アリスside
『げぇむ』『くろっけぇ』。
難易度『
『ぷれいやぁ』は、クロッケーの競技を3セット、最後までプレーし終えれば『げぇむくりあ』。
『ぷれいやぁ』は、『とちゅうきけん』すれば『げぇむおおばぁ』。
「この…『げぇむ』の…本当の狙い…!?」
「『るうる』では、暴力行為は禁止されていない…オレがここで怒りに任せてアンタを殺したとしても、『ぷれいやぁ』の『げぇむくりあ』も『げぇむおおばぁ』も、どちらの条件も満たさない…それってつまり、この『げぇむ』が永遠に終わらないって事じゃないのか?そうなれば、この国にいる『ぷれいやぁ』全員が、ただ『びざ』切れを待つだけの身になる…それこそが、ミラがオレ達に与えたかった最大の絶望…『げぇむ』の最中に、オレにアンタを殺させる事…それがアンタの、本当の狙いだったんだな…?」
俺が尋ねると、ミラは不敵に笑う。
ウサギは、ミラの異常さに、動揺を隠し切れなかった。
「自分を…殺させる…!?そんな人間がいるなんて…」
「信じ難いけれど…これまでの残酷な『
俺が言うと、ミラは俺が散らかしたケーキの残骸を眺めながら、観念したようにため息をついてから口を開く。
「…もう、私の攪乱など…通用しそうにないわね…私の負けみたいね。最後の3セット目を、済ませてしまいましょう」
「それは、まだだ」
俺は、3セット目を始めようとするミラを止めた。
するとミラは、僅かに目を見開いて顔を上げる。
「オレは、『答え』探しをやめるとは言ってない。オレはただ本当の『答え』が知りたいだけなんだ…どうやったらアンタからそれが聞ける?なあミラ…もういいだろ?そろそろ…話してくれ。最後にもう少しだけ、オレの退屈凌ぎに付き合ってくれよ」
俺はショットガンを投げ捨てて、ミラの目を見ながら頼んだ。
するとミラは、目を伏せて微笑みながら話す。
「『答え』にしがみつきながらも、前に進む…本当に、強くなったのね…もう、『答え』をはぐらかすようなマネは、やめましょうか…」
「今度こそ、話してくれるんだな?この『今際の国』が何なのか…本当の『答え』を」
俺が尋ねると、ミラは閉じていた目を開いて、間を置いてから話し始めた。
ミラの表情は、俺をおちょくって遊んでいた時とは違って、真剣だった。
「
「…本当の、現実!?」
「結論から言いましょう。
現実では、ない…?
本当の現実…?
何を言ってるんだ…?
「…どういう、意味だ!?」
「『
「夢か…幻…?」
そういえば…この国に来てすぐ、チョータが言ってたっけ…
『これはきっと夢だ』って…
けど…本当にそれが、『答え』だとでもいうのか…?
俺がここまで必死に探し求めていた『答え』が、『夢』……?
そんなの、信じられるわけないだろ…
「ここまで来て結局アンタも…これが…ただの夢だって言うのか…?あの時の痛みも、この苦しみも、全部、現実じゃないってのか?そんなハズないだろ…!」
「そもそも、現実の定義とは?私達が見るもの触れるものは全て、目や手の神経から伝わる情報…実体だと思っているものは、脳が解釈する電気信号。つまり私達は今、自分がいる世界を目で見ているのではなく、脳で見ている。そして脳が見せる現実は人それぞれ。私達は知覚というものをある程度まで共有し、その共通点の最大公約数を見て、皆が言う現実世界というものが成り立っているに過ぎないのよ…脳と身体の複雑で精緻なネットワーク…そこに
この世界が…『幻覚』…?
何だよ、それ…
「アリス、あなたは
俺が見ている、幻覚…
この世界で見たもの、感じた事、全部……
そんなものが…『答え』なわけないだろ…!
「…今度こそ、本当の『答え』を教えてくれると思ったのにな…くだらねぇ…今までで一番くだらない『答え』だよ、ミラ…これが全部幻…?そんな話を聞かされるくらいなら…千年後の話の方が、よっぽど────」
…あ…れ…?
視界…が…?
何…だ…これ…!?
「…アリス?」
「考えてもみて。宇宙人?未来人?仮にそんな黒幕が本当にいたとして、大真面目にこんな『げぇむ』を実行する理由が思いつく?」
「…そ…れは………」
「『おにごっこ』も『かくれんぼ』も、どれも子供の発想。『
これ…が…幻だと…!?
そんな筈ねぇ…!!
けど…だとしたら…
何で…『現実』が歪む…!?
「…バカバカしいわ。取り合わないで、アリス。じゃあ私のこれまでの人生は?全て彼の想像の産物だとでもいうの?私はここで、生きてるのよ!?」
ウサギは、『答え』を話すミラに反論した。
それでもミラは、淡々と話を続ける。
「ええ…あなたも私も、確かに存在している…けれどそれは、アリスが今見ているこの現実ではないのよ。あなた達2人は、いつも食堂で話してた…
何…の、話を…してるんだよ…?
ダメだ…視界が、どんどん歪んでく…
「わ…かんねぇよ…アンタさっきから…何の話をしてんだよ…!?もう…やめてくれ…!!」
「再三、忠告してきたわ。『答え』を、知るべきではないと…やはりまだ、早かったのかもしれないわね…」
「もう…やめろ…一度は負けを認めたくせに…この期に及んでまだ…そんな作り話でオレを混乱させようと…」
「私は『げぇむ』に勝つ必要なんてない。そもそも、『
「………治療…!?」
「まだ、思い出せない?私の名前は加納未来。幻覚症状にまつわる脳のメカニズムの研究を専門とする脳科学者であり…精神科医。あなたの、主治医です。あなたが見る事をやめた世界は、私が今あなたに語りかけている、本当の現実は……入院病棟の一室。カウンセリングルームの中なのよ」
ミラの…言う通りなのか…!?
これが全部…幻…!?
だって…ここにカップはあるじゃねーか…!?
指だって熱い…!!
現実…ここに…
現実って何なんだ…!?
脳の…電気信号…
俺だけの幻…
俺は…どこにいる…?
よく…わかんねぇ…
頭が…フワフワする…
どこ…俺…
ここじゃな……現実…
「………何なんだ…?」
俺は空を見上げながら、ミラに尋ねた。
「オレが…おかしくなっちまった原因…大切な人を亡くした事故ってのは、何なんだ…?」
「ダメよアリスっ!!もう、質問しないでッ!!」
俺が尋ねると、ウサギが椅子から立ち上がって叫んだ。
それでもミラは、話を続けた。
「ここまで来たら、引き返せないわ。今、止めればこれまでの治療が無駄になってしまう。この先は、あなたが自分で思い出すのよ。あの巨大な花火を見た朝に、本当は何があったのかを…」
◆◆◆
俺は…カルベとチョータの3人で、渋谷に向かって歩いてたんだ。
あの後…結局歩いて帰んのがタルくて、3人で、ホームで始発を待ってたんだ…
どっか知らねぇ国にでも行きてぇな、なんて話をしてたっけ…
「そう…それから?」
「もうやめてアリス!!」
そしたら…
「私の声が聴こえないの!?」
……あれ?
そういえば…
誰かが立っていたような…気がする……
…思い出した。
ホームの縁に…人が立ってた…
「ねぇアリス!!」
「それは誰?」
「アリスったら!?」
シブキさん…
そう…シブキさんだ…
「彼女はそこで…何をしようとしていたの?」
彼女は線路に…
「やめて…」
自殺しようとしてたんだ…
それで、シブキさんのところに、カルベとチョータが駆けつけて…
「アリス…!!お願いだからもうやめて…!!」
「それであなたのお友達は、彼女を助けようとしたのね?」
…ああ。
2人は、暴れるシブキさんを、ホームの上に引き上げようとしてた。
だけど電車がすぐそこまで来てて…
そんでカルベが、俺に向かって何か叫んでたっけ…?
「その時あなたは、なぜ行かなかったの?」
何でって…咄嗟の事で…
ビビっちまって…
一瞬、身体が動かなくて…
慌てて、手を伸ばした時には…
――プァアアン…
――キャアアアアッ!!
目の前で、3人が電車に轢かれて、肉塊になった。
俺があの時…あの手をもっと早くに伸ばしてりゃ…
俺のせいでダチは…俺がダチを…3人を殺しちまったんだった…
「そうね…その時の深刻なストレスが原因であなたは、現実を遮断し、次第に見えるはずのないものを見るようになっていった…」
ああ…
「そして激しい自責の念から、自らを罰するかのようにこの苦しみに満ちた『今際の国』という世界を創り出してそこに逃げ込み、以来ずっと覚めない幻を見続けていた」
そう…だったな…
「やっと…全てを思い出したよ…これがオレの知りたかった、本当の『答え』だったんだな…」
「…つらい現実だけれど、よく思い出してくれたわね…これは大きな初めの一歩よ。あなたはもう…充分1人で苦しんだ。これからは時間をかけて少しずつ、一緒に乗り越えましょう」
「……はい。いつも親身になってくれて…ありがとう先生…」
そうだ…全部、思い出した。
俺は…ダチを失ったショックで、おかしくなっちまって…精神病院に入院してたんだった。
先生にカウンセリングしてもらって…その後は、どうしてたっけ。
病院の廊下を歩いていると、叫び声が聴こえてきた。
『やめなさい、ヒヅルちゃん!!』
『うあっ…うあああっ、うああああっ!!』
同じ病棟で、女の子が刃物を振り回して泣き喚いてた。
『あの子…また泣いてる…』
『仕方ねぇよ…あんな酷い事されちゃあ…な』
確か…俺と同じように大切な人を亡くした人が2人、いつも女の子を心配してたっけ。
それで…その後、食堂に行って……
女の子がスプーンを落としたのを見つけて…
『あの…これ、落としましたよ』
『え?あ、ありがとうございます』
……思い出した。
俺はここで、ウサギと出会ったんだ。
俺にとって…ウサギが、心の支えだった。
だけど、もう…
「…………」
気がつけばまた、カウンセリングルームの一室に戻っていた。
扉の向こうには、暗闇がどこまでも続いている。
暗闇の中には、歪な階段が見えた。
…もう、今の俺には…どこまでも降りていく以外に、道は…無いんだな…
俺はゆっくりと、闇へと続く階段を降りた。
こんなものが本当の『答え』だったんなら…それを受け入れてまで…
俺は何で…生きなきゃならないんだろう…?
――こんな事なら…子供など、作らなければよかった…
そっか…やっぱそうだよな、親父…
俺なんて…生きていない方がいいんだ…
◆◆◆
ウサギside
アリスは、ミラの策に嵌ってしまった。
完全に現実を見失ったアリスは、俯いたまま譫言を呟いていた。
「そんな…アリス…どうして……ミラの言う事なんかを…」
「これで彼は、『とちゅうきけん』。あなた達の、『げぇむおおばぁ』ね」
ミラは、不敵な笑みを浮かべながら言った。
思えば、アリスは2セット目から、明らかに様子がおかしかった。
1セット目が終わった後、ミラは私達に紅茶を振る舞ってきた。
アリスはその紅茶を飲んで……
…そうだ、紅茶…!!
「そう…途中から彼の様子は明らかに、普通じゃなかった……何を、入れたの?」
「いわゆる、幻覚剤の一種♡」
私が尋ねると、ミラは目を細めながら答えた。
「まあ、一言で幻覚剤と言っても、その作用は様々だけれど。それらは脳神経系を刺激し、感覚を歪める。判断能力の低下、本能や認識の不制御、命令に従う従順さの増大、内面の相貌化…」
「命令に従順…内面の…相貌化!?」
何を、言ってるの…!?
「友の死という喪失。それを自身が招いたという自責。これだけのストレスがあれば…薬の作用で現実認識が曖昧な彼を誘導し、『
「心理戦を装ったやりとりも、全て…カモフラージュ。初めから、こんなものに頼って、彼を棄権に追い込む事が…この『げぇむ』の、本当の狙いだったのね…」
「元々彼には、
何ですって…!?
アリスが二度と戻ってこない…!?
そんなはず…
「…何故彼が、こんな簡単な『げぇむ』に敗れたのかわかる?慎重なあなたは、ティーカップには手をつけなかった。では何が彼の油断を招き、薬が付け入る隙を与えたのか。それは偏に、異常なまでの、『答え』への執着。『答え』にさえしがみつかなければ、冷静に全てを疑ってさえいれば、彼は勝てた。にも拘らず、彼があそこまで執拗に『答え』を求め続けたその理由を、あなたも薄々は、勘付いているんでしょ?彼が知りたかった『答え』とは、本当は、『今際の国』の正体などではなく…自分は何の為に生きているのか。彼の『存在理由』そのものだったんじゃないかしら?」
アリス……
「愛を知らずに育った彼は、『
心の隙…
思えば、アリスはずっと、燻っていたように見えた。
充分な愛情を、与えられてこなかったから。
アリス、あなたはまだ…探し求めていたんだね…
「そろそろ……終わりにしていいかしら?私が彼に『とちゅうきけん』の意志を確認すれば、『げぇむおおばぁ』。尤も今の彼は、私の言葉に従う以外の術を持たないでしょうけど」
ミラは、紅茶を一口飲んでから、静かに目を伏せながら口を開く。
「…それで、いいの?このまま偽りの真実を信じ込まされたまま、自分で生きる意志を放棄するなんて…それであなたは…本当にいいのアリス…?どんなに辛くても、前に進むんでしょ…?それでも、生きていくって決めたんでしょ!?」
私は、アリスに向かって叫んだ。
自分が生き残りたいからじゃない。
アリスには、前に進んでほしいから。
こんな小細工に…ミラの術中に嵌って生きる事をやめるなんて、そんなの私が許さない。
「私の…知っている彼は…いつだって…自分と向き合う事から逃げずに戦ってきた…アリスは必ずまた、
「残念だけど、
そんな…
そんな事って…
「さあアリス。あなたに最後の確認をしましょうか。この『げぇむ』を、『とちゅうきけ────
「まだよアリスっ!!」
私はミラの言葉を遮って、ナイフを手に取りながら立ち上がった。
「ミラの言葉が聴こえてるのなら、私の言葉も届くはずよ!!アリスに、言ったよね…命を懸けて、あなたを守るって…!」
――ガッ!!
私はアリスに呼びかけながら、手に取ったナイフで、自分の右手首の動脈を掻っ切った。
血が勢いよく噴き出て、テーブルやミラの顔にも血が飛び散る。
「…あ…な…た、何を…!?」
ミラはいきなり自分を傷つけた私を見て、驚愕していた。
私は、血が大量に流れ出る右手を振り上げて、アリスに向かって叫んだ。
「ミラがどう言おうと…私は間違いなくここにいる…ここで生きてる…なのにあなたは…本当に何も感じないの…?それでもあなたが、ミラの言葉を信じるっていうなら…『
◆◆◆
アリスside
暗闇の中に、光が見えた。
光に目を向けると…ウサギが、自分を傷つけながら何かを叫んでいた。
……ウサ…ギ…?
な…に…してんだよ…ウサギ…?
ウサギ…!
ウサギっ…!!
「アリス…?私の声が、届いてるの…?私は…
ウサギの身体から、どんどん血が抜けていく。
このままじゃ、ウサギが…!!
ダ…メだ…!!
ダメだウサギ…!!
今…そっちへ…!!
俺が手を伸ばしたその時、光が目の前で閉ざされた。
俺の前には…俺自身が立っていた。
な…んで…俺が…邪魔すんだよ…!?
『また『
…けど、もし…違ったら…!?
『大体お前、もう生きていたくねーんだろ?だったらもういいじゃん。誰がどうなろうとさ』
……それでも、俺にとって…ウサギは…!
『希望だの生きる意味だの、またくっだらねー理由にするつもりなんだろ?まーだ『答え』なんてもんを、探すつもりかよ?飽きもせずウジウジ悩んで悩んで、それでなんかいい事あったの?そもそも人って、役割が無いと生きてちゃダメなわけ?理由がないと生きられない程自分の存在を貶められるなんて、もうマジでどうしようもねーなお前!』
…るせぇ…
『大体、ウサギと気持ちが通じ合ってますー、みたいな気になってるようだけど、それこそ幻想だぜ?どれだけ相手を思い遣ろうと労ろうと、そんなもんは一瞬、心が繋がった気がするだけだ。人は孤独。人生は自己完結。始めから終わりまで、1人で歩いていくしかねーってのによ』
うるせぇよッ!!
なんでお前はそうやっていつも…
俺を追い詰めるような事ばっか言うんだよ…!!
頼むからもう…俺を放っといてくれよ…!!
お前なんか!!
大っ嫌いだ!!
『……お前こそ…何でそこまでオレを、拒絶しようとするんだ?』
うるせぇ!!
俺はもう、お前の話なんて、一切聞きたくねーんだよ!!
『過去や『答え』ばっかでがんじがらめになって、オレの話にはロクすっぽ耳を貸そうともしねー』
頼むから…!!
もう喋んな…!!
やめろって…言ってんだよ…!!
『オレはお前の、本心だってのによ』
今…何て…?
『ようやく、『
…………え?
『オレ達は皆、誰だって悩んでる。でもって悩んだ末に出した『答え』は、その時々、その人によって、常に変わってく。その『答え』はどれもが正解で、それでも生きてる限り、次の悩みは、いつかまたやってくる。人生は自己完結。そうやって皆が勝手に思うがままに、1人で歩いてくしかないのさ…それでも、誰かと寄り添って、共に歩く事はできる。誰かと解り合えた気がする一瞬一瞬を共有しながら、誰かを喜ばせたり、誰かに喜ばせてもらったりしながら、気の合う連中が周りに歩いてくれてたなら、それで結構、オレは充分なんだけどなぁ…』
そう…か……
それが、俺の……
『そろそろ頭でゴチャゴチャ考えんのはやめて、ちゃんと感じてみ?生きたいかどうかとかそういうの、どーでもいいからさ。ぶっちゃけ今一番、何がしてーの?』
オ…レは…
◆◆◆
ウサギside
私がどんなに呼びかけても、アリスは意識を取り戻す事はなかった。
頭が…朦朧としてきた……
お願い…アリス、早く…戻ってきてよ……
「アリ…ス…どうして…戻ってきて…くれないの…?このままじゃ…私も…もう…」
「決死の訴えも、薬の力には無力…無力なのかしらね、人の想いは…」
ミラは、心なしか残念そうに呟いた。
もう…ダメ、なのかな……
「オレは………ただ…ウサギと…もう一度…手を繋ぎたい…」
「……アリス…?」
「ウサギとまた…一緒に…飯を食いたい…」
アリス……
あなたはまだ、そこにいるんだね…
私もまだ、ここにいるよ…
「……私も…明日もあなたに、おはようって言いたい…」
「休みの日はどこにも行かずに…2人で家でゴロゴロしたい…」
「一度くらいは…2人で山に登りたい…」
「毎日…一緒に笑いたい…」
「たまには…喧嘩する日が、あってもいいよね…」
私はただ…
あなたに、そこにいてほしい。
あなたがただ、生きていてくれるだけでいい…!!
「これは……どういう事…?薬の作用で彼の『生存本能』は、抑えられているはずなのに…?…そうか!これは…『保護本能』…『生きたい』という欲求は抑えられていても、『
◆◆◆
アリスside
俺は…ただ…
ウサギに…
そこにいてほしい…!
ただ…ウサギが…
生きてくれるだけでいい…!!
俺は…ただ…!!
「オレは……ただ…君を、守りたい…!!」
俺は、ウサギの腕を掴みながら言った。
もう、負けない。
ウサギが、ここにいてくれる限り。
◇◇◇
俺はウサギの右脇と出血箇所を布で縛って、止血をした。
「頼りないけどなんとかこれで、止血はできてるはずだ…」
「アリスこそ…本当にもう大丈夫なの…?」
「まだ頭がフワフワしてるよ…これって…薬のせいなんだよな…けど…今のオレがやるべき事は…ちゃんとわかってる…」
俺は、ただ黙って俺達を見届けていたミラに言った。
「ウサギが待ってる…『げぇむ』を、終わらせようか…」
俺は、ミラに『げぇむ』を続行する意志を伝えた。
するとミラは、満面の笑みを浮かべて答えた。
「ええ、そうね」
◇◇◇
こうして俺とミラは、クロッケー対決を再開した。
3セット目の途中、俺はミラに尋ねた。
「結局は…アンタも…この国の『答え』なんて、何も知らなかったんだよな…?」
「……ええ。実のところ私達国民も皆、理由もわからず『げぇむ』を続けているだけなのよ…だからこの『今際の国』があなたの幻覚かもって可能性だって、実はまだ充分残っているのよ。でもいいじゃない。『答え』探しはもう、やめたんでしょ?」
「……そうだな」
「……けどそれも、『答えを求めない』という、多くの中の1つの『答え』に過ぎないけど♡」
そう言ってミラは、無邪気な笑顔を浮かべた。
俺はまだ、一番尋ねたい事が、ミラにあった。
「…最後まで、わからない事が1つあるんだ…本当にオレを陥れる為だけに…あれだけの嘘をついたのかな…?アンタの狙いは…本当は…何がしたかったんだ…?オレを、救おうとしたのか?」
俺が尋ねると、ミラは少し寂しそうに、俯きながら言った。
「精神科医とは…誰かを助ける事が報酬。目の前の相手が救われていくのは、我が事のように嬉しいけれど、目の前から相手が巣立っていくのは、また自分だけが取り残されるようで何より寂しい…耐え難く、救いようのないジレンマ…だから私は国民になって、こんな事を続けているのね…」
俺には未だに、ミラの心が見えない。
だけど彼女の今の言葉は、本当の言葉であるように思えた。
「ちなみに、私がついた嘘は、この国の『答え』に関してだけよ。アリス、人生はゲーム。楽しみなさい」
そう言ってミラは、俺に微笑んだ。
その後は、ミラはこれといって、大した話はしなかった…
ただ…
こんな時に、不謹慎な気も少ししたが…
最後のミラとのクロッケーは、少し、楽しかった…
◇◇◇
日付が変わる直前、俺とミラは3セット目をやり終えた。
すると飛行船から、アナウンスが聴こえる。
《『ぷれいやぁ』が3セットを最後までやり終える事ができました。『げぇむ』終了です》
俺が最後まで『げぇむ』を続けた事で、ミラの『げぇむおおばぁ』が確定した。
ミラは、思い残す事が何も無いかのように微笑んだ。
その直後だった。
――ピィン!!
――ズッ…
――ドサッ…
ミラの身体を、レーザーが貫いた。
ミラは、その場で力無く芝生の上に倒れ込む。
《『げぇむくりあ』》
タワーの上に浮かんでいた飛行船から吊り下げられていたタペストリーの表示が、『
その直後、飛行船が内側から爆発し、炎を上げながら墜落した。
こうして、俺達の最後の『げぇむ』が幕を閉じた。