン)』にゃ敵わねーのはわかってて、戦ってキレイに散ろうなんざ、死に損ないには贅沢だ。そんなに死にたきゃ、自殺でもすりゃいいんだ」

 

「…わかったから、もう、消えろ…」

 

「ああ、けど、オレは多分また来ちまうぜ!お前の中に、闇しかない限りはな」

 

 そう言い残すと、剛は暗闇の中に消えた。

 嵐が近づいて、強風が吹きつけてくる。

 小僧と2人で見張りをしていると、小僧が口を開いた。

 

「今日は一段と、風が強いですね…台風は…明日にでも上陸するのかな…今夜は…月明かりもない…夜の森って…完全な、闇なんですね…」

 

「闇を恐れるのは、生きる為の警戒心…正常な感情だ…」

 

「ええ…でも…なんて言うか…この闇が何だか、とっても…温かいです…」

 

 温かい…だと…?

 この闇が、か…?

 

「…何?」

 

「妙に落ち着くというか…穏やかで、心地良いというか…もしかしたら…この闇を受け入れて友達になれれば、案外死ぬのも、怖くなくなったりするのかなァ…」

 

 友達、か…

 俺は、さっき剛に言われた言葉を、頭の中で繰り返していた。

 すると、その時だ。

 

「…何か、焦げ臭く…ないですか…?」

 

「…!?」

 

「間違いないです…何かが…燃えてますって!」

 

 何だと…!?

 まさか…

 

「森だ」

 

「え…!?」

 

「燃えているのは…森だ…奴は強風を利用して、オレ達をこの森ごと焼き殺すつもりだ…!!」

 

 火の手が、既に見えるところまで迫っていた。

 

「だ…だったら、早く逃げましょう…!!ここにいたら、焼け死ぬだけですッ!!」

 

 小僧は、火に背を向けて逃げ出した。

 火を目の前にすると、人間は冷静な判断力を失う…

 本能にまかせて火から逃れれば、『♠︎K(ヤツ)』の思惑通りに誘導されているのと同じ…

 まして『♠︎K(ヤツ)』が闇雲に火を放っているはずもないとすれば…

 どのみち俺達は既に…奴の策中に、落ちた後だ…!!

 

「そんな…!もう…こっちにも…完全に…囲まれてる…」

 

 俺達は、完全に火に囲まれた。

 だがこうなる事は、想定済みだ。

 

「こっちだ、来い」

 

「えっ!?」

 

 俺は、小僧を連れて、近くの洞窟に逃げ込んだ。

 洞窟の中までは、火の手は行き届いていなかった。

 

「こんな所に…洞窟が…!?」

 

「20m程進めば、別の出口がある。この風向きなら、おそらく炎の包囲網の外だ」

 

「こうなる事をわかってて…洞窟の風上を寝床に…?」

 

「…数ある想定の、1つに過ぎん…」

 

 俺は洞窟の中を進みながら、小僧に話しかけた。

 

「最初の夜に…オレに尋ねたな…どうすれば戦う為の、強い意志が持てるのか…理由などない……いや、1つ…あるとするならば…過去だ。オレは…オレを縛り続けている過去と…もう、決別したいだけだ…」

 

 死ぬ事で…

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 炎の包囲網から逃れた俺は、ショットガンを構えて周囲を警戒した。

 『♠︎K(ヤツ)』は俺達を仕留めた気でいるはず…

 反撃に出るなら、今……

 

「……!?」

 

 ふと小僧の方を見ると、小僧の眼に、俺の姿が映った。

 そして、俺のさらに後ろにもう1人、人影が映っているのが見えた。

 俺は振り向きざまにショットガンを構え、発砲した。

 

 

 

 ――ガガガガガガ!!

 

 ――ダァーーーン!!

 

 

 

 俺と『♠︎K(ヤツ)』が引き金を引くタイミングは、ほとんど同じだった。

 弾が4発、俺と小僧の方に飛んでくる。

 そのうち一発が、俺の顳顬に掠った。

 俺の撃った弾は、さっきまで『♠︎K(ヤツ)』がいた場所に生えてきた木に直撃し、『♠︎K(ヤツ)』はすぐに木の陰に身を隠した。

 

「ま…待ち伏せ!?けどっ…何でこの場所が…!?」

 

「そんな事よりも今は、戦闘に集中しろ!!」

 

 俺は、小僧に向かって叫びながら、『♠︎K(ヤツ)』が隠れている木に向かってショットガンを発砲した。

 

「『♠︎K(ヤツ)』の銃は、AK(カラシニコフ)…!!ゲリラ戦に持ち込まれた今、フルオートの弾幕の前では、圧倒的に不利だと思え!!オレ達に残されたのは、数の利だけだ!!奴に撃たせる隙を与えるな…!!オレのM870(レミントン)の装弾数は3発…オレがこの最後の1発を撃ち終えたら、再装填(リロード)の間、お前が奴を足止めするんだ!!」

 

 俺は、怯えて震えている小僧に指示を出した。

 『♠︎K(ヤツ)』が木の陰から姿を現した瞬間、俺はショットガンで『♠︎K(ヤツ)』の隠れていた木を狙い撃った。

 

「今だ!!」

 

「ひっ!!」

 

 俺が叫ぶと、小僧は見当違いの方向へ発砲した。

 チッ…

 コイツには、無理だったか…

 

 俺が舌打ちをした次の瞬間、『♠︎K(ヤツ)』はAKを連射してきた。

 木の陰に隠れながら、ショットガンに弾薬を再装填(リロード)する。

 『♠︎K(ヤツ)』の銃が弾切れした瞬間、俺は奴の居場所にアタリをつけてショットガンを発砲した。

 『♠︎K(ヤツ)』は木の後ろに隠れ、弾は木の幹に着弾した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

シーラビside

 

 俺が再装填(リロード)している間にも、連中は連携して発砲してくる。

 俺は、次第に2人の射撃のタイミングが合ってきている事に気がついた。

 

 子供の方は…まるで素人だが、それなりに…息は合ってくるものだな…

 分が悪い連中の次の一手は、この場からの撤退。

 だがそれは、敵に背を向ける最も危険な瞬間。

 

 おそらく連中は、交互に援護し合いながら後退を繰り返し、俺をこの場に足止めしたまま距離を開いていく策を取るはず。

 弾切れを待った後、追撃を再開してもいいが、永く、苦しませたくはない…

 勝負を、急ぐならば…

 距離を詰めるのは、援護として機能していない子供(ベレッタ)の銃声が聴こえた時…

 

「今…だ」

 

 ベレッタの銃声が聴こえた瞬間、俺は身を乗り出してライフルを構えた。

 するとその瞬間、傍からベレッタを持った男が飛び出してくる。

 

「!?」

 

 ベレッタの銃声は…囮か…

 子供の銃の腕を軽視すると読んで、互いの銃を持ち替えていたのか…

 尚且つ…撤退するしかない局面を逆手に取り、敢えて距離を詰めてくるとは…

 

「勝負を…急いでいたのは…オレだけではなかったか…」

 

 俺と男は、互いに得物の銃口を向け合い、すかさず引き金を引いた。

 2つの銃声が、森の中に響く。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ドードーside

 

 銃声が響く中、俺は、ショットガンを背負って森の中を走っていた。

 また…また人に、助けられた…

 

 ――反動に気をつけろ。肩が抜けるぞ。

 

 アグニさんは、俺が持っていたハンドガンの代わりに、俺にショットガンを手渡してきた。

 

 ――オレが距離を詰めて、奴を仕留める…

 

 ――オ…オレは…オレはどうすればッ…!?

 

 俺は変わらず…逃げてばっかだ…

 

 ――これは…オレの戦いだ。お前が付き合う必要はねぇ…どこへでも逃げ延びて、勝手に生きろ。

 

 ――アグニさん!!

 

 アグニさんは、あのまま走り去ってしまった。

 俺は…その場から逃げる事しか、できなかった。

 

「アグニさん…!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催7日目。

 いつの間にか、夜が明けていた。

 台風が上陸して、森には大雨が降っている。

 

「いつの間にか…朝だ……………一体、これから…どうしたら…」

 

 俺がそう呟いた、その瞬間だった。

 

「っ…!?」

 

 突然、片足が何かに嵌まる。

 俺は、そのまま足を滑らせて下に落ちた。

 咄嗟に地面にしがみついて下を見ると、大量の竹槍が埋まっていた。

 

「ひっ…!!これは…罠…!?」

 

 俺は、罠にビビりながらも、落とし穴から這い出て逃げ出した。

 

「ひいい…!!ま…まさか…!『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が既に…先回りして罠を…!?い…嫌だ!!誰か…!誰かッ!!助け…」

 

 ひたすら走っていると、何かを踏んでしまった。

 その次の瞬間、俺の身体は逆さ吊りになって、宙に浮いた。

 

「うああああ!!!」

 

 何だよ…!?

 今度はワイヤートラップ…!?

 

「う…あ…」

 

 ワイヤートラップのかかって宙吊りになった俺は、長い事逆さ吊りになっていたせいで、頭がぼーっとしてきた。

 クソッ…俺、ここで死んじゃうのかよ…

 嫌だ、嫌だ…!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「………」

 

 目が覚めると、知らない景色が視界に映った。

 電球がコードでぶら下がっただけの、雨漏りした古びた天井、風でギシギシと軋む引き戸…

 俺がいたのは、ボロボロの小屋だった。

 

「よーやく、目ェ覚めたか?」

 

 俺が身体を起こすと、本を読んでいた女の人が話しかけてくる。

 見たとこ、女子高生…っぽい?

 

「あ…あの…あなたが助けてくれ…」

 

 俺がお礼を言おうとすると、女子高生はいきなり俺をぶってきた。

 

「な…!?何するんですかッ!?」

 

「よくも人が作った罠2つも駄目にしてくれたよね。今のはその分よ。この足であの罠作んの、どんだけ苦労したと思ってんのよ!まあ、ハナから『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』があんなチャチな罠にかかるなんて期待してないけど!」

 

 だったらぶたなくても良かったんじゃ…

 

「あ、あの…オレ、堂道隼人っていいます。あなたは…?」

 

 俺が名乗ってから尋ねると、女子高生が面倒臭そうに口を開いた。

 

「…ヘイヤ。塀谷朱音」

 

 ヘイヤさんは、ぶっきらぼうに名乗ったかと思うと、俺の方を見てくる。

 

「ねぇ」

 

「へ?」

 

「アンタで我慢してやるから、相手してよ」

 

「え…!?」

 

 何言ってんの、この人…!?

 俺が呆気に取られていると、ヘイヤさんは不機嫌そうにため息をつく。

 

「しょうがないでしょ。せっかくいい男見つけたと思ったら、どいつもこいつもやれ『倫理的にマズい』だの『彼女を裏切れない』だの腑抜けた事吐かしやがんだからさ。こんないつ死ぬかもわかんないストレスだらけの世界で生きてんだ。女だって色々溜まってんのよ」

 

「たまっ…て…って、ええっ!?いや…そんな事急に言われても、オレ達今出会ったばっかだし!!それにその…オレ…まだ…その…した事…」

 

「…冴えない上にタマなしとはね。マジで使えねー。アンタみたいなガキが、よく今日まで1()()()生きてこられたわね」

 

 ヘイヤさんは、呆れながら俺に言い放った。

 

「…1人じゃ、ないです…オレを助けてくれた人は、皆…死んじゃいました…あの『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』に勇敢に立ち向かって…なのにオレだけは…またこうして逃げ延びて生きてる…オレには…未だにわからないんです…こんな目に遭ってまで…何で生きなきゃならないのか…」

 

「…アンタ、舐めてんの?」

 

「え…?」

 

 ヘイヤさんは、いきなり俺の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけてきた。

 

「アンタ…そんなつもりで生きてんの…?アンタみたいなガキ見てっと、マジでイライラすんのよ…!!この世界で生きるってのは、そんな甘っちょろい事じゃねーんだよ!!」

 

 ヘイヤさんは、眉間に皺を寄せて怒りのこもった目で俺を睨んできた。

 

「…だ、だったら………あなたは、何の為に…?何の為にあんな恐ろしい相手と、戦う意志が持てるんですか?」

 

「理由なんて、あるわけないじゃん」

 

「え…?」

 

「誰が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』と戦うなんて言った?大体、片足の女子高生が勝てるわけないし、罠も弓も身を守る為。『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』に参加したのは、『びざ』を手に入れて少しでも長く生き延びる為。『♠︎K(バケモノ)』退治は勇気ある誰かさんに任せて、アタシはその日が来るまで何が何でも生き延びるだけよ。全ては、未来の為」

 

 ヘイヤさんが語った、その時だった。

 ヘイヤさんは、僅かに目を見開いた。

 

「けど、アンタのおかげで…その未来も危うくなってきたわね…冴えなくてタマなしで疫病神とは、つくづく男運無いわ」

 

 俺が状況を飲み込めずにいると、ヘイヤさんが俺を見ながら言った。

 嘘だろ…まさか…!?

 

「危うく…って、まさか……『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』が…!?けど…!!一体どこから…」

 

 俺が尋ねると、ヘイヤさんが床板を開けた。

 

「アタシね…勘だけはいいのよ。そのおかげで、今日まで生き延びてこられた」

 

 俺達が床下に逃げ込んだ、その直後だった。

 無数の銃弾が、俺達の頭上に飛んでくる。

 

「来た…!!ホントにここまで…」

 

「アレが…『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』…!!」

 

 怖い…!!ダメだ…

 やっぱり怖くて仕方が…

 

 …………………いや、何だか…

 

 慣れてきた…

 

 

 

 ――小さなヒントを見逃さずに、その奥にある真実を見極める。生き残りたかったら、目を逸らさずに、ちゃんと見て、よく観察して。そうすれば、本質が見えてくる。

 

 

 

「…………」

 

 俺がトカゲさんの言葉を思い出して、ここから逃げ延びる方法を考えていると、ヘイヤさんが床下に隠しておいたジュースの缶を取り出す。

 

「それは…?」

 

「ハンドメイド閃光手榴弾。光に乗じて、逃げるわよ。レシピはアルミホイルを…って、ガキには教育上悪いからいいわ!」

 

 そう言ってヘイヤさんは、手榴弾のうちの一つに火をつける。

 そして『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の銃が弾切れした瞬間、火のついた手榴弾を投げつけた。

 

「とにかくアンタは、目ェ閉じてなさい!」

 

 ヘイヤさんが叫んだ直後、手榴弾が炸裂した。

 この光に乗じて逃げ────

 

 ……いや、待てよ!?

 

 そうだよ…

 やっぱりおかしい…

 

 これが『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』にとってどれだけ一方的な『狩り』だとしても、たった1人でこの広い23区にいる滞在者を探して回るなんて途方もない…

 ましてや『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の頭上には、常に飛行船が待機していて、こっちは『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の位置を知って逃げる事もできるってのに…

 

 だとしたら…この『げぇむ』の『るうる』は…

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』も何らかの方法でオレ達の位置を把握している事で、イーブン…!!

 

 振り向くと、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は、マントで顔を隠して閃光弾の光を防いでいた。

 

「咄嗟に…マントで顔を…!?『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の時の奴等といい、どいつもこいつもクソ戦闘慣れしてんじゃん…!!自信作だったってのに…どうすんのよ…!!」

 

 ヘイヤさんがそう言っている間にも、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』はマガジンを入れ替えていた。

 

 『びざ』切れの滞在者を排除するレーザーがあるくらいだ。

 オレ達の位置はピンポイントでバレてる…!!

 モニターか何かで見ているのなら、どこに…!?

 

 『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は、右利き…

 だとすると、右腕は銃を扱うのに邪魔になる…見やすい場所にあるとすれば…

 左手首…!!

 

 俺は咄嗟に、ヘイヤさんが作った手榴弾を手に取った。

 するとヘイヤさんが俺に声をかける。

 

「何してんの!?閃光手榴弾(その手)はもうアイツには…」

 

「左手首……そこを狙って下さい…『的』はこれから、向こうが用意してくれます」

 

 そう言って俺は、最後の手榴弾を投げつけた。

 すると『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』は、俺の狙い通り、左手でマントを掴んで顔を覆い隠そうとした。

 その瞬間を見逃さず、ヘイヤさんが弓矢を構える。

 

「…なるほど。タマなしで疫病神のガキだけど、冴えないってのは取り消してやるわ」

 

 そう言ってヘイヤさんは、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の左手首のモニターを射抜いた。

 次の瞬間、俺が投げた手榴弾が炸裂する。

 

「今よ!!走って!!」

 

 手榴弾の光が『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の視界を遮っているうちに、俺とヘイヤさんは小屋から逃げ出した。

 俺達は、全速力で森の中を駆け抜けた。

 

「早くッ!!もっと急いで下さい!!」

 

「簡単に言ってくれるけど…ちょっとは気ィ遣えよな……!」

 

「ブツブツ言ってないで早く!!」

 

 俺は、文句を言うヘイヤさんを急かした。

 するとヘイヤさんは、俺に向かって叫ぶ。

 

「ちょっと待てよ…あんま走んな!!確かその先は…」

 

「走んなって…急がなきゃ、すぐに『♠︎K(アイツ)』に追いつかれ…」

 

 そう言って俺は一歩前に出て、ふと前を見た。

 俺の一歩先は断崖絶壁で、下は激流の川だった。

 

「うわあああ!!」

 

「行き止まり、なんだよね…」

 

 俺が思わず飛び退くと、ヘイヤさんがため息をついた。

 だけどここで止まってたら、『♠︎K(アイツ)』に殺される。

 だったらもう、迷ってる時間はない。

 

「…飛びましょう」

 

「…あ!?」

 

「雨で流れは速い…身体の軽いオレ達なら、流れに乗って『♠︎K(アイツ)』を引き離せるかも…!!」

 

「また…飛び込むのかよ…トラウマ、あんだけど…」

 

「考えてる暇なんて、無いですよ!!」

 

「ちょ…せめて心の準備を…」

 

 俺は、ヘイヤさんの腕を掴んで、一緒に崖から飛び降りた。

 もう、なるようになれ!!

 

「う…ああああ!!」

 

 俺とヘイヤさんは、川の中に勢いよく飛び込んだ。

 激流に身体を揉まれながらも、何とか水面から顔を出して息継ぎをする。

 だけど流れが速すぎて、泳ぐ事なんて到底できそうになかった。

 

 雨の川って…

 こんなに…流れ速いの!?

 し…死ぬかも…

 

「ドードー!!アンタもさっさとどっかに掴まれ!!」

 

 ヘイヤさんの声で我に返った俺は、咄嗟に近くの木の枝を掴もうとする。

 だけどあと少しのところで、手が届かなかった。

 

 だ…ダメだ…

 ……案外…こんな『げぇむ』と関係ないところで…死んじゃうんだね俺…

 

 俺がもう死ぬかもと思ったその時、ものすごい力で腕を引っ張られた。

 そのおかげで俺は、岩の上に登る事ができて、溺れ死ぬのを免れた。

 そこには、死んじゃったと思っていた、俺の命の恩人がいた。

 

「…あ、アグニさん…」

 

「川の流れを利用して、『♠︎K(ヤツ)』を撒いたのか…お前にしちゃ良い判断だ」

 

「お化けじゃ…ないですよね…生きてた…ハハ…アグニさんが生きてた…!!」

 

 俺は感動のあまり、アグニさんに抱きついた。

 

「良かった!!本当に良かったです!!オレ…あの時アグニさんを置いて…!!でも…どうしようもなく怖くて…怖くて…!!ごめんなさい!!ごめんなさいッ!!」

 

「…構やしねぇ。もともとガキには荷が重かったんだ……無事で、何よりだ…」

 

 俺が泣きながら謝ると、アグニさんは俺を責めるどころか、俺の身を案じてくれた。

 

「オットコ同士で何してんだか…けどスッゲー筋肉…モロ好みじゃん。ゲイじゃなきゃいいけど」

 

 ヘイヤさんがそんな事を言っていた気がしたけど、俺はただ、アグニさんとの再会を喜んでいた。

 ふと振り向くと、緑に侵食された街が見えた。

 

「あれは…いつの間にか…戻ってきたんですね…街に…」

 

 川の流れで気付かなかったけど、流されて戻ってきたんだ…

 その後俺は、アグニさんにさっきの事を話した。

 

「そうか…モニターでオレ達の位置は、『♠︎K(ヤツ)』に把握されてやがったのか…」

 

「そのモニターもアタシがぶっ壊してやったから、今じゃ相手の位置がわかるのはこっちからだけ。となりゃ、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』の飛行船が見えにくい森からは、さっさと離れて街に移動すべきよ」

 

「確かにその方が…」

 

 俺がヘイヤさんの意見に賛成した、その時だった。

 ヘイヤさんは、いきなりその場で服を脱ぎ始めた。

 

「って!!何してんスかァ!?」

 

「何って…ずぶ濡れで動きにくいから絞ってるだけじゃん。タマ無しを誘惑する気なんて更々ねーっての!勘違いしてんじゃねーよガキ!」

 

 ヘイヤさんが俺を罵倒してくるもんだから、俺はつい口をへの字に曲げた。

 相変わらず口が悪い…

 

「そうと決まれば、街に向かうぞ…」

 

「だったら、腹減ってません!?スーパー探しましょうよ!!オレ、もう虫だけは絶対嫌ですからッ!!」

 

 俺達3人は、スーパーを探す為に街へ出た。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 森を抜けて街に出た俺達3人は、スーパーを探していた。

 するとだ。

 

「あれは…やっぱりそうだ…!お前ら、生きてたのか…!!」

 

 いきなり背の高い男の人が飛び出してきて、俺達に声をかけてきた。

 

「「あ!」」

 

 俺とヘイヤさんは、その人の顔を見て、ハッとした。

 

「えっ、ヘイヤさん、知り合いだったんですか!?」

 

「アンタこそ!」

 

 俺とヘイヤさんは、その人と知り合いだった事を互いに驚いていた。

 

「久しぶりだな。ドードー、ヘイヤ。無事で何よりだ」

 

 眼帯をつけたその人の顔を、俺は忘れるはずがなかった。

 カタビラさん。

 1人で『今際の国』を彷徨っていた俺を気にかけてくれて、一緒に『♣︎7(くらぶのなな)』に参加してくれた、俺の命の恩人だ。

 俺がカタビラさんとの再会を喜んでいると、アグニさんが俺とヘイヤさんに話しかける。

 

「知り合いか?」

 

「『ねくすとすてぇじ』が始まる前、この人がオレを助けてくれたんです」

 

「アタシは、『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』の『げぇむ』会場でたまたま会ったの」

 

「そうか…」

 

 俺とヘイヤさんが言うと、アグニさんはカタビラさんの正面に立つ。

 2人は向かい合って、数秒間無言で見つめ合った。

 どうなるかと俺がハラハラしながら見守っていると、先にアグニさんが口を開いた。

 

「…アグニだ」

 

「帷子碧。しがない元狙撃手だ。よろしく」

 

 アグニさんが名乗ると、カタビラさんが笑顔で手を差し出して握手を求めた。

 握手を求められたアグニさんは、一瞬戸惑いつつも、カタビラさんの手を取った。

 するとその時だ。

 

 

 

「ちょっと…!先に行くなんて、酷くないですか!?少しは怪我人を労って下さいよ!」

 

「メイさん、あんまり走ると傷に響くよ」

 

 顔に包帯を巻いた男女が、俺達のところに駆け寄ってきた。

 嘘でしょ…!?

 

「トカゲさん…メイさん……!?」

 

 幽霊でも、幻覚でもない…

 本物…!?

 2人とも、生きてたの…!?

 

「結局、死に損なっちゃった」

 

 そう言ってトカゲさんは、ヘラっと笑顔を浮かべた。

 俺は、トカゲさん達と再会できた喜びのあまり、泣きながらトカゲさんに抱きついた。

 

 

 

 

 

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