前半キングヘイロー視点です。
キングヘイロー視点
トレセン学園で、レースの世界で生きることを決めたきっかけがなんだったのかは分からない。
お母様から才能が無いと告げられたのがその最後の一押しになったことは間違いない。
けれども、そんなことは言われなくても分かっていた。本当に才能のあるウマ娘というものを既に知っていたのだから。
彼女と出会ったのは小学生のレースだった。それも名のある大きな大会ではなく、地元でやっている小さなレース。
お母様の娘としての期待に応え続けていた私にとって、それは勝って当たり前のレースでしかなかった。
一流にふさわしい鮮やかな勝ち方、エリートにしか許されないその美学を追い求めて参加した。そんなレースで私は敗北した。
完敗としか言う他なかった。
着差というわけではない、何度やり直しても勝てる道筋が見つからない。
そういう意味で勝てないと感じた。
油断や偶然ではなく、間違いなく実力で及ばなかった。
そう思わされたのは後にも先にも彼女以外に無い。
彼女とは幾度も戦い、そのたびに敗北した。
好位につけての押し切りを狙えば、似たような位置から一気に突き放された。
後ろからの早めの仕掛けを行ったものの、一度抜いたところからあっさり抜き返された。
逃げを打ったら、すぐ後から感じる彼女の圧でペースを乱される。
追い込みは彼女に迫る前に突き放される結果になった。
もともとの私のスタイルはとっくになくなっていた。位置取り、走法を変えて何度も挑み続けた。いつしか、型などかなぐり捨てて彼女に勝つことだけを目指すようになった。
それまでは泥臭いと嫌っていたトレーニングも嫌がらずにこなした。
トレーニングで鍛えて、それによって走りが良くなることが本当に嬉しかった。
それで彼女に近づけるからと。
レースでの安定感も増した。
5バ身差以上をつけた圧勝となることも多かった。
お母様の娘と言う評判かそれ以上に、私はレースで結果を残した同世代の有力ウマ娘として注目を受けていたと思う。
けれども、私が速くなればそれだけ彼女も速くなっていた。
彼女の最大の武器はその強烈な末脚。
残り100mまではなんとかくらいつけていたものの、そこからは彼女にあっという間に置き去りにされた。
私は彼女と戦えていたのか、はたまた彼女に挑んでいたのか。
いつしか彼女は私の心の中に居座っていた。
私はお母様の反対を無視してトレセン学園に飛び込むことにした。
お母様に、彼女に、この私、キングヘイローこそが一流であると認めさせるために。
トレセン学園でも彼女との距離は縮むことはなかった。
いや、むしろ広がっていたのかもしれない。
入学して数ヶ月、スペシャルウィークさんを含めた模擬レース。
彼女はやはり強かった。ただでさえハイペースな前半に羽が生えたと見紛う末脚の前に私は圧倒されてしまった。
そこから一気に引き戻されたのは彼女の足を必死に冷やしている彼女のトレーナーの姿を見た時だった。
彼女の脚があまり丈夫ではないことは噂としては知っていた。
それこそ、トレセン学園に入る前からそのような噂を聞いたことがあったぐらいだ。
しかし、入学してからの彼女は毎日のようにレースと見紛うような速度でコースを走っていた。
あの速さで走るのは一周までとトレーナーに止められると彼女は話していたが、ウマ娘なら当然だろう。そんな彼女の脚が脆いというのは間違った噂なのだと勝手に判断していた。
幸い彼女は模擬レースでは脚を痛めることはなかった。
ウマ娘は外で走ることが好きだが、それだけがトレーニングではない。
走ることはどうしても脚に負荷がかかってしまう。
一方、室内でのトレーニングは脚への負荷は小さいものの、決してウマ娘が元来好きな行為ではないことが多い。
彼女のトレーナーはそれを組み合わせることで、元来丈夫ではない彼女の脚が限界を超えないように調節していたのだろう。
それ以来、彼女と走ることはなかった。
デビューを迎えた頃には彼女の脚は以前より格段に丈夫になっていた。
デビューからの間を詰めた4連戦をあっさりこなしていた。
彼女はトレーナーによるマッサージのおかげだと話していたが、それだけではないことを私は知っている。
彼女が夜になってから寮に戻るところを見たことがある。それも一度や二度ではない。声をかけて何をしていたのか聞くも、彼女ははぐらかしていた。
けれども、彼女が来るのは決まってトレーナー室がある方角から。
それだけで何をしていたかを知るのには十分すぎた。
誰からも認められるためには、誰も見ていない時間に努力しなければならない。
一流たる彼女はそれを実践したに決まっている。
そんな彼女、私の自慢のライバルと重賞レースで戦える。
私はその誇りを胸に、ゲートに収まった。
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ウィトルムぺデス視点
理不尽だ。
謎の理不尽を味わった。
先週の日曜日、惰眠を貪っていた私の前に、二人のウマ娘が現れた。
一人は同室相手なので現れたというのはおかしいが、もう一人が問題だった。
なんとあのメジロマックイーンさんだったのだ。
メジロマックイーンさんといえば、昔強くて有名だったらしいウマ娘だ。私でも知っているということは多分相当強かったのだろう。
あとパクパクですわと言ってスイーツを食べ尽くすイメージだったが、どうやら今日は京都の限定スイーツに釣られてきたようなことを言っていたので事実だったようだ。
そんな方を前にして、挨拶もそこそこに私はプールに連れ去られた。
話を聞くと、トゥインクルシリーズをできる限り長く駆け抜ける旅を続けるためにはスタミナが必要であり、それを鍛えているのだとか。確かに、前からそんなことを言っていた気がする。
この間の菊花賞でそれを実感したので、なぜか私を巻き込んでプールでのスタミナトレーニングをする気になったらしい。
いや、私は疲れるほど走り続けたいわけではないし、二人が話している旅ってなんだろうと考えているとあっという間にプールについてしまった。
最後の抵抗としてトレーナーに許可を取らないとと言ってみたが、マックイーンさんが既に話を通していたみたいだ。そういえば、昨日トレーナー室から帰る時に明日は頑張ってと言われたことを思い出した。
日曜日という休息の時間はプールでの高速犬掻きに姿を変えたのだった。
なお、指導役のマックイーンさんは最初は泳ぐつもりがなかったそうだが、スイーツをパクパクするために結局泳いでいた。
マックイーンさんの可愛すぎる水着が見れたのが唯一の役得であろうか。
謎のプール連れ去りイベントを終えて、翌週はいよいよ東京スポーツ杯ジュニアステークスだ。
重賞というだけあっていつもとはなんか違うようなファンファーレで迎えられてゲートへと入る。
全体的にピリピリしているし、隣のキングちゃんも完全に戦闘態勢に入っているみたいだ。
スタンドからの空気もいつもよりも気迫があるように感じる・・・とスタンドを見ていたタイミングでゲートが開いた。
慌ててゲートを出た頃には、既にキングちゃんの背中が見えるほどだった。
今日のレースはいつも通り逃げの予定なので慌てて前に出ようとするが、隣と前が塞がってしまって前に行けそうにない。
スタートから300mくらいで私は完全にバ群の真っ只中に取り込まれてしまった。
前も後ろもウマ娘、左も右もウマ娘、おまけになんかこっちが見られているような気がする。バ群というのは最悪だ。
好きなペースで走ることも難しいし、前のウマ娘の蹴った芝が剥がれて飛んできたりもする。
しばらく我慢していたものの、カーブが終わる頃には我慢の限界を迎えていた。
直線に入る直前に思いっきり脚を緩める。
前に出れないならと後ろから出ることにしたのだ。
これまでの数十秒にわたる揉み合いが嘘のように、ほんの数秒で横のウマ娘がいなくなる。
そこから横に出たことでようやく前に邪魔がいなくなった。
踏み締める芝が脚に返す感覚が少し気持ち良い。
自由になった私の脚は先程まで囚われていたバ群を外側からあっという間に追い抜いた。
その前にいたのはキングちゃんだった。
バ群の中にいた時は見えなかったが、今回のキングちゃんは逃げの位置でレースを進めていたようだ。
剥き出しのウマ耳から観客の叫び声が頭に入って反響する。
追い抜け! そんな声が聞こえた気がする。
逃げ切れ! そう言っている声もある。
頑張れ! これが一番多いか。
でも私は追い抜きたい。
なぜかそう思った私はさらに脚に力を込める。
横からのいつも以上の大声援を受けて、心臓がさらに激しく脈動し脚に血液を送っているのが分かる。
それに応えて脚がより大きな衝撃で地面を蹴り上げる。
キングちゃんとの距離がみるみる縮まる。
残り200m。あと5バ身。
後ろのウマ娘の足音は歓声にかき消されて聞こえない。
聞こえるのはただ隣を走るキングちゃんの足音といつもより大きな私の足音のみだ。
残り100mで粘るキングちゃんを完全に抜き、私はそのままのスピードでゴールになだれ込んだ。
味わったことのない足の痺れといつもより早い心臓の鼓動。
いつもは嫌なはずのそれらが今日は少しだけ心地よく感じた気がした。
評価、お気に入り、感想、ここすき等よろしくお願いします。誤字報告もいつもありがとうございます。
あと2,3回でジュニア期が終わる予定です。
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