Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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いまわのくにのこくみん

???side

 

 『今際の国』。

 アリス達、()『ぷれいやぁ』が入国する、5ヶ月前。

 

 

 

 『げぇむ』『とろっこ』

 難易度『♣︎10(くらぶのじゅう)

 

 『とんねる』が崩壊するまでに脱出できれば『げぇむくりあ』

 

 

 

「キャアアアアッ!!」

 

「な、何だよこれ…何なんだよぉ!?」

 

「皆、落ち着いて!何があっても、絶対に守るから…!!」

 

 女性と子供4人の5人組が、トロッコに乗って『げぇむ』に挑んでいた。

 爆走するトロッコに、無数の銃弾の雨が降り注ぐ。

 女性はトロッコを操縦しながら、混乱したり泣き喚いたりしている子供に声をかけていた。

 

 

 

 茨原(イバラ)花江(はなえ)

 保育士

 得意ジャンル 『♣︎(くらぶ)

 

 『今際の国』 滞在1日目

 

 

 

 イバラ達が初日に挑んだ『げぇむ』は、工事中の地下トンネルを舞台にした『げぇむ』で、トロッコを操縦して、迷路のように入り組んだトンネルが崩壊するまでに、ヒントを頼りに正解のルートを通って脱出するという『るうる』だった。

 正解のルートを通っても、罠がないとは限らないため、迷路やヒントを解く知能だけでなく、当たれば即死は免れない罠を回避する器用さや、瞬時により安全なルートを判断する直感力なども試される、まさにバランス型らしい『げぇむ』だった。

 

 イバラは、ヒントを頼りに、トロッコを操縦して罠を回避していた。

 すると他の4人も、イバラのおかげで命懸けの状況に慣れてきたのか、全員それぞれの得意分野を活かしてイバラをサポートした。

 5人は、トンネルが崩壊する前に出口に辿り着く事ができた。

 英才教育を受けた子供達が全員で協力して『げぇむ』を攻略したため、イバラ以外はほとんど無傷だった。

 

「やった…!出口っ、出口だ…!!」

 

「走れ!!崩れるぞ!!」

 

 5人は、ひたすら出口に向かって走った。

 だがそんな中、一番小柄な少女が、走っている途中で転んでしまう。

 

「きゃあ!」

 

「スミレ!!」

 

 スミレが転ぶと、他の子供達が立ち止まって振り向く。

 スミレは起き上がって走ろうとしていたが、足を捻ったのかうまく立ち上がれず、止まっている間にもトンネルの崩落はすぐそこまで迫っていた。

 

「まずい、巻き込まれる…!」

 

「早くこっちへ!!」

 

 目の前でトンネルが崩れ、スミレは死を覚悟して目を固く瞑った。

 するとその時、イバラがスミレのもとへ駆けつけた。

 その直後、トンネルが崩落して瓦礫が2人に降り注ぐ。

 2人は、瓦礫に埋もれて姿が見えなくなる。

 

「どうしよう、兄ちゃん、姉ちゃん…!ママとスミレが…!!」

 

「決まってるでしょ、2人を助けるわよ!!」

 

「今ならまだ間に合う!急げ!」

 

 一番大柄な少年、ヒエンが狼狽えていると、眼鏡をかけた少女、ユリアと、服をきっちり着こなした少年、ヒナギクが叫ぶ。

 3人は、トンネルが爆発する音が少しずつ近づいているのも気に留めず、ひたすら瓦礫を掻き分けた。

 すると、瓦礫の中で蹲っている2人の姿が見えた。

 

「怪我…ない……?」

 

「いやっ…ママ…ママぁっ…!!」

 

 イバラが尋ねると、スミレが泣いた。

 スミレはほとんど無傷だったが、彼女を庇ったイバラは、右腕を失い左脚が瓦礫で潰れる重傷を負っていた。

 

「言ったでしょ…何があっても、あなた達を絶対に守るって…」

 

「ママっ…ごめんなさい、ごめんなさい…!!やだ…やだ、やだ!死んじゃやだ!!」

 

 イバラが微笑みながらスミレの頬を撫でると、スミレはイバラにしがみついたまま泣き喚いた。

 するとそこへ、他の3人が駆けつける。

 

「ママ!!」

 

「待ってて、今引っ張るから…!」

 

 3人は、瓦礫に埋もれたイバラとスミレを引っ張り出そうとした。

 だがイバラの左脚は瓦礫で潰れており、ヒエンが引っ張ってもびくともしなかった。

 子供達がイバラを助けようとしている間にも、崩落音が近づいてくる。

 タイムリミットは、残りわずかだった。

 イバラは、何かを決心したのか、覚悟を決めた表情を浮かべて子供達に話しかける。

 

「左脚の感覚がない…お願い、皆…そこに落ちてる鉄の板で…私の左脚を、切り落として…」

 

「できないよ、そんな事!!」

 

 イバラが自分の脚を切り落とすよう子供達に懇願すると、子供達は当然拒否した。

 

「いいから早くしなさい!!このままじゃ、全員崩落に巻き込まれて『げぇむおおばぁ』よ!!」

 

 イバラは、嫌がる子供達に向かって叫んで急かした。

 するとヒナギクが、自分の体重よりも重い鉄の板を引きずり、イバラの前まで持ってくる。

 スミレ以外の3人が板を持ち上げ、それを勢いよくイバラの脚に落とし、イバラの脚を切断した。

 その後、ヒエンがイバラをおぶって全員でゴールまで駆け抜け、全員生きて『げぇむくりあ』を果たした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『今際の国』滞在17日目。

 イバラは、早朝に大荷物を持って自転車を漕いでいた。

 イバラは、初めての『げぇむ』を『くりあ』した後、子供達が見つけた装具士に義肢を作ってもらい、最初の『げぇむ』の『びざ』が切れるまでにリハビリを終えて今までの『げぇむ』を生き延びてきた。

 どこからか、ラジオの音声が聴こえてくる。

 

『腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動〜♪♬はい!いち、に、さん、しー』

 

 イバラが何気なく音が聴こえた方を見てみると、黒いジャージを着た男、シーラビがラジオ体操をしていた。

 すると上半身裸の男、キューマがシーラビに声をかける。

 

「なつかしいなー!ラジオ体操じゃん!オレも、一緒にやっていい?」

 

 

 

 久間(キューマ)欣治(ぎんじ)

 ミュージシャン

 得意ジャンル 『♣︎(くらぶ)

 

 『今際の国』 滞在2日目

 

 

 

 椎羅日(シーラビ)(いさお)

 傭兵

 得意ジャンル 『♠︎(すぺえど)

 

 『今際の国』 滞在4日目

 

 

 

 キューマは、シーラビの横に並んで、一緒にラジオ体操をした。

 

「ぴょんぴょん飛ぶやつ、アレが一番面白いよねー」

 

 キューマは、黙々とラジオ体操をしているシーラビに、一方的に話しかけた。

 少し離れたところでは、眼鏡をかけた男、クズリューが、椅子に腰掛けて本を読んでいた。

 

 

 

 九頭龍(クズリュー)慧一(けいいち)

 国際弁護士

 得意ジャンル 『(だいや)

 

 『今際の国』 滞在3日目

 

 

 

 さらに少し離れたところでは、日傘を差した女、ミラが、3人の様子を面白そうに眺めていた。

 

 

 

 加納(かのう)未来(ミラ)

 学者

 得意ジャンル 『(はあと)

 

 『今際の国』 滞在4日目

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 キューマ、シーラビ、クズリュー、ミラの4人は、3日間で少しずつ距離を縮め、意気投合していった。

 そして、『今際の国』滞在21日目。

 

「彼女が、昨日言ってたオレの友達!イバラっていうんだ」

 

 キューマが、他の3人にイバラを紹介した。

 キューマは先日、いつものように4人と雑談をしに行く前に海沿いを散歩していたのだが、その時ハンググライダーをしていたイバラを見かけたのだ。

 ひょんな事からキューマと仲良くなったイバラが、朝の雑談に加わった。

 

 イバラは、シーラビが埋葬する為に集めてきた『ぷれいやぁ』の遺体を清潔なタオルで拭き、傷口を綺麗に縫った。

 既に事切れた遺体を縫うイバラに、シーラビが声をかける。

 

「そんな事をしても、死人は蘇らない」

 

「知ってるわ…これはエンバーミングをしているんです。神様のところへ行くんですもの。できるだけ綺麗な姿の方がいいでしょう?」

 

「……クリスチャンか」

 

「まぁ…ね」

 

 シーラビが穴を掘りながら尋ねると、遺体の修復を終えたイバラが救急箱を閉じながら答える。

 シーラビは、イバラが修復した遺体を、出来るだけ丁寧に穴の中に置いて、その上に土を被せた。

 

「お前は…神を信じているのか」

 

「全然♡」

 

 シーラビが尋ねると、イバラが笑顔を浮かべながら即答する。

 するとシーラビは、僅かに目を見開く。

 

「私、キリスト教系の施設で育ったんです。けれど神様を本気で信じた事なんか、一度もなかった。私のはただの、亡くなった院長の受け売りよ。…それでも、どうせたった一度きりの人生なら、キラキラしたものを見る事にしてるの。だって私達は、こんなどうしようもない世界で生きてるんですもの」

 

「お前は…オレとは対極の人間だ……」

 

「そうですね…でも私達は、お互い大切な人を亡くして、死ぬよりも耐え難い苦痛の日々を生きて、この国に迷い込んだ。似た者同士、仲良くしましょう」

 

 そう言ってイバラは、シーラビと一緒に遺体を土に埋めた。

 その近くでは、キューマがギターを弾きながら歌っており、クズリューにも一緒に歌うよう勧めていた。

 イバラとシーラビの近くではミラが、遺体の眠る土に撒いた種に水をやっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 滞在25日目。

 この日もキューマとシーラビは、一緒にラジオ体操をしていた。

 ミラは、撒いた種から生えた芽に、水をやっていた。

 そしてクズリューとイバラは、ベンチに座って本を読みながら話していた。

 

「私には…もう、わからないんだ。救う価値のある命と、そうでない命との差が…国や法を維持する為には、格差を受け入れなければならない…本当にそうなのか…?」

 

「優しいのね…」

 

 クズリューが話をすると、イバラは本のページをめくりながら、ポツリと言った。

 

「…あなたの気持ち、少しだけわかる気がする。私は元の世界で、いじめや虐待で心を閉ざした子供達を、たくさん見てきたから。加害者は大して反省もせずに普通に生きて、被害者だけがいつまでも前を向けずに苦しんでる。元の世界で汚いものを見るうちに、私…疲れちゃったみたい」

 

「疲れた…か。私も…そうだったのかもしれないな」

 

「だとしたら私達って、似た者同士ね」

 

 イバラとクズリューは、元の世界の不条理に苦しんだ者同士、波長が合っているようだった。

 するとクズリューが、イバラに尋ねる。

 

「イバラ。君は、この国に来て良かったと思うか?」

 

「そうね…少なくとも私は、この国に来て良かったと…思ってるわ。だって、気付けたから。この世に在る命は全て、等しく世界の奴隷だって事に」

 

「世界の、奴隷…?」

 

「ええ…私達はあくまで、与えられた人生(役目)をただこなしているだけに過ぎない。ほとんどの人は、その事に気付く事すらなく一生を終えていく。その事に気付いたら、スッと心が軽くなったわ。だから、決めたの。奴隷は奴隷らしく、不相応な高望みはせずに、与えられたものに感謝して、今を精一杯楽しんで生きようって」

 

「君は…強いな。君のように強く気を保てたら、無くしたものを、見つけられたのだろうか…」

 

 イバラが本を閉じながら自身の人生観を語ると、クズリューが微笑みながら言った。

 イバラは、クスッと笑ったかと思うと、トランプを取り出す。

 

「そういうわけで、湿っぽい話はこの辺にして、一緒にゲームでもしません?」

 

「…ああ」

 

「何やります?ババ抜き?大富豪?セブンブリッジ?」

 

「そうだな、じゃあ…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 滞在30日目。

 キューマが、シーラビと一緒にラジオ体操をしながら、シーラビに話しかける。

 

「昨日…さ。初めて『げぇむ』で人を殺したんだよね。まあー正確には、『くりあ』できる枠が決まってたから、誰かが『げぇむおおばぁ』にならざるを得なかった」

 

 キューマは、昨日参加した『げぇむ』の話をシーラビにした。

 キューマ達が『ぷれいやぁ』だった頃は、アリスやヘイジ達が入国した時よりは『げぇむ』の難易度が全体的に低かったとはいえ、それでも限られた人数しか生き残れない『げぇむ』は少なくなかった。

 キューマが話すと、シーラビも口を開く。

 

「人は、生きている事自体が『罪』だからな…生きる事は、苦痛と後悔を生み出し続ける…他者を殺さねば生きられない、この『今際の国』という末法で、多くの人間がようやく己の罪を自覚し始めただけの事…もはや救いは…死の中にしか無いのかもしれん…」

 

「『死』の為に存在する『生』…か。オレは逆だと感じたけどね。『今際の国(ここ)』に来て、たくさんの死に触れて感じたんだ。『死』ってのは、恐れるものでも、目を逸らすものでも、最後に行き着くゴールでもない。『死』は、オレ達()生きてる人間の命を、滾らせ、輝かせ、漲らせ、燃え上がらせる為にあるんじゃないかってさ。NO LIFE NO DIE(生きてる者の為に死がある)!」

 

 キューマは、ラジオ体操をしながら断言した。

 その発言を聞いて、シーラビは一瞬僅かに目を見開き、再びいつもの無表情に戻った。

 

「ここに来て、良かったよ…」

 

「…不思議な、男だな」

 

 キューマが言うと、シーラビも口を開く。

 その頃、クズリューとミラは、チェスをしていた。

 イバラは、茶葉を混ぜてオリジナルブレンドを作りながら、2人のやりとりを近くで眺めていた。

 クズリューは、元の世界で自身の心を汚した出来事を、ミラに打ち明けていた。

 

「結局、最高裁での控訴が棄却され、企業側の勝利が確定した…マイノリティーの命の価値の低さ、合理的疑いに頼るしかない司法制度が、偏った判決を……すまない、つまらないだろう?こんな話は…」

 

「いいえ、もっと聞かせて。貴賤貧富や栄枯盛衰に翻弄される人の業の話は…聞いてて飽きないわ。それでも、この世界で毎晩起きている生き死にのドラマに比べれば、幾分劣るけれど」

 

 クズリューが愚痴を言った事をミラに謝ると、ミラは微笑みながら言った。

 するとクズリューは、若干顔を引き攣らせながら口を開く。

 

「…時々、怖くなるよ。君のその…底の知れない、無邪気な好奇心が…」

 

「…だとしたら、私も例外ではないという事ね…『今際の国(ここ)』では、誰もがおかしくなっていく…あなたも、イバラも、彼らも、少しずつ、少しずつ…楽しいわね♡」

 

 クズリューが言うと、ミラが微笑む。

 そんなミラを見て、イバラもクスッと笑った。

 

「あなたらしいですね」

 

 イバラは、ベンチの上に置いたバスケットを漁って、中に入っているものを取り出した。

 

「お腹、空いてません?朝ご飯を持ってきたの」

 

 そう言ってイバラは、朝食の弁当を広げた。

 弁当の中身は、サンドイッチとスコーン、それから手作りの白薔薇のジャムだった。

 するとミラがイバラに話しかける。

 

「あら、美味しそう。これ全部、あなたが作ったの?」

 

「ええ。よろしければ、皆で一緒に食べませんか?キューマ君とシーラビさんも」

 

「えっ、いいの?」

 

「もちろんですわ。ここで出会ったのも、何かの縁ですもの」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから5人は、晴れの日も、雨の日も、嵐の日も、全員で早朝に集まって同じ時間を過ごした。

 ある日は、最初は見学していたミラ、クズリュー、イバラの3人も加わって全員でラジオ体操をした。

 ある日は、イバラの提案で海沿いへ行き、スカイスポーツを楽しんだ。

 そしてまたある日は、ミラが釣ってきた大きな鮭を焼き、焚き火を囲んでキューマの歌を聴きながら談笑した。

 そして、滞在89日目。

 

「しっかし、誰も死なねーよなー。オレ達5人って、何気に超スゲーんじゃね?一緒に『げぇむ』に参加する訳でもなく、毎日、早朝だけここに集まるようになって…何か、妙な縁だよな。願わくはこのまま…誰1人欠けずにいてーよな」

 

 キューマは、ラジオ体操をしながら笑顔で言った。

 するとイバラも、水筒の紅茶を飲みながら微笑む。

 

「そうね…出来る事なら、このまま5人で毎日、くだらない話をしていられると…いいのだけれどね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『今際の国』滞在100日目。

 とうとう、絵札を除く全ての『げぇむ』が『くりあ』され、『ねくすとすてぇじ』が始まった。

 『ねくすとすてぇじ』初日にして、『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』、『♢K(だいやのきんぐ)』、『♡Q(はあとのくいいん)』、『♣︎Q(くらぶのくいいん)』の4つの絵札が陥落した。

 

 そして翌日、『ねくすとすてぇじ』開催2日目。

 キューマが、仲間と共に『♣︎K(くらぶのきんぐ)』を打ち破った。

 

「ハッハー!!『♣︎K(くらぶのきんぐ)』撃破ァ!!」

 

 難なく『♣︎K(くらぶのきんぐ)』を撃ち破ったキューマは、愉快そうに笑った。

 

「で?聞かせろよっ!皆の事だから、どーせ初日からかましてやったんだろ?」

 

「『♠︎K(すぺえどのきんぐ)』…」

 

「『♢K(だいやのきんぐ)』」

 

「『♡Q(はあとのくいいん)』よ」

 

「『♣︎Q(くらぶのくいいん)』ですわ♪」

 

 キューマが他の4人に尋ねると、シーラビ、クズリュー、ミラ、イバラが答える。

 平然と答える4人を見て、キューマが口を開く。

 

「もうすぐだな…巷じゃ絵札の国民は、()の『げぇむ』を勝ち残った『でぃいらぁ』だって噂もあるけど、全『くりあ』したらどうなんのかな?オレ達、元の世界に戻れんのかな?」

 

「それは、全ての『げぇむ』を『くりあ』してからのお楽しみ…という事なのでしょうね…」

 

 キューマが言うと、イバラも、オリジナルブレンドの紅茶を飲みながら口を開く。

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催3日目。

 

「キャー、やったぁ!『♡J(はあとのじゃっく)』、撃破ァ!!」

 

「しっかし、『♡J(ヤツ)』からは有益な情報を聞けたもんだぜ。まさか、全ての絵札の『げぇむ』を『くりあ』した先にあるのが、()()()()()()だったとはな…」

 

 アヤカ、エンジ、アイの3人が、『♡J(はあとのじゃっく)』を撃破した。

 

 

 

 開催4日目。

 

「勝次…勝次ぃ…!!うあぁあああああぁああああ…!!」

 

「先生、落ち着いて下さい!!」

 

「そんなに無茶したら、死んじゃいますよ!」

 

 『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』を撃ち破ったシモツキが、自分を傷つけながら『げぇむ』会場を滅茶苦茶に壊し、一緒に『げぇむ』に参加した4人がそれを止めた。

 

 

 

 開催5日目。

 

「勝てないとわかったからって、自殺してんじゃないわよ……つまんないの」

 

 『♢Q(だいやのくいいん)』が、『げぇむ』の決着を待たずに首を吊って自害した。

 その結果、その時点で生き残っていたヒミコが、自動的に『げぇむくりあ』した。

 ただ1人『げぇむくりあ』したヒミコは、つまらなさそうにポツリと呟いた。

 

 

 

 開催6日目。

 

« あ、やっぱりあなたも『げぇむくりあ』したのね。誰倒した?私は『♢Q(だいやのくいいん)』よ。 »

 

« ……『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』 »

 

 ちょうど日付が変わると同時に、ルーナが、『げぇむ』会場で意気投合した4人と一緒に『♠︎Q(すぺえどのくいいん)』を撃破した。

 

 

 

 開催7日目。

 

「『くりあ』したのはええが…暇になってしもうたな。誰か、暇潰しに付き合うてくれんものか…」

 

 アモンが、『♢J(だいやのじゃっく)』を撃破した。

 暇潰しの相手を探していたアモンは、翌日、ようやく目を覚まして木陰に蹲っていたシモツキに声をかけた。

 

「そこの兄サン。アンタ、絵札の『げぇむ』を『くりあ』したんやろ?誰を倒しましたん?ワテは『♢J(だいやのじゃっく)』…兄サンは?」

 

「………『♠︎J(すぺえどのじゃっく)』や」

 

「悪いねんけど、ワテの暇潰しに付き合うてくれまへんか?他の『(だいや)』の『げぇむ』は先越されてしもうたさかいに、やる事がのうて暇でしゃあないんでっせ」

 

 アモンは、暇潰しの相手にシモツキを誘った。

 するとシモツキは、虚ろな目をアモンに向けて答える。

 

「儂でええんやったら…付き合いまっせ。儂も…やる事が、あらしまへんさかい…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『ねくすとすてぇじ』開催8日目。

 

「やったぁ!!『♣︎J(くらぶのじゃっく)』、撃破ァ!!」

 

 ワスベが、サーカス仲間と共に『♣︎J(くらぶのじゃっく)』を撃破した。

 こうして、残りの絵札の『げぇむ』が『♡K(はあとのきんぐ)』ただ一つとなった。

 

 

 

《ここで『今際の国』に滞在する全『ぷれいやぁ』の皆様に、重要なお報せがございます。おめでとうございます。『ねくすとすてぇじ』の絵札の『げぇむ』も、残すところあと、1つとなりました。全『げぇむくりあ』まであと一息です。最後の『げぇむ』も頑張って下さい》

 

 イバラ達5人が、いつもの朝の集会をしていると、アナウンスが鳴り響く。

 するとクズリューが目を見開いて驚く。

 

「あと、1つ…!?」

 

WOW(ワオ)!今日にも誰かが『くりあ』するんじゃね?て事はこのラジオ体操も、コイツが…最後になるかもな」

 

 キューマが言うと、他の4人は神妙な表情を浮かべて黙り込んだ。

 するとキューマが、ある提案をする。

 

「そうだ!記念に最後の『げぇむ』くらい、5人で参加してみっか?まーどんな『げぇむ』だろうが、恨みっこなしでさ!」

 

「…悪く…ないわね」

 

 キューマが提案すると、イバラは髪を耳にかけながら微笑む。

 その時、ミラが徐に口を開いた。

 

「…ねぇ。もしも、もしもの話よ?もしも全『くりあ』の先に私達を待っているものが、この『今際の国』の国民として永遠に『げぇむ』に参加し続けられる、『永住権』を『手にする』か『しない』かの選択だったとしたら、皆はどっちを選ぶ?」

 

「それって、つまり…()国民にオレ達が取って代わり、いつか『げぇむ』で敗れて死ぬ日まで、ずっとここで暮らすって事か?」

 

「そういう事に、なるわね」

 

 ミラの質問にキューマが質問で返すと、ミラが微笑みながら答える。

 するとキューマは、頭を掻いて口を開く。

 

「…オレは、スリルの中毒だからなァ…生きたい、死にたい、助けたい、逃げ出したい、ここじゃ全てが抜き身の意志。こんなにも裸の魂が踊る世界を、他には知らねぇもんな…命が儚いものだと骨身に沁みた。だからこそオレは、ここで生きていきたい」

 

「キューマ君らしいですね…」

 

 キューマが言うと、イバラが微笑んだ。

 すると今度は、シーラビが口を開く。

 

「…その選択だが、永住権を、受け入れなければどうなる?」

 

「『わからない』としておきましょうか。元の世界に戻れるかもしれないし、その場で強制排除されるかもしれない。その方が、選択としての()()()()がいいでしょう?それに、あなたが国民にならずとも、後継者は絶えないわ。キューマのような物好きは…大勢いるもの」

 

「まるで…救いのない話だな…誰かがこの地で修羅と化さねばならんのなら…オレが殺戮の限りを尽くし、その罪を一身に背負う事で、次に来る者達を1日でも早く、この苦しみから救おう…」

 

 シーラビは、俯きながら言った。

 

「私は…ずっと、無くしたものを探してきた。それが何だったのかもよく思い出せない今となっては…もう…どちらでもいい…」

 

 クズリューも、伏目がちに自分の意見を話す。

 すると今度は、イバラが口を開く。

 

「私は…正直、まだ元の世界への未練が捨て切れません。この国へ来る時、娘と逸れてしまったの。最初のうちは、彼女の為にも、元の世界に戻るのに必死でした。でももし、『永住権』を受け入れなかった時の末路が『強制排除』かもしれないなら…私は、国民になる事を選ぶと思うわ…この国に留まっていれば、いつかあの子にまた会えるかもしれないから…」

 

「でも、もしその子が次に来る『ぷれいやぁ』だったら?殺し合う事になるかもしれないのよ?」

 

「構いません。というか私は…本当は、この国に留まりたいんだと思うの」

 

 ミラが尋ねると、イバラは下を向いて微笑みながら答える。

 

「『ねくすとすてぇじ』が始まる前にね…私は、『ぷれいやぁ』が『ぷれいやぁ』を殺すところを見たの。富、名声、権力…殺されたのは、おおよそ人が欲しがるものを全て手に入れた男だった。男は、命乞いも虚しく殺された。望んだものを全て手に入れてきた彼だったけれど、可哀想に…どんなに望んでも、『明日』だけは、手に入らなかったの」

 

「『明日』…か」

 

「ええ…男を殺したのは、紛争の絶えない国で生まれ育った女の子だった。私は彼女に尋ねたわ。『どうして『ぷれいやぁ』同士で殺し合いをするのか』って。そしたらその女の子は、平然と答えたの。『関係ない』って」

 

 イバラは、『ふぁあすとすてぇじ』最後の『げぇむ』の帰りに出会った若い女の話をした。

 紛争国で育ち反社会組織に奴隷として買われた彼女が殺したのは、元の世界で何千万人もの人間を支配できる権力を持った大富豪の男だった。

 女が男を殺した理由は、特にはなかった。

 強いて言うなら、何となく態度が気に入らなかった、そんな理由だった。

 

「人がゴミのように死んでいく国で生まれ育った彼女が信じていたのは、『人は殺せば死ぬ』という事実だけ。『平和』に退屈した男と、『平和』を知らない彼女の価値観は違う。この国では、貴賤貧富や価値観に関係なく…誰もが、この国の奴隷として生きてる。私は今まで、こんなにも美しい世界を見た事がなかった。どうせいつか死ぬなら、最期まで『今際の国(ここ)』でキラキラしたものを見ていたい。それでもし、仮にいつか次の『ぷれいやぁ』に負けて死んじゃったとしても…それはきっと、まあ…『仕方ないよね』って…受け入れられる気がするわ…」

 

「あはっ、オレと一緒♪」

 

 イバラが言うと、キューマが笑った。

 キューマは、最後にミラに尋ねる。

 

「で?ミラ、君はどっちなんだい?」

 

「………昨日…ね。まさにこれから『げぇむ』に挑もうとしている1人の男に出会ったの。男は過去の『げぇむ』で瀕死の傷を負い、息も絶え絶えに這うように『げぇむ』会場に向かっていた…私はその男に尋ねてみたの。『そんな身体で戦っても、敗れるのは誰の目にも明らか…なのにあなたは、何故そこまでして『げぇむ』に参加しようとしているの?男はこう答えたわ。『私のこれまでの人生は、全てを諦めてきた』。学業の為に恋を諦め、金の為に進学を諦め、暮らしの為に夢を諦め、家族の為に仕事を諦めてきた…『私はこれまでずっと、自分を諦め続けてきたのだ』と」

 

 ミラは俯いて、地面に生える草花を眺めながら話す。

 

「けれど、『今際の国(ここ)』に来て男は変わった。そんな自分にほとほと嫌気がさしたのよ。だから男は、『諦める事を諦める』事にしたそうよ。残された時間が1日だろうと1秒だろうと、最期の最期まで、自分の人生を二度と諦めないと決めたんですって。面白いでしょ?『人間』って。だから私は、『今際の国(ここ)』でずっと見ていたいなァ…」

 

 ミラは、そう言って無邪気な笑みを浮かべた。

 するとキューマが笑う。

 

「…ハハ!なんかオレ達、似たり寄ったりだな!」

 

「ええ。きっと私達は、病気なのよ。だからこれからも、よろしくね♡」

 

 キューマが笑うと、ミラが微笑む。

 イバラ達5人は、後ろを振り向く。

 東京タワーの上には、『♡K(はあとのきんぐ)』の飛行船が浮かんでいた。

 

「ミラ、君の予想は当たるかな?」

 

「わかるわよ…もう、すぐにでも」

 

「最後の現役国民には、引退してもらおうか!最高の『げぇむ』にしようぜ!DIE YOUNG(若死にするくらい)でいこうじゃないの!」

 

 

 

 

 

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