Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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やっと原作キャラと絡みます。
ちょっとだけ原作改変します。





すぺえどのご(1)

 ニーナが死んだ。

 『♠︎4(すぺえどのよん)』の『げぇむ』で重傷を負って、『くりあ』直後に事切れた。

 アイツだけが、心の支えだったのに。

 俺はこれから、どうすりゃあいいんだよ…

 

「ヘイジさん!」

 

 後ろから、声がかけられる。

 振り向くと、そこにはニーナが立っていた。

 

「ニーナ…」

 

 …良かった、アレは夢だったんだ。

 本当は俺もニーナも、何事もなくちゃんと生きてて…

 

 あれ…?

 何で、何で近づけないんだよ…!?

 

 離れていくニーナを必死で追いかけていくと、ドロ、とニーナの全身から赤い液体が流れる。

 血塗れになったニーナは、死んだ目を向けながら俺に話しかける。

 

「…あの時、どうして私を置いていったんですか?」

 

 

 

 

 

「うわぁあああああっ!!?」

 

 俺は、思わず叫びながら飛び起きた。

 …どこだ?

 見たところ、民家みたいだが…

 見ると、俺の身体には毛布がかけられている。

 さっきのは…夢、か…

 

「急に大きい声出さないでくれる…?」

 

 声がしたので振り向くと、俺の近くでは男の子が料理をしていた。

 昨日一緒に『げぇむ』を『くりあ』した子だ。

 

「キミは…昨日の…」

 

「起きたんなら手伝って」

 

 そう言って男の子は、まな板の上の肉をナイフで叩く。

 …そういえば、昨日の『げぇむ』ではこの子に助けてもらったんだっけ。

 

「どうして助けた?」

 

「…別に、あの『げぇむ』は一人で『くりあ』したわけじゃないし。借りを作るのは嫌い」

 

 そう言って男の子は、肉を丸めて肉団子を作る。

 するとそこへ、昨日の『げぇむ』にいた白衣の中年男が食事を持ってやってくる。

 …今は白衣着てねえけど。

 

「よぉ。メシ炊けたぜ」

 

 中年は、そう言ってちゃぶ台に三人分の白飯を置く。

 

「食いもんはほとんど腐ってるけど、生米は炊けばまだ食える。日本に生まれた事に感謝だな」

 

「アンタもリス食べる?」

 

「リス…?」

 

「ん」

 

 男の子は、今作っている肉団子を見せながら言った。

 …それ、リスの肉だったのか。

 

「リスはいい。こうやって砕いてミンチにすれば骨まで食える。残すところがない」

 

「う゛っ…」

 

 男の子が笑いながら言うと、『げぇむ』の光景がフラッシュバックしてしまい、思わず吐き気を催す。

 

「…何、気分悪いの?だったら吐き気に効くツボが…」

 

「いや、これ多分ちげえだろ」

 

 男の子が天然発言をすると、中年が否定しつつ男の子に耳打ちする。

 

「何だ、そんな事か。だったら缶詰もあるけど」

 

 そう言って男の子は、床に置かれたビニール袋を指差す。

 中身を確認すると、中には大量の猫缶が入っていた。

 …いや、缶詰って言っても、これは流石に…

 

「…なあ、コレ猫缶なんだけど」

 

「あ…ごめん。間違えた」

 

 ……そんな事ある?

 この子、かなり天然入ってないか?

 

「……やっぱり飯もらってもいいか…?せっかく作ってもらったし…」

 

 俺は、2人が作ってくれた食事を分けてもらう事にした。

 その日の食卓には、男の子と中年が作ってくれた食事が並んだ。

 リス肉のつみれ汁と、仔ウサギの竜田揚げ、野草の漬物…どれも新鮮な食材を使った、ちゃんとした料理だった。

 

「はい、アンタの分」

 

 そう言って男の子は、つみれ汁の入った椀を俺に差し出した。

 

「まだ体調悪いんなら、せめて汁物だけでも口に入れときなよ」

 

 俺は、男の子が作ってくれたつみれ汁を口に含んだ。

 思わず涙が溢れ出した。

 

「うぅ…うぐっ…ふっ、うぅ……」

 

 ……美味い。

 この国に来てから食ったものの中で、一番美味かった。

 ニーナにも、食わせてやりたかった。

 

「美味いだろ。このボウズに感謝しろよ」

 

「飯食いながら泣いてるよこの人…」

 

 俺が泣き出すと、中年がカカカッと笑って、男の子は若干引いていた。

 二人が作ってくれた飯を食って、少し気持ちが落ち着いてきた。

 とりあえず、まずは助けてくれた二人に礼を言わないとな。

 

「…ありがとう。おかげで助かった」

 

 俺は、『げぇむ』で俺を助けてくれた事、一緒にニーナを弔ってくれた事、そして俺に飯を分け与えてくれた事を二人に感謝した。

 イバラと同じ、この人達も俺の命の恩人だ。

 

「そんじゃ、飯食いながら自己紹介でもしようぜ。名前も知らねえままじゃ、お互い不便だろう?オレは栗原(クリハラ)鳳正(ほうせい)。まあ……一応医者をやってる。ちょっと人には言えない感じのね」

 

 闇医者か…

 本当に色んな人が来てるんだな、この世界。

 

「まあ、見ての通りオレァ運動不足のオッサンだからよ。『♠︎(すぺえど)』は苦手なんだわ。『(だいや)』だったらオレの独壇場だったんだけどな〜」

 

 クリハラさんは、頭を掻いて笑いながら言った。

 それでこの男の子に助けてもらったのか。

 

「…北句平治。大学院に通ってます」

 

「へえ、って事は理系学生?何専攻してんの?」

 

「情報工学です」

 

「ほーぉ、プログラマー志望か。いいね」

 

「ああ、どうも…」

 

 クリハラさんは、ココアシガレットを咥えながらニカっと笑う。

 この人、もしかして禁煙中なんだろうか。

 俺がクリハラさんと話している間にも、男の子は無言で食事を続けていた。

 

 何か意外と食べ方がお上品だな。

 もしかしてお坊ちゃんだったりするんだろうか。

 なんて思っていると今度は、男の子が食器をちゃぶ台に置いて口を開く。

 

「…小鳥遊(たかなし)火鶴(ヒヅル)。中2」

 

 中2…!?

 そんなに幼い子まで、『げぇむ』に参加してんのか…

 でも見た感じ、かなり慣れてたな。

 

「ヒヅルは、ここに来てからどれくらい経つんだ?慣れっぷりを見る限り、2、3回参加したって感じでもなさそうだったけど」

 

「んー…1週間くらい前?」

 

「1週間って…オレと二日しか変わらないじゃないか。なのに何であんなに慣れてたんだ?」

 

「だってオレ、毎日『げぇむ』やってるから」

 

 …は?

 ちょっと待て。

 今なんて言った?

 

「ま、毎日…!?まだ『びざ』残ってるのに、か?」

 

「うん。悪い?」

 

 マジかよ…

 『びざ』が残ってるのにあんな命懸けの『げぇむ』を毎日やるなんて…

 どういう神経してんだよ。

 

「オレ、ここに来る前はクソみたいな人生送ってきたからさ。この国に来れたの、結構ラッキーって思ってたりするんだよね。逆に何で皆『げぇむ』やらないわけ?こんなに面白いのに」

 

「え…?」

 

「どうせいつか死んじゃうならさ、逆に楽しんでやればいいじゃん。皆『びざ』切れに怯えて切羽詰まっちゃって、バッカみたい」

 

 ヒヅルは、平気な顔をして白飯を頬張りながら言った。

 するとクリハラさんがヒヅルを指差して笑う。

 

「アハッ、お前狂ってんな!いーね、血の気多い奴はオレ好きだぜ。やっぱりお前さんについていって正解だったわ」

 

「『げぇむ』で怪我したら治してよ。その為に助けたんだから」

 

「わーってるよ。その代わり『♠︎(すぺえど)』か『♣︎(くらぶ)』引いた時はちゃんとオレを守ってくれよ?オレもあんなふざけた死に方したくねえし」

 

「いいけど…中学生に護られるとか、アンタ人としてのプライド無いの?」

 

「生き残る事よりプライドが大事かい?」

 

 コイツら…

 何を言ってるんだ?

 人が死んだんだぞ…!?

 それなのに、何でそんなにヘラヘラ笑っていられるんだよ…

 

「アンタら…何でそんな風にヘラヘラ笑ってられるんだよ?この世界を楽しみたいだと…!?ふざけるな!人が…死んだんだぞ!?」

 

 俺は、ちゃぶ台を拳で叩きながら怒鳴った。

 犠牲者があんなに出たっていうのに、ヘラヘラ笑って次の『げぇむ』の話ができるコイツらに、我慢ならなかった。

 

 …俺は、どこまでも自分勝手だ。

 コイツらに八つ当たりしたって、仕方ないっていうのに。

 何やってんだ俺は。

 助けてくれた二人に八つ当たりして…

 

「…ごめん」

 

 我に返った俺は、二人に頭を下げて謝った。

 するとクリハラさんは、ココアシガレットを齧りながらニヤリと笑う。

 

「随分とあの娘に入れ込んでるじゃねえか。兄妹ってわけでもなさそうだし…あ、もしかしてアレか?お前さん、あの娘と()()()()()()か?」

 

 クリハラさんが言うと、俺はニーナと過ごした最後の夜を思い出してつい黙り込む。

 自分でも顔が熱くなっているのがわかる。

 

「あー…何つうか?その、悪かったよ」

 

 俺が黙り込むと、クリハラさんは気まずくなったのか、取り繕うように謝った。

 ヒヅルは半目でクリハラさんを見ながら、クリハラさんの脇腹を小突く。

 そして自分の食器を片付けてから席を立つ。

 

「ま…何でもいいけど、オレは今日の『げぇむ』も参加するから。クリハラさん、アンタはどうすんの?」

 

「いや、オレはやめとくよ。まだ『びざ』残ってるしな。お前さんと違って、飛んだり跳ねたりできる元気はねえからよ」

 

「…ふーん。アンタは?」

 

「オレは……」

 

 ヒヅルに聞かれて、俺は下を向いてしばらく考え込んだ。

 俺がニーナを守れなかったのは、俺が弱く、無知だったからだ。

 ちゃんと『げぇむ』への対策もせずに、『二人で生き残る』なんて口先だけで、結局死なせてしまった。

 まずは『げぇむ』をよく知らなきゃ、生き残る事なんてできない。

 敵をよく知るには、人から聞いた情報だけじゃダメだ。

 俺自身がリスクを冒して、死の淵を肌で感じないと意味がない。

 

「…参加するよ」

 

 俺は、ヒヅルと一緒に今日の『げぇむ』に参加する事にした。

 俺は、ヒヅルとクリハラさんにこれまでの『げぇむ』の傾向を教えてもらって、できる限りの対策をした。

 クリハラさんには頭の使い方を、ヒヅルには身体の使い方を教え込まれた。

 

「なぁ…ヒヅルは、どうしてオレにここまでしてくれるんだ…?」

 

「勘違いしないでね。貸しを作ってるだけだから。オレは貸した分を返してくれる見込みがある人だけ助けるの。貸した分はちゃんと返してよ」

 

 そう言ってヒヅルは、水筒を俺に渡してくる。

 

「…ま、今夜の『げぇむ』は頑張って」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ここにするか…」

 

「ん」

 

 俺達がこの日参加する『げぇむ』の会場に選んだのは、L字型のマンションだ。

 俺達がマンションに足を踏み入れようとした、その時だった。

 

「ねえ」

 

 ヒヅルが、後ろを振り向きながら指を差す。

 そこには高校生くらいの男子三人とOLっぽい女性の4人組がいた。

 あの人達も、ここの『げぇむ』に参加するつもりなんだろうか。

 

「なあ。アンタ達も、『げぇむ』に参加しに来たのか?」

 

 俺は、マンションに入ろうとしている4人組に声をかけた。

 

「ああ。アンタらもか」

 

「まあね」

 

 4人組のうち、ガタイの良い男子が答えると、ヒヅルがヒラヒラと手を振る。

 するとクリハラさんが、足を怪我している小柄な男子に話しかける。

 

「おい、ボウズ。足怪我してんじゃねえか。どうしたそれ」

 

「あぁ、ちょっと…いてっ」

 

「チョータ大丈夫か!?」

 

「『げぇむ』か」

 

 小柄な男子が足の痛みに顔を歪めると、ボサボサした黒髪の男子が心配する。

 …どうやら、『げぇむ』で足を怪我したみたいだ。

 

 どうする…?

 クリハラさんなら治せるかもしれないけど、正直俺もこの人の事よくわかってないからな。

 安易に『助ける』なんて言わない方がいいのか…?

 そう考えていると、クリハラさんは口に咥えていたココアシガレットで、怪我をした男子の足を指す。

 

「…それ、診てやろうか?」

 

「…え?」

 

「オレァコイツらの付き添いだ。今日の『げぇむ』は参加するつもり無えからよ。お前さんも、その足じゃどのみち参加は無理だろう?お友達が『げぇむ』してる間に診てやるよ。お前らもそれでいいか?」

 

「アンタがそう言うなら…オレは構わないが」

 

「オレも、ヘイジが良いなら良いよ」

 

 クリハラさんが尋ねると、俺とヒヅルが頷く。

 クリハラさんが怪我を治せるというのなら、今はその言葉を信じるしかない。

 するとガタイのいい男子が、クリハラさんを警戒しながら尋ねる。

 

「診るって…アンタ何者だ?」

 

「一応医者だ。ちょっと人に言えないお客抱えてたけどな」

 

「闇医者か…どうする?」

 

「もし本当なら、チョータを診せてやりてェけど…」

 

「ちょっと待ってよ…本気なの!?本当に、初対面の…しかも正規じゃない医者にチョータ君を診せる気!?」

 

「けど、医者なんてそうゴロゴロいるもんじゃねえだろ!」

 

 男子達は怪我をした友達をクリハラさんに診てもらうかどうか考えていたが、OLが強く反対した。

 確かに、初対面の…しかもちゃんとした免許のない自称医者を信用なんてできるわけがない。

 いい加減な診療をされるか、法外な報酬を要求されるか、あるいはその両方と思うのが普通だ。

 

「何でもいいがさっさと決めた方がいいぜ。エントリーの締め切りが迫ってる」

 

 そう言ってクリハラさんは、腕時計を指差す。

 するとヒヅルが、クリハラさんを指差しながら言った。

 

「オレ、このオッサンに怪我治してもらった。腕は確かだよ」

 

 ヒヅルが言うと、怪我をした男子以外の三人が顔を見合わせる。

 すると怪我をした男子が、痛いのを我慢しながら言った。

 

「アリス、カルベ…オレに気ィ遣わなくていいからな」

 

 『気を遣わなくていい』、そう言う割には痛みで顔を歪めていた。

 何とかしてやりたいけど、俺は医者じゃない。

 この子を助けるかどうかは、クリハラさんとこの子の友達の判断に委ねるしかない。

 

「…頼む。チョータを…オレ達のダチを助けてくれ」

 

「オレからも頼む。礼は必ずする」

 

 怪我をした子の友達二人は、クリハラさんに頭を下げて頼み込んだ。

 するとクリハラさんは、ニカッと笑顔を浮かべる。

 

「いい友達を持ったな。OK、引き受けた」

 

 結局クリハラさんは、俺とヒヅルが『げぇむ』をしている間に足を怪我した子を治療する事にしたみたいだ。

 俺は、4人組のうち『げぇむ』に参加する事にした二人…アリスとカルベと一緒にマンションへ向かう。

 

「チョータを頼んだぞ。オッサン」

 

「オッサンじゃなくてクリハラな。お前らも頑張れよ」

 

 カルベが言うと、クリハラさんが軽く手を振る。

 

「じゃあ…私達はどこか近くで待ってるから」

 

「アリス、カルベ…()()は、食いきれねーくらい、魚釣ってやるからな!」

 

 OLと、足を怪我した子…チョータが言うと、カルベが拳を握った腕を上げて軽く振る。

 俺とヒヅル、アリスとカルベの4人で『げぇむ』会場へ歩を進めた。

 

「ありがとう。えっと…」

 

「オレはヘイジだ。よろしく」

 

「ヒヅル」

 

 アリスが話しかけると、俺とヒヅルが名乗った。

 俺達は、マンションの入り口の階段を登る。

 

「今回はまた参加者が…えらく大勢だな」

 

 マンションのエントランスには、10人近くの参加者がいた。

 参加者の中で一番気になったのは、パーカーのフードを深く被りイヤホンで音楽を聴いている男だ。

 アリスやカルベと同い年くらいの女の子もいる。

 すると、帽子を被ったスキンヘッドの小柄な男が声をかけてくる。

 

「アンタら、参加するなら早く入りな!もう時間がねーぞ」

 

 男が指している時計は5時59分を指していて、その下の張り紙には『エントリー受付18時マデ』と書かれている。

 俺達が『げぇむ』会場に足を踏み入れた、その瞬間だった。

 外のスピーカーから、『ゆうやけこやけ』と共にアナウンスが流れる。

 

《よい子の皆さん。6時になりました。おそろしい殺人鬼が出没するので、気をつけておうちに帰りましょう》

 

 え…?

 殺人鬼…?

 

「え…?い…今、何て…?」

 

 アナウンスが鳴ると、アリスが目を見開く。

 そんな中、ヒヅルは入り口を眺めながらポツリと呟いた。

 

「これ、クリハラ(オッサン)連れて来なくて正解だったかもね」

 

 ヒヅルが呟いた、その直後だった。

 

《それでは、『げぇむ』の時間です。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は…『おにごっこ』》

 

 『おにごっこ』…?

 今度はどんな『げぇむ』だ…?

 さっきの殺人鬼とやらも気になるな。

 

「鬼ごっこだぁ…?」

 

「ちょっと待てよ。その前に…さっきのアナウンスで、殺人鬼って言わなかったか…!?」

 

 アナウンスを聞いて、カルベとアリスの表情にも緊張が宿る。

 そんな中、言い方は悪いが…頭が悪そうな二人組が口を開く。

 

「鬼ごっこだってよ」

 

「ぎゃはは!ガキじゃねーっつうの!で、誰が鬼やんだよ?」

 

「お前がやれよ!」

 

「ジャンケンで決めよーぜ」

 

 アイツら…4日前までの俺と同じ、初参加者か。

 前回の初参加者は、自力で何とか最後まではついてきてたけど、アイツらは…大丈夫かな。

 

「あっ…」

 

「やめときなよ。前回の『げぇむ』で学ばなかった?」

 

 俺が初参加者の二人に声をかけようとすると、ヒヅルが止めた。

 前回の『げぇむ』でも、初参加者の女性は俺が説明しても、実際に『げぇむ』が始まるまで信じてくれなかった。

 あの二人も…多分信じちゃくれないだろう。

 

「アイツら…」

 

「昨日のオレ達と同じだ。今夜の『げぇむ』が初めてなんだろ。いいかアリス…」

 

「わかってるよ。多分、今のアイツらにいくら説明したって信じちゃくれない。実際に、『げぇむ』が始まるまでは…それに…この大人数が初対面で団結するのはハッキリ言って難しい。他の皆には悪いけど…」

 

「わかってるなら、その先は言うな」

 

 コイツら…

 『昨日のオレ達』って事は、昨日の『げぇむ』が初参加だったって事だよな?

 それなのに、そこまで考えが至ってるのか。

 俺よりも歳下でこの世界での経験値も少ないはずなのに、覚悟がまるで違う。

 

「ああいうバカが混じってると、正直こっちはやりづれえよな」

 

 さっきの帽子の男が、小声で話しかけてくる。

 

「あ、オレ、新渡戸(ニトベ)ってんだ。よろしく」

 

 ニトベさんは、俺達に気さくに声をかけてきた。

 

「まあ、今回はそうじゃねえヤツらもいくらか混じってるみてーだけど。アンタらみてーに。音楽聴いてた奥の男。いくら『げぇむ』会場にしか電気がねーからって、この緊張下で、iPhone充電してやがる。大した肝っ玉だぜ」

 

 そう言ってニトベさんが指を差した先には、フードを深く被った男が壁にもたれかかっている。

 さっき俺が何となく気になってた人だ。

 

《エントリー数、無制限。賞品、なし。『げぇむ』難易度…『♠︎5(すぺえどのご)』》

 

 アナウンスが鳴ると、ベンチに座っていた女の子が通学カバンから運動靴とスパッツを取り出し、その場で着替え始める。

 

「なになにねーちゃん?いきなり生着替えか?」

 

「パンツ見せてくれよ!」

 

 女の子がスパッツと運動靴を履き始めると、さっきの初心者二人が下品な野次を浴びせる。

 こいつら…やっぱりバカだろ。

 それにしても…

 

「あの嬢ちゃんもわかってるね」

 

「え?」

 

 女の子は、その場で準備運動を始めた。

 …あの子、『げぇむ』をやり慣れてるな。

 って…

 

「あれっ?」

 

 さっきまで隣にいたヒヅルが、いつの間にかいなくなっていた。

 おいおい、ウソだろ…!?

 この一瞬の間に、アイツどこ行った!?

 まさか、先に一人で行っちまったんじゃ…

 ったく、あの問題児め…!

 

 探しに行くか…?

 だけど…

 

《最後に、『るうる』の説明です。皆様には、これからこのマンション内で、『おに』から逃げ回っていただきます。『くりあ』の条件はただ一つ。このマンション内でただ一室、『鍵のかかっていない部屋』があり、そこが『おに』の『じんち』になります。制限時間は30分。時間内にその部屋を見つけて中に入り、『じんち』に『たっち』出来れば、見事『げぇむ』は『くりあ』です》

 

「話だけ聞いてると…今回は簡単そうだな…」

 

 『るうる』の説明を聞いて、キャップを被ったアフロヘアーの男が呟く。

 簡単って…本当にそうか?

 昨日の『げぇむ』より一段階難しいんだぞ?

 

《次に、『げぇむおおばぁ』は次の二つの場合。制限時間を過ぎた場合、もしくは『おに』に参加者が、全員殺された場合。なお、制限時間を過ぎた場合は、このマンションは爆破され、跡形もなく消滅しますので、『げぇむおおばぁ』になれば、どのみち皆様の命はございません。マンション周辺には高感度の地雷が多数設置されているので、マンションからはみだりに出ないようにご注意ください》

 

「さっきから何この空気?え?これって…もしかしてマジなの…?」

 

 さっきの二人は、やっと状況を飲み込めたようだ。

 どうやら俺が説明するまでもなかったみたいだな。

 つーか、マジでヒヅルどこ行った?

 

「アンタらみんな知らねーようだから、教えてやるよ…地元じゃ有名な話なんだけどさ…ここ、実際に大量殺人があったっていうマンションなんだ。つってもオレらの生まれる前だけど…長年引きこもって頭のおかしくなった男が、10人だか20人だか…片っ端から殺っちまったんだってさ…」

 

 さっきのキャップの男が、緊張気味に話す。

 するとメガネをかけたロングヘアーの女性も口を開く。

 

「私も聞いた事あるわ。元自衛官だったとか、当時はずいぶん騒ぎになってたらしいけど、その犯人は、無期懲役か死刑かで、どこかの刑務所に服役してるはずだけど…」

 

「だ…だったらソイツは関係ねーだろ!?こんな時に変な事言ってんじゃねーよ!!意味わかんねーし!」

 

 メガネの女性が言うと、初心者の男が騒ぐ。

 マジかよ…

 このマンション、曰く付きだったのか。

 これ、マジモンじゃねえか。

 

 すると今度は、カルベが口を開く。

 

「お前らだって、例の花火見て、ワケわかんねーうちにここにいんだろ?実在の殺人鬼がここに招待されたっておかしかねーぜ?」

 

「この『げぇむ』は、親切にもその日の惨劇を再現しようとしてくれてるのかもね」

 

「こっわ」

 

「本当に悪趣味だな……」

 

 カルベとニトベさんの言葉を聞いて、思った事をポロッと漏らす。

 

 ………ん?

 

 

 

「…うわっ!?ヒヅル!?」

 

「うわ、ビックリした」

 

 いや、ビックリしたのこっちだから。

 ヌルッと居なくなってヌルッと出てくるなよ、心臓に悪いから。

 

「こっちの台詞だよ…お前、今までどこにいた?」

 

「トイレ」

 

 トイレって…

 このタイミングで行くか普通?

 『げぇむ』会場にしかまともに流れるトイレが無いからって…

 

「お前なぁ…せめて一言声かけろ」

 

「あっ…ごめんなさい」

 

 うわぁ…メッチャ素直。

 そこまで素直になられると、怒れないんだけど。

 

《それでは『げぇむ』を開始します。『おに』は6時5分より始動します。タイムリミットは6時30分。皆さんくれぐれも、一ヶ所に固まらない事をオススメします。『げぇむすたあと』》

 

「ひいいっ!!どっ、どうすんだよ!?」

 

「どっか遠くに逃げんだよ!!」

 

「けど地雷があるって…」

 

「んなもん、ハッタリに決まってる!!」

 

「マジだったらどーすんだよ!?」

 

「あーもう、どうすりゃいいんだよ!!」

 

 『げぇむ』が始まると、初参加者二人は慌てふためきながら走り出す。

 他の初心者達も、慌ててバタバタと走り出した。

 こうなりゃもう、烏合の衆だな…

 

 この『げぇむ』では、最初の場所選びが重要になる。

 普通に考えれば、一番有利なのは最上階だ。

 L字型のマンションだから会場全体を見渡せるし、仮に『じんち』があったとしても下に逃げ道がある。

 

 …だけど、『げぇむ』経験者が全員同じ事を考えていたら?

 それを見越して、『おに』が最上階に配置されていたら?

 全員が最上階に向かったら、まとめて『おに』に殺されて一網打尽だ。

 それにこの『げぇむ』は、自分が生き残る事だけに気を取られてちゃ『くりあ』できない。

 『くりあ』するには、誰かがリスクを冒して下の階に行かなきゃいけない。

 陸上経験者の俺なら、『おに』から逃げ切れるかもしれない。

 俺が下の階に行くべきなのか…?

 

「ヘイジ」

 

 俺がどこに行くか考えていると、ヒヅルが声をかけてくる。

 

「多分オレ達、今同じ事考えてるよ」

 

 やっぱり…

 ヒヅルも同じ事考えてたか。

 

「…だな。ヒヅル、お前が先に決めろ。オレはお前が行かなさそうな場所に行く」

 

「…そ。じゃあ遠慮なく」

 

 俺が言うと、ヒヅルはポケットに手を突っ込んでスタスタと歩き出す。

 ヒヅルは、エレベーターに乗ろうとしているパーカーの男に声をかけに行った。

 

「オレも乗せてよ。オニーサン」

 

 やっぱり、最上階に行くか。

 …よし。

 だったら、俺は下の階で待機するか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヒヅルside

 

「オレも乗せてよ。オニーサン」

 

 俺は、ちょうどエレベーターに乗ろうとしてるパーカーのオニーチャンに声をかけた。

 俺は、そのままパーカーのオニーチャンと二人でエレベーターに乗った。

 オニーチャンは、最上階の9階のボタンを押した。

 

 うは、ガチで考えてる事一緒じゃん。

 っていうか、参加者みんな同じ事考えてると思ってたよ。

 案外、みんな違う事考えてるもんだね。

 

「…てっきりみんなおんなじ事考えてると思ってたけど、案外そうでもないんだね」

 

 俺は、何気なく思った事をポツリと呟く。

 するとオニーチャンが、俺に話しかけてくる。

 

「さっきの男、知り合い?」

 

 オニーチャンは、ヘイジの事について聞いてきた。

 知り合い…ねぇ。

 んー…どう答えよっかな。

 

「…知り合い以上仲間未満?」

 

「一緒にいなくて良かったの?」

 

「皆が皆同じ事考えてたらまとめて殺されると思って」

 

「確かにね」

 

 俺が言うと、オニーチャンが笑う。

 俺がエレベーターの中で軽く準備運動をしていると、オニーチャンが話しかけてくる。

 

「君、『げぇむ』何回目?」

 

「8」

 

「…へぇ。今までは彼と一緒に『くりあ』してきたのかい?」

 

「ううん。昨日の『げぇむ』でたまたま一緒になったから、成り行きで連れてきただけ。一緒に参加したのは今回が初めて」

 

「じゃあ今までは1人で生き延びてきたんだ?」

 

「うん」

 

 オニーチャンは、俺に色々聞いてきた。

 やっぱ子供の滞在者は珍しいんだろうね。

 子供が生き残れるような世界じゃないから。

 

「君はこの世界を何だと思う?」

 

「んー…異世界?ラノベとかゲームでありがちなやつ」

 

 俺がオニーチャンの質問に答えると、オニーチャンが俺の方を振り向いてくる。

 

「オレ、漫画とかゲームとか好きでさ。オレが主人公だったらこうするかな〜みたいなのをよく妄想してたんだよね。だからなのかもしれないけど、この国に迷い込んだ時も、割とすんなり受け入れられたし、むしろちょっとワクワクした。今まで生き残れたのも、そのおかげだったりして」

 

「…ふぅん」

 

 俺が率直な感想を言うと、オニーチャンは正面を向き直す。

 …もしかして、飽きられた?

 まぁ…別にいいけど。

 

 そんなこんなで、エレベーターが最上階に辿り着いた。

 俺がエレベーターから降りると、オニーチャンが声をかけてくる。

 

「オレ、チシヤ。君は?」

 

「ヒヅル。小鳥遊火鶴」

 

「ヒヅル君…か。『げぇむ』が終わるまで、お互い生きてるといいね」

 

 そう言ってチシヤが俺に背を向ける直前、俺も軽く手を振っておいた。

 俺はそのまま、9階の西通路に移動する。

 チシヤは、俺と分かれた後同じ階の南通路に移動した。

 廊下の端に立って、南側の1階から8階を見下ろす。

 『おに』はどこから来んのかね。

 『じんち』がこの階って可能性も全然あるし、すぐに逃げられるようにしとかねーとな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ヘイジside

 

 俺は、1階の南階段の近くで、すぐに逃げられるように準備をして待機した。

 普通は、手に入る情報量が少なく逃げ場もない1階は誰も選ばない。

 だからこそ、あえて1階を選んだ。

 皆が皆安全な場所を選んで一ヶ所に固まるってのが、一番やっちゃいけないパターンだ。

 『おに』が裏をかいて安全な場所から現れるって可能性もある。

 『くりあ』する事を考えるなら…できるだけバラける事を意識するなら、あえて誰も選ばないような、一見メリットがない場所を選ばなくちゃいけない。

 …まあ、『おに』が銃火器持ってたりウサイン・ボルト並みに速かったりしたらそれまでだけど。

 俺がそう考えた、その直後だった。

 

 

 

 ――パラララッ

 

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

「うわあああああ!!」

 

 悲鳴…?

 それに今の、何の音だ…?

 悲鳴の方向は、4階の西通路のどっかか…

 クソッ、障害物が多くて見えねえ…何が起こった…?

 

 

 

「ゼエッ、ゼエッ、ハァッ、ハッ…!」

 

「!」

 

 ニトベさん…?

 上から逃げてきたのか…?

 

「……!!」

 

 俺の目には、馬の被り物を被り、マシンガンを右手に持った大男が映った。

 あれが、『おに』…!

 ニトベさんを追いかけてきた『おに』は、マシンガンの銃口をニトベさんの背中に向け、引き金を引いた。

 

 

 

 ――パラララッ

 

 

 

 ニトベさんは、後ろから追いかけてきた『おに』にマシンガンで撃たれて蜂の巣になった。

 

 ……は?

 マジかよ…!?

 マシンガンって…そりゃあ反則だろ…!

 

 

 

 

 

 ───今際の国滞在五日目

 

 残り滞在可能日数

 

 北句平治 4日

 小鳥遊火鶴 26日

 栗原鳳正 4日

 

 

 

 『おにごっこ』

 

 残り22分

 

 生存者 10名

 

 

 

 

 




北句(ほっく)平治(ヘイジ)

・23歳男性
・都心の国立大学の大学院2年生
・黒髪の短髪に戦闘服。今際の国に来てからは無精髭を生やしている。
・身長177cmくらい
・性格は真面目でお人好し
・『くりあ』した『げぇむ』は『♡3』と『♠︎4』。

本作の主人公。
元の世界では、真面目な優等生でありながらも、努力が報われず、親友と恋人にも裏切られて虚しい人生を送っていた。
理系学生でプログラマー志望で、ICPCへの出場経験もある。
公園でヤケ酒をして寝ぼけていた時に花火を見て、そのまま今際の国に迷い込んだ。
中学と高校では陸上部に所属していた。
地元に歳の離れた妹がいる。
名前の由来はハリネズミの英名の『hedgehog』から。



伏木(ふしき)仁菜(ニーナ)

・18歳女性
・高校3年生
・ロングの黒髪ポニーテールに戦闘服
・身長152cmくらい
・性格は引っ込み思案
・『くりあ』した『げぇむ』は『♣︎A』、『♡3』、『♠︎4』(『くりあ』直後に死亡)。

ヘイジが初めて参加した『げぇむ』で生き残った少女。
元の世界では、家でも学校でも居場所が無く、孤独を感じていた。
大人しく主体性に欠けるが、強い覚悟を持っている。
ヘイジと恋人同士になるが、『♠︎4』に参加した際に致命傷を負い、『くりあ』直後に息を引き取った。
名前の由来は『不思議』。



小鳥遊(たかなし)火鶴(ヒヅル)

・13歳男性
・中学2年生
・ショートの黒髪に戦闘服。色々入っているリュックとスケボーを常備
・身長は150cmくらい
・性格はつかみにくい
・『くりあ』した『げぇむ』は『♠︎4』と『♢5』、その他多数。

『♠︎4』を『くりあ』した少年。
まだ中学生でありながら毎日『げぇむ』に参加しており、『げぇむ』に慣れている。
運動神経抜群で頭も切れる。
冷徹で打算的な印象を受けるが、意外にも義理堅い一面を持つ。
若干天然が入っている。
名前の由来はフラミンゴの当て字。



栗原(クリハラ)鳳正(ほうせい)

・39歳男性
・闇医者
・天然パーマの短髪に白衣。レンズの割れた眼鏡をかけている。
・身長は171cmくらい
・性格は、普段は飄々としているが意外とヘタレ
・『くりあ』した『げぇむ』は『♠︎4』、その他複数。

『♠︎4』を『くりあ』した男。
体力に自信がある方ではないが、傷を治す事を交換条件にヒヅルに助けてもらい、『げぇむ』を『くりあ』した。
医師免許を持たない闇医者だが、腕は確か。
良くも悪くも俗っぽいがどこか憎めない性格。
本人曰く、得意ジャンルは『♢』。
元々喫煙者だったが、今際の国に来てから禁煙している。
名前の由来はグリフォン。
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