後半母視点です。
最近増えたものと言えばマスコミからの取材やらなんやらの申し込みである。
最初は面倒くさいという理由ですべて断っていたのだが、トレーナーさんがどうしてもというのでいくつかはOKしている。どうやらトレセン学園側から受けるようにとのお達しがあったらしい。
とはいえ、取材の大半はトレーナーに代わりに答えてもらうことにしているので思ったよりも面倒はない。それにしても、レースの意気込みだとか好きなトレーニング、挙句の果てには日常生活に至るまで根掘り葉掘り聞いてくるとは暇な連中だ。
だいたい、好きなトレーニングがあるという前提は意味が分からない。レースを走った理由だとかなんかも、ウマ娘や人間の行動が全て気持ちよくなんかの理由で説明できるとでも思っているのだろうか。
そんなくだらないことでトレーナーさんとゲームする時間を減らされるとは腹立たしいことだ。
面倒ごとは続くもので、お次は勝負服なるもののデザインを決める必要があるらしい。
そんなことを言われても服のデザインなど分かるはずもないので、こちらもトレーナーさんに丸投げした。
かわいくお願いすることで気合が入った様子だったので、きっと悪いことにはならないだろう。
それにしても、トレーナーとはなんと便利なものであろうか。あとはトレーニングをさせようとしてこなければ完璧といっても差し支えないのだけどなぁ。
レースの方は相変わらず順調だった。前走ったアイビーステークスから2週間後にあったいちょうステークスに出走したおかげでトレーニングの魔の手から逃れることができたのだ。
出走するウマ娘が7人と少な目だったこともあってか逃げウマ娘がいなかったので、最初の直線から一人で走ることになってしまいペースはつかみ難かった。まあ勝っているので問題ないだろう。
レースが終わった直後は準備室でだらだらするのが私の流儀だが今日はそういうわけには行かない。
なんと私のレースのいくつか後が大レース秋の天皇賞なのだ。
そういうわけで、ウイニングライブまでの時間にスタンドに戻って観戦することにした。
このレースの最大の見どころは大逃げをするスズカさんとそれを追うエアグルーヴ先輩との戦いだろう。いつもはトレセン学園内で追いかけっこに興じている2人だが、今日はレースとして競い合うということでいつになく真剣な顔だ。
スぺちゃん曰くスズカさんは昨日は部屋で回っていたので大丈夫!とのことだったが、そういうトレーニングかはたまたなにかのジンクスなのだろうか。
レースは大方の予想通りに大逃げしたスズカさんを他の全員が追うという展開が繰り広げられた。
それを後ろからエアグルーヴさんが猛追するも残り1バ身に迫ったところがゴール。見事にスズカさんの勝利に終わった。
レースに出るようになって2ヶ月くらいが経つとトレーナーさんにも悪知恵がついてくるのか、こっそりと走る以外のトレーニングをしようとしてくる。
この間は突然連れていかれた部屋になぜかサンドバッグと瓦がおいてあるというよくわからない状況に遭遇した。何か説明していたような気がしたが、私がマンガを読んでいるときにする方が悪いと主張させてもらう。
サンドバッグを殴るのは初めてだが、とりあえず見よう見まねで連打してみることにした。
が、残念ながら5発ほど殴ったところでサンドバッグを吊るしている鎖が切れたようで壁に向かって飛んで行ってしまった。
一方、瓦のほうは瓦割りをするということらしいが、私では達人のようにキレイに割れるということはなかった。代わりに瓦が粉々になって破片が飛び散るという結果に終わった。
どうやらトレーナーさん曰くこれはパワーを鍛えるためのトレーニングだったようだ。これが標準的なトレーニングだと言っていたが、きっと根性論全盛期のトレーニング本で知識を得ているに違いない。
意外と面白かったのはストラックアウトだった。
最初の何回かで枠やパネルが破壊されてしまったおかげで途中から遠投に切り替えたのだが、このチートボディのお陰なのか思っていたよりも飛距離がでたのだ。何よりも、それを拾い集めるトレーナーさんが息を切らせて走り回っているのを眺めるのがなんとも愉快だった。
なお、トレーナー室で突如将棋を吹っ掛けられ、ボコボコにされた上に理由を聞いたら賢さトレーニングとのこと。至って真剣な顔でそう言われた私はどういう反応をすればいいんだろう。
そんなトレーナーさんとの攻防戦をしていると、いよいよ次のレースは東京スポーツ杯ジュニアステークスが近づいてくる。これまでのレースとは違い重賞、つまり重要なレースだ。*1
レース後の休暇もより一層しっかり取らせてもらえるといいなぁ。
—--------------------------
母視点
ああ、そうなるのか。
娘の晴れ姿であるはずのデビュー戦を見た感想は、喜びと驚きを飛び超えてそんな一言に集約されてしまった。
競走という言葉が不適切に思え、一人旅という言葉以外では表現できないようなレースだ。
メイクデビュー前に余計なことを考えさせてはいけないと思い、あえて応援に来ることは伝えていなかったのだが、無用な気遣いだったのだろう。
走っている娘を見るに、おそらく真摯にレースを走っているわけではなさそうだ。
集中していたり、楽しいことをしているときは尻尾を左右に振るのが昔からの娘の癖だ。それに対して、今のように尻尾を真下に固定して耳を横に向けているというのは別のことを考えながら作業をしているときの癖だ。
そう、庭先で落ち葉を箒で掃くとちょうどあんな感じになるのだ。
要するに娘はこのメイクデビューをレースとしてではなく、何らかの作業として認識しているのだろう。
薄々、感づいていたが改めて目の前に突き付けられるとひどい絵面だ。
トレセン学園に入ると決めたときには多少はやる気があったように感じるし、入学式直後からトレーナーを決めてトレーニングを始めたと聞いたときは随分驚いたものだ。
ただ、あっさりとその決心は砕けたらしく、1ヶ月もすると時々家に帰ってきては週刊誌やゲームソフトを交換していくようになった。
翌月にはどうしてかトレーナーがそれを代行することになっていた。怖くて理由は聞けなかったが、娘はトレーナーを便利な家具とかと同列に扱っている気がするのは私だけだろうか。
トレーナーからは時々娘の写真を送ってもらっているが、残念ながらトレーニング中の写真というのはほとんど見たことがない。そして、娘の自然な笑顔をみると、おそらくはハードなトレーニングはやっていないのだろう。
この間もトレーニング内容を夫に聞かれていろいろ濁して答えていたし・・・
レースを重ねるにつれて、私の中ではより大きな懸念が膨らんでくる。
娘は周りのレベルが上がっても相変わらず勝ち続けている。
このままいくと、来年のクラシックは娘が席巻するのだろう。
必然的にファンもアンチも増え、メディアへの露出も増えるだろう。そうすると、いつかは娘の内面がバレかねない。そして、それはとんでもない形で起こるのではないか。
テレビカメラの前で一緒に走ったウマ娘に対して「誰ですか?」といったり、当日になって面倒だからという理由でGⅠだろうとさぼりかねない。
とりあえず今はメディア対応をトレーナーがしているであろうことに安心しつつ、今度帰ってきたときにレースの重みについてもう一回教え込まねばと決心するのだった。
評価、お気に入り、感想、ここすき等よろしくお願いします。
次回はVSキングヘイロー回になると思います。
掲示板形式は
-
あった方がいい
-
どちらでも
-
ない方がいい
-
回答を考えるのがめんどくさい