前半グラスワンダー、後半ウィトルムペデス視点になります。
初めてのGⅠレース、初めての勝負服。
年の暮れの最高の舞台。
ゲートへと向かうだけで、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
1枠1番 アイムプリンケプス、札幌ジュニアステークスを勝った重賞ウマ娘。差し脚が脅威。
2枠2番 アグネスセカイ、こちらも函館ジュニアステークスを勝った重賞ウマ娘。前目につけて上がり最速で短距離ながら2バ身近い差をつけての勝利。
昂る心を鎮めるためにレースに出走する対戦相手の情報を復唱する。
これももうすっかり習慣になってしまった。
5枠9番 マチカネソレカラ、前々走アイビーステークスで3着、前走の京成杯で2着。私のすぐ後ろに迫る実力は決して侮れない。
しかし、今日の本当の意味での相手はただ一人。
7枠13番、ウィトルムペデス。
前走こそバ群を抜けられずに苦戦していましたが、そこから抜け出してあのキングヘイローを差した末脚は脅威そのもの。
しかし、それ以前に彼女の普段のスタイルで逃げを打たれては、いくらこちらの全力の末脚をもってしても差し切ることは困難。
故に、勝つためには自由に逃げさせるわけにはいかない。
勝機があるとすれば、短い中山の最終直線での競り合い。
直線入口まで後ろに着けられれば、こちらから仕掛ける機会が生まれるかもしれない。
ゲートが開いて一斉のスタート、多分出遅れたウマ娘はいない。
この朝日杯フューチュリティステークスは中山レース場の芝1600mコース。
同じく中山レース場で走ったデビュー戦での1800mとはコースの形が違い、最初の直線を終えると緩やかな曲線が延々と続く独特な形状をしている。
結果的に、後から位置を上げてマークするのは難しい。
だから最初に・・・
左を見ると軽快に加速していく小さな彼女の姿が見える。
明らかに先頭を取るための加速。作戦は逃げでくることは間違いない。
ここで付いていけないならば、勝機は無い。
ギアを一段上げて彼女の通り道を後ろから追って前に進む。
いつものようにバ群が視界に入るわけではないが、後ろからの足音は既に3バ身の差をつけていることを教えてくれる。
前を行く彼女とは2バ身、なのにさらに差を引きはがしにかかる。やはり、大逃げで一気にかたをつけるつもりだろう。
これ以上のペースは・・・
しかし、この衣装を纏ったからには諦めて負けを認めるような無様な姿をさらすわけにはいかない。
再び食らいつくように1バ身まで追いすがる。後ろまでの距離はもはや分からない。
2コーナーに差し掛かり、ようやく安定した。
それが油断だった。
彼女はさらに一段階ペースを上げて走り出す。
見る見るうちに1バ身、2バ身と引き離される。
マイル戦において、これ以上は逃げではなく暴走だ。
分からない。それだけの脚があるならば、使いどころはここではなく3コーナー。
私に確実に勝とうとするならば、3コーナー入り口からのロングスパートを選択するはずだ。それを実行されれば、こちらに打つ手はない。
トレーナーさんとの想定でも私にとって最悪のもの。あちらがそれを理解していないはずはない。
彼女はそんなことを考えている私から4バ身、5バ身と差を広げる。
勝つためならば、彼女が単純に勝つためならばここでペースを上げる必要はない。
ではなぜペースを上げたのか。
いや違う。
なぜ気が付かなかったのか。
思えばデビュー戦からしてそうだった。
彼女は後続に3秒以上の差をつけた。
レースは本来勝つためのもの。大差勝ちもハナ差勝ちも勝利は勝利。
では彼女がなんのために走るのか、愚問だった。
彼女の目に私個人が映っていないことは分かっていた。しかし、それ以上だったとは。
情けない。
情けない。
怪物と評されたのは何だったのか。
競う価値すらないと思われて何が怪物か。
競走相手と意識すらされなくて何が
覚悟を決めて、一気に踏み込んで後を追う。
脚が悲鳴をあげるのを無視して前に進む。
それを受けてか、ここにきて彼女はさらに速度を上げる。
もう私を支えているのは意地だけしかない。
ここまで残り800m地点を過ぎて、殺人的なハイペースを維持したままに3コーナーへと突き進む。
しかし、どんなに気力を振り絞っても、結局ついていけたのは4コーナーの入り口までだった。
そこが限界なのか。
脚が動かなくなる。
腕が振れなくなる。
普段ならこの距離では絶対に起こらない症状、明らかにスタミナを使い果たしている。
彼女も楽ではないはずだが、それでも速度は落ちていない。
直線に向いた頃には、私は7バ身、8バ身と彼女と引き離されるのをただただ眺めるだけしかできなかった。
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ウィトルムペデス視点
ここ最近は中々に大変だった。
まず、マイルチャンピオンシップに出る予定だったスズカさんは、直前で筋肉痛が発覚したことで急遽取りやめになっていたのだが年明けまでの休養が必要とのことで年末の香港遠征も行えないことに。
走る以外の動作に制限はないものの、心配したスぺちゃんがつきっきりで世話を焼き始める。その反動でウイニングライブの練習をしていなかったようで、デビュー戦で天を仰ぐ見事な棒立ちを決めたらしい。
どうやら上からお叱りを受けたスぺちゃんのトレーナーがスぺちゃんに特訓を行うものの、今度は走れなくなった上にトレーナーさんとスぺちゃん両方との時間が減ったスズカさんが憔悴。
さらに、スズカさんに構いまくって棒立ちライブを行ったスぺちゃんに対し、グラスちゃんが怒るというよくわからないイベントまで発生し、収拾がつかないことに。
結果、キングちゃんがみんなでウイニングライブの練習をするという案を出し、事態はなんとか鎮静化された。
案は主にスズカさんとそのトレーナーが指導役となって、スぺちゃん、グラスちゃん、キングちゃん他何人かが練習するというもの。グラスちゃんの同室というエルコンドルパサー、エルちゃんに加えて、なぜか私までメンバーに入れられていた。
練習した曲のうち一つは滑り台を使うという不思議な演出があった。
思い返してみると、雰囲気もウイニングライブって感じではなかったけど、一体どのレースで歌うんだろうか。
そんな、くたびれる日常を過ごしているとあっという間に次のレースがやってくる。
なんとGⅠ、朝日杯フューチュリティステークスという長い名前のレースだ。
ただ、コース自体は走った覚えのある中山レース場の1600mのコースで何か特別なわけではない。
あえて違いがあるとすれば勝負服を着ていること、それからお客さんの注目度が高いらしいことだ。
お客さんといえば、最近私の姿をしたぬいぐるみが売られているようで、今日レース場に来るときも手に持っているお客さんを結構な数目にした。
残念ながら、出来が良いのか悪いのか、ぬいぐるみの目が生き生きしすぎていてちょっと不気味なので再現度は低いと言わざるを得ない。
レースってちょっと楽しいかもしれない。
前回のレースで私は何かそのきっかけをつかんだ気がした。
それを、今日、この舞台で確かめられるかも。
この三週間、そんな甘っちょろいことを考えていた。
一体、何を思ったら走るだけの行為にそんな意味を見出せるなんて思ったのだろう。
スタート直後、前回のように揉まれないように一気に抜け出す。
今回は出遅れることもなく、これで安心と思った途端、後ろから何か迫ってくる。
振り返らなくても分かる雰囲気。それは、グラスちゃんだった。
本来、後ろのほうからレースを進めることが多い彼女が早めに前目につける。それ自体はトレーナーさんの想定内だった。
その場合は付いてこられないように大逃げ、集団から10バ身くらい前を走ればよいと。
しかし、グラスちゃんはどこまでも追ってくる。
いつでも後ろから首を落とせると言わんばかりの気迫、射程に入った瞬間に生きてはいられないとまで感じる殺意。
物陰があったら、穴があったら、逃げ込んで隠れたい。視線から遠ざかりたい。
私は逃げる。グラスちゃんが追ってくる。
普段は優しい彼女が物凄い気迫で迫ってくるそれは、まるでホラーゲームのそれである。
ペースはどうなっているかは分からない。グラスちゃん以外のウマ娘がどこにいるかも分からない。
まさしく、2人だけでの追いかけっこである。
なんとかゴールした私は、嘗てないほどの汗と冷や汗が全身から噴き出していた。
レースとはこんなに疲れるものだったのか。
私は前よりちょっとレースが嫌いになった気がした。
高評価、お気に入り、感想云々よろしくお願いいたします。
ようやくジュニア期が終わりそう!!!
なのにまだ出てこないセイちゃん、ツルちゃん。
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