Hedgehog in Borderland   作:M.T.

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本編はこれにて完結。
ご愛読ありがとうございました。
なお、原作でいうところのRETRYにあたる後日談を書く予定です。


きこくななひゃくさんじゅういちにちめ

平治side

 

「えっ、1円…?キミ、これを届ける為だけに、わざわざ交番に来たの?」

 

 渋谷駅近くの交番に来た俺は、駅で拾った1円玉をお巡りさんに届けた。

 そうしたらお巡りさんは、きょとんとした表情で俺を見る。

 ……もしかして、業務妨害だったかな。

 

「あっ…すみません。もしかして、迷惑でしたか?」

 

「ああ、いやいや!わざわざ届けてくれてありがとう。きっと落とした人も喜ぶよ。じゃあ、これは大事に保管しておくから」

 

 俺が尋ねると、お巡りさんは取り繕うように笑った。

 俺がお巡りさんにお礼を言って交番を後にすると、彰人が話しかけてくる。

 

「たかが1円の為にわざわざ交番まで足を運ぶなんて…相変わらず真面目だねぇ、()()

 

 そう笑う彰人は、見るからに高級そうなスーツを着て、眼鏡をかけていた。

 学生時代の、軽い感じのアイツと同一人物とは思えない。

 

「『一円を笑う者は一円に泣く』っていうだろ?落としたものはちゃんと警察に届けないと」

 

「でもどうせ持ち主には帰ってこねぇぞ?フツーわざわざ届けたりしないって」

 

「それでも……オレは、これが正しい事なんだって信じてるから」

 

 俺が言うと、彰人は呆れたように笑う。

 あんな事があったけど、今となっては何でも本音で語り合える親友同士だ。

 

 俺の名前は北句平治。

 今そこそこ勢いのあるゲーム会社の社長だ。

 そして今、これから取引先との打ち合わせに向かうところだ。

 何故俺が経営者になっているかというと、話せば長くなるが、事の発端は、2年前のちょうどこの時期に遡る。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 2年前。

 結局俺は、あの後第一志望の企業の最終面接に落ちた。

 

「面接、ダメだったぁ……」

 

 俺が落ち込んでいると、妹の沙由が朝食を作って持ってくる。

 

「いつまでも終わった事を気にしとってもしょうがないじゃろ?ほら、兄ちゃんの好きな甘い肉じゃが作ったけぇ、元気出しんさい」

 

「オレって就活向いてねーのかなぁ…」

 

 ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

 滑り止めに10社くらい受けたけど、全部ダメだった。

 理系の単科大出ててここまでボロボロだと、もはや自分が就活に向いてないんじゃないかとすら思えてくる。

 すると、沙由が笑いながら俺に話しかけてくる。

 

「じゃあもういっその事、兄ちゃんが社長になっちゃえば?なーんて…」

 

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

 …………えっ?

 

「沙由…お前、天才か?」

 

「へ?」

 

 そっか、その手があった。

 何で今まで、考えもしなかったんだろう。

 心のどこかで、自分のような平凡な人間が社長だなんて、と思っていたのかもしれない。

 

 その日から俺は、大学の研究と並行して、経営の勉強をした。

 起業に必要な金は父さんの遺産から捻出したり、クラウドファンディングでかき集めたりして、それでも足りない分は、彰人や大学の友達に頼んでパトロンを紹介してもらった。

 経営の事なんて、今までからっきしだったから、最初こそ半年も待たずに経営破綻するところだったが、徐々に経営を軌道に乗せる事ができて、今やそこそこ勢いのある会社になっている。

 起業を手伝ってくれた最初の社員の1人である彰人は、今は俺の秘書として、仕事のサポートをしてくれている。

 

 ちなみに彰人は、あの後佳奈と付き合って、結婚に至った。

 俺は人生をやり直す為に佳奈と別れて、彰人がかつて俺にしてくれたように、彰人と佳奈の仲を取り持った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺と彰人は、取引先との待ち合わせ場所の喫茶店に入って、飲み物を注文した。

 俺がコーヒーを飲みながら資料の最終確認をしていると、彰人がアイスティーを飲みながら話しかけてくる。

 

「……街、まだ元には戻らねぇのな」

 

「そうだな…」

 

 俺は、まだ至る所で工事が行われている渋谷の街を眺めながら言った。

 俺が心肺停止を経験した東京隕石災害から、もう2年が経った。

 俺は何気なく、喫茶店を利用している他の客に目を向けた。

 

「芽唯、体調大丈夫?」

 

「うん。ありがとう飛龍」

 

 髪をハーフアップにした青年が、外ハネショートボブの妊婦さんに気を配っていた。

 少し遅めの朝食を食べながら話す2人は、仲良さそうに笑っている。

 2人の左薬指には、お揃いの指輪がはめられている。

 多分、夫婦だろうか。

 その後ろの席では、眼帯をつけたスーツの男性が、新聞を読んでいた。

 傷がまだ完全には癒えていないあたり、3人とも、俺と同じ隕石災害の被災者だったんだろうか。

 

「パパ、おいしいね」

 

「こら、菖。口の周りが汚れてるぞ」

 

「ねぇにぃに、今日はどこ行くの?」

 

「今日は、ママのお墓参りに行くんだよ」

 

 6、7歳くらいの女の子が口の周りを汚しながらナポリタンを頬張っていると、父親らしき男性が女の子の口を拭く。

 その隣の席では、綺麗なプラチナブロンドの髪とアクアマリンのような瞳をした10歳くらいの男の子が、コロッケを食べながら他の2人と話していた。

 あの3人は、隕石災害の被災者の遺族だろうか。

 

 思えば、俺の人生の転機は、あの日だったように思う。

 隕石が降ってくる前、俺は人生に絶望して、絶対に真面目になんか生きてやるものかって思ってた。

 それでも真面目に今を一生懸命に生きる事を選んだから、今の俺がある。

 俺があの日の事を懐かしく思っていると、彰人が俺に話しかける。

 

「ところでさ、最近仲良くやってんの?お前の遺伝子を受精したがってる女子高生とは」

 

「ぶっ」

 

 彰人がいきなりとんでもない爆弾をぶち込んできたものだから、思わずコーヒーを吹きこぼした。

 

「うわっ、こぼすなよ汚ねぇ」

 

「お前がキモイ言い方するからだろ!あの子はウチの大事なお客様!そういう関係じゃねーから!」

 

 俺には、会社の危機を救ってくれた恩人がいる。

 恩人といっても、10個下の女子高生だけど。

 ウチの会社が経営難になった時、ウチの会社に多額の投資をしてくれたのが、その子だった。

 その子は名家のお嬢様で、『この家に生まれた事が人の役に立てるなら、生まれてきてよかったと思えるから』と言って、家の財産の一部を俺の会社に寄付してくれた。

 あの寄付がなければ、俺は今頃経営破綻して多額の借金を背負っていただろう。

 お礼に試作のゲームをプレゼントしたら、すごく喜んでくれた。

 今ではその子とは、ツイッターのDMでやりとりをする仲になっている。

 

「顔真っ赤だぞー、これだからドーテーは」

 

「ぅぐ…」

 

 彰人は、佳奈と別れてからというもの、一度もそういう事をした事がない俺を揶揄ってくる。

 25にもなっていまだに童貞で悪かったな。

 そもそもあの子とはそういう関係じゃねーし!

 

「…9月の終わりに文化祭があるから来ないかって誘われてるよ。ロックバンドやるから見に来てほしいって」

 

「何それ、大好きじゃん(笑)」

 

 俺が言うと、彰人が笑った。

 するとその時だった。

 パソコンでメールをチェックしていた彰人が、顔をものすごい画面に近づけた。

 

「はあ!?キャンセル!?ふっざけんなマジで!」

 

「どうした?」

 

「今日の取引先のデザイン会社、やっぱり納品が間に合いそうにないから打ち合わせを来週にしてくれってさ」

 

「あー…それは困るな」

 

「ここに来てドタキャンとか、勘弁してくれよ〜!こっちは嫁とのデートの予定が入ってんだっつーの!」

 

 彰人は、ガシガシと頭を掻きながら文句を言った。

 あれから佳奈と結婚した彰人だけど、家族仲は良好みたいだ。

 今年の春には子供も生まれて、何だか2人とも幸せそうだ。

 俺は、素直に彰人と佳奈の幸せを祝福してやりたいと思った。

 

「行ってこいよ。お前はいつも、オレや会社の為に頑張ってくれてるんだから。打ち合わせは、オレ1人で乗り切ってみせるよ」

 

「平治、お前って奴は…!愛してるぜ親友!!」

 

「わ゛っ、ヤメロきたねー!オレにそっちの趣味はねーぞ!」

 

 彰人が俺に抱きついて頬にキスをしてくるもんだから、俺は慌てて彰人を引き剥がした。

 お前には佳奈がいるだろーが!

 つーかこの状況を他の客に見られたらメチャクチャ恥ずかしいからやめてくれ!

 

「んじゃ、行くか」

 

「だな」

 

 俺と彰人は、席を立って会計を済ませ、当初の予定より1時間も早く喫茶店を後にした。

 出社前にツイッターを開いてみると、DMが届いていた。

 俺の恩人の、火鶴ちゃんだ。

 メッセージの内容は、新作のゲームが家に届いたから親や友達と遊んでみて感想を聞かせるって話だった。

 

 火鶴ちゃんが俺を好意的に見てくれているのは知ってる。

 だけどあの子は賢いから、俺が不利にならないように、メッセージを送る場所や文面をちゃんと選んでくれている。

 

 火鶴ちゃんと、もっと話がしたい。

 あの子の事を、もっと知りたい。

 もっと仲良くなりたい。

 ゲームの話とか、学校の話とか、火鶴ちゃんが好きだって言ってたアニメの話がしたい。

 『今学校でどんな事やってるの?』とか、『今日何食べた?』とか、色んな事を聞いてみたい。

 

 一緒にゲームがしたい。

 一緒に飯が食いたい。

 同じ景色が見たい。

 笑い合いたい。

 生きてるって感動を、共に分かち合いたい。

 早く、会いたい。

 

「お〜い、歩きスマホか〜?」

 

 俺がDMに返信をしていると、彰人が俺の顔を覗き込んでくる。

 すると、その時だった。

 

「すみません!」

 

「……んあっ?」

 

 アナウンサーと思しき女性が、俺と彰人に話しかけてくる。

 

「○△TVの者ですが、番組のアンケートにご協力よろしいですか?ズバリあなたは、何故生きていると思いますか?」

 

 アナウンサーは、髪を耳にかけながら俺と彰人に尋ねる。

 いきなり尋ねられた彰人は、きょとんとした表情を浮かべる。

 

「えっ?何その質問?」

 

「そうだなぁ…オレはー……」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

火鶴side

 

「えっ、マリカ、アンタ彼氏と別れたん?」

 

「そーなんだよ!アイツ、ゲイだったのよ!だったら何でアタシと付き合ったわけ!?マジ信じられない!」

 

「「ご愁傷様ー」」

 

 私は、渋谷のスクランブル交差点で、友達の茉莉花と瑠夏と一緒にスタバの新作を飲みながら話していた。

 何か茉莉花が、彼氏から『野球部の先輩を好きになってしまったから別れてくれ』って別れを切り出されたらしい。

 今は、初めての彼氏に振られた茉莉花を、私と瑠夏で慰めてるところ。

 

「だからやめとけっつったじゃん。ウチらは止めたからね」

 

「つか、何でアレと付き合ったの」

 

「だってー、顔が何となくタッキーに似てたんだもん!」

 

「うわ出たメンクイ」

 

「良かったね。お前の好きなBLじゃん。式場予約してやれよ」

 

「リアルと妄想は違げーだろーが!」

 

 私と瑠夏でからかってやると、茉莉花はとうとう半泣きになった。

 あれから、お母さんはお継父さんと離婚して、お父さんと再婚した。

 お母さんも、お継父さんのやり方にはとっくに愛想を尽かしていたらしい。

 

 2年前のあの日からしばらくは、私の周りはバタバタしていた。

 爺ちゃんが2年前の隕石災害に巻き込まれておっ死んで、その関係の手続きで大忙しだった。

 正直あの家の財産なんか要らないから相続放棄してやろうかとも思ったけど、今まで散々理不尽に耐えてきたのにここで相続放棄したら負けだと思ったから、そこはちゃんと相続した。

 前住んでた家やウチが持ってた土地は全部売って、爺ちゃんの遺産は色んなところに寄付をして、余ったお金で新しい家を建てたら、お父さんとお母さんの老後の為のお金以外はほとんど残らなかった。

 

 今はクソみたいな生活からは解放されて、行きたかった高校に進学して、気の合う友達と一緒に青春を謳歌している。

 中学の頃にやってたテニスも、他の習い事も、全部ちゃんと私もお継父さんも納得のいく結果を出してから辞めた。

 高校では軽音楽部に入って、文化祭で披露するバンドの練習をしている。

 中学の頃は服装をお継父さんに強制されてストレス溜まってたから、高校は校則の緩い学校に行って、ピアスをつけてスカートを思いっきり短くした。

 

「つーか、何かやけにブチ切れてっけどさぁ。これって茉莉花が悪いとかじゃなくて、タッキーの根本的な趣向の問題じゃん。だったらもう茉莉花ができる事、何もないよね?」

 

「正論言っちゃおしまいだろうがよ火鶴〜!つーかタッキー言うな!」

 

「まーまー、タッキーは諦めて次の男探しなよ。男なんて星の数ほどいんだからさぁ」

 

「星には手が届かないけど」

 

「火鶴アンタそれ追い討ち」

 

「えっ?あっ、ごめん」

 

 私がベリージュースを飲んでツイッターをやりながら言うと、瑠夏が私の肩を叩く。

 だってそもそも解決方法がない事で怒ってたって、しょーがなくない?

 茉莉花の気持ちはわからなくもないけど、今のところ誰も悪くないし、解決すべき課題もないじゃん。

 

「もぉ〜、誰か慰めろよ〜!初めての彼氏だったんだぞ〜!あ゛〜マジ死にたい!」

 

 茉莉花は、半泣きになりながら私の肩を揺すってくる。

 私は、彼氏にフラれて傷心の茉莉花を元気づけてやろうと思って、昨日届いた新作ゲームソフトの画像を茉莉花と瑠夏に見せた。

 

「……ねぇ。昨日新しいゲームソフト届いたんだけどさ。放課後ウチ来て一緒にやる?」

 

「え、待ってそれ『ヘッジゲームス』の新作ゲームソフトじゃん!確か全国の店で売り切れ続出で、一ヶ月先まで待たないと買えないんじゃなかった!?どうやって手に入れたわけ!?」

 

「私、この会社の株持ってるから。それで特別に譲ってもらった」

 

「ナチュラルに育ちの違い見せつけられたわ…」

 

 私が新作のゲームソフトの画像を見せると、瑠夏がはしゃぐ。

 入学式の日、最初に私に話しかけてくれたのが瑠夏と茉莉花だった。

 今では、この2人が、本音で語り合える親友同士だ。

 本当に、2人の人柄には救われたと思う。

 

「今日はお父さん体調良いんだって。これ4人でやるやつらしいからさ。お父さん一緒でもいい?」

 

「えっ、逆にいいの!?朱雀と一緒に『ヘッジゲームス』の新作ゲームやれるとか、一生分の贅沢じゃん!」

 

 私が言うと、瑠夏が食いつく。

 瑠夏、お父さんの大ファンだからなぁ。

 お父さんのサインあげるって言ったら狂喜してたし。

 私は、失恋のショックで落ち込んでいる茉莉花に声をかけた。

 

「根本的解決にはならないけど、切り替える事はできると思うよ。『死にたい』とか言ってないでさ、楽しんじゃえば?」

 

「………アンタさ、人生何周目?」

 

 私が言うと、茉莉花が顔を引き攣らせながら尋ねる。

 思えば、隕石災害で死にかけたあの日から、考えが変わったように思う。

 あの日までは、何の為に生きているのかわからない人生だったけど、死にかけた事でようやく自分の望む生き方を見つけられた。

 やりたい事も見つかった。

 今の私には、とても遠くて困難な道のりだけど、いつか必ず手が届くって信じてる。

 

「ねぇ、そこのキミ達!」

 

「今暇してる?オレらと一緒にカラオケ行かね?」

 

 私が茉莉花と瑠夏と話していたその時、何かチャラチャラした感じのオニーチャン2人が、私達に話しかけてきた。

 私は、オニーチャン2人を無視してそのまま歩いた。

 ギターケースがオニーチャンの肩にぶつかろうと、お構いなしに歩いた。

 

「えっ…嘘でしょ、ガン無視…?」

 

「オレらの事見えてねぇの…?」

 

「あっ、ちょい!」

 

「待ってよ火鶴!」

 

 私が先に行くと、茉莉花と瑠夏が私を追いかけてきた。

 私が交差点を渡ると、ちょうど茉莉花と瑠夏が私に追いついた。

 

「もぉ〜、先行くなって!」

 

「…信号青になったから」

 

「ナンパされてフル無視とか、アンタのその我が道行くスタンス見習いてーわ。フツーああいうのって、足止めるとこでしょ」

 

「だって興味ないんだもん」

 

 茉莉花が、呆れた様子で私に話しかける。

 興味ないなら相手するだけ時間の無駄だし。

 てかこれから文化祭の準備で学校行かなきゃいけないのに、この時間帯にナンパしてくるとかバカじゃね。

 

「また出た。『興味ないんだもん〜』。ギャルの風上にも置けないわ」

 

「うっせ」

 

「アンタ、人の色恋沙汰には首突っ込むくせに、自分はそういう話全然しないよね。誰なら興味あんのよ」

 

 茉莉花と瑠夏は、さっきからツイッターを見ている私を問い詰めてくる。

 私だって、異性に興味がないわけじゃない。

 だけど私が興味を持っている人は、学校にいる人じゃない。

 

 私が仲良くしているゲーム会社の社長の平治さん。

 2年前の隕石災害の後、平治さんが私の殻を壊してくれた。

 私を変えてくれた。

 止まっていた時間が動き出して、色がなかった世界が色づいて見えた。

 世界はこんなにも綺麗なんだって事を、あの人が教えてくれた。

 あの人は、私のヒーロー。

 

 平治さんの会社が経営難になったって聞いた時、私は迷わず爺ちゃんの遺産を投資に注ぎ込んだ。

 今度は私が、あの人のヒーローになる番だ。

 あの人の役に立てるなら、七光りだろうと何だろうと利用してやる。

 

「………はぁ」

 

 平治さんは、私にすごく良くしてくれてる。

 だけどそれは、あくまで友達…もしくは客として見ているだけ。

 別にそれでもいい。

 

 ただ、会いたい。

 会って話がしたい。

 もっと仲良くなりたい。

 平治さんの事、もっと知りたい。

 

 ゲームの話がしたい。

 『何が欲しいの?』とか、『どんな事がしてみたいの?』とか、一緒に夢を語り合いたい。

 平治さんが生きる未来を、一緒に想像してみたい。

 

 一緒にりんごが食べたい。

 冬になったら、一緒に雪を見たい。

 同じ景色が見たい。

 一緒に笑い合いたい。

 生きてるって感動を、共に分かち合いたい。

 あの人の温もりに、触れたい。

 ただ、一緒にいたい。

 

「…って、おーい。火鶴、聞いてる?もしもーし」

 

「心ここにあらず…」

 

「…これってさ、絶対アレだよね」

 

「アレですな…」

 

「「恋だ…!!」」

 

 茉莉花と瑠夏は、身を寄せ合って私を見ながらワイワイはしゃいでいた。

 すると、その時だった。

 

「すみません!」

 

「「えっ?」」

 

 アナウンサーのオネーチャンが、私達3人に話しかけてくる。

 

「○△TVの者ですが、番組のアンケートにご協力よろしいですか?ズバリあなたは、何故生きていると思いますか?」

 

 オネーチャンは、唐突に質問をしてきた。

 質問をされた茉莉花と瑠夏は、顔を見合わせる。

 

「何でって…」

 

「そりゃあ、楽しい事いっぱいあるからっしょ!ゲームとか、スタバの新作とか、恋バナとか!」

 

「見返すためよ!とびっきりいい男見つけて、アタシをフった元カレより幸せになってやるんだから!」

 

 瑠夏は笑顔を浮かべながら答えて、茉莉花はどこか吹っ切れた様子で答えた。

 『何故生きているのか』……か。

 

「火鶴は?」

 

 私が少し考えていると、瑠夏が私に尋ねる。

 

「うーん、そうだなぁ…私は……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 2ヶ月後。

 部活のバンドの準備の為に早めに学校に来た私は、いつもみたいに茉莉花と瑠夏と話していた。

 私がエレキギターを弾いていると、私のネイルに気付いた2人が話しかけてくる。

 

「そのネイル可愛い〜!」

 

「どこでやったん?」

 

「あーこれ?自分でやった」

 

「いいなぁ〜」

 

 私は、自分でやったネイルを2人に見せた。

 2人にもやってあげようと思ってネイル道具持ってきたから、時間空いた時にやろうかな。

 

「あとでやったげよっか」

 

「えっ、マジ?いいの?」

 

「ん」

 

「やったぁ!ありがと火鶴〜マジ神〜結婚してくれ〜!」

 

「私にそっちの趣味はねーぞ」

 

 私が言うと、瑠夏が私に後ろから抱きついて、ふざけて胸を揉んできた。

 瑠夏は、よくふざけて私の胸を揉んでくる。

 私が楽しい高校生活を謳歌できてるのは瑠夏のおかげだし、別に嫌じゃないから好きにやらせてやってる。

 最近胸が大きくなってるのは、そのせい…?

 

「つーか火鶴、今日やけに機嫌いいじゃん。何かあった?」

 

「内緒ー♡」

 

 茉莉花が話しかけてくるものだから、私は満面の笑みを浮かべた。

 今日は、待ちに待った文化祭の日。

 平治さんに会える。

 

「うわ、メッチャニヤニヤしてる」

 

「これは…男ですな」

 

「だね…」

 

 茉莉花と瑠夏は、顔を見合わせて怪訝そうな表情を浮かべていた。

 すると、私の部活の先輩が、私に声をかけてくる。

 

「火鶴ー、ちょっとこっち来てー!」

 

「はい、先輩!じゃ、後でね」

 

 先輩に呼び出された私は、茉莉花と瑠夏に声をかけてから、先輩の呼び出しに応じた。

 私は、部活の先輩と一緒に、本番前の最後の練習をした。

 

「うん、いい感じ!」

 

「これなら本番も成功間違いなしですね!」

 

「火鶴ー、アンタ今日やけに調子いいじゃん」

 

「ありがとうございます、先輩!」

 

 先輩達が、私のギターを褒めてくれた。

 今年卒業する先輩にとっては、この文化祭のバンドが集大成になる。

 一昨年は例の隕石災害のせいで文化祭そのものが中止になったから、3年の先輩達は、1年の時に理不尽に青春を奪われた悔しさもあって、失った青春を取り戻そうと必死に練習を重ねてた。

 私も、先輩達に負けないように、毎日ギターの練習をした。

 バンドを最高にいいものにしたくて、練習してきた甲斐があった。

 

「あ、そうそう。皆に渡したいものがあるんだった」

 

「え、何ですか?」

 

 私が振り向くと、部長が紙袋から何かを取り出す。

 

「ジャーン!手芸部の友達が作ってくれたんだ〜!」

 

 部長は、本番で着る衣装を、広げて私達に見せた。

 部長が持ってきたのは、アニメのコスプレ衣装だった。

 ちゃんとウィッグとメイク道具まで入ってる…

 

「…え、これ着るんですか…?」

 

「そーだよ、軽音部名物コスプレバンド」

 

 私が部長に尋ねると、部長はサムズアップをしながら答える。

 これ着てやるのかぁ……

 …何だろう、ちょっと楽しみなのは私だけ?

 私は、中に入ってたウィッグを被って、衣装を着てみた。

 

「…どうですか?似合ってます?」

 

「うん、バッチリ!」

 

「待ってメッチャ可愛い」

 

 私がコスプレ衣装を着ると、先輩達が褒めてくれた。

 中には、写真を撮る先輩もいた。

 そんな中、副部長が、いきなり後ろから胸を揉んできた。

 

「ええい、何だこのプリプリのデコルテは!けしからん!」

 

「わっ」

 

「このオッパイで一番歳下は反則じゃろがい!」

 

 うーん、何だろうこれ、デジャヴ…

 

「皆、ちゃっちゃと着替えちゃって!もう時間ないよ!」

 

「はーい!」

 

 部長が声をかけると、他の部員もコスプレ衣装に着替えた。

 平治さん、来てくれるかな…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

平治side

 

「結構規模大きいのな」

 

「知らねぇのか?この高校の文化祭、全国的に有名だぞ」

 

「あ、クレープ!2人とも、クレープ食べない?」

 

 9月の第四土曜日。

 この日は休みを取れたから、俺と彰人、それから佳奈の3人は、火鶴ちゃんの通ってる高校の文化祭に来ていた。

 高校の文化祭とは思えないくらい大規模で、有名チェーン店の出店が並んでたりする。

 俺は、子供を連れてきた彰人と佳奈の2人に話しかける。

 

「…何でお前らも来たの?」

 

「え、だってオレもお笑いライブ見てーもん」

 

 俺が尋ねると、彰人はパンフレットをめくりながら答える。

 すると、その時だった。

 

「兄ちゃ〜ん!」

 

 リンゴ飴とタコ焼きを持った妹が、俺のところに駆け寄ってくる。

 

「さっ…沙由!?お前、来てたのか!?」

 

「兄ちゃんなら絶対来ると思て!というか兄ちゃん、ウチに黙っとるなんて、どがぁなつもり?」

 

「ご、ごめん…」

 

 文化祭の会場に先回りした妹は、俺を問い詰めてくる。

 大勢で押しかけたら火鶴ちゃんも恥ずかしいだろうと思って、俺がこの学校の文化祭に行く事は黙ってたのに…

 我が妹、恐るべし…

 

「すみません、そこのお兄さん!ちょっといいですか?」

 

「…うん?」

 

 いきなり、男子生徒に声をかけられた。

 

「ちょっとこの看板持って、そこ立ってもらえませんか?」

 

「え?いいけど…」

 

 男子生徒に促された俺は、言われるがまま看板を持って出店の前に立った。

 すると、さっきまであまり人が来ていなかった出店に、ものすごい勢いで客が押し寄せてきた。

 目を♡にした女性客が、こぞって俺の立っている出店に焼き鳥やフランクフルトを買いに来た。

 え、何なの…怖……

 

「ヤバっ、完全に客寄せパンダじゃん。ウケる」

 

「何なの…急に人がいっぱい来たんだけど…怖……」

 

「お前なぁ、自分のツラの良さを少しは自覚しろ。あ、オレもフランクフルト一本もらうわ」

 

 佳奈と彰人が、俺の立っている出店でフランクフルトを買った。

 午後のバンドのライブに間に合わないんじゃないかと思ったけど、急に客が来たおかげで出店に出ていたものは全部完売した。

 俺が客寄せをした店の担当の男子生徒が、去っていく俺に手を振った。

 

「ありがとうございました〜!」

 

「もう時間ねーぞ」

 

「わかってる」

 

 俺が客寄せをしている間にお笑いライブを見に行ってた彰人が戻ってきて、火鶴ちゃんがライブをする体育館へと2人で一緒に向かった。

 体育館の中は、既に満席だった。

 すごい人気だな…

 この学校の軽音楽部って、そんなに有名なのか?

 

「おーい、こっちこっち!」

 

 声をかけられたから振り向くと、佳奈と沙由が席に座って手を振っていた。

 佳奈と沙由が席を取っておいてくれたおかげで、ライブが始まる前には会場の席に着けた。

 開演を告げるブザーが鳴り、ゆっくりと幕が上がる。

 ステージ上には、見覚えのあるアニメキャラのコスプレをした5人の女子生徒が、それぞれ楽器を持って立っていた。

 

「皆さん、楽しんでますかァーーーー!?」

 

 茶髪のボブのウィッグを被ったボーカルの生徒が、会場の客に向かって叫ぶ。

 その隣に目をやると、黒髪ロングのウィッグを被った女の子が、ギターを持って立っていた。

 その女の子と、目が合う。

 火鶴ちゃんだ。

 

 演出用の花火が打ち上げられ、演奏が始まる。

 すると、会場の至る所で歓声が起こる。

 俺の周りの客は、ペンライトを振り回しながら叫んでいた。

 熱狂が熱狂を呼び、ライブ会場に一体感が生まれる。

 

 サビに入ると、火鶴ちゃんがボーカルに加わる。

 ボーカル2人の歌声に、全身がビリビリと震える。

 気分が乗った俺は、腹の底から声を上げた。

 気がつけば、ライブを全力で楽しんでいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

???side

 

 2012年、7月。

 都内の刑務所の、とある居室では。

 頭を丸め特徴的な丸眼鏡をかけた痩せぎすの中年男性が、医学書を読みながら、相部屋の受刑者と将棋を打っていた。

 

「7一玉」

 

「だぁーまた負けた!栗原先生、やっぱアンタには敵わねぇわ」

 

「まぁ…オレの取り柄といえば、頭だけなんでね…」

 

 強面の受刑者が呆れたように笑うと、栗原と呼ばれた受刑者が頭を掻きながら笑う。

 そんな中、居室に備え付けられたテレビでは、ニュース番組が放送されていた。

 

《あの『隕石災害』から今日で2年が経ちました。にも拘らず、未だ復興は遅々として進まず、首都中枢部への打撃は景気の低迷を促進させ、巨額の財政赤字、広がる世代間格差、GDP低下、介護破綻、上がり続ける自殺率…場当たり的な政策しか取れない国に対し、国民からは、『未来に希望が持てない』『日本の将来は暗い』などの悲観的な声が番組に多く寄せられました。そこで当番組は災害から2年の節目に特別企画として、厳しい現実を生きる皆さんに、あえて踏み込んだ街頭インタビューを行いました。その質問は、単刀直入に……》

 

《あなたは何故生きていると思いますか?》

 

 ニュース番組では、女性アナウンサーが、渋谷のスクランブル交差点を歩く歩行者達にインタビューをしていた。

 その中でも、スーツを着こなした好青年と、ボブヘアーを遊ばせた赤眼の女子高生がクローズアップされる。

 

《そうだなぁ…オレはー……》

 

《うーん、そうだなぁ…私は……》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 2012年、9月。

 とある高校では、文化祭が行われていた。

 体育館では、軽音楽部の生徒がライブをしていた。

 奇しくも、インタビューに出ていた青年と女子高生が、同じ会場で目が合う。

 目が合った2人は、ライブの最中に、満面の笑みを浮かべながら全力で叫んだ。

 

 

 

 ――あなたは何故生きていると思いますか?

 

 

 

 ――オレは…

 

 ――私は…

 

 ――君と…

 

 ――あなたと…

 

 

 

 ――共に生きる為に生きてる!!

 

 

 

 

 

 

 

 ─── Hedgehog in Borderland・完

 

 

 

 

 




おまけ
本編オリキャラ達の2年後

北句平治
就活惨敗後、大学院在学中にゲーム会社『ヘッジゲームス』を立ち上げる。
幼馴染みと二人三脚で経営をし、ヒヅルをはじめとするパトロンの助けもあり、自身の会社を勢いのある企業へと成長させる事に成功した。
現在、とあるゲームエンジニアをスカウト中。

小鳥遊火鶴
母親が継父と離婚し、父親と再婚してからは、親子3人で暮らしている。
祖父の遺産を『ヘッジゲームス』に投資し、経営破綻の危機を救った。
高校では軽音楽部に所属しており、ギャル友達と連んでいる。

栗原鳳正
退院後に自首をし、現在は刑務所に収監されている。
持ち前の頭の良さと社交性で先輩受刑者や看守と仲良くなり、獄中ライフをエンジョイしている。
妹から、つい最近交際を始めた彼氏の話を聞かされている。

根津見護人
ヘイジの経営しているゲーム会社の最初の社員の1人。
社内でゲームの企画をしつつも、ユーチューバーを続けている。
ヤヨイと交際中。

弥生美兎
大学卒業後、念願だったスイーツ店でパティシエールとして働いている。
ネズミと交際中。

一ノ瀬利奈
退院後に自首をし、現在は刑務所に収監されている。
年末には釈放予定。

戸蔭飛龍
法務技官になる為の試験勉強中。
大学在学中に芽唯と結婚した。

戸蔭芽唯(旧姓:鐘ヶ谷)
家族の説得を無視して婚約を破棄し、コンサル業界に再就職。
飛龍と結婚し、現在妊娠中。

帷子碧
隕石災害により、片眼喪失・難聴の重傷を負う。
1年前にリハビリを終えて退院し、現在は就職活動中。
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