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キングちゃんとのレースで気分が盛り上がっていた私は、その高揚感のままにウイニングライブを行うことになってしまった。これはレースからライブまでの時間が短かったのもあるだろう。
そういうわけで私のライブは散々だった。
歌い出しから音を外し、左右反対に動いてキングちゃんを戸惑わせたのは序の口。
位置取りを間違えて和を乱し、慌てて盛大にすっ転んだのだ。
ただ、その失敗で気持ちが冷えたのかライブの後半はいつも通りのパフォーマンスに戻れたみたいだ。
キングちゃんには呆れた顔で心配され、トレーナーさんには無言で頷きながら頭を撫でられた。
応援に来ていたスズカさんからは
「初めての重賞で緊張しちゃったのかしら。」
とどこか懐かしいものを見る目で微笑まれた。
なお、隣にいたスペちゃんはなぜか顔を真っ青にしていた。
今度デビュー戦を走ると自信満々に言っていたけど、この様子だとウイニングライブの練習を疎かにしていたに違いない。
レースから一夜明けた日曜日、私は珍しく自宅近くの公園まで来ていた。
子供のころによくレースで訪れていたが、幸いにして今日は小学生のレースは開催されていない。
何のためにかといえば、偏に昨日レースで感じた感覚を確かめるためである。
小川にかかる橋をわたってところどころ剥げたターフコースに入るとコース内には人影はすくないようだ。コースの内側に作られたグラウンドでおそらく私の後輩にあたるであろう小学生が何人かでサッカーを楽しんでいる以外は注意する必要があるものはなさそうだ。
ジャージの上着を脱ぎ、昨日と同じ体操服姿でスタート地点に立つ。
自分のタイミングでスタートを切り、ターフを踏みしめて一気に加速する。
脚が一瞬ターフにめり込み、その反動で体が跳ねるように前に飛び出す。
体に打ち付ける風を押しのけて一気にトップスピードに押し上げ、青空と芝の間を切り裂くように進む。
走りなれたコースだ、少しペースを落として体を傾ける。まだきれいな外側の芝を蹴ってカーブを曲がり、再び直線で一気に脚を伸ばす。
再び耳に入ってくる風の音が大きくなり、脚が芝を叩きつける力が解放される。
うーん、なんか全然違う気がする。
休息をはさみつつコースを何度も走るものの、全く以て喜びは感じない。
頭にあるのは高揚感ではなく、小学生の時にレースに出たことで買ってもらったソフトの数々。
昨日感じたようなあの感覚は全くなかった。
相談する相手を間違えたのか、スズカさんの言う「誰もいない芝を思いっきり走る楽しみ」というのは私にはない気がする。
昨日が異常だっただけだろうと結論付けて、ある意味でいつも通りの自分に安心すら覚える。
確認作業もできてやれやれと歩き出すと、ふとコース脇の芝生に目が映る。
ちょっと疲れたし、帰る前に昼寝でもしよう。
芝生に誘われた私は昼さがりの心地よい日光に抱きしめられるように、横になる。
たちまち、私の意識は夢の世界へと旅立ったのであった。
やっぱ寝てるだけだ。ウィー、おい、ウィー、起きろ!
こいつ相変わらずだなぁ
レースとライブではあれなのになぁ
なにか周りがうるさいような。
なんでこんな場所で寝てるんだ。
まあ、ウィーだしな。それより、早く起こせよー。
今やってるよ!! おいっ! こんなとこで寝るな。
頬っぺたがつつかれた気がする。
目を開けるとどこか見覚えのある顔が三つ程あり、私の顔をのぞき込んでいた。
「あーっ、悪ガキトリオかっ!」
「「「誰が悪ガキか!」」」
思い出した!
中学校の制服を着ていたので分からなかったが、小学校の時のクラスメイトだった奴らだ。
クラスでは元気な男子枠であり、あまり賢くない。そして、よく先生に怒られていたので私は密かに悪ガキトリオと呼称していたのだ。
ただ、基本無口な私と話すことのある数少ないクラスメイトであるし、何度か遊んだこともある。
まあ、色違いのレアモンスターをもらうという条件でクラス対抗ドッジボールに参加したとかそういうやつだが。
そういえばウマ娘なんだからトレセン学園にいくんだろとか言って来たのもこいつらだった気がする。今は何とか凌いでいるものの、一歩間違えばブラック部活一直線の危ない生活に追い込まれたのもこいつらのせいなのか。
これには何らかの償いが必要だろう。そうに違いない。
何を要求するべきか頭を巡らせるも、今年や去年に出たゲームだと彼らがやっていない可能性もある。ここで情報を得るべきだ。
敵を知れば十戦十勝だと昔の偉そうな人が言ってた気がするし。
「ねぇ、去年出たソフトって何もってる?」
「ウィー、お前が相変わらずなのは理解したけど、とりあえず周りを見ような?」
そう言われて立ち上がって見ると、50人くらいだろうか。皆がこちらを見て私のことを取り囲んでいた。
サッカーボールを抱えた少年やランニング途中といった様子のウマ娘の少女。
悪ガキどもと同じ制服を着た中学生もちらほらいる。生憎、顔を見ても思い出せないが、違う小学校からの子なのか私が忘れただけなのかは分からない。
寝ぼけた頭ではこの状況の理解ができるようには思えない。
「えーっと、何これ」
「ウィー、お前押しも押されもせぬ重賞ウマ娘なんだぞ。それも昨日勝ったばかりの有名人だ。一目見たいと思うのは当然だろう。 それに、もともとお前がここで走ってたのを知ってるからな。応援してた奴も多いと思うぞ。もっとも、それがこんなとこで寝てるってのも大きいと思うけどな。」
おおー、悪ガキとは思えないほどのなんかよさげな答えが出てきた。これが重賞効果ってやつか、すごいな。
「というか、よく知ってたね。私が昨日勝ったこと。」
「なぁ、ウィーさんよ。俺ら昨日応援に行ってたんだけど。ライブで毎回俺らのほうを見てくれるからてっきり分かっているものかと。っていうか仮に現地に行ってなくても知らないわけないだろ。幼稚園からの幼馴染が重賞とったんだぞ!!」
なんと、驚くべきことに彼らとの付き合いは幼稚園からだったらしい。なんか時々話す便利な連中くらいの認識だったがそんな仲だったとは。前世を思い出す前だし、記憶が曖昧なもんで完全に忘れてた。ごめん。
というか、これ昨日の醜態とか見られてたのか。会うにしてもこんなタイミングじゃなくてもいいのに。
「それにしても部活からの帰りで公園の前を通ってて、なんか人だかりがあるなと思って近づいたらウィーが寝てるからびっくりしたぜ。一体何がどうしたらこんなことになるんだ?」
「実は、もしかしたら走るのって楽しいのかもしれないって思って」
かくかくしかじかと彼らに説明していると、途中から
「ちょっと待てウィー、こっちから聞いていて悪いがここでこの話をするのはまずい気がする。ちょっと離れよう。」
といって周りに人がいないベンチに移動することになった。
彼らがなかなか聞き上手だからなのか、最近はまっているRPGの話からレースやトレーニングの話までついつい話してしまう。
意外にも反応が悪かったのはトレーナー周りの話であり、一方でキングちゃんやスぺちゃん、グラスちゃんの話には非常に食いつきが良かった。まあ、思春期の彼らには同年代の美少女の話のほうが面白いのだろう。
なお、どうしてかレースやトレーニングについて話すのはやめた方がいいと言われた。真剣な顔をして、もし話さなければ定期的に色違いモンスターをくれるというので了承したが一体なんだったんだろう。
彼らと離れると日曜日に出歩いたためかはたまた慣れない会話に勤しんだためか、急激に疲労感が溢れてきた。
ここから走る気力などあるはずもないので、電車でもってトレセン学園に帰るのだった。
トレーナー室に戻るとトレーナーさんは珍しくテレビの前に陣取っていた。
手にはペンとリモコンが握られており、どうやらなにかの録画を見ながらメモのようなものを取っていたようだ。
一時停止された画面には・・・
「タイキ先輩?」
スズカさんの友人のタイキシャトル先輩が露出多めの恰好で走る姿が映し出されていた。トレーナーさんは何やら言い訳のようなことを言っていたが、タイキ先輩と言えばそのご立派な体格で有名である。
あっ、そういうことか。
これがノックせずに部屋に入る親の気まずさというものだろう。
と思ったら私の理解は間違っていたようだ。
なんでも今日行われたレースの映像を見返していたようで、あの恰好はタイキ先輩の勝負服らしい。
そういえば私も勝負服を作っていたはずだが、あんなヤバ目の恰好になったりするのだろうか。勝手にスズカさんみたいに露出が控え目の恰好をイメージしていたが、めんどくさくてトレーナーさんに丸投げしていたのでもしかしたら水着のような恰好で走らされるのかもしれない。
と思ったら、トレーナーさんが私の勝負服がさっき届いたんだと言い出した。
思わぬ展開にどぎまぎしていると丁寧に箱が棚から降ろされる。
トレーナーさんの趣味やいかにとドキドキしている私を前に、トレーナーさんは自信ありげに勝負服を開封した。
レースが施された白いブラウスに、長袖の赤のジャケット。
黒い縁取りが印象的な赤いフレアスカートも、落ち着いた雰囲気ながら邪魔にならない程度には短い。
胸元のリボンと白い手袋を身に着けると我ながら良いところのお嬢様にも見えてくる。
鏡の中をのぞくと、そこに映る自分はどこか満足そうな顔をしている。
へそ出しや脇出しでなくて良かったと安心していると、とっても良い顔で微笑むトレーナーさんに頭を撫でられた。
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